SCP-3954-JP
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アイテム番号: SCP-3954-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-3954-JPへの入場ポータルが存在する倉庫は各種侵入防止策を講じて民間人の侵入を防止します。SCP-3954-JP侵入テストを行う際は、後述のSCP-3954-JP標準探索装備を携帯した上で探索中は携帯電話による通話が義務付けられます。テスト終了後被験者が所有するGPSの信号を元に速やかな被験者の回収を実施してください。

説明: SCP-3954-JPは愛知県の倉庫内に存在する入場ポータルから侵入可能な異常空間です。SCP-3954-JP内での撮影、録画、録音、各種デジタル分析・測定装置の使用、外部との通信は何らかの不明な原因により失敗に終わりますが、唯一携帯電話による音声通話は可能です。また、侵入者のSCP-3954-JP内部に関する記憶は脱出後不明瞭になるため、以下に記載する内部の情報は侵入中の通話音声による伝達からのみ得られています。

SCP-3954-JP内部は全長約1.5 kmの、分岐の無い一本道で構成されています。道幅はおよそ7 mで内部全体増減せず一定です。道の左右は建造物もしくは塀などが配置されており、さらにSCP-3954-JPの始点および道の左右の上方には視覚されない透明な壁が存在しているため、SCP-3954-JP内部の一本道からの脱出は、後述する終点を経由したものを除いて成功していません。

SCP-3954-JP内部では霧などが確認されていないにもかかわらず、視界は前方3 m程度しかありません。一方、既に通過した後方に関しては始点までの視認が可能です。基底世界の季節・天候を問わず、内部は常に25 ℃ほどで天気は晴れとなっています。

SCP-3954-JP内部には侵入者を除く他の人間は観測されていません。また、同時に複数人が入場ポータルを通過した場合、それぞれがSCP-3954-JPへの侵入に成功するものの他の侵入者は確認できず、別個のSCP-3954-JPに侵入しているものと思われます。

SCP-3954-JP内の地面は侵入当初は水平であるものの時間経過に伴い傾き、終点側を上方とする坂となります。坂の角度は指数関数的に上昇し、SCP-3954-JP内部の構造物も地面とともに上昇します。角度の上昇に伴い侵入者は前進に困難を伴い、およそ1時間ほどで通常の歩行が不可能となります。最終的な角度は90°まで達することが推測されており、SCP-3954-JP内部に約2時間以上存在することは不可能とみられます。

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SCP-3954-JP内地面の角度変化1

侵入者はSCP-3954-JP内部の光景に対し、各人のエピソード記憶を伴う事象との類似性を想起します。想起されるエピソード記憶は現在まで確認された中では全て実際に発生した事象であり、SCP-3954-JPによって捏造された記憶は存在しませんでした。詳細な調査は実施されていないものの、SCP-3954-JP通過に伴う過去改変はこれまで観測されていません。なお、クラスCないしクラスD記憶処理を行ったDクラス職員を通過させた際、消去された記憶を想起した点は特筆すべきです。

SCP-3954-JPへの入場ポータルは遊園地"ほしなえん"2の入園ゲートに類似したオブジェクトであり、10時から17時の間に通過することでSCP-3954-JPに侵入できます。入場ポータルが設置されている倉庫はかつて"ほしなえん"で使用されていたものであり、内部には"ほしなえん"で使用されていた備品が収蔵されています。この入場ポータルは破壊耐性を有することからその移動には成功していません。

SCP-3954-JPは「商店街区分」「大通り区分」「路地区分」の3つの区分で構成されています。各区分およびSCP-3954-JPの始点と終点についての概要を以下に示します。なお、より詳細の内部地図は別紙を参照してください。

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D-395402によって当該始点から想起された駅ロータリー

始点

特徴: 入場ポータルを通過した侵入者は鉄道駅前のロータリーから続く道にいることに気が付く。駅方向には透明な壁があり侵入は出来ない。駅舎は2階建て以上であり、内部に連結するエスカレーターないし階段通路がある。


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D-395402によって当該区分から想起された商店街

商店街区分

全長: 約600 m
特徴: 石畳で舗装された道。次区分である大通り区分の境目にはアーチ状建造物が設置されている。道の両側には飲食店や小売店が並んでいる。


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D-395404によって当該区分から想起された大通り

大通り区分

全長: 約500 m
特徴: 端に歩道のような段差がある道。道の両側はビルや大型店舗が並んでいる。


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D-395403によって当該区分から想起された路地

路地区分

全長: 約400 m
特徴: 黒いコンクリートで舗装された道。道の両側はほぼ石垣であるが、進行方向右側に小規模な個人商店が一軒存在する。

終点

特徴:入場ポータルと同形状のオブジェクトが設置されている。通過すると侵入者は基底世界のランダムな場所に転移する。転移場所はかつて侵入者が居住していた地域付近である傾向がある。

SCP-3954-JPを通過する時間は侵入者の年齢に比例して増加する傾向にあります。これは軽度の精神影響に起因するものであるとされ、事前あるいは通話による指示で通過時間の短縮を行うことは可能です。

以下にSCP-3954-JP内部の探索記録の抜粋を記載します。上記異常性を鑑み、下記抜粋記録は3年代の被験者を若い順に並べたものとなります。被験者は運動テストで一定以上の水準を満たしたものに限られ、クライミング用の道具の使用に関する一通りの技能を身に着けています。SCP-3954-JP標準探索装備として、携帯電話とそれに接続されたヘッドセット、ロープ、ピッケル。筆記具、携帯食料、飲料、経口補水液、GPS装置を携帯した上で、侵入を実施しました。

探索記録#12

被験者: [編集済] (11歳女性。財団職員である神楽氏の娘。実験後に記憶処理を実施)


<通話開始>

司令部: こちら司令部。

被験者: もしもし。

司令部: 無事入れたようだね。テスト前にも言ったが、この任務はとても危険だ。私が指示するか地面が傾いてきたなと思ったら──

被験者: ダッシュで道の最後まで走りきるんでしょ。大丈夫。

司令部: よろしい。改めてこんな危険な任務に参加してくれたこと、心から感謝する。それでは探索を開始してくれ。道を進みながら何か気になることがあったら教えてほしい。

被験者: わかりました。後ろに駅が見えます。あとお店が2つ。居酒屋かな。

司令部: なるほど。

被験者: うーんこの駅前、どこかで見たことがある気がするんだけど。まあいいか。先行きます。

司令部: うん。思い出したら教えてほしい。

被験者: 商店街でお店がいっぱい。でもみんなやっていないみたいですよ。

司令部: それはどうして?

被験者: えっと、今、中を覗いたんですけどお店の人もいないし、シャッターが閉まってるとこもあるから。

被験者: うん、ここのお肉屋もやっていません。ケースは空っぽです。メンチカツがあったらよかったのになぁ。うちの近くのお肉屋のメンチカツ美味しいんですよ。

司令部: そうか。機会があったら私も買ってみよう。

被験者: あ、もう商店街終わりだ。結局全部店閉まってました。


被験者: 大通りを進んでいます。ちょっと暑いし、蝉の声が聞こえて夏みたいです。

司令部: 何ゼミかな?

被験者: わからないです。じーじー鳴いてます。

司令部: 虫はあまり知らない?

被験者: はい、ちょっと苦手で。山より海の方が好きですし。──あ。

司令部: どうした?

被験者: 思い出しました。あの駅。見覚えがあると思ったら仙台の水族館に行った時の駅3に似てたんです。

司令部: 教えてくれてありがとう。水族館に行ったんだね。

被験者: そう。パパと一緒に。楽しかったです。ウツボが筒の中に何匹も入ってたり、海女さんの顔出し看板があったり、ペンギンが凄く近くを歩いてたり。

司令部: 了解した。引き続き進んでくれ。


被験者: 着いたみたいです、終点。

司令部: お疲れ様。今道は傾いてる?

被験者: うーん言われてみれば少しくらい。特に上るのが苦しくなるほどじゃないです。

司令部: わかった、ありがとう。帰還してくれて大丈夫だ。協力してくれて助かったよ。

被験者: 本当?じゃあ何かご褒美もらえますか?

司令部: しっかりした子だ。よし、何か用意することにしよう。

被験者: (笑い声) 楽しみ。

<通話終了>


通話時間: 20分




探索記録#07

被験者: エージェント・篠原 (32歳男性)


<通話開始>

司令部: こちら司令部。

被験者: あーもしもし。SCP-3954-JP内に侵入成功した。後ろにはあんま大きくない駅とそのロータリーがある。そちらに向かおうとしても見えない壁があって進めない。

司令部: はい。これまでの報告と一致しています。改めての確認になりますが今回の調査目的はSCP-3954-JP内の地面の傾斜変化を探ることとなります。道中の報告はほどほどで構いませんので、まず終点付近までの到達をお願いいたします。

被験者: 了解。それでは探索を開始する。 おっ。

司令部: どうしました?

被験者: ああ、商店街の中にラーメン屋があるんだが、その店構えがさ、昔よく通ってた賀丸屋ってラーメン屋にそっくりで驚いたんだ。店の前にあるでっかい暖簾に、中は。

被験者: そう、カウンターだ。構成がそのまんま。いやぁ懐かしいなぁ。あのこんもり九条ネギをトッピングした豚骨醤油ラーメンは東京イチだった。今じゃもうなくなってなんかダサい店名のタンメン屋だかに変わっちゃったけど。

司令部: 今回は報告は詳しく行わなくても大丈夫ですよ。

被験者: ああそうだった、すまない。懐かしいことを思い出したもんだからつい。


被験者: 大学の研究室にいたころ車でバーベキューしに行ったことがあるんだけどさ。設営班と買い出し班に分けれて俺は買い出し班だったのよ。キャンプ場に行く途中の大通り沿いに広い酒屋があって、カクヤスだったかな?そこで山ほどビールを買い込んだんだけど途中の階段でコケて落としちゃって。拾ったはいいもの後のバーベキューで全部開けると炭酸が吹き出して大騒ぎだったなぁ。

司令部: その酒屋そっくりな建物があるわけですね。

被験者: そういうことだ。話してたらビールが飲みたくなっちまった。さて、大通りを抜けて路地のような通りに移った。これが最終区分だったな。

司令部: ええ、そうです。


被験者: 終点まで到達した。来た時と同じゲートがある。これがポータルだな。

司令部: 坂道の勾配はどうなってますか?

被験者: そんなに時間かかってないつもりだったが、いつの間にやらまあまあきつい坂だ。傾斜計では勾配8%を示している。

司令部: では、石垣に杭を打ち込んで体を固定してください。

被験者: 了解した。


被験者: 準備完了。あとは坂が壁になるのを待つだけだ。

司令部: お疲れ様です。20分くらいかかりましたが、今の坂の角度はどれくらいですか?

被験者: もうかなり急な坂だ。傾斜15%。金沢に旅行に行ったときに登った子来坂がこれくらいだった。

司令部: なるほど。最後の方はかなりの速度で地面が上がっていくことでしょう。無理せず危険を感じたらすぐにポータルに入って下さい。


被験者: 現在角度60°を超えた。あー、始点付近の建物が透明な壁に当たって潰れていく。賀丸屋、じゃなかった、似たラーメン屋も間もなくってとこだなぁ。

司令部: 角度変化もだいぶ速くなっていますね。

被験者: そうだな。流石にこの速さになると恐怖を覚える。もうそろそろいいかい?

司令部: ええ、わかりました。SCP-3954-JPから帰還してください。お疲れさまでした。

被験者: ああ、そっちもお疲れ。暑い中ずっとぶら下がっていて文字通り疲れたし、今日は居酒屋すきっぷで一杯やるとするかな。どうだ付き合わないか?

司令部: 考えておきます。

被験者: 楽しみにしてるよ。

<通話終了>


通話時間: 120分 (ただし終点付近までの到達時間は40分)




探索記録#04

被験者: D-395402 (67歳男性。認知症の配偶者を殺し死体を隠蔽した罪で受刑中Dクラス職員として雇用)


被験者: もしもし。

司令部: もしもし。無事に入れたようですね。現状を報告してください。

被験者: うむ、気づいたら駅前に立っていたのだが、私が若いころ通勤していた鴨宮駅そっくりだ。そこの飲み屋。よく上司に連れられて終電間際まで呑んだものだ。林さんは元気にしているだろうか。

司令部: それでは、お伝えしていた通り空間内部を探索していただきます。前方に道が伸びていると思いますので、前進しながら道中の様子や何か気づいたことについて報告してください。

被験者: わかった。この商店街を進めばいいんだな。少し寂れた雰囲気だな。石畳といい以前住んでいた近くの大口商店街に似て、いや、どちらかというと仙台の名掛丁の方が近いか?しかし薄暗い雰囲気は沖縄の市場本通りにも──

被験者: まあよいか。商店街に入るとまずパン屋があるな。商品は内容だが。こういう店先だと菓子パンが美味しかったりするもんだ。よく仕事終わりに妻が好きなパンを買って帰ったんだが、あれは何と言ったかな、ク、クイ、クイなんとか。

司令部: クイニーアマンですか?

被験者: そう、それだ。アイツはそれと牛乳を一緒に食うのが好きだった。パンのついでに牛乳を買うこともよく頼まれて、そう、まさに今右にあるようなコンビニに立ち寄ってだな。いやあ懐かしい。


被験者: しかし中々に暑いものだな。ニイニイゼミが鳴いている。

司令部: 適宜水分補給をお願いします。

被験者: わかった。最近はあれだな。ただの水じゃなくてそれ用の水が用意されている。いつだったか芸能人が脱水で倒れたことを宣伝に使ってから普及されたように思うんだが。おっと。道の様子が変わるな。

司令部: どんな感じですか?

被験者: 左右が石垣で、もうあまり覚えていないが小学生のときの通学路と似ている気がする。夏の暑い日、かつやんとカバンを持ってプールまで走った記憶は確かにある。小さい頃はこんな坂でも構わずずっと走り続けていたなぁ。まあまだまだ私も歩けないほど衰えたつもりはないがね。


被験者: (息切れ声) だいぶ歩くのが苦しい。いつになったら現実世界に戻れる?

司令部: おそらく今いる地点で4/5くらいかと。

被験者: そうか。まだあるな。

被験者: こんな急勾配の坂道を歩いていると思い出すよ。暗い夜の中、動かなくなったアイツを背負って山の中を。もうボケてたから山に埋めればバレないと思ったんだがなあ。ふう、ちょっと休ませてくれ。

被験者: 大分歩いて来たな。最初の駅がもうはるか遠くの坂の下だ。大学時代、キャンパスが今みたいに駅を見下ろす坂の上に合ったんだが、帰り道自転車で下るのが爽快で一日の疲れが少し吹き飛んだものだ。

被験者: 社会人になってからは昼休みに時間が余ると会社からちょっと離れた場所にあるこんな石垣にもたれかかりながら一服したりな。人気が無い場所で、青い空を見ながら静かに煙をふかした。君、煙草は吸うかい?

司令部: いえ、私は。

被験者: そうか、最近の若い子はそうだよな。ああでも宮西くんなんかはだいぶ若いのにけっこうなヘビースモーカーだったか。彼は年が二回り三回りも違うのによくウマが合って、彼に仕事を振ると期待通りの成果を出してくれる奴だった。デカい案件を成し遂げた後の彼の笑顔と酒の味は今もよく覚えている。あぁ──。

司令部: 大丈夫ですか?

被験者: ん。そろそろ歩くとするか。


被験者: なあ君聞いてくれるか。任務とは関係ないかもしれないが、話したいんだ。

司令部: 感じて頂いたことは何でも言って頂いて問題ありません。それを聞くのがこちらの仕事ですので。

被験者: そうか。──不思議なんだ。ここに入ってからやけにいろんなことを思い出してしまう。それに、辛い経験なんていくらでもしてきたはずなのに、出てくるのは楽しい思い出ばかりで。

被験者: 別に今が苦しいわけじゃない。罪を犯した身でこんなことを言うのは好ましくないのは承知しているが、Dクラス職員になってから外の世界では見なかった様々なものごとを見るようになって、毎日が刺激的で、正直、少し楽しい。次はいったいどんなことが起きるのだろうと。

被験者: でもこれまでも充分楽しかった。それを思うだけでも、こんなにも歩みが遅くなってしまう。

被験者: 思い出すことが多すぎるんだ。何も知らない子供の頃ならそんなことはなかっただろうに。

被験者: もう楽しい思い出がありすぎた。充分、もう充分なんじゃないか。これ以上、私なんかには──

(転倒し坂を転がり落ちる音と、衝突音が観測された後、通話が切れる)

<通話終了>


通話時間: 70分




SCP-3954-JP脱出直後の侵入者は軽度の脱水状態になる傾向があります。また原因不明の眩暈や立ち眩みの症状も同時に訴えますが、この症状に対して多くは肯定的な反応を見せます。その後SCP-3954-JPを通過した被験者は、通過前と比較して将来不安の低下、自己肯定感の上昇、性格の享楽的な変化が見られる傾向にあります。

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