特別収容プロトコル(廃止): SCP-4017の出現を予測できる既知の手段は存在しません。解析部門が開発中のWATCHDOGプログラムや、世界各国の警察機関の潜入エージェントなどの標準財団監視プロトコルは、SCP-4017出現事象の詳細と一致する異常活動を全て報告します。出現事象の性質に応じて、奇跡論の訓練を受けた財団機動部隊がSCP-4017と交戦し、非実体化を強制するために派遣されます。
SCP-4017が非実体化した後、目撃者には記憶処理が施されます。SCP-4017によって残された全てのオブジェクトは最寄りの収容施設に移送されます。SCP-4017の出現は稀な事象であるため、財団と当該異常存在の直接遭遇は滅多にないと予想されます。
改訂 2000/06/21: 事案4017/λ-8に続き、SCP-4017の収容室の建造が進行中です。
改訂 2000/07/21: SCP-4017はNeutralizedに再分類されました。SCP-4017によって残された全てのオブジェクトは武装収容エリア-40に保管されます。SCP-4017の監視は継続されますが、再出現の可能性は低いため、低優先度です。出現事象が検出された場合は再分類が行われます。SCP-4017の過去の活動に関する調査は続行予定です。
説明: SCP-4017は奇跡論の能力を備えたヒト型の霊的実体であり、第二ハイトス教会の信者や、同教会の宗教慣行の支持者たちから文化的英雄と見做されていました。
SCP-4017の詳細情報はごく限られています。当該実体の描写において一貫している情報は以下の通りです。
- SCP-4017の身体は灰色または黒色で、ある程度の半透明性を帯びていました。2つの目があり、両方とも黄色に輝いていました。時折、口や鼻腔開口部などの顔面特徴についても言及されています。エクトプラズムが身体の大部分を構成していました。
- 表面的に板金鎧に似ている、金色の装飾が施された赤い鎧を着用していました。鎧の装飾は、それぞれ4~7本の腕を有するヒト型実体4体、6本の体肢を有する円錐形の実体1体、“神聖”と“永遠”を意味するオルトサンの文字です。この鎧の大部分は時間とともに失われたか、深刻に破損しているように思われます。
- SCP-4017は攻撃中に奇跡論エネルギーを伝導する手段として、SCP-4017-Aと指定される1本の槍を装備していました。SCP-4017-Aは多くの場合、黄金、赤い石のような素材、隕鉄で構成されていると描写されます。SCP-4017-Aの多くの部分は著しく腐食しているか、破損しているようです。
第二ハイトス教会やその他のオルトサン宗派から回収された文書は、SCP-4017は教会の前身である先史時代(紀元前11000年頃)の文明 — 出典ごとに“地球オルトサン王国”または“世界オルトサン王国”と呼ばれる — の戦士の霊であると主張します。SCP-4017は元々、征服の世紀にダエーバイト文明と戦った“聖者オンテウス”Onteus-One-Holyという名の戦士でしたが、後に未知の要塞を守備する戦いで死亡しました。SCP-4017はそれ以来、援助を必要とする様々なオルトサン団体を保護するために出現していました。
特筆すべき事に、SCP-4017は幾つかの事例で男性とされている一方、その性別は概ね曖昧なものとして描写されています。これは、人類の性別の概念に従わない神々や地球外存在の崇拝に起因する、性別をあまり重視しないオルトサンの文化観と一致します。
殆どのSCP-4017出現事象は、1885年のシチリア超自然条約における異常収容連合の結成に先立つ遥か昔に発生しており、出現回数は時間とともに減少していたと推定されます。このため、財団との直接接触事例の発生は1回しか知られていません。 詳細は補遺2の事案4017/λ-8関連情報を参照。
補遺.1: 以下はSCP-4017に関連する文書です。詳述されている出来事の時系列順に並べられています。
文書名称: 或る観察者のダエーバイト包囲戦報告、紀元前11000年頃
執筆時期: 紀元前11000年頃
著者: 不明
序: この文書はSCP-1726から回収され、█████-ヒト儀式手順を介して翻訳されました。当時ダエーバイトに侵略されていたと思しきエルリオンティパ文明の人物によって執筆されたようです。SCP-1726の文書以外に、エルリオンティパ文明の痕跡は存在していません。これは生前の聖者オンテウスの行動を記した唯一の直接証言です。
或る観察者の報告書。
今朝早く、ダエーワ — 畜生どもに死を — の軍勢が [凡その音訳: アイコン?] の門に接近した。奴らは皆、血飲みの剣で武装し、門を取り巻く柱が小さく見えるほど巨大な樹木獣に騎乗していた。私は神聖光線の筒 — 聖なる元素を讃えよ — を装備して、遠く [凡その音訳: アヴィラ?] 山の山腹からそれを見守っていた。
アイコン門街のオルトサン衛兵たちが防衛のために入口に集結した。ダエーワ — 畜生どもに死を — の矢が当たると衛兵の身体の内外は裏返しになったが、一方の衛兵は樹木獣に傷一つ付けることができなかった。樹木獣は戦士たちを踏み潰し、開花した枝からの砲火が門街の民を打ち砕いた。多くの衛兵は退却を試みたが、砲弾に喰われた。それから、家屋ほどもある巨大な犬に乗ったダエーワ — 畜生どもに死を — の騎兵の軍勢が街に侵入した。
砲弾どもが貪り終えるよりも早く、槍1本だけを携えた1人のオルトサン衛兵がそいつらの頭を刺し貫いた。槍兵はエーテルを曲げて目も眩むような矢を放ち、騎兵たちは眩い爆発で獣ともども焼き尽くされた。槍兵は3羽の太陽鳥 — 父祖なる太陽の力を恐れよ — の壮大な幻影を創り上げ、それらはまるで樹木獣を襲うかのように動いた。樹木獣に乗っていた射手はそれに気を取られて、槍兵が樹木獣の脚にエーテル爆弾を植え付けたのに気付かなかった。全ての爆弾が炸裂し、樹の足は氷になって砕け散り、全ての樹木獣が倒れた。生き延びた射手も兵士も串刺しにされた。
あの槍兵は強力なエーテル歪曲者だ。アイコン門街は護られている。
データベース番号: 1991
代替指定名称: 聖者オンテウス廟
場所: 中華人民共和国、新疆ウイグル自治区、ブグル県
説明: 要注意領域(LoI)-1991は紀元前1600年頃の地下洞窟網です。主要な入口のトンネルは元々ベリリウム青銅合金のハッチで覆われており、堆積物の層に埋もれていました。食物の残骸、オルトサン語で記された祈祷文、現代のオルトサン放血儀式に用いられる物と類似する石塊などを基に、洞窟は一般的な崇拝の場であったと仮定されています。
2ヶ所を除く全ての部屋は崩落しています。現存する部屋の片方には槍、表面的にライフルに似ているが見てそれと分かる弾薬を欠いた武器、高度な内部メカニズムを搭載した鉄製の義肢が備蓄されています。全てのオブジェクトに未特定のルーンが彫られています。
もう片方の部屋、以下“廟室”では、SCP-4017を象った像が台座の上に配置されています。この像はSCP-4017-Aを空中に掲げたSCP-4017が、歯車が埋め込まれたヘビ様の頭蓋骨の上に立つ様子を示しており、断頭されたダエーバイト戦士がその足元に横たわっています。背後には4本の腕を持つ細身のヒト型実体を象る、より大きな像があります — 全身を鎧で包み、4ヶ所の覗き穴がある鉄兜を被ったこの像は恐らく、オルトサンの守護神であるラクマウ・ルーサンを表しています。台座には、相次ぐ紛争を通してSCP-4017の強さが保たれることをラクマウ・ルーサンに願う祈祷文が彫られています。
廟室の壁には4枚の絵画が描かれています。説明は以下の通りです。
絵画1: ヘビ様の下半身やコブラの頭部といった爬虫類の特徴を帯びるヒト型実体がライフルを発砲し、SCP-4017がそれを刺突している。この実体は夏の異常文化集団の一員を描写した可能性がある。
絵画2: 殷王朝時代の建築様式と大雑把に類似する塔を上に乗せた6本脚の機械が、集落の隣に立っている様子。機械の前面にある大砲は集落の寺院を狙っている。SCP-4017は槍を構えて機械の脚3本に突進し、破壊している。
絵画3: SCP-4017は巨大なヘビ型実体の切断された頭部の上に立ち、槍を空中に掲げている。ヘビ型実体は中国の龍に似ているが、首の切断面から歯車が露出している。隣には破壊され、炎上する建物がある。人々が切断された頭部の周囲に跪き、祝福している。
絵画4: SCP-4017は6個の小さな目に囲まれた1個の巨大な目を切り裂いている。それぞれの目には瞳孔の代わりにダエーバイトを表すオルトサン語が記され、破断した鎖が目の集まりを丸く囲んでいる。
廟室と武器の備蓄に基づき、LoI-1991は現在“第0次オカルト戦争”と見做されている時期に建造されたと考えられます。この期間中には夏王朝とダエーバイトの勢力圏が共に急速に拡大し、現代の中国と近隣地域の多くに跨る戦争へと発展しました。LoI-1991の備蓄に存在する高度技術は夏王朝から収奪された、もしくは派生したものと仮定されています。
このオルトサン集団が、征服の世紀を生き延びた地球オルトサン王国の一部だったのか、全く異なる信徒だったのかは明らかになっていません。どのようにLoI-1991、SCP-4017、オルトサンが戦争を終結させたK-クラス事象を乗り越えたかは調査中です。
文書名称: Mekhaneの信奉者の一員が執筆した巻物
執筆時期: 紀元前1000-1200年頃
著者: 不明
序: この文書はギリシャのアンドロス島で、壊れた神の教会の歴史的前身団体、“Mekhaneの信奉者”の地下遺跡を調査していた財団考古学者たちが発見しました。巻物は遺跡の図書館区画で、破損した水密性の円筒の中から見つかりました。一部が破損していたものの、ミケーネ・ギリシャ語から派生した原文は大まかに翻訳可能でした。
この団体から発見された他の巻物と比較した研究者たちは、これが多数の古代メカニト集団と1つのサーキック教団の間に発生した大規模な戦争の最中に執筆されたと結論付けました。この戦争の正確な原因、結末、戦後の余波は不明確です。
[巻物の破損部分、現在まで未翻訳]
2人の身体 [変化者/再構成者] は巨像の聖炎を回避し、近隣にある星見の村に向かって逃走した。我々は巨像たちを村へと進めた。
戦士アナスタシオスは、敵を排除するため村に立ち入らねばならないと村人たちに告げた。巨像を見て臆しなかった星見は [幽霊/“来世-取り残された”] の槍兵だけだった。
槍兵は入村を拒み、我々は不要な損害を引き起こすと言った。我々は敵が如何にしてあの“紅き死”と並ぶほどに忌まわしい苦境を齎すかを説いたが、彼らは敵の存在を否定した。あらゆる入村の可能性は絶たれた。
話しながら、槍兵はまるで病に罹っているかのように身を震わせ、咳き込んでいた。我々から歩み去る時、槍兵は幾度もよろめいた。霊のそれとは思えない動きだった。 [不明な語句、未翻訳]。
戦士アナスタシオスが帰還した時、我々は村に聖炎を浴びせようと決断した。我々は敵が変装したと信じており、入村が禁じられた以上、全ての村人が侵されているか否か知りようが無かった。槍兵の病は、我々が彼らを信用できないことを意味した。
我々が進み出す前に、村人たちは捻じれた肉の塊へと成長し、融合して2人の身体 [変化者/再構成者] を形作った。敵は巨像とほぼ同じ高さがあった。我々は敵を追ったが、彼らが揺らめいて何処へともなく消滅し、すぐにまた現れたのを見て立ち止まった。それらは幻影だった。
巨像は壊れた。 [巻物の破損部分、未翻訳] は両足に穴を空けて内側をよじ登り、歯車を破壊した。槍兵は聖なる [巻物の破損部分、未翻訳] 破壊していた。
[巻物の破損部分、未翻訳] 戦士ソフュスは槍兵の脱出を防ぐために巨像8号の内部を降下した。槍兵は全ての [溶けた/炎上する矢] を逸らして腕の歯車を傷付けたが、振り回す槍と聖なる衝撃波は殆どが外れた。苦闘の末に、戦士ソフュスは槍兵を突き刺して消滅させた。
我々は2人の敵が村の近くの洞窟から出て北へ向かうのを見た。修復が完了すれば、星見の村に戻る必要は無さそうだ。
結: 特筆すべき事に、記述されたオルトサン集落や、この時期に存在したオルトサン社会についての他の情報は全く発見されていません。
以下は、元々“秘匿されし智慧の近衛部局”Praetorian Office of Secret Wisdomが所持していた羊皮紙文書の集まりから得られた、SCP-4017についての文献です。これらの文献は、西暦270年頃に様々な異常社会集団を征服する目的で結成された“第31軍団ナエヴィア・ヴィクトリクス”Legio XXXI Naevia Victrixに関連します。“秘密と予言のためのバチカン神聖局”Vatican Holy Office for Secrets and Propheciesは後に文書群を取得し、異常物との関わりを持つ第31軍団ナエヴィア・ヴィクトリクスの存在の隠蔽に深く関与しました。財団は1964年、バチカン神聖局の解散後に文書を入手しました。バチカン神聖局の手で多くが失われたこの文書群以外では、第31軍団ナエヴィア・ヴィクトリクスの情報は僅かしか残っていません。
全てラテン語から翻訳されています。多くが破損しているため、SCP-4017に直接関連する、完全に読解可能な部分の抜粋のみを掲載します。著者や記述された場所は不明です。
街の門を破壊して間もなく、亡霊のような槍兵に遭遇した。槍兵は最前列の兵士たちから臓物を抉り取り、術師たちを攻撃した。術師5人が死に、そのうち2人は幾つもの重傷に加えて首を切り落とされた。我々の祝福されし槍から放たれる雷撃さえ、あの槍兵には効果が無かった。星の流血者どもの衛兵はこの機に乗じて、我々の部隊の落伍者たちを殺した。グナエウスが防衛の妖魔を召喚しようと試みたが、槍兵が4本腕の鎧を纏った獣に変身するのを見て取り乱した。
更なる損失を避けるために撤退した。4本腕の獣は消滅し、槍兵が作り出した幻だと分かった。野営地に戻る時、微かに星の流血者どもの歓声が聞こえた。
あれは星の流血者どもが召喚した精霊か妖魔なのだと思う。精霊も妖魔も世界に完全に根付くことはできない。時間と共に消えてゆく。その時まで待機するようにマンリウスに伝えなければならない。
槍兵は [判読不能] 頭の位置 [判読不能] 正しい頭の位置 [血痕] 正しい。槍兵は神聖な接触を行った。首元の槍は太陽の熱を帯びているように感じられた。斬り込んできた時はさらに熱かった。他の感覚もある。槍は槍兵の感覚を運んできた。槍兵の [判読不能] 病んでいる。
二度目の攻撃は門に到達する前に押し止められた。槍兵は門の胸壁から大岩を投げ付けて戦士たちを多数潰した。どの岩も割れると石人形になり、それらはキケロが魂を月に飛ばした時に見た妖魔どもと同じ円錐形の身体をしていた。奴らの触手と槍兵の槍から発射された炎で多数が殺された。女神フォルトゥーナが我々に味方したに違いない、槍兵の炎の多くは大きく的を外していた。ヴィトゥスが呪文で保護障壁を具現化させ、我々は野営地に戻ることができた。弓兵たちが少しずつ石人形を砕いている。
最後に見た時、あの哀れな槍兵は血反吐を吐いていた。我々が退却する時、奴は門の胸壁でよろめいた。我々はあの化け物を殺せる。
我々の三度目の攻撃が、星の流血者どもの防備を大幅に弱体化させたことを此処に報告する。術師6人が偽の突撃を開始し、あの槍兵を持ち場から街の外へ誘き出した。胸壁の上にいる衛兵を殺した弓兵たちの助けを借りて、セルヴィウスとヴェスパシアヌスが口から揮発液を噴き出し、祈りの言葉を添えて門に塗り付けた。
術師たちが槍兵と戦っている間に、フロルスは自らの頭を喰らって [不明な言葉、未翻訳 — 何らかの名称] 体になった。フロルスだった物は槍兵を半分に叩き割り、槍兵は術師たちの力によって強制的に門へ戻された。奴はよろめき、血を吐いてから消滅した。血は浮かび上がって空に消えた。
明日、セルヴィウスとヴィトゥスは揮発液に祈りを捧げ、門を爆破する。
星の流血者どもが焼ける香りは実に芳しい。
文書名称: リーザ・オンテオンの個人日誌の抜粋
執筆時期: 1879/08/19
著者: リーザ・オンテオン
序: リーザ・オンテオンはドイツのバイエルンの森に存在した短命なオルトサン教団の一員であり、そこでの経験に関する多くの日誌を書き残しています。財団は1981年、ドイツのイェーナにある第二ハイトス教会分派の亡命者を通じて日誌を入手しました。留意点として、この抜粋部分は1875年から1882年まで続いた第6次オカルト戦争の期間中に執筆されています。
農場に散らばった榴散弾の欠片を掃除していると、子供たちがどよめいているのを皆が聞きつけた。皆が急いで駆けつけ、クレメンスは剣を持って行った。畑の中に、火のような目をして、鎧を着た精霊が立っていた。私たちは皆戦う準備ができていたけれど、精霊に悪意は無いのが分かった。精霊は子供たちと遊戯をしていて、彼らを楽しませるためにちょっとした魔法のトリックを披露した。クレメンスが誰何すると、“聖者オンテウス”とだけ答えて遊びに戻った。
全員警戒していたに違いないけれど、すぐに吹き飛ばされた瓦礫を取り除いたり、家を補修したりの仕事に戻った。殆どの時間、貯蔵庫の近くのクレーターから鳥型オートマトンの残骸を剥ぎ取るのに費やした。クレメンスは灰色の金属片を持ち上げて、それを組み立てたチェコのオカルティストを呪い、金属片を小屋に持ち込んで、その流れを繰り返した。それを面白いと思う気分も、簡単に繰り返せる事だと皆気付くと薄れていった。私は度々精霊に目を向けた。精霊は私が今まで聞いたことの無いオルトサンの踊りを教えながら、町の外で騒乱が起きていない風に子供たちに思わせようとしていた。
[…]
日が沈み始めた頃、私は街の外れに向かった。精霊が木の下に座って、断崖から真下の広い森を眺めているのが見えた。身を屈めて、大きく華やかな槍の上に手を置き、カタツムリほども動かなかった。話し合ってもいいか聞いたけれど、答えは無かった。もっと傍に近付くと、恐ろしい幻覚に襲われた。村々で虐殺する大昔の兵士たち、燃える町、書き残したくもない光景。精霊は全ての幻覚にいて、暴力を振るう奴らに走っていこうとして、けれど毎回よろめいて引きずり戻されていた。私が一歩下がると幻覚は消えた。
精霊の考え事を邪魔しないほうが良さそうだと思った。
結: 次のエントリを基に考えると、SCP-4017は翌日に非実体化したようです。この日以降の日誌では、SCP-4017を発見する、そしてある一例では直接召喚する試みについて記述されていますが、このオルトサン集団は最終的に戦争からの防護措置に注力し始めました。
文書名称: オペレーション・エコー・カーヴの証言書
執筆時期: 1944/10/22 (記述されている出来事は前日に発生)
著者: 連合国オカルトイニシアチブ特殊工作員、ヨセフ
序: これは世界オカルト連合の第7次オカルト戦争関連アーカイブ文書の抜粋であり、連合国オカルトイニシアチブの工作員が執筆しました。オペレーション・エコー・カーヴは、トゥーレ協会が運用する予定のオカルトアーティファクト群を輸送中だったオブスクラ軍団の貨物船を拿捕するために実施されました。アーティファクトの1つはノルウェーにある第二ハイトス教会の小規模分派に由来していたと確認されています。
ケルン条約の下に交渉されたSCP-3457の財団-GOC共同収容の条件に違反するため、完全な証言書は提供されていません。
船の魔導士はすぐ俺たちに気付いた。彼らは青い炎の鷹を宙に打ち上げ、数秒以内に夜空が輝き始めた。こちらの弓兵は最初の数羽を殺し — 挑戦的なプロセスだ — 俺たちが焼き尽くされないよう保つのに十分な数の聖水矢を用意していたが、とにかく召喚された数が半端じゃなかった。鷹が船に体当たり自爆を始めた数分後には、俺の船の仲間とデル船長しか残っていなかった。その頃には、オブスクラ軍団がいちいち鷹を使わなくても攻撃できるほど近付いていた。彼らの銃弾が当たってもおかしくない距離だった。
何処から来たかは分からないが、その時、1体の霊体が俺たちの船の頂点に出現した。俺が想像できるよりも尚多くの戦いで傷付いた鎧を着て、使い古しの槍を握っていた。一言も話さなかった。素早く貨物船に飛び移ると、数人の兵士を斬り捨て、旋回して魔導士が発射した炎の柱を食い止め、逸らした。印象的だったが、俺はその霊体が戦いに使うエーテルの歪みを仄かに感じた。それは力強く感じられたが、霊体はそれを完全には制御せず、自分の攻撃としては槍から魔法の火花を飛ばすだけだった。霊体の進撃を遅らせるには魔導士2人だけで十分だった。
間もなく、霊体はミスを犯した。あいつは1人の魔導士に集中し過ぎていた。もう1人はその時間で妖魔を召喚した — 召喚を止める試みは、彼らが創り上げた障壁で全てブロックされた — 妖魔は霊体に突進し、雄牛のような三つ首から生えた角で串刺しにした。霊体の傷から血が迸ったが、それは水に当たらず、宙に漂う液状の煙のように振る舞った。霊体は水中に放り込まれ、泳いで離れようとしたが、銃撃に圧倒されて沈んだ。
あの霊体が何故あそこに現れたかも、生き延びたかどうかも知らない。分かるのは、あいつが注意を逸らしたおかげで、俺たちが安全に乗船できたことだけだ。
文書名称: “長司祭の旅路”の抜粋
執筆時期: 1996年 (記述されている出来事は1944年頃に発生)
著者: 第二ハイトス教会コル長司祭、アルバノ・アルノクス
序: これは第二ハイトス教会の指導者アルバノ・アルノクスによって執筆され、同教会の内部でのみ出版、流通していた“長司祭の旅路”の抜粋です。特殊工作員ヨセフの証言における詳細との類似点を基に、以下の出来事はオペレーション・エコー・カーヴと同じ日に発生したと考えられています。
激しい衝突音を聞いた時、私はトロント・オルトサン教会の図書館で、両脇を本棚に挟まれていた。木の床にぶつかる金属、そして叫び声。最初は近付くのを恐れた。私は図書館にかつて収蔵され、忘れ去られた呪いの写本を誤って開いた人々の話を耳にしていたし、開かれた写本から何が出てくるかをよく承知していた。しかしその時、曲がり角の向こうからラクマウ・ルーサンへの静かな祈りが聞こえた。私は多少落ち着いたが、それでもまだパニックを起こしていた。
角を曲がった私は、1人の精霊が小さく身を縮め、本棚の1つにもたれかかっているのを見た。その鎧は古代の物で、腐食し、何百もの武器に削られていた。大きく砕けた部分の隙間から、半透明の灰色の身体が露わになっていた。傍らに置いた槍さえも刃の一部が欠けていた。精霊は片手で胸を掴んでいた。
「何者だ?」 精霊は静かな声で訊ねた。琥珀の中を流れる光のような目が私を見据えていた。
私は名乗り、慎ましい司祭であると地位を明かした。私は精霊の口元が微笑んだと信じている。
「俺が何者かを知っているか」 彼は訊ねた。
分からないと答えた。彼の微笑みが薄れ始めたのが見えた。
「この槍が分かるか?」 彼が胸元から手を外すと、そこからガスのような血が零れ出し、上方に漂って消えてゆくのが見えた。鎧には6つの穴が開き、折れた角の欠片が残っていた。
やはり私には分からなかった。
「ダエーバイトと戦った槍兵の話を聞いたことが無いのか? 蛇人間どもとの戦争の話も? 歯車の男たちも? 何も知らないのか?」
何を訊かれても私の答えは同じだった。その頃には、僅かばかりの笑みの名残も消え失せ、ただ落胆した表情だけがそこに在った。精霊は溜息を吐くと、神々についての、私が今まで聞いたことの無い讃美歌を幾つか口ずさんだ。彼はある種のエーテルの病に侵されているように思われた。私は何が起きたのかを訊ねた。
「俺は薄れつつある。俺は祭式を行った…」 彼の言葉は呟きに変わり、咳き込んで血を吐いてから再び話し始めた。「美しい来世とその精霊たちはたぐり寄せ続けている。民の記憶は、それが真実から程遠いものに変わり始めても尚、俺を繋ぎ止めていた。しかし今は…」
私は明白な質問をしなければならないと気付いた。彼が誰なのかを訊ねた。一瞬の間に、床は光り輝く金色のオルトサン文字で覆われた — 私たちが居た通路の遥か先まで延びるそれらは、全て“聖者オンテウス”の人生を綴っていた。私は鉛筆を見つけて、儀式書のページにひたすら情報を走り書きした。全てのページの余白に沿って、印章の図式のあらゆる隙間にさえも書き込んだ。
この知識が広まれば健康を取り戻せるのか訊ねようと顔を上げると、彼は消えていた。鎧の破片だけが残されていた。
それから私は聖者オンテウスの姿を再び見ていない。
結: オペレーション・エコー・カーヴの日付以降のSCP-4017との遭遇を記述した文書は発見されていません。
補遺.2: 2000/06/21、SCP-4017は機動部隊ラムダ-8(“王朝荒らし”)の第2チームと遭遇しました。当時、チームは地球オルトサン王国のアーティファクトを武装収容エリア-40に輸送する途上にあり、輸送トラックは22:12にSCP-4017の攻撃を受けました。λ-8-T2は交戦し、奇跡論的爆発でSCP-4017に重傷を負わせ、その後SCP-4017をエリア-40に移送しました。λ-8-T2は7名の負傷者を出しましたが、死亡者はいませんでした。
回答者: エージェント 徐常シュー・チャン
質問者: 関暖クァン・ヌァン 研究員
日付: 2000/06/21
序: このインタビューは、SCP-4017との遭遇に続き、λ-8-T2エージェントに対して行われた幾つかの聞き取り調査の1つです。
<記録開始>
徐: 今じゃなきゃダメか? 奇跡論がどれだけ疲れるものか知ってるだろ。
関: いいですか、私も長い1日を過ごしてきましたよ。ですが上層部は、例の事案がまだ皆の心に新鮮であるうちに何らかの証言を求めています。
徐: (不明瞭な呟き)
関: (溜息) もし何なら、今回は短く済ませましょうか。
徐: 短くってのは?
関: どのような事案だったかの概要とか、あなたの感想とかです。
徐: それで全部かい?
関: それで全部です。
徐は頷く。
徐: まぁ楽な戦闘ではなかったな、それは確かだ。4017が最初のトラックを横転させた後は、何が起きているかを考える余裕もなかった。オルトサンの文化的英雄を敵に回した以上はそれに対処しなければならない。対処できる限りは、こっちがどんな手段を使おうと問題じゃない。私は専ら、ナットが血で仕込んだ印章トラップで4017を吹き飛ばすまでの間、炎や雷やチームメイトたちが手からぶっ放すあれこれの爆風を避けて回っただけだ。しかしあの戦闘は何となく… 妙だった。
関: 何故そう思うんです?
徐: 4017は一度も誰かを殺さなかった。そりゃ我々は訓練を受けているから、戦わずして死ぬことは無いとも。だが、相手が非常に不利な状況に立たされても、4017は行動を起こさなかったんだ。ジェームズは自分が飛ばした炎の呪文を4017の槍に吸収され、撃ち返されたエーテル弾を喰らった。彼はそのまま倒れっぱなしだったが、4017は何もしなかった。ただ次の相手に向かい合っただけだ。
関は頷く。
徐: その間ずっと4017はよろめき続けて、我々を葬り去るはずの攻撃を外したり、咳き込んだりしていた。そして、印章トラップが爆発して我々が勝利した時、私は千切れた四肢が突然4017に引き戻され、まるで最初から無傷だったようにくっつくのを見た。なのに奴は横たわったまま、全く身動きしなかった。予想ほど困難ではなかった — もっと苛酷な戦いになり得たはずなんだ。
関: 成程。これで十分だと思いますが、何か付け加えたい事はありますか?
徐: 分からない。まだおかしな気分だ。奴は病気のようだったし、最初から手負いで、例の不気味な幽霊血液をそこら中から垂れ流していた。それでも奴は戦ったんだ、全く攻撃性を見せずに… (短い沈黙)
関: 考えを邪魔して申し訳ありませんが、他のインタビューもあるので、これで—
徐: 我々が本気で奴を怒らせたとは思ってない。多分、奴には戦う理由が必要だった。勝利する必要が、まだ自分が英雄であると知る必要が—
インタビュー室のドアが突然開き、セッティモ・ルッソ研究員が入室する。
関: ルッソ?
騒ぎ声と職員の走る足音が室外から聞こえる。
ルッソ: 関、4017に何か起こってやがる、早いとこあの収容室に向かうんだ。
関: 待っ、何が—
徐: 一体どうした?
ルッソ: 道中で話す。
関は慌しく椅子から立ち上がる。
ルッソ: 徐、インタビューは終了だ。下がっていいぞ。
<記録終了>
23:20、奇跡論的封印が施された暫定収容ユニットの内部で、SCP-4017の身体のエクトプラズム構造は大規模な不安定性を示し始め、それに伴って殆ど理解されていない異常効果を複数起こし始めました。SCP-4017は即時のインタビュー実施を要請しました。
回答者: SCP-4017
質問者: 関暖クァン・ヌァン 研究員
日付: 2000/06/21
<記録開始>
SCP-4017収容室内のカメラは、SCP-4017がよろめきながら床を横切り、壁に背中を預けるように崩れ落ちる様子を映す。血液のような半透明の物質が、収容室内に大量に浮遊している。
関: (収容室のインターコムに、オルトサン語で) 聖者オンテウス、何が起きているのですか?
SCP-4017: (北京官話で) 何処の為政者がそのような粗末なオルトサンを話す? お前たちの— (咳き込む) 母国語なら知っている、夏王朝の逃亡者よ。
関: (北京官話で) その— いいでしょう。しかし、何が起きたのです?
SCP-4017: 時間は流れ続けている、流れは速く、手から滑り落ちてゆき、俺には答える時間が無い。聞…
SCP-4017の鎧の破片が、ゆっくりとSCP-4017の身体をすり抜けて床に落ちる。
SCP-4017: 聞け。良き記録者となり、俺の言う事を全て書き記して教会に送れ。お前がそれを何処の教会に送ろうと、そこが教会である限り、教会は気にせぬだろう。教会… 俺の言葉を書き留めろ。
関: は— はい、勿論です。メモ帳、誰かメモ帳をくれ!
この時点から、関はメモ帳を手元に置き、SCP-4017の言葉を全て書き留め始める。
SCP-4017: (頷く) 用意は良いか?
関: はい。
SCP-4017: (咳き込む)
さらに多くの血液のような物質がSCP-4017の身体から排出される。
SCP-4017: 俺の… 名前。俺は… 聖者オンテウス。俺はもう戻らないだろう。俺には7柱全ての、違う、死んだのだ、4柱の、違う、3柱、2柱、1柱の、神々… 神の力が流れている。俺は神々に佳く仕えてきた。俺はもはや必要とされていない。お前— (咳き込む) お前たちと神々、否、お前たちと神の助力となり得る者は他にいる。
SCP-4017は両腕を上げようとするが、腕は動きながら揺らめく。両腕が唐突に落下し、ゼラチン状のエクトプラズムの塊になって壁と床に癒着する。
SCP-4017: 神聖なる第四位が… 永遠であらんことを。
この時点までに、鎧の大部分がSCP-4017の身体をすり抜けている。SCP-4017の身体はゆっくりと不定形の塊に変わり、エクトプラズムの欠片が剥がれ落ちて上方に誘引されている。
SCP-4017: 世界が… 永遠で、あらんことを…
<記録終了>
数分後、SCP-4017は分散してエクトプラズムの雲に変わり、SCP-4017-Aと鎧の全体を後に残したまま、上方へと急加速して消滅しました。SCP-4017-Aと鎧のエーテル反応の欠如から、アーティファクトの奇跡論特性や、SCP-4017との奇跡論的接続は全て失われたものと仮定されます。これは、SCP-4017が非実体化ではなく死亡したことを示唆しています。
SCP-4017は2000/07/20を以てNeutralizedに再分類されました。保安上の懸念のため、インタビューSCP-4017/1の間に執筆されたメモは現在まで第二ハイトス教会に送付されていません。