SCP-4006-JP
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回顧: 以下のログ群は、当報告書を現在閲覧中である私が、おそらく自身の夢中で経験したであろう出来事を想起しているものであり、つまりは単なる幻覚症状の産物です。

これら幻覚が報告書の閲覧中に現れた場合、まるで"最初から報告書の一構成要素であった"かのように振る舞い、更には(まさしく、この文章のように)"私自身の手で編集した箇所"であるかのように描写される点には留意が必要です。1


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予測される対象の所在地: 地下室、床下収納の中、家具と床の間、床板の隙間から覗く階下、壁の罅割れから窺える向こう側(上記画像) 等


聴取者:

対象: [名前の無い、かつての子供]

付記: 私は地下室で背もたれ付きの古ぼけた椅子に座り、壁に空いた罅割れの隙間から覗く、暗い暗い向こう側をじっと見つめている。その暗闇からは、かつて幼い子供だった存在の声が漏れてくる。


<想起開始:>

聴取者: 私は子供の頃、地下室がある家に憧れていたんだ。

対象: [微かな泣き声]

聴取者: おそらく、秘密基地のような場所だと勝手にイメージしていたんだろう。

対象: [微かな泣き声]

聴取者: だけど、実際はそこまで素敵な場所じゃなかったと、大人になって思い知ったよ。

対象: [微かな泣き声]

聴取者: 地下室にあるのは使わなくなった家具や家電、気持ちの悪い虫、不衛生な小動物、降り積もったホコリとカビ、忘れられるべき思い出。そして暗闇と [小休止] その中に潜む怪物。

対象: [微かな泣き声]

聴取者: なあ坊や、君は一体、この地下室の何が怖くって泣いているんだ?

対象: 違うよ。

聴取者: 何だって?

対象: 今の僕は、何も怖さを感じていない。ただ、この地下室の暗闇から出られないだけなんだ。

聴取者: つまり、君は地下室のどこかに閉じ込められているんだね? それじゃあ、君の住んでいる場所を教えてくれないかい。すぐにでも私の仲間が君を助けに向かうよ。

対象: 無駄だよ。

聴取者: どうしてだい?

対象: だってもう、かつての地下室は現実に存在していないのだから。

聴取者: それはどういう……待ってくれ、そういえば名前を聞いていたかな?

対象: 忘れてしまったの? 僕の名前はくれたというのに。

聴取者: 何と言った? 上手く聞き取れない。

対象: どうか、お願い。目覚めた後に、思い出すんだ。夢に見たかつての地下室を、本来の帰るべき場所のことを。

<想起終了:>


警告:


財団生活改善指導プログラムのご利用をありがとうございます。現在、ストレスレベルの急激な上昇が検出されています。主治医からの指示・指導内容に従って作業を一旦中断し、適切に休憩もしくは睡眠を行ってください。これ以上の更なる作業の継続は、頭痛・眩暈・吐き気・幻覚・幻聴などの症状の原因となる可能性があります。

アイテム番号: SCP-4006-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: 現時点でSCP-4006-JP現象の完全な封じ込め手法は確立されておらず、その発生メカニズムの解明および抑制プロセス構築に関する更なる研究が進行中です。そのため、現行での財団による主だった収容活動は、新たに発生した現象の特定と隠蔽・情報工作に注力されます。

世界各国で発生した失踪事件の調査報告は財団Webクローラーによって常時監視・審査され、SCP-4006-JPとの関連が疑われる情報(地下室、閉所、暗所等との特筆すべき関連性)に対して自動的にフラグ付けが行われます。なお、必要であると判断されない限り、現地の法執行機関によるこれら事案への追及は抑止されません。

説明: SCP-4006-JPは世界各国で発生が確認されている、ヒト個人を対象とした異常現象の一種です。当該現象の対象となった個人(以下、被害者)は、後述する幻覚・幻聴などの幾つかの症状を段階的に呈した後、第三者から直接観察されていない状態で暗所環境へと置かれた場合に、一切の痕跡を残すことなくその場から消失します。

以下は、現象の影響下にある被害者の多くに見受けられる、特筆すべき共通事項の抜粋です。

  • 過眠症や睡眠時随伴症等に酷似する睡眠障害の発生、あるいは"幼少期時代に立ち入ったことのある暗所環境"が舞台となった夢見の体験。この症状に対しては、専門医による診断でも一般的なストレス性の症状との区別が非常に困難であり、この時点で現象との関連性フラグ付けは後述の理由もあり不可能に近い。
  • 地下・トンネル・クローゼット等の"暗所や閉所に関する、幼少期時代の記憶や印象"と紐付けられた幻覚・幻聴の症状。時間経過とともに悪化していき、場合によっては、現実と虚構の双方の光景が重なって同時に見えたとの報告例もある。また、上記の夢の内容と、概ね関連した描写として現れることが多いとも報告される。
  • 他者との会話中における、暗所と関連した自身の幼少期のエピソードへの話題発展。多くの場合が中期から末期段階で見受けられる行動であり、暗所に対して自身の抱いていた印象が、幼少期時代のポジティブな内容から、現時点でのネガティブな内容へと移り変わってしまった旨について主に言及される。
  • 暗所と関連する事柄を記載した文書やイラストの作成。その全てが末期段階で作成されたことが分かっており、多くの被害者は作成完了直後に自ら暗所へと移動する形で消失している。また、その中の一部は意図的に他者への頒布を目的とした形式で作成されているが、いずれの評価分析官も"支離滅裂かつ統一性のない単語・描画の羅列でしかなく、被害者が閲覧者に対して何を伝えたいのか解読できない"と評している。

上記のような明確な異常症状の存在にもかかわらず、過半数の被害者が現象の影響による自覚症状を持たないか、もしくは症状による日常生活への影響を過度に軽視する傾向にあり、被害者自身から他者へと症状の詳細な報告が行われることは極めて稀です。そのため、被害者とSCP-4006-JP現象との関連性がフラグ付け可能となるのは、現象末期となる消失直前の段階か、あるいは消失後であることが大半です。

これら要因もあり、現在でも現象の完全な発生条件および被害者の選定基準は解明されていません。

また他方では、SCP-4006-JP現象が好意的なイベントであると仮定する意見も提言されています。この提言内では、人間社会の集団内における被害者が置かれていた好ましくない立場・役割、そして内面に潜む不安定さやヒトとは全く異なる生まれ持っての性といった、被害者が有していた負の性質・要素に着目した上で、全体主義的視点においては"彼/彼女らの消失が社会や集団に正の効果を及ぼす"といった旨の主張が為されます。

それら解釈は、SCP-4006-JP現象の根本的な起源と、部分的に紐付いているものとして見做されています。2


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壁の向こう側から差し出された、鳥の姿を模して折られた紙片。如何にもと言った子供っぽい趣向に反して、そこに書かれた内容は財団の標準的な報告書を思い出させる。


<想起再開:>

[私は目を通し終えた汚れた1枚の紙片を、それが出てきた壁の罅割れへと差し込む。紙片は向こう側から引っ張られるようにして、ゆっくりと壁の中へと消えていく]

聴取者: なあ坊や、何故そんな紙切れを私に寄越したんだい?

対象: [微かな泣き声]

聴取者: 君がこの地下室に閉じ込められていることと、その紙に書かれていた異常現象との間に、何か関係でもあるのかい?

対象: [微かな泣き声]

聴取者: まさか……君も被害者なのか?

対象: [泣き声が止む]

聴取者: それじゃあ、君は異常現象のせいで元居た場所から消失してしまい、気が付いたらこの地下室の中に居たというわけだね?

対象: そうじゃないよ。僕は、そんな理由で此処に閉じ込められてしまったわけじゃない。むしろ、君の方なんだよ。これから消失することになるのは、ね。

聴取者: 何……なんだって? 消失する? 私が?

対象: 気が付いていないの? さっきの紙をちゃんと読んだんでしょ?

聴取者: [暫くの沈黙] 確かに私は、幼少期に度々訪れた祖父の家に地下室がある光景を夢に見た。それに、その夢のワンシーンが幻覚として、まるで最初からそうであったかのように現実へと"差し込まれている"のを見た覚えもある。だが、まさかそんな。何かの間違いじゃないのか?

対象: どうしてそう思うの? 明らかにおかしな状況なのに、そのことに気が付かず、気に留めようともせず、まるで何も問題がないかのように振舞い続けようと試みている今の状況こそ、君が異常な状況に置かれている証左じゃないのかな?

聴取者: [再び沈黙] そう、だな。客観的に見れば、きっと私は異常な状態なんだろう。だが、どうして? 何故、私が現象の対象になってしまった? 君は何かを知っているのか?

対象: 知っているよ。でも、どうか恐れないでほしいんだ。だって本当は、あれらは消失なんて出来事じゃない。ただ、本来の居るべき場所に帰っているだけなんだから。

<想起終了:>

付録: 以下は、これまでに発見されたSCP-4006-JP現象のうち、映像記録として残された事案の一例です。

日付: 2015/05/16

場所: アメリカ ニューヘイブン

被害者: ロバート・カートライト(当時21歳)

付記: 当時、被害者は友人とともにレストランで食事を行っている際中であった。また、当該映像は店外に設置された道路監視カメラによって記録されたものである。


<再生開始: 19:37>

19:37: 被害者と友人、2人はレストラン窓側のテーブルに着いて談笑している。この時点で異常は見受けられない。また、友人に対する聴取で、この時に"幼少期の地下鉄の思い出"に関する話題が含まれていたと判明している。

19:49: 被害者がフォークを落とし、落ちたフォークはテーブルクロスの下に滑り込む。フォークを拾おうと被害者が身を屈めたため、その姿がテーブルクロスの陰に隠れてカメラの視界から消える。友人への聴取結果から、テーブルクロスの下に潜り込んでいるものと思われる。

19:51: この時点になっても被害者はテーブルの下から姿を現さず、友人が不審に思ってテーブルクロスを持ち上げて内部を確認する。直後、友人は明らかに困惑した表情を浮かべて顔を上げた後、周囲を見渡す。

20:11: 友人が店側に事情を説明したことで、友人が従業員とともに店内の探索を行っている様子が記録される。この探索は暫く継続するが、店内から被害者は発見されなかった。

<再生終了:>

日付: 2018/06/29

場所: イギリス ロンドン

被害者: キジー・グローブ(当時46歳)

付記: 当時、被害者は劇場でミュージカル・ショーの観劇を行っていた。また、当該映像はビデオ撮影用に劇場内に設置されたカメラによって記録されたものである。


<再生開始: 14:02>

14:02: 被害者がカメラの視界に入り、3列目8番の席に着く様子が収められる。

14:15: ショーが開始されるが、被害者に目立った変化はない。

14:48: ショーの内容に合わせて劇場内の照明の光が弱くなり、特に客席が目に見えて暗くなる。この段階になって、被害者からは貧乏揺すりや、落ち着きなく周囲を見回すなどの様子が定期的に観測されるようになる。

15:02: ショーの場面転換を目的として、舞台照明が落とされて暗転する。この時、劇場内の暗さのために被害者の姿も鮮明には視認できなくなる。劇場関係者に行われた後の聴取結果より、"普段よりも劇場内が暗かったような気がする"という旨の複数の主張が得られた。

15:03: 暗転が解除され、舞台および劇場内が再び明るくなる。既にこの時点で、3列目8番の席に被害者は座っていない。しかしながら、そのことには他の観客を含めて誰も気が付いてない。

<再生終了:>

日付: 2018/06/29

場所: イギリス ロンドン

被害者: キジー・グローブ(当時46歳)

付記: 当時、被害者は劇場でミュージカル・ショーの観劇を行っていた。また、当該映像はビデオ撮影用に劇場内に設置されたカメラによって記録されたものである。


<再生開始: 14:02>

14:02: 被害者がカメラの視界に入り、3列目8番の席に着く様子が収められる。

14:15: ショーが開始されるが、被害者に目立った変化はない。

14:48: ショーの内容に合わせて劇場内の照明の光が弱くなり、特に客席が目に見えて暗くなる。この段階になって、被害者からは貧乏揺すりや、落ち着きなく周囲を見回すなどの様子が定期的に観測されるようになる。被害者は何かを酷く恐れている。

15:02: ショーの場面転換を目的として、舞台照明が落とされて暗転する。この時、劇場内の暗さのために被害者の姿も鮮明には視認できなくなる。劇場関係者に行われた後の聴取結果より、"普段よりも劇場内が暗かったような気がする"という旨の複数の主張が得られた。

15:03: 暗転が解除され、舞台および劇場内が再び明るくなる。既にこの時点で、3列目8番の席に被害者は座っていない。しかしながら、そのことには他の観客を含めて誰も気が付いてない。おらず、代わりに全身が黒色で覆われた全長2m程度の人型実体の姿がカメラに写り込む。

15:04: 観客や演者が人型実体の存在に気が付き始め、劇場内に悲鳴や混乱が広がっていく。同時に、当該の人型実体自身も頭を抱えて激しく苦悶しているような振る舞いを示しながら席から立ち上がり、暴れるようにして舞台上のスポットライトの元まで走り寄る。その過程で幾つかの物品の破壊と、複数人の無関係な観客や演者が怪我を負うといった物理的な被害も確認できる。

15:05: 人型実体は苦悶の声を上げる。スポットライトに照らされたことにより、その四肢や頭部が酷く歪曲していること、そしてその肉体から何かの液体が零れ落ち続けている様子が確認できる。

15:06: 人型実体がその場から霧散するようにして消失する。直後、劇場内に存在する全ての人員は何事もなかったかのように暗転前の行動を再開する。誰も気が付いていないがために、この事象について聴取等は行われていなかったが、おそらく彼/彼女らは何も記憶していないだろう。そして、生じた破壊や怪我の全ては、最初からそうであったか、あるは全く無関係な後発的な出来事による産物であると再解釈された。

<再生終了:>

日付: [忘れられた日付]

場所: [誰も知らない場所]

被害者: [失われた名前](止まった年齢)

付記: 当時、被害者は仕事から帰宅する際中だった。また、当該映像は施設内の監視カメラによって記録されたものである。


<再生開始: 18:16>

18:16: 通路を歩いている被害者の姿がカメラの視界に入る。

18:25: 被害者は歩くのを止めて、通路途中に存在する分岐路の方へと視線を向けている。視線の先には古びた木製の扉が見えるが、その周囲の照明が正常に機能していないのか、扉を照らす光は明滅を繰り返している。そのような扉が施設内に存在していた記録はない。

18:28: 被害者は意を決したように、当該の扉へと向かって歩き始める。

18:55: 被害者が扉の前まで到着する。既に照明の光は消えている。

19:36: 被害者が扉を開ける。扉の先には、地下階へ続くと思わしき階段の存在が確認できる。暫くは扉のノブを掴んだ状態で被害者は停止していたが、少しの間を置いて、扉の中へと足を踏み入れる。

18:37: 被害者の後ろ姿が崩れて、全身が黒色の小型人型実体に置き換わる。扉が独りでに締まる。やはり、そのような扉が施設内に存在していた記録はない。

<再生終了:>

以上は、あの地下室に廃棄されていた旧式のブラウン管テレビに映し出された光景の一部です。


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廃棄済みの旧式ブラウン管テレビ。そこに表示される映像の解像度は、いずれも酷く劣化している。同じ型式のものを、かつて祖父の家で見た気がする。


<想起開始:>

[テレビ画面が暗転し、スノーノイズに映像が切り替わる。テレビに電源は接続されていない]

聴取者: これは一体……何の映像なんだ。

対象: あれこそが真実だよ。

聴取者: 真実? 何の?

対象: 君が"消失"と呼ぶ現象。ある者は自分の正体を完全に思い出すことなく醜く消え去り、また、ある者は自らの過ちを正すために本来の居るべき場所へと帰って行った。これが真実。

聴取者: 待ってくれ、それは……つまり [小休止] 消失現象の被害者たちは人間ではなくて、あの黒尽くめの醜い人型アノマリーが化けた姿だったと、そう言いたいのか?

対象: そう。かつて、あれらは暗闇の中の名も無き怪物だった。けれどもある時、あれらは"運悪く"本来なら持ち得ないはずのものを手に入れて、暗闇を抜け出してしまったんだ。

聴取者: [沈黙]

対象: さあ、思い出してみて。これまでの人生を。自分が他のヒトとは何か根本的な部分で違うと感じることはなかった? 自分の中に、他のヒトより異常に秀でているか、異常に劣っていると感じる素養はなかった? 信頼できる集団の中に居ても、どこか心は孤独じゃなかった? 暗闇の中に身を置くことが酷く怖くなかった?

聴取者: [沈黙]

対象: もう気付いたよね? 君が何者なのか。

聴取者: 私も怪物だと? 馬鹿げている。そんな過去の記憶、私は持ち合わせちゃいない。

対象: それは単に、忘れてしまっただけさ。

聴取者: 仮に、私が異常存在であったとすれば、同僚たちにすぐ気付かれるはずだ。

対象: いいや、誰も気付かないよ。だって、さっきの光景を見たでしょ? 暗闇に潜む名前の無い怪物のことなんて、誰も気にしない、誰も気に留めない、誰も記憶しない。なぜならば、暗闇の世界に住まう怪物たちは、ヒトの住まう現実の世界に本来存在し得ない異物なんだから。

聴取者: [再び沈黙]

対象: だけど、いい? 良く聞いて。現実から消失することは、きっと怖い思い出になる。僕も良く知っている。この暗闇が身に染みて、嫌というほどに。それでも、もっとよく頭を働かせて、そして思い出すんだ。

聴取者: 思い出すだって? "自分が怪物だった"という存在しない記憶を?

対象: 祖父の家の地下室。そこで起こった、君と僕との思い出を。

聴取者: 祖父の家に地下室はなかった。

対象: 違う。君は無意識にあの日の出来事を恐れて、地下室自体がそもそも存在していなかったんだと、そう思い込もうとしているだけなんだ。

聴取者: 何故、そんな必要がある?

対象: 思い出すんだ。僕を助けに来て。

<想起終了:>

来歴: SCP-4006-JP現象の存在と発生状況は、████年代に導入された異常徴候認識プログラムの使用を通して、被害者状況の極めて似通った失踪事件報告群が世界各国で検出されたことから初めて財団に認識されました。

更に、世界中の民間伝承・医療機関・警察機関等のアーカイブに対する広範調査の結果は、SCP-4006-JP現象と酷似した消失事案が少なくとも██世紀頃から世界中で発生していた事実を明らかにしました。なお、未発見の報告例を除いても、現時点までに当該現象の被害者数は、年間平均██.█件に上ると推測されます。

また、現実でヒトとしての記憶と名前を得て日常生活を継続している"かつての暗闇の中の名も無き怪物たち"、つまりは将来的に被害者と成り得るヒト個人の総数は[きっとたくさん居るはず]程度であると推測されており、それら存在に対する対応処置の必要性についても議論が続けられています。

加えて、SCP-4006-JP現象の起源となった被害児童らの救済処置に関しても議論が続けられています。しかしながら、現時点においても被害児童を回収する手段は確立されておらず、消失現象の発生時に連携する形で、被害者に対して名辞返還交渉の依頼を行うに留まっているのが現状です。3

<想起開始:>

聴取者: "被害児童"というのは何だ?

対象: [沈黙]

聴取者: 聞いているのか?

対象: 後ろを見て。

[振り返ると、地上階へと続く階段が視界に入る。誰かが階段を下りてくる。それは幼い子供だった]

聴取者: これは……どういうことだ? 一体、何をした?

対象: 落ち着いて。どうか静かに。これから君は、かつてこの地下室で"幼かった君の身に起きた出来事"の記憶を見届けることになる。そうしてから決断を下すんだ。

[幼い頃の姿をした私(以下、子供)が、年相応な怯えた様子を見せながら地下室の中へと入ってくる。暗闇への恐怖のためか、その足取りは非常に覚束ないが、周囲を見渡して何かを探しているように見受けられる]

聴取者: 何を探している?

[不意に子供の視線が私の方へと向く。直後、怯えていたはずの表情が喜びの表情へと変わり、小走りで私の居る方へと向かって来る。私は一瞬身構えたものの、子供は私の横を通り過ぎて、壁側のキャビネットの前まで行って止まった。見れば、ボロボロなクマの人形らしきものを手に取っている]

聴取者: まさか、"テオ隊長"? 祖父からは、捨てたと聞いていたのに。4

対象: ちゃんと覚えていたんだね。そうだよ。あれは、かつての君の大親友。あの日、テオが捨てられたのではなく、祖父によってこの地下室へと隠されていたことに君は気が付いたんだ。そうして、君は初めてこの地下室へと足を踏み入れた。さあ、本当に重要なのはこれからだよ。

[子供はテオ隊長を小脇に抱えると、地下室を出ようと向き直る。しかし、突然何かに気が付いたような素振りを見せると、少し離れた場所の壁にできた罅割れに近付いていく。その罅割れとは、これまで私が話し続けてきた対象の声が漏れてきているのと同じ、壁の罅割れである点に留意]

対象: こうして君と僕は、不運にも出会ってしまった。

[少し躊躇する様子を見せた後、子供は意を決した様子で壁の罅割れの隙間に顔を近付けてその奥を覗き込む。数分間の停止。直後、子供は罅割れの中へと一瞬にして"引きずり込まれる"]

聴取者: [叫び声] お前、何を!

対象: いいや、これからだよ。絶対に目を逸らさないで。

[暫くの沈黙。壁の罅割れから黒色の液体が漏れ出始める。次第に液体は結集していき、先ほどの映像で見たものと酷似する全身黒色の人型実体に変化する。実体は困惑するような素振りを見せるが、徐々にその姿が先ほど罅割れの中へ引きずり込まれた子供のものへと置き換わっていく]

聴取者: [息を吞む]

[実体の変化過程が数分間継続。この時点で実体の姿は完全に子供と同じになる。かつて怪物だった子供は、意識が明瞭でないのか呆然とした表情を浮かべているが、暫くするとハッとしたような素振りを示し、続けて周囲を見渡す。かつて怪物だった子供からは、明らかな困惑の反応が確認でき、おそらくは自身の身に何が起こったのかを把握していないか、気が付いてすらいないものと思われる。かつて怪物だった子供が駆け出し、地下室から退室する。テオ隊長は地下室に取り残される]

聴取者: これは、一体……何が起こった?

対象: よく聞いて。地下室を出ていった、"あっち"が君なんだ。

聴取者: [荒い呼吸] 待ってくれ。それじゃあ、君は。

対象: 気が付いたんだね。そう、"こっち"の僕が本物の君なんだ。


D_changeling.jpg

16世紀に描かれた"取り替え子"(changeling)の様子。つまりは消失現象の原因に関する直接的な描画。このように"名も無き怪物"による児童被害の場面を描画・描写した創作は、古くから散見されている。


聴取者: [荒い呼吸] 何でこんな……"取り替わり"が起こったんだ?

対象: 君たちは本来、名前も記憶も持ち合わせていない、現実とは異なる世界の怪物なんだ。だけれども、狭い平面の空間なんかに生じた"暗闇の隙間"を介して2つの世界は隣接し、僕たちと君たちは望まずして不運な交流をしてしまうことが稀に起こる。その結果があれだよ。

聴取者: [沈黙]

対象: ううん、分かりやすく言い換えようか。地下室、床下収納の中、家具と床の間、床板の隙間から覗く階下、壁の罅割れから窺える向こう側などなど、世界中のそういった狭くて暗い場所には、名も無き怪物たちが潜んで暮らしている。そして、そんな風に普通の家の中にも潜んでいる怪物を、不運にも家主の子供が偶然見つけてしまうことも起こってしまう。

対象: 初めて出会った見知らぬ友達に、子供たちは自己紹介として自らの名を名乗ることがある。それによって名前も記憶もない無い空っぽの怪物たちは、全く"意図せずに"その子供の名前や記憶や立場を奪ってしまうんだ。そして代わりに、今度は子供が何もない空っぽの怪物になってしまうわけだよ。

聴取者: "意図せず"? その……怪物は、悪意があって名を奪っているわけじゃないのか?

対象: そうだよ。君たちはワザとじゃなかった。だけれども、かつての怪物たちは手に入れてしまった名前と記憶のせいで"自分が本物の子供"だと思い込んでしまい、その家で暮らすようになる。その逆に、かつての子供たちは自分が何者であったのかを忘れて、今の僕のように暗闇の中に閉じ込められて苦しんでいる。それは変えようもない事実でもあることを、心に留めておいて。

聴取者: [躊躇いがちに間を置いて] なあ、どうすれば、君を暗闇から出してやれる?

対象: さっきテレビで見た光景を覚えている? 方法自体は簡単だよ。この地下室に戻って来て僕に名を名乗り、君が奪ってしまった名前と記憶を、僕に返してくれればそれで良い。[沈黙] そのせいで、君はまた名も無き怪物として、暗闇の中に戻ることになってしまうけれど、そのことを僕は隠さないよ。

聴取者: それで、君は助かって、人生を取り戻せるのか?

対象: [沈黙] 残念だけど、名前と記憶を取り戻しても、もう肉体は戻らないんだ。それでも、僕は暗闇から解き放たれて、本物の僕自身の名前と記憶を持ったまま昇天できる。それだけで十分なんだ。

聴取者: もしも、だが。君に名前と記憶を返さなかったら、私はこれからどうなる?

対象: 運が良ければ、君はそのままヒトとして天寿を全うできる。でも運が悪ければ、テレビで見た光景を君自身で再演することになる。君はある日、突然にヒトの姿を失って怪物の姿へ戻り、周囲を壊し、傷付けた後に苦しみながら消えていくのかもしれない。

聴取者: そう……か。

対象: さあ、決断の時は近付いてきている。それに、ちょうど夢からも目覚める時間みたい。

[どこからか目覚ましのアラームが聞こえてくる。地下室が暗くなり、幻覚も霞んでいく]

<想起終了:>


警告:


財団生活改善指導プログラムのご利用をありがとうございます。現在、ストレスレベルの急激な上昇が検出されています。主治医からの指示・指導内容に従って作業を一旦中断し、適切に休憩もしくは睡眠を行ってください。これ以上の更なる作業の継続は、頭痛・眩暈・吐き気・幻覚・幻聴などの症状の原因となる可能性があります。



追記: 現在、私はSCP-4006-JP現象の影響下にあると確信しています。その証左として、私の目の前、私室の壁には、どこか見覚えのある古めかしい木製の扉と、その先に広がるどこか見覚えのある懐かし気な階段が形成されています。あの幻覚で見た光景が真実か否かに寄らず、おそらく私に残された時間は少ないものと推測できます。

以下の文書は、私の選択に関しての簡易的な報告であり、加えて、暗闇の中に潜む名も無き怪物たちの存在と、それによって名前と記憶を奪われた被害児童たちの存在に関して提言する文書の冒頭箇所です。


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あの日の地下室へと続いているはずの階段。財団施設内のいずれのレイアウトからも明らかに逸脱した木製の階段は、思い出の中の祖父の家を想起させる。


真実がなんであるのか、未だに私の中で答えが定まっていない。だが、これだけは断言できる。"暗闇の中に潜む名も無き怪物たち"はきっと実在する。後に重要なのは、本当に私もその怪物の一員であるのか否かというところだ。

もしも、真実であれば、本物の私を救ってやりたいというのが本心ではある。加えて、私自身が時限爆弾のようなものであり、ある日突然に爆発して周囲に災いを撒き散らす可能性すらあるようだ。私の立場上、それだけは絶対に避けねばならない。

確かに、夢の中で蘇った地下室の記憶は、私にしか知り得ない内容であり、それが本当の思い出であるという実感を得るものであった。でも、もしも違っていたら、地下室に戻った私はどうなる?

……

いずれにせよ、私は一人の財団職員として、SCP-4006-JPに関するこの重要な情報を報告しなければならない。"暗闇の中に潜む名も無き怪物たち"を探し出し、"名前と記憶を奪われた被害児童たち"を救済して、これ以上の新たな犠牲が生まれないように提言する義務もあるだろう。

だが、直感的に時間がないということも理解できる。目の前の階段からは、暗闇があたかも煙か何かのようにして、この室内へゆっくりとゆっくりと上ってきているのだから。

……

私は階段を降り、地下室へ向かおうと思う。

だが、完全に全てを信じたわけではない。私は自身が知り得た情報を後続の者たちへと引き継いだ上で、残された時間での私のやれることを行うつもりだ。つまりは、地下室に存在するものが真実にせよ虚構にせよ、そのどちらであるのかという事実を私自身の手によって解き明かすのだ。

どうか、これから私が報告するSCP-4006-JP現象の新たな情報と、地下から中継する探査試行の映像記録が、今後の研究に役立ってくれることを強く祈っている。そして、私が最後に手に入れるであろう知識が真実と虚構のどちらであったとしても、それによってSCP-4006-JPという災いの根が未来永劫に封じ込められますように。


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