ここがどこなのか分からない。
つまり…… こんなのありえないでしょう? 図書館の2階に行こうとしただけなのに、階段の無限ループに閉じ込められた。もう1時間は歩き回っているのに何もない。階から階に延々と続いてる。縁から身を乗り出すと、どっちの方向にもずっと延びているように思えて、内臓から引っ張られるような奇妙な感じがした。この奇妙な感覚は、言うなれば縁のすぐ側に立っていると「飛べ」ってささやかれるような? 不安になるから今後は縁から離れよう。正直なところ、何をすべきか分からない。各階の両側にあるドアを開けようとしたけど、どれも鍵がかかってた。怖い。だから私はこれを書き残してるんだと思う。ここは電波が届かない。ここには頭の中の考えしかない。これから誰かに出くわすんじゃないかって、誰かの声を聞くんじゃないかってずっと考えてる。時々何か聞こえる気がするけど、それはただの静けさだ。耳障りな静けさって言えば分かる? 重苦しい感じ。換気口もエアコンも見当たらないのにエアコンが効いてるけど、それでもあまり気持ちは良くならない。大声で叫んでみても、私の声はただ反響して消えてった。ちょっと不気味だからもう二度とやらないと思う。それに、もし誰かが答えたら? 何かが答えたら? そうなったら、私はどうすればいいんだろう? そんなことは考えたくもない。この場所は普通じゃない感じがする。どう考えても普通じゃない。だから、無茶なことはしたくない。
あと、今から階数を数えておこうと思う。もう何階下ったのか分からないから、ここを1階とカウントして先に進もう。下りてもどうにもならないみたいだから、また上がることにする。
メモ: SCP-3964-2-Aは入ってきた場所を探そうとして下に降りていたと推測する。ページの最下部にはバブル・レター体で1と手書きされていた。
206階目、6時間経過。携帯の充電が切れかけてて、退屈で死にそう。もう破れかぶれになって少しゲームをすることにしたけど、そのせいでかなり充電を消耗してしまった。そうするべきじゃなかったと思う、ここには時計が一つも無くて、携帯しか時間を知る手段がないってことにさっき気付いた。階数や時間を数えていると気が狂いそうになるけど、時間が分からなかったらもっとひどくなる気がする。私って何てバカなんだろう。低電力モードにして長持ちするよう願うしかない。それでもあと6時間しかもたないと思う。
それととても疲れた。今が大体8時、4時頃に起きて、ずっと歩いているとしんどくなる。もしかしたら、私をここに閉じ込めた何かが私に運動させようとしているのかも? なんて。何であれ、あまり寝ていたくはない。それに、寝床に適した場所もない。各階のペーパータオルを大量に集めて、ベッドでも作ればいいの? でも、寝ている間に何か忍び寄ってきたら? それにどうせ眠れもしないでしょう。やっぱり…… 疲労で気絶するまで歩き続けるしかないのかな。他にやることもないし。
メモ: ページの最下部にはロココ調の文字で206と手書きされていた。続く数ページは雑多な落書きで埋められている。
ここで死ぬんだと思う。昨晩ついに観念して、トイレの所で眠った。そこしか電気を消せなかったから。ペーパータオルを大量に集めてベッドを作った、ジャケットとバックパックも利用した。今は大体朝の3時、これ以上眠れない。まだ疲れを感じているけど、今の気持ちじゃきっと休めない。あとお腹が空いて死にそう。よく考えたら昨晩何も食べてない。まだ何も襲ってきてないのは幸いだけど、これはきっと私の他に何もいないか、私に安心感を与えようとしているかのどっちかだと思う。正直なところ、今の時点だとどっちが良いのかは分からない。ただ、もし本当に化け物がいるなら、さっさと殺してほしい。この待ち時間だけは耐えられない。
どの階にも自動販売機があって、どれも同じ軽食を売ってた (ツナサラダサンドイッチがあったから良し)。でもお金はそんなに持ってない。今日中に出られなかったら何かで叩き割るしかない。周りに消火器がいくつかあったから、ほぼ間違いなくそれか何かを使うことになるでしょう。一応水飲み器があるから脱水症状にはならないけど、どうやらこんなおかしな辺獄でも、水飲み器は死ぬほど不味いようだ。
メモ: ページの最下部には渦を巻いた文字で257と手書きされていた。研究室でパン屑の痕跡が発見されたため、読み返していた当時はパンを食していたと思われる。
413階目…… だと思う。分からなくなってきた。静けさと冷たい空気で頭がやられてきてる。何階か数えるのを飛ばしたか、どこかで数え忘れたかもしれない。確信が持てない。シャーピーが1本あるから、今後は水飲み場に階数を書いていこうと思う。水飲み場は人の目が向かいやすいから。他の人が閉じ込められた場合のために、短いメッセージを残したほうがいいのかも? まあ誰も閉じ込められないよう願っているけど…… せっかくだから? 他にすることもないし。
メモ: ページの最下部には面白い見た目をした413という数字が手書きされていて、隣には三角形のサングラスをした何らかのカートゥーンキャラクターが小さく落書きされていた。ロバート博士によれば、このキャラクターはHomestuckなる作品を参考にしているそうだ。
他に誰かいた。
書き置きをしてある! トイレの鏡に口紅で書かれてて少し面食らったけど、私以外にも人がいるんだ! 携帯で写真を撮った。今もう3%だけど、それでも充電の残りを費やすのに価値はあったと思う。今朝に充電器を持っていくのを覚えていれば。朝食を食べている途中でふと、自動販売機ってコンセント使うよなって思った。でも充電器が無いからこの考えはどのみち意味ないか。とにかく、書き置きはこうだった。「何て性差別的な場所なんだ。タンポンが無いなんて。」
これは多分、女子トイレがあるのは図書館の反対側で、ここにあるのは男子トイレ、でこれを描いた人は生理中であることを指しているんだと思う。うへえ。幸い私の月経は数週間前に終わったばかりだから、私にとっては問題ないと思う。少なくとも…… 問題にはならないって願ってる。そこまで長くここにはいないよね?
そうだ。いるわけない。出口を見つける。見つけ出すって信じてる。今は474階にいる。500が私のラッキーナンバーになるのかも? それを知る方法は一つしかない。この階で彼女が残したメモはこれだけだったから、途中でもっと手がかりを探してみる。
メモ: ページの最下部に "1/474 タンポンはあまりない" と書かれていた。ロバート博士が笑っている。
編集: 回収した携帯から言及されたメッセージの写真の存在が確認された。
正式に一文なしになった。あなたが興味あるなら言っておくと、もう500階は通り過ぎた。まあ間違いなく興味ないでしょうね、あなたはただのノートなのだから。今まで何一つ壊してこなかったけど、きっとヴァンダリズム的な生き方を始める機会に恵まれなかったんだと思う。あの3 musketeersが欲しくてたまらない、だから、あれを手に入れるためなら喜んで自動販売機を叩き割ってやる。ここに閉じ込めているのがどんな奴だろうと、アレをしゃぶりに行かせてくれたっていいじゃないか。こんなふうに私からチョコレートを取り上げるというなら、私はその邪魔者を遠慮なくぶっ壊す。ダメ元でやってやる。
メモ: ページの最下部には621と書かれていた。
携帯の充電が切れた。本当に疲れてきたから、今が夜だと思うことにする。現在地が730階だから、今日はここで切り上げよう。面倒になって夕食に棒付きキャンディをたくさん食べたけど、今思えばあまり良い考えじゃなかったかもしれない。寒いし、感覚が麻痺してきたし、喉が酸っぱく感じる。ドアは一つも開かない、各階で全部確かめてきた。せめて、1つも忘れていなければいいのだけれど。それが思わぬ落とし穴になるんじゃ? 本当は開く出口があって、私がそれを見逃してしまったとか。そんなことないとは思うけど、気が滅入る考えだ。あの女性の書き置きは他に見つかってない。彼女はまだここに閉じ込められているのかな。
とにかく、もう寝ないと。また忙しい日になる…… 階段を上るだけの日。永遠に。
飛び降りて終いにするべきなのかも 笑。いいや。おやすみなさい、ノートさん。
メモ: 730という数字の形状をしたヘビが多数落書きされていた。
800階目。何もない。
メモ: N/A
900階目。何もない。
メモ: N/A
1000階目。何もない。
本当に驚き。
メモ: N/A
何やってんだ私。また別の自動販売機を叩き割ったら、ガラスの破片で手を切ってしまった。何て大まぬけなんだ。めちゃくちゃ痛いし、トイレには救急セットも無い。さっきペーパータオルで手を巻いてきた。ここって感染症にかかることあるの? 今のところ私以外に生き物はいないようだけど。そんなの誰が分かる。誰が気にする。
けど、痛くて痛くてしょうがない。
メモ: このページに階数は書かれていなかった。しかし、血の跡がいくつか付いていた。この日誌は、のちの探索時にSCP-3964-1内の微生物に関する興味深い実験を提起させてくれた。
もっと早く思い付かなかったとか信じられない。ペンの1本を持って手すりから落としてみた。縁から離れようとは言ったけれども、落下の様子は見るしかなかった。何を期待していたのかよく分からない。衝撃音を期待していたのかもれないけど、いくら待っても聞こえなかった。ペンはただ…… 点になるまで落ち続けて、ついには全く見えなくなった。今も落ち続けているんじゃないかと思う。飛び降りたら私も永遠に落ち続けることになるのかな。それでもこのまま延々と歩き回るよりは確かにマシかもしれない。
きっと静けさが堪えているんだ。
メモ: ページの最下部には1242と書かれていた。次の10数ページは落書きと短い詩ばかりが書かれている。
ここに来てからどれくらい経ったんだろう。永遠にも感じられるけど、3日以上は経過していないはずだ。また疲れを感じてきたから今は夜に違いない。この地獄じみた場所には1日のサイクルすらも存在しない。もしかしたらそういうことかもしれない。私は死んだか何かして地獄に落ちた。もしそうなら、私が無神論者なせいでマジで色々なことが滅茶苦茶になってしまう。あるいは、無神論者だからここに閉じ込められたのかも。こんなひどい場所に。何だっていいか。
とにかく。地獄/煉獄に囚われてから3日経過。
メモ: 最下部には1278と書かれている。前回から今回の日誌までの間の時間が短かったのか、しばらく立ち止まって日誌を書いていたのかは不明。個人的には後者ではないかと疑っている。
今日は起きてから数時間寝そべってた。
暗闇の中、私は家にいるんだって思い込もうとしてみた。でも硬いタイルの床だと妄想に耽るのが少し難しくなる。それに、私の家にはここにあるようなエアコンは無い。最低でもトイレの電気を消してドアを閉めれば、影に紛れるような気分にはなる。私はただ暗闇の中で寝そべって、部屋に響く自分の泣き声に耳をすましてた。気分がいくらか楽になる。暗闇の中だと私を取り巻く壁は存在しなくてもよくなる。あるいは、私の思い通りにいくらでも小さくなる。今まで閉所恐怖症じゃなかったけど、ここから出る頃にはそうなるのかな……
現実かどうか分からない耳鳴りがずっと続いてる。昨日から少し気になり始めてたけど、今はもうはっきりしてる。雑音のようで、高音でほとんど聞き取れない。まるで曲を倍音にしたような。ほぼ間違いなく気のせいだろうけど、それでも全然気分が良くならない。
いずれにせよ、結局は起き上がってまた上り続けた。少し泣いて自己憐憫に浸ったおかげで、いくらか活力が戻ってきた。深く考えすぎないように何回か走ってみたりもした。しばらくはうまくいってたけど、結局つまづいて転んだ。階段を駆けるなって言われるのはこうなるからだと思う。転がり落ちてどこか骨折しなかったのは幸いだった。だって、そうなったら全てが水の泡になるでしょう? 無限に続く階段で歩けなくなったら。
これからはいつも通り、カタツムリ並のペースで歩いていこう。
メモ: 最下部には1413と落書きされており、その隣には出っ歯が3本あるキャラクターが描かれていた。ロバート博士によれば、また別のHomestuckのキャラクターらしい。
また書き置きが見えた気がする。この10数階上に何かピンクがかった赤色が見える。前にもう走らないって言ったけれども、今回ばかりはこのルールを破ろう。
メモ: N/A
また同じ女性の書き置きだ。水飲み場に書いてあった、私がいつも階数を書いてる所だ (今回は左のドアに書いた)。今回もあの口紅。「デュークに会いたい」。
彼氏のこと? それとも飼い犬? その両方?
でも、気持ちは分かる。私だって弟にとても会いたい。今日で4日目 (多分) だから、弟は私を心配しているに違いない。私が来なかったときに誰かが学校に迎えに行ってたらいいのだけれど。誰か私を探していないかな?
メモ: 最下部には1548と書かれていた。
編集: SCP-3964の過去の犠牲者のファイルを調べた結果、デュークという名の息子を持つラテン系の女性が見つかった。
4日目終わり。1600階目。区切りをつけるには良い数字だ。
朝食にピーナッツ1袋を食べた。
なんでそうしたのかは分からない、ピーナッツは大嫌いなのに。初めて感じたむかつきのおかげで、私がまだここにいることを思い出せたかもしれない。私は存在する。私は狂っていない。一回だけ違うことをしただけ。
あるいは、私は狂ってきているのかもしれない。
メモ: ページの最下部には1674と書かれていた。
もし出口が無いとしたら??
メモ: これは2ページを丸々使った大きな文字で書かれていた。他には何も書かれていない。
5日目終わり。2000階。
メモ: N/A
彼女の最後の書き置きを見つけた。
2112階、この数字自体には何の意味もない。
最悪だ。怒りが込み上げる。あるいは悲しみが。何もかもが。
携帯はもう充電が切れたけど、ただこれを…… 彼女の最後の言葉を写真に残せたなら。今度もトイレの鏡に書いてあった。3つの鏡に1単語ずつ。
I’m。Gonna。Jump。
彼女は脱出できたの??? 脱出できたのなら誰かが聞いてるはず? あるいは彼女が狂っていると思ったのかも。ひょっとして今も落ち続けている? 彼女は死んだ?
分からない。知りたいのかも分からない。
1つだけ確かなのは、私は真に独りだってこと。
この謎の女性はずっと上の階に登っただけじゃない。出口が見つからなかったんだ。そして…… 諦めた。
私もそうするべきかもしれない。
メモ: N/A
6日目終わり。2400階。
メモ: N/A
飛び降りるべきなんだろう。どこにも出口が無いのは明らかだ。この先にあるとも思えない。今日で1週間近く上ってきたのに何もない。独りがこんなにも辛いなんて知らなかった。あの耳鳴りが今も聞こえてくる。誰かが遠くの階から呼んでいるんじゃないかって今も妄想してる。ただの妄想だってのはわかるけど、本当に気が狂いそうになってきてる。食べ物はあの代わり映えしないたくさんの軽食だけ。寝床はあの硬いタイルだけ。飲み物はあのひどい味の水飲み器だけ。もううんざり。
次の50階で出口が見つからなかったら飛び降りよう。
これが存在するってことなら、私はもう存在したくない。
ごめんなさい……
メモ: 最下部には2600と書かれていた。
あと10階で50になる。そして私は…… ああ。このことはまだ親友にも言ってないのに。これは罰なのかもしれない。残酷な神様が私の願いを叶えた結果なんだ。そこのあなた、願い事は慎重に選びましょうね。それはともかく……
私は自殺を考えてた。
やりとげられたとは思えない。パパは私に縋ってる。チャーリーも私に縋ってる。私がいなくなったら2人ともひどく悲しむ。私が先立ったら、きっとチャーリーは自殺する。生きていけるほど強くないもの。だから私が自殺なんてできるわけないって思ってたけど…… そのせいで罰を受けているのかも? 自分の命を大切にしなかったから、自殺しないといけないようになった。正直言うと、もうそうしたくなってる。
でも……
スターウォーズの新作が公開されたっけな。三部作の結末が本当に見たかった。ゲーム・オブ・スローンズのファイナルシーズンだってまだ出てない。インフィニティ・ウォーもまだ見てない。スパイダーマン: ホームカミングの次回作も。ブラックパンサーも。リリーだってあと1年で卒業する。それに、サラと私は行きたいって言ってたヨーロッパにまだ行ってない。
実を言えば、次の10階まで上るのが少し怖い。
本当はまだ死にたくないってこと?
人生はとても辛い。チャーリーの鬱。ママとパパの離婚。チャーリーが自殺しようとするんじゃないかって常につきまとう不安……
考えてもしょうがない。きっと、あと10階で分かるはず。
メモ: N/A
ここだ。2650階。今思えばちょうどいい413と関連づけて、飛び降りるまで待てばよかったな。それってすごく詩的だ。███████ █████、ここに眠る。死ぬ時だってhomestuckに。でもそうするにはもっと階段を上らないと。2413階まで戻ってもよかった気もするけど、それでも200階くらいはある。もうこの階に決めたのだけれど。
メモ: N/A
OK。もう1時間近く座ったままだ。ただ…… 私にはできない。チャーリーにもう一度会いたい。サラにもう一度会いたい。飼い犬をもう一度抱きしめたい。飼い犬が恋しい。
生きたい。
メモ: N/A
はっきりと「生きたい」って叫ぶのはやり方が違う。飛び降りるしか選択肢はない。でも本当に、本当に死にたくない。それに私は高い所が苦手だ。そもそもの話、どうして飛び降り自殺が良い考えだって思ったんだろう?
そんなのはどうでもいい。
よし。決めた。飛び降りる。でも、死にたくないってひたすら祈るつもり。だからどんな神様がいようと、私をここに閉じ込めた原因が何であろうと…… 生きたいって誓う。だからどうか、お願いだから、私を生き延びさせて。
もちろん…… そう、実際に飛び降りる勇気を出してからの話。
それでも、他にやることなんてないんだ。
メモ: これが最後の日誌である。SCP-3964-2-Aは執筆からしばらくして飛び降り、SCP-3964の隣に無事に着地できた。
補遺.2: 希死念慮を克服したSCP-3964-2実例は、無傷でSCP-3964-1から脱出でき、図書館の階段の隣に着地します。