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SCP-3996: 逸脱のフロンティア / The Tangential Frontier
Author: Tuftoの元アカウント。他の著作はこちら (本家サイトへのリンク)
アイテム番号: SCP-3996
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-3996の接触できない性質上、捕獲することはできません。代わりとして、研究基地1212がSCP-3996の行動領域の周囲に建設されています。
実験を目的とする特別な許可が無い限り、あらゆる人員のSCP-3996-1への侵入は禁止されています。
更新 2001/03/01: SCP-3996-1の追加探査がO5評議会により承認されました。異次元のアノマリーおよび異次元の探検の経験を考慮し、機動部隊ユプシロン-90 "アンダルシアの犬たち"が全ての探査を行います。
更新 2001/08/07: 実験は無期限に延期されています。
説明: SCP-3996は接触することが出来ない白い馬の群れです。この群れは12時間に1度、グレートベースン砂漠のネバダ側の同じ地点に出現します。SCP-3996実例は襲歩の速度 (40~48 km/h) で出現し、徐々に減速しながら100m進んだところで停止します。SCP-3996実例はそこから約10分間同じ場所に留まった後、向きを変えて最初の100mのルートを徐々に加速しながら戻り、その後消失します。
人間が意図的にSCP-3996の背に登り一般的な乗馬姿勢を取ろうと試みる場合に限り、SCP-3996との物理的な相互作用が可能です。アノマリーは自身に触れようとする人間の意図を区別する能力があると見られています。もしSCP-3996実例の消失時にSCP-3996の背中に乗り続けていた場合、その人物はSCP-3996とともに消失します。SCP-3996実例と個人は別の次元に再出現します。以後この別の次元をSCP-3996-1と呼称します。SCP-3996-1内部において、SCP-3996の行動サイクルは基底次元のそれと酷似しています。
SCP-3996-1の地形は、はじめは基底次元における低木帯と同一であるように見えますが、SCP-3996-1の入口地点から離れるにつれて地形は変化していき、加えて次元内にヒューム値の著しい変動が発生します。この変動は、次元内部における実在の本質に対し重大な変化を引き起こします。基底次元では機能しないであろう生体特徴を有する、種々の異常な有機体や人間以外の異常な生命体がSCP-3996-1に棲息するとされています。変動するヒューム値が極めて高いレベルに達することも多く、その変化率は非常に急峻です。そのためスクラントン現実錨の使用は、現実錨に高負荷がかかり、様々な故障・破損を招くことから推奨されません。
人間はSCP-3996-1の中で老化しませんが、基底次元に帰還した際には内部で過ごした期間だけ肉体が即座に老化します。SCP-3996-1の入口から東に約1kmの地点にはオアシスがあり、その周囲には過去200年間以内の様々な時間にSCP-3996を介してSCP-3996-1へ進入した人間たちによる小さな居住地が存在します。住民からは「ゴーストタウン」と呼称されるこの居住地には144人の人間が居住しており、この町は19世紀のアメリカ西部の町の景観を呈しています。住民は「ポテトロス」と呼ばれる動物を狩り暮らしています。この動物の外見上の特徴および習性はアメリカバイソン (Bison bison) である一方で、その内部組織はジャガイモ (ナス科の植物 Solanum tuberosum の塊茎) です。
町の住民は生活水準を向上させるために、様々な異常な道具の利用や異常な活動を行っています。例として、砂漠に棲息する発光するイカ種の死体を照明として利用する、動く土砂を用いた壁を開発して好ましくない侵入者への防衛策とする、歌うサボテン種を大衆娯楽として利用するといったものがあります。人類の日常生活におけるアノマリー利用を分析する上で安全なケーススタディとなるため、財団はゴーストタウンの住民との協力を決定しました。
SCP-3996およびSCP-3996-1が初めて財団に発見されたのは1998年のことで、SCP-2895の収容違反時に偶然遭遇しました。この時SCP-3996は死体を載せており、この死体はゴーストタウンの住民であり、長期間の居住後に基底次元への帰還を試みたものと考えられています。
以下はゴーストタウンの住民へのインタビューログです。
質問者: クロード・モンタギュー博士 (非現実部門) 。
回答者: サイラス・ハーリントン。ゴーストタウンの事実上の町長で長期居住者。町の創設者と報告されている。
日付: 2000/09/19
<ログ開始>
モンタギュー博士: こんにちは。
ハーリントン氏: こんにちは、お客人。何か御用で?
モンタギュー博士: 少し聞きたいことがあります。ほんの少し…この場所について。
ハーリントン氏: ゴーストタウン?それとも逸脱のフロンティア全体について?
モンタギュー博士: …逸脱のフロンティア?
ハーリントン氏: 何年か前にある男が思いついた名前でね。彼は…、その、私は「テレビジョン」というものが何か知らないのだが、そういう演劇ショーだとかいうものを好んでいた。その中では宇宙を「最後のフロンティア」と呼んでいたらしい。ならばここは少々脇に外れたフロンティアに違いあるまい。逸脱のフロンティアだ。
モンタギュー博士: なるほど。両方について知りたいです。この町はどのように建設されたのですか?
ハーリントン氏: フロンティアに作られるのと全く同じだ。富を求める人々と、彼らから小銭を稼ごうとする私のような他の人々によって作られた。私は89年に最初の集団に混じってここに来た。インディアンが皆保留地に連れていかれたこともあって、ダコタにはもうフロンティアは大して残っていなかった。私とグルのやつは奇妙な場所の話を耳にした。ネバダから下ったところに新しいフロンティアがあると。私たちは詳しい話を知っている男を探し出して、インスピレーションを求めている芸術家のような男だったな、それである日偶然あの馬たちに出くわした。
まあ数年は大変だった。騙されやすい東部の連中をここに来るよう説得しなければいけなかった。富が得られるなんて約束してな。老化のことはかなり早いうちに気づいていた。だから1901年を最後に私は戻っていない。妻はその時に連れてきた。子供たちは置いてきた。彼らの暮らしがあったから。
モンタギュー博士: どういった「富」が得られると人々に約束したのですか?
ハーリントン氏: その辺のものだよ。まあ、周りを見ると良い!この地は奇妙で悪魔めいたもので溢れている。ポタトロスはほんの始まりに過ぎない。未来を教えてくれる岩、何でも望む果物を実らせる木々、クモを食べるハエ、ありとあらゆるものがある。元の世界に持ち帰ることは出来ないから、私たちはここへ来た最初の数年はコレクターになっていた。あの頃は良かった。
モンタギュー博士: 何かあったのですか?
ハーリントン氏: 西の向こうの、全部の部族が居るところを知っているか?インディアンと東洋人の部族、この辺りがトラブルを起こそうとしていた。奴らが近づいてきて、私たちを襲い始めた。こちらも故郷から銃やらを追加で持ってきたが、奴らは…妙なものを持っていた。ライフルの先端からはレーザーが出る。弓矢は相手がどこに居るかを正確に知っていた。変わったエンジンと不気味な魔法が混ざった奇妙なものを私たちは止められなかった。
モンタギュー博士: あなたはご存命なようですが。
ハーリントン氏: そう、そこだ。奴らはこちらの物を燃やすことがなかったし、やたらと人を攻撃することもなかった。勘違いされないよう言っておくと、奴らは人殺しも相当していたが、あくまで奇妙な物を奪うためにやっていたんだ。我々が狩ってきた豊かで奇妙なもの全てをあいつらは奪い続けた。結局私たちは諦めた。物を取ってくるのを止めさせられて、全てを閉鎖した。しばらくこの場所はゴーストタウンになっていたよ。しっくり来る名前だと思ったからこの名前を使っている。
ともかく。それも長くは続かなかった。今は我々が栄えている。年を取らないだなんて噂を聞けば、誰でもこぞって移住したがるからな。我々は電気を手に入れて、20年代には小さな映画館も出来たし、冷蔵庫も手に入れた。人々の助けになるものをたくさん手に入れた。まあまだまだ困難は多い。こんなにイモばっかり食べるべきじゃないんだろうな。それでも、ここの生活は快適で、しかも永遠に続けられる。
モンタギュー博士: 帰ろうとは思わなかったのですか?元の世界に。
ハーリントン氏: 何のために?フロンティアは無くなって、インディアンさえ他と同じように同じ箱に押し込められてしまった。わが子は多分とうの昔に死んでるだろうし、その子供も私と知り合いたいとは思わないだろうさ。それに、不死というものは素晴らしいものだ。もし戻ろうとしても、老衰で死ぬだけだ。
モンタギュー博士: では、この地の他の場所について何か教えてもらえませんか?外へ向かって進むと何が起きるでしょうか?
ハーリントン氏: そうだな、件の遊牧民は西に居る。獰猛な悪魔みたいな奴らだが、最近は大抵私たちを放っている。しかも私たちより頑丈なもんだから、近づく気が起きない。後は、南にずっと下ったところに都市がある。全て灰色のコンクリートだ。あそこの都市民は心が冷え切っている。私たちのこともあまり好きではないらしい。たくさんの規則と規制と、寺院がある。あまり良い場所とは思えない。東には何もない。ただ退屈な砂漠がどこまでもあるだけだ。誘惑してくる悪魔や妖魔さえ居ない。
モンタギュー博士: 北側には?
ハーリントン氏: 北は……ただ暗く輝いている。太陽は光ではなく暗闇を放つ。影は白く、昼は夜だ。あそこには狼や蝙蝠が棲んでいて、弱い者を食らっている。あの辺りの人間は友好的だが、ちょっと変わっている。もし北に行こうと思うなら用心することだ。
モンタギュー博士: 分かりました。ありがとうございます。後でまた質問するかもしれません。
ハーリントン氏: おう、私はいつでもここにいるからな。またな。
<ログ終了>
補遺 1: 2001/03/07、SCP-3996-1の探査が機動部隊ユプシロン-90 "アンダルシアの犬たち" (以下、U90) によって開始されました。チームはU90-1 "記憶の固執" (隊長) 、U90-2 "燃えるキリン"、U90-3 "水面に映す白鳥"、U90-4 "瞑想するバラ"で構成され、西に進み発見したものを報告するよう指示されました。以下は遭遇した異常な事象や生命体を詳述した表です。
時刻 (時:分) |
SCP-3996からの距離 (km) |
観測された異常 |
00:45 |
2.1 km |
砂で構成されたフルーツコウモリの群れが突然砂漠から飛び立ち、北へ飛翔していった。飛んで行くにつれコウモリは発光し始め、U90の視界の端まで到達した頃には30000ルーメンで発光していた。 |
01:45 |
4.5 km |
その後景色は明らかに岩が多くなり、特にハリエニシダの茂みや芝といった植物を含むようになった。U90が2個の岩の間を通ると、岩から人の手の形状の突起が複数現れた。手は隊員を捕まえて、巨礫へと引きずろうと試みる。U90の全員が無傷で岩を通過した。手が消失し、代わりに人間の腕の形状の突出物が出現する。突出物の先端は人間の頭に似ており、顔の代わりにイタリアの悲劇の仮面が存在する。全ての仮面はU90を凝視し続け、U90が視界から外れるまで続いた。 |
03:59 |
5.8 km |
U90は岩場を抜け、広大な草原に到着した。大量の「ポタトロス」と、馬に乗った人型実体の一団が視界に入る。人型実体は各々弓矢やライフルで武装しており、ポタトロスを狩ろうとしている。何とか数体のポタトロスを狩ると、獲物を持って南へ進んでいった。注目すべき点として、彼らの衣装や行動様式は歴史上の多数の遊牧騎馬民族を彷彿とさせる。例えば、モンゴル人、ケレイト、ラコタ・スー族、キルギス人、ベドウィン、ベルベル人など。 |
06:29 |
8.1 km |
機動部隊は濁った沼地を進んでいた。突然地面と空全てが消失し、機動部隊は真っ暗な空間へと落ちる。空間は突然砂砂漠へと置換され、機動部隊は無傷で砂漠に落下した。計器は依然同じ場所にいることを示していた。簡略的な偵察の結果、置換されたのは沼地のみであるらしく、その他の周囲の地勢はそのままとなっていることがわかった。 |
06:48 |
8.3 km |
部隊は未だ砂砂漠に居る。溶けているように見える巨大な懐中時計が列をなして、U90-1 "記憶の固執"より100m離れたところに出現した。全ての時計はスペイン語の罵言を発しながらU90-1に向かって進行する。U90-1まで残り1mとなった時点で、時計は突然消失した。 |
SCP-3996-1に進入してから7時間後、SCP-3996に戻る決定がなされました。しかし、U90-3 "水面に映す白鳥"との連絡が、この決定の直後に途絶えました。ユプシロン-90の残りのメンバーでチームメイトの捜索が試みられましたが、彼女を発見することは出来ませんでした。帰還の決定がなされました。U90-3との連絡は復旧していません。
補遺 2: 2001/03/12、U90-3の映像および音声が突然数分間だけ復旧し、再び途絶えました。U90-3への連絡は失敗しています。以下はその記録で、全ての会話はU90-3の母語であるラコタ・スー語から翻訳されています。
<ログ開始>
U90-3は大雪原の中央に座り込んでいる。彼女は雪に周辺の地図を描いているようである。恐らく自身の位置をより正確に割り出すためだと思われる。遠くには木々が見え、風景はイングランドの農村部を想起させる。雪は降り続いている。
雪原の向こう側から人影が接近するのが見える。近づくにつれ、その人物が19世紀中頃のラコタ・スー族の狩猟服を着ていることが分かる。
U90-3: こ、こんにちは!どうも!
U90-3は立ち上がり人物へ向け手を振る。人物は接近を続け、U90-3から約3m手前で止まる。服装を除いて、その人物はU90-3と同一の外見を有している。U90-3は急に手を振るのを止め、数歩後ずさる。
不明: こんにちは。
U90-3: い、いったい何が―
不明: 慌てなくていい。私はあなた。他の世界から来ただけのね。ただのマーガレット・ブルー・ウルフよ。
U90-3: 完全には信用できないですね。
不明: 私がいたのは、少しだけ違う歴史を辿った世界。多少は同じことが起きているようだけれど。そういうのを前に見たことがある。
U90-3: あなた、前に見かけた遊牧民の一人ね?ジャガイモとバッファローが一緒になったアレを狩っていた?
不明: ええ。でもこの場所はあなたたちにとっても、私たちにとっても全く同じぐらいフロンティアなの。私たちも他の所から、2つの炎の間を通って、幽霊のようなゲルへ入ってここへ来た。
U90-3: 馬で来たみたいに……不気味ね。
不明: ええ、違う宇宙の自分自身を見つけるなんて全く落ち着かない。
U90-3: どうして、どうしてそんな多くの民族と一緒にいるの?
不明: 私の世界の遊牧民族が勝って、定住民族は、都市住民は負けた。奴らは都市を早々に放棄した。今はただの遺跡としてしか見られていない。地面に突き刺さっているバカでかいただの廃墟よ。
U90-3: でも、あなたたちは技術を持っていた。進んだ技術を。
不明: ああ、代わりに使い古された魔法を使っているの。
U90-3: …魔法を。
不明: ええ。おそらくあなたの世界にも魔法を使う人がいたんだと思う。ダエーバイトみたいな。私の世界にもかつてダエーバイトはいたけれど、早くに絶えてしまった。彼らの魔法は不発に終わった。まだ蛇の民族と類人猿は居るけれど。蛇の民は最高の騎手になる。
不明な人物は深くため息をつく。
不明: 状況は奇妙、この場所も奇妙ね。あなた方の小さい町の住民にとって、私たちはこの場所に固有の解決すべき問題。私たちにとって、あの住民たちは危険な侵入者。この場所は私たちどちらにとってもフロンティア。一方にとっての最前線はもう一方にしてみれば中心地でしかない。
U90-3: わかった、ねえ、私は興味ないから。今は他に気にしないといけないことがあるの。
不明: ええ、それは分かるわ。ストレスを感じている。
不明: はー!本当にあなたは私なんだ。大丈夫。聞いて。ここで私にできることはそう多くない、でも行ける場所がいくつかある。ここから大体5マイル北に進めば、開拓基地がある。そこであなたの身に着けている良いものを補給品と交換してもらえる。その店をやってるのはマイケルという名前の、あなたの世界からやってきた男。良いやつよ。
U90-3: その後は?
不明: その後は…あなた次第。街や北の民のことは知っているでしょう。彼らは受け入れてくれるでしょう。もし良ければ一緒に戻りましょうか。
U90-3: どうすれば家に帰れるの?
不明: あなたが来た道から。
U90-3: そんなの絶対分かりやしない。
不明: いいえ、そんなことはない。なんの手助けもなしに見つかる、とはいかないけれど、私には他に気にしないといけないことがあるの。ごめんなさい。そういうものなのよ。
U90-3: そう…私はここからずっと動けないのね。
不明: そんなに悪いことじゃないわ。ここでは年を取らないでしょう?そういうのが好きな人も居るでしょう?
U90-3: 私は違う。あなたの故郷にはマーサはいるの?
不明: ……ええ、その通り。分かった。しょうがない。私が知っているのはこの古い伝説だけ。北に行って、思っているよりもずっと北に進んで、闇の大地を抜ける。するとそこがすぐ世界の北の果てで、そこに…ある。伝説の詳細ははっきりしていない。私が知っているのは、それが他の場所へ、望む場所へ案内してくれることだけ。
U90-3: どうすれば間違いなく見つけられる?
不明: 北に向かって、一番遠い海岸線に向かって進めば、そこにある。どこにいようとも。必要なのは与えてくれるものを欲すること。
U90-3: 分かった。本当に他の方法はないのね?
不明: 永遠に砂漠や低木帯をさまよったり、手の岩の中に住んだりしたくない限りは。
U90-3: 分かった。ありがとう。
不明: 気にしないで。自分の面倒は自分で見ないといけないんだから、結局。
この時、U90-3の周囲の大気が爆発して欠片に変わったように見える。欠片は雪へと変わり、地面へ落ちる。不明な人物は姿を消している。
この時点で、通信が突如途絶える。
<ログ終了>
補遺 3: 2001/04/14、SCP-3996-1内部よりコンピュータ用ファイルが送信されました。ファイルにはU90-3によって書かれたメッセージが含まれていました。以下はその文書の複写です。
こんにちは。財団に届いていますか?私です。マーガレットです。
ごめんなさい…あれは古臭い悪いジョークでした。私にはふさわしくなかったですね。昼が夜で夜が昼な場所から抜け出せなくなって、悪い冗談でも言わないと正気がちょっと保てなかったんです。
このメッセージはU90-3 "水面に映す白鳥"が送っています。現在私はSCP-3996-3の探査を行っています。そして、SCP-3996の侵入口から北東へ進んだどこかで帰れなくなっています。今はこの小さい部族の元に身を寄せています。お互いの言葉は全く分からないものの、彼らは友好的です。彼らが完全に人間だという確信は無いですが、食事がとてもおいしいので私にはそれで充分です。
あれから2、3週間…もう少し経っているでしょうか。私は装備のほとんどを物々交換に出さざるを得ませんでした。それで沢山の生活必需品と、この小さな通信装置らしい機械を手に入れました。やっと動かせるようになった、と思います。東に戻ろうとしたのですが上手くいかなかったので、信頼出来る筋のアドバイスを受けて北へ向かいました。ここから進んだ先に帰還の手助けとなる、…少なくとも助けとなるかもしれないものがあるようです。
それで、書いた通り、ここの人々は良い人たちです。ですがここのあらゆるものは光を吸収します。彼らも例外ではありません。彼らは触ってみると確かに人間で、夜であればそのシルエットも見ることができます。ものはしっかり見えているようですが。少し変な感じです。多少は明るい物もあります。コウモリや狼のような光を放つもので、大体が攻撃的で敵対的です。ここの人たちはこういったものを狩ります。おそらく私を見て混乱したとは思うのですが、私が攻撃的でなかったので、信用してくれたのだと思います。加えて、私の武器は本当に狩りには便利で、それで私を受け入れたように思います。
私はいつも暗闇におびえていました。しかしこの暗闇中の暗闇では、すべてが随分と普通に思えます。ただ違う見方をしているような感じです。思うに北に進み続けることしかできないようです。もう一人の私が言っていたものを見つけるために。もし私が死んだら、まあ、故郷の皆は少なくともこの変な場所の良い感じの写真が手に入るでしょう。
マーサに愛していると伝えてください。彼女に記憶処理はしないで、何か理由をでっちあげてください。それから私の後に誰か送らないでください。この場所は私たちにとっては暗すぎるし、深すぎます。
補遺 4: 2001/08/07、U90-3の映像音声通信が突如1分間だけ復活しました。U90-3との連絡の試みは失敗しています。以来U90-3からの通信は受信していません。以下はそのログです。
<ログ開始>
U90-3は海に面した浜辺と思われる場所に立っている。光は正常であり、SCP-3996-1の北部地域において極めて変則的な場所であると考えられる。夕暮時で、大量の雲が空に広がっている。海は水の代わりに、どろどろとした黒い物質で構成されているように見える。SCP-3996-1の星の位置に基づくと、U90-3は真北を向いていると考えられる。
U90-3: 来てちょうだい。そこにいるのは分かっているの。
突然、カメラには様々な色をした光の球のようなものが一つ海から浮かび上がったように映る。映像中の光球の周囲が多少歪んでいる。このことから、このカメラではオブジェクトの全容を把握できないと考えられる。
U90-3: 到着した。もう一つのフロンティア。あなたに触れれば、私を望む場所へ連れて行ってくれる、そうね?
光の球から長い触手を1本、U90-3に向けて伸ばしているように見える。U90-3は触手に向かって海に入り歩き始める。
U90-3: …私たちと他の人。開拓地とその向こうの地平線。キャンプと遠くに見える煙。ここまでにあったのはそれだけ。もうみんなうんざり。私はただ…終わりのない世界が欲しい。
触手が伸びて、U90-3の手に触れる。
U90-3: 私を許して、マーサ。とても、とても疲れたの。とても暗い。
送信は突如途絶える。
<ログ終了>