クレジット
タイトル: SCP-3975-JP - 無気力で寂しくて、何もしたくない夜を過ごすための1番身近にいる話し相手と、その翌朝に起こる小さなわざわい。
著者: ©︎EianSakashiba does not match any existing user name
作成年: 2025
アイテム番号: SCP-3975-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-3975-JPの完全な収容は現状達成されておらず、またSCP-3975-JPと一般的な人間の完全な判別方法は確立していません。財団エージェントは夜間の巡回業務中にSCP-3975-JPと思われる存在を発見した際はカバーストーリー「夜間時の補導、または職務質問」を適応してください。SCP-3975-JPに関連する監視カメラの映像、電子機器による映像記録、その他物理的・データ上・目撃者の記録として存在する痕跡は隠蔽のため消去されます。これらの特別収用プロトコルは機動部隊ん-89("夜警ども")ならびに専属の司令室主導で行われます。
説明: SCP-3975-JPはサイト-81管区の夜間において、人間の居住空間に出現する人型実体群です。SCP-3975-JPの出現条件は確定していませんが、以下の条件すべてに合致する人間(以下「同伴者」と呼称)の周囲に出現します。
- 通勤、通学、学習塾、習い事その他により帰宅が20時以降である
- 一人暮らしである。居住空間に訪問する人間が皆無である
- 夕食や入浴、家事を行わず帰宅次第すぐに就寝する。主に過労、極度の疲労が原因とされる
- 外的要因によってネガティブな思考に陥る傾向にある
SCP-3975-JPは前触れのない突然の出現が原則であり、同伴者に対し食事・シャワーのみを含めた入浴行為・散歩を推奨します。それらの提案に同伴者は最終的に承諾の意を示しますが、SCP-3975-JPに対する警戒心の薄さ・現状の早急な適応を含めて異常性によるものと推測されます。この際、調理のための材料を購入する目的や散歩のため外出するケースも見られますが、SCP-3975-JPに対して不審に思う人間は稀です。
一連の提案を行動し終えた同伴者は極度の睡眠欲に襲われ、帰宅次第就寝します。SCP-3975-JPは付き添う形で同伴者の家まで同行したのち消失すると推測されますが、居住空間内の観測が極めて困難であるためSCP-3975-JPがどのようにして消失プロセスを踏むのかは現状未解明です。
補遺: 以下はSCP-3975-JPの活動を収めた記録のうち一例を収めたものです。
[記録場所は神奈川県藤沢市のマンション「ラヴァイユ」玄関前、監視媒体はマンション管理の監視カメラである]
[SCP-3975-JPが同伴者の手を引いて強引にマンション内から外へ歩いてくる]
SCP-3975-JP: ほらあ、ここまで来たんだからもう行っちゃいましょうよ
同伴者: やめて、離して!もう寝ないと明日に響くのに…それにこんな時間からどこに行こうっていうの
SCP-3975-JP: それこそ帰ってきてすぐ布団に入ろうとしたでしょ。ご飯も食べず化粧すら落としてないのに
同伴者: 余計なお世話すぎるし、なんで外出するかの答えになってない
SCP-3975-JP: ん?ああいや、この時間なら牛丼屋とかファミレスならまだ空いているかなって
同伴者: はあ…?え、何、おごってくれるの?
SCP-3975-JP: そこはあなたの自費で。ただ毎日コンビニサラダとゼリー、サプリだけじゃ「本当に」倒れちゃいますよ?
同伴者: [数秒沈黙]いやに強調するね。本当に、のところ。あんた誰なの。大声出すよ、警察呼ぶよ!
SCP-3975-JP: もう出てますよそれ…私はねマユミ1さん、あなたとお話したいからこの夜に現れることができました
同伴者: [数秒沈黙。眼前のSCP-3975-JPを不審に注視する]何それ
SCP-3975-JP: さあ、ならマユミさん!もっと私のこと知りたいならご飯食べましょう、散歩をしましょう。一緒に話しましょう!マユミさんと私で![同伴者の手を掴みなおし、前進するそぶりを見せる]
同伴者: ちょ、ちょっと
SCP-3975-JP: マユミさん、マユミさん!ふふふ、何ですかマユミさん?
同伴者: あんまり、ガッツリしたものじゃないと嬉しい。本当は、何も食べたくない。気分、的に
[記録場所は神奈川県藤沢市のコンビニエンスストア内部、周辺、ならびに蓬港公園。複数の監視カメラ映像をつなぎ合わせて記録は作成されている]
コンビニ店員: お会計1268円になります。お支払方法はどうされますか?
SCP-3975-JP: モバペイでお願いします~
[SCP-3975-JPが素手の右手を認証機器の所定位置にかざす。支払い完了の文字が出たのを同伴者は驚愕した態度で見つめる]
コンビニ店員: ありがとうございました
[SCP-3975-JPと同伴者がコンビニエンスストアから退場する。SCP-3975-JPは2つのお湯が注がれたレトルトのカップスープ、同伴者は1つ、中に購入した商品が入ったビニール袋を持っている]
同伴者: あんた、今のどうやったの。万引きとかしてないでしょうね?
SCP-3975-JP: 見ちゃってたか、それもそうか…いやあ、すこしふしぎな存在はすこしふしぎなことも出来るんですよね
同伴者: ふざけんな、せめて万引きしていないかだけはっきり言え。私の目を見て
SCP-3975-JP: してません。法に触れることはやっていません
同伴者: …なら、いいけど。言葉強くてごめん
SCP-3975-JP: 全然大丈夫です!マユミさんのそういう所も知っているので!
[沈黙]
SCP-3975-JP: もう今の時期おでんやっているんですねえ
同伴者: なんか最近は1年じゅうやってるところもあるみたいよ
SCP-3975-JP: ええ、マジですか。私も最近のコンビニ情勢についていけてませんねえ、変化に対応していかないと
同伴者: [沈黙]そんなことしなくていいでしょ。ずっと使うわけじゃないし
SCP-3975-JP: 公園すぐそこですよね?そっち行って食べましょうよ。場所は違いますけど高校生の時みたいに
同伴者: あんた本当に私に関することなら何でも知ってるのね…
SCP-3975-JP: へへへ…
同伴者: なんで嬉しそう?
[SCP-3975-JPと同伴者が公園に到着する。]
SCP-3975-JP: マユミさんは~、きのこポタージュですよね?
同伴者: うん。あとメロンパン
SCP-3975-JP: 私は味噌ワンタンと~かつチキとしゃけおにぎりで!
同伴者: 食べるねえ…
SCP-3975-JP: そうですか?そうかな…やっぱ人間の標準的な食事量って分かんないな…
同伴者: そんなん好きな量食べなさいよ
SCP-3975-JP: 私が普段閲覧しているSNSやインターネットでは腹八分がいいらしいですよ!お腹一杯になったらやめるのではなく、お腹いっぱい一歩手前でやめるのが健康に良いとされている的な
同伴者: …不思議存在って意外とインターネット中毒なの?その発言で四六時中画面にかじりついてる雰囲気がするんだけど
SCP-3975-JP: 画面にかじりついているっていうか…う~ん難しいな…半分くらい正解ですけど
[SCP-3975-JPと同伴者が公園敷地内のベンチに着席し、購入した商品を食べ始める。]
同伴者: それで、結局あんた何が目的なわけ
SCP-3975-JP: マユミさんとお話…
同伴者: そんなの外に出なくてもできるでしょ。最近冷え始めたのに
SCP-3975-JP: あー…いや、このままだとマユミさん、また家帰って寝るだけになっちゃうなあって。ご飯も、シャワーも、お化粧落とすのも明日の朝ドタバタしながらやるのが分かっちゃって
同伴者: [自嘲気味に笑う]何それ、あんたって健康管理アドバイザー?
SCP-3975-JP: 今日何もできなかったって思ってほしくないんです。小さい後悔だけでも積み重ねて欲しくないんです。いいじゃないですか、家に何もないから外に食べに来たって街に繰り出すだけでも立派な活動です
同伴者: 余計なお世…[言葉を途切れさせ、湯気の出ているカップを持ちながら俯く]
SCP-3975-JP: マユミさん?
同伴者: もう、夜に何もしたくないの
SCP-3975-JP: …聞いても、いいですか?
同伴者: あんたの正体、私のことならなんでも知ってるストーカーじゃないの
[SCP-3975-JPが少し寂しそうな目をしながら笑う]
SCP-3975-JP: 全然違います、だからあなたのことをおしえて欲しいんです
同伴者: 私が前まで夜に何してたか知らないの
SCP-3975-JP: [数秒沈黙]漫画を…描いていらっしゃいましたよね。会社から帰ったら、賞に出す用の
同伴者: [数秒沈黙]うん
SCP-3975-JP: なんで、やらなくなったんですか?駄目だったんですか?
同伴者: 駄目だった。だったけど、それだけならどれだけ良かったか
[同伴者がメロンパンを一口かじる]
同伴者: 実家から連絡が来て、姉貴が長く生きれないんだって。火曜、木曜、土日に病院行ってトウセキ…?ってやつやる必要があって、10時から17時まで。当然仕事なんてできないから辞めてて。
SCP-3975-JP: 人工透析、ですね
同伴者: ここまで事態がでかくなったら伝えないで隠すのも不義理だろうから伝えたけど気にしなくていい、お前はお前のやりたいようにやれって言われたけど、強がりだって思っちゃうよそんなの。病気なのを隠さず言ったのは、私に帰ってほしいことを隠しているようにしか見えなくなっちゃった
SCP-3975-JP: ご実家は岩手と聞いています。でもマユミさんは漫画だけ描いているわけじゃない、サラリーマンもやっているんですよね?そっちは…?
同伴者: 会社が嫌なわけじゃない、むしろこのままだと順調に出世できるって。完璧に仕事をこなしているわけじゃないのに、1回のミスで死ぬほど凹む私に、今以上の重責を与えるって言っているようにしか聞こえない
同伴者: あんただったらどうする?夢か、家族か、現状か。いっぺんに急に、自身を襲ってくる問題を自身から振り払うなら、どれから捨てる?
[沈黙。同伴者はメロンパンをかじり、SCP-3975-JPはホットスナックを食べる]
SCP-3975-JP: 捨てる、のですか?選べるのですか?
同伴者: 選ばなくちゃいけないんだよ
[沈黙。同伴者は湯気が少し控えめになったカップを持ちながら俯き、SCP-3975-JPは自分のレトルトスープのカップを持つ]
SCP-3975-JP: 『いつまでも温かいスープなんて存在しなくて、1つ目のカップを飲み干すうちに残りが冷めてしまう。スープが冷めるという自然法則、わざわいから人は逃れる術はない』…
同伴者: 本当、あんた私のことなら何でも知ってるのね。その小説は電子書籍で買ったから、アプリのデータ覗き見しない限りは知らないはずなんだけど
SCP-3975-JP: 通勤電車の中で何回も読み返していたことも知っています。お話づくりのために様々な媒体をインプットしていたことも
SCP-3975-JP: 引用文の通りかもしれないです。重責や後悔で体が重くなるのは人間にとっては珍しくないのかも
SCP-3975-JP: でも、だからこそ夜は起きていましょうよ!
同伴者: [数秒沈黙]は?
SCP-3975-JP: 夜ご飯を食べましょう、お化粧落とすために顔を洗いましょう、シャワーを浴びましょう、私は濡れるのは嫌だけど…湯船に浸かるのもいいですね、散歩したり、読書したり、インターネットしたり、誰かと通話したり!
同伴者: 夜はこんなに、寒くて暗い時間なのに?
SCP-3975-JP: 今日何もできなかったって思ってほしくないんです。夜が怖い時間だって、ただ眠ってやり過ごすしか自分にはできないんだって思って欲しくないんです。いや、実際そうなんですけど…夜は眠るしかないとしても、布団から起き上がれば少しでも視野は広くなるはずです
同伴者: ただの現実逃避にしかならないよ
SCP-3975-JP: いいんです、家に何もないから外に食べに来たって街に繰り出すだけでも。それが現実逃避でも。あなたが寒くて暗い時間でも立ち上がっている立派な証拠になるから
同伴者: あんたの言ってること、全部無責任だ。不思議な存在なら私のことも不思議な力で救ってくれないの?
[沈黙]
SCP-3975-JP: ごめんなさい。私はマユミさんの話を聞くことしかできません、マユミさんの声を聞くことしかできません。当たり障りのない解決方法や知識を提示する個体もいるけど、それらですらわざわいを消すことはできません。私はあなたたちのことをよく知っているけど、あなたたちそのものではないから
SCP-3975-JP: わざわいは捨てることも、布団を被って無かったことにもできません。マユミさん、あなた自身がわざわいを超えてください。何1つ重責を捨てることなく立ち上がってください。私はこの姿のままマユミさんと一緒に夜を超えることはできませんが、あなたが立ち上がって夜を超えるために寄り添うことはできます
[沈黙]
同伴者: なるほど、あんたの正体分かった気がする
SCP-3975-JP: ええ?急になんです?
同伴者: 「鏡」だ。普段私が化粧する時に使ってるやつ、鏡が擬人化したから私の部屋に急に現れたように見えるし、私のこともよく知ってるって言ったんだ
SCP-3975-JP: …はい!まあ、そんなところです!
同伴者: はっ、そういうジャンルにも手を出してみようかな…描くアイデアなんて多くて困ることないし
SCP-3975-JP: その意気ですよマユミさん!私はマユミさんの描く漫画見たいです!
同伴者: ふーん…最後に2つ言っていい?
SCP-3975-JP: もちろんです!最後と言わずどうぞ!
同伴者: あんたなんでそんな夜が好きなの
SCP-3975-JP: [数秒沈黙。目を短い周期で瞬きする]好きそうに見えましたか?
同伴者: まあ…隠せてなかったよ
SCP-3975-JP: えへへ…はい、大好きです!だって普段はあなたの声を聞くことしかできなかったのに、こうやって人間と同じ体を以てあなたとお話することができたから!たった一夜限りでも、すこしふしぎなことが起こりやすい時間だから!
同伴者: …やっぱ鏡の擬人化なんだ。私そんなに独り言多かったっけか…?
SCP-3975-JP: もう1つの言いたいことは!?
同伴者: [数秒沈黙。冷めかけているレトルトスープを一気に飲み干して、SCP-3975-JPを凝視する]
SCP-3975-JP: なんですか!?
同伴者: やっぱ腹減った。食べないならあんたのおにぎりとスープ頂戴
SCP-3975-JP: え~!?これはマユミさんと話せるのが嬉しくて口を疎かにしていただけです!マユミさんこそメロンパン残ってるじゃないですか!
同伴者: これはデザート用だし
SCP-3975-JP: さっきまで食べてたくせに!マユミさんが食欲湧いてきたのは嬉しいんですけど、どうしよっかな~…ふふふ
同伴者: なんで笑ってんの
SCP-3975-JP: マユミさん、ずっとぶっきらぼうな態度でいいなあって
同伴者: [数秒沈黙]やっぱ警察に突き出した方があんたも嬉しかった?
SCP-3975-JP: わあすっごい、全然警戒心ほぐれてないや。頑固で素敵です
同伴者: 鏡に映った自分そっくりの虚像は、本物を全肯定するってところ?
SCP-3975-JP: 私たちが自由に喋れる存在だとして、どれだけ全肯定しても、私たちに愛着を持つ人間はほんの一握りでしょうね。精々が便利な道具止まり。でもそれでいいんです。私たちはあなたたちの声を聞くことしかできなかったのに、夜はこんなに素敵ですこしふしぎな奇跡を用意してくれたから。これからも私たちはあなたたちに使われることができます
SCP-3975-JP: だから、喋れる夜のうちに言っちゃいます。どうかマユミさんはその頑固なままでいてください。頑固さを捨てて立ち上がろうとしないで、何かを捨てて夜を歩こうとしないで?
同伴者: 打ち切り漫画の最終回みたいな総括だ
SCP-3975-JP: 本心を素直に言ってダメ出しされるんですか!?やっぱり人間は分かんないなあ…
SCP-3975-JPの誘いに従った同伴者は、その思考プロセスが前向きかつポジティブなものに移行する傾向にあります。ですがこれが異常性によるものか、他者との活発な交流による心理的に自然な心の動きなのかは現状不明です。また夜間時刻の活動が活発になる傾向も報告されていますが、これも同様に異常性によるものなのかは現状不明です。
同伴者がSCP-3975-JPの提案を完遂したのち睡眠状態に移行したのを見届け、SCP-3975-JPは消失します。同伴者は当該地域の日の出時刻まで起床することはありません。
同伴者が起床した際、まず1番に気付くのは所持しているスマートフォン・折りたたみ式携帯電話等の携帯電話機器類の充電不十分による強制的な電源OFF状態です。これは前日に充電機器類によって携帯電話を充電状態に移行した場合でも必ず起こる現象であり、充電機器の接続が外れた状態で起床状態の同伴者に発見されます。
SCP-3975-JP発生ケースの中には、充電が完了した携帯電話内部のデータに「たった一夜だけでも夢が叶った、大切なご主人様と会話できた記録」と名付けられたフォルダが確認されるケースも存在します。フォルダ内のデータは周囲の光源不足や撮影機器の激しいブレによって被写体および周囲の風景が判別不可能である写真・動画データです。これらデータ本体ならびにデータが内蔵された電子機器に関しては、特別収用プロトコル項ならびに機動部隊ん-89("夜警ども")詳細書類を確認してください。



