クレジット
タイトル: SCP-4040-JP - 木道の先
著者: renerd
作成年: 2025
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SCP-4040-JP内部。
特別収容プロトコル: SCP-4040-JPに関する情報を閲覧する際には、必ず処置258-"黒橡"を受けてください。但しこれは暫定的なものであり、早急な更新が求められているものであることに留意してください。
サイト-8120 B棟1階のエレベーターホール、およびセクター-8120-煤は封鎖されています。SCP-4040-JP調査部隊員以外がこれらの場所に入ることは許可されません。
第2次SCP-4040-JP内部調査は計画途中です。
説明: SCP-4040-JPは、財団施設のサイト-8120 B棟1階のエレベーターホールから侵入できた、規模不明の余剰次元です。内部には森林と湿原が広がっていますが、正確な地理は不明です。SCP-4040-JP内部は、ベースライン現実と時間進行が一致していません。
SCP-4040-JP内部では、複数の認識災害・ミーム災害が確認されています。低レベルな対抗措置のみを施された者が空間内でこれらに曝露した際に何が起こるかは依然不明であり、その全容は解明されていません。
発見経緯: 2024年10月16日の午後5時11分、サイト-8120は物理的・情報的にロックダウン状態となり、外部との交信を自発的に遮絶しました。
ロックダウンの6分前には「緊急事態発生」を意味するコードが、湯川サイト管理官によって発信されています。この前後の他の通信にはいずれにも非常に強度の高いミーム災害が自動検出されており、システムによる自動遮断が行われました。
情報的ロックダウンを突破する目的でインシデント初期に行われた外部からの通信の試みは全て、ミーム災害の影響で失敗しています。これには、サイト-8120所属職員への私的な回線を通じた通信も含まれています。
この情報的ロックダウンに資していたミーム災害は、断片的な自動解析の結果から、過去にSCP-040-JPへの対ミーム予防措置として作成・使用されていた処置253-"柳煤"との関連が指摘されています。無害化処理を施された解析結果の一部に、以下のミームベクターが発見されています。
最も暗闇に近いのは、柳を燻らせた煤である。
即座の自動遮断のために致命的な被害は出ませんでしたが、事前の予防措置なしに通信を受けた複数名が、セクター-8120-"煤"を訪問しようとする、という軽度認識災害に曝露しました。
サイト-8120への物理的侵入の試みが成功したのは、事態発生から34時間後のことでした。収容違反対策に設置されていた隔壁によって全ての入り口が封鎖されていたため、初期対応が遅れました。サイト建設以後に行われた一般の土地開発のために、サイト-8120周囲には市街地が広がっており、強硬な侵入のために必要である強力な手段を単純に用いることはできませんでした。
物理的・情報的なロックダウンのためサイト-8120は自己収容状態にあるとみなされましたが、内部の状況が未知数かつ、現在の状態がいつまで維持されるか不明であるために、調査は必須であると考えられました。
インシデント発生から約31時間後である10月17日の午後11時30分、サイト-8120内部への強硬侵入と調査を目的としたチームが編成されました。作戦は、
- 地下配管溝への接触・有線ロボットによる配管を通じた施設内部への侵入
- 清浄通信経路の確立・隔壁の一部解放
- 機動部隊の突入
という順序で予定されていました。
元々予定されていた下水道工事の承継を以てカバーストーリーとした、地下配管溝への接触段階の様子。
作戦開始から約1時間半が経過した10月18日の午前1時5分、地下配管溝への接触が完了する前に、SCP-040-JP収容棟からの通信が確認されました。これはサイト-8120におけるインシデントと強い関連があると判断されたため、強硬侵入作戦は一時中断され、データの解析が行われました。
通信の発信元はサイト-8120に所属している人工知能コンスクリプト1である、Macy.aicでした。自動スクリーニングによる限りデータ内にミーム災害・認識災害は検出されませんでした。データの内容は、サイト-8120のロックダウン前後から32時間後の通信に至るまでに行われた、SCP-4040-JP内の探索記録でした。
補遺4040-JP.1: Macy.aicによる記録
以下の内容はMacy.aicの記録を編集し書き起こしたものです。記録は基本的にMacy.aicがサポートしている奪感者、エージェント・赤沼 聡の行動に関するものでした。
補足: 奪感者
"奪感者" とは、財団の侵襲的な外科処置により視覚・聴覚・嗅覚・味覚を剥奪されたエージェント、ミーム対抗スペシャリストを指します。
奪感者用の特殊スーツ装備にはカメラ (可視光 / 近赤外線 / 遠赤外線)・マイク・超音波センサー・近距離レーダー・LiDAR2・加速度計・各種通信機等が内蔵されています。薄型バックパック中でAICがそれらセンサから得られた周囲の情報を総合し、触覚グローブを用いた指点字3によって奪感者に状況を伝え、またコミュニケーションを取ります。
Agt. 赤沼は、財団機動部隊員としての収容活動中に発生した事故の影響で、視覚と聴覚を完全に喪失しています。医療部門によるリハビリ後に復職を求めたAgt. 赤沼は、奪感者への転任を打診され、これを承諾しました。
インシデントが発生した10月16日の午後5時、Agt. 赤沼は訓練が終了した直後で、サイトの廊下を移動しながらMacy.aicと会話をしていました。
Record
サイト-8120 B棟
付記 (以下同):
- 記録の文字起こしは基本的に、Macy.aicによって行われている。
- Agt. 赤沼は発話機能を喪失しておらず、Macy.aicはスピーカーを通じて発話することができるため、場に第三者がいる際には、発話を用いたコミュニケーションが取られることがある。指点字会話と音声会話が混在している際には、明らかな場合を除いて、それを明記する。
- 指点字による会話は全て、可読性のため一般的な日本語文章表現に変換されている。言葉が補われている箇所もある。また、両者間で使われている独特の表現 (感情伝達のための符号など) は、同等の日本語表現に置換されている。
- Macy.aicからAgt. 赤沼への指点字を用いない緊急信号は、《》で括って表記されている。
[Agt. 赤沼はサイト-8120のB棟にある自身の私室に向かっている]
Macy.aic: 大変お疲れ様でした。エレベーターまで?
Agt. 赤沼: エレベーターまで。今日は疲れた。
Macy.aic: では、17 m先で右折すればエレベーターホールです。
Agt. 赤沼: それで、2機の間に呼びボタン。どちらのエレベーターもメインの操作パネルは入って左手側、下側に開閉ボタン、左下からNの字の順で数字、だろう。
Macy.aic: その通りです。サイト内の構造は、細かいところまで完璧ですね。
Agt. 赤沼: もう流石に慣れたよ。
Macy.aic: 多くの人は、操作パネルが扉のどちら側にあるのが一般的なのかも、あまり意識したことがないでしょう。
Agt. 赤沼: 僕も半年前はそうだったけどな。
[両者がエレベーターホールに入る]
Macy.aic: 男性が約3.8 m先でエレベーターを待っています。高山医師です、数ヶ月前のリハビリ時代に幾度か会話をしたことがあります。エレベーターの上向き呼びボタンはすでに押されています……高山医師に、軽い会釈をされました。
Agt. 赤沼: [近づいて会釈をする。発話して] どうも、お疲れ様です。
[以下、高山医師の発言はMacy.aicによって指点字に同時通訳されている]
高山医師: どうもお久しぶりです。その様子だと、もう全く支障はないようですね。
Agt. 赤沼: [発話して] ええ、問題なく。[指点字で] 今日の訓練内容の機密レベルは低かったね?
Macy.aic: [指点字で] 概要について話す分には問題ありません。
Agt. 赤沼: [発話して] 最近はもう、全く未知の空間を走り抜けられるようにまでなりました。障害物込みで、です。
Macy.aic: [発話して] こんにちは。AICのMacyです。Agt. 赤沼は完全に回復していると言って良いでしょう。
高山医師: 素晴らしい。大変お疲れ様です。
Agt. 赤沼: Macyのおかげです。デバイスをオフにしてると面倒なことも多く。
Macy.aic: [指点字で] もっと褒めてもいいですよ。
高山医師: 日常生活から何から、100%頼りきりだと問題も発生しえますからね。装備を着たままシャワーを浴びる訳にもいかないでしょうし。
Agt. 赤沼: [発話して] もちろんです。それに、年がら年中一緒にいたら少しうるさい時も。
Macy.aic: [指点字で] ……。高山医師は、エレベーターの階数表示灯に目を向けています。右側のエレベーターがこの階に向かっています。
高山医師: そろそろ来ます。あぁ。こういったことは一々言わなくても大丈夫ですかね。AICが認識してくれるでしょうし。
Agt. 赤沼: [発話して] お気持ちはありがたいですよ。まぁ、僕としてはエレベーターがいつ到着して扉がいつ開くかくらいなら、振動だけでも十分に分かりますが。[指点字で] おっと、今のは当てつけじゃない。
Macy.aic: [指点字で] もちろん承知していますとも。
[エレベーターが到着する]
高山医師: なるほど。まぁ、なんにせよ……うん、あれ。どうしてこん── [沈黙]
Agt. 赤沼: うん?
Macy.aic:《緊急事態》《目の前の人間を捕らえよ》《退避せよ》《退避せよ》
[Agt. 赤沼が、即座に高山医師を掴み、押さえつける。エレベーターホールから即座に退避しようとするが、高山医師の抵抗のため難航する]
Macy.aic:《退避せよ》
[Agt. 赤沼は高山医師を押さえ込むように倒れつつ、エレベーターホールと廊下の境目付近まで移動する]
Agt. 赤沼: [発話して] 何が起きている! 大丈夫ですか!
[高山医師はAgt. 赤沼の呼びかけに対し全く無反応であり、拘束を振り払ってエレベーターに乗り込もうともがく]
Macy.aic: エレベーターの内部が完全な暗闇です──遠赤外線その他センサーによる空間認識も不能。高山医師は到着後から、異常事態にもかかわらず突如無表情になり、暗闇内部へと侵入しようとしています。
[高山医師はAgt. 赤沼に完全に押さえつけられている]
Agt. 赤沼: 緊急通報! 人は……呼ばない方がいいな?
Macy.aic: 試行中──緊急通報に応答無し。応援の呼集はやめてください。異常事態にSCP-218-JPとの類似が認められました。認識災害特性あり。認識した者をエレベーター内の暗闇に取り込む異常性を保有。内部から脱出した者はいません。
SCP-218-JP。元来の影響範囲はサイト-8120のA棟4階に限られていた。
[高山医師は拘束されつつも、左手で空気中を掴もうとする素振りを見せる]
Agt. 赤沼: 了解。認識災害か── [地面に手を当てて] 2人、30 m先に。[発話して] こちらに来るな! 緊急事態!
Macy.aic: 認識災害の影響範囲が増大している可能性。SCP-218-JPの影響範囲は本来当サイトA棟4階のみ。
Agt. 赤沼: 緊急通報は?
Macy.aic: 依然届きません。不明なエラーが複数回発生。スピーカーからの緊急放送。全職員はその場で待機、但しエレベーターホールから離れよ、訓練ではない。
Agt. 赤沼: セキュリティ室は把握済みか── [足音を振動で感知し、発話して] おい! 来るな!
Macy.aic: 影響を受けている可能性が大。押し留めてください。
Agt. 赤沼: 1対3はキツいぞ![発話して] 止まれ! 今すぐ止まれ、離れろ! 緊急事態だ!
[2名の職員はAgt. 赤沼の呼びかけに反応しない]
Macy.aic: 2名とも視線が彷徨っていますが、真っ直ぐに向かってきます。
[Agt. 赤沼は高山医師の体を強引に持ち上げ、向かって左の職員に投げつける。職員は体勢を崩し、その場に倒れる。もう1名の職員をロータックルで倒すが、その間に他の2名が立ちあがろうとする]
Macy.aic: 警報音。隔壁が閉まります!
Record
エレベーターホール 隔壁内
[Agt. 赤沼とMacy.aicは、隔壁によってエレベーターホールに閉じ込められている。SCP-218-JPに影響されたと考えられる3名の職員はAgt. 赤沼によって隔壁外に投げ飛ばされており、その内1名が着ていた白衣が脱げて隔壁に挟まっている。右側のエレベーターの扉は依然開いている]
Agt. 赤沼: そもそも、正面きっての戦闘は奪感者の仕事じゃないんだ……
Macy.aic: 視覚・聴覚を用いない咄嗟の情報伝達は高難度ですからね。しかし、十分な働きでした。
Agt. 赤沼: 昔とった杵柄だな。機動部隊時代の。
Macy.aic: お疲れ様です──ひとまず各種装備に故障は認められませんでした。
Agt. 赤沼: 了解。それで、隔壁が上がるのはいつ頃になると思う?
Macy.aic: 不明です。先ほどから電波が遮断されているようで、外部との通信ができません。
Agt. 赤沼: そうか……持っているのは、基本装備にレーション2食だけ、か? 後は水筒が1本。
Macy.aic: 隔壁の右壁側30 cmに、白衣が挟まっています。何か入っていませんか。
Agt. 赤沼: 漁るのは悪い気もするが── [白衣のポケットを探って] 腕時計があった。触って読めるようにはできてないタイプだから意味は無いな。それと財布。カード類などは入ってない。小銭が……222円ぴったりだけ。申し訳なくなってきた。
Macy.aic: 腕時計にはGPS機能などが付いている場合も……いえ、なさそうですね。単純で安価なクオーツ時計のようです。
Agt. 赤沼: バックパックに入れておこう。さて、どれくらい長期になるかな。収束まで。
Macy.aic: そうですね──当サイトで起きた大規模な事件で最も新しいものは、8年前に発生した襲撃事案でしょうか。その際も各所でシャッターが閉ざされ、完全終結とみなされたのは7時間後のことでした。もちろん単純な比較はできませんが。
Agt. 赤沼: なるほど。7時間なら全く問題ないな……と、言いたいところだが。SCP-218-JPは、本来A棟4階だけに効力がある、って話だったね?
Macy.aic: はい。
Agt. 赤沼: そもそもA棟自体が僕のカードじゃ入れないから知らなかったけど、その4階はどうなっているんだ?
Macy.aic: ……はい。A棟4階は全体が封鎖されており、立ち入りは禁止されています。
Agt. 赤沼: なるほど。そうしたら……このエレベーターホールに、未来永劫閉じ込められることになった、と。
Macy.aic: まだ分かりません。事態が収束すれば──今、スピーカーから放送が始まりました。
Agt. 赤沼: 了解。
Macy.aic: 内容をお伝えします。全職員はその場で待機、また──少々お待ちください。
Agt. 赤沼: どうした? 単に同時通訳してくれればいい。
Macy.aic: 放送内容が不可解です。放送途中で突然ノイズが入り、約8,000 Hzの電子音が鳴り始めました。これを背景音にして、音の切れ目を知覚せよという指示が入りました。何らかの異常事態と判断し、予防的に解釈を一時停止しています。
Agt. 赤沼: セキュリティ室まで異常が回ってるのか。サイトはどうなってるんだ。
Macy.aic: あるいは、スピーカーが異常性を受けて問題を起こしているのかもしれません。
Agt. 赤沼: いずれにせよだな……一応、事態発生からのログをあらためて解析していてくれ。SCP-218-JPのそれと異なる部分を中心に、かな。
Macy.aic: 承知しました。
Agt. 赤沼: 僕は、そうだな、壁でも叩いてみるか。
[Agt. 赤沼は壁を叩き、その振動を確認する。左側のエレベーター扉は閉まったままだが、その奥側に通常のエレベーターシャフトの空間は存在しないことが確認される。右側の扉は依然開いており、暗闇が広がっている。Agt. 赤沼は壁ぎわに座り込む]
Macy.aic: 先ほどの映像記録中に、不審な点を認めました。
Agt. 赤沼: 何かあったか? 気づかなかった。
Macy.aic: SCP-218-JPの被影響者は即座に沈静化し、内部の空間に入ろうとする以外の行動を取らなくなるとされています。
Agt. 赤沼: 3人はそうだったな。隔壁を外側から殴るような振動は今のところ感じないが。
Macy.aic: 高山医師はエレベーター到着直後に不審な言動をし、押さえられた後も何もない空間に手を伸ばすような素振りを見せていました。また、後から現れた2名の職員は、視線を彷徨わせていました。
Agt. 赤沼: 厳密には、報告書の内容と少し違うのか。
Macy.aic: はい。これを受けて、LiDARで測定したエレベーターホールの3次元マップに今回の被影響者3名の位置関係を投影したところ、その視線が交わる点があることが分かりました。
Agt. 赤沼: 3人は、何かを見ていた、と?
Macy.aic: その通りです。しかし、我々の観測機器はその点付近に一切の存在を認識していません。
Agt. 赤沼: ミーム的な何かか。その点はどこにあった?
Macy.aic: 最初に出現したのは、右側エレベーターの扉付近下方です。そこから、高度20 cm付近を維持しつつ壁際を移動し、我々の周囲を2周した後に、エレベーター内の暗闇へと入ったようでした。
Agt. 赤沼: エレベーター内の暗闇、ね……
Macy.aic: あまりお勧めできません。
Agt. 赤沼: 何か?
Macy.aic: 入るつもりでしょう。
Agt. 赤沼: ……まあ、そういうことになる。ここに閉じ込められていてもどうしようもない。セキュリティ室まで滅茶苦茶になっているかもしれないし、サイト内の他の場所がどうなっているかも分からない。
Macy.aic: このような状態になった以上、8120以外の他サイトも確実に異常を検知しているでしょう。すぐに機動部隊が到着するはずです。
Agt. 赤沼: 普通の機動部隊がこの状況で活動できるかな。
Macy.aic: それは不明です。しかし、だから暗闇に突撃するというのは。
Agt. 赤沼: この狭い空間には、[指差しながら] 聴覚伝いの認識災害か何かを撒き散らすスピーカーと、細くて通り抜けることはできない換気扇と、それに開いたエレベーターしかない。隔壁は当然、人間が壊せるようにはできてない。
Macy.aic: その通りでは、あります。
Agt. 赤沼: 我々の他に、認識災害なり何なりの影響を受けないでこのサイト内を動けるものはいない。奪感者の他には。
Macy.aic: 奪感者は──
Agt. 赤沼: まだ世界的に運用が始まったばかりで、日本には僕1人。アメリカには数人居たかな。当たり前だな、まさか勝手に五感を奪うわけにもいかないから。するとなると、ここまで助けの手が来るとしたら最低でも数十時間はかかるだろう。
Macy.aic: その蓋然性はとても高いと言えます。
[Agt. 赤沼が立ち上がる]
Agt. 赤沼: その数十時間 [暗闇を示して] こいつの前で、謎の音声に晒されながらただただ待っているというのは、情けない話だ。
Macy.aic: しかし、状況からして仕方ないことでしょう。
Agt. 赤沼: ああ。ただ、情けないと思われはしてしまう、という意味で……自分がそう思われることが嫌だ、という訳じゃない。そういった小さなプライドの話じゃない。もちろん。
Macy.aic: ええ、そのようなことを言っている訳ではないとは、もちろん承知していますとも。
Agt. 赤沼: 天職だと思っていた機動部隊には、事故で居られなくなった。転任を打診された時こそ、自らの気持ちだけで承諾したが。最近は赤沼聡としてだけでなく、奪感者としてどうであるか、を常に考えながら行動しないといけない。
Macy.aic: はい。特に求められることだと思います。そしてそれは、とても疲れることだとも。
Agt. 赤沼: それが意外と、僕としては結構楽しいんだ。多くの人はあまり意識したことがないだろうが。とにかく。奪感者は、こうした事態に於いてこそ、活躍する必要がある。
[水筒の水を1口飲む]
Agt. 赤沼: 暗闇の空間に入った先で、仮に飲み込まれて消えてなくなるだけだとしてもいい。今までに記録した異常事態の情報をここに置いておけば、それで十分だ。助かった場合と実質同じだ。メモリスティックくらいは持ってるから、解析情報をまとめておいて。
Macy.aic: ……はい。
Agt. 赤沼: 概要は、壁にでも書いておくかな。
[Agt. 赤沼は、持っていたペンで事態の推移について壁に記録をとる。メモリスティックがその下に置かれ、目印が付けられる]
Agt. 赤沼: それじゃあ、そろそろ行くか。世界に居る、もう数人の奪感者と彼らをサポートする者たちのために。あるいは凡ゆる点で、僕と近しい状況にある者たちのために。そして当然、すべての人たちのために。
[Agt. 赤沼が、エレベーター内に侵入する]
SCP-4040-JPの内部探査記録は、現在のところ以下のログが全てです。過去にもSCP-218-JPの扉内部に侵入した財団職員は複数名いますが、それらのいずれも帰還しませんでした。前回のインシデントは、2024年6月のサイト-8120 A棟排気系工事の際に起きた、作業者による被影響・侵入事案です。
現在は、B棟1階のエレベーターは通常通り運転できる状態にあります。SCP-4040-JPへの侵入を再現する方法は計画中ですが、少なくとも、SCP-218-JPへのA棟4階経由での侵入では、同様の結果は得られないと考えられています。
Record
SCP-4040-JP内 森林地帯
SCP-4040-JP、Agt. 赤沼が目覚めた場所付近。
[Agt. 赤沼が目を覚まし、立ち上がる]
Macy.aic: おはようございます。
Agt. 赤沼: おはよう……外にいるな、自然の中みたいな感じがする。板か何かの上に寝ていた?
Macy.aic: はい。現在我々は森の中にいるようです。喫緊の脅威はありません。
Agt. 赤沼: 気絶していたのか。あの後、どうなった?
Macy.aic: 全ての観測機が一度ブラックアウトして強制的にシャットダウンしました。これは私自身も同様です、再起動しています。エラーログすらもありませんでした。
Agt. 赤沼: それで、覚めたら森の中だったと。
Macy.aic: その通りです。再起動までの間に転移したようにも思えます。目覚めたのは、森の中に敷かれている木道の上でした。その30秒後にあなたが覚醒しています。
Agt. 赤沼: [先程まで横たわっていた地面の木道を触りながら] 人工的だな。GPSは?
Macy.aic: 効いていません。衛星通信も不可能です。時間帯としては昼、一面の曇り空です。遠くまでは見渡せず、この空間の広さがどの程度かは不明です。地磁気は安定していますね、太陽の位置からすると北半球ではあるようですが、そもそも我々の時計は既に18時を示しています。日本ならもう暗いはずです。経緯度が大きく異なる地点にいる可能性もあります。
Agt. 赤沼: まあ、了解。とにかく異空間に居る、と考えた方がいいか。この下草なり、木々の植生なりから分かることは?
Macy.aic: そうですね。細かな種同定用のライブラリを今回持っていないため正確には分かりませんが、ササの類が地面を覆っており、落葉樹ばかり。冷温帯の林に思えます。日本で例えれば志賀高原のような環境ですが、気圧計の示す標高とは食い違います。
Agt. 赤沼: ありがとう──そういえば、マイクの方はどうなってる? この空間全体にも例のノイズや電子音は充満してるのか。
Macy.aic: 確認中……いいえ。問題なさそうです。収音とその解析もONにします。今のところは、風の音と葉ずれの音ばかりです。
Agt. 赤沼: なるほど。鳥の鳴き声なりは? 虫の羽音も。
Macy.aic: 確認中……一切認識できません。地面にも、虫などは見つかりません。
Agt. 赤沼: 木や草はあるのにか。同じ生き物なのに。
Macy.aic: はい。ですが往々にしてそのような異空間の例はありますね。あるいは、全てが精巧なフェイクグリーン、人工植物の可能性もあります。
Agt. 赤沼: [下草の葉を何枚か摘んで] 分からないな。触感からは本物としか思えない。まあ、あくまでそれを解明するという必要もないか。
Macy.aic: ええ。ひとまずは葉っぱを採取しておいてください。
Agt. 赤沼: [ポケットにササの葉と茎を幾本か入れて] そうしたら、出発するか。ただ、森の中は振動を測りにくい……杖も使おう。
折り畳み式のセンサー付き電子白杖。基本装備で、バックパックに収納されていた。奪感者は聴覚も喪失しているため、もっぱら地面をスライドさせつつ凹凸を感じるために使用する。
Macy.aic: それが良いでしょう。移動は、木道に沿ってですか?
Agt. 赤沼: そうしよう。どちら側に行こうかな。
Macy.aic: そうですね、どちらも──いえ、2時方向に3歩進んでください。
Agt. 赤沼: [指示に従って] 何か見つけたか?
Macy.aic: はい。今進んだ方向の遠方に、赤く細い布が見えました。木の枝にぶら下がっているか、結び付けられているかです。
確認された赤布。一般に、山林などにおける道標、目印として使われる。
Agt. 赤沼: こちらが道だぞ、ということか。
Macy.aic: とても人工的ですね。
Agt. 赤沼: そう思えるね。まあ大体、木道がササに覆われていない時点で人の手が定期的に入っているはずだけど。
Macy.aic: 全てが人工植物である可能性もありますが。
Agt. 赤沼: その場合は全てに人の手が入っていることになるだろ。
Macy.aic: お恥ずかしい。おっしゃる通りでした。
Agt. 赤沼: 何でもいい、進む方向は決まった。焦らず行こう。
[約45分にわたって、Agt. 赤沼は木道を慎重に歩く。赤布の端3 cmほどが、断たれてサンプルとされた。移動の間景色はほとんど全く変化せず、木道は太さを変えつつ曲がりくねりながら続いている。時折、木の枝に赤布が結ばれていることがある]
Macy.aic: 先ほどから、葉ずれの音が大きくなっているようです。
Agt. 赤沼: そうか? 風の強さはずっと同じくらいに感じる。遠くで強く吹いたのかもしれない。
Macy.aic: そうかもしれません。
Agt. 赤沼: この道はどれくらい続くかな。
Macy.aic: 歩き始めてから46分が経過しています。水平距離で、1.7 km程度です。
Agt. 赤沼: 時速2 kmぐらいか。そんなもんだな、未知の環境なら。
Macy.aic: この空間のマップも同時に作成しています。細かく曲がりくねってはいますが、全体としては北西方向に進んでいます。
Agt. 赤沼: 地磁気はひとまず一定か。方角は正しいとしよう。
Macy.aic: ええ、加速度計との整合性も取れています。ただ、曇り空越しに見える太陽の方向は移動していません。妙では──《動くな》クマがいます。
クマがいるとフラグ付けされた画像。画像中央部、奥の木の幹を登っていると認識された。
[即座にAgt. 赤沼はその場で立ち止まり、微動だにしない。5秒が経過する]
Macy.aic: すみません、もう大丈夫です、撤回します。申し訳ありません。
Agt. 赤沼: 映像認識のミスか?
Macy.aic: はい。約60 m先の木に、巨大なこぶが付いています。しかしこれを認識した直後、広葉樹林という状況とタイムスタンプの影響で、子グマである可能性が高いとフラグ付けされ緊急メッセージが送られました。しかし他の多角的な情報を統合したところ、動物ではなく、木のこぶであると考えられました。
Agt. 赤沼: 赤外線で見れば一目瞭然だろ──いや、プリセットが悪いな。カメラの解析優先度は下げて構わない。どうせ森の中だ、認識しづらい。代わりに赤外線と近距離レーダー感度を上げて、優先的に情報を処理するようにしてくれ。
Macy.aic: はい。急激な環境の変化とシャットダウンの影響で、情報処理の系統に混乱が生じていたようです。可視光カメラの優先度を下げ、また地面と葉にほとんど吸収されている超音波センサーをOFFにします。レーダー・LiDAR・赤外線カメラの情報を優先的に処理するようにして、全体の統合を最適化します。
Agt. 赤沼: 驚かせないでくれよ……いや、仕方ないか。教えてくれてありがとう。
Macy.aic: 失礼しました。
Agt. 赤沼: 別に大丈夫だ。何でもない。何度だって警告してくれ。
[木道を進み、木のこぶに近づく。Agt. 赤沼は、杖でこぶを軽く叩く]
近距離で撮影された木のこぶ。
Agt. 赤沼: こりゃ大きい。
Macy.aic: 直径は1 m以上あります。
Agt. 赤沼: ゴツゴツしてるな。遠くからだったら子グマに見えるのか。
Macy.aic: そのように認識されました。
Agt. 赤沼: こぶのできる原因は? 病気か、傷の痕か何かかな。
Macy.aic: 一般的にはその通りです。しかしこれほどまでに大きいと、形成に長い時間がかかると推測されま──
Agt. 赤沼: 今、7時の方向で何かが揺れた。
Macy.aic: 大丈夫です。捉えています、中くらいの枝が落ちた衝撃です。
Agt. 赤沼: なんだ。それならよかった。さっきので敏感になってたかな。
Macy.aic: いえ、当然のことだと思います。ですが一旦休憩してもいいかもしれません。
Agt. 赤沼: そうだな、そうしよう。一旦座ろうかな。ちょうど倒れた木がある。
Record
SCP-4040-JP内 森林地帯 倒木付近
[Agt. 赤沼は、木道の脇にあった倒木に腰掛けている。根ごと倒れているのは、自然の強風によると推測されている]
Agt. 赤沼: [水筒の水で口を湿らせる] この木道は、どれくらい続いているのかな。
Macy.aic: すでに2km弱ほど平坦な道を歩いていますが、例えばハイキングコースとして考えれば、大して長くはない距離です。
Agt. 赤沼: どこでどれくらい食事すべきか、水を飲むべきか、悩ましい。近くに水源か何かはないか?
Macy.aic: 川の流れる音などは観測されていません。消化は水分を多量に要します、食事は水の供給源が見つかったらか、あるいは空腹が本当に問題になってからにするべきです。
Agt. 赤沼: 分かってる、分かってる。まだ特にお腹は空いてない。大丈夫だ。水も節約して── [9時の方向に首を向けて] 今のも、枝が落ちたのか? 風が強くなっているな。
Macy.aic: はい、落枝です。全体的にその傾向にありますね。
Agt. 赤沼: 枝が落ちた振動については何か別のシグナルを設けてほしい。単に枝が落ちただけだ、気にしなくていい、とすぐに伝えてくれ。
Macy.aic: 承知しました。空線触覚の2番に割り当てますね。今後は、右手の解剖学的嗅ぎタバコ入れへの2連クリックを以て、枝の落下を伝えます。
Agt. 赤沼: ありがとう。そうしたら、また出発するか。この倒木はランドマークとして記録しておこう。
Macy.aic: 承知しました。スキャンします、倒木の周囲を軽く回ってください。下草を踏み分けることになりますが、落とし穴の類はありません。近距離レーダーが常に地面を検知しています。
Agt. 赤沼: [立ち上がって、木道から多少逸れつつ歩き出しながら] 了解。とても便利だ。
Macy.aic: 恐れ入り──地面に、人工物があります。倒木の裏側、2時12分方向、6.2 m先の地面です。幅15 cmほど、長さ60 cmほどの木の板に見えます。
Agt. 赤沼: 確認しよう。
Agt. 赤沼: [白杖で探り当てて] これか。下草をどかす。
Macy.aic: ……朽ちた看板です。大きく損傷していますが、日本語で大きく "立入禁止" と書かれています。英語で同様に "No admittance" と書かれていた形跡もあります。
朽ちた立入禁止の看板。
[Agt. 赤沼は、朽ちた看板についての情報を認識した瞬間、即座に木道まで走って戻る]
Agt. 赤沼: 危険だ。木道から離れるのはやめておこう。異空間で道から外れた者に訪れる結末は、古今東西ただ一つだ。警告と見ることだってできる。
Macy.aic: 喫緊の脅威は依然確認されていませんが、非常に賢明な判断だと思います。
Agt. 赤沼: だろう。とにかく、道沿いに進もう。
Macy.aic: はい。で──《隠れよ》《動くな》
[Agt. 赤沼は咄嗟に、倒木の影に退避する。15秒が経過する]
Macy.aic: 慎重に、カメラを23 cmだけ上方に──ストップ。高解像度モードにします……はい。確認できました。脅威はないと判断。
Agt. 赤沼: 何があった。
道路標識。
Macy.aic: 先ほどの朽ちた看板があった方向の遠方、下草が枯れている付近に、道路標識を確認しました。"右方背向屈曲あり" の警戒標識です。全体的に強く錆びているようです。付近に車道は見当たりません。
Agt. 赤沼: 今まで探知できなかったのか? 一度は道を離れて向こうのほうに行った。
Macy.aic: それが……不明です。先ほどの緊急伝達寸前に至るまで、当該の場所は常に複数本の木の影にありました。
Agt. 赤沼: 全てのセンサーの死角にあったと。
Macy.aic: その通りです。
Agt. 赤沼: そんなことがあり得るのか。曲がりくねりながら木道を歩いて、しばらく倒木付近で休憩して、あちら側にも近づいた。その間ちょうど常に死角となっていた位置があって、しかもそこに妙な物体がある、なんて。
Macy.aic: 偶然と捉えることもできます。少なくとも辻褄は合っています。転移による出現やカモフラージュの解除、認識阻害などの兆候は確認されていません。
Agt. 赤沼: しかし、不気味だ。仮に "侵入禁止" か何かだったら、状況からして即座に異常と判断したものを。
Macy.aic: はい。この場所を離れましょう。但し、しばらくは警戒状態のままにいます。
Agt. 赤沼: そうしてくれ。いつでも走り出せるように心構えておく。
Record
SCP-4040-JP内 森林地帯 41分後
[前回の休憩から更に41分が経過。直線距離で2.2 km更に進んでいる。道路標識に関する更なる異常事態は起こらず、高度の警戒状態は解除されている。赤布の数は次第に散発的になっている]
Agt. 赤沼: さっきから枝が何度も落ちてるな。風はほぼ止んでいるように思うが。森の中はこんなものか?
Macy.aic: そうですね。いずれも非異常のものと考えられます。落枝ごとにその前後の映像をロールバックして確認していますが、毎回小さな枯れ枝が風を受けている様子が観察されており、不自然な点はありません。
Agt. 赤沼: なるほど。僕がナーバスになりすぎているだけかな。
Macy.aic: いいえ、大丈夫です。この状況で落ち着きすぎるのは逆に危険です。
Agt. 赤沼: ああ。本当に──
Macy.aic: 失礼。緊急性は低いですが。木道沿い、12時24分方向、23 m先の木の幹に、木札がついています……現在の位置情報が書かれているようですが、解像度の問題で上手く読み取れません。近づいてください。
"この場所の緯度、経度の数値です。" と書かれた木札。
Macy.aic: "この場所の緯度、経度の数値です。" と書かれています。
Agt. 赤沼: 具体的にはどこを指してる?
Macy.aic: それが、読み取れないのです。先ほどは解像度の問題と言いましたが、表記がそもそもおかしかったようです。7セグメント式の文字ですが、判読できません。ラテンアルファベット表記も採用、上下の反転を交えつつ敢えて読むならば……我々は現在、"北緯h?度 t7分 ?E秒、東経2?度 e6分 H?秒" にいるようです。
Agt. 赤沼: [手で触って確かめながら] 全くもって本当に、参考になるな。規則性か何かは読み取れるか? あるいは、抜けているところだけを逆に読むとか。
Macy.aic: いいえ。文字が12種類出てきている時点で、ランダムなものである可能性が高いように感じます。
Agt. 赤沼: 日本から転移した空間に日本語で書かれている以上、北緯は30度だか40度だか、東経は130度なり140度なり、それくらいが妥当だと思う。何か変換規則はなさそうかな。
Macy.aic: 無理やり説明を付して解読したと言い張ることはできるかもしれませんが、意味は無いでしょう。動かしていい本数に制限のないマッチ棒パズルのようなものです。同様の木札が再度現れたら改めて確認しましょう。
Agt. 赤沼: [文字をなぞりながら] 了か── [木に伝わった振動を感じて] 何だ?
Macy.aic: 不明、いえ、マイクに感知あり。木を叩く音が連続しています──キツツキのそれに近しい。今、止みました。赤外線カメラには検知なし。
Agt. 赤沼: 恒温動物じゃなかったか、鳥は。
Macy.aic: 木を揺すってみますか。刺激して飛び立ったところを確──木を叩く音が移動しました。8時20分の方向。林冠付近。
Agt. 赤沼: 見えるか?
Macy.aic: 見えません。凡ゆるセンサーに姿が見つかりません。音だけが聞こえています。
Agt. 赤沼: 羽ばたきの音は。
Macy.aic: いいえ。木を叩く音のみです。理由は不明──それも止みました。この15秒間、葉ずれと風の音のみが記録──2時の方向。1回のみ音が観測されました。
Agt. 赤沼: 振り回されるな。林冠をクローズアップ。キツツキに特徴的な穴はどこかに空いているか?
Macy.aic: 確認中……いいえ。ここからは見つかりません。過去のデータも参照していますが、同様です。
Agt. 赤沼: 今は、音の方は?
Macy.aic: また止んでいます。しかし──不明なエラー。
Agt. 赤沼: どうした!
Macy.aic: 不明。マイクに異常が発生したと考えられます。4時方向から3時方向にかけて、下草のササを激しく掻き分けて進むような音が大きく聞こえました。しかし他のセンサーは、該当方向に何の存在も、ササの揺れさえ捉えていません。
Agt. 赤沼: 全てマイクが幻聴を拾っていると?
Macy.aic: その可能性が高いです。何らかの異常を受けて、信頼できなくなっているものと思われます。
Agt. 赤沼: 了解。ただ、キツツキの音に関しては確かに僕も振動を感じた。間違いない。同じものを感じている。
Macy.aic: はい。矛盾しています。
Agt. 赤沼: 僕の触覚も、既に何らかの影響を受けているのか──いや、さっき示された、ササを掻き分けるような振動については一切感知してない。
Macy.aic: 複数の事件が同時に起こっていて、切り分けや原因探索が難しいです。キツツキに関しては、本当に偶然センサーで探知できない位置にいたのかもしれません。しかし、少なくともマイクが妙なのは確かです。我々はササを透過して地面を確認できます。今回ばかりは、陰に隠れているということはありません。
Agt. 赤沼: ……同じかもしれない。サイト-8120でのそれと。あのとき錯乱していた3名の職員たちは、何かを見ていたと言ったな。
Macy.aic: なるほど。マイクが、そちらの存在が出した音を感知していると。可能性は高いように思います。
Agt. 赤沼: あのとき何て言ってた? 高さ20 cm程度の点、とかだったかな。
Macy.aic: はい。小動物的な大きさとも取れます。ササを掻き分けて進む、という音を出す可能性のある。
Agt. 赤沼: 今もその音声は聞こえているか?
Macy.aic: いいえ、既に止んでいます。解釈を停止しますか?
Agt. 赤沼: そうしておこう。音がなくても、我々は大丈夫だ。進むぞ。
Macy.aic: 承知しました。
Record
SCP-4040-JP内 森林地帯 外縁部
[音声の解釈を停止してから1時間50分が経過する。Agt. 赤沼はその間に1回小休止を挟みつつ、5.1 kmを進む。この間、常緑樹の並ぶ領域を抜ける。Macy.aicは、少なくともカラマツ属 (Larix) ではあろうという見解を示した]
Macy.aic: 次第に、木の高さが低くなってきました。
Agt. 赤沼: 森の端に来てるのかな。今までどれくらい進んだ?
Macy.aic: その通りだと考えられます。我々が目覚めた地点から、直線距離に直すと8.8 kmほど北西310度方向に移動していることになります。起伏はあまりありませんでしたが、加速度計のデータからは約10 mほど下っているようです。
Agt. 赤沼: ずいぶん下ってるね。
Macy.aic: はい。ただ、環境的に誤差の蓄積も大きいためあまり正確ではありません。
Agt. 赤沼: 仕方ない。さて、10 km弱で森の端か。先には何か見えるか?
Macy.aic: 森を抜けてみないことには何とも。基本的な明るさが全く違うので、可視光カメラでは白飛びしてしまいます。レーダーなどには何も写っていません、もう少し近づけばはっきりするでしょう。
Agt. 赤沼: 了解。
[森の外縁部にAgt. 赤沼が近づくにつれ、下草の密度は減っていく。2分が経過する]
Macy.aic: 12時12分方向、16 m先に、木製の柵が倒れています。
倒れて苔むしている木製の柵とロープ。
Agt. 赤沼: [白杖を当てて] これは……少なくとも、道を遮るようにあった訳ではないね?
Macy.aic: ええ。むしろ、道とそれ以外を隔てるように立てられていたと推測されます。
Agt. 赤沼: これまでずっと、木道は整備されていた。泥がついていたり苔が生えていたりするところはあったにせよ、人が通るには問題なかった。
Macy.aic: はい。赤布も、経緯度の木札も、同様に整備されているようにある程度綺麗でした。一方で、道から離れたところにあった立入禁止の看板、道路標識、そして今回の木の柵はボロボロです。
Agt. 赤沼: 共通点があるようにも思えるな。
Macy.aic: 道を外れると、風化してしまうのではないか、と?
Agt. 赤沼: ああ。少し試してみようか。確か── [バックパックを探る] あった。[バックパックから腕時計を取り出す。サイト-8120エレベーターホールでの格闘後、研究員の白衣から手に入れたものである] これを柵の外側に置いてみよう。
[1分間、Macy.aicは時計を観測し続ける]
Macy.aic: ありがとうございます。
Agt. 赤沼: 何か分かったか?
Macy.aic: 秒針の速度が、僅かに変化しています。変化量は規則的ではありませんが、平均を取ると早く進んでいます。我々の時計で1分が経過する間に、腕時計は1分と1秒を刻みました。
Agt. 赤沼: 時計が壊れている可能性はないか。
Macy.aic: クオーツ時計は精度の悪いものでも、ずれて1月に数十秒です。時計を手に入れた際の映像ログを確認しましたが、このように顕著なずれはありませんでした。
Agt. 赤沼: なるほど。このまま放置しておけば、さらに早まっていくかもな。
Macy.aic: その可能性が高いでしょう。どこかで加速は飽和するかもしれませんが。それを確認するには、十分な時間が必要に──不明なエラー。情報の統合に失敗。
Agt. 赤沼: どうした! 何も感じない。
Macy.aic: レーダー情報の解釈を一時停止。喫緊の脅威はありません。
Agt. 赤沼: 何が映った。
Macy.aic: 突如、腕時計のすぐ横に、物体を感知しました。全体としては小動物のような形状でしたが、本来分かるはずの細かい形状は捉えられませんでした。
Agt. 赤沼: 例の小動物かな。先ほど音声だけが捉えられたやつだ。
Macy.aic: 恐らくは。その小動物は、レーダー上では、腕時計を咥えて去っていったようです。腕時計の強い反射と一緒に、4時方向の林の中に消えていきました。
Agt. 赤沼: 待て。あくまでレーダーは、腕時計がここにない、と言ってるのか?
Macy.aic: はい。その通りです。しかし、カメラにもLiDARにも、腕時計は確かに映っています。
Agt. 赤沼: それは…… [白杖を前に突き出して、腕時計の直前で止める] どちらが正しいかな。
[白杖が、腕時計に接触する]
Macy.aic: どうやら、レーダーの情報も解釈しない方が良さそうです。明らかに腕時計は、ここにあります。
Agt. 赤沼: そうしてくれ。そして、腕時計は……ここに、放置しておこう。リスクに思えてきた。
Macy.aic: はい。
Record
SCP-4040-JP内 森林地帯と葦の原の境界付近
[Agt. 赤沼の再出発から2分が経過する]
Agt. 赤沼: そろそろ大分、森の外に近づいてきてるだろ。さっきより風を強く感じる。何か見えるか?
Macy.aic: はい。森の外はどうやら、葦の原のようになっています。湿原の一種です。葦の背丈が高く、見通しは悪いです。山などは今のところ観察されていません。
森の外に広がっていた葦の原。
Agt. 赤沼: 道はどうなってる?
Macy.aic: はい、木道が続いています。木組みの足場によって湿原の地面よりは少し高くなっています。道は途中で曲がっていて、先がどうなってるかは分かりません。
Agt. 赤沼: 了解。進もう、進んでいくしかない。いや、その前に一旦休憩するか。足を休めよう。
Macy.aic: ええ。そうしましょう。小休止を取りますか。
[Agt. 赤沼が木道の中央に座る。水を1口だけ飲み、足を軽く揉む]
Macy.aic: 訓練終了からそのまま、未知の空間を3時間以上にわたって探索しています。大変お疲れ様です。
Agt. 赤沼: 本当だよ。どうしようかな、空腹ではないんだ、全く。水は残り……まあ、水筒に半分くらいはあるかな。
Macy.aic: 心苦しいのですが。やはり水が限られているというのは大きな問題です。
Agt. 赤沼: 湿原があるってことは、どこかから水が供給されているはずじゃないのか。森の方から川が流れている可能性は高いと思うが。
Macy.aic: 今までの探索では見つけられませんでした。途中からは音声の認識を停止しているため、以降川のせせらぎも滝の音も検知できていません。
Agt. 赤沼: やはり問題だったかな。
Macy.aic: どうでしょう、判断しかねます。音声を由来とする混乱や問題が多数起こっていた可能性もあります。
Agt. 赤沼: それもそうだ。もしかしたら音声上は今も、我々の周りには大量の鳥がいるかもしれない。
Macy.aic: あり得ます。こうした湿原には一般に、鳥が多数生息しているものです。それと、小動物も。
Agt. 赤沼: 次第に我々の観測機器がロストしている。情報を統合できなくなっている。音声もダメ、レーダーもダメだ。
Macy.aic: はい。周囲の状況把握にまだ困難は生じていませんが、これが続くと。
Agt. 赤沼: 本当にいざとなれば、白杖だけでも問題なく動けるように、訓練は積んでいる。いつでも100%頼りきりではないんだ。
[Agt. 赤沼はストレッチを行ったり装備の汚れを落としたりしつつ休憩を続ける。約6分が経過する]
Macy.aic: 作成したマップに、現在まで……おや、霧が出てきましたか?
Agt. 赤沼: 何の話だ? 何も感じない。
Macy.aic: しかし──情報の統合に失敗。またです。今度は、LiDARにエラーが出ているようです。
Agt. 赤沼: 今度は霧か。
Macy.aic: はい。周囲に多量の水滴があり、レーザーを乱反射している……と観測されています。
Agt. 赤沼: そんな事実はない。全く触れてない、感じてない。
Macy.aic: ええ。データ解釈を停止します。
Agt. 赤沼: 嫌な慣れだ。今回は、小動物は記録されてないのか。
Macy.aic: まだ確認されていません。
Agt. 赤沼: やれるところまで、やろう。行けるところまで行こう。次に効かなくなるとしたらカメラ類だが。
Record
SCP-4040-JP内 葦の原
葦の原に伸びる木道。
[Agt. 赤沼は葦の原の木道を歩く。13分が経過する]
Macy.aic: ここには手すり……いえ、手すりというには低いですが、がついています。
Agt. 赤沼: [白杖で触れて] これか。ごく低い欄干だ。少し道も太くなってる。大勢が通りうるのか?
Macy.aic: 森の中でも、これくらい道が太くなったことは2度ありました。木道の太さが何と関連しているかは不明です。
[更に木道を進む。数本の葦が木道に覆い被さるように生えている箇所がある。道は狭まり、欄干は無くなって、更に2分が経過する]
Agt. 赤沼: 最初に目が覚めたのは、道の途中だった。木道の反対側には何があったと思う?
Macy.aic: 情報が少ないため、確度の高い推定ができません。
Agt. 赤沼: 適当でいいよ。
Macy.aic: どうでしょう。木道沿いの3Dマップを作成しましたが、特定のパターンはありませんでした。同じような森林が数kmにわたって続いている可能性は高いでしょうが、それ以上は分かりません。
Agt. 赤沼: あちら側には、他にも経緯度の木札があったかも。
Macy.aic: 1枚見つかった程度では解読できなさそうです。より混乱することになったかもしれません。意味は一切ないのかもしれません。
Agt. 赤沼: 意味がありそうだったと言えば、立入禁止の看板くらいか。結局あの後、交通標識と道の形も違った。
Macy.aic: そうですね。右方背向屈曲、と捉えられる道の形状は全体を通して見れば幾度となくありましたが、あの付近での木道は非常にまっすぐでした。
Agt. 赤沼: 分からないな。
Macy.aic: 何がでしょうか。
Agt. 赤沼: この空間がなぜできたのか。人の手が入っているようにしか見えないが、その意図が掴めない。
Macy.aic: 基本的にはセンサー群に映らない、しかしいつの間にか影響を与える生物が住んでいる空間。そういうものだと言われればそれまでですが。
Agt. 赤沼: しかもそれが、サイト-8120と突然繋がって影響を与えてきた。
Macy.aic: はい。SCP-218-JPの内側に元々この空間が広がっていた、という訳ではなさそうには思えますが。
Agt. 赤沼: なぜ。
Macy.aic: 適当に言いました……いえ、冗談です。まあ、当てずっぽうの推定でしかありませんが。関連性が突然と言いますか、SCP-218-JPの元々持っている特性と、現状はあまりにかけ離れています。この空間がSCP-218-JPの所産であるというよりかは、もっと別のオブジェクトの入り口と偶然繋がってしまった、といったようなイメージでしょうか。
Agt. 赤沼: そうだな。案外色んなところに異常な森は広がっているのかもしれない。
Macy.aic: そしてそこには、誰しもが迷い込みうる。
Agt. 赤沼: あんまり茶化さ──
Macy.aic:《動くな》《動くな》
[即座にAgt. 赤沼は立ち止まる]
Macy.aic:《緊急事態》中断していたセンサー情報の解釈を一時的に実行。
Agt. 赤沼: 何をしている!
Macy.aic: ……全て異常無し。どのセンサーにも、道のみが映っています。しかし、動かないでください。
Agt. 赤沼: カメラが何か捉えたか。赤外線は──
Macy.aic: いえ。何も捉えていません。カメラには葦と木道しか映っていません。
Agt. 赤沼: 他のセンサーは。
Macy.aic: いずれも、同様です。
Agt. 赤沼: 食い違いは。
Macy.aic: ありません。十分に整合性が保たれています。
Agt. 赤沼: じゃあ何があった。何が起きているんだ。どうして止めた。
Macy.aic: 全てのセンサーが、目の前には葦の原に伸びる木道のみを検知しています。矛盾はありません。しかし、12時方向。4.2 m先に。
Agt. 赤沼: 振動は一切感じないぞ。
Macy.aic: ねこがいます。
Agt. 赤沼: 何を……小動物、か。
Macy.aic: はい。ねこがいます。凡ゆるセンサーに映ってはいません。しかし、確実に。
Agt. 赤沼: センサーに、写っていないなら──
Macy.aic: その通りです。全く矛盾して、白猫の巨大な目が見えます、います、全てのセンサーと、私自身とが。観念的に? 明るく。不明なエラー。
Agt. 赤沼: 強制シャットダウンする。
Macy.aic: お願いします。お願いしま──
[Agt. 赤沼がMacy.aicの演算を強制停止させる]
Record
SCP-4040-JP内 葦の原 2分後
付記: Macy.aicによる状況伝達は完全に停止している。Agt. 赤沼は、白杖と自らの触覚のみで周囲の状況を把握している。触覚グローブによる指点字は使用しておらず、Agt. 赤沼の発信は発話による。
Agt. 赤沼: Macy.aicの強制シャットダウンから2分経過。記録のため各種センサーをONにしている。
[Agt. 赤沼は、白杖を滑らせながら移動する。時折木道が軋む。Macy.aicが存在を主張した、ネコの姿は確認できない]
Agt. 赤沼: 葦が風に揺れて、時折体に当たるのは認識できる。しかしネコの立てる振動は感じない。いや、天性のハンターとして、隠密性能が非常に高いのからかもしれない。
[白杖が、木道の曲がり角の手すりに触れて止まる。Agt. 赤沼は右手の先を手すりに当てながら、白杖で何度か振動を与える]
Agt. 赤沼: 先ほどの欄干とは違う種類の手すりだ。木道は左に曲がっていて、その先しばらくは真っ直ぐ続いている。更に向こうには……よく分からない。広い空間の探索は難しい。
[歩くほどに、葦がAgt. 赤沼の体に触れる。密度が次第に高まっている。Agt. 赤沼は定期的に、白杖で先の地面を強く叩きながら指先でその振動を感じることで、先の状況を測る]
Agt. 赤沼: この先に、何か建物がある。小さな建物に感じる。
小屋。
Agt. 赤沼: は?
[約20秒間の沈黙。Agt. 赤沼はその場に留まる。マイクには風と葦のざわめき、呼吸音のみが拾われている。]
Agt. 赤沼: 今。確かに、5 mほど先の木道が軋んだ。そういった類の揺れがあった。
[更に20秒間の沈黙]
Agt. 赤沼: 風によるものじゃない……自分も、何かを、感じ始めた。ネコ、か。建物の右側に行ったな?
[センサーには何も映っていない。Agt. 赤沼は小屋の正面右まで進む]
Agt. 赤沼: その辺りに、いるのか。
[静かに、白杖が前に伸ばされる。道の木目をなぞりながら、白杖が進み、停止する]
Agt. 赤沼: ネコが、いる。ここに。
[白杖が指している場所には、何も存在しない。Agt. 赤沼は近くの葦を1本折り取って、猫じゃらしを扱うように揺らす]
Agt. 赤沼: はは。
[約1分の間、同様の動作が続く]
Agt. 赤沼: 確かに存在を感じる。君がずっと、着いて来ていたのか? キツツキの頃から。
[Agt. 赤沼の揺らしている葦は時折急に停止するが、それは物理的に不可能な動きでこそない。しかし、Agt. 赤沼が存在を主張しているネコによって葦が押さえつけられている、とも解釈できる]
Agt. 赤沼: 今、右足の先を軽く叩かれた──もっと前から? 我々の何かしらのセンサーが感知する前から、ずっと──今度は、撫でられている。意思疎通ができていると見て悪いことはないだろう──どこに行くんだ?
[Agt. 赤沼は、小屋の裏側に回り込む。酷く損傷した看板が立っており、その前まで移動する]
損傷した看板。
Agt. 赤沼: これを? [白杖で支柱を軽く叩いて] 看板があるのは分かるが、どうせ読めないよ。まぁ一応……
[Agt. 赤沼が看板を触る。枠を軽く掴み、プラスチックが一部剥がれて飛び出していることを認識して、手を切らないように気をつけつつ表示部分に指を当てる]
Agt. 赤沼: ああ、なるほど。
[2分間の沈黙。Agt. 赤沼は、点字を読むように看板上で指をスライドさせる]
Agt. 赤沼: 7セグメント式の文字だ。
[観測では、文字として規則性のあるような、はっきりとした凹凸は検出されていない。表面に存在するごく微細な凹凸を、"7セグメント式の文字" として解釈しているようである]
Agt. 赤沼: 何となく、分かってきた。
[更に5分間が経過する。Agt. 赤沼には暗号解読や言語学の知識は十分に無い。サンプル数が多少多くとも、Macy.aicにできなかった文字の解読が短時間でできた可能性は低いため、"7セグメント式の文字" は何らかの情報伝達用ミームベクターであったと考えられる]
Agt. 赤沼: 了解。
Record
SCP-4040-JP内 小屋内部
[Agt. 赤沼は、小屋の内部に移動している。薄暗い内部には古い石造の丸井戸がある。カメラは井戸枠に置かれており、井戸の反対側にAgt. 赤沼が立っている。井戸枠の上の空間を、Agt. 赤沼は撫でている]
Agt. 赤沼: [咳払いをして] そちらで起こっている問題は、概ねこの子のせいです……痛っ。
[手を振り払う]
Agt. 赤沼: 何があったのか正確に理解している訳ではありませんが。長い年月の中で、ミーム災害への対抗措置そのものがミーム災害となってしまった、対ミーム処置がミーム災害に飲み込まれてしまった、といったところでしょうか。
[小屋の外から強い風の音が聞こえ、扉が自動的に開く]
Agt. 赤沼: 対ミーム処置を受けることで、潜在的に元のミームに罹患してしまう。そのような状態が続いた果てに、ついにブレイクアウトが起こったようです。サイト-8120は、この数十年間、潜伏期間にあったのでしょう。
[Agt. 赤沼は首を横に軽く振る]
Agt. 赤沼: 最後の一押しは、SCP-218-JPのミーム感染だったようですね。感染経路は、ミーム罹患者が暗闇に吸い込まれてしまった、辺りだと考えています。もとより共通点の多い異常性でした。暗闇、という名辞が指す先です。
[何度か強い瞬きをしたのち、Agt. 赤沼は大きく両目を見開く。焦点は合っていない]
Agt. 赤沼: この空間までの道が繋がったのは、名辞による習合の結果とのことです。ただ、奪感者たる僕だからこそ、ここまで来れた。一般の人間が森の中に来ても、木道の存在にすら気づかず彷徨ってしまうでしょう。……ともあれ。少なくともしばらくは、今回の問題も収まるはずです。僕が、遊び相手になっているうちは。
[Agt. 赤沼が目を閉じ、頷く。また強い風の音が聞こえ、扉が閉まる]
Agt. 赤沼: あの子の気持ちが僕にはよく分かりますからね。何せあの子も、目は見えず、耳は聞こえないらしい。それでも見通せるのは年の功かな。とにかく、あの子が僕に夢中になれば、もう他の人が監視されることも無くなる。そうして、暗闇とあの子との繋がりが自然と薄れていく。
[Agt. 赤沼は、30秒を数える]
Agt. 赤沼: 次第に繋がりが薄れれば、習合は解けて、入口も閉ざされていく……さて。隠れ終わったと思うので、探してきます。暗闇から見つめ続けるだけよりも、かくれんぼで遊ぶ方が楽しいでしょう? さて、そろそろ探してきます。ああ、その前に。
[バックパックの中に、カメラがしまわれる]
Agt. 赤沼: Macy、お疲れ様。助かった。
[井戸の中に、バックパックが投げ込まれる]
バックパックにしまわれる前、カメラが最後に捉えた映像。
補遺4040-JP.2: サイト-8120への突入と事後評価
Macy.aicによる通信とほぼ同時に、サイト-8120の物理的・情報的ロックダウンは解除されました。更に1時間の情報収集を以て、施設内突入による認識災害・ミーム災害への曝露の可能性は低いと判断され、機動部隊が内部に侵入しました。
サイト-8120に勤務していた職員の94%はインシデント中の記憶を失っています。また、その多くは低血糖状態・脱水状態になっていました。すでに殆どは回復していますが、サイト-8120のセキュリティ再評価が進行中であるために、職務への復帰時期は未定です。
湯川サイト管理官は、管理官室で倒れた状態で発見されました。現在までに意識は回復していません。
Macy.aicは、SCP-040-JP収容棟内に落ちていたバックパックごと回収されました。同AICは、第2次SCP-4040-JP内部調査の実行を提言しています。情報伝達用ミームベクターと推定されている "7セグメント式の文字" の内容や、SCP-040-JPとの関わり、名辞についての議論など、Agt. 赤沼による最終ログには不明な点が多く、更なる調査が必要と考えられるため、現在計画が起草中です。
また、同AICは、回収された直後に以下の2種の申請を行いました。これらはいずれも受理されています。
- 第2次SCP-4040-JP内部調査への同行。
- 奪感者における空線触覚2番 (右手の解剖学的嗅ぎタバコ入れへの2連クリック) の、永久欠番化。









