クレジット
タイトル: SCP-3988-JP - "京"は「京都大学SCP同好会」の"京"
著者: renerd
作成年: 2024
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SCP-3988-JPの影響で増殖した立看板 (画像処理済)。
特別収容プロトコル: SCP-3988-JPは低危険度物品収容ロッカーに保管されます。SCP-3988-JPを直接視認する必要がある場合はできるだけ少数・短時間にとどめ、視認後は精神検査のテストを受けてください。
渉外部門は要注意団体 "京都大学SCP同好会" と交渉し、当該団体が管理するSCP-3988-JP実例を漸次SCP財団に譲渡させてください。交渉は、オブジェクトの全実例が財団による一元的収容下に置かれるまで継続するものとします。この表現はGipolibidemia様から頂いたものです。ありがとうございます。
説明: SCP-3988-JPは、京都大学吉田キャンパス近隣の百万遍交差点南側の石垣において、異常に発生する立看板たてかんばん群の総称です。より詳しい条件は研究中ですが、SCP-3988-JPは直接的に監視されていないとき、10日に1回程度の頻度で自動的に発生します。
また、SCP-3988-JPには軽度の精神影響効果があり、視認した人間に対して「自分も立看板やポスターなどの掲示物を制作し、設置したい」という欲求を抱かせます。この影響は視認するSCP-3988-JPが多いほど・近いほど強まり、離れると薄まります。この影響によって作られた立て看板やポスターは非異常性です。
発生するSCP-3988-JPの内容は政治的主張やサークル活動への勧誘など多岐に渡りますが、そのいずれもが過去に存在した立看板と同じデザインをしています。元の立看板製作者はSCP-3988-JPについて何の知識も持ちません。
財団がSCP-3988-JPの存在を始めて認識したのは、京都大学が立看板への規制を強めてから1およそ2ヵ月後の2018年6月25日のことでしたが、実際に初めてSCP-3988-JPが発生したのは、遅くとも5月中旬以前のことだと現在は考えられています。
補遺3988-JP.1: 発見以前
財団によるSCP-3988-JPの認識後、情報収集・情報操作・記憶処理などのために、WebクローラによってSCP-3988-JPの目撃情報が捜索されました。以下のSNSキャプチャは、SCP-3988-JPに関連すると推測された投稿の一部です。
ゆみりゃ＠レポ金曜 @Cantor_KU · 2018/05/16
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| ウチのタテカン直ってるの、なに？？ 壊されたはずの当局粉砕タテカン復活してるらしいんだけど 誰かコピーした？？ |
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蛇腹 @Java_La_ · 2018/05/16
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| 返信元: @Cantor_KUさん その場にいた人から聞いたんですけど、某タテカンサークルが物凄く頑張ったらしいです 徹夜で人力バイバインしたらしいと言ってました |
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上記のような「立看板の制作を主目的とするサークルが、大学側の規制に反発して激しいアピールをした」という説明はSNS上を主として広く流布されていました。この事件の首謀者とされたサークル『京都大学タテカンの会』は日常的に奇抜な / 前例のない立看板を制作していたため、財団の京都大学潜入エージェントも当時はこの説明に納得しており、SCP-3988-JPの発見には至りませんでした。
この翌日の5月17日には、SCP-3988-JPであったと見られる立看板は全て撤去されていました。その後の1ヵ月間にも幾度か散発的に「立看板が複製されている」という情報はあり、同時にSCP-3988-JPの精神影響効果も発揮されていたと考えられていますが、財団はこの異常を「激化する大学側の立看板規制への反発の一環」とみなしていました。
補遺3988-JP.2: 発見
財団がSCP-3988-JPの異常性を認識するきっかけとなったのは、SCP-3988-JPの認識災害特性によって作られた非異常性のポスターです。
撤去されたA4サイズポスターのスキャン画像 (QRコードはぼかし処理済)。
ポスターは『京都大学SCP同好会』という名前の団体への勧誘を目的とした、単純なデザインものでした。左上には財団ロゴを加工したとみられるロゴがあり、中央下のQRコードはTwitterアカウント「かゆり (@1280iruy_ak)」にDMを送るリンクを表していました。
このポスターは吉田キャンパス本部北東の百万遍交差点付近の石垣に貼り出されており、2018年6月17日の早朝に京都大学に潜入しているエージェントによって発見されました。一般人の目撃者への情報保全プロトコルが実行されていますが、この日は日曜日であったためプロトコルの対象者は少数でした。
2018年8月現在、このポスターはSCP-3988-JPによる精神影響効果を受けた人物が作成したものであってSCP-3988-JPには該当せず、異常性を持たないことが分かっています。
この事件によって認識された『京都大学SCP同好会』は財団と無関係の団体であり、即座に要注意団体指定がされました。同時に、ポスター内のQRコードが示したアカウント「かゆり (@1280iruy_ak)」の追跡・アカウント操作者の身元特定が開始されました。
財団製ウェブクローラーなどを用いて速やかに特定活動が行われた結果、アカウントの操作者は京都大学薬学部に所属する3回生の海棠かいどう 由梨ゆり氏であり、氏は他に少なくとも21個のSNSアカウントを同時に運用しつつ、SCP-3988-JPの異常性を隠蔽する噂を拡散していたことが判明しました。以下は海棠氏が運営していたアカウントの一覧です。
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かゆり |
| @1280iruy_ak |
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五限絶起 |
| @akatsuki_oboezu |
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あーみん氏 |
| @Amine_shi |
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Atom/Dash |
| @atom_dash_ |
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チーチーチーチーツモ |
| @chichichichi2mo |
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シャクンタラー |
| @gendai_karidasa |
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塩分 |
| @guveQXKygADrApz |
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海鞘牡蠣 |
| @hoyagaki |
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陰ノケンティウス反省 |
| @Innocentius3say |
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蛇腹 |
| @Java_La_ |
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kariya |
| @K4FNDsqYjGY5NcD |
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寡聞 |
| @KABUUN1997 |
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ブッポウソウ |
| @konohazuku |
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ますか？ |
| @masuqa_masuqa |
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ものの弾み |
| @Monono_HAZUMI |
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NMR |
| @nmr_19999999 |
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♡ |
| @shahou8setsu |
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いしめぐ |
| @Shijng_hui |
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京都大学昼夜逆転部 |
| @tatemo_1221 |
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t |
| @tttt_tttt_tttt |
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闇マリオ |
| @yayayayayayahhu |
財団エージェントは海棠氏に直接接触・確保して京都大学SCP同好会に関するインタビューを行う計画を立てていましたが、ポスターの発見された6月17日から11日間、海棠氏は公共の場に現れませんでした。同氏は履修中の必修授業にも姿を見せず、授業前後の単独行動時に確保を行う計画は失敗しました。
この間､「かゆり (@1280iruy_ak)」を除く海棠氏所有のSNSアカウントは更新され続けていましたが、この発信元を特定することはできませんでした。
また、財団が『京都大学SCP同好会』に接触するため、同要注意団体のポスターが張られていた百万遍交差点付近を監視していたところ、異常に増殖する立看板が6月25日に発見され、SCP-3988-JPとナンバリングされました。
この際にSCP-3988-JPの「直接的な監視下では増殖しない」という特性が判明したため、百万遍交差点南側の石垣は交代で監視されることになりました。
補遺3988-JP.3: 接触
6月29日 (金曜日)、SNSアカウント「かゆり (@1280iruy_ak)」に、次のキャプチャに示される投稿がありました。
この投稿は清風荘2から発信されたものだと特定されました。これを受け、即座に清風荘に財団エージェントが派遣され、同地でインタビューが実施されました。以下はそのログです。
インタビュー記録
発言者:
- 財団 京都大学潜入エージェント 京都大学大学院生命科学研究科所属 赤池あかいけ 一樹かずき
- GoI『京都大学SCP同好会』構成員 海棠 由梨
付記: 位置情報は海棠氏があえて発信したとみられること、平日の昼間であること、人口の多い市街地の中であることなどを理由に、海棠氏の確保よりも情報収集のための会話を第一目的としていた。
この要に最も適し、かつ即応的に動けるエージェントが、Agt. 赤池だった。Agt. 赤池は京都大学の物質－細胞統合システム拠点 (Institute for Integrated Cell-Material Sciences, iCeMS) に大学院生として潜入しており、当時は清風荘から約500mの距離に位置する京都大学吉田キャンパス本部構内のiCeMS研究棟にいた。
Agt. 赤池はペン型の小型マイクを身に着けており、インタビュー内容は傍受・録音されていた。
[Agt. 赤池と海棠氏が、清風荘離れの第二会合室にある長机の両端に着く]
Agt. 赤池: こんにちは、海棠由梨さんですね。
海棠氏: はい。それにしても随分お早いお着きですねぇ。お一人ですか？
Agt. 赤池: どうでしょうか。
海棠氏: 先に言っておきますが。[エアクオートのジェスチャ―をしながら] "非敵対的なPoI" との "敵対的反応を誘発しない" 情報交換と考えていますよ。私は、この会談を。
Agt. 赤池: [咳払い] ⋯⋯いえ、我々も [強調して] "同じように3"、考えています。
海棠氏: それは良かったです。では そうですね、何からお話しましょうか？
Agt. 赤池: まずは、京都大学SCP同好会のことについて、でしょうか。何を目的とする団体なのか、規模はどの程度なのか、誰が作って、誰が所属しているのかなど⋯⋯いえ、話せる限りで構いませんが。
海棠氏: うちのポスターを持って行ったでしょう？ あれでほとんど全て、"京大に押し寄せる異常を、共に確保・収容・保護しよう！" が目的です。
Agt. 赤池: SCP-3988-JP あの増殖する立看板、の隠蔽もその一環ですか。
海棠氏: 放っておいたら四畳半はある『当局粉砕！』タテカンが際限なく増えて、石垣を埋め尽くすんです。タテカン規制には反対ですけど、タテの会4に名誉を積んであげるのにも上限がありますからね。
Agt. 赤池: では、増殖したSCP-3988-JPは現在どこに？
海棠氏: アレですか？ キャンパスの、秘密の場所です。
Agt. 赤池: 収容と保護、ですか。⋯⋯話を変えましょう。こういった活動は、これまでも行ってきたのですか？
海棠氏: 我々が一体何人の喋る折田先生像5を収容してきたか、聞くとびっくりしますよ。
Agt. 赤池: ではなぜ突然、ポスターを貼るような真似を？ それとも、今までは我々が気づいていなかっただけでしょうか。
海棠氏: あれは⋯⋯[言いづらそうに] 私のミスです。
Agt. 赤池: 何をミスしたら、あの目立つ場所にポスターを貼ることに？
海棠氏: ⋯⋯SCP-3988-JP、の異常性は把握していますか？
Agt. 赤池: 現在までに分かっていることは、目を離していると突然発生するということです。オリジナルはなく、全ては過去の立看板のコピー。
海棠氏: 異常性はもう一つあります⋯⋯SCP-3988-JPの発生原因は分かりますか？
Agt. 赤池: 京都大学側の立看板規制への反発ではないか、と推測されています。実際にSCP-3988-JPが発生するように工作した人物はまだ特定されていませんが。
海棠氏: ええ。その通りです。そしてその下手人は「自分もタテカンなりポスターなりを出したい！」と思わせるような精神影響効果も異常タテカンに組み込みました。イデオロギーに忠実に。
Agt. 赤池: あなたも影響されて、SCP同好会のポスターを貼ってしまったと？
海棠氏: 恥ずかしい限りですが⋯⋯私はSCP-3988-JPを収容する責任者のような立場にありましたから。あれらと一番近くにいたんです、一番影響を受ける立ち位置にです。
Agt. 赤池: なるほど、不慮のものだったと。
海棠氏: ⋯⋯さて、今後の話をしましょう ついに、私たち京都大学SCP同好会は財団の前に姿を見せてしまいました。
Agt. 赤池: ええ。ですが聞く限り、あなた方は財団と目的を一にしています。財団への統合や下部組織化など、あなた方構成員に大きな不利益が降りかかりづらい道も幾つかあると思いますが
海棠氏: [遮るように] 残念ながら、それはできません。
Agt. 赤池: なぜですか？
海棠氏: 例会でそう決まったから ですが。例えば、今回の下手人が特定できたら財団はどうするでしょうか？ 尾行・確保は言うに及ばず⋯⋯そうですね、少なくとも長期間拘束されるでしょう。
Agt. 赤池: そうなるかもしれません。
海棠氏: するとなると、単位を落としてしまいますね。これは良くない。
Agt. 赤池: ⋯⋯はあ。
海棠氏: 今のは冗談ですよ ただ、概ねこういったことです。我々は、長期間の拘束や著しく不当な捜査、日々の進歩の妨害はしません。悪戯に危害や迷惑をかける異常を確保・収容・保護するだけです。ああ、既に同好会は幾らかの手を打っています、これ以上SCP-3988-JPが増加することはないはずですよ。
Agt. 赤池: それは
海棠氏: 出来るものですよ。餅は餅屋、学生には学生。こと京大内に限って言えば、財団よりも素早く。お分かりですか、iCeMSの赤池さん？
Agt. 赤池: [数瞬の動揺] ⋯⋯しかし、あなた方のやっていることは学生団体のそれを遥かに超越している。ごくごく一部の学生が異常に気付けたとしても、活動を起こせば財団は「気付いたことに気付く」ものです。
海棠氏: 気付けていないかもしれませんよ。案外私たち以外にもSCP同好会があるかもしれません、東大なりに さておき。私たちは京大の非公認サークルですが、それでも顧問はいますからね。
Agt. 赤池: 顧問？
海棠氏: ええ。⋯⋯随分話しましたね、そろそろ取っている授業が始まってしまうのでお暇させていただきます。SCP-3988-JPの問題のせいで休みすぎたので出席だけでも。
Agt. 赤池: 待ってください、もう少し
海棠氏: 申し訳ありませんが。⋯⋯ああ最後に。今後私は、同好会の渉外を担当することになりましたので。何か大きな問題が起こりましたら、何らかの方法で私にお伝えいただければ。今後ともよろしくお願いします。
後記: 海棠氏はインタビュー終了後、Agt. 赤池と一緒に清風荘を出て吉田キャンパスに戻り、そのまま授業に出席しました。
補遺3988-JP.4: 追跡
7月2日 (月曜日) から海棠氏は通常通りの通学を再開しましたが、財団職員による尾行・大学内の防犯カメラによる監視は十分な効果を収めませんでした。氏の尾行を撒く能力は非常に優れており、財団職員に補足されている間は常に、氏は強引な確保が実行できない状況にありました。
以下は、京都大学に潜入中の学生エージェント2名によって集められた、海棠氏に関する聞き込みの回答です。
(人柄などに関して)
- 容姿が非常に良い。
- 人付き合いが非常に悪い。授業が終わるとすぐに帰ってしまう。
- 常にスマートフォンを触っていて、話しかけづらい。
- 1回生の頃に何度か話したことがあるが、それ以来ほとんど全く会話していない。
- Twitterアカウント (@1280iruy_ak) を非常に活発に動かしている。
(最近の海棠氏について)
- 非常に忙しそうで、授業に遅刻したり欠席したりすることも多々ある。
- クラブ活動、サークル活動をしている様子は見られない。
- アルバイト中の姿を見た者もいない。
- 最近、1週間ほど授業に出ていなかった時期がある。その間、氏を見かけた人はいない。
(その他)
- 恋愛関係になるのは難しいのではないか。
- 最近他にも海棠氏について質問をしている人がいる。恋敵になるかもしれない。
エージェント2名は当初 "海棠氏について質問をしている人" をお互いのことだと認識していましたが、聞き込みを続けるにつれ、これは財団と無関係の人物、京都大学理学部の2回生・荒上あらがみ 涼尚すずたか氏であると判明しました。
荒上氏の活動を調査範囲に含めたところ、数種の不審な点が見つかりました。氏は自身が尾行されていないかどうか過剰に確認したり、空き教室に幾度となく出入りしたあと突然姿を消したり、といった行動をとっていましたが、これらの行動には海棠氏ほどの熟練度は見られず、尾行は比較的容易でした。
不審な行動を受けて荒上氏へのより広範な調査が行われた結果、荒上氏は過去に複数回の立看板製作経験があること・現在収容されている異常芸術家アナーティストとの接触経験が過去にあることを理由にSCP-3988-JPとの関連が強く疑われ、また同氏は京都大学SCP同好会と友好的な関係にあり、それはごく最近からのことであると推定されました。
これらの情報と荒上氏の尾行回避能力の低さを基に同氏の確保・拘束計画が立案され、これは成功裏に終わりました。以下は確保後のインタビューログです。
インタビュー記録
発言者:
- 財団エージェント 諏訪すわ 成邦しげくに
- 要注意人物 荒上 涼尚
Agt. 諏訪: 先に言っておきますが、これからの質問には正直に話した方が良いですよ。拷問を始めたり自白剤を投与したりする訳ではありませんが、我々には非常に高性能な嘘発見器がありますし、拘束が長引くことにもつながります。正直に話した方が賢明ですよ。さて、あなたはSCP-3988-JP、すなわち突然増殖したり鑑賞者への精神影響効果を持ったりするような立看板を作りましたね？ そして、あなたと『京都大学SCP同好会』との関係は？ 我々の見立てとしては、SCP-3988-JPで騒ぎを起こしたあなたが同好会に目を付けられ、ひとしきり怒られた後で一員に加えられた⋯⋯といったところですが。まずはこういったことについて、答えて頂きたい。どうですか？ 正直に話してください。
荒上氏: その通りです。最近同好会に入りました。その通りです。
後記: 荒上氏の発言に虚偽の反応は見られなかった。
インタビューによって、荒上氏が過去にSCP-3988-JPの発生現象をコントロールしていたこと、同好会からの説得によってSCP-3988-JPの新規発生を止めたことが明らかになりました。また、同好会が拠点として占有しているポケットディメンション『嘉門寮かもんりょう』の概要と、その進入方法が判明しました。
同氏はインタビュー後、記憶処理を経て解放されました。これは突入作戦の実行を同好会に悟られないようにするためです。
補遺3988-JP.4: 突入
同好会メンバーの拘束 / SCP-3988-JPの確保を主目的とする、同好会拠点『嘉門寮』突入・襲撃作戦は、キャンパス内の民間人が少ないと予想された7月9日 (月曜日) の未明3時20分に、財団機動部隊 京-1 ("戦後派意識の解明") によって開始されました。
作戦記録書き起こし
<記録開始>
[京都大学の吉田南4号館に、機動部隊 京-1が侵入する。部隊員の3名は、4共30講義室・33講義室・25講義室・41講義室を、司令部に指定された時間だけ教室内で待機しつつ順に巡る]
アルファ: こちらアルファ。3時33分45秒、3名とも教室を出た。
司令部: [通信越しに、以下同様] 了解です。これで最後です、左側の階段へ向かってください。
アルファ: 了解。
ブラボー: やっとか。
チャーリー: 毎度こんな面倒なことしてるんですか、"同好会"のメンバーも。
アルファ: 新入生には知らされていないような、もっと簡便な出入口がある可能性が高い、というのが司令部の見解だがね。
[3名が階段前に着く]
アルファ: 階段前だ。
司令部: 30秒後、1階ぶん下ってください。それで同好会の拠点・嘉門寮かもんりょうに着く筈です。
ブラボー: 学校の怪談のような面倒くささだな。
チャーリー: 手順に分刻みの時間設定があるような学校の怪談は流行らないでしょう。
アルファ: ⋯⋯そろそろ行くぞ。
ブラボー: 了解。
チャーリー: 問題ありません。
[部隊が階段を下ると、吉田南4号館の3階とは明らかに内装の異なる場所に着く。応答は小声になり、移動は忍び歩きになる]
司令部: 着いたようですね。聞こえますか？
ブラボー: ああ、通信は良好に繋がっているか。
司令部: 問題ありません カメラ越しには、そちらは廊下のような場所に見えますね？
アルファ: その通り、廊下は全て木製のようで真っ直ぐに伸びており、窓はない。扉が幾つか並んでいて、まさに寮のような形になっている。
司令部: 入ってきた階段の方は？
チャーリー: 振り返ると、上に続く階段⋯⋯今下ってきた階段の向こうは真っ暗で何も見えません。それと、更に下る階段があります。
司令部: 荒上氏から得られた情報と同じですね、ひとまずその階の探索を進めてください。一階下が居住スペースとのことなので、なるべく音を立てないように。
アルファ: 了解、ひとまず一番近い扉まで 廊下が古いのか、多少軋むな。
[3名が扉の前に着く。扉には「倉庫A」というプレートと単純なシリンダー錠がついており、チャーリーが解錠を試みる]
チャーリー: 開きました。
司令部: 中は？
アルファ: 誰もいない 確かに「倉庫」だが、掃除用具を入れるようなもの。雑巾やらバケツやら、箒やモップが入っていそうなロッカーもあるな。段ボールも数箱。
司令部: なるほど。他の部屋のプレートはどうですか？
ブラボー: 「倉庫B, C」「小会議室」「娯楽室」「洗濯室」それに「化粧室」といったところか。
チャーリー: 他も開けますか？ 解錠は簡た
司令部: どうしましたか？
[階段を昇る足音]
司令部: そのまま、倉庫に隠れていて下さい⋯⋯足音がどちらに向かうか分かりますか。
[化粧室のドアの開閉音]
チャーリー: [囁くように、以下同様] 化粧室かと。
ブラボー: 何時だと思ってるんだ。
司令部: できれば、殺害しない範囲で無力化を、他に気付かれないよう。人質、案内役に。二階以上下の情報がありませんから。
アルファ: 了解。[隊員に] 音を立てないように移動を。扉前で奇襲する。
[トイレ用擬音装置「音姫」による「鳥のさえずり」音]
ブラボー: 何時だと思ってるんだ。
アルファ: 好機だ、音に紛れて移動する。
[3名が化粧室の扉横で待機する。水洗音が流れ、ドアが開く]
[外開きの扉の陰に隠れたブラボーが不明な人物 (以下「同好会構成員」と表記) を拘束する]
ブラボー: 動くな。
同好会構成員: ぐ
チャーリー: [口を押さえて] 大声は無しな。反撃も。
アルファ: [銃を片手に] 撃たせるなよ。さて、顧問とやらは居るか？ 案内しろ。
[同好会構成員が怯えながら頷く]
ブラボー: よし。
[4人は階段を2階ぶん下る]
アルファ: さっきまでと違うな。廊下が多少広い。
司令部: 荒上氏がまだ知らない、我々にとって未知のエ
ブラボー: ハロー？
チャーリー: ⋯⋯ダメです。通信が途切れました。
アルファ: どうやら、電波も届いていないな。
ブラボー: このフロアの問題か？
同好会構成員: [頷く]
ブラボー: チッ。
チャーリー: 一時撤退しますか？
アルファ: いや。一気呵成だ。次に入れるのは2時間半後だろ？ 朝6時だ。日が昇ってる。
ブラボー: 了解。さて、この先に居るんだな？
同好会構成員: [頷く]
アルファ: 行くぞ。
[部隊が進む廊下の左右には複数の扉があり、それぞれには部屋番号のみが振ってある。廊下は20mほど進んだところで直角に曲がっている。このフロアは最初のフロアよりも明らかに広い]
ブラボー: まだ奥か？
チャーリー: あの先のドア、プレートに『管理人室』と。
アルファ: よし。突入する。
[突然、階段の防火シャッターが落ちる]
チャーリー: な
放送: 嘉門寮アナウンスです。3階で水漏れが発生したため、付近には近寄らないでください。[同様の文言を3度繰り返す]
ブラボー: [同好会構成員に] どういうことだ！
同好会構成員: わ、わから
アルファ: 別にいい、人質もいる！ 突入するぞ！
ブラボー: 了解！
[部隊員が『管理人室』のドアを破壊しつつ入る]
ブラボー: 抵抗するな！ こちらには⋯⋯誰もいない？
[『管理人室』内は殺風景で、何も置かれていない]
ブラボー: 何だこの部屋？ 何もな
[ブラボーがうめき声をあげ、転倒する]
アルファ: どうした！
[折田彦一を模した胸像が『管理人室』から、ゲバルト棒を持って現れる。像は足を持たないが、滑るように移動する]
折田先生像: 折田彦一先生は、第三高等学校の校長として
[チャーリーが発砲し、像の片腕が壊れてゲバルト棒が取り落とされる。像は転倒し、立ち上がれない]
チャーリー: [ブラボーに] 大丈夫ですか！
折田先生像: この像を汚さないで下さい、この像を汚さないで
チャーリー 黙れ！
ブラボー: クソ、何とか⋯⋯
アルファ: 罠でもコイツはやれた、このまま
[部屋内の死角に隠れていた像が6体現れる。内訳は、折田彦一を模したものが3体、リセットさん (どうぶつの森) 像・ブルゾンちえみ (お笑い芸人) 像・荒木飛呂彦 (漫画家) を模したものが1体ずつ]
アルファ: 一旦逃げるぞ！
ブラボー: 了解！
[混乱の中、同好会構成員はその場に残される。部隊員は廊下を曲がり階段に戻ろうとするが、防火シャッターが道を塞いでいる]
チャーリー: [シャッターに体当たりしつつ] 壊せない！ 開きません！
アルファ: クソ。
ブラボー: あいつらもう来たぞ！
[胸像6体が迫るが、その移動速度は遅い。部隊員が複数回発砲するが、殆どはゲバルト棒によっていなされる]
チャーリー: 全然効いてません！
アルファ: 廊下は広い、扉につっかえさせて一体ずつ倒す！
ブラボー: 部屋の中に何か居たらどうする！
アルファ: このままでもジリ貧だろ、仕方ない！
[3名が近くの扉を無理やり開ける]
チャーリー: 中に動くものは居ません！ 机と書類棚だけです！
アルファ: よし、入るぞ！
[3名は部屋に入り、調度品で即席のバリケードを作る]
折田先生像: 自由の学風！[ゲバルト棒でバリケードを攻撃する]
アルファ: うるさい！
[胸像の攻撃が他の胸像にぶつかり、巻き込まれて2体が倒れる]
チャーリー: ラッキー！
ブラボー: 反撃しつつ1体ずつ！
アルファ: そうだ、このまま！
[扉とバリケードを挟んだ戦闘が展開される。更に2体の像が倒れる]
ブラボー: よし
[像の攻撃がバリケードの書類棚にぶつかり、中に入っていた大量の紙類が部屋中に撒き散らされる]
ブラボー: クソ、滑る！
チャーリー: 何だこれ チラシ？
アルファ: 待て、まさか⋯⋯
[チャーリーが突然、筆記具を取り出す]
ブラボー: おい！ 何してる！
アルファ: ダメだ、見るな！ 離れろ！
ブラボー: 何が
[チャーリーが、紙の裏に『機動部隊員大募集！ 一緒に探索しよう！』と書き込む]
アルファ: SCP-3988-JPだ！ 精神影響効果！
ブラボー: クソ
アルファ: ダメだ、俺も⋯⋯
ブラボー: おい！ 隊長！
[像の攻撃で、バリケードがある程度破壊される。更に大量のSCP-3988-JPが部屋内に撒かれる]
[アルファの映像が途切れる]
<記録終了>
このおよそ2時間後の午前6時2分、嘉門寮に突入しようとした機動部隊員別パーティーによって、吉田南4号館4共21講義室の椅子の最前列に座って寝ている先行突入部隊の3名が発見されました。3名の内に重症者はいませんでした。
通信断絶後の状況が共有された結果、突入作戦は失敗に終わったと判断され、終了されました。
補遺3988-JP.5: 作戦終了後
作戦後、映像記録に映った同好会構成員の特定やアナウンスの声紋鑑定が行われましたが、データの一部改竄 / 軽度ミーム防護によって十分な情報は得られませんでした。
また、作戦実行の翌日である7月10日に再度荒上氏へのインタビューを行ったところ、同氏の異常に関する記憶が完全に消去されていることが分かりました。これは同好会によって行われたものであると推定されています。同氏への監視は継続的に行われていますが、以降同好会との接触は起きていません。
7月11日、SNSアカウント「かゆり (@1280iruy_ak)」に、次のキャプチャに示される投稿がありました。
京都大学SCP同好会の実態は依然不明な点が多いままですが、同団体の渉外担当を自称する海棠氏の身柄を拘束することは保留されています。今後団体と表向きに接触する要のある際は、海棠氏を通じて行われます。
インタビュー内で言及され、突入作戦でも存在が示唆された「顧問」が誰のことを指しているのかは不明です。京都大学・大学院に属する教員が超常社会に通じており京都大学SCP同好会と関わっている、という蓋然性が高いため、現在調査が行われています。
補遺3988-JP.6: 今後について
京都大学内で発生した財団の把握しているSCPオブジェクトは他の同規模の大学と比して少数だった、ということが、京都大学SCP同好会の存在認識後の調査で分かりました。これは財団が発見するより先に、同要注意団体が収容活動を行っていたことが原因だと考えられています。
京都大学SCP同好会の行っている収容活動には、安全上の懸念に端を発する複数の問題があります。同要注意団体が現在保有していると見られる異常存在群を財団の管理下に置き、京都大学内での正常性維持を一元化することは急務です。
京都大学SCP同好会のより正確な規模・構成員の特定やポケットディメンション『嘉門寮』の調査、また異常物品の収容活動のため、下に概略を記す作戦群が立案されました。
- 他潜伏先や他構成員などの特定のための、PoI 海棠 由梨氏の継続的な監視
- 同好会への勧誘経路を探るための、紅萠祭こうほうさい6の監視強化
- 同好会の内情を探るための、同好会内への学生エージェントの潜入
- 同好会の収容経路や嘉門寮への別進入経路を特定するための、発信器などを備えたデコイ異常物品の設置
- 同好会よりも早い異常発見・収容活動を実現するための、包括的な監視体制の建設
これらの作戦を遂行するために、2019年度からはより大人数のマルチスキルな潜入エージェントが京都大学に投入されます。今後、財団－京都大学SCP同好会の対立の下で、京都大学内でのより広範な活動が始まります。