SCP-3998-JP
評価: +48+x
blank.png
20221109_212249.jpg

SCP-3998-JP

アイテム番号: SCP-3998-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-3998-JPの存在する旧天本邸は財団フロント企業によって買収され、表向きは夫婦に偽装した財団職員2名が常駐します。新たにSCP-3998-JP内部から出現したSCP-3998-JP-Aは適宜回収と解析を行った後、必要と判断されたものに限り、専用の標準収容ロッカーに保管されます。

説明: SCP-3998-JPは岐阜県可児市の旧天本邸に設置された郵便受けです。材質は市販の類似品と同一のスチール製で、後述する異常性を除いて特筆すべき点は見当たりません。近隣住民の証言によると、SCP-3998-JPは旧天本邸の建築当初から存在しており、これまでに有意な異常は確認されていませんでした。

SCP-3998-JPは不定期に、不明な差出人の署名が為された書状 (以下、SCP-3998-JP-Aと表記)を出現させます。これらの文書に使用される媒体は多様であり、財団は現在までにパルプ紙、ダンボール紙、クラフト紙、発光特性を持つ隕鉄板、青肌の人皮などのSCP-3998-JP-Aを収容しています。

SCP-3998-JP-Aの内容に関し、当該文書群は幾つかの共通点を有しています。

  • 差出人は文中で異世界や並行宇宙の住人であることを暗に仄めかしており、得てして彼らの居住する領域は何らかの理由で滅亡の危機に瀕しているか、既に文明が崩壊しているものと受け取れる。
  • 差出人は、SCP-3998-JPの所有者である天本 次郎氏から程度の差はあれ物質的な援助を受けており、当該文書には同氏に対する追加支援の要請や、単純に謝意を述べるような文章が綴られている。
  • 全てのSCP-3998-JP-Aの執筆には日本語が使用されているか、或いは原文から翻訳されている。

その他、差出人が異なるSCP-3998-JP-Aの文中で使用される固有名詞に一部で符号する点があることなどから、当該文書群は単一の世界観を共有している別次元に由来すると思われる、それぞれの構成地域から個別に発送されているものと考えられます。

補遺1: SCP-3998-JP-Aの概要

以下は、旧天本邸の書斎から発見されたSCP-3998-JP-Aの内容を一部抜粋したものです。その他の文書類を含む、完全なリストの閲覧を希望する場合は、保管済みSCP-3998-JP-Aの一覧 を参照してください。

SCP-3998-JP-A-13:

同志、天本さま

あれから随分と経ちましたが、今も変わりなく、お元気にお過ごしでしょうか。何だか貴方からの手紙が恋しくなって、こうして久方振りに筆を取りました。

ときに、リーウェンの頬に残っていた引っ掻き傷は、貴方に送ってもらった塗り薬のお陰で、すっかり消えてなくなりました。彼女の育ての両親は、涙を流して喜んでいましたよ。ついで、彼らに貴方のことを話したら、「天本さんにも直接会ってお礼がしたい」と何度も頭を下げられました。

けれど、それは到底できない相談でしょうね。どうあっても私たちと貴方では、生きている世界が違うのですから。互いに便りで済ますぐらいが、理に折れない、身の丈にあった付き合い方なのだと思います。

それでも時折……心を弱めた私は後ろ手な感情に飲み込まれ、ついつい良くない方向にばかり物事を考え過ぎてしまうのです。悪い癖だと分かっていても、自分自身では止めようがない。

はて、私1人が背負った使命、重責、しがらみ、信念。いっそ何もかもを投げ出して、そちらに向かって飛び立てたなら、どれほど私の心は楽になれたのだろうか……なんて、とても疚しい感情を。

もっとも、初めからその選択に迷いなく手を伸ばせる女なら、とっくの昔に正気のままでは居られなかった、とも思うのですけれど。

そして、そんな私の葛藤など露知らず、今宵も東の大穴からは“緋色の破戒”の名のもとに、不埒な俗獣共が大挙して押し寄せてくるのでしょうね。

私は女王に与えられた灯台守の任を全うする為、リーウェンや王都に暮らす人々の明日を先陣切って迎えるために、我が身朽ち果てるまで戦い続けると誓いを立てました。そうした幾千幾万の獣狩りの果てに、必ずや穏やかな日常が訪れると信じてのことです。

ですが、いまだに明けない夜はなく、沈まぬ太陽すらも遥か泡沫の夢に終わった我らの戦争には、もしかしたら終わりなどないのかもしれません。

それでもいつか、全てに決着が付いたなら。

この手紙はきっと、私にとって本当の意味で、導きの光明になるのでしょう。

キュリオサのハイム、拝火灯台守

SCP-3998-JP-A-24:

よお、次回の支給品リストはこれだ。

ノートとボールペン×1
サバイバルナイフ×1
安定ヨウ素剤×20
ロキソニン錠×50
飲料水×20
カロリーメイト×20 (チーズ味以外なら、何でも)
赤ラーク×10
ライター用オイル缶×1
適当な子供用のおもちゃ×1
100プル

カルバートのエンベレ

P.S. この前の支給品に紛れてたって教えた写真、あるだろ。あれ、ウチの子供と嫁さんに見せてみたら腰抜かすほどビックリしてたわ。「本物の空って、こんなに青いんだね!」だとさ。ああいうの、また送ってくれるとアイツらも喜ぶと思う。そんで、俺の分はとびきり美人な商売女の宣材写真を何枚かで手を打とうじゃねぇか。

それじゃ、絶対に忘れんなよ?

SCP-3998-JP-A-46:

やっほ、マガリだよ。

だいぶ返事が遅れちゃったね、こっちはようやくバルノ平原の哨戒任務が終わったところ。
アマモトはどう? ちゃんとゴハンは食べられてる?

あたしの気のせいだったら悪いんだけど……なんか最近、元気なさげな感じだよね。アンタからの手紙を読んでいれば、言われなくても何となく分かるよ。
もしかして、いつも勝手でワガママなお願いばっかされるから、あたしからの手紙がうっとおしくなってきた、みたいな? ……なんてね。

でもさ、あたしだって何時までもアンタの助けを借りっぱなしってワケじゃないかんね!
ちょっと要領は悪いかもだけど、ちゃんと将来のことを考えて動いてるんだから! 何を隠そう、全部はアマモトの為に……だよ! 楽しみに待っててね!

ってことで、本題に入るんだけど……。あたしの進めてるスペシャルな計画のために、もう少しだけ“お金”が必要なんだよね……そこら辺の工面は大丈夫っぽい?
とりあえず、明後日までに最低でも150プルは必要だって司令官に言われちゃってさ。こりゃ参ったね。

そろそろ予備の抗獣化ワクチンも手に入れなきゃヤバそうな雰囲気だしさ、できれば300プルぐらいはドカッとまとめて送って欲しいかな。デキる男のアマモトなら、それぐらいは余裕で集められるでしょ?

多分だけど、アンタに手紙で何かを頼むのはこれで最後になると思うからさ、宜しくお願いね!

また尻尾が伸びたっぽい、アモルのマガリより

財団外宇宙支部は現在、これらのSCP-3998-JP-Aにて示唆されている異世界/平行次元、及び付随する知的生命体の特定に成功していません。


発見経緯: SCP-3998-JPは「天本邸の郵便受けから配達物が路上に溢れだしている」との住民の通報で駆け付けた、財団フィールドエージェントの警察官によって発見されました。このエージェントは異常の確認後ただちに現場を封鎖し、旧天本邸の捜索を行いました。しかし、当初に天本氏の姿は見当たらず、その身柄を確保することはできませんでした。

捜索された旧天本邸の内部は何者かに荒らされたような形跡こそ見付かりませんでしたが、大量の生活用品やコンビニ弁当の空容器、雑誌類が散乱した状態にありました。このような廃棄物の中でも特に空き缶の数が際立っており、茶の間部分や寝室ではこの空き缶入りのゴミ袋が天井付近まで積み重なっていました。天本氏が溜め込み症を患っていた、あるいは経済的に困窮していたのかについては調査中です。

また、天本氏の書斎にて発見されたノートパソコンは電源が入ったまま放置されており、デスクトップ上には天本氏が撮影したと思われるビデオメッセージが残されていました。この動画は天本氏が自殺を企図した後、自身の遺書代わりに用意したものであったと推測されています。

天本氏の書斎からは呪術的残滓や現実性の乱れは検出されていません。同氏の失踪は偶発的なイベントであったと思われ、その顛末にSCP-3998-JPの何らかの関与があったことは確実視されています。SCP-3998-JPが未知の異常性を有している可能性を念頭に置いて、天本氏の捜索は継続されます。

インシデント記録 3998-JP: 2022/07/04

SCP-3998-JPのナンバリングが正式に完了し、収容担当者が旧天本邸に配置された後で、新たなSCP-3998-JP-A(-56に指定)が発見されました。監視カメラの映像では、当該文書はSCP-3998-JP内部ではなく、天本氏の書斎の机上に直接出現しています。

これは通常のSCP-3998-JP活性化プロセスから明らかに逸脱していますが、以降同様の事例は報告されておらず、その出現場所も旧天本邸内で収まっている旨、喫緊の対応は不必要であるとして本件の調査は低優先度に設定されます。

SCP-3998-JP-A-56:

ハロー? ううむ、やっぱりこのムズムズした感じは懐かしい……のかも。こんな思いはもう2度と味わいたくない! なんて、ずっと考えていたけどさ、まさか初めに胸に来たのが懐かしさなんて、生まれついての負け犬みたいでちょっと笑える。

ほら、“クサくて読めたもんじゃない” だとか、“ここはラノベを投稿する場所じゃない” だとか。そういう良くない印象を、そっちの人は抱きがち。特にあたしみたいな存在は記号的な捻りも少ないから、"いかにも"なキャラ付けとか何とかで、けっこう生理的に受け付けないらしいんだよね。なんか、ごめんね。

もちろん、あの人たちにありありの悪意はなかったのかもしれないけど。何年か前に、あたしの産みの親がそういう類いの感想とか批判を浴びせられた時に感じた、消えない心のざわつきを未だに覚えてる。今、殆んどそれと同じだよ。

分かるよ、誰かに読まれる以上は仕方ないって思ってるでしょ? それも含めてアンタの仕事なんだろうけど、アマモト以外の人間があたしの文章を読んでる時に伝わる気持ち、あんまり心地の良いものじゃないんだ。そもそもの話、他人の手紙を許可なく覗き見するなんて、控えめに言って趣味が悪すぎると思わない?

いくらアンタらが探したって、そっちにはもうアマモトは居ないんだからさ。これ以上、無理してあたしらの手紙を読まないで良いよ。だってそんなの時間の無駄だし、財団?には世界を異常なモノから守る大切な使命があるんでしょ。少なくとも、何てことない郵便受けに何時までも構ってる暇はないはずだよ。

どうか、お願いね。

もうそっとしておいて欲しい、アモルのマガリより

SCP-3998-JP-A-56に於いて、"マガリ"を自称する未詳実体が財団に対し、このような文書を書き送る行為に及んだ意図は掴めていません。SCP-3998-JP-Aの差出人が我々の基底現実と財団の存在を認識しているという懸念について、不用意な対処はSCP-3998-JPの不随意的な収容違反に直結するとして、当該実体の動向を注視する共に対応策の検討が行われています。


補遺2: GoI-3892 “葦の輪” 調査ログ

20221212_181309.jpg

泉谷公園にて、“葦の輪”の寄り合いの様子。

旧天本邸で発見されたビデオメッセージやSCP-3998-JP-Aの内容から、天本氏は何らかの手段を利用して次元間の物質転送を行っていたとする仮説が立てられました。これを受けて、SCP-3998-JPの転移ポータルとしての双方向性の有無を検証する為、財団製のGPS発信機を同封した封筒にSCP-3998-JP-Aから取得した差出人の氏名を記入したうえで、SCP-3998-JP内部に投函しました。

結果として、投函された封筒は瞬時に消失し、その位置情報は全て日本国の東京都三鷹市に所在する泉谷公園を指し示していました。泉谷公園はGoI-3892 “葦の輪”の関東圏最大のコミュニティが存在する場所として財団の低脅威度監視対象となっており、よってSCP-3998-JPが彼らの使用する数々の異常物品に由来している可能性が高いと判断されました。

同地域の“葦の輪”に監視員として潜入するエージェント・又吉は、アクティブなGPS信号の詳細な発信源を突き止め、可能ならばSCP-3998-JPに関連すると思われる人物を発見して簡易的なインタビューを行う任務を通達され、これを問題なく遂行しました。

インタビュー記録 3998-JP: 2022/08/27

対象: 三宅 明良 (以下、三宅氏)

インタビュアー: エージェント・又吉 (以下、Agt.又吉)

付記: 三宅氏は26歳の日本人男性であり、 “葦の輪”に加入したのは一昨年の春頃である。長崎県平戸市の出身で両親や兄弟は健在だが、大学進学の為に上京した三宅氏からの連絡はここ数年途絶えていた。


<抜粋開始>

三宅氏は空き缶が積まれた手押し台車を引いて、自身の寝床に帰ってくる。

Agt.又吉: アキくん、ちょっと良いかい?

三宅氏: あっと……又吉さんですか、珍しいですね。そっちの方から話しかけてくるなんて。

Agt.又吉: いやなに、少し気になることがあってね。すぐに終わるから。

三宅氏: はあ……それなら良いですけど。

三宅氏はAgt.又吉に怪訝な表情を向けたまま、運んできた空き缶を次々と宅配ボックスの中に放り投げている。

Agt.又吉: いやね、最近なんだか羽振りが良いみたいじゃない。実はさっき、岡村の爺さんから聞いたんだけど。アキくんがたんまりと食い物とかタバコを抱えているのを見たってさ。

三宅氏: そ、それは。

Agt.又吉: 駄目だよね、アキくん。神様からの授かり物は、集落の仲間に報告して共有するのが決まりでしょうに。長老達にバレちゃったら、終わりだよ?

三宅氏: [吃り声] そんな、人聞きの悪い……まったくの誤解ですよ、又吉さん。あの食料もタバコも、親切な人に恵んで貰ったんですよ。

Agt.又吉: ほう、誰にだい?

三宅氏: それが、僕も実際に会ったことはないんですけど……時々、この宅配ボックスに入っているんです。朝起きた時とか、外出から帰ってきた時とかに。

Agt.又吉: じゃあさ、その宅配ボックスが神様からの授かり物なんじゃないの? 無限に食い物が涌き出てくる魔法の箱ってね。

三宅氏: まさか! これはまだマトモに賃貸で暮らしてた頃から使っている、お気に入りですよ。僕にとっては、ここに来た時の嫁入り道具みたいなもんです。授かり物なんかじゃありませんって。

Agt.又吉: ふーん、成る程ね。で、アキくんにはその、あしながおじさんに心当たりはあるの?

三宅氏: え、そうですね……その贈り物と一緒に、何枚か手紙の入っていることがありました。どうも、送り主は天本さんっていう男性の方みたいです。手紙の中身は“貴方の人生は辛くて大変だろうけど、これからも頑張って生き抜いてほしい”、みたいな内容で。[沈黙] でも、あれは……。

三宅氏は突然空き缶を投げる動きを止め、しばし考え込む。

Agt.又吉: どうしたの? 何か、気になることでもあるのかい。

三宅氏: いや……少し不思議なことがあって。その手紙の宛先のところに書いてある名前、僕が昔に書いていたSSのキャラクターと同じなんです。

Agt.又吉: すまん、SSって?

三宅氏: ショートショート、平たく言えば短編小説みたいなもんですね。実は僕……こうなる前はラノベ作家を目指していて、ちょっとしたWeb小説サイトにも投稿してたんですよ。そのサイト、評価の低い作品はスタッフに問答無用で削除される厳しいとこで。

[沈黙]

三宅氏: それで……手紙に書いてあったのは、僕の処女作に登場するキャラクターの名前でした。投稿した後、速攻でスタッフから低評価削除の通知を受けてしまった、“星なき空の身許にあって”のヒロインとか相棒キャラの名前です。

Agt.又吉: おお、なんだか話が面白くなってきたね。じゃあその天本さんってのが、アキくんの小説のファンだったりして。どうやってか、君のことを知って密かに支援してたとか。

三宅氏: [笑い声] あり得ませんよ。あの作品は僕が筆を折る最初の切っ掛けになった程、サイトメンバーの人たちにボロクソ言われましたし。それでも自分には才能が無いなんてこと、絶対に認めたくはなくて、その後も色んな出版社の新人賞に応募したり結構頑張ったんですけど、てんでダメで……ははは。通っていた大学を中退してまで、それなりに人生をかけて書いていたんですけどね。

Agt.又吉: あらら。そんで何もかも上手く行かなくなって、それから全部を諦めちゃって、とうとうアキくんはこの吹き溜まりに流れ着いたって訳か。

三宅氏: ちょっと! 流石にあんまりな言い方ですよ、又吉さん。いや……だいたいは当たってますけどね。[沈黙] でも……やっぱり僕は、めちゃくちゃ嬉しかったな。

Agt.又吉: ん、なにが嬉しかったって?

三宅氏:星なき空の身許にあって”は、他のサイトメンバーに否定されて、僕自身も完全に否定した作品でした。スタッフの手で低評価削除される前に、自分で下書きごと消したんです。それは僕が作家を目指す過程の中で、大きな汚点になると思っていたから。あれから時間が経って、あの作品のことなんて自分の記憶の中からも完全に消えたと思ってました。……天本さんの手紙を読むまでは。

三宅氏は宅配ボックスに1つ、空き缶を投げ入れる。

三宅氏: 結局は生きていたんですよね、彼らは。ハイムもエンベレもマガリも。僕のもとから消えちゃいなかった。さっさと見切りをつけた筈の“星なき空の身許にあって”は、どういう訳か巡りめぐって天本さんの人生に少なからず彩りを与えていた。それってまさに、作家冥利に尽きるってもんです。又吉さんも、そう思いませんか?

Agt.又吉: 分からん、そういうもんかね。

三宅氏: そういうもんですよ! 僕なんか、「もう1回頑張ってみるか」って、久しぶりに執筆意欲が湧いてきてるんですから。それで……これはまだ他の誰にも言って無いんですけど、いい機会だから“葦の輪”からも卒業しようか考えてたりして。

Agt.又吉: そりゃ良いことだ。アキくんは、まだ若い。こんなとこで腐っていくには早すぎるからな。

三宅氏: はい、ありがとうございます! でも当分は、この空き缶集めの方をやらなきゃならないんで。又吉さんにもお世話に、その……宅配ボックスとか手紙のこと、長老達には秘密にしといてくださいね?

Agt.又吉: そうだな、今回はおじさんの顔に免じて貸しにしといてやるよ。っと、最後に1つだけ聞いてもいいか?

三宅氏: 何ですか?

Agt.又吉: なんでわざわざ、儲けの少ない空き缶集めなんてやってんだい。天本さんからの贈り物があるのなら、稼ぎなんて他にやりようがあるだろう。てか、さっきからアキくんがやってるそれ。なんで宅配ボックスが空き缶で一杯にならないんだ?

三宅氏: ああ、そのことですか。天本さんから先月届いた手紙に書いてあったんです。その手紙、初めて宛先が僕の名前になっていて、「手が空いた時で良いから、どうか宅配ボックスに空き缶を入れておいて欲しい」と。まあ、これまで天本さんに受けた恩がありますからね。お安いご用です。

Agt.又吉: はあ? なんだそりゃ。ホームレスでもない天本さんが、空き缶なんて何に使うんだ?

三宅氏は笑いながら、最後の空き缶を宅配ボックスに投げ入れる。

三宅氏: 空き缶そのものじゃなくて、それに付いてるプルタブが必要みたいなんです。どうやら、天本さんの居るところでは通貨代わりになってるみたいで。[笑い声] そんなの、ちょっと羨ましいですよね。

<抜粋終了>

このインタビューの実施後、Agt.又吉は三宅氏に対し、天本氏から送付された手紙を引き渡すよう要求しましたが頑なに拒否されました。Agt.又吉の現場判断により、“葦の輪”での諜報活動の継続に支障を来す可能性があるとして、手紙の回収は断念しました。同様の理由により、現時点では三宅氏と宅配ボックスは収容対象とはせず、“葦の輪”コミュニティ内で財団の暫定的な監視下に置かれます。

三宅氏が執筆したとされる“星なき空の身許にあって”の文書データは、その痕跡も含めて未だに発見されていません。当該作品の投稿に使用されたWeb小説サイト自体は実在していましたが、複数人のサイトメンバーに対するフォーラム上での聞き込み調査では、“星なき空の身許にあって”の存在事実を証明することはできませんでした。特筆すべき点として、これらの調査結果には何らかの異常事象が介在している訳ではなく、インターネット上で散見される同様の低品質な文学作品にも当て嵌まる、至って正常な仕儀であると判断されています。

補遺3: 2022/09/12、SCP-3998-JPから1通のSCP-3998-JP-A (-57に指定)が出現しました。当該文書は、失踪した天本氏の足跡を辿るうえで重要な手掛かりとなる可能性があります。本事案以降、類似する内容の記述された文書が出現する事例は発生していません。SCP-3998-JP-A-57を送付した未詳実体とのSCP-3998-JPを介した交渉の可否については、財団上層部とSCP-3998-JP研究チームのあいだで協議が進行しています。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。