SCP-4002-JP
アイテム番号: SCP-4002-JP
オブジェクトクラス: Keter Tiamat
特別収容プロトコル: SCP-001イベントの発生は誤報です。プロトコル-リリーの発効に伴い解放されたオブジェクトを再収容する必要があります。
説明: SCP-4002-JPは、生命の生存可能な地表の90%に自発的に出現した、花弁を有する草本の総称です。出現時、全世界的に気候が安定し、大気汚染の急速な改善を認めました。SCP-4002-JPは「24時間後に地球上の全ての命に死が訪れる」と認識する作用をもつ異常ミームのベクターであると考えられます。曝露者には暴力性の著しい減退、死に対する受容が見られた他、発生するK-クラスシナリオについての断片的な予知がなされました。予知の内容は確認された全ての曝露者で一致しており、「動植物や微生物などを含む全ての生命が瞬時に死亡し活動を停止する」というものでした。ただし、現在に至るまでこれにあたるイベントは発生していません。
財団は他次元財団やその他同様の組織との通信により収集された情報から当該事象の発生を予見し、SCP-001のナンバーを付していました。財団はSCP-001イベントの発生時点でKクラスシナリオの発生が不可避であるものと結論づけており、その特別収容プロトコル(通称:プロトコル-リリー)は財団の終了に際する人道的な解雇措置を中心としたものでした。
プロトコル-リリーの発効により、財団は収容中のオブジェクトおよび利用可能な物的、人的資源の大半を実質的に失いました。非攻撃的な有知性オブジェクトは収容下から解放され、それ以外の破壊可能な全てのオブジェクトは破壊されました。全ての財団職員は名誉退職となっており、財団施設の運営はAIADシステムに引き継がれています。
SCP-4002-JPの出現から24時間が経過して以降、拡散していた世界滅亡を示唆する異常ミームの影響は減退しているものと考えられますが、放鳥されたSCP-514の影響が重複していることもあり充分な検証には至っていません。
SCP-4002-JPがSCP-001と同一の事象なのか、別の要因で類似した事象が発生したものなのかは不明です。
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経緯: 私はかつてSCP-650-JPとして収容されていた人型オブジェクトです。異常性は、すでに死亡している私自身の死体を、半ば無意識の現実改変によってさも生きているかのように動かし続けるというものです。
財団の皆様からSCP-001やプロトコル-リリーの発効についてお話を伺い、解放されることとなった時、私には皆様が報告するところの、漠然とした死の予感であるとか、暴力性の大幅な低下は感じられませんでした。自分の脳を操作して神経伝達パターンをそのような状態に調整することはできましたが、それはいつも通りの空虚な模倣に過ぎませんでした。解放されたからと言って行くあてもその希望もなく、途方に暮れる他ありませんでした。
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気がつくと、目の前に外国人の男性が座っていました。
彼は流暢な日本語で、私が突然出現したこと、ここが財団本部のサイト-17であることを教えてくれました。財団に初めて保護されたあの時のように、無意識のうちに転移してしまったようです。一瞬血の気が引きましたが、もはやそれを咎める由もなくなったことを思い出しました。
驚いたことに、彼は私を知っているようでした。その口調は親しげでしたが、どこか冷たい印象を受けました。それはあの、半ば諦めたような和やかさとは一線を画していました。
彼の周囲とおそらくは彼の通った跡であろう範囲では、花という花が枯れ落ちていました。彼はオブジェクトナンバー SCP-073、“カイン”を名乗り、インタビューでも始めようか、と冗談めかして宣言しました。
<録音開始>
SCP-650-JP: えっと…録音までするんですか?
カイン: 何かの役に立つかもしれないじゃないか。
SCP-650-JP: どうでしょうか…。というか、どうしてインタビューを?
カイン: 財団でそのたぐいの文書を ーその中には君の報告書もあったがー たくさん読まされたことがあってね。それで財団職員の真似事でもしてみたくなったんだ。我々も晴れて自由の身だろう?ちょっとした気晴らしになるかもしれないよ。
SCP-650-JP: そうですか…。しかし財団本部は意外と閑散としていますね。いつもこうなんですか?
カイン: 僕がインタビュアー役をするつもりだったんだけどな。まあいい、お答えしよう。みんな帰ったんだ。最期を家族と過ごすためだろう。無理もない。日本支部は違うのかね?
SCP-650-JP: 日本支部は…どうでしょうか。私がいた区域は開放対象のオブジェクトが多いところだったので。最後の仕事を片付けるって職員さんもいて。ここまで閑散とするってことは……。
カイン: 世界最期の日にまで仕事を?日本人らしいといえば日本人らしい。それで、君自身はどうなんだい?こんな得体の知れない義手のおじさんのところにわざわざテレポートしてこなくても、最期に会いたい人がいただろうに。
SCP-650-JP: 家族ですか。会いにいくことも考えましたが……。私はあの時交通事故で死亡した。それが彼女たちにとっての現実に他なりません。そこへ私が出て行ったところで一体何になるでしょうか。現実を歪曲するのはもうたくさんです。
カイン: そうか、酷なことを聞いてしまったな。そうすると、どうしてここに飛んできたのか、なお気になるところだが。差し支え無ければ心当たりを聞いても?
SCP-650-JP: 転移現象は不随意だったのでなんとも…。ひとつ思い当たることといえばカインさん。あなたは001イベントの影響を免れているのではないですか?
カイン: ……。分かるかね。
SCP-650-JP: 表情を見れば分かりますよ。それに、先程あなたはインタビューをするときに、気晴らし、とおっしゃいました。でも、これまでお会いした、SCP-001の影響下にある方たちはどこか晴れやかで、つきものの落ちたような表情をしていたんです。彼らから「気晴らし」という言葉が出てくるでしょうか。
カイン: まあ、悪くない推理だと言っておこう。……ある種の異常性でね。僕の周りでは草木が生きられないことになっている。SCP-001で咲いた花も例外じゃないらしい。理由があるとすればそのせいだろう。それで……。君も何らかの理由で影響を免れたと見えるね?
SCP-650-JP: 私の異常性についてはご存じですね?あくまで私はすでに死んでいるんです。動かされているだけの死体に過ぎない私は、「死の宣告」などという親切をかけるような相手ではない。それが理由なんだと思います。
カイン: ずいぶんと悲観的なものの考え方をするね。
SCP-650-JP: そうでしょうか。世界の終末を知らされたら、悲観するのが自然でしょう?それに、不自然なほど和やかなサイト内で、その後に味わうであろう孤独について考えずにはいられなかったんです。
カイン: その後?孤独なのは今だろう?それを紛らわすために境遇の似た僕のところまで飛んできた、そういう話の流れじゃなかったのかね?
SCP-650-JP: 転移してきた理由は……。正確なところは私にもわかりません。その後と言ったのは、実感はできませんが、すでに死んでいる私はその時が来ても死ぬことができないかもしれない。…そう考えているからです。
[沈黙]
カイン: 「すでに死んでいる存在」……か。
SCP-650-JP: 何か……気掛かりでも?
カイン: いや、何でもない、今のは忘れて欲しい…。どのみちもうできることはないんだ。
それより、君に協力させて欲しい。どんなトラブルに見舞われるかわからないだろう。残された時間でどれだけやれるかはわからないが。
SCP-650-JP: わかりました、詮索はしません。ただ、貴重な残り時間を本当に私などのために使うつもりなんですか?
カイン: 他意はないよ。ごく個人的な感傷に勝手に君を重ね合わせたのは僕の方だ。君にも終わりがくるのがベストなのかもしれないが、心ばかりの餞別になる。役立てて欲しい。
<録音終了>
人型オブジェクトとしては極めて例外的ながら、“カイン”は報告書のバックアップ業務に従事していました。彼はその時の経験と、退職にあたって自身に対する記憶処理を選択した職員のIDを利用して、安全に閲覧できる財団報告書のアーカイブを構築しました。
クリアランス違反についてはまあ、どうか目を瞑って欲しい。アーカイブは読んでみるだけでけっこう興味深いものになるだろうし、何かの備えにもなるだろうと思って構築したが、実際のところこれは正解だった。これがなければ僕自身がデータバンクとして忙殺されたかもしれないからね。-カイン
SCiPnetの更新権限は全職員の名誉退職に伴いAIADシステムに移行されていましたが、一部未使用の領域についてはシステムによる管理外となっていました。新設が予定されていたシリーズJP-Vのスロットの更新権限を確保しました。
こちらに関してはほんのオマケのつもりだったんだ。彼がなにかSCiPと呼べるものに出会うかもしれないし、さもなくば日記帳にでも使ってくれればいいと。さすがにこういうことになるとまでは思わなかったがね。-カイン
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SCP-001の発生が誤報であることに私たちが気づいた時には、プロトコル-リリーの発効から実に25時間が経過していました。それほどまでに何も起こらなかったというのは、きっと皆様もご存じのところでしょう。
SCiPnetの大半の領域を管理するAIADシステムは、地球上の全生命が終了済であると認識しているものと見られます。管理領域の多くはすでにAIによって最適化されたトークン言語に置換されており、これを解読、訂正する試みには成功していません。この段階で我々が利用可能な領域は“カイン”の構築したアーカイブおよびシリーズJP-Vのみとなりました。
SCP-001の発生から24時間以上経過したにもかかわらずKクラスシナリオが発生していないことから、当該事象が報告済みのSCP-001、およびそれに関連して想定された自体を逸脱していると判断し、改めてSCP-4002-JPに再指定しました。
以後、我々のほかにも当ページにアクセス可能な人員が存在していることを期待し、ここを暫定的な連絡経路として活用します。
我々は財団機能の復旧を目的として活動しています。行動可能かつその意思のある人員は当ページへの追記をお願いします。
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追記: こちらはSCP-059-JPの担当主任の古藤です。オブジェクトの生存は確認済みです。
当該オブジェクトの異常性は自身より上方に位置する生物に鉛直下向き方向の強い応力を与えるというものですが、この性質はイベントの前後で変化していません。ただ、アーカイブされた版の報告書は収容当時のもので、情報が古くなっていることに留意してください。現在、SCP-059-JPは18歳となっています。
プロトコル-リリーの発効に伴い収容施設の職員は解散し、ほとんどの職員と連絡が取れなくなっています。施設内の人員は報告者とSCP-059-JPのみです。一般社会の様相はイベント発生前とほとんど変わりませんが、暴力性は著しく低下しているようです。放鳥されたSCP-514が随所で観測されており、SCP-4002-JPの影響がどれだけ残存しているかは不明です。
現在のところ当方の収容施設の資源は差し迫った危機には瀕していませんが、SCP-059-JPの中長期的な安定した保護を継続するには財団の再興が必須になると考えています。他の財団施設からの追記は未だないようですがコンタクトの取れた対象などありますでしょうか。
こちらはSCP-650-JPです。ご報告に感謝致します。当該ページの他にも財団職員とコンタクトを取る手段を試みましたが、プロトコル-リリーの発効から4日が経過した現在においてもコンタクトが取れたのは貴方が初めてです。この点について“カイン”とも議論をしているところですが、ここまで連絡が取れないのはなんらかの異常事案の影響を疑う必要がありそうです。
SCP-4002-JPの影響を疑うのが順当だとは思うのですが、私も“カイン”もその影響を受けていないので直接の検証ができていなかったのです。ご意見を伺ってもよろしいでしょうか。
以下は、状況の共有を目的としてSCP-073およびSCP-650-JPの所在するサイト-17と古藤主任およびSCP-059-JPの所在する収容施設との間で行われた通信記録の抜粋です。ちなみに、当該の通信ではSCP-059-JPは彼女の本名である“ナオ”と呼称されています。
<再生開始>
古藤主任: 早速本題に入りますが。SCP-4002-JPは少なからず現況に関与していると思います。プロトコル-リリーの発効時、死を受け入れるとともに、財団の解体に関しても諦念に近い感覚があったことを覚えています。
このような受容は逆境に立ち向かう意思とは対極に位置するものであると言ってもいいでしょう。その影響にあってなお、「人類が光の中で暮らす間、暗闇の中に立って戦う」などということに戻ることができるでしょうか。
SCP-650-JP: やはり、世界的に蔓延したSCP-4002-JPの影響が副次的に財団の解体をも受容させている、と仮定できましょうか。
そうだとして、あなた方が影響を免れ、他の職員が未だ影響から脱していない理由について心あたりはおありでしょうか。
古藤主任: 他のサイトとの相違点を考えて、 SCP-4002-JPの影響を脱する条件があるとするならおそらくはある程度の期間SCP-514に曝露しないこと、だと思います。
我々がSCP-514の影響を受けなかったのはー
SCP-059-JP-“ナオ”: わたしのせいだと思います。わたしの病気、ていうか異常性で、わたしより上を飛ぶハトは収容施設に近づけなかったんです。
それに、異常性の中心にいたわたしよりも、収容施設の外に出てハトを見ることのあった先生の方が、いやえっと、“古藤主任”の方が長く影響を受けていました。
SCP-650-JP: SCP-514の効果がすでに世界中に蔓延していると考えるのはいささかタイミングが早いのではないでしょうか?
古藤主任: 正確な要因については分からない、という他ありません。我々が関知できていないだけで財団の復旧を目指す一団が他に活動している可能性も否定できませんし、コンタクトが取れない要因の全てを説明できるものでもありません。ただ、SCP-514の影響範囲についてはひとつ懸念がありまして。
放鳥に際してSCP-2403-JPに協力を依頼した記録が日本支部のアーカイブデータに残っていたんです。
カイン: ああ…。あいつか…。
ナオ: SCP-2403-JP?先生ー。2403-JPってなんでしたっけ?
古藤主任: さっき教えたはずですよ。ナオ。外来種ぶん投げおじさんって渾名してたでしょう?
ナオ: あー、アイツかぁ…。
カイン: まあその、「外来種ぶん投げおじさん」に関しては、接触さえできれば話をつけることができる。実は僕からしたらまるっきり話の通じない相手ってわけでもないんだ。
それとは別に確認させてほしいんだが。たしかSCP-059-JPの効果範囲は半径50mくらいじゃなかったかな?500m先まで届くSCP-514の効果から免れるには不十分じゃないか。
古藤主任: ……それについては。最もな疑問だと思います。ただ、SCP-059-JPの保護にかかわる内容にもなりますので、後程テキストベースでの回答をー
ナオ: 先生。もういいの。わたしのことは気にしないで?
……私の病気は悪くなってる。そういうことなんでしょ?
[沈黙]
古藤主任:現在SCP-059-JPの効果範囲は、弱い応力を受ける半径であればおよそ700mに達し、今後の……影響範囲の拡大も予想されます。中長期的な保護の維持には財団の復旧が必須であると言えます。
……ごめんね、私たち、ずっとナオを騙してた。
[沈黙]
SCP-650-JP: 主任、顔を上げてください。少なくとも私にとっては、そしておそらく私たちのような人型アノマリーには、財団が必要だったし、これからも必要なんだと思います。結局のところはね。
……それより。SCP-514を再収容することによって、財団職員の再雇用が進むかもしれない、そう考えましょうよ!
ナオ: おじさんの言う通りだよ!明るい面を見なくちゃ。
SCP-650-JP: おじさん!?
古藤主任: くすっ……そうですね。いずれにせよ、財団の理念を鑑みてもSCP-514が再収容の対象であることは論をまたないことですし。
それと、ナオはこれが終わったらお説教です。口の利き方というものをイチから叩き直さなきゃいけませんからね。
ナオ: えー先生だって噴き出してたじゃん!
[中略]
カイン: 作戦の草案を送信しておいたよ。確認してもらいたい。非攻撃的な鎮圧手段が必要になるだろうから、サイト-17から作戦に必要な物資を輸送しようと思っている。これにあたって、そちらの残存物資の状況を確認させてほしい。こちらのサイトから不足分を都合することもできるかもしれないから可能であれば協力してほしい。
古藤主任: お申し出に感謝します。でも、輸送が可能なんですか?一般社会はSCP-514の影響にあってもほとんど平常運転なんですよ?現在の我々に輸送管制を掌握するだけの社会的リソースは残存していないはずですが。
カイン: そりゃあもちろん…。SCP-650-JPくん、君の素敵な「テレポート能力」を役立てる良い機会じゃないか。
SCP-650-JP: 私ですか!?ちょっと待ってください。異常性の行使は禁止されています。
カイン: なるほどもっともなご意見だが。君はどうやってここに来たんだったっけ?「もはやそれを咎める由もなくなった」んだろう?違うかい?
SCP-650-JP: それは。
カイン: それに。いずれにしても作戦には我々全員で当たらなければならない。厳密には非生物である君だったら、SCP-059-JPの影響を受けないと想定できる。貴重な戦力になると期待しているよ。
古藤主任: そういうことであれば、私からもお願いします。ナオにはそのそばに立つことのできる大人が必要だと、ずっと考えていたんです。
SCP-650-JP: ……。分かりました。私も腹を括ることにします。
カイン: 決まりだね。ともかく、我らが「財団」の活動原理は当面のあいだ、確保、収容、保護 Secure, Contain, Protectから鳩を探して捕まえよう to Seek and Capture the Pigeonsに変更、というわけだ。
[沈黙]
SCP-650-JP: ……カインさん、その、なんというか。英語のジョークを日本語で言っても……。
<再生終了>
SCP-514は兵器やそれに準じる物品を破壊する異常性をもつため、その収容に攻撃的な鎮圧手段は使用できません。一方、SCP-059-JPの異常性はSCP-514に有効であると確認されています。
これらを踏まえ、穀物などの物資をSCP-059-JPの予備収容施設の柵内に散布することでSCP-514を誘引したうえで、SCP-059-JPを中心の収容塔へ移送し、その頭身以上の高さへの飛翔を妨害することで収容を成立させる作戦が立案、実行されました。以下はその記録です。
第一次SCP-514収容作戦記録
[ログ開始]
古藤主任:こちら古藤。通信での現場指揮を担当します。
“カイン”: SCP-073、カイン。サイト-17からの遠隔通話だから反応にラグが発生することを容赦してほしい。
SCP-650-JP: SCP-650-JP。有事の際の護衛、バックアップを任務として作戦行動に同行します。
ナオ: えっと、SCP-059-JP、ナオです。異常性を利用して対象の確保を行います。
SCP-650-JP: はい。よくできました。では作戦行動を開始しましょう。
……ナオさん?私の顔に何かついてますか?
ナオ: あっ、ごめんなさい。自分より目線の高い人に会うことがなかったから。つい。
SCP-650-JP: 私は正確には動いているだけの死体で、生きてはいないんです。だから生物に影響を与える異常性の影響を受けないんだと思います。気味悪がらせたなら謝らせてください。
ナオ: いや、そんなつもりじゃなくって。普通の子たちは大人と話すときこんな感じなのかな、って。えっと、”SCP-650-JP”…さん、って…。
SCP-650-JP: さてはあのあと古藤主任に油を搾られましたね?「おじさん」でいいんですよ。
ナオ: そうじゃなくて、本当の名前で呼びたいんです。先生もわたしのこと名前で呼んでくれるようになったんですよ。せっかく、収容下から「解放」されたからって!
SCP-650-JP: …ごめんなさい。でも私はあくまで“SCP-650-JP”でないといけない。私には本当の名前などあってはならない。
ナオ: ……聞いちゃいけないことでしたか?すいませんでした。
SCP-650-JP: 謝るべきなのは私のほうです。大人ってね、決して強くなんてないし、ずっと我が儘でもあるんですよ。どうか許してくださいね。
一行は収容施設内に進入する。内部ではSCP-514がひしめき散布された穀物をついばんでいる。
ナオ: うえぇ、ハトがいっぱいだ……。
SCP-650-JP: 鳩、苦手なんですか?
ナオ: うん……。本に出てくる鳥は好きだけど、わたしは、その、潰れたの…を見ることの方が多くて、実物を見るのはあんまり、なんです。
SCP-650-JP: …明るい話をしましょうか。主任から聞きましたよ。本がお好きなんですってね?
ナオ: 私、収容施設から出られなかったから。先生が持ってきてくれる本はいつも世界を広げてくれた。
SCP-650-JP: それは、何物にも代えがたいことでしょう。
ナオ: うん。先生はわたしにとって―
古藤主任: [咳払い] ナオ。作戦行動中ですよ。私語はほどほどにしてください。
ナオ: 先生、照れてるでしょ。
古藤主任: 「心配」をしているんです。SCP-514は基本的に無害なオブジェクトだけど、兵器や攻撃的な目的で使用される物品を破壊する異常性を備えているんですよ。もし何らかの要因でー
突然ナオが咳込み始める。
SCP-650-JP: ナオさん!
収容塔の屋上にSCP-514が留まっているが、明らかにSCP-059-JPの異常性の影響を受けて体勢を崩している。
古藤主任: 姿勢を高く保って、収容施設から離れてください!
カイン: 状況は!?
SCP-650-JP: ナオさんが急にせき込んで―
ナオ: げほっ、だいじょうぶ…大丈夫です。少し引き返したら楽になりました。
古藤主任: おそらくSCP-514への接近が「攻撃」とみなされたんだと思います。おそらくこれ以上近づくのは危険でしょう。
SCP-650-JP: 作戦を中止して撤退しますか?
古藤主任: やむを得ないでしょう、あなたたちの安全を考えれば―
カイン: いや、作戦の継続に問題はない。収容施設の屋上をよく写してくれ。
橙色の流体が屋上のSCP-514にまとわりつき、捕縛したまま屋上から階下に流動する様子が撮影される。
ナオ: 何?あれ、どろどろの、スライム?
カイン: 「くすぐりレスリング」は攻撃として認識されないことはすでに確認している。
古藤主任: そうか!SCP-999!非攻撃的な鎮圧手段というのは…!
カイン: その通り、解放された有知性オブジェクトは、何も我々だけではなかったというわけでね。輸送した穀物の中にちょっと隠れていてもらったんだ。”くすぐりオバケ”に作戦の内容をゲームのルールとして教え込むのには少々苦労したがね。
およそ5分後、SCP-999がSCP-514を“ナオ”の頭身以下の高さに誘導したことが収容塔に設置されているカメラによって確認されました。
以後両名は問題なく収容塔に到達し、“ナオ”が収容室に到着したことをもって、作戦の完遂が宣言されました。
カイン: みんなよくやってくれた。作戦は成功と言っていいだろう!
[沈黙]
古藤主任: えー。SCP-073に質問します。SCP-999の作戦投入について我々に何の通知もなかった理由を答えてください。
カイン: ……わかった。弁明させてくれ。SCP-999の運用は攻撃として認識されないことは実験できていたがクロステストは不確定要素が大きくリスクが大きい。経験上オブジェクトが「攻撃」を検知する場合は行為者の認識が影響することが多いから、切り札であるSCP-999に関して、行為者となりえる人物には「認識されていない」状況が最もリスクを排除できると考えたんだ。
SCP-650-JP: そこは一旦飲み込んだとしてもですね、そもそもどうやって攻撃として認識されないことを確認できたんですか。
カイン: 順を追って説明させてくれ。まず―
古藤主任: SCP-073にはあらゆる攻撃を反射する異常性がありますね?これは「攻撃」の概念域をはかるうえで試金石になりえる性質です。したがってSCP-999の「くすぐりレスリング」がSCP-073に通用すれば、それが攻撃とみなされないことが確認できる。違いますか?
カイン: まあ。…そういうことになる。
SCP-650-JP: それが確認できたってことは、「通用した」んですね??
カイン: う。
”ナオ”: はーい!我々財団日本支部は、SCP-073に対してその時の映像記録の提出を要求します!
古藤主任: ナオったら。
カイン: 助けてくれ。
古藤主任: 我々が事後承諾を認めるには、その根拠となる実験記録を参照する必要があると主張します。日本支部からの正式な通達については私がとりまとめることとします。
SCP-650-JP: 気の毒な気もしますが。カインさん。”腹を括り”ましょうか。
[ログ終了]
『SCP-073とSCP-999のクロステスト』を記録した映像は財団日本支部で厳重に保管されています。これは日本支部職員であれば申請ののち閲覧することが可能です。ただし、再雇用の勧告対象となる退職済み職員や財団本部に対する“交渉材料としての価値”を鑑みて記録の複製およびオンラインでの閲覧は禁止されています。
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補遺1: SCP-999を利用したSCP-514の捕獲手順が確立され、SCP-514の再収容および収容施設の増設がなされています。
職員の再雇用や財団資源の回復は進行していますが、これとSCP-514の再収容の間に必ずしも因果関係があると断定することはできないという点には留意してください。
一方で、記憶処理剤やスクラントン現実錨をはじめとする超常技術の回復や、財団がSCP-001の存在を報告する根拠となった他次元財団との接続手段の復旧については著しく停滞しています。現在の我々の業務はプロトコル-リリーに伴って解放された有知性オブジェクト群の協力によって維持されています。
今回の懸案の性質を鑑みてオブジェクトクラスがKeterからTiamatに再割り当てされました。これはヴェールを破るような行為によってのみ阻止できる脅威をもたらすオブジェクトに対して割り当てられるクラスです。
ただし、当該の再割り当ては想定される事態の悪化を意味するものではありません。ヴェールを逸脱した現状においてもなお、事態の収束および財団機能の復旧が可能であり、それに全力をもってあたることを象徴するものとして割り当てが合意されました。
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補遺2: SCP-4002-JPが発生した要因については依然として結論が出ていません。
SCP-001によって予知されたKクラスシナリオは既に完遂しており、我々が観測しているのはいわゆる「死後の世界」であるとする仮説や、SCP-001は厳密には「他次元財団との通信断絶」に先立って発生する事象であり、その大半においてKクラスシナリオが発生し、そうでない事例においても通信の断絶が発生するためにサンプリングバイアスによって財団がその性質を誤認したとする仮説などが提唱されていますが、いずれの仮説もそれを決定づける証拠は得られておらず、またそれを知るすべもありません。
事態の輪郭を探るため、イベント発生時の集団予知に類似した現象についての情報が集積されました。
- 地球上のあらゆる生命がある瞬間に生命活動を停止する。
- したがって苦しみを伴うことはない。その瞬間を認識することもないだろう。
- 細菌や微生物に至るまで死滅するため遺体が腐敗することはない。
- 非生物学的な実体についても同じく活動を停止する。
これらの特徴からSCP-2935との関連が指摘されました。
SCP-2935は洞穴から接続される、少なくとも地球と同等の観測範囲を持つ時空間異常であり、そこに生命を有する実体が進入した瞬間に内部の全生命を終了するかのような振る舞いをするものと推定されています。
実地調査の結果、SCP-2935に通じる洞穴を封鎖したコンクリートに亀裂が入っていることが確認され、その亀裂からユリ属(Lilium)の植物体が回収されました。これがSCP-4002-JPに該当するか否かは不明です。
我々の存在する世界で、SCP-2935において観測されたものと同等のKクラスシナリオが発生することが予見され、それに対してSCP-4002-JPの出現(あるいはSCP-001イベント)が発生したと仮定すれば、我々の存在する世界はSCP-2935と同格のものとして位置付けることができます。この前提に立てば、オリジナルとなる基底世界が存在し、そこではイベントが発生していないものと考えることができます。
SCP-2935の発見経緯から、その「出口」にあたる洞穴を介した電波通信が可能となりうることが指摘されました。これを試みることによって基底世界、ひいては他次元財団への接続を再開できることが期待されます。通信先への状況説明を兼ねて、この試行においては当該の報告書が送信されることとなりました。
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以下は、私(SCP-650-JP)がSCP-2935を介した他次元財団への通信試行にあたって、追記することを許可された、SCP-650-JPからのメッセージです。私の知る財団の職員様であれば、この追記が許可されること自体に疑問を持つはずです。そしてその疑問はこれから伝える内容にも深くかかわるものでもあります。
もし、この文書を受信した貴方の世界でSCP-001が未発生であったなら、そしてSCP-001によってもたらされる終わりが救いであると信じることができるなら、プロトコル-リリーの発効時にそれをSCP-650-JP、あるいはそれに準ずる実体に対して秘匿することを強くお勧めします。
私の異常性は死体を生きているかのように動かすことです。その限度は未知であり、私が財団に収容されたときのように、私の知り得ないことを起こすことすら可能であることが観測されています。
したがって対象が私(SCP-650-JPに指定される死体)に限られたものであるとする保証はどこにもありません。
現実改変を検出する機器はプロトコル-リリーの発効以降すでに私たちの管理下にはなく、私の異常性の影響範囲をはかるすべはありません。しかしそれすらも他ならぬ私が仕向けたことかもしれない。
私は死体を生きているかのごとく動かすことに特化した現実改変者です。
その私が、SCP-001の発生を聞いたときにその結末を、世界の終焉に取り残されることを予期し、それを拒んでしまった。
SCP-001が誤報などではなかったとしたら。
私の弱さが、我が儘が、私の愛する全てを“でく人形”に変えてしまっていたとしたら。
私にとってはそれが何よりも恐ろしいのです。
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