アイテム番号: SCP-3995-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-3995-JP周辺の森林は財団によって買収、封鎖が行われます。特にSCP-3995-JPから半径5mの領域はドーム状の収容壁で覆われ、体長1m以上の生物の侵入が防止されます。
説明: SCP-3995-JPは直径約1mのキイロスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の巣です。SCP-3995-JPは5m程のコナラ(Quercus serrata)に付着していますが、当該樹木に異常性は認められません。SCP-3995-JPから半径5m以内に体長50cm以上の生物が侵入した場合、SCP-3995-JPは活性化します。SCP-3995-JP内には近代的な都市が存在しており、数百体の人型実体が生活しています。この都市は非常に広大であり、屋外とほぼ同じような空間が形成されています。1空間内の空は常に快晴の状態ですが、SCP-3995-JP活性化時は赤く変化します。
SCP-3995-JP-1はSCP-3995-JPの活性化時に当該巣内から出現するキイロスズメバチです。1回の活性化で出現するSCP-3995-JP-1の数は20〜30匹程度です。SCP-3995-JP-1は出現と同時に侵入した生物を襲撃します。襲撃を終えたSCP-3995-JP-1は非異常性のキイロスズメバチへと変質します。SCP-3995-JP-1に刺された体長50cm以上の生物は即座に縮小を始め、幼虫に似た形状に変化します。幼虫状態になった生物はSCP-3995-JP-1によってSCP-3995-JP内に運ばれ、人型実体に変化します。この時、人型実体は一定の自我と知性を獲得します。幼虫になる前に何らかの物品を保持していた場合、人型実体への変化時に物品は再生成されます。当該実体はSCP-3995-JP内の都市で何らかの社会活動に従事し、何らかのイレギュラーな事象が無い限り非常に規則的な生活を送ります。この生活リズムは全実体に共通したものであり、生理的な行動2のタイミングも全て一致しているとみられます。SCP-3995-JP活性化時、これらの人型実体の一部が突如消失します。人型実体の移動先は判明していませんが、出現するSCP-3995-JP-1の数と消失する人型実体の数が一致することから、当該実体が消失と同時にSCP-3995-JP-1に変化しているという仮説が立てられています。消失する個体の選定基準は不明です。
探査記録3995-JP: SCP-3995-JP内の空間を調査するため、Dクラス職員1名が収容壁内に投入されました。以下はその探査記録です。
対象: SCP-3995-JP
探査者: D-1808
担当者: ██博士
付記: D-1808は小型カメラ及び通信機を所持してSCP-3995-JP内に侵入した。また、後述の実験のために1頭のブタが用意された。
<録画開始>
D-1808: えー今目が覚めました。さっきまで壁の中だったのに気づいたら知らない街に来ています。
[D-1808が周囲を撮影する。周囲は日本でよく見られる一般的な新興住宅街であり、奥に広い公園と河川が確認できる。]
D-1808: まずどこに行けばいいでしょうか。
██博士: 公園の方へ向かってください。
D-1808: 分かりました。[公園に到着する]どうやら人はいないようですね。
██博士: 川に近寄れますか。
D-1808: はい、近づきました。
██博士: どうやら川に目立った生物は一切住んでいないようですね。遠くに大きい建物が見えるので次はそこに向かってください。
D-1808: 分かりました。
[D-1808が街路樹を映しながら街を歩く。映像にはいくつもの監視カメラと防災無線のような設備が映っている。]
██博士: 街の状況から分かることはありますか。
D-1808: 家はたくさんあるのに全然人を見かけませんね。他に気になることは無いです。
██博士: そうですね。こちら側で見る限り、あのカフェの状況は異質と言えそうです。ズームできますか。
D-1808: カフェですか、分かりました。
[カメラがカフェとみられる建物にズームする。食べかけのサンドイッチが放置されている。]
██博士: 一切人が居ないのに、さっきまで食べていたような跡が残ってますね。D-1808を襲撃した際にここの人型実体が消滅したのでしょう。あちこちに荷物も残されてますし、消滅時は手ぶらで瞬間的に消えるということでしょうか。
D-1808: 私への襲撃で人が消滅したというのはどういうことなのでしょうか。
██博士: 詳しく申し上げることはできかねます。
D-1808: そうなんですか。とにかく、ここにいた人たちは消えているのですね。
██博士: 理解が早くて助かります。では引き続き探査をお願いします。
D-1808: 了解です。あれ、別の店に人の姿が見えますね。どうしましょうか。
██博士: でしたらその店に入り、街についてのインタビューを行ってください。質問内容や応答はこちらで指示します。
[D-1808がカフェを出て、イタリアンレストランらしき建物に入る。入り口近くには男女2人とベビーカー1台が確認できる。██博士がD-1808に指示を出し、D-1808はその通りに会話を始める。]
D-1808/██博士: 突然すみません、ちょっとお時間いいですか。
[男性と女性は何も答えず、スパゲッテイ・ボロネーゼを食べ続けている。]
D-1808/██博士: あのすみません、聞こえていますか。
D-1808/██博士: 実はこの街に来たばかりで、この街について色々教えていただきたいのですが。
女性: あら新入りの方なのね。
男性: やあ、よく来たね。
D-1808/██博士: ああ、良かったです。てっきり聞こえていないのかと。
女性: ええ聞こえてますよ。不必要な会話かと思って反応を避けていましたが。
D-1808/██博士: ではなぜ今反応を?
男性: 新しく来た方へはガイダンス目的の会話が一定程度許可されています。
女性: 最大で10分間のイレギュラーな会話が許可されますので、ご安心ください。
男性: まず初めに、我々の女王についてご存知ですか。
D-1808/██博士: いえ知りません。
[一枚の写真を取り出す。写真には未知の大きさのハチらしき生物が写っている。]
女性: この方が女王です。街の住人は皆女王が産んだ規律のもとで生活し、そのルールを体現しています。
D-1808/██博士: 規律を産むとはどういう意味でしょう。
男性: 本来ハチの女王は子を産み、彼らを統率します。しかし我らの女王はこの街とそのルールそのものを産み、必要な生殖と管理行為、防衛機能を我らに移しているのです。
女性: あら、やや過剰な説明ね。ガイダンスは最低限のものであることが求められていますよ。
男性: おっと、不必要に喋りすぎていましたね。このような詳細な説明はあの大きい建物に行けば聴くことができます。
D-1808/██博士: あの建物だけ大きいですが、何を目的とした場所なのでしょうか。
女性: あそこは新しく来られた方がここでの生活について学ぶ場です。
男性: その建物では何かしらの役割が与えられます。例えば、私達は日々食べ、眠り、交わるお役目を頂いていますから。
D-1808/██博士: 役目ですか。
女性: 例えば今私達はこの料理を美味しくいただくという役目に沿っていました。ボロネーゼの香りを感じ、アルデンテなスパゲッティの食感を感じるのです。[笑みを浮かべる。]我々は女王から自我と知性を賜り、何をすればより正しく、勤勉であるのかを悟りました。
男性: 規則的で無駄のない生き方の美しさに気づきました。
女性: 秩序に基づく繁栄の喜びを知りました。
男性: ほら、私達にもベイビーができたんです。
[女性がベビーカーを動かし、中がカメラに映る。ベビーカーには体長40cmほどの幼虫が乗っている。]
D-1808/██博士: これをあなたがたが出産したのですか。
女性: 第18320回目の一律出産で産みました。平均的なスピードで順調に成長していますよ。これも全て女王が産んだ完璧なルールのおかげですね。
D-1808/██博士: ご出産おめでとうございます。
男性: ありがとうございます。次の交尾日は1週間後ですので、あなたもすぐ繁栄に貢献できますよ。
女性: それではそろそろ会話を終了させてもいいでしょうか。これ以上のイレギュラーは他の予定に影響が出ますので。
D-1808/██博士: ええ。お忙しい中ありがとうごさいました。それでは。
[突如羽音のような音が防災無線で流され始める。男性と女性は立ち止まる。]
D-1808: 博士、何が起きているのでしょうか。
██博士: 事前の連絡が無くてすみません。活性化状態の街を調査するため、巣の近くにブタを1頭投入いたしました。
D-1808: そうですか。私はどうすればいいですか。
██博士: すぐに通信が切れると思われるので、それまでに街の状況を撮影してください。
D-1808: その後はどうしますか。
██博士: 自由に過ごしていただいて構いません。
D-1808: よく分かりませんが、わかりました。
██博士: こんなことを言うのは変ですが、あなたはDクラスの割には素直で助かりました。SCP-3995-JPでの新たな生活が良いものになりますように。では。
[羽音が徐々に大きくなっていき、空が赤黒く変色していく。カメラは男女及びベビーカーに向けられている。]
男性: 緊急事態ですね。労働力である私達はあくまで効率的に消費される必要があります。
女性: ええ、その通りだと考えられます。
男性: あなたは例の建物に行くのですか。
D-1808: 特に命令は受けていません。
女性: そういえばあなた、ずっと別の方と連絡を取り合っていたようですね。外部との連絡はイレギュラーな事態の原因になり得るため禁止されています。
D-1808: 申し訳ありません、命令が下されていたので。私はあくまで博士の命令に沿って動いていました。
男性: 素晴らしい従属的姿勢ですね。あなたは女王にとってよい働き手になりえるでしょう。
D-1808: はあ。
女性: しかしそれでは不十分ですね。
D-1808: どういうことでしょうか。
男性: 盲目的従属は思考放棄であり、知性に反しています。我々は常に考え、選択し、その結果として規則性を重んじているのです。
D-1808: あまりよく分かりません。
女性: そうですか、それは残念です。
男性: では失礼します。
[男性と女性が店を出る。十数歩程歩くと2人は上空を見上げ、垂直に飛び立った。]
[ベビーカーの幼虫が幼児の泣き声のような声を上げる。羽音は強まり続け、幼虫の声をかき消す。]
[D-1808が店を出て、上空にカメラを向ける。上空には20人程の人型実体が浮かんでいる。]
[羽音で周囲が小刻みに揺れだす。映像にブレは一切発生しない。]
[カメラがズームし、手を繋いだ男女をはっきりと捉える。映像にブレは一切発生しない。]
<録画終了>