D-112はSCP-4012-1外部に位置している。彼は20代後半の男性である。探査当日の天気は曇りといくらかの雨である。D-112はイヤーピースを経由して接続された、映像を流し指示する為の光学式インプラント手術を受けた。彼は電撃ショックブレスレットも合わせて着用している。
D-112: そんじゃあ、俺はただ道に沿って歩いて、何が起こるか見りゃあいいってことだよな?
コマンド: その通りです。
D-112: 何かヤバイのが俺に飛び出して来んのか?なんつうか、12本の手足を持つバケモンとか何かがよ?
コマンド: いえ、それはないかと。我々の知る限りでは、そこは極めて正常ですから。
D-112: そんなに正常だってんなら、なんで俺はここにいんだよ?
コマンドは返答しなかった。
D-112: わかったよ。んじゃあ、ただの思い込みってことだな。
コマンド: ええ、そういうことです。
コマンドからの遅延が記録されたが、原因は説明できなかった。D-112はゲートのラッチング機構を解除し、通路を歩き始める。最初の23メートルは事故なく進んだ。
コマンド: D-112、あなたの周囲を詳述してください。
D-112: そうだな、確かにメイン州沿岸の森みたいだ。俺が育った、ブースベイ辺りにかなり似てるよ。こっから1時間かそこらだ。大量のトウヒやコケがこのトレイルに茂ってる。少しだけ海水の匂いがするな。
先に進むと、布の擦れ合う音がする。曲がり角で向きを変える前に、2体の実体、肥満の様に見える男性とハイキングウェアを着ている様に見える女性が、瞬時にD-112の前方を歩いて出現する。
D-112: おい、今の見たよな?
コマンド: ええ確かに、D-112。多分大丈夫でしょう、あなたを傷つける物は何もありません。それは恐らくただの、太古から存在する道筋からの、ある種の屈折でしょう。そうですね、SCP-4012に侵入した他の人間です、大丈夫。
D-112: 俺を傷つけるような奴らじゃないって言ったよな。
コマンド: 安心してください。とにかく進んでいただけると有り難いのですが。
D-112: わかった。でも距離は置くぞ。
D-112は通路に沿って、更に何メートルか進む。鳥の鳴き声が徐々に止んでいき、もはや聞き取れなくなる。おおよそ17分後、D-112は100メートル進んだように見える。時間の矛盾が記録された。
112メートルを過ぎ、D-112は口笛でフナンク・シナトラの“It Was A Very Good Year”を吹き始める。
コマンド: 口笛を止めなさい。
D-112は命令に応じない。コマンドは緊急ショックブレスレットの作動を試みる。これも同様に失敗する。
実体は絶えずD-112の前方を歩いている。
D-112: (歌っている)人生の黄昏時に──、ンーンーン、ンー。
SCP-4012のより遠方の境界線への侵入から25分後、D-112は135メートルの標識地点で、先のDクラス探査の痕跡を発見する。
D-112: この線を跨いだら、俺に何が起きるんだ?
コマンド: 分かりません、あなたは電源を落とせないカメラと共に超え渡る最初の人間なので。
D-112: 無事で済むのか?マジで死にたくねえぞ。
コマンド: ここで死ぬつもりもないでしょう、落ち着いて。
D-112: ああ、目の前の地形が少しだけ変わってるのを伝えとくべきだと思う。
コマンド: どの様に?
D-112: 分からん。手入れが行き届いてるって感じだ。正しい言葉にするならな。コケとか森の地面にありそうな物が大量に生えてる。いや実際は少し、ほとんどだな。
コマンド: 記録しました。慎重に進んでください。
D-112: あいよ。(D-112は進む前に何度か深く、ゆっくりと深呼吸し、自身の気を引き締め落ち着かせる。)
D-112は境界線を通過し、SCP-4012に通じる道へと進み始める。彼が以前指摘した通り、シダや林床の低木のような自生する植物が減少し、より人工的に森を再現する試みが見受けられる。140メートルの標識周囲の植物のすぐ側で小さな変化が表れ、ラテン語の種名のみならず様々な言語の俗称が確認される。コマ送り再生は英語、フランス語、ヒンディー語、繁体字中国語、ホピ語、アディタイト語、旧ハンガリー語、繁体字ムー語、ダエーバイト語、音声学的に示されるウラル祖語を含む言語の他、曲線や幾何学模様的な文字を含む幾つかの未知の言語を示す。D-112が変化を調べる為に立ち止まる様子はない。
ハイカーは依然としてD-112の前方に位置している。現在の天候は晴れである。
50メートルの標識地点で、木々は海岸林の針葉樹からオークやトネリコの落葉樹へと変遷する。世界各地が原産の顕花植物が花壇の腐葉土に現れる。
コマンド: D-112、周囲の様々な植物を点検する為に停止してもらえますか?
D-112は停止しない。
コマンド: D-112、応答しなさい。
D-112はコマンドの指示を聞いていないように見える。彼の足元の通路は固形化した松葉に、そして間も無く砂利へと変わる。森は著しく伐採され、通路は前方で分岐しているように見える。
D-112は停止しない。
コマンド: D-112、もしあなたが応答しない、或いは命令に従わない場合、腕のショックブレスレットを作動せざるを得ません。分かっているのですか?
D-112は手首の蚊咬傷を見下ろしてぼんやりと掻く。ショックブレスレットが消失している。
コマンド: D-112、どうやってショックブレスレットを取り外したのです?今質問に答えてください。ショックブレスレットを取り外していないとすれば、あなたが感じたSCP-4012の何らかの影響は有りましたか?
D-112は応答しない。彼は通路の分岐点に到達し、左へ進む。彼はもはや森というより、植物園らしき場所にいる。そこには世界中の植物が花壇と一緒に並んでいる。
コマンド: D-112?
通路は噴水の側を横切る。D-112が振り返って噴水を見ることはない。噴水の水は通常の水に比べどろどろと動いているように見え、僅かに紫の色合いを含んでいる。彼は植物園を歩き続けている。
コマンド: D-112、応答しなさい。
通路はカーブに差し掛かる。一方の実体は車椅子に乗るもう一方の実体を押しているように見えるが、生い茂った雑草によって隠される。
コマンド: D-112、何か言いなさい!応答しなさい!私の声が聞こえますか?
間近に実体が出現する。先頭の実体は、人相に特徴のない看護師用スクラブを身に纏った人型存在であり、それとは別に、頭部の中心に人間の物と類似する巨大な口腔を有している。実体は、緊張性硬直に陥っているオレンジ色のDクラス用ジャンプスーツを身に纏った人間男性を押している。両者どちらともD-112を認識しておらず、彼もまた実体を認識していない。
コマンド: そこから脱出しなさい。
D-112は歩き続け、時折木々や巨大な植物をちらりと一瞥している。彼の目は暫く、荊に覆われた未知の木に奪われる。別種の口腔人型実体が側を通りスーツを着用し、急いでクリップボードを運ぶ。この種は現在、当該探査に対応したSCP-4012-2だと仮定されている。
コマンド: D-112、今すぐ脱出しなさい。もしまだ聞こえるなら、戻りなさい。
D-112は植物園を歩き続け、通路の交差する整地された平野に逢着する。平野の至る所で、Dクラス、ハイカー、そして様々な先住民族衣装の格好をしたヒト個体が彷徨っている。2名の個体はD-112が以前発見したハイカーに類似している。片方の個体は彼自身に類似している。
ナースの形態を取る口腔実体は人間的な傾向がある一方、ガーデナーの形態を取る実体は植物的傾向にある。全ての実体は声を発さない。一体のガーデナーの口腔実体がD-112に向かって朗らかに手を振り笑い、D-112は手を振り返す。ガーデナーの口腔実体はD-112に向かってゴボゴボとした一続きの唸り声を発するが、D-112は反応を示さない。D-112は歩き続けている。
コマンド: D-112、聞いてください。それらの実体と関わらないでください。
前面に大きなガラス製の扉を備えた巨大な木製建造物がそびえる。扉は船渠の印象で彩られている。口腔実体が忙しなく出入りする。D-112は建造物へと向かう。
コマンド: その建物に入るんじゃない。今すぐ戻るんだ!
D-112は扉に近寄り、内側へ押す。
コマンド: 戻ってくれ。
木製建造物の内部はスカイライト付きの巨大なロビーである。一方通行のゲートを備え、列を形成する税関や国境検問所と類似した構造が見られる。各列の最後尾のブース内部に、口腔実体が存在する。それらの実体群を除き、D-112は単独のようである。
コマンド: もしそのゲートを通ってしまえば、きっと戻ってこれなくなる。まだ選べる。今すぐ戻るんだ。
D-112は空いている列へと降り進む。
コマンド: 戻れ!
D-112はブースの一つに接近する。カウンター内の口腔実体がD-112に唸り、喚き始める。D-112は会釈し、うつむく。彼のオレンジ色のジャンプスーツが、暗色のスリーピーススーツに置換される。
コマンド:D-112、頼む!頼むから戻ってくれ!まだ間に合う、振り返って戻るんだ、頼む!お前があそこに行く必要はないんだ!
彼はスーツのポケットから名刺大の白い紙を取り出し、それを口腔実体に手渡す。実体はカウンターの後ろにある特徴のない黒い機械に紙を挿入して点検し、D-112に返却する。D-112は簡単に会釈する。実体はD-112に、ゲートから手を振る。
コマンド: 駄目だ、駄目だ、駄目だ駄目だ、駄目だ。(コマンドは啜り泣き始める)
D-112は正面の建物が備える、ガラス製の両開きの扉を通過して進む。前方には銀河を描写したモザイク模様の石畳の通路があり、広大な駐車場へと通じている。様々なヴィンテージモデルの車があり、最も古く見える物は1910年代の物で、最も新しく見える物は幾つかの車輪が不足している。全ての車は清潔な状態であるように見える。D-112は駐車場を歩き始める。
コマンドは、D-112がもはや瞬きをしていないことに気付いた。
D-112は近くに駐車されたBMW X6 M Silverに接近しドアを開け、運転席に座る。X6 Mにはナンバープレートが無い。キーは既にシリンダーに刺されていた。彼がキーを回すと、車はひとりでに動き始める。田舎の周辺市街地や公園が見られ、著しく荒廃した畑や、地球のどの領域にも存在しない森林が構成されている。
D-112はゲートが終端である長いドライブウェイを通り過ぎ、植物園/税関施設を出る。D-112は森を通過し長いハイウェイへと入る。D-112はおおよそ30分間、断続的に運転する。
コマンド: D-112?
道路には標識を除いた目印が存在せず、カーブや勾配も無い完全な直線である。
コマンド: D-112、答えてくれませんか。
不意に、D-112は直前まで存在しなかった交差点に到着する。そこは活気的で、近代的なアメリカの田舎町に似たメインストリートに沿っている。1920年代〜1930年代の建築様式を含む多くの建物には、D-112の視界に映るジュースバーらしき店を含む専門ブティックだけでなく、近代のアメリカベースのチェーン店が立ち並んでいる。D-112は首を伸ばし顔を向け、道を行く為に左右を確認する。メインストリートの左側の店はデパート、ファーストフード店、ショッピングモールに移行している。注目すべきことに、建物には一切のテキストが存在しないが、ロゴは残されている。メインストリートの右側は大きな高級住宅へと移行している。D-112は合間を縫って道路を右折する。
コマンド: すまない。本当に、すまない。
D-112は おおよそ1km走行し、ドライブウェイの一つに入る。特筆すべき点として、全ての家が道路と平行に走る川に沿って位置している。D-112はこれまで一度も橋を渡っていない。全ての裏庭に、錨で留められた小舟のある船渠が存在する。
D-112は車を停めて降り、正面玄関に接近する。ありふれた女物の服を身に纏った口腔実体が扉を開け、ガラガラ声で朗らかにD-112を抱き締める。実体はD-112の頬にキスをし、D-112を内部に案内する。D-112は同性愛者であり、SCP-4012に割り当てる以前に他のDクラスと関係があった点に留意。
Tシャツと半ズボンを着た実体とドレスを着た2体の実体が走り寄り彼を抱きしめ、その間中ずっと、ガラガラ声でぺちゃくちゃと喋っている。D-112は実体を抱き締め返したり、何らかの反応を示すこともない。
コマンド: あなたをより上手く導けたはずでした。申し訳ありません。
家は上位中流階級の郊外のそれと類似しており、テレビ、ソファーと椅子、観葉植物、恐らく寝室へと続く階段、大きなアイランドキッチン、そしてディナーテーブルを備えている。D-112は椅子に座る。
コマンド: 聞いてください、あなたは死刑囚ではないのです。私達はただあなたを街で拾い上げ、死刑囚だと信じさせたのです。本当に申し訳ありません。あなたはただあなたの人生を生きていました。あんまりな話でしょう。あなたはただ一度きりの人生を生きていたのです。
D-112の妻を演じているように見える口腔実体は、湯気の立った蒸し鍋をディナーテーブルに運ぶ。鍋の内容物がその場全員に配られる。食材は、生きておりモゾモゾと蠢いているピンク色の蛆虫を含んだ、紫色の穀物の雑炊らしき物の塊である。D-112は反応を示さない。妻の口腔実体は、カロブランドのコーンシロップに見える物を蛆虫の雑炊に注ぐ。
コマンド: クソ。吐きそうだ。
D-112は極めて速やかに、スプーンで雑炊を食べ始める。彼が蛆虫を食べる時、蛆虫は悲鳴を上げ叫ぶ。口腔実体は生き生きと喋り交わし、D-112との会話を試みているように見える。
コマンド: 俺達は怪物だ。
夕食後、D-112は階段を登りスーツを脱ぎ、クローゼットに並ぶ同一のスーツの横に掛ける。彼は青いパジャマに着替え、小さな浴室で蛆虫の雑炊と同一の物質を用いて歯を磨き、子供の口腔実体をベッドに連れて布団をかける。どちらの実体もスマートフォン、もしくは携帯型ゲーム機に類似した機器に夢中であるが、D-112が認識する様子はない。彼は約30秒間実体を見つめ電気を消し、自身のベッドに横たわる。
妻の口腔実体は既に、裸で横たわっている。胸がない代わりに、本来あるべき場所に臓器のような陰茎が存在する。D-112がシャツを脱ぎ自身の胸を見下ろすと、垂直の膣が確認できる。2人はベッドに潜り込み、交尾し始める。
コマンド: もはや目を離せない、動けないんだ。D-112、まだ聞いてるか。俺は今、物理的に椅子を離れたり緊急警報を鳴らすことが不可能な状態だ。これはお前にとっても重要なことだ、D-112。これからもずっと。
交尾が2分間続いた後、2人は倒れ、直ぐに眠りに就く。1時間が経過した所で初めて、D-112の眼が閉じる。
朝を迎えたように見えるとたちどころに、D-112が起床する。彼は髭を剃りに浴室に向かい、鏡を見る。彼の顔は緩み、リラックスしている。どんな種類の表情も見受けられない。とりわけ、SCP-4012侵入時の彼は20代後半であったにも関わらず、現在はおおよそ30歳ほどに見える。
昨日とは別のスーツに着替え、マグカップ1杯分の暗色の液体を飲み終えた後、D-112はBMW X6 Mに乗り込みショッピングモールの先のオフィスビルへ向かい、個人用オフィスに通じるエレベーターに乗る。他の会社員は全て口腔実体である。一体の緩んだスーツを着た口腔実体がD-112の座る場所に駆け寄る。実体は金切り声を上げ、彼に大声で叫び喚く。D-112は頷き、真っ直ぐに横線が引かれた紙を仕分け始める。フロアの部長であると推測される口腔実体は歩き去る。
仕分けは3時間、断続的に続けられる。
コマンドは声を発さない。
D-112はオフィスビルを離れ、KFCに類似したファーストフード店へと車を走らせる。家族の口腔実体と待ち合わせ、もう一台のBMW X6 Mと店舗へ向かった。時刻は既に夕方である。KFCでは口腔実体のみが配置され接客しており、植物園区域の外部ではD-112が唯一の人間である。家族が入店し、8ピースパックのメニューと数点のLLサイズのソフトドリンクを注文する。メニューが提供されるが、バケット内は蛆虫の雑炊が多くを占め、ソフトドリンクにはコーンシロップの物質が含まれている。
家族は車を一台レストランに置いたまま、D-112の車で帰宅する。彼らは10分間、口腔実体がゆっくりとクローズアップされ、その口を開け閉めする内容のテレビ番組を視聴する。
先日の就寝時間のルーチンが繰り返される。
コマンド: (聞き取れない声)
次の'日'は先日と同様に続くが、食事のみは自宅でとっている。D-112は再び年老いたように見え、子供の口腔実体はより成長している。夜には、量子物理学で用いられる数学と同一の物に見える、何らかの形の宿題に取り組む子供の口腔実体を手伝うD-112が確認できる。子供は決して学校に通っているようには見えない点に留意。
翌日以降は、2日目とあらゆる点で一致する。D-112は老化し続けている。彼は40代前半に見える。妻の口腔実体の両親だと述べる口腔実体が夕飯時に訪れる。彼らは訪問中を通して共に過ごし、金切り声を上げながらぺちゃくちゃと喋り続けている。最終的に義父の口腔実体が義母の口腔実体の髪を掴み、叩く。義父の実体は他の実体の額の皮膚を剥ぎ奪ってちぎり、ギョロギョロと動く失明した眼を露わにさせる。義母の口腔実体は悲鳴をあげ、金切り声を叫び喚く。D-112は目をそらさない。
1日が次第に短くなる。ある日、家族は教会風の建物を訪れる。ステンドグラスの窓には、何らかの格子に封じられた爆発している巨大な星を崇拝する、様々な口腔実体が描かれている。彼らが去る前の10分間、牧師の格好をした口腔実体は金切り声をあげ叫ぶ。
コマンド: もし財団じゃないのなら、俺が怪物だったなら?ああ神よ、D-112。ああクソ。全部俺のせいだ。俺の責任だ。
街の地形は1日の短縮に合わせ、次第に小さくなっている。
D-112は"8日目"には60代前半まで老化し、子供の口腔実体は恐らく、大学通学の為のBMW X6 Msと一緒に出発しようとしている。
D-112は何も言わなかった。
コマンド: 昔俺が高校に通っていた頃、ある女の子にセクハラをしたんだ。あの子はあの、あのタイトなショートパンツを履いてて、俺はあの子の少し後ろをやらしくつけ回した。すごく怒ってたし、すごく怯えてたよ。当時は触ってしまおうとまでしたけどまあ当然、恥ずかしくなって心の底から謝ったよ。彼女は肩をすくめていたようだけど、結局校長に報告されて、停学処分になった。この時だけだ。神に誓うが、俺は清廉潔白な人生を歩もうとした。歩もうとしたんだ。俺は毎晩あの子の顔を思い出すよ、D-112。毎晩さ。
コマンド: 財団に入って以来、俺はお前のような数え切れないほどのDクラスの死に様を見送ってきた。あいつらには大丈夫だと伝えてきた。だが何故だ?お前は何故?何故この町で、何故このアノマリーなんだ?罪悪感、羞恥心に押しつぶされそうだ。目も当てられない、俺は決して罪を償えない。お前は死んですらいない。絶対に償えない。俺は自分の罪に、永遠に充てがわれる。俺は汚れてる汚れてる、汚れちまってるんだ、D-112。
D-112は70代半ばに見える。監視サイトで24時間が経過するが、コマンドは立ち去らない。
コマンド: 死んじまいたいよ。
10日目は僅か30分であり、そのうち5分はD-112の退職に対するある種の手厚い送別会に充てられる。彼は口腔実体とのセックスを差し控えて就寝する。
D-112は真夜中のように見える時間に起床する。一続きのハミング音が確認できる。コマンドは音声通信システムが損失していることに気付く。
彼は裏庭を通って船渠へ進んでいき、水面へと歩いていく。彼は30秒間対岸に顔を向け、振り返り家へと振り返る。その後彼は空を真っ直ぐに見つめる。星々は地球上のあらゆる地点から確認できるどんな星座とも一致しない。D-112の焦点の分析は、彼が星間の暗闇を見つめていることを示す。
星々が回転し始める。
網膜内に生成される眼内閃光に類似した色彩の花が、踊る星々の間に現れ始める。花の色は緑や紫色である。
D-112はぶつぶつと唸り、嘆き始める。彼が声を発したのはこれが初めてである。彼は動く夜空から見下ろし、真っ直ぐに左側を見つめる。光学式インプラントが眼窩から前方に移動し始める。D-112は痛みから大声で叫び喚いている。
インプラントが視神経を抜け出しおおよそ30センチ前方を浮遊し、D-112の周囲を回転し彼に接面する。彼の青いパジャマは空の眼窩から滴る血液で汚れる。抜け出た目に映る彼は泣き叫んでいる。
D-112は歪み始め、周辺空間が減少し始めると同時に空間の長さが伸び始める。
D-112: いやだ…
D-112の歪曲が続き、彼の体が伸ばされ薄くなるにつれ、彼の悲鳴もまた更に歪めらる。最終的に、彼の頭頂部がカメラの視界から消え去る。おおよそ30秒後には、彼は周辺空間の2、3センチに存在すると推測される。彼の全長は断定できない。カメラ上部の何処かで大きな吸収音が拾われ、D-112の体が完全に消滅したように見えるまで薄くなり続ける。ハミング音は現在80デシベルである。ハミング音と吸収音の間で、イヤーピースを損失した状態の光学式インプラントカメラが如何にして音を拾えているのかは不明である。
光学式インプラントが色彩の花へ向かい上方に回転する。上方へ急速に速度を上げ、極めて早く地球脱出速度に達する。光学式インプラントに大気摩擦やG力の兆候は見られず、速やかに大気圏を脱出する。インプラントが速度を増幅させるにつれ、小惑星、惑星、星、星雲、そして銀河に類似した物体が現れる。
結局は、インプラントが通過した全ての物体は多様なガス雲であった。インプラントは極めて早く速度を上げ続けており、その後は何も起こらない。突如、眩い巨大な閃光がインプラントを取り囲む。周囲の宇宙構造は捻じ曲がっているように見える。ハミング音はある種の叫び声に変化した。電荷物質を大量に収集する発光体は、インプラントの周囲を照らす。それは宇宙そのものを超え航行し始める。
インプラント周辺の宇宙空間は、3次元を歪めた6次元のカラビ・ヤウ多様体の断片のように見える。
インプラントはそれ自身の裏側に突き当たる。それの線は際限なく引き延ばされる。画像のような複雑なモノクロのプリズムがインプラントの周囲を回転する。
多様体が崩壊して高く一直線に豚の子を産み網の目を越えた先に曲がりくねり捻り曲がった橋を架け始め長いトンネルの底の輝く地点で始まるデデキント無限が数直線の終端で舞っていて離れた場所にあるしわくちゃのベッドが真っ直ぐに眠り私達の骨と皮ばかりになり腐敗している筋肉は私達自身のものではなく私達は他の傀儡に操られる物乞いの傀儡を積み上げたそれは渦巻いて渦巻いて暗闇でムシャムシャとヤアヤアと食べ続け積み上がる傀儡を登り眠ったまま立ったまま私は目覚め幾千幾万の数え切れないほどの織り交ざった夢を見てお前達の道を捻り曲げお前達の頭蓋骨から無数の金切り声を上げ叫ぶ波打つ怪物を取り出しそしてそこに
そこに時間はない。
私達は今、深海を航海している
破壊者の向こうに
の無限の神秘が全ての人類を作り上げる
肉体が宇宙を取り込み精神が乖離し時間の無限の神秘が全ての人類を作り上げる
肉体が宇宙を取り込み精神が乖離し時間の無限の神秘が全ての人類を作り上げる
肉体が宇宙を取り込み精神が乖離し時間の無限の神秘が全ての人類を作り上げる
肉体が宇宙を取り込み精神が乖離し時間
少年: なにがおきたんだろう?
回転して回転して爆音が轟き燦然たる聖歌は恐れてならず光輝たる愛へと立ち入り果てしなく限りない虚空が深淵が安堵を齎し知識が恐怖を齎し
宇宙は非ず
御機嫌よう、私の坊や
何もかもが内側へ向け収縮する
ポップノイズが拾われ、光学式インプラントがSCP-4012の向こう側の林床へと落下する。
更なる実験においても、送り込まれた被験者の起源に応じた同様の結果が得られました。収容プロトコルは当該実験の結果を考慮し更新されました。これらのSCP-4012被験者の様々な経験に関する詳細な情報は、補足文書4012/1に記録されています。現在、本文書のミーム汚染の修復と調査が進行中です。コマンド代理であったレイモンド・ブラックスタイン博士には死後、財団星章が授与されました。