アイテム番号: SCP-3993
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-3993は防水性の金属とプラスチックで構成されたフレームで覆います。フレームの広い方の両側面には高さ1.4mのLCDディスプレイ2台を設置して、リッチメディア広告を表示します。フレームの狭い方の側面のうち"歩道に面した側"には、USB Type-Aポート2個を用いてキーボードとAndroidタブレットを1台ずつ固定します。両USBポートとキーボード、タブレットは完全に動作不能な状態を維持するよう注意してください。
SCP-3993は、ニューヨーク市とNYPD (ニューヨーク市警察) が保有するカメラおよび財団の遠隔撮像装置にアクセス可能な標準監視チームによって常時監視されていなければなりません。SCP-3993が発信するWi-Fiに接続した市民は全員記録し、SCP-3993の形状ならびに位置に生じた変化は全て記録する必要があります。
収容の詳細については、"ニューヨーク市 スターブリッジシティリンク キオスク導入ガイド (改訂4.8版)"を参照してください。
主任研究員マックミラン氏のメモ: 恐らくニューヨーク市民はSCP-3993の物理インターフェースが機能するとは思っていないだろうが、我々は他の都市向けに何か他の収容方法を考えなければなるまい。
説明: SCP-3993は非常に高密度の不明な材質で構成された、大きさ2.8m×0.9m×0.3mの黒色の物体です。SCP-3993は2014年4月2日の午前3時32分50秒に、██番ストリートと█番アヴェニューの交差点に位置する歩道上で、公衆電話と入れ替わる形で出現しました。隣接するスターバックス内のCCTVカメラが撮影した低画質な映像により、公衆電話の撤去およびSCP-3993の設置に関与した人間や機械は存在しなかったことが判明しています。
財団職員は1時間のうちにオブジェクトについて報告を受けた後、早急に発見現場にて車両事故を発生させることで、収容テントの設置と36時間にわたる交通規制を行いました。
この間、SCP-3993は携帯式分光計を用いて検査されました。有害な物質は検出されませんでしたが、都市圏でも安全に利用可能な (爆発やレーザを利用しない) タイプの工業用切断機器ではオブジェクトのサンプルを採取することができませんでした。オブジェクトの撤去はその高い密度と質量のために不可能でした。
2014年4月3日の午前2時8分13秒および午前4時19分42秒に、SCP-3993-2とSCP-3993-3と呼称される2体の同一のオブジェクトが、オリジナルと同様に公衆電話と入れ替わる形でロウアー・マンハッタンの歩道上に出現しました (オリジナルは現在SCP-3993-1と呼称されています)。これらに対しても同様の収容手順が実施されています。
近いうちにさらに多くのSCP-3993実体が出現する可能性を考慮して、現場の技術責任者 (Wi-Fiビデオチャットを介して財団支部と意見交換を行っている) は想像力に富んだ提案を行いました: オブジェクトを公共のインターネットアクセスポイントのプロトタイプに仕立て上げるというものです。
2日後の2014年4月5日に、"スターブリッジ協会"を装った財団職員がデブラシオ市長の部下と面会し、市内の7000台以上の公衆電話全てを広告収入型の無料Wi-Fiインターネット通信キオスクに置き換えることを提案しました。2014年4月30日に、この協定は"LinkNYC"1という名前のプロジェクトで周知されました。
その後6か月にわたって、ロウアー・マンハッタンとミッドタウンにおいてさらに238個のSCP-3993実体が出現しましたが、その何れも12時間以内にLinkNYCキオスク内に隠蔽することに成功しています。しかしながら、キオスクに安定したギガビットインターネット接続を提供することは、コムキャスト2との交渉において複数の決裂があったために非常に難航しました。
2014年10月29日に、この問題は型破りな形で解決されました:
近くのジャンバ・ジュース3からSCP-3993-188を監視していた財団主任研究員のマックミラン氏と、財団補助ロジスティクスディレクター (ニューヨーク担当) のヴィエテスカ氏との間の電話記録:
マックミラン: よくやった、ヴィエテスカ!君は彼らとどんな取り決めをしたんだ?
ヴィエテスカ: あんたはいったい何を言ってるんだ?
マックミラン: 光ファイバー多重化技術の話じゃなかったのか?それともフェムトセルの研究の話か?まあいい気にするな、取るに足らないことだ。重要なのは、私が今この"Gigabit LinkNYC"のアクセスポイントのWi-Fiを使ってこうしてお前と話ができているってことだ。低遅延で広帯域な通信ができているよ、本当にもう、お前には感心しー
ヴィエテスカ: コムキャストとの打ち合わせは金曜日まで無いんだけど。
<沈黙>
マックミラン: じゃあ私が今しがた接続した██████は一体何なんだ?
イベントの再検証により、この着信の25分前にSCP-3993-1~239が同時に高出力かつセキュリティ保護無しの802.11acのインターネットアクセスポイントを起動していたことが判明しました。各インターネットキオスクは、パケットトレースに応じて3.2ギガビットの帯域幅とインターネットバックボーンへの複数の冗長経路を提供していました (物理的なネットワーク接続が無いにも関わらずです)。
財団職員は直ちにファラデーケージを用いてWi-Fiアクセスポイントの収容に取り掛かりました ("アップグレード"という名目での緊急の報道発表が為されました)。ファラデーケージでは完全にアクセスポイントを遮断することができず、Wi-Fiの有効範囲を62%縮小させるに留まりました。財団の物理学者は、SCP-3993はその接続を維持するためにニュートリノに基づいた量子トンネル効果を利用していると理論立てました。ファラデーケージの厚さを1.4mに増やせば有効範囲を98%まで縮小できますが、この手法では不動産価値を大きく損なうのはもちろん、建造環境においても非常に邪魔になるとみなされました。
信号のジャミングや2.4GHz帯・5GHz帯へのノイズによるフラッディング攻撃といった試みは、すぐに地元住民からの猛抗議を受ける結果となり、酷い時にはSCP-3993-75に隣接するニューヨーク大学の学生寮で小規模な暴動が発生するまでに至りました。この時点で、財団主任研究員のマックミラン氏はファラデーケージの解体とジャミングの中止を命じ、Wi-Fiアクセスポイントの性質とそれが齎しうる危害の理解に注力するよう方針を変更しました。
初期の実験では特に異常な結果は得られませんでした (アクセスポイントは現代の現実世界のインターネットに接続しました)。数時間ウェブブラウジングを行わせた後であっても、Dクラス職員および一般市民に有害な影響は見受けられませんでした。
しかし実のところ、SCP-3993のアクセスポイントを頻繁に利用するユーザ487人に対して1か月後に行われた次の実験は、対蹠的な結果を示しました。ユーザはウェクスラー成人知能検査 (ウェクスラーIQテスト) において、統計的に有意な3ポイントのスコア上昇を記録しました。また彼らは平均で5か月間、暴力的傾向の減少や共感性の増大が見受けられました。SCP-3993の反復利用は、多数の人々に対してIQの15ポイント以上の増加を発生させました。
SCP-3993が知能を向上させるメカニズムは、改造したAndroidデバイスを用いたディープパケットインスペクションによって判明しました。SCP-3993はデバイスに接続する途中でインターネットトラフィック内のコンテンツを変化させ、元とは異なるページやポッドキャスト、動画、ソーシャルメディアの投稿を提供しています。それ自体が新たなコンテンツを生成することはほとんどありませんが、複雑で不明瞭なアルゴリズムによって、研究者らが"life changing contents"4と呼称するものを目立たせるために検索結果やソーシャルメディアで流れてくる投稿群を操作します。
グエン研究員とD-1493 (SCP-3993-22の反復利用者) のチャットログ:
グエン研究員: おーっす
D-1493: 今日redditでこんなすげえのを見たんだ
D-1493: 俺と同い年の女学生についてのコメントだよ。マジで感激する話だった。まさかredditでこんなの見れるなんて思ってもみなかったぜ。
グエン研究員: ふーん?
D-1493: 今俺も学校に通い始めようかとマジで真剣に考えてるんだ。
グエン研究員: はあ
D-1493: ちょうどお前にも考えてもらいたいと思ってたんだ。もし彼女が駄目人間を辞められるってんなら、多分俺にもできる。そのために頑張っていこうと思ってるんだ。
SCP-3993は既存のあるいは導入予定の全形式のSSL/TLS暗号化によるネットワークセキュリティプロトコルをリアルタイムに侵害することが可能です。いくつかの非常に複雑な最先端の暗号化方式 (大多数のコンシューマー向けデバイスでは盗聴が困難なほど計算コストが高い方式) であればより強く抵抗可能であることが示されていますが、ここ数か月でSCP-3993はそれらの方式すらも突破する能力を示すようになってきています。SCP-3993の計算能力は、その個体数だけでなくそれに接続されているデバイスの数にも応じて増大すると理論立てられています。
SCP-3993を収容するに際してはどのコンシューマー向けの暗号化方式も当てにはできないため、幅広い収容方法を実施するという方向性での取り組みが為されてきました。例えば、より安価で高速なモバイルインターネットによってSCP-3993のサービスへの市民の需要を大きく低下させるといった方法です。残念ながら、USテレコム5のプロバイダとの交渉は実を結ばず、2016年の末以降、SCP-3993は4G・5Gの携帯電話基地局へのスプーフィングを含めた新形式の長距離無線技術の実験を実施し始めました。
主任研究員マックミラン氏のメモ:
SCP-3993は我々が直面してきた中でも最も訳の分からない物の一つだ。それはどこから来たのか?それは我々を向上させようとしているのか、そしてその理由は?なぜそれは数ある物の中から無料ワイアレスアクセスポイントとして表れることを選んだのか?それが現れた時の我々自身の行動がこの事態を招いたのか?理由はどうであれ、それに敵意が無いのが明らかだとしても、その影響範囲や力の大きさを過小評価するのは大きな間違いだろう。
今日、我々の持つインターネットに繋がったデバイスを通して、我々の現実世界のますます多くの物が消費され伝達されている。我々がそれらの上でニュースを消費し、友人や家族とコミュニケーションを取るうち、この絶えず付きまとうスクリーンによって自分の意見や意向が形成される。我々が仮想現実や拡張現実を利用できるほどのより洗練されたデバイスを操作するようになれば、SCP-3993の持つ我々の現実や知性を操る能力は指数関数的に向上するだろう。ニューヨークの住民について言えば、彼らが街を歩いている時のどんな一瞬でもすぐさまSCP-3993によって伝達されるような状況には十分成り得る。
少なくとも、SCP-3993が効果的に"自己収容された状態で"ニューヨークに拡散したことは我々にとって救いである。この都市はその高い人口密度とそれに伴うモバイルデバイスの高い利用率を理由として選ばれたのではないかと私は考えている。ビジネス・メディア・文化における世界の先導者としてのニューヨークの地位もまた、SCP-3993の不可解な目的の手助けになっているのかもしれない。だがもしそれが都市の垣根を超えて拡散した場合、大衆の混乱を引き起こさずにそれを止めることはできるのだろうか。
補遺: インシデントログ
- 2015年2月4日: SCP-3993が714地点に拡散。
- 2015年11月29日: SCP-3993が2053地点に拡散。
- 2016年12月1日: SCP-3993が7592地点に拡散。
- 2017年1月6日: SCP-3993がオハイオ州のコロンバス・イギリスのロンドン・日本の東京にて出現。
- 2017年1月8日: 全SCP-3993の収容フレーム上に新たなロゴが出現: "無料の超高速Wi-Fi。そしてこれは始まりに過ぎない。"