SCP-4100-JP


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2023


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「世界のために勇敢に戦い、命を捧げた彼らに敬意を表して、敬礼!」


サイトの中央ホールに、そこの職員のほとんど、200名あまりが集められ、一斉にその手を額に当てる。

中央ホールといっても使うことはあまりないため狭苦しく、肩と肩がぶつかりかけている。


財団では、偉大な功績を上げた者に対し勲章が授与される。言わずもがな、職員の士気を高めるためのものだろう。

中でも、自らの命を捧げた者 — 要するに殉死して何かを成し遂げた者には、特別な勲章が授与される。何がどう特別なのかはよくわからないが、とにかく彼らは誰よりも特別に、誰よりも偉大なものとして敬意が表される。

そして、今日はその特別な勲章の授与式だった。


目線の先、ステージの中央にはその勲章がデカデカと飾られている。

財団のロゴにゴタゴタと装飾が付いたそれは、馬鹿みたいな金色と能天気な赤色で輝いている。

「えぇえぇあなたはもうすごい立派にお亡くなりになりました、組織全体で盛大に褒めたたえてあげますから、せいぜいあの世で祝杯でもあげててください」とでも言いたげなまでの、ベタ塗りの輝き。

ひねくれた見方が混ざりきっていることは重々承知だが、それでも考えずにはいられない。


死ぬのがそんなに偉いのか?

同じ働きでも、殉死者の方が勲章の授与条件はだいぶ緩い。必死で頑張っても何ももらえないのが大勢いる一方で、それまで大したことをしていなくとも死んだらあっさり勲章をもらう者もいる。

別に殉死者が立派でないと言いたいのではない。命をなげうつというのはなかなかできるものではない。

生きている間に勲章が欲しいということでもない。そんなものをもらったところで一円にもならない。昇進は近付くかもしれないが、特にその願望はない。

ただ、一つ聞きたい。


死んだ後にそんなものもらって、どうしたらいいんだよ。


生きるって言ってたじゃないか。

こんな組織のために、他人のために死ぬ義理なんてないじゃないか。

話したじゃないか。


気が付くと、周囲で拍手が起こり始めていた。本気で心の底から拍手しているのは2割ほどで、後の8割は機械的なものに思えた。

やけくそに、両手を打ち付けた。

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2022


アイテム番号: 4100-JP
レベル2
収容クラス:
euclid
副次クラス:
{$secondary-class}
撹乱クラス:
vlam
リスククラス:
danger

特別収容プロトコル: SCP-4100-JPの周囲50 mは封鎖し、常時2名の警備員と2台の巡視ドローン、及び複数の監視カメラで監視を行います。巡視ドローンと監視カメラには認識災害スクリーニング装置が導入されます。接近する人物にはカバーストーリー"不安定な地盤"を説明し退去させます。

実験時以外では、いかなる状況でも封鎖区域内に進入してはなりません。万が一予期せぬ進入が発生した場合、救助の試みは行われません。ただし、該当人物が自発的に脱出を試みて封鎖境界に帰還した場合は回収します。

[以降はクリアランスレベル2/4100-JPを有する職員にのみ開示されます]

説明: SCP-4100-JPは神奈川県██町の██山に存在する3階建のアパートです。全体が荒廃しており、外観からでも著しく損壊していることがわかります。

[以降はクリアランスレベル2/4100-JPを有する職員にのみ開示されます]


警備員用プロトコル: 警備は各時間帯警備員2名により、8時間交代で行われます。SCP-4100-JP正面玄関側と裏口側の対極に位置する2点に、それぞれ1名ずつ配置されます。最低でも15分に1度、無線で自身の状態の報告とパートナーの状況確認を行ってください。

事前に承認された人物以外でSCP-4100-JPに接近する存在を巡視ドローンまたは監視カメラが検知した場合、直ちにその旨と位置が警備員に通達されます。通達を受け次第、その存在により近い警備員が確認に向かいます。確認次第、直ちにパートナー及び本部に観察内容の報告を行います。対象が人間であった場合、既定のカバーストーリーを説明し退去させます。指示に従わない場合、パートナーを応援に呼ぶ、銃器での脅迫といった手段も許可されます。野生動物の場合は基本的に無視してください。██山において、SCP-4100-JP収容の障害となりうる大型の野生動物は確認されていません。

体調不良、特に下半身の強い疼痛を経験した場合は直ちにその旨を報告してください。それが次第に強まる場合、SCP-4100-JPから離れることも許可されます。

正体不明の実体を目撃した場合、その旨を報告した上で速やかに姿を隠し、退避してください。自己判断で対応しないでください。

その他の警備手順は、基本警備プロトコルに従います。


新人警備員用オリエンテーション抜粋

2022年4月4日実施


(……)

ではここで、財団において重要な考え方をお教えいたします。それすなわち、"Need-to-Know"の原則です。聞いたことある人もいるんじゃないですかね? 一応財団以外でも情報セキュリティなんかで使う用語です。簡単に言えば、「知る必要のある情報だけ知れ、他の情報は知るな」の原則です。

クリアランスレベルの話はもう聞きましたね。自分のクリアランスを超える範囲の情報は知ることができない、というのは皆さんちゃんと覚えてますよね? ……はい、皆さん頷いてらっしゃる。結構です。

では、何故余計な情報を知るべきではないのでしょうか? もちろん一口には言えません。必要な情報と不要な情報が混ざって混乱するとか、妙な噂が広まって無意味な不安が職員間に生じてしまうとかも大きいですね。あとはまあ、知ってしまったら世の中の見方が一気に変わってしまうような、そんなとんでもない情報もここにはあります。あぁ、あんまり不安にならないでください。そこまでなるようなものはそんなにないですし、何も知らずにいれば普通に生きてられます。

……はい? この世界が全部幻想で誰かに操られてたりするって可能性もあるのか? ……さあ。仮にそうだとして私たちのクリアランスでは知ることができませんし、知ったとてどうしようもありません。……あぁ静かに静かに、こんな感じに変な噂が広まりかねないからクリアランスがあるんですよ。あと質問は最後にまとめてお願いします。

それで、あぁNeed-to-Knowですね。皆さん警備員には基本的にクリアランスレベル1が与えられます。ですからまあ、あまり知れる情報はありません。一応言っておくと、決してあなた方が低く見られているというのではありません。あくまでも制度的な区分であり、あなた方は大変重要です。いざとなったらあなた方が最初に、直接にSCPオブジェクトやらと対峙することになりますからね。

それで皆さんはサイトやアノマリーの警備に割り当てられるわけですが、特にアノマリーの警備について。クリアランスレベル2以上のアノマリーに割り当てられている場合、そのアノマリーの情報を完全に知ることはできません。もちろん必要最低限の情報は与えます。しかし、それが具体的にどのような異常性を持っているのか、そこに近付くレベル2以上の職員がどのようなことを行っているのかまでは大概知ることができません。場合によっては、そのアノマリーがどういうものなのか、道具なのか生き物なのか、はたまた場所そのものなのかすら知ることができないこともあります。

しかしそう不安にならないでください。さっきも言いましたが必要な情報は与えます。どうやって警備したらいい、非常事態にはどう対応したらいいといったことは書かれています。必ずそれに従ってください。大抵予想外の異常性を持っている以上、想像で勝手に動かないでください。

……それに従えば絶対安全なのかですか? 絶対とは言えません。こちらにとっても予想外なことは起こるわけですから。とはいえ、従わないよりも従った方が無事な確率としては遥かに高いです。……従って無事じゃなかった場合責任は取れるのかと? もちろんこちらでも対応はしますし、不備があれば補償はしますが…… あのさっきも言いましたよねそこの方、質問は最後に。ちょっとなんですか、あー…… 千里ちさとさん? 財団の警備員として、勝手な行動はよしてくださいよ。現場だったら大惨事になりかねないですからね?

(……)






2030


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「なあ、何で豚乳とんにゅうって使わないんだろうな?」

「はぁ?」思わず腑抜けた声を漏らす。「トンニュウ?」

「うん。牛乳があんだから豚乳あっても良くない?」
「あー、豚の乳で、豚乳」

相も変わらず千里は、訳の分からない話をする。

比企ひがはどう思うよ?」
「知りませんよんなもん。不味いんじゃないですか?」
「いやでも、不味いなんて話聞いたことないだろ?」
「美味いって話も聞いたことないですけどね」
「これはみんな気付いてないだけで意外と革命的かもしれないぞ。単純なことほど気付きにくいってやつだ。コ… コ… コペルニクス的転回ってやつだな」

コロンブスの卵と言いたかったのだろうか、でも意味的にコペルニクス的転回でもあながち間違いではないかも、とまで考えたところで、比企は思考をかき消す。そもそも何の話だよ、豚乳って。

決して職場でする話ではないし、まして出会って2週間の後輩にする話ではない。何年も一緒に付き合ってきた唯一無二の親友に対し、どうにも話題が尽きてしまったときであればぎりぎり許される話題かもしれない。

「そしたら俺は豚乳の発明者か。何だったら比企も名前に加えてやってもいいぞ?」
「嫌です」
「あそっか、じゃあ鶏の乳もいけるかな」

もうツッコむ気すら起きない。いつもいつも糞みたいな話題ばかり振ってくるが、こんなのが先輩で、こんなのでもエージェントとしてやっていけているという事実にある種絶望する。

千里さんメモ

突拍子のない話題を急に始める。意味はほぼほぼよくわからない。

そしてこれから先しばらく、この人と一緒にやっていかなければならないという事実を思い出して再度絶望する。そして自分の不運をひとしきり呪うと、眼鏡を外して服の裾で拭う。

2週間前、食堂で独り昼食を食べ終えてスマホを弄っていたところ、突然向かい側に座ってきて、購買の格安おにぎりを貪り始めたのが千里だった。包装が上手く剥がせず、その内側にちぎれて残った海苔を引っ張り出して卑しげに口に運んでいたのを覚えている。

何か、恐らく中身のないことをペラペラと喋っていたが、仕事以外で余計なことは話したくないので軽く受け流していた。

向こうはエージェントで、こっちは研究員。だからあまり直接関わることはないはずなのだが。

どういうわけか、何が気に入ったのか、それ以降千里は比企についてくるようになった。仕事自体はもちろん別々だが、サイトで見かけるたびに比企のもとに来ては、生産性のない話をベラベラとしてくるようになった。

それはそれとして、若手研究員である比企は、これまで他のベテランの博士やら研究員やらの下について働いてきた。それ自体はなかなか刺激的なものであり、彼らの優れた知性や知識に感銘を受けることも多かった。しかし、何か自分自身の手でも成し遂げてみたいと、うっすらとだが思っていた。

そんな中、新たに配属されたこのサイトで、遂に初めて自分が主導するプロジェクトを与えられた。比企は興奮した。不安に思うところもあるが、是非ここで活躍したい、功績を上げて、なんなら讃えられたいとまで想像した。

そのプロジェクトというのは、とある場所に存在する建物型オブジェクトについてのものらしい。そこで直接そのオブジェクトを探索する役割として、エージェントが一人バディとして割り当てられるとのことだった。

一瞬嫌な予感が頭をよぎったが、気のせいだと思い気にしないことにした。


見慣れすぎたそのバディの顔を見た瞬間、予感の的中を知って卒倒しそうになった。


「……アンデス山脈にはアルパカとかいるらしいよな、後はリャマとかも出るかな」

3分ほど回想にふけっていたのだが、なんとまだこの話をしていたらしい。正直ここまで中身のない話を一人で続けられるのは一種の才能だと思った。

「あとはヤギ…… は既にいるな。ハイジであっただろ?」
「はぃ?」
「アルプスの少女ハイジだよ、そこでヤギの乳絞ってたろ、あの…… ピーターが」
「観てないのでわかんないです」
「観てないんかぁ。あの辺はちゃんと観といた方がいいぞー。俺も割と好きだし」

「あの」比企はわざとらしく咳払いして、話を遮る。「そんな話よりプロジェクトの話しましょう」

「あー、そっか。プロジェクトね」こちらからはっきりと言えば、案外素直に千里は話を変えてくれる。そこだけはいいところだと、比企は考える。

「じゃ、前提から確認しましょう。オブジェクトは一時的にほぼ無力化されたと思われていたが、最近になってまた妙な動きを見せ始めた、と」
「で、そのオブジェクトってのが」
「SCP-4100-JPですね」


ちなみに後で調べてみたところ、ピーターではなくてペーターだった。

好きなら覚えておけよ、そう思った。どうにも性格が合わない。

千里さんメモ

言葉を頻繁に間違える。わざとやってるのかと思うくらいには。



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氏名
比企 連理 (Higa Renri)
セキュリティクリアランス             
2
職員ID
81t31u338r002
役職 性別 年齢
研究員 23
生年月日
2006.10.21


比企研究員は、2017年(当時10歳)にプロジェクト・ヱルテルの一環で集団自殺に参加、財団に回収され、当初はDクラス職員として雇用されました。その後、エージェント・北宮の複数回の建議を受け、Dクラス指定を免除された上でプリチャード学院初等部に入学しました。これに際し、表向きは彼は死亡扱いとなっていたため、新たに虚偽の身元を与えられ、名前も本来の手繰てぐり 智基ともきから現在のものに改められました。

プリチャード学院では概ね優秀な成績を収めていましたが、対人関係に乏しい傾向が見られました。

研究員として財団加入後の人事評価では、向上心や忠誠度が高く、定型的業務においては同期職員と比較して優秀です。ただし、想定外の事態に対しパニックになる、相手によって態度を変えるなどの要改善点も指摘されています。

補足: プロジェクト・ヱルテル

本プロジェクトは、財団日本支部における著しいDクラス職員の不足問題に対処するため、2014年に開始されました。

本プロジェクトでは、財団がインターネット上で自殺志願者である/志願者となりうる人物の情報を収集し、自殺を行う際は、財団が把握しやすい形での実行を促します。事前に把握した情報に基づき、自殺志願者をその実行直前に回収します。詳細はプロジェクト・ヱルテル概説を参照してください。

回収された人物は通常Dクラス職員として用いられることになりますが、その人物の経歴や、Dクラス職員となって以降の振る舞いや活動によっては、Dクラス職員でない一般の職員として再配属される場合もあります。








2022


SCP-4100-JP警備ログ

2022年4月18日


千里警備員: さーて、始まり始まり。

楊警備員: 始まり、ましたね。

千里警備員: だから敬語じゃなくていいって。同僚なんだし。

楊警備員: あぁ、うん。そう、だね。

千里警備員: こっから8時間か。長ぇなあ。

楊警備員: まあ長いですけど、じゃなくて長いけど、仕事なんでちゃんとやらないと。

千里警備員: そういうもんかなあ。

楊警備員: そういうもんでしょ。金入ってますし。

千里警備員: 金ねえ。夜勤なんだから昼勤より高くしてくれないとおかしいんだがな。22時から翌朝6時やぞ。

楊警備員: あー、前もめっちゃ文句言ってましたね。

千里警備員: コンビニでもそこはちゃんとしてるのに。世界最高の秘密組織がコンビニ未満かよ。あと敬語いらない、やなぎ

楊警備員: あ、ごめん。でもいきなりそんな話していいの? これ思いっきり記録されてるけど。

千里警備員: あ? いいだろそんなん、どうせ誰も聞いてない。

楊警備員: えぇ……。

千里警備員: こんな話を8時間分、ローテも考えると毎日24時間、律義に聞くやつはおらんて、物理的に。多分何か緊急事態があったらそこだけ確認するとか、そんなもんだろ。

楊警備員: なるほど。

千里警備員: それに8時間ただ黙ってつっ立ってろとはさすがに言わんだろ。

楊警備員: ……にしても組織の文句はやめといた方がいいと思うけど。入ってきて早々。

千里警備員: ま、それならそれでもいいだろ。俺は勝手にするけど。

楊警備員: はあ。

(沈黙。)

千里警備員: ……8京円ほしー。

楊警備員: ……まあお金はあるに越したことないけど。8京?

千里警備員: うん。一応プラン考えてるけど、具体的にどう使うか聞く?

楊警備員: ……話したいなら、どうぞ。

千里警備員: よし。まずは家だろ。これが大体……

(後略)


SCP-4100-JP発見記録: 2022年3月17日、「友人が山中の廃墟を探索に行ったきり帰ってこない」という内容の通報が警察になされたことで初めてSCP-4100-JPの存在が知られました。その後、調査に向かった警察官がSCP-4100-JPへの接近時、股間に強い疼痛を訴え、引き返したことが財団の注目を引きました。それに加え、登記簿調査において、当該建造物が廃墟となっている事実と記録内容が矛盾しており、廃墟化を引き起こすような自然災害等も発生していないことから、異常存在の可能性が高いとして財団により確保されました。

ドローン調査やDクラス職員を用いた実験により、異常性とSCP-4100-JP-1の存在が確認されたことで、正式にSCP-4100-JPとして分類されました。その後の観察により、SCP-4100-JP-1がSCP-4100-JP付近から移動する様子が見られないことから、異常性範囲外である周囲50 mに境界線が確立されました。

また、発見前に行方不明届が出されていた数名がGoI-4100-JPの構成員であり、かつSCP-4100-JPと関連を有することが、無関係な警察の調査中に判明しました。

SCP-4100-JPはGoI-4100-JPがその被害者を居住させ、事実上監禁するために使用していたと見られています。GoI-4100-JPにより関連する情報の多くが隠蔽されており、かつ被害者に外部との交流はほとんどなかったと考えられることから、具体的にいつSCP-4100-JPが異常性を発現したのか、異常性発現の契機が何かといった情報の追求は困難と見られています。






????


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あれ? 見ない顔だね。

えっ。あ、こん、ばんは。

その感じ…… キミも家出してきたクチだね。しかもつい最近。噂聞いて来たの?

は、はい。

ピナも同じ。もう数ヶ月も前だけどね。

は、はあ……。ピナ……?

あぁごめん、名前が日奈だから、ピナ。そっちは?

えっと、その…… レミノって言います。変わった名前なんですけど……。

へぇ、レミノちゃん。可愛い名前。よろしくね。

はい…… どうも……。

その感じからして、もう家に帰る気はない?

はい。この傷も、お父さんに殴られて、あとこっちの赤いのは学校で

あーいいいい。言わんくていいよ。辛いでしょ?

は、はい。でもここから先、どうしたらいいか。お金もほとんど持ってないし。

……じゃあ、とりあえずピナについてきて。嫌になったら逃げてもいいから。

え?

まずは何でもいいから、その見た目どうにかしなきゃね。服もボロボロだし、素は可愛いけど。あと傷とかごまかすメイクも、詳しいから。

はあ……。

ピナにはわかるよー。キミみたいなタイプは、もうすごい化ける。うん。化けモン。

どうも……。褒められ、てる……?

褒めてる褒めてる。そんじゃまず…… ヤベ。

え?

警察だ。すぐ離れて。

え? あ、その

見つかったら家に帰される。この辺よく回ってんだよ。アイツらホント糞だよ、マジで。

は、はい!

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2030


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「2024年にインシデントが発生して、その後SCP-4100-JPがほぼ無力化されたんですね。近付いてもなんともなくなったし、SCP-4100-JP-1もどっかに行っちゃった。消滅したと判断されたんですね」比企は画面の文字をカーソルでなぞりつつ、言う。

「おん」千里は気の抜けきった声を漏らす。

「で、それ以降長らくなんもなしと。ただまあ、建物内部のMorris値は全体的に高めだったんで、一応引き続き収容はされてますが、軽い監視をごくまれにチェックするだけでほぼ放置みたいになったんですね。千里さん、Morris値ってわかります?」

「おん」千里はどこへともなく漠然とした声を漏らす。

「Morris値ってのは、霊子の濃度ですね。霊子ってのは霊的実体──幽霊の構成要素ですね。正直私も軽く習った程度なんでそんなに詳しくないんですが。色々調べないとな。どうです?」

「おん」千里は虚無の感情を凝縮したような声を漏らす。

「あの聞いてます?」
「おん」
「おんじゃなくて。じゃあMorris値って何ですか?」
「霊子の濃度だろ。霊子ってのは幽霊を作ってるやつだ。でそれが高めだったと」
「……聞いてんじゃないですか」
「おん」

比企は苦々しい顔をして、ため息を漏らす。もういちいち気にしない方がいいかもしれない。これはある種の自然災害のようなものだろう。

千里さんメモ

話聞いてるのか怪しいときが度々あるけど、大抵めちゃくちゃ聞いてる。

「で、しばらく何の活動もなかったんですけど、つい先日からまたおかしなことが起こり始めたんですね」
「へえ」
「といっても前のやつが再発したってわけじゃなくて、物音とか軽いポルターガイストとかが出る感じですね。……あと」
「あと?」

比企は目を細めて画面を睨む。

「前は近付くと下半身に痛みとかあったんですけど…… 今はなんか…… 便意がすごくなるらしいです」
「ウンコが?」
「はい。下半身の痛みってことには変わんない気もしますが。時々かなりトイレ行きたくなるらしくて。既に用を済ませてても。意味不明ですが」
「先にウンコ行っててもウンコ出したくなるんだな。ウンコ」

この人のことはもう無視しようと、比企は画面にだけ集中する。ギャグのつもりで連呼しているなら、残念ながらセンスは小学生未満だ。

千里さんメモ

ウンコが大好き。罵倒語のバリエーションもほぼウンコしかない。

この情報いる?

「今回の私たちの任務は、今のSCP-4100-JPがどんな性質を持っているのか、そしてできれば何故新たな異常性が出てきたかを解明することですね」比企は訥々と言う。

「はえー」千里は初めて聞いたかのようにぽかんと口を開けている。

「疑問なんですけど」ぽつりと比企はつぶやく。

「何よ」
「何で上はこのプロジェクトを私たち2人なんかに任せれたんですかね。私みたいな新人で、メインを務めるのも初めての研究員に、あなたみたいな……」
「天才?」
「問題児。確かにDクラスの試験で今のSCP-4100-JPに危険性はないっぽいですけど、仮にも過去に割と人死に出てるオブジェクトですからね。そんなのをここに任せちゃっていいのかと」

少し考えるようなそぶりを見せ、千里は口を開く。「人手不足じゃないか?」

「そんなわけな……」比企はいつもの癖で却下しようとして、口ごもる。「いや、そうかもしれませんね」

実際、財団の人手不足は深刻だ。Dクラス職員が不足していたために発足したプロジェクト・ヱルテルで雇用された比企自身が一番よくわかっている。だからこそ、こんな問題児エージェントが紛れ込んでしまったのかもしれない。

そのまま比企はより詳細な資料に目を移す。そして新たな異常性の発現が判明した段階の項目まで見て、思わず固まる。

「あの」
「あの?」
「SCP-4100-JPの新異常性に最初に気付いて報告した職員って」
「うん」
「千里さんじゃないですか」
「うん」

比企は、自分にできる限りの"本当に信じられない"という顔を、すぐ側で何も起きていないかのようにすまし顔を浮かべた男に向ける。

「何で言わないんですか」
「絶対気付くと思ってたし。実際気付いた」

そのスンとした顔を殴ってやろうかという衝動が思わず比企の頭をよぎる。やはり前々から思っているが、こういう適当な人間は大嫌いだ。

千里さんメモ

職務は基本適当。最低限のことはするが、できる限りでさぼるし、雑にやる。



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あー、千里ね? 比企あいつと一緒になったの? そりゃ大変だねぇ。

千里ね…… 全然悪い奴ではない。むしろいい奴だよ。うん。全員に友好的だし、基本ネガティブなこと言わんし。少なくとも、何も考えず適当に一緒に過ごす分にはあれほど適した人間もそういないわな。

まあでも比企の気持ちもわからんでもない。比企相当仕事には真面目でストイックだからね。うん。一方の千里は基本やる気ないから。できる限りさぼりたいし、仕事はしたくない。誰が相手でもそのスタンスは変わらないから、そりゃ合わないでしょ。サイト管理官の前でもあの態度だし。

まあでも、ちゃんとやることはやってるよ? 言われた仕事はきっちりこなすし、なんだかんだ成果も上げてくるから。うん、あれで。別にただ人手不足の数合わせってだけでエージェントに認められてるわけじゃないのよ。信じられんかもしれんけど。

まあ腹立つのもわかる。そっちはすごい真面目にやってるってのに、あっちに目の前であんな態度取られちゃあやる気失せるよね。ただまああいつは何言ってももう変わんないから、いっそそっちが千里に合わせてみるって手も……

ちょっと怒んないでよ、そっちに問題があるって言ってんじゃないから。落ち着いて。

でも一応、エージェントになる時にはすごい努力してたし。というかあいつって昔は……

いや、やめとくか。今の千里はあれだから。うん。余計なこと言わん方がいい。

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氏名
千里 薫 (Chisato Kaoru)
セキュリティクリアランス             
2
職員ID
81k92a389v478
役職 性別 年齢
エージェント 27
生年月日
2002.8.18


エージェント・千里は、財団への雇用時点では警備員でしたが、2026年にエージェント昇格試験を受験、合格してエージェントとなりました。

2023年のインシデント4100-JP以降、一時的に忠誠度試験成績の急落が見られましたが、その後徐々に回復し、現在は基準値に収まっています。

しかし、勤務態度においては財団職員としての意識の欠如、軽微な怠慢的態度が見られるため、注意が必要と見做されています。一方で与えられた任務の達成率は高い水準を保っており、その点は比較的高く評価されています。






2022


SCP-4100-JP警備ログ

2022年4月18日


千里警備員: 報告書、ろくな情報載ってなかったな。

楊警備員: はい?

千里警備員: SCP-4100-JPの報告書だよ。本体がボロアパートなことしかわからなかった。

楊警備員: まあ、オリエンテーションでも既に言われてるけど。報告書はレベル2で、僕らはレベル1。しょうがない。

千里警備員: にしてももうちょっと情報くれたっていいんじゃないかなあ。

楊警備員: 気持ちはわかる。

千里警備員: 必要最低限の情報は書いてありますーっつってたけどさ、最低限に足りてるかどうかも怪しいぞ。いざとなったら身を隠して逃げてくださいって、そこはこっち任せかよ。どう逃げるんだよ。

楊警備員: ……オリエンテーションでも確か文句言ってたよね。

千里警備員: ん。全員がまず疑問に思うだろうことを聞いてやった。

楊警備員: なかなか直接聞けるもんじゃないよ。

千里警備員: そしたら質問は最後にってうるさいから、大人しく待ってやったよ。

楊警備員: それで、5つぐらい一気に質問したと。

千里警備員: おん。全部歯噛みの悪い答えしか返ってこなかったけどな。

楊警備員: 歯切れ、かな。 まあいっか。

千里警備員: 多分財団は俺らを守ってくれない。社員を守ってくれない会社はウンコだ。

楊警備員: まあ、ここ会社じゃないし。

千里警備員: 財団って労基法適用されんのかな?

楊警備員: さあ……?

(沈黙。)

千里警備員: ……不明な実体を見たらって書いてあっただろ?

楊警備員: ……あー。

千里警備員: ってことはもう"いる"ってことじゃん。

楊警備員: そうなるのかな。

千里警備員: 幽霊かな。

楊警備員: かもしれない。

千里警備員: クリーチャーかな。

楊警備員: かもしれない。

千里警備員: ツチノコかな。

楊警備員: かもしれ…… ツチノコ?

千里警備員: うん。多分ツチノコだ。ツチノコは知ってる?

楊警備員: 知ってるけど…… 何でツチノコ?

千里警備員: ツチノコはいる。俺の直感がずっとそうささやいてるんだ。

楊警備員: はあ。

千里警備員: 問題。ツチノコの腹は何故丸い?

楊警備員: 知らないなあ。正解は?

千里警備員: 俺も知らない。

楊警備員: えぇ……。

千里警備員: 一説には、卵を丸呑みしたヘビを誤認したってのがあるな。

楊警備員: なるほど。

千里警備員: あるいは妊娠したヘビを誤認したのかも。

楊警備員: ヘビは卵生では?

(沈黙。)

楊警備員: ……それだとツチノコはいないってことにならない?


02:15: SCP-4100-JP-1が見当たらないことを確認し、ドローンがSCP-4100-JPの正面から進入する。全体が血痕やその他の体液痕で汚損されており、壁や床が著しく損壊している。

02:28: 1階廊下。実験時に死亡したD-62839の死体が壁にもたれかかって床に座ったような姿勢になっている。腹部と股間部がえぐられたようになくなっており、その正面側には血液や内臓が集中的に飛び散っている。何かを引きずるような音が聞こえる。

02:58: ドローンが101号室に進入する。玄関扉は破壊されており、容易に進入可能。天井に大きな穴が開いており、201号室に直接つながっている。やはり血液で部屋全体が汚されているが、死体は見当たらない。部屋の隅にゴミの塊らしきものが見えるが、半ばゲル化しており、いくらかプラスチック片が見えるのを除き判別がつかない。その横には、エナジードリンクの空き缶が数本転がっている。

04:22: ドローンは天井の穴から201号室に入る。部屋の中央には腐敗の進み半ば白骨化した男性の死体があり、破壊された天井の建材が頭部に上から突き刺さるようにしてぶら下がっている。四肢は途中で切断されている。傍には破壊されたスマートフォンが落ちている。

05:03: ドローンは201号室から出ようと外を伺う。一瞬、SCP-4100-JP-1が接近するのが見えてドローンは身を隠す。女性らしき歪んだうめき声が聞こえる。SCP-4100-JP-1は201号室の前は通らず、205号室に入ったように思われる。

06:12: ドローンは201号室の扉から出て上昇し、301号室に入る。壁が破壊されており、306号室まで直接つながっている。室内の床や壁には肉片らしきものがべったりと広がっており、元の人間の特徴や人数を判別することは不可能。

06:49: ドローンは壁の穴から302号室に入る。中には腐敗した女性の死体が5体寝かせられている。死体は一部損壊しているものの、比較的丁寧に扱われているように見える。

07:27: 303号室。ここまでの部屋で最も荒れている。壁や床、天井に多数の切断痕や強い圧力の痕跡が見られる。301号室と同様に、肉片が全体に張りついている。奥には2段ベッドらしきものの残骸が見えるが、徹底的に破壊されている。

08:56: 305号室に入ろうとした際、何かのきしむような音が聞こえる。振り返ると、目の前にSCP-4100-JP-1がいる。それはしばらく動かないが、やがて女性と乳児のものが混ざったような叫び声をあげる。ドローンは逃亡を開始するが、SCP-4100-JP-1はすぐに後を追い、ドローンに接触する。

09:30: [認識災害編集済]

09:32: ドローンとの通信がロストする。






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うん、完成かな。すごいきれいになった。

これが…… へ、へへ……。

感想は?

いや、なんて言ったらいいか…… これまで親に決められた服装しか許してもらえなかったし。

そっか。

で、でも…… ありがとう。

どういたしまして。

でも、お金とか全部出してもらったけど、このお金って……。

……ここの噂聞いて来たなら、多分聞いてると思うんだけど。

……もしかして。パ……

そ。パパ活。

やっぱりピナちゃんも、

うん。もう何十回かな。

それは……

まともなバイト先とかもないしね。これが一番儲かるし、手っ取り早い。

でもそれって……

まあ褒められたものじゃないよね。わかってる。ただ一応、基本的にはホントにご飯とか一緒に行くだけで、それ以上のことはないから。

私も?

もちろん無理にとは言わないけど…… ここで生きてくとしたら、そうなるのかな。

家とかは、どうしてるの?

……実は、ピナみたいな家出した女の子が集まる場所があって。そこでまとめて、パパ活の情報とかも入ってくる。

誰かが、それを運営してるの?

うん。慈善…… ではないけど、協力してくれる人がいて。ただ、そこにも会費とかかかるけど。

会費。

ただ、一人よりはたくさんいた方が絶対いいとは思う。……行ってみる?

……とりあえず、見るだけ見てみる。

そっか。

……

ごめんね。

え?

一つ、おまじない教えるね。

おまじない?

うちの辺りでちょっとあったおまじないなんだけど。大切な人とずっと一緒にいられるおまじない。縁結びみたいな。

大切な、人。

いざとなったら…… これが何か役に立つかもしれないから。

……

教えて。

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2030


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智基、あの人見える?

そう、あの人。あんなところでこんな暑いのにつっ立ってる。

勉強しないと、あんな仕事に就くことになっちゃうの。

そう。学校でもまともに勉強しないでダラダラ過ごしてたバカな人があんなことやるの。嫌でしょ?

智基には、ちゃんとまともな仕事に就いていっぱい稼いでもらわないとね。あんな底辺と智基は違うの。

毎日10時間勉強させてるのもそのためなんだよ。智基はいい中学校に入って、いい高校に入って、いい大学に入って、エリートコースを歩むの。

大変なのはわかってる。でも、将来これが絶対に智基のためになるから。

論理的に考えることもできない怠け者のクズなんかになっちゃダメ。帰ったらまた勉強しようね。

ガンバレ!



また、この夢を見た。いつまでも、後を引いて消えない。

手繰智基は死んだ。今ここにいるのは、比企連理だ。


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GoI-4100-JP

GoI-4100-JPは神奈川県██市を中心に活動する大規模犯罪組織です。本来財団が対処する範囲にはありませんが、SCP-4100-JPとの潜在的な関連性と、組織自体の固有名称の欠如のために本報告書では便宜上GoI-4100-JPに指定されています。

GoI-4100-JPは主に若年女性をターゲットとした特定形態の売買春──いわゆる「パパ活」──の斡旋を行っています。その手法は多岐にわたり、家出少女らのコミュニティを形成させて生活の援助・マッチングの仲介役を担うものが代表的です。複数のホストクラブを傘下に置いており、その収益の一部を上納金として回収するほか、少女に金銭を浪費させてパパ活を煽動します。GoI-4100-JPのバックには指定暴力団や詐欺グループが関与しているとされています。

末端の構成員が確保された場合、上層部による"尻尾切り"が頻繁に行われます。末端はごく限られた情報しか有しておらず、かつ確保され次第速やかに上層部との繋がりが断たれるため、未だ組織壊滅に向けた有意な成果は上げられていません。

GoI-4100-JPの活動自体に異常は関与しておらず、異常組織との繋がりも見られないため、財団によるGoI-4100-JPへの対処は基本的に行われません。


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「こりゃあろくでもないですね」GoI-4100-JPの資料を眺めながら、比企はつぶやく。

「……あぁ」千里は目を閉じ、手を組んだまま、ぽつりと言う。

妙に落ち着いた雰囲気に比企は当惑する。別に普通の人なら普通ではあるのだが、千里がこんな様子でいるのは珍しい。

「SCP-4100-JPってのはこいつらが家出少女たちを住まわせてた場所だったんですね。でも例の尻尾切りが行われたのと、内装がもうぐちゃぐちゃになってたせいでそれ以上ろくな情報が得られてません」

「…..ん」千里は少しだけ声を漏らす。

あまりにも露骨に妙な千里の態度に、比企は目を顰める。今まで散々うるさかったのにどうしたのだろうか。

「……相当なストレス環境だったことには間違いないでしょうね。割とアノマリーって特定の感情がかなり強まったときに生まれやすいんで、そう考えたら1つや2つ…… なんならもっとたくさんアノマリーが出てきてても疑問はないですかね」

「……」とうとう千里は何も返さなくなってしまった。

普段要ること要らないこと山ほど言っている癖に何故急に黙るんだと思いかけて、止める。そもそも千里には静かにしておいてほしかったから、これで何の問題もないはずだ。

「パパ活とか言ってますが…… 要するに売春なわけで。としたらそれ以上のことも行われてたでしょうね。たくさん」
「それ以上?」
「まあ性的なことですよ。そもそもSCP-4100-JP-1だって……」

「これ終わったらラーメン食い行かね?」急に声のトーンを上げて、千里は言う。

「は?」比企は面食らう。

「いやー、ずっとラーメン行きたいなーって思ってたから。あんま集中できんくて」
「何ですか。……それで態度が妙だったと?」
「うん、そうそう。ラーメンラーメン」

そんなわけないだろ。どうやらパパ活の話題が好きではないらしいが、話題を変えるにしてももう少しあるだろう。

千里さんメモ

嘘をつくのが絶望的に下手。

そもそもこちらは嫌がらせでこの話題をしているわけではない。あくまでも仕事の一環だ。むしろ必要なことなのに、今後も目を逸らされ続けたら困る。あまり千里について知りたいわけではないが、一つ質問してみる。

「ラーメンは行かないですけど、このGoI-4100-JPのこととかそんな嫌いですか?」

「あぁ…… まあ、クソだな」"クソ"の部分を強調するように千里は言う。

「まあクソなのは間違いないですね」
「あぁ。女の子たちを酷い目に遭わせて」

「……」比企の心に引っかかるものがある。そしてそれは、引っかかり続けることなくするするとその口から出てきた。「でもちょっと、自業自得じゃないですか?」

「え?」

「もちろんGoI-4100-JPはクソですし、女の子を買ってるおっさんどももろくでなしですよ。でもですよ、パパ活がどういうものかは最初からわかってるわけでしょ? 他でもない自分からやってるんだし、なんか違くないですか? 現状から逃れるにしても何か方法が……」

こんな発言はすべきでない。それはわかっているはずだ。仮に思ったとしても、口に出して誰かに言うのは常識がないと言われても仕方がない。だがそれでも言ってしまったのは、千里に対する反発心からだろうか。

正直、何を言ったかはあまり覚えていない。それが本音だったのかも、よくわからない。



千里はしばらく黙っていた。そして更に数秒黙ってから、ようやく口を開いた。「比企」

比企はピクリと反応する。「はい?」何を言われるのだろうか。

「お前、生きたいと思ってるか?」千里の口から出たのは、あまりにも突拍子がなく、意味不明な言葉だった。

「え?」
「財団で働いてるけど、最後まで生き残りたいか?」

「……はい」意図はわからないが、一旦冷静に、素直になることにする。「自然と退職する歳になるまで生きていたいです」

「……」

一呼吸置き、また口を開く。「もう知ってるはずですが、一度は自殺しようとしました。しかし自殺はあくまでも手段であり、それで果たしたかった目的は既に達成されました。だから、自殺願望はもうありません」

「……」改めて、しばらくの沈黙。そしてやはり数秒経ってから、千里は急にニカッと笑った。「うん、それでいい。俺も絶対死にたくない」

態度の急変に動揺しながらも、比企は訊ねる。「でも財団エージェントって殉職率高くないですか」
「あぁ。だからこそ、死んでも死なない」

"だからこそ"がどこにどうかかっているのかはわからなかったが、ひとまず良しとすることにした。

千里さんメモ

死ぬことを極度に嫌がっている。

インシデントの記録に「千里」の文字があったが、聞かないことにした。


「じゃ、次、具体的にどう進めます?」
「とりあえず、外に出てみるか」
「外?」
「ああ。俺はSCP-4100-JPを探査してくる。改めて直接」
「……んじゃ、その間に私は関係するかもしれない人物にインタビューしてきますね。何かわかるかも」
「よし、決まりだ。レッツゴーだな」

そこからは、あまりにもトントン拍子に流れが決まっていった。

「ということで、早速ラーメン行くか」
「行きませんって」

いつも通り軽くあしらったその時、比企は突っかかるものがあるのに気付く。

千里が普段の様子に戻り、少し安心してしまった。今後の流れも、やたらと雑に決めてしまった。挙句、少し自分が笑っていたように思う。

千里に毒されてしまったのか。

少し、不安を覚えた。


「現状から逃れるにしても何か方法が」、あの時自分はそう言ったような気がする。

では具体的に、他にどんな方法があるのか。どうすればよかったのか。

……自殺?

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エージェント・千里行動記録


4月8日: サイト-81LV新規配属職員の人事資料請求。

4月12日: サイト-81HZのエージェント・北宮に連絡を取る。

4月17日: SCP-4100-JPについて、新たな異常性発現の疑いを報告。

4月23日: SCP-4100-JPの担当を申請する。また、共同担当者について意見を行う。

4月25日: 申請が承認される。






2022


SCP-4100-JP警備ログ

2022年5月13日


千里警備員: 警備員ってさあ。

楊警備員: うん。

千里警備員: 映画とかだと大概最初で殺されるよな。

楊警備員: あー。

千里警備員: それこそまだ本編すら始まってないような段階で。暗いどっかの建物を見回りしてたら、謎の怪物にぐわーって襲われる。

楊警備員: よくあるよくある。

千里警備員: 扱い悪くない?

楊警備員: まあ、展開として作りやすいし。

千里警備員: 逆に、警備員が主人公格でバリバリ活躍する話とか知ってる?

楊警備員: 見たことないな。

千里警備員: だろ? 警備員ってのはいつでも悲惨な形で名前もなく殺される運命なんだなあ。

楊警備員: 全部ってことはないと思うけど。どっかには活躍するのもあるでしょ。

千里警備員: とはいえなあ。世の中警備員ってだけで死亡フラグなんだよ。

楊警備員: うーん。

千里警備員: 死亡フラグでも台詞とか行動とかは気を付けりゃどうにかなるだろ。でも警備員でいるだけでってのはどうしようもなくないか。

楊警備員: 理不尽だ。

千里警備員: そう。人生みんな理不尽。生まれた瞬間からずっと理不尽は降りかかり続ける。あー嫌だ嫌だ。

楊警備員: ……じゃあ何で財団の警備員なんかやってるの? 普通の警備員ならともかく、ここじゃ映画みたいにホントに殺される可能性だってある。

千里警備員: ……事の流れだよ。

楊警備員: そんな適当な。……ま、いいけど。

千里警備員: それに、金払いだっていい。昼勤と額が変わらないのは文句あるけどさ、それでも普通の警備員と比べたら恐ろしい差だよ。

楊警備員: まあ確かに。

千里警備員: そういう楊は?

楊警備員: 財団が、拾ってくれたから。

千里警備員: 拾った?

楊警備員: うん。高校生の頃、まだ収容されてなかったアノマリーがうちまでやってきて…… 両親と、家を奪った。それを目の前で見せつけられて、自分も殺されるってなったとき、財団の機動部隊が、助けてくれた。

千里警備員: へぇ。なかなかな……

楊警備員: で、寄る辺もなかったんで、財団に拾われた。それでなんだかんだあって今に至る。

千里警備員: ほー……

楊警備員: 財団に拾われた命だから、ほんとはあそこで死ぬはずだった命だから…… どうしてもってなったら、自分も命をなげうつ覚悟でいる。救ってくれた分は返さないと、とは思ってる。

千里警備員: 返すために、死ぬ。

楊警備員: もちろん、いざそうなったとき実際にできるかはわからないけど。やるだけやりたいとは思ってる。

千里警備員: ……そうか。それがいいなら、いいんじゃないかな。

楊警備員: でも千里さんは死にたくないんだっけ。

千里警備員: あぁ。絶対に死にたくないね。

楊警備員: そう。

千里警備員: もちろん財団のおかげで色々助かってるけど、だからって死んだら意味ないんじゃないかと思ってる。

楊警備員: なるほど。

千里警備員: ま、でも楊がそうしたいならすればいい。こっちがいちいち他人の人生に口出すことはできん。

楊警備員: わかった。……ありがとう。

千里警備員: 何が?


2022/05/15に実施された第3次ドローン探査で、以下を始めとするアイテムが回収されました。

  • 死体の皮膚サンプル6人分(男2人、女4人)
  • 壁に付着していた組織サンプル(2部屋から回収)
  • エナジードリンクの空き缶1本
  • 未使用のコンドーム3枚
  • 「おまじ█い」と書かれた手書きのメモ。その下にも何か文章が書かれていたと思われるが、血液による汚損のため判読不能。
  • 第2次探査でロストしていたドローン1機。直径約8 cmの球形に圧縮されている。

皮膚サンプルの遺伝子検査では、男女各1名分、行方不明届の出されている人物と遺伝情報の一致が確認されました。うち男性は、失踪以前から不審な振る舞いが時折見られたと親族が述べており、女性は、SCP-4100-JP発見の約8ヶ月前から失踪、恐らくは家出したものと予想されていました。

一部のアイテムは、男性が接近するとわずかに震動したり、その方向に転がるなどの自律性を見せました。

各アイテムからは微量ながら霊子の痕跡が検出されました。






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ほら着いた、ここだよ。

こ、ここ…… なんか…… 結構……

まあ小さいしボロいのは認める。でも贅沢は言ってられないからね。

うーん。

住めば都って言葉もあるし。じゃほら、ただいまーっ。

し…… 失礼します。

よし、ここ。何人かいるでしょ? みんな同じ仲間。

……なんか、あんまり歓迎されてないみたいだけど……

ま、気にしないで。みんなどう反応していいかわからないだけだから。

そういう感じでもない気が……

ピナのエリアはここ。まあ…… 汚いのはガマンして。これが布団。

なるほど。

で、さっき真ん中に広いとこあったでしょ? あそこに1日1回ここ運営してる人が来て、ご飯とか必要なものとかくれる。リクエストすれば割と通るよ。

うん。

それと、パパ活の情報もくれる。それでこの人をやりますって書けば、それだけでマッチング成立。自分でやるよりずいぶんと楽だよ。

……

基本的には早い者勝ちなんだけど、時々条件付きのもあるし、なんなら直接指名あるのも割と。太客ってやつだね。

太客?

あぁ、それも知らないか。要するに…… 常連客、は違うな。えーっと…… そうだ、ひいきにしてくれるお客さんのこと。ピナにも、3人。

ピナちゃんにも。

うん。重要な収益源だからとっても大事にしてるよ。

収益源。

まあ、あんまり気持ちのいい話じゃないけどね。ただ実際やるとなったら、覚えておかないといけないことは色々。

ふーん……

じゃあ次に教えることは

おい日奈、また新しいの連れてきたのかよ。

あっミロちゃん、ども~。

ども~じゃねえよテメェ、もうこここんだけ狭くなってんの見てわかんねぇかな。それにウチらの取り分もどんだけ減ってると

まあまあまあ、一旦落ち着いて、チルアウトチルアウト。

えっと…… これは……

まあ気にしないで。無視でいいから。

お前が新しくうちに入ってきたやつか。

は、はい…… まだ正式に入ってはないんですけど……

名前は。

えっと…… レミノって言います。

あっそ。くれぐれも調子乗んじゃねえぞ。ウチらが先輩だからな。

は、はい。よろしくお願いします。

……行ったね。

うん、ちょっと…… 怖かった。

あいつさ、太客一人だけだったんだけど、その客にやるだけやられて逃げられたってさ。連絡もつかない。

それは…… 大変。

まあ性格がバレて愛想尽かされでもしたんでしょ。で、完全にフリーになっちゃって気が立ってるわけ。で、小物悪役ムーブかましてんの。ああはなりたくないよね。

難しいんだね……

でもレミノなら大丈夫。見るからに素で性格いいから。きっとすごい上手くやれると思う。可愛いし。

ど、どうも。

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2030


インタビューログ

2030年5月7日実施

前記: インタビュアーの比企研究員はWebライターとして偽称し、SCP-4100-JPに関する都市伝説について調査するという名目でインタビューを行った。この都市伝説は実際に確認されているが、知名度が極めて低いこと、内容の大部分が事実無根であること、SCP-4100-JPの異常性が長らく収束していたことから特別な対応は行われていなかった。



インタビュー対象: SCP-4100-JPから最も近隣に8年前から住む高齢女性。ただし、SCP-4100-JPが周囲の目を避けたアクセスの悪い場所に建設されているため、SCP-4100-JPから家までは約500 m離れている。


[記録開始]

(対象は家の前で腰を下ろしている。比企研究員が接近する。)

比企研究員: あのー、すみませーん。

対象: あ、あら。こんなところまで来て何かしら。

比企研究員: あ、私Webライターをしている者なんですけど。それでちょっと。

対象: Web? ライター?

比企研究員: あぁ、わかんないですかね。えっと、要はインターネットで色々、記事とか書いたりするんですけど。

対象: まー。インターネット。

比企研究員: はい。それでちょっと、そこの向こうに (SCP-4100-JPの方向を指さす) 数百メートルくらい行ったところにあるアパートについて、ちょっと変な噂があるとかで、お話聞きたいんですけど。

対象: アパート。(5秒沈黙) あぁ! あのアパートね。前から入れなくなってるとこ。

比企研究員: あ、そうです。それで……

対象: あそこはねえ。昔っからきな臭いと思ってたのよ。ほら何、ここに引っ越してきたときから変な人がうろっうろしてたのよ。もう、大きな男の人? 時々入れ替わるけど、もうなんかすごい目が怖くて怖くて。あんま近寄るなって脅すみたいな感じの目で。あー、怖い怖い。それで? なんかしばらくしたら急に周りが封鎖されちゃって。何だっけ? 地面がどうとか? そっちはちゃんとしたところがやってるっぽかったっけどねえ、でもやっぱ犯罪でもされてたんじゃないかってねえ。そういえば、だいぶ前に女の子っぽい子が出てくのも見たわねえ。

比企研究員: はい、そのアパートについて……

対象: 16くらいだったかしら。16といえば、うちの孫が16になったのよ。ねえ。もう、つい最近までこんなにちっちゃかったのに、(膝の高さに手を当てる) もうこんなよ。(立ち上がり、腕を高く上げようとする) ……あたっ。もう腕も上がらなくなっちゃってねえ。ほんと嫌よねえ。まだあなたみたいに若い子にはわからないと思うけど、若いうちにいろいろやっておいた方がいいわよ? ホントねえ、もう何するにもくたびれるし、しんどいし、頭も回らない。最近のことも頭に入ってこなくてねえ。

比企研究員: はは、あのそれより……

対象: あなたWeb? なんとかって言ってたわよねえ。本当にインターネットとか、ハイテクなものとかさっぱりわかんないわ。スマホとかもねえ。買った方がいいって子どもに言われたからそうしたけどねえ。なんかうまく操作できないし。この…… キーボード? もよくわかんないし。だからろくに使えなくて、宝の持ち腐れってやつよねえ。

比企研究員: ……

対象: よく行ってる薬局があるんだけどね、そこがアプリ登録しろって言ってくるのよ。登録した方がお得ですよって、ポイント付きますよって言ってくるんだけどね、でもねえ。お得なのはわかるのよ? でもなかなか簡単には行かないわよねえ。だからうちの子とか……

(28分間の無関係な会話を省略)

[記録終了]


インタビュー対象: 新たな異常性発覚の約1ヶ月前にSCP-4100-JPに侵入を試みた若年女性。男性と2人で試みたが、SCP-4100-JPに接近した時点で引き返し、結局侵入することはなかった。そのため対処は行われていない。


[記録開始]

(前半部分は省略。この間に比企研究員が自己紹介を行い、アパートについて調査を行っている旨を伝える。)

比企研究員: それで、何か知らないかなーと。

対象: あぁ! あれすか? あそこ入りかけたことありますよ。結局入んなかったけど。

比企研究員: 本当ですか! (驚いたふりをする) えっと、ではその時のことを詳しくお願いします。

対象: えーっとですね、大体2ヶ月くらい前? にですね、ピッピと肝試しでもしよーって話になったんですよー。時期めっちゃ外れてんすけど。 (笑い)

比企研究員: ピッピ……?

対象: あー、彼ピッピ、彼氏っすね。昔ちょっと流行ってた言い方らしいんすけど、なんか一周回ってやっぱいいんじゃね? 的な? 感じでみんな言ってます。

比企研究員: あぁ、(沈黙) そういう、なるほど、彼氏さんですね。話の腰折ってすみません。続けてください。

対象: 腰折るって面白い言い方すね。私も使おー。(笑い)

比企研究員: (小声で) 別に普通の表現…… (咳払い、普通の声で) 続きを。

対象: あぁはい、肝試しすね。それ決めるまでの流れも話した方がいいすか?

比企研究員: あ、いえ、大丈夫です。もう実際肝試しして何があったかだけ。

対象: そすか。でまあ、真夜中に行ったんですね。すごい怪しげなとこなんで、うちの近くだと。でまあ、行って、なんか入るな的なこと書いてあったっぽいんですがまあ、いいかなって普通に越えちゃいました。あ、これあんま良くないすよね? 捕まったりしないですよね?

比企研究員: まぁ、良くはないですが、私はどうこう言う立場にないので。聞いたことに答えてくれるだけでも、ありがたいですホント。余計なことなしに。

対象: 話わかるじゃないすか。んでまあ、ピッピが前行って私が後からついてったんすけど、目の前まで来てさあいざ入るぞってなったとき、なんか…… 変な音したんすね。

比企研究員: 変な音?

対象: 変ってほど変でもないんすけどね。なんか若干ズザーッて音とか、もの転がるみたいな音がしたんすよ。すげーちっちゃくですけど。

比企研究員: ふんふん。

対象: そんでまあ、私はこういう音あったりなんかイベント起きた方が面白いなーって思ったんで、わくわくしたんすけど、ピッピはそうじゃなかったみたいで。

比企研究員: ほう?

対象: それから、赤ちゃんみたいな笑い声するって言ってきたんすね。こっちは全然聞こえなかったんすけど。それでもう、すっかりビビっちゃって。入るまでもなくリターンすよ。

比企研究員: なるほど。他に何か変わったことは?

対象: んー、後はまあ強いて言うなら、急にお花摘み摘み行きたくなったくらいですかねー。

比企研究員: お花摘み…… あっ、トイ-

対象: (遮って) もう、ごまかしてんのに言っちゃうなんてナシでしょ。そういうの良くないっすよ?

比企研究員: (一瞬沈黙) そう…… ですね。失礼しました。はい。……はい。

対象: でまあ、ピッピもアレなんで、まあしゃあないし帰るかーって。その後は特になんにも。

比企研究員: なるほど、わかりました。

対象: あんまおもんなかったすよね? 大した内容もなかったし。

比企研究員: あー (一瞬沈黙) いえいえ、大変参考になりました。……失礼ですが、そのピ…… 彼氏さんは?

対象: あぁ、あの日で別れました。冷めちゃったんで。

比企研究員: あー、肝試しで怖がってしまったからですか。

対象: いや、帰り道で踏み外して側溝に足突っ込んでたんで。

[記録終了]


インタビュー対象: 元GoI-4100-JP構成員。異常性発現以前に、SCP-4100-JPにわずかながら関与した経験がある。GoI-4100-JPでの活動で一度逮捕されており、釈放後は非合法的活動への関与は確認されていない。


[記録開始]

(比企研究員は対象の家のインターホンを押す。)

対象: あ? (玄関扉をわずかに開けて顔を見せる。扉にはチェーンロックが付いている。) なんや?

比企研究員: すみません、私Webライターをしており……

対象: あぁ? 何かの勧誘か? そういうのええから。 (扉を勢いよく閉じる。)

比企研究員: あっ

[記録終了]


インタビュー対象: 同上。


[記録開始]

(比企研究員は対象の家のインターホンを押す。)

比企研究員: すみませー……

対象: (玄関扉を勢いよく開ける。チェーンが引っかかって大きな音が鳴る。) あぁ!? だから帰れ言うとるやろが!

比企研究員: あ、あの。勧誘とかではなくて、話だけでも……

対象: 勧誘の奴はみんなそう言うからな。さっさと帰れ。(扉を閉めようとする)

比企研究員: アパート!

対象: あ?

比企研究員: あ、あなたが以前入っていたその…… 斡旋団体の、██山にあるアパートです。それについて、お話、させてください。

対象: くっ…… (周囲を見回す) あんまデカい声出すな。早よ入れ。

比企研究員: あっ…… ありがとうございます! では、失礼、します。

(比企研究員が対象の家に入る。無関係な会話や比企研究員の自己紹介は省略。)

対象: で? 例のアパートやっけ? 警察にも散々聞かれたからなぁ。あんま話したないわ。

比企研究員: 申し訳ありません。ですが、是非とも直接お聞きしたく。

対象: はあ。行動力はいっちょ前やの。まあ、都市伝説みたいなのが出とるとかいう話は聞いとる。

比企研究員: そうですか。

対象: あぁ。まあ内容はもうしっちゃかめっちゃかやけどな。俺ら…… というかあいつらのこととかは何も触れられとらん。というかお前はようここまで突き止めたの。

比企研究員: まあ、いろいろ調べてるんで。

対象: ほーん…… 伊達じゃないちゅうことか。で、都市伝説やったか。

比企研究員: そうですねえ。幽霊が出るとかも聞きますが。

対象: あー…… まあぶっちゃけ、幽霊とかはいてもおかしないな。実際に見たわけやないけど。

比企研究員: と言いますと?

対象: あそこはのぉ、まあ2回くらいしか行ったことないんやけど、この世の地獄や。同じ組織で働いてるたぁいえ、正直平気な顔してあそこにおれる奴の気が知れんかったわ。

比企研究員: 具体的には、どのような?

対象: あそこは、うちの下についた家出の女の子たちの中でも、まともに使えなくなった子らが行くとこなんや。

比企研究員: 使えなくなった、とは?

対象: ま、大方性病やな。あそこは一応客からの信用は大事にしてるからの、そんなんにかかったのを客に提供できんわけや。だからまああそこで実質奴隷みたいにこき使っとった。

比企研究員: それは……

対象: あともう一つ。組織の奴に気に入られた女の子が入ることもある。

比企研究員: 気に入られた?

対象: そこが気が知れないと思ったもう一つの理由なんやが…… 気に入った奴をおっさんなんかにやるのはもったいない言うて、個人的に使てたんや。他の女の子が奴隷なら、こっちはペットやな。

比企研究員: ……ひどい話ですね。

対象: あぁ。個人的に思うんは…… お気に入りの子をあんな地獄に置いておきたいと普通思うか? 一応性病は基本空気感染しない、とはいえ…… 同じ空間に置くちゅうんは、普通ためらわれるはずよな。

比企研究員: そう…… かもしれませんね。

対象: そんな環境だから時々死者も出る。当然恨みつらみも募りまくっとるはずやから、まあ幽霊とか出てもおかしくないのお。……そういや、妊娠してるっぽい子もおったわ。あれは、どうするんやろ。

比企研究員: ……少なくとも、いい結末にはならなそうですね。

対象: やな。とはいえ俺も組織に一枚噛んどったわけやから、今になって思えば捕まってよかったわ。尻尾切りのおかげで、結果的に組織にもこれ以上関わられずに済んどるしな。

比企研究員: なるほど、そうですか。ありがとうございます。

対象: ふん。これぐらいでええか?

比企研究員: あ、あと。最近あの辺りに向かわれたことは?

対象: あー…… 実は、俺近くを通って時間があったら、そのしばらく手前まで寄ってみることにしとるんや。出所してからな。

比企研究員: ほう。

対象: あれは…… 個人的にもちょっとトラウマでな。流石に申し訳ないと、なんとなく謝罪っちゅうか、黙禱っちゅうかやっとるんやけど。だからって罪が消えるわけやないんやがな。

比企研究員: ……なるほど。

対象: ほんで1ヶ月? 2ヶ月? そんぐらい前に寄ったとき、なんか人影が一人そっち向かってって、立ち入り禁止んとこ入ってくの見たわ。

比企研究員: 人影ですか。

対象: そそ。とはいえあんま近寄りたくもなかったし、珍しいっちゃ珍しいけどだからどうっちゅうこともないから何もせんかったが。……その更に1か2ヶ月前にも見たかもな。

比企研究員: 2回見たんですか。

対象: あぁ、多分。といっても同一人物かも怪しいし、気のせいかもしれん。まあそれくらいやな。

比企研究員: ありがとうございました。大変参考になりました。

対象: ……あぁ。こっちも久々に話したら意外とすっきりしたわ。

[記録終了]



その他、5件のインタビューを省略







2022


SCP-4100-JP警備ログ

2022年9月1日


楊警備員: そういえば、今日ってちょうど夏休みが終わるぐらいの日なのか。

千里警備員: あ? あー、そうだなあ。

楊警備員: まあ大人になっちゃったら全然関係ないけど。

千里警備員: 世知辛いな。

楊警備員: 大人になるってのはそういうもんなのかね。

千里警備員: 世知辛いな。

楊警備員: 何もかもが世知辛い。

千里警備員: 世知辛いな。……世知辛いってどういう意味だ?

楊警備員: さあ?

(沈黙。)

楊警備員: 千里さんって夏休みの宿題最終日まで残すタイプ?

千里警備員: ん?

楊警備員: いや、なんかそう思っちゃったんだけど。どう?

千里警備員: あ、あー。……うんうん、そうそう。めっちゃ残してた。うん、ギリギリになってやべーって、うん、残してた。

楊警備員: ……夏休み終わるのって普通小学生とかからしたら嫌だよね。

千里警備員: まあ、そうだな。

楊警備員: 千里さんは? 学校始まって嬉しいタイプだった?

千里警備員: あぁ、そこはそう。何というか、解放感というか、自由だったな。一応、俺にとっては。

楊警備員: 夏休みが終わって自由に感じるなんて珍し…… (沈黙)

千里警備員: どうした?

楊警備員: なんか、この辺の話題しない方がいいのかなと。

千里警備員: ……そんな気を遣いすぎんでくれていいけど。まあ、やめときたいならやめとけば。

楊警備員: うん。

(沈黙)

千里警備員: やっぱり。

楊警備員: やっぱり?

千里警備員: 俺らって立場低いんだなあ。

楊警備員: 何かあったの?

千里警備員: 研究員の一人、新人の奴でサイトに来たのなんだけどさ。

楊警備員: うん。

千里警備員: 他の研究員とかエージェントとかには挨拶してんのにさ。こっちが立ってるのに、無視してんのよ。あと清掃スタッフのことも。

楊警備員: あー。

千里警備員: 今更そんなことで怒ったりしないけどさ。やっぱそういう奴にとっちゃ俺らはおまけなのかね。

楊警備員: 世知辛いね。

千里警備員: 世知辛いな。

楊警備員: もちろん丁寧に接してくれる人もいるけどね。

千里警備員: あぁ。そっちのが多数派だな。俺は一人の例に会ったからって全員一緒くたにはしない。そういう人間だ。

楊警備員: 立派人間だ。

千里警備員: あぁ。まして職業がどうとか、生まれがどうとか、……性別が、どうとかでどうこうするような奴は。

楊警備員: ……ウンコ人間?

千里警備員: そう! ウンコ人間だ。俺の言いたいこと大体わかるようになってきたな。

楊警備員: まあこんだけ一緒にいて散々話してれば。

千里警備員: それになんか、楊も何も考えず適当なこと言うようになってきたし。

楊警備員: 伝染したのかな。

千里警備員: 俺ウイルスだ。

楊警備員: ていうか千里さんも適当なこと言ってる自覚あったんだ。

千里警備員: 人生適当なくらいがちょうどいい。

楊警備員: 財団職員の発言とは思えないな。

千里警備員: ま、財団職員も一緒くたにはできない。

楊警備員: そっか。……そっちこそ、愚痴言うようになってきたね。

千里警備員: あん?

楊警備員: 前から給料がどうとかの文句は言ってたけど、なんかもっと…… 本質的なところについての愚痴。

千里警備員: あー。ま、愚痴でも言わないと話題もたないし。

楊警備員: 千里さんは話題ないとこから無理やり生み出してるけどね。

(沈黙)

千里警備員: 世知辛いな。

楊警備員: 世知辛いね。


SCP-4100-JP-1監視ログ


00h00m: ハルトマン霊体撮影機が起動する。SCP-4100-JP全体に霊子痕跡が見られる。SCP-4100-JP-1の姿は見えない。

03h12m: 203号室からSCP-4100-JP-1が姿を現す。そこからしばらく動かない。

03h29m: SCP-4100-JP-1は緩慢な動作で1階へと下りる。そこでまた動きを止める。

03h35m: SCP-4100-JP-1は死体部分を抱きしめてうずくまり、そのまま動かなくなる。眠っているように見える。

08h41m: SCP-4100-JP-1が目覚めたように見える。30秒ほど上を向いて泣くような動作を示した後、それを止める。

09h06m: SCP-4100-JP-1は緩慢な動作で102号室に入る。再び姿が見えなくなる。






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ただいま。

お帰り。今回もお疲れ。

うん。今回も問題なし。

……ホントに、すごいね。もう、あっという間にうちでトップになっちゃって。

特に、何かしてるつもりはないんだけど。

天才型ってことか。

喜んでいいのかわかんないけど。

ピナたちの生命線はこれだから、一応喜んでもいいんじゃないかな。

そっか。やった。

まあ、それももうすぐ意味なくなっちゃうんだけど。

……うん。

……あのさ。

何?

何でレミノは…… ピナのことこんなに信用してくれるの?

え?

だってさ…… ここ、ろくな世界じゃないでしょ? こんなとこに連れてきた元凶なんだから、恨まれても仕方ないのに。

そんな、恨むなんて……

ごめん。でも、ピナの何が良かったの?

……思い出すんだ。

何を?

お姉ちゃん。性格は全然違うんだけどね、心の支えになってくれるって意味で。

お姉ちゃん…… いたんだ。

うん。うち…… 親はアレだったんだけど、そこでいつも笑顔で、励ましてくれた。

うん。

学校でも、私がいじめられてるって聞くと走ってきて、私を守ってくれた。いじめてきたやつにドロップキック食らわせたこともあったっけ。

へえ。すごいお姉ちゃんだ。

うん。だけど…… 反抗的で、女の子らしくなくて、時々学校で「問題」も起こすお姉ちゃんのことが…… うちの親は気に入らなかった。私の何倍の痛みを、引き受けてた。

……

全然大丈夫だってずっと笑ってたけど、明らかに限界そうだった。ずっと無理して元気で、私を守って…… どこかで、お姉ちゃんの中の何かが壊れたんだと思う。

壊れた?

うん。ある日、「ごめんね」とだけ私に書き置きを残して、行方不明になった。それで捜されたんだけど…… 2週間後、死体になって見つかった。自殺だったって。

……

それで…… 私ももうどうしようもなくなって、辛くて、だから家を出た。だから、一緒にいて支えてくれただけで、ありがたかったんだよ。

……そうなんだ。こっちこそ、ありがとう。

うん。……でももうお別れだ。

アパート行くんだっけ。

うん。ミロちゃんが前に行ったとこだね。

そこがどういうとこかわからないけど。なんか、この組織の誰かに気に入られたんだっけ?

うん。そうみたい。食事とかは今よりも豪華になるって。

……あまりいいとこではなさそうな気がする、けど。

まあ、大丈夫大丈夫! きっと、どうにかなる。

……だよね。うん、大丈夫。

行くのは私なんだから。ピナちゃんがそんなに心配してくれなくても。

そうだよね、ごめん。レミノなら大丈夫。

うん。

生きてれば、何か縁があれば、また会えるかもしれないし。

うん。それまで生き続けるから。

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2030


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ねえ、また100点取れなかったの?

私立の難しーい小学校の、難しーい問題ならまあ仕方ないって思うよ。でもこんな誰でも入れる公立のテストで間違えちゃうの?

うんうん。智基はどうすればよかったのかな?

私立の小学校に受かってればよかった? まあそれもそうだね。周りにあんな育ちの悪いバカばっかりの公立じゃあ、流されちゃうところもあるよね。

でも、智基が悪いんだからね?

最初からもっと頑張ってれば、こうはならなかったの。だから、次は絶対に難関私立中学に受からないと。

そこら辺の頭が悪いのと智基が同じだなんて思われたら、私恥ずかしい

……だから、謝らなくていいから。謝るだけならでもできるよ。

どうするのかな?

……そう、勉強だね。二度とこんなバカなミスしないように、今度こそ、しっかりね。偉い偉い。


……あ、お父さんお帰りなさーい。え? あぁ、いつものだから気にしないで。うん。はーい。



子供というのは、親は自分を愛してくれる存在だと思い込むものだ。

だが、自分は下手に賢かった。賢ぶりたがっていただけかもしれないが。

ゆえに、今やらされていることが自分のためではなく、母親の見栄のためだということも理解してしまった。

そんなもので何になるのだろう。

母親本人が頭が良いわけでもないのに。

父親もだ。何故、自分の子供のことにここまで無関心でいられるのだろう。

それゆえに生じるデメリットやリスクを考えたことはないのだろうか。

別に、勉強自体が嫌いというわけではない。

むしろ好きだ。知らない物事に触れ、身に付けていく過程は面白い。

それは今も変わらない。

だが、それを押し付けられているという事実が、どうにも耐えがたかった。

真っ当に「正しく」親として振る舞えば、喜んで勉強するというのに。

どうしてうちの親は、

こんなに頭が悪いのだろう。



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疲れた。

ものすごく疲れた。


比企がひとしきりのインタビューを終えて帰路につき始めるころには、既に暗くなっていた。

そもそも現地に出向いてインタビューすること自体経験がかなり浅いのに、こうも点々と移動させられ、それで何か情報が得られるという確証すらないとなると、肉体的にも精神的にも疲労が溜まるのは必至だった。

こんな行き当たりばったりではなく、よく考えてから動くべきだったと今更ながら後悔する。結果的に得られた情報はないではなかったし、重要な可能性もあったためまだよかったかもしれないが、今後もそうそう上手くいくことはないだろう。

そもそも何故こんな判断をしてしまったのか。それを考えてようやく、千里のことを思い出した。

そうだ、一応連絡しておかないと。

インタビュー終わりました

まあ、良く言えば経験を積む機会にはなったと思う。いまいちこちらと相手の発言が噛み合わないことも何度かあったが、そういうことは今後も起こりうる。知りたい情報を引き出せるよう、相手に応じて的確な質問をする。なかなか難しい。

とはいえ、プリチャード学院時代にまともに人とコミュニケーションを取っていなかった割には上手くいけたのではないか。詰まったり声が上ずったこともあったが、まあ許容範囲か。

そんなことを考えていると、早くも既読がついていた。向こうもそんなにメッセージに気を向けていたのだろうか?

そして次の瞬間には、返事が来た。

おつかり

おかげさまで

クソ疲れました

そりゃどうも

改めて微妙にずれた会話だ。なるほど、話の噛み合わない人と話せたのは普段から散々経験していたからだったのかと一人合点する。傍から見たら皮肉のぶつけ合いにも見えるかもしれないが、こちら側の皮肉は多分伝わっていない。

もちろん、インタビューするというアイデアを出したのは千里とはいえ、実際それに乗ったのは自分なのだから文句を言える立場にはないだろう。ああいう場面こそ自分で論理的に考え、行動すべきなのだ。

結果的に千里から学ばされているような気分になり、少し顔をしかめる。

なんか情報手に入った?

8割方はクソの役にも立ちそうにありませんが

いくつかは

有用そうなのが

どんなんよ

3月22日に監視カメラに男女2人組映ってたじゃないですか

そん時に変な音聞こえたらしいです

あと赤ちゃんの笑い声したとか便意とか

どこまで信用できるかはわからないですけど

その頃には何か起きてたってことね

はい

それと

こっちは正確な日付わからないんですが多分半年以内に

謎の人影がSCP-4100-JPの境界線に入ったとか

2回見たらしいです

そいつが犯人ってことか

犯人かどうかは知りませんが

一枚噛んでてもおかしくはないと思います

元GoI-4100-JP構成員から聞いたんで信頼性はわかりませんが

そんな嘘をつく意味はないでしょう

とりあえず使えそうな情報はそれぐらいです

よう頑張ってきたなー

えらいっ

素直に褒められて、正直悪い気分はしなかった。が、何も大したことを考えていないだろう千里に褒められても何にもならないと慌てて首を横に振る。

経験したことのない煩悶が心に巣を張っている。

千里の行いをすぐ否定したがるそれこそが、逆にそれを特別視している証左なのではないかと、余計腹立たしくなる。

千里さんメモ

人を褒める時は素直に褒める。


そっちこそ探査してましたけど

何も異常ありませんか

文面見る限りなさそうですが

バリバリ元気よ

何もない

でしょうね

結局比企の言ってた境界に入ってったのって誰なんだろうな

監視カメラに何かうつってない?

それはないはずです

人とか怪しいもの検出したら自動で記録されますし

それ以外は時間経てば勝手に消えます

容量の無駄なので

記録にそれらしきものなんて何も

じゃあカメラにはうつってないと

千里からの返事を見た瞬間、何かが引っかかる。

境界線内に入ったのにカメラに映っていない? カメラの台数は最低限なので死角ならいくらでもあるが……

ふと、嫌な予感が胸に引っかかる。考えたくない可能性。事実だとしたら、少々荷が重い可能性。

頭が痛くなってきた。

帰ったらラーメン食う?

おごるけど

疲れすぎてて眠いので大丈夫です

疲れていなくてもいつも断っているが。


だが、実際に疲れ果ててしまった。

考えるのは明日からでいいか。

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2022


SCP-4100-JP警備ログ

2022年12月3日


楊警備員: 寒。

千里警備員: 33回目。

楊警備員: 防寒装備もっとどうにかならないかなぁ。

千里警備員: その話題は今日3回目だな。

楊警備員: そりゃこの気温じゃああらゆる感情が寒さに吸い取られるって。

千里警備員: 今日は何の話題でごまかそうか。

楊警備員: ……ラーメン食べたいな。

千里警備員: そういや先週いった回転寿司のラーメン美味かったな。

楊警備員: 寿司の話になった。

千里警備員: 回らないタイプの高級寿司屋でラーメン出たらどう思う?

楊警備員: それはそれでアリかも。

千里警備員: じゃあラーメンしか出さない寿司屋は?

楊警備員: そりゃもうラーメン屋だ……

(両警備員のアラームが鳴る。)

千里警備員: うっさ! あぁ? 久しぶりだな!?

楊警備員: 毎回急に来るからびっくりする。

千里警備員: えーっと、接近者がいて? あ? 今回は人間か? しかも2人。

楊警備員: マジか。

千里警備員: 人間来るのは初めてだな。しかも? 近いの俺の方か。

楊警備員: あら。じゃあ、よろしく。プロトコル覚えてる? 言われたの相当前だけど。

千里警備員: あー大丈夫大丈夫、もうバッチリ。さっさと行ってきまーす。

楊警備員: 行ってらっしゃい。……気を付けて。いざとなったら呼んでね。

(千里警備員は15秒間走って指示に従い接近者のもとに向かう。男性2名が周囲を見回しつつSCP-4100-JPの方向に接近しているのが見える。)

千里警備員: もしもーし?

男1: うわっ。

男2: えと…… あの……。

千里警備員: あー、すいません? あのこっから先ぃ、なんだ、あそうだ地盤?が緩いんで立入禁止なんですよぉ。はい。つーことで危険なんで通れません。はい。

男1: あぁ、(間) あー、そう、だったんすね。

男2: それは大変ですね。

千里警備員: はい。ってことで肝試しなら他所当たってください。ホントここはもう、無理なんで。入れたらこっちが怒られるんで。

(男性たちは顔を見合わせる。)

男2: あ、じゃあそれだったら、俺たちは帰ります?

千里警備員: はーい、そうしてください。帰った帰った。

(男性たちは離れていく。)

楊警備員: お、追い返せたみたい。なんとか上手くいって良かった。

千里警備員: なんか変だな。

楊警備員: はい?

(千里警備員は遠くからこっそりと男性たちの後をつける。)

楊警備員: 何を?

千里警備員: 俺の直感が。

(千里警備員は30秒ほど木の陰に身を隠しつつ尾行する。すると、再度男性たちがSCP-4100-JPの方向に早足で移動し始める。)

千里警備員: やっぱり。

楊警備員: やっぱりって……。

千里警備員: (姿を見せる) おいお前ら!

男1: うおっ、あっ、あっ。

千里警備員: 帰れっっつったろこのウンコ野郎どもが! 何考えてんだてめぇら!

男2: ちょっ、急に何。

千里警備員: 急に何じゃねえよおい。てめぇらが帰るっつったのに帰んねぇんだろおい。

楊警備員: ちょっと千里さん、落ち着いて。

千里警備員: 落ち着いてるよ。これ以上なく。

楊警備員: とてもそうは……

(男1がこっそりとSCP-4100-JPの方向に向かう。)

千里警備員: おい動くなっての!

(千里警備員は男1の手前の地面に発砲する。)

男1: ひえっ!

男2: 何!? 銃!? 本物!?

楊警備員: 千里さん!? 何やってんの!?

千里警備員: いざとなったら発砲していいって書いてあっただろ?

楊警備員: にしても判断が速すぎるって!

千里警備員: じゃいつならちょうどいいんだ?

楊警備員: それは……

千里警備員: (男性たちに) ということで、次近付いたらガチで撃つからな。お前ら自身を。

男1: そんな、銃なんて違法じゃ……。

千里警備員: 立入禁止んとこに入ろうとする方が悪いんだろ。 (もう1発地面に発砲してから、男1に銃を向ける)

男1: ひっ!

男2: ちょっ…… こいつヤバい! 逃げよう!

千里警備員: おう逃げろ逃げろ! 二度と戻ってくんな!

(男性2人はSCP-4100-JPと正反対の方向に走っていく。)

千里警備員: ……ふぅ、流石に今日はもう来ないだろ。

楊警備員: あのー、千里さん?

千里警備員: ん?

楊警備員: 流石にやり過ぎじゃ……。

千里警備員: いや、そんなことない。むしろ優しいくらいだ。

楊警備員: いや……。

千里警備員: あいつらの様子…… なんか変だった。ただの肝試しじゃない。

楊警備員: え? どの辺が?

千里警備員: 直感だ。

楊警備員: また直感。

千里警備員: でもこれ以上なく確かだ。……あいつらを行かせてたらヤバイことになってた。

楊警備員: ヤバイこと。まあ、彼らは死ぬかもしれないけど。

千里警備員: ……それじゃ済まない可能性もある。そんぐらい、あれは、ヤバかった。

楊警備員: (沈黙)

千里警備員: ここ担当の研究員とかにも言っといたほうがいいか。


結: SCP-4100-JPに接近を試みた男性2名は後に確保され、尋問を受けた。両者は「肝試しで近付いたが、警備員の態度にパニックになってしまった」と供述した。身元の簡易的な検査でも不審な点は見当たらなかったため、2名は記憶処理を施されて解放された。

なお、千里警備員の対応や態度は全体として大きく不適切なものであったものの、プロトコルには違反していなかったため口頭での注意のみが行われた。


更新2022/12/18: 数名の警備員から「SCP-4100-JPに引き寄せられるような感覚」が報告されています。これは極めて微弱であり容易に無視できる程度のものですが、改めてSCP-4100-JPの調査が行われました。

観察の結果、最近比較的収まっていたSCP-4100-JP-1の行動が、発見初期と同程度に活発化しており、更にSCP-4100-JPから5 mほど外部に出る様子が確認されました。

封鎖境界の拡大は保留中です。






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ほら今日の飯だ。ありがたく食え。

ありがとうございます。

……何回言わせるかなあ。感謝するときは

あ、ありがとうございまぁす! とっても嬉しいですぅ。

そうそう。わかってんなら最初からやれよ。

は、はい。ごめんなさいですぅ。

ケッ。じゃあ行ってく

あ、あの。

あ?

できればでいいんですけど、もうちょっとだけ、栄養ありそうなものくれたら嬉しいです、なんて……?

……っはあー。

あの、無理なら無理でいいんで! 全然、そんな

まだわかってねえのか!

ガハッ! はぁ…… ごめんなさい…… お腹は……

今は用事あるから行くけど、後でお仕置きだからな。馬鹿が。

ごめんなさい……

こっちの時間無駄にさせんじゃねえよ。

……

……

……

よぉ。

ミロちゃん! 会っちゃダメだって、バレたら……

あいつならもう行ったぞ。それにあいつ同じ組織の他の奴からも嫌われてるからまあ、どうにかなるって。

うん……

今日はまたひどくやられたな。

ミロちゃんこそ、その手……

あ? あぁ、これか。正直もう痛みとかよくわかんなくなってきたからさ、傷の数なんざどうでもいい。

辛いね。

辛いとか辛くないとかもあんまわかんねぇよ。……ウチみたいにひたすらサンドバッグにされるのと、お前みたいにおもちゃ扱いされんの、どっちが辛いんだろうな。まあ奴隷なことには変わんねぇけど。

ここは…… 地獄。

地獄の方がまだ理性的だよ。ここの奴らは…… マジで理性も何もねぇ。性欲と支配欲と暴れたい欲だけのサル以下だな。

どうしたら助かるのかな。

ま、無理だろうな。突然怪物でも現れて全部ぶっ壊してくれない限りは。

……でもそんなことになったら私たちも死んじゃうかもね。

ウチとしては別にそれで全然構わんが。

そう?

ん。はっきり言って自分が何で生きてんのかもわかんねぇ。一回死んだらもう生き返れないから一応自殺はしてねぇけど、それだけだ。誰かサクッと殺してくれよ。

そうなんだ。

逆にそっちは生きてたい理由でもあんの?

えっと…… 私は……

あぁ。ピナか。

う、うん。また会おうって約束したから。それも一つ。

あいつねぇ…… ここに引きずり込んだ元凶とも言えるけど。

それでも…… 友達だから。

ふーん…… てか「一つ」って、他にも何かあんのか?

う、うん。……一応。

腹さすって…… まさか。

うん。できてた。ここ来る前に買ってた妊娠検査薬を持ち込んでたから。

それ…… あいつとの子かよ。

多分。でも、子どもには罪はないから。

あいつは知ってんのか?

知らない。内緒にしててね。

お、おう。まあ言わないけど…… でも近いうちバレるだろ? どうすんだよ?

……わからない。けど、この子とはずっと一緒にいられそうな気がする。

気がするって…… でもこのままだとアウトだぞ。脱出でもするか?

脱出。

まあできるならとっくにしてるけど。あと脱出してどこ行くかもわからんが。

だね。

ウチは黙ってやるくらいしか助けになれない。悪いな。

それだけでも、ありがとう。

……というか、随分信頼してくれるようになったな。出会ったときあんなだったのに。

うん。ここの女の子たちは、みんな仲間だから。

優しすぎるな、お前は。……結構内側に溜まってるもんあんじゃないか?

よくわからないな。

そっか。……出会ったとき、悪かったな。気が立ってたんだ。言い訳だけど。

うん。……大丈夫。

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2030


監視カメラ実験記録

2030/5/8

提出は保留


1:25: SCP-4100-JP側面には穴が開いていて、106号室に直接つながってる。周囲を見回しながら入る。インシデントの後にかなり清掃されたけどまだ若干臭い気がする。

1:58: 慎重に廊下に出て階段を登る。その後206号室に入る。

2:32: 既に見てるけど妙に整理されてる。特に気になるものはなさそう。

3:18: 2階廊下。少しガタガタと何かの動く音。一瞬警戒するけど、何もなさそうなのでそのまま進む。

6:27: 各部屋を見ていたが、203号室に何か袋が落ちている。千里さんの探査時は恐らくなかった。近付くとこちらから逃げるように動く。気にはなるが、今回の目的から外れるので一旦保留。

7:36: 赤ちゃんの笑い声っぽい声。警戒するが、やはりそれ以上何もない。

9:34: 2階の端まで到達。怪我しないようにかなり慎重に直接下まで降りる。

10:57: SCP-4100-JPから離れていると、後ろから音がする。振り返ると、SCP-4100-JPのすぐ近くの木がやたら大きく揺れている。なんとなく手を振ってるみたいに見えた。



何故か便意はなかった 一応おむつ履いてきたのに

事前の予測通り監視カメラに映らず通り抜けれた


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インタビュー記録、及び千里に黙っておこなった実験。

これらをどう判断すべきか。

最初はぼんやりとした疑念程度のものだったが、それは比企の中ではっきりと具体的な形を持ち始めていた。

どんな顔を千里に向ければよいかわからなかったが、ひとまず平静を装うことにする。


「よお」
「うわっ! は、はい」

その千里がいきなり背後から声をかけてくるものだから、さっそく平静は失敗してしまった。

「そんな驚くかね」

「あーいや、全然別のこと考えてたんで、つい」実際にはその正反対だが。

「まあいいや、次どうすっかな」
「はい…… あれから結局体調に変化はないですか?」
「全然何もないな。なまら元気」

そう言って千里は腕をブンブンと回す。これで千里の様子がおかしくなっていたら、比企もアウトなのだが。

「そういや、結局探査したのに便意とか来なかったんですね」
「あーうん、何でだろ」

ここも疑問だ。報告書には確かに、SCP-4100-JPに接近すると便意が生じると書いてあったし、実際実験ログも見た。なのに、千里と自分にはそれが発生していない。

普通に考えれば、可能性はざっくりと2つ。ちょうど千里が探査をする少し前にその異常性がなくなったか、便意を生じるには特定の条件があり、千里と比企がその条件を満たしていなかったかのどちらか。

だが、比企にはどこか確信めいたものがある。少なくとも前者ではなく、後者ともまた少し違う可能性。千里と比企だからこそ、この異常性を受けなかったのではないか。

しかし次々浮かぶ疑念を今以上の確信へと変えるには、情報が足りな過ぎる。


ふと、気になったことを訊いてみる。

「千里さん」
「お?」
「千里さんは何で…… エージェントになったんですか」
「ほう」
「元警備員だと聞きましたが…… エージェントになるために結構努力したそうですね」

何故ここで急にこれを訊いたのか、自分でもよくわからない。

「警備員からエージェント…… 制度としてはありますけど、実際に使われてるのはほとんど見たことありません。何か、きっかけがあったんですか」
「うーん」

千里は口をもごもごとさせると、一単語を漏らした。

「情報」
「情報?」

満足気にうなずくと、千里は続ける。「あぁ。警備員とエージェントじゃ、知れる情報量がまるっきり違う」

「確かに…… クリアランスレベルの問題もありますし」
「警備員がどんぐらい情報知らないか、知ってるか?」
「あんまり、考えたことないですね」
「自分が警備してるオブジェクトが何なのかすら、わからないことがある」

比企がその言葉の意図を考えていると、また千里は口を開く。

「警備員じゃ、ほとんど何もできない」
「何もできない」
「あぁ。能力的な問題じゃなくて、制度的な問題で。警備員が何か言っても、何かしても、基本どうにもならない」

千里にしては随分と悲観的なことを口にする。その一方で顔はいつも通りの何も知らなそうなすまし顔なのだから、やたらと違和感がある。

「別にそれでいいならいいけどさ、あくまでも俺としては不自由に感じた。だから、もうちょっと自由に生きようって、エージェントになった」

具体的なところに微妙に踏み込まないまま終わってしまった。だが、比企には少し気になる節があった。だから、少し迷いつつも、訊いてみた。

「もしかして」
「おん」
「それってインシデント4100-JP関係してますか」
「うん」

迷いなく即答されたことに困惑する。この辺りは下手な嘘ではぐらかされると思っていたのだが。

インシデントのことはもう気にしていないのか。それとも、既に折り合いをつけ、受け入れ切っているのか。

だが…… 今この急なタイミングで、そこに踏み込む勇気はなかった。

思えば、比企はどこかで、千里には何も考えていない能天気な人でいてほしいと、勝手な願望を押し付けてしまっているのではないだろうか。そんな勝手な理想像の枠にはめてしまっているのではないだろうか。

千里は馬鹿な人間だ。千里はしょうもない人間だ。千里は下に見てもいい人間だ。

だからこそ、千里が妙にシリアスな雰囲気になったときは動揺する。

だからこそ、怖いのだ。千里が辛い過去を背負いながらもそれを笑顔で覆い隠す、いわゆる哀しき男である可能性が。

いや、その可能性はもっと前から気付いていた。気付いていながら、無視していた。

だとしたら、自分がひどく薄っぺらく思えて。どこまでも上っ面だけを瞥する人間に思えて。自分を支えていた、あまりにもか細い支柱が揺らぐように思えて。

急に自分の思考の負の面を突きつけられたように思い、比企は頭に痛みを感じる。

結局自分も、誰かを見下して精神を支えていた。今に始まった話ではない。ずっと前から。だとしたらそれはあいつと⸺


「おーい」
「……」
「おーい!」
「は、はい!?」

千里の声で、比企は正気に引き戻される。今はこんなことを考える時間ではない。

「ダイジョブ?」
「あ、はい。ちょっと思考がどっか行ってて」

私情は一旦後回しだ。

「で、次どうする?」

心に大きなわだかまりを残しつつも、話は進んでいく。




思えば、未だにインシデント4100-JPについて詳細を知らないというのは大問題ではないか。

もちろん、何がどういう流れで起きて、どうなったかは知っている。ログも読んだ。だがいま一つ、本質的なところに踏み込めていない気がする。

インシデントログに残る、「千里」の名前。インシデントで生じた、1名の犠牲者。

やはり、個人の事情に立ち入るのを遠慮してしまったのが良くなかったのだろう。間違いなく、もっと早めに掘り下げておくべきだった。

ただ、やはり千里当人に訊く気は起きない。そこで今、比企はアーカイブの海に独り潜っていた。もしかしたら、SCP-4100-JPの異常性再発現に繋がる情報が得られるかもしれない。


そうして潜りながら30分、当時の警備員名簿に目を通す。

「……あれ?」

1つの名前に、比企の目が留まる。それから、隣にあるもう一人の名前の文字列との間でせわしなく目線を行ったり来たりさせる。

「そういうことかよ」

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2022


SCP-4100-JP警備ログ

2022年12月24日


楊警備員: 寒ぅ。

千里警備員: 12回目。

楊警備員: ここまで何回くらい「寒」って言ったんだろう。

千里警備員: この冬だけで多分もうすぐ1000行くんじゃないかくらい。

楊警備員: マジかぁ。

千里警備員: …….クリスマスイブだな。

楊警備員: え? あ、そっか今日24日か。というかそのまま25に入る。

千里警備員: 忘れてたん?

楊警備員: うーん。この歳になるとこの日が何の日とか意識もしなくなる。

千里警備員: 誕生日を忘れるとかはよく言うけどねえ。クリスマスまで忘れるか。

楊警備員: 自分でもびっくりした。やっぱ仕事人間になっちゃったのかねえ。

千里警備員: 仕事人間。

楊警備員: ……

千里警備員: ……まだ、仕事に人生捧げるつもり?

楊警備員: え?

千里警備員: だいぶ前に言ってただろ。財団に拾ってもらえたから、いざとなったら自分が犠牲になってもいい、的なこと。

楊警備員: そんなこと言ってたっけ。

千里警備員: てたてた。

楊警備員: ……まあ、……

千里警備員: まあ?

楊警備員: 財団には、よく感謝してる。今でも。だから、できる限りのことはしたいと思ってる。……ただ。

千里警備員: ……ただ?

楊警備員: 自分が死んだら、あんまり意味ないんじゃないかな、とも思い始めてる。死んじゃったら、財団がどうなったかとか、自分のやったことでどれだけ貢献できたかとか、わからないし。

千里警備員: そうか。

楊警備員: まあ結局、自分もエゴイストだったってこと。財団の助けになりたいと思うのも、全部それで自分が気持ちいい思いをしたいから。もてはやされて、恩を返す立派な人だって感心されて、それが望みだったのかもしれない。

千里警備員: なるほどね。

楊警備員: これって偽善なのかな。

千里警備員: さぁ。偽善とかマジの善とか、そういう道徳論的な小難しい話はよくわからん。考える気も起きん。

楊警備員: そっか。

千里警備員: ただまあ、自分が良けりゃ別にそれでいいんじゃね。

楊警備員: 自分が良けりゃ。そんな元も子も。

千里警備員: 別に人間生まれつき自分勝手なんだ。上に従うもいいし、気ままに動くもいい。臆病なまでに謙虚でいるも、引かれるほど傲慢でもいい。善でも偽善でも、心の中でだったら悪でもいい。……まあ、他人に迷惑かけ過ぎない程度に。

楊警備員: なかなか興味深いね。千里さんは最初からずっとそれをモットーとしてるのかな。

千里警備員: ……まあ、できる限り。

楊警備員: ……ふーん。

千里警備員: 何にしても、生きたいっぽくて良かった。別にどう思っていようがそっちの勝手だけど、あくまで個人的には、楊がそう言ってくれて嬉しい。

楊警備員: へぇ。こっちもそう言われて悪い気分はしない。

千里警備員: ……

楊警備員: ……

千里警備員: なぁ。

楊警備員: ん?






2023


インシデント4100-JP監視カメラログ

2023年1月13日

注: 監視カメラはSCP-4100-JP裏口に設置されたもの。


00:32:18: SCP-4100-JPが大きく揺れ始める。一部が崩壊し、正常な物理学を無視して四方八方に破片が飛び散る。

00:34:44: 監視映像にノイズや歪みが生じ始める。時折、大音量のビープ音が聞こえる。

00:48:23: 映像の不具合が大幅に悪化している。しばしばエクトプラズムに類似した球体が浮かんでいるのが見える。これが実際に現場に存在したのか、映像にのみ映ったものであるかは不明。

00:57:39: 映像の不具合のため非常に見づらいが、SCP-4100-JPの方向に人が走ってきて、それを別の人物が追っているのが映る。後に起きた事象から、先に走ってきた人物は2022年12月3日にSCP-4100-JPに接近した男1と同一の人物、それを追う人物は千里警備員と考えられる。

00:58:12: 2人がSCP-4100-JPに入る。

01:02:04: 映像がほぼ何も見えなくなる。[認識災害編集済]

01:02:27: 映像が途切れる。後に、SCP-4100-JPの一部が崩壊してそれにカメラが巻き込まれたことが確認された。






?▓?▒


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よおレミノ、さーて。

お、お帰りなさいませ! 今日もいっぱい

それはいいから。座って。

……え?

お前、会いたがってるやついるよな? ずっと。

それって、もしかして……

そう、ピナだ。

ピナちゃん! な、何かあったん、ですか?

まあ落ち着け、いつもこっちの好きなようにしてばっかで悪いからな。近況報告くらいしてやろうってこと。

あ…… ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!

あーもう感謝とかいいから。で、つい最近の写真あるんだけど、見る?

はい! もちろん見ます! あ、いや、見させてください!

はいはい、その写真がスマホに…… あったあった。

ピナちゃん……!

ほいこれ、写真。

ピ……!

……

……

……ぇ?

うん。これ。

なんか…… 倒れ…… 目……

そう。死んじゃった。

……

なんかさー、客がやり過ぎちゃったらしいのよ。

ピナちゃん……?

なんかよくわからん薬とかぶっこんじゃって? 何種類も。でまあめちゃくちゃにヤっちゃって。

あ……あ……

そういうのやめろって書いてたんだけどさあ。でもたまにいんのよ、あぁいうことするバカ変態ジジイが。

え……? うそ……

まあ流石に一応従業員殺されてるわけだからさ。そのジジイもこっちで処理したから。そこは安心だな。良かったな。

ごめん…… ごめんなさい……

にしてもひっでぇ死に顔だなあ。あーお薬怖い怖い、売るのはともかく使いたくはないね、一生。

あ…… あぁ…… あ……

聞いてねえやこいつ。何だ? 廃人にでもなるか?

あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

あーうるさいうるさい、ただな? もう一個お前に言うことがあるんだ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

聞けって!!

あぐっ! ご…… ごめんなさい……

なーんか最近、お前やたら腹かばうよなあ?

いや! 別に、たまたま……

それにさぁ、なんか若干腹膨らんでない?

え……! そんな、ないです、まさか、そんな、違います、もしかして食べ過ぎたのかな?

食べ過ぎぃ?

は、はい……

てめえ栄養足りないっつってただろうが!!

ひっ

なあ、もういいよ。これもう、バレてんのよ。

それは……!

勝手にこんな妊娠検査薬持ち込みやがって。ガキできたからってどうするつもりだったんだ?

あ…… あ……

別に妊娠すんのはしゃあないけど。こっちだって想定してるけど。何で黙ってたの?

い…… いや……

質問に答えろやボケ!

いぐっ! やめて…… この子はあなたの……

まあ俺の子でもあるよなあ。でも遺伝子継いでるってだけで情なんか湧くかアホが!

そんな……

まあ正直言うと別にいいんだけどさ。もうお前飽きてきたし。

はい…… でしたら…… 助けて……

そうだな…… 海外行くか?

……海外?

そうだ。お前みたいなやつでも…… やつらでも必要としてるのがいっぱいだぞ。

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2030


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どうして自分はこんなことをさせられている?

どうして母親の自己満足に付き合わされなければならない?

自分を生んだことがそんなに偉いのか?

同じ血を継いでいるだけじゃないのか?

ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。

バカはお前らだろ。


でもどうしたらいい?

この苦しみから逃れるには?


あぁ、自殺か。そんな方法もあった。

そうだ自殺! いいじゃないか! こんなのの下で操られるくらいなら死んだ方がマシだ!

自殺したら後はどうなる?

母親のここまでかけた時間と金が全部無駄になる。全部。ぜーんぶ。

それから、「息子を自殺させた家庭」とか言って親は当分白い目で見られる。ネットで大勢に叩かれる。

ざまあないな。

お前らが悪いんだ。バカな上に性格も終わってたことへの当然の罰だ。

これが自分なりの復讐だ。


とはいえ、自殺か。苦しい思いはしたくないな。

どうしたらいいのか。

自殺…… 自殺……


ん? 何だこのサイト。


……ハザマノタマリバ



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「あの」比企は千里に声をかけた。姿勢を伸ばし、その目に迷いの色はもうなかった。

「ん?」
「明日土曜日、空いてますか」

一瞬の沈黙。予定が空いているか訊くということは、それは基本的に何かに相手を誘うという合図だ。そういえば、こちらから何か誘うのは知り合って初めてかもしれないと、比企はふと思う。

一瞬の沈黙こそあったものの、
「空いてるけど」千里は何食わぬ顔で返す。

「千里さんって寮住みじゃないですよね。私は財団の寮なんですけど」
「うん。財団とは全然関係ない一般アパートだけど」
「明日そっち行くんで。そっちも家にいてください。あと住所教えてください」

更に沈黙。千里は比企の放った言葉を反芻しているようだったが、ふと得心したように顔を上げる。

「一応…… 何の用かは」
「いいから。ここでは言えないので。とにかく行きます」

「……そうか」何かに感心したような、満足したような、受け入れたような、穏やかな笑みを千里は浮かべる。それを見ても、もう比企の心は揺るがない。

明日だ。

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█░▒▓


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……海外?

そうだ。お前みたいなやつでも…… やつらでも必要としてるのがいっぱいだぞ。

海外って…… 何ですか?

たまに見るだろ? こっから連れ出されるやつ。ここで使うにしてもどうしようもなくなった奴とかは、海外飛ばされんだよ。

海外行って…… どうなるんですか?

まあ適当に高く買ってくれるとこ売るんだけど。その後は知らない。

知らな……

まぁここと同じ感じかそれ以上か…… バラ…… うん。

この子は…… どうな

そうそう。お前みたいな妊娠してるやつも割と需要あんのよ。一人で二人分ついててお得みたいな?

お得……?

うん。そいつも利用価値はあるってこと。

あ…… あ……

てなわけでさ。もう準備できてるから。最初からその気だから。

この子だけは……

あぁ?

私はどうなってもいいから…… この子だけは……

ドラマか漫画みたいな台詞マジで言いやがった。つかお前の腹の中いんだからお前だけ連れてってそいつだけ見逃すとか物理的に無理だろバーカ。

この子が無事に生まれるまで…… お願いします……

それじゃ意味ないんだっての。さっさと立て!

何で……

あ?

何でそんなことできるの……

お、反抗してきやがった。おうおう睨んでる睨んでる。

あなたも…… 昔は赤ちゃんで…… 生まれて……

そんな昔のこと覚えてるわけねぇだろボケ! 覚えてたって知らねぇよ!

この子だけは…… この子だけは守る……

あ? どうすんだよ?

ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

うおっぶね! 何すんだテメェ!

いだっ、ハァ…… ハァ……

あー? カッター? そんなもんまで隠してやがったか。

この子は…… 絶対に…… ぶぐっ!

うるせえよ!! クズ! カス! ゴミ! もうガチキレたわ。

がっ…… かは……

死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!

……

このゴミ女が! クズ! クズ! クーズ!

████████████████

声ちっさくて何言ってっか聞こえねぇよ!!

████████、████████████████

ブツブツ言ってんじゃねぇよ!!

██████、██████████!██████████████!████!████!███!

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

………………

死ね死ね死ね死…… あ?

………………

マジかよ。ガチで死にやがったこいつ。

………………

なあ? 俺蹴っただけだぞ? 別に刺したり首絞めたりしたわけじゃねぇぞ? 普通死ぬか?

何が悪かったの?

内臓とか破裂でもしたか? だからってこんなあっさり死ぬ?

どうすればよかったの?

なあ。お前に死なれたら。俺。俺。

私が何をしたの?

俺詰められんじゃねえかよ! 無意味に殺すなって言われてんのにさぁ!

どうしてこんなに苦しまなきゃいけないの?

そもそも売り上げトップを個人用にした時点で無理言ってやらせてもらったのによお!

あの子は? あの子は無事なの?

ホントーにお前はつっかえねぇなあ!! おい!

あの子が…… いる! まだいる! ねぇ! お母さんはここだよ!

マジで死ねや! あ!? もう死んでるけどさぁ!

その子は関係ないから! やめて! そこ踏まないで!

あああああぁぁぁぁぁもおおおおおぉぉぉぉぉ!!!

やめて! やめて…… やめろ。

ハァ。もう飽きたわ。もう処分しよ。

この子を守らないと。守るためにはこいつを。

……てかさっきからなんか聞こえね?

私たちをこんな目に遭わせた全員を。

……なんか気味悪ぃな。さっさと捨てよ。

殺す。

すげぇ寒気するし。

殺す。

……なんて言ってる?

殺す。殺す。殺す。

は……? 殺……

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

え、ちょ

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

何だこれ、死体が浮いて

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

あ、あああ、バケ、バケモン、待って

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

ああああああああああああああ!!!! いぃぃぃぃぃぃぃ!!!



殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す  いたい  殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す  たすけて  殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す  つぶれる  殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す


































すごい音したと思ったら…… オェ、なんだ、これ。

全員殺す

え…… レミ、ノ? お前…… どうなって……

この子に近付くやつは

幽霊…… なのか? 腹から出て……

全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部

てかこれ全部…… あいつの残骸? ハ、ハハ、ミンチよりひでぇや。

何で殺すんだっけ

すげぇなお前。ハハ、最高だよ。

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

ガッ、なんか、全身が、クソ痛ぇ。

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

なるほど。見境なくなっちまった、タイプか、こりゃ。

わからない

もう声も、ゲホ、届いてねぇな。……ま、いいさ。

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

どっちにしろ死にたかったし。グッ、痛てててて。

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

それに、さ、一緒にいた、奴が、こんなすごいのになってくれて、う、嬉しいよ。

待って

どうせ怪物に、なんなら、グボッ、せっかくだから、これで終わりじゃなくて、

        せめてこの子は

あいつらを皆殺しにする、災害級のバケモンとかなったら面白ぇかもなぁ!!

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す


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SCP-4100-JP-1

SCP-4100-JP-1はSCP-4100-JPに存在する、クラスCと推定される霊的実体及びそれに接合された女性の死体です。死体部分の腹部は大きく引き裂かれており、そこから霊体部分の上半身が上方向に突き出るような姿勢になっています。移動の際は死体部分を完全に浮遊させるか、地面に引きずるようにします。死体部分は腐敗耐性を示しているものの破壊耐性はないようであり、上記の移動方法のため、特に四肢の先端部において欠損が見られます。

死体は体型から未成年の女性であることが推察されますが、顔面の部位が欠損しており、かつ敵対的反応により遺伝子の採取にも成功していないため、身元は不明です。しかしながら、GoI-4100-JP被害者の一人ではないかと考えられています。死体は霊体部分に受動的に引っ張られるのみであり、能動的な動作を行いません。

霊体部分は、普段はハルトマン霊体撮影機等を使用しない限り不可視ですが、侵入者に対する敵対的反応時には肉眼での視認が可能となります。その外見は概ね人間に近いものですが、3本ある腕や巨大な腫瘍、多数の不明な突起物など全身に著しい奇形を生じています。頭部も潰れたようになっているため、外見からの身元の判別も不可能です。腕などの一部の部位に、乳児のものと類似した特徴が見られます。

SCP-4100-JP-1は遠隔で物体を操作する能力を有します。これは非常に強力であり、人間の力では抵抗不可能な他、財団標準規格のドローンを直径約8 cmの球形に圧縮することが可能です。また、特に興奮時において、女性のものと乳児のものが混ざった声を発することがあります。しかし単なる呻き声や叫び声であるため対話は不可能で、知性もほぼないものと見られています。加えて、興奮時のSCP-4100-JPの外見や声には認識災害が含まれる場合があり、それを認識した場合、対象はSCP-4100-JPの方向を知覚し、接近したいという衝動が生じます。

SCP-4100-JP-1がSCP-4100-JPから退出することはほぼなく、わずかに外に出てもすぐに内部に戻ります。SCP-4100-JP-1は外部から刺激しない限りほぼ無害と考えられます。しかしながら、SCP-4100-JPに接近する人物には誰であれ敵対的反応を示します。ある程度接近した時点で、その人物は下半身、特に性器付近に強い疼痛を訴えます。特にこれらは男性に対して顕著であり、更に接近した場合は生殖器が粉砕されます。その後、全身が折り曲げられる・捩じられる・圧縮される等の理由により死亡します。女性に対してはやや穏当な反応を示し、仮にSCP-4100-JPに侵入したとしても、直ちに引き返して逃走すれば見逃された事例があります。しかし、滞在や進行を継続した場合には殺害されます。






2030


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ちゃぶ台を間に挟み、比企と千里は向かい合っている。

「……茶いる?」千里が訊ねる。
「いら」比企は手を上げていつもの癖で断ろうとしたが、一瞬の後、黙って手を下ろす。「では、いただきます」

千里の部屋は、思った通り散らかっていた。散らかってはいたが、全てが本人にとって取り出しやすい位置に置かれているのは傍目でも理解できた。全体が雑然としているという形の整然さがそこにはあった。

「ほら、これ」千里はコップを2杯持ってきてちゃぶ台に下ろすと、1つを比企の方に差し出す。

「ありがとうござ」コップを覗き込むと、中にあったのは茶ではなくコーラだった。一瞬無意味に動揺しそうになるが、一呼吸おいて落ち着く。「ございます」

「よっこらせ」比企の向かいに千里が腰を下ろす。何かを言おうと口を開き始める。

「それで」「私がここに来させてもらった理由は」千里は比企の言葉を遮って、早速本題に踏み込む。余計なことを言わせたら、また千里のペースに持っていかれてしまう。

「来させてもらった理由は、」一つ咳払いして、続ける。「ここなら、誰にも聞かれないからです。一般人にも、財団にも」

千里はコーラを一すすりする。「財団にも、ねぇ」

「はい。別に最悪聞かれてもこっちはいいんですが、一応」

千里の表情は上手く読めない。読めないが、とにかく今は自分の言葉を続ける。「今から私が言うことは、基本的に確たる物的証拠はありません。全て状況証拠に基づく推測──あるいは妄想です。ですから、まるで間違ってたらはっきりそう言ってください。ただ──」比企は息を呑む。

千里は何も言わず、次の言葉を待っている。

「ただ、もし合っているのでしたら」比企は目を見開く。「正直にそう認めてください」

千里は静かに笑う。「何のことだろうな、さっぱりだ」すっとぼけているのは誰の目にも明らかだ。

比企は目を閉じ、深呼吸する。よし、言える。


「結論から言います。千里さん──あなたは、財団に報告するだいぶ前から、SCP-4100-JPの異常性再発現を知ってましたね?」


驚いた様子もなく、千里は問い返す。「どゆことよ?」

「インタビューでの、『SCP-4100-JPへの侵入者がいた』という発言。あれが最初に気になったきっかけです。あくまでもこの発言が正しいという前提なんで財団に提出できるような根拠とは到底言えませんが──仮にそこに近付いたら、普通は正面から近付くんで、監視カメラに引っかかるはずなんですよ。いくら監視が緩められて台数が減らされてたとはいえね。でもカメラには侵入者なんて映ってなかった。おかしいですね?」

「おん」千里は更にコーラをすする。「おかしいな」

「でも」比企は人差し指を立てる。「映らずに近付くことは──なんならSCP-4100-JPを通り抜けることは、難しくないんですよ。監視カメラの場所と、映る範囲さえ知っていれば」

比企もコーラを飲み、喉を潤す。「これは聞いていましたが、あなたは警備員時代にSCP-4100-JPの警備を行っていた。過去に担当していたオブジェクトですから、エージェントになってからそれに関する情報も教えてもらえたのではないですか。異常性が収まっていて機密性も低いので、なおさら。元々の位置の監視カメラに映らず通り抜けられることは、私が自分で試しました」

「えっ」ここで初めて千里は驚いた表情を浮かべる。「あそこ行ったの」

「はい。黙っててすいませんが、こっそり入りました。とにかく、監視カメラの位置さえ知っていれば簡単に通れるんです。そしてわざわざそんなことをするのは、順当に考えて後に報告を行ったあなただけです」

「うーん。正直これだけで俺って決めつけるのは」千里は珍しくも言い返す。

「はい。ただ、そう思うに至ったことが一つあります。最初にインタビュー内容を千里さんに報告したとき、あなたは、境界に入っていったのは誰なのかと、仕事の話題を前に戻すような発言をしたんです。これは初めてでした。何か意図があるのかもと。もしかしたら、これが私にバレることも千里さんは想定していた──あるいは、そう誘導していたのかもしれません。まあ、正直ここは勘です。千里さんがよくあてにする」

「ふふ」千里はまた少し笑う。こちらを試しているようで、比企は少し不快になる。「でも何で俺がそんなことしなきゃならない? 異常性に気付いたのに財団に黙って隠して? バレたら何かしら処分されるリスク冒してまで。それに何で隠し通さずに後になって報告した?」

「そこは、正直よくわかりません」比企ははっきりと言う。「しかし、ヒントらしきものはいくつか見つかりました」

「ヒント?」

「はい。異常性報告前にあなたが何かしていないかいろいろ調べて回ってたんですが…… その中で、サイト-81LVの新規配属職員の人事資料を請求していたことがわかりました。……その中には私も含まれてます。しかも、私と千里さんが出会う前の話です。つまりあなたは、私についてある程度把握したうえで話しかけてきていた。報告したのは更にその後です。つまり──」

「つまり?」

比企はもう一つ深呼吸して、口を開く。「千里さんがSCP-4100-JPの異常性を報告したのは、私に関係がある──下手したら、私のためなんじゃないですか」

「……」無言を貫いたまま、千里はコーラをすすり続ける。途中で既に空になっていることに気付き、コップを置く。

「報告したから私がどうなるのかと言われればわかりませんし。ここについては一番問い詰めたいですが──まだです。更にもう一つ、気付いたことがあります。ここからは予想ではなく、事実です」

「事実」千里は、比企が次に何を言うか期待しているような表情を浮かべている。

「はい。千里さんはSCP-4100-JPの警備をしていましたが──それどころか、インシデントの現場にいたんですね」

諦観というか、肩の荷が下りたというか、そんなため息を千里は漏らす。

「こんな基本的なことに気付かなかった理由は三つです。一つは、インシデントログには犠牲となった方の警備員──彼女の名前しか載っていなかったこと。二つ目は、千里さんが他にああしようこうしようとか提案してくるものですから、実際に映像で確認する暇がなく、機械による自動転写しか実際の様子を確認できていなかったこと。そして三つ目は、インシデントの少し前まで名前が違い、紛らわしいために報告書にはその旧名で書かれ続けていたこと。千里さんは、その意味がわかりますね?」

千里はしばらく黙っていたが、やがてニヤリと笑った。「なるほど」


「そうです。千里 薫さん──旧名、楊 薫さん」

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2022


SCP-4100-JP警備ログ

2022年12月24日


千里警備員: 何にしても、生きたいっぽくて良かった。別にどう思っていようがそっちの勝手だけど、あくまで個人的には、楊がそう言ってくれて嬉しい。

楊警備員: へぇ。こっちもそう言われて悪い気分はしない。

千里警備員: ……

楊警備員: ……

千里警備員: なぁ。

楊警備員: ん?

千里警備員: 結婚しようぜ。

楊警備員: うん…… え?

千里警備員: よし、「うん」つったな。じゃ早速……

楊警備員: 待って待って待って。け…… ケコ?

千里警備員: そ。結婚。

楊警備員: い…… いやちょっと待って。待って、え? 冗談?

千里警備員: 違う。

楊警備員: うんだろうね。その言い方は冗談じゃないと思ったけど。え? ……何?

千里警備員: 何だ? 結婚したくないタイプだったか?

楊警備員: いや、そういうわけじゃ…… え、僕たち付き合ってたっけ?

千里警備員: いや。

楊警備員: ないよね。うん。……全部すっ飛ばして結婚? もう2段階くらい挟まない?

千里警備員: この戦いが終わったら俺結婚するんだ、って死亡フラグあるだろ?

楊警備員: いやあるけど。

千里警備員: 今すぐ結婚すれば問題ない。

楊警備員: ……はあ? そんな理由?

千里警備員: それ以上の理由はいらん。

楊警備員: てか別に恋愛とかそういう関係じゃなかった、と思うんだけど。

千里警備員: うん。別に恋心とかは全く抱いてない。

楊警備員: はい? じゃなんで。

千里警備員: せっかくだし。まあ、楊ならいいかなって。

楊警備員: ……もうツッコまないけど。というかこれめっちゃ財団の記録に入っちゃってるけど。何でこのタイミングなのよ。

千里警備員: せっかくだから聞かせてやろうって。聞いてないと思うけど。

楊警備員: まあ、そういう人か。……わかった。受け入れる。

千里警備員: 随分と判断が速いな。

楊警備員: 千里さんが言うかって台詞だけど。まあ、そうだね。前と比べてずいぶんと速くなった。

千里警備員: よし。じゃ明日早速結婚相談所行くぞ。

楊警備員: 結婚相談所は結婚しに行くところじゃないよ。

千里警備員: じゃあ…… 結婚式場か!

楊警備員: いきなり行くところでもないな。

千里警備員: ……てか、結婚したら名字同じになるんだよな。

楊警備員: そうだね。

千里警備員: ってことは、"楊"とか"千里"じゃわかんねぇな。下の名前で呼び合うか。

楊警備員: あー、そう、か。

千里警備員: そういうことだ。どうだ、薫?

楊警備員: い、違和感があるね、瑠美奈るみな、さん。

千里警備員: さん付けじゃなくていいけど。慣れないならしばらくそれでもいい。

楊警備員: うん。しばらくはさん付けのままかな。

千里警備員: ということで、結婚したからには薫は俺の夫だ。そうなったからには。

楊警備員: からには?

千里警備員: せいぜい生き続けて、一生付き合ってもらうぞ。

楊警備員: ……こちらこそ。






2023


インシデント4100-JP

2023年1月15日、SCP-4100-JPに3名の男性が侵入を試みました。うち2名は手前で取り押さえられましたが、1名が境界を突破しSCP-4100-JPに向かい疾走し、それを当時現場で待機していた千里 瑠美奈警備員が追跡しました。また、これと同時にSCP-4100-JP-1の活動の著しい活発化が見られ、SCP-4100-JPの約5%が損壊すると同時に、監視カメラや巡視ドローンが破損しました。それに加えて影響の拡大も見られ、境界外部にいた別の警備員も全身の疼痛を訴えました。

侵入者と千里警備員はSCP-4100-JPに進入し、その後SCP-4100-JP-1の更なる活発化、及び付近で軽度の地震が発生しました。約5分後、SCP-4100-JP-1の一切の活動が停止しました。1時間の観察で動きが見られなかった後、内部調査が実施されました。

内部からは、気絶した侵入者男性と千里警備員の遺体が発見されました。侵入者は全身の複数個所に骨折や打撲を負っていたものの命に別状はなく、発見から6時間後に意識を回復しました。千里警備員の遺体は一部が白骨化していたほか、各部が捩じられた・押し潰された・破裂したような痕跡が見られました。

侵入者3名に尋問を行ったところ、彼らはGoI-4100-JPの構成員であり、うち2名は2022年12月3日にも侵入を試みていました。彼らはGoI-4100-JPから偵察のために派遣されており、不審に思われるリスクを減らすため期間を大きく空けて実施したと証言しました。また、本来は外部から確認する程度の予定であったものの、SCP-4100-JPに接近した際に、そこに入らなくてはならないという強い衝動を覚えたと主張しています。そのため、SCP-4100-JP-1がこれまで知られていなかった手段により認識災害性を伝達した可能性が指摘されています。また、2022年12月3日時点でも侵入者の異常な様子が指摘されていたものの、無視されていました。ただし証言の客観的な証拠が欠如しており、また侵入者のGoI-4100-JPとの関連が隠蔽されていたためにやむを得ないとして、担当職員への処分は行われていません。侵入者らは記憶処理の後、警察に引き渡されました。

本インシデントを経て、SCP-4100-JP-1は半無力化されたものと見られています。ただし、SCP-4100-JP-1の死体部分はSCP-4100-JPベランダの地中に埋没していることが確認されており、接近を試みた人物は強い抵抗感を訴えます。危険な異常性を再発させるリスクから、更なる調査は実施されていません。

千里警備員の携帯カメラや録音装置も破損していたため、インシデント当日SCP-4100-JP内で具体的に何が起きていたかは不明ですが、通信に断片的に残された情報から、千里警備員がインシデントの停止とSCP-4100-JP-1の無力化に寄与したものと思われます。SCP-4100-JP-1の有していた脅威度が未知数であり、それによる潜在的に甚大な被害を食い止めたこと、侵入者の命を救ったことなどから、千里警備員には死後財団勲章が授与されました。






2030


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「どうですか」比企は千里を睨みつけながら、言う。

その千里はわざとらしく腕を組んでうんうんと頷いていたが、やがて目と口を開く。

「すごいな。いつかバレるとは思ってたけど」

比企は溜息をつく。「正解ってことですね」

「あぁ」

「だったら…… 洗いざらい吐いてもらいますよ。何故、こんなことをしたのか」

少し気まずそうに頬を掻いてから、「どこから話そうか」千里は言う。

「どこからでも」

しばらく考え込んでいたが、やがて決心したように、千里は語り始める。




「インシデントの日のことから話そうか。もう読んだだろうけど…… あの日、3人がSCP-4100-JPに近付いて来た。うち2人は前にも来た奴。その時は同じ方向からだったんだけど、インシデントだと全員バラバラに来た。しかも、3人とも検知範囲に来た段階から全力ダッシュ。明らかに正気じゃないっていうか、操られてるって一目でわかるくらいには様子がおかしかった」

「俺たちが止めなきゃならないわけなんだが、2人ならともかく3人。しかも散らばってる。どうしようかとまごついてたら、瑠美奈が、2人はどうにかするから近い1人だけ止めてくれって言ったんだ。2人もどう止めるのかって疑問には思ったけど、とりあえず俺は従うことにした。それでまあ…… なんとかその1人は鎮圧に成功した。慣れてなかったからだいぶ手間取ったけど、上手いことスタンガンで動きを止めれた。俺がそっちに苦労してる間に、瑠美奈はとっくに1人を抑え込んで、もう1人を追いかけてた。ただその最後の1人は…… 既に封鎖境界を突破してた」

「特別収容プロトコルには、俺たちが読めた範囲でも、侵入があった場合救助は行われないって書いてあった。だから、もう入っちゃった奴を止める義務はない。だからもう諦めようって瑠美奈に言ったんだが…… あいつは止まらなかった。このままだとヤバいことになるって。取り返しのつかないことになるって。実際俺もいろいろと様子がおかしいことには気付いてた。何か崩れるような音とか、叫び声とかするし、地面が揺れてるし、何より…… 股間がめっちゃ痛かった。でもヤバいことになりそうとはいえ…… そこの中心部に向かったら多分真っ先に死ぬなんてことは、簡単に予想できた。だから、止めようとしたんだが…… 痛みが強すぎて、いつの間にか気絶してた」

「目が覚めたら、財団の医療棟に運ばれてた。インシデントの間に何があったのかは結局わからなかった。わかったのは、SCP-4100-JPがほぼ無力化されたのと、瑠美奈が死んだってことだけ」

「瑠美奈には、勲章が与えられた。自分の身を捧げた功績として。でも…… 俺はあの時以上に、財団を憎いと思ったことはない。瑠美奈は、ずっと生きるって言ってた。それなのに、死んでから勲章なんか与えられても意味ないだろ、だからどうしろってんだよって、思った。あと、最初に散々勝手な行動をするな、自分の考えで動くなって言っておきながら、プロトコルを無視して行動したことを賞賛する、そのダブスタっぷりにも腹が立った。それに…… その前にあいつらが侵入しかけたとき、様子がおかしいって瑠美奈が言ってたの、無視したよなって」

「今思えば短絡的だったと思う。人によっては死んだ後の勲章も意味あると思うし、何が起こるかわからない財団じゃその時々に合わせた対応が求められる。それに、あの時の瑠美奈の意見に根拠とかは何もなかった。そりゃ無視もされるって、今なら思う。でもそん時は、何かに当てつけないと気が収まらなかった。耐えられそうになかった」

「エージェントになろうと思ったのは、そっからだな。SCP-4100-JPを警備する必要はなくなったわけだけど、結局あの建物が何だったのかはわからずじまいだった。インシデントで何があったかも。警備員の立場じゃ、それすら知ることも叶わない。これから先に何かあっても、それも知れない。だから、エージェントになることにした。何も知らないまま、どうしようもないことにならないように」

「あっ、そう言えば瑠美奈が命救った侵入者の証言から、GoI-4100-JPの構成員15人くらい捕まえれたらしい」


「前置きが長くなったな。ここからが、『何でこんなことをしたのか』の話だ」


「なんとかエージェントになって、SCP-4100-JPの詳細も知ることができた。まあ結局、インシデントで何があったのかはよくわからなかったが。で、俺は時々SCP-4100-JPに行くようになった。墓参りだったのかもしれないし、瑠美奈を少しでも忘れないようにするためかもしれない。最初は境界の外から眺めるくらいだったんだが、段々と近付くようになった。監視カメラの位置は把握してたから、こっそりバレないように入ることもできた。バレれば懲戒だろうが…… それでも、あそこに近付くと、瑠美奈と似たような雰囲気を感じられるんだ。科学的な言い方をすれば、その…… 霊子ってのが関係してるのかな。瑠美奈の霊子が残ってるから、似たようなものを感じた。まあ、その辺の知識はないからよくわからないんだが」

「とにかく、そこに入り浸るようになってたわけだが、1年くらい前…… 急に、瑠美奈、というか、誰かがいるって感覚が強まった。それから見回してみると、物が勝手に動いたり、飛び回ってたりしてた。最初は、前のSCP-4100-JP-1が復活したのかと思ってビビったけど…… すぐに違うってわかった。少しも攻撃的じゃなくて、遊ぶみたいに、回ってた。瑠美奈なんだって、本質的にわかった。別の何かが…… 多分、前のSCP-4100-JP-1の一部が混ざってるような感じではあったが、悪い感じじゃなかった」

「すぐに報告しようとも思った。でも…… そうしたら結局知らない奴に研究されて、収容されて、二度と来ることもできない。それにさ、発見経緯を正直に説明しちゃったら懲戒処分だろ? なおさら、近付けなくなるなって。だから、黙ってることにした」

「それからは、時々SCP-4100-JPに行くようになった。それでまあ、いろいろ話したりした。大体は、瑠美奈との財団での思い出について。後は俺に最近何があったとか、まあ適当な話題を。返事とかはなかったけど、こっちの言葉に反応して物浮かせたりしてたから、聞こえてたし、ある程度なら理解できてはいたはず。多分…… 便意の異常性は、俺が瑠美奈との思い出話中に"ウンコ"って言いまくったせいだな。元々瑠美奈がしょっちゅう言ってたやつだし。後はまあ、子供ってウンコ好きだろ? それが混ざってるのも一因かもしれない。よく知らんが。深い意味はなく、ただふざけて便意覚えさせて笑ってるだけだと思う」

「とは言ったものの、流石に…… 財団にこれを隠し通すのは厳しいと思った。いくら放置されてるオブジェクトとはいえ、しっかり調べられたらすぐバレる。そうなれば俺は懲戒で近付けなくなる。このまま上手く隠せるとは思えない。でも、ただ経緯をごまかして報告するのも違うと思った。どうにか、俺がここまでしたことを有効活用できないか。何か有意義なことに使えないか。自分が近付けなくなって誰かに管理を任せるにしても、信頼できそうな相手にしたい。そして…… ここにいる、千里瑠美奈という一人の人間のことを、知っておいてほしい」

「そこで、新規職員から適任を探してみることにした。で、比企を見つけた。お前を選んだ理由はまあ、いくつかあるんだが、まず第一に、昔自殺しかけてたこと。死にたいと思うまでに人生のどん底を嘗めさせられたからこそ、瑠美奈の、そして今の俺の"生きたい"って思いが、何か刺さるんじゃないかと思った。ここはまあ、感覚的なものだから比企が理解できなくても仕方ない。ただ俺も、財団に入ったばかりの頃は、ここのためなら死んでもいいって思ってた。瑠美奈と話してるうちに変わってったけど」

「そしてもう一つ大きな理由は、人事ファイルに書かれてたお前の性格だ。まあ…… 不快になるとは思うが、書かれてたことをはっきり言うと、比企は『相手によって態度を変える』らしい。頭が良くて思考力も深い相手は尊敬するけど、行き当たりばったりの適当なことばっか言ってる相手のことは嫌う。でもこれも、良く言えば素直ってことだ。自分の心に正直で、それをはっきり態度に出して伝える。社会一般でいいかどうかはともかく、誰にでも笑顔でいる奴よりもこれぐらい素を出してくれる方が信用できると考えた。もちろん、瑠美奈みたいに大概笑顔な上に信用できる相手もいるけど」

「実際、比企は結構素を出してくれた。嫌われてるのも、ウザがられてるのもわかってた。しつこく付き纏ってごめんな。でも…… だからこそ、俺が隠してたことを、瑠美奈のことを知ってくれたら、そのギャップがきっと印象に残ってくれるんじゃないかと考えた。そのためにも、比企自身で気付いてほしかった。そして期待通り、期待以上の結果を出してくれた。ありがとう」

「もちろんこんな上手くいったのは奇跡に近い。実質賭けだ。俺の過去をすぐに誰かにばらされて、お前が素を出してくれない可能性が一番高かった。後は、俺のことを嫌いすぎて、瑠美奈のことまで悪く思われる可能性とかもあった。……瑠美奈に対して、今の俺に対してお前がどう思ってるかは聞いてないけど、わざわざ財団に聞かれないこんな場を用意してくれたってことは、そこまで嫌いでもないってことじゃないか?」


過剰な情報の渦に、比企の頭はパンクしそうになる。聞いて理解はできた。特に難しい要素もなかったので、理解すること自体は容易だった。だが、その整理が理解に追いつかない。だが、なんとか結論めいたものを絞り出し、辛うじて言葉にした。

「つまり…… これはSCP-4100-JPに…… 千里瑠美奈さんに関わる、後継者を探していた、ということですか?」

「まあ、端的に言えばそうだな。後は、瑠美奈を生かし続けたいってのもある」

「生かす?」

「そう。確かに瑠美奈は、肉体的にはあの日に死んだ。でも、精神は、霊となってまだここに残ってる。生と死の違いが何なのかはよくわからないが…… 少なくとも、まだここでこっちの話を聞けて、反応して動けるのに死んでるって言うのは違うんじゃないかと。誰かがそれを知って、覚えていてくれる限りは、まだ生きてるって言えるんじゃないかと。上手く説明できねぇな」

急に哲学的な話になり、更に困惑する。生と死の違いは何か。比企としては、「彼女は死んだ」という言葉で片づけてしまいたいが、千里にとってはそうでないらしい。あるいは、そういう希望に拘泥しているのかもしれない。瑠美奈が生きると言っていたから、それを現実にしなければならない。だが、そんな勝手な思いを引き受けるのは。

「ちょっと、荷が重いです」

「そうだな。ごめん。はっきり言えば、こんなことしたのは比企のためじゃない。全部、俺の一方的なエゴだ」


こんなエゴに付き合ってやる義理はない。そもそも想いを引き継ぐという抽象的な行為をどのように実行すればいいかわからない。だが、何かしらはしなければならないような気がする。比企は斜め上を向いて、思考を具体化させたり曖昧模糊とさせたりする。そうしていると、ふと少し外れた疑問が思い浮かぶ。

「そういえば私がSCP-4100-JPにこっそり入ったとき便意なかったんですが。なんかしました?」

「おっ、そう!」千里はやたらと嬉しそうな顔と声で応じる。「そうそう、SCP-4100-JPでお前の話とかもしてたんだよ。どんな奴だとか、あと顔写真も前の探査で」

SCP-4100-JP内の霊が、自分が千里と親しい人物だと判断して異常性を発現させなかったということだろうか。アノマリーがこれほど柔軟に動いてくれるとは信じがたかったが、現にこうなっている以上、実際にSCP-4100-JPの霊は瑠美奈であり、その意思もまだ残っているという可能性が現実味を帯びてくる。

千里瑠美奈。他にもSCP-4100-JPにかつて接近した人物は何人もいたはずなのに、何故彼女が選ばれたのだろう。

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比企も、過去知ったのか。あいつの。まーそりゃある程度長いこと一緒にやってれば知ることもあるか。あぁ。最初は── 財団に来たときは、あんな性格じゃなかった。あの時の千里知ってんのはここだとそれなりに長いこといるやつだけだから、新しく入ってきた奴は知らない。

とはいっても、そんなに昔のあいつについてよく知ってるわけじゃない。正直いち警備員のことを覚えてるやつはそうそうない。ただまあ、千里姓の元々の持ち主、つまりあいつの奥さんのことはやたら有名だった。つっても大体悪名だけどな。

あぁ。ここからはちょっと千里には黙っといてほしいんだが──正直、あの奥さんは嫌われてた。仕事が適当だの、突っかかってくるだの、態度が舐めてるだの…… ただ俺も直接話したことはあるけど、別にそんなやな感じじゃなかった。今の千里と変わんない感じ。段々あることないこと積み重なって、悪評が形成されてった感じだな。多分まあ、警備員があんな態度なのが気に入らなかったんじゃないか。

それで、その奥さん──しばらくは奥さんでもなかったが──にずっと一緒に引っ付いてるやつ、って扱われ方だった、千里は。ツッコミ役とか制御係とか呼ばれてたな。だから、千里と反対の真面目なやつって認識だったよ。だから結婚したって聞いた時は驚いた。……すぐに、永久に離れちゃったけど。

奥さんが死んでから、あいつは憔悴しきった様子になってな。財団のことも世界のことも憎むみたいな顔とか態度で。急に変わったわけだけど、まあそれは別に珍しくない。財団で親しい人が死んで絶望するなんて話はよく聞くし、俺もその前に一回見たことある。で、一か月の休職を申請した。それもよくあるわな。

ただ、休職から戻ってきたらよくあることじゃないことが起きた。千里が…… 別人になってた。一人称も「俺」になって、適当な口調で、性格も…… 完全に、奥さんのそれになってた。

死んだ人の形見を受け継いだりするのはよくあるけど、性格がまるっきりその死んだ人になっちゃうのは初めて見た。流石に精神分析とか行われたけど、問題はなかった。不自然なくらいに健全だった。一時的な気の迷いですぐ戻るとも思ってたけど、結果全然戻らず、今に至る。ただ、最初の頃は「僕」と言いかけて「俺」に直したり、ちょっと完成してない感じはあったな。だから、中身までは変わってなくて、表面的に奥さんを再現してただけなんだろう。そういうこともなくなった今はどうか知らんが。

見たやつがいるらしいんだが、あいつ変なメモ持ってたらしい。「千里さんメモ」とかいって、奥さんの性格の特徴とかいろいろ書いてたとか。「千里さん」っていうことは結婚よりも前からつけてたんだな。多分それを見ながら性格を変えるのを頑張ったんだろうな。

まあ、他の職員からは正直落胆されてた。「あいつ死んだのにまだあの性格に対応しなきゃならないのかよ」、って思われてる節があった。……今の発言はちょっとヤバいかもな。でも、実際そんな雰囲気があった。とはいえあそこから頑張ってエージェントになったから、まあすごいもんだとは思うよ。

何で性格を変えたのか。そこは本人にしかわからない。直接訊ける奴はいなかった。比企も本人に訊けないから俺のとこ来たんだろ?

多分あいつは…… 前の自分を殺しても、えっと、前の名字何だっけ。……そうだ、楊だ。楊を殺してでも、奥さんを、千里を生かしたかったのかもな。うん。何がそこまで突き動かしたのかはわからん。純愛のようにも見えるかもしれないが…… 俺としては、正直呪いのようなものに思う。

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2023


SCP-4100-JP警備ログ

2023年1月15日


楊警備員: (息を切らす) ふう、こっちはなんとか、制圧したけど。そっちは? 大丈夫?

千里警備員: あぁ。一人はとっくにのして、もう一人を追いかけるとこ。

楊警備員: うん…… いぐっ。

千里警備員: どうした? 大丈夫か?

楊警備員: うん、それより…… あいつ境界突破してる!

千里警備員: マジか、じゃすぐ行かなきゃ。

楊警備員: 待って! 行かなくていい!

千里警備員: あ?

楊警備員: 中入っちゃったらもう無視でいいって書いてあったから…… ってなんで止まらないの!?

千里警備員: 悪いけど止まる気はない。 (封鎖境界を越える) このままだとヤバい。

楊警備員: ヤバいって何が…… あっ。 (股間を押さえて座り込む)

千里警備員: 放っといたらもう、凄いことになる。多分。お前も死ぬ。

楊警備員: いやでも、行ったら瑠美奈さんの方が!

千里警備員: だーいじょうぶだ、俺は死なねぇよ。

楊警備員: 何で!?

千里警備員: いつも、通り。直感だよ。大体当たってるだろ?

楊警備員: だけど、駄目だって! 今回は無理! 戻って!

千里警備員: 悪いな。

楊警備員: どうし…… (頭を地面につけてうずくまる。言葉にならない呻き声を上げる)

千里警備員: 俺もお前も死ぬわけにはいかないから! また後で会おうな!

楊警備員: 待って、瑠美奈さん…… 瑠美奈…… (痛みに気絶する)

(千里警備員はSCP-4100-JPに進入する)






2030


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「あなたは…… これからどうしたいんですか」比企は疑問を口にする。
「どうって?」
「私がこの話全部ばらしたら…… 間違いなくあなたは何かしらの処分ですよ。どのくらいかはわかりませんが」

「うん」千里は少しも動揺の色を見せることなく、平然と返す。「そうだな」

「いいんですか? それで」
「あぁ。多分俺の目的は達成できたっぽいしな。後はもう、煮るなり焼くなり炒めるなり」

「本心ですか」千里の目を見据えながら、比企は問う。
「本心だよ。これ以上なく」その目を見返しつつ、千里は答える。

「それにさ」千里はふっと息を一つ吐く。「物的証拠もないんだろ?」

「確かにありません、ですが。財団がこれを聞いて本気で調べたら、絶対バレますよ」
「それもそうか。はは」

苛立ちを隠しもせずに、比企は言う。「何笑ってんですか。本当にそれでいいんですか」

「あぁ。ここまでずっと俺のエゴで振り回しちゃったからな。後の処遇を決める権利は、お前にある」

比企は眼鏡をどけて額を手で押さえてから、言葉を絞り出す。「じゃあ好きなようにさせてもらいますよ。せいぜい」

「うん」千里は穏やかに笑みを浮かべた。「ご自由にどうぞ」


10秒とも、1分とも知れない沈黙が過ぎた。そこでふと、比企は先ほど思いついた疑問を口にする。「なんで瑠美奈さんは、SCP-4100-JP-1とくっついたんですかね」

「どういうこと?」
「他にもSCP-4100-JPに入った人は何人もいたはずです。なのに何故、瑠美奈さんが選ばれたんでしょうか。インシデントで特殊な状況だったのはわかりますが」

千里はコーラの2Lペットボトルを冷蔵庫から取り出しに向かい、戻ってくる。「性別が関係してたのかもな」

「性別?」空になっていたコップを差し出し、比企はコーラを注いでもらう。「確かに女性は殺されにくいと書いてありましたが。でもそれ以前に入った女性も何人かいました」

「そうじゃないんだ」千里は自分のコップにもコーラを注ぐ。「瑠美奈はちょっと、その辺が特別なんだ」

「特別…… 喋り方からしても、身体の性と心の性がどうとかその辺ですか」
「どうなんだろうな。その辺とも違う気がするんだ。……瑠美奈は確かに女性だし、それを本人も認めてた。でも、『女性らしく』あろうとするのは嫌がってた。だからって別に男になりたいわけじゃない。確かに男口調ではあるけど、それは『女性らしく』を避けたからであって、別に男らしくありたいってことじゃない。多分、むきになってた節があるんだと思う」

「よくわからないですね」
「かもしれない。まあ、あいつの性別を正確に言うなら、『千里瑠美奈』って性別がある…… って言った方がいいのかな」

「ふうん」比企はコーラをすする。「だからってアノマリーがそんなこと考慮しますかね? 普通に考えたら、女性なんだから女性への対応をして終わりなんじゃないですか?」

「それだけじゃなかったのかも」千里はグビグビとコーラを喉に流し込む。「何か、奇跡が起きたのかもしれない」

「奇跡?」
「あぁ。人生、たびたび理不尽なまでの不幸が訪れる。酷い家庭に生まれたとか、突然家族を殺されるとか、意味もなくいじめられるとか、その他諸々。本人に何の非もなくても。だからその分、理不尽なまでの奇跡がたまには起きてもいいって思わないか?」

「なるほど」そうは答えたが、やはり何のことか比企はよくわかっていない。財団の報告書に『奇跡が起きた』なんて書く羽目になったらたまったものじゃない。

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2023


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……中にまで入って来ちまったな。てかクサっ。何というか…… グロいな。滅茶苦茶。

あいつは…… いた。止まってる。おい、やっと捕まえたぞ、おい。

[認識災害削除済]

おーい。スマホ取り出して…… 何してんだ? おい、聞い██のか?

聞こえてないな。意識██のか。動い█るけど。

[認識災害削除済]

さっきから何か言っ██な。案の定何かしらいた█たい。

痛っ。なんか、左肩がすげぇ痛ぇ。

……目の前█いたわ。

[認識災害削除済]

生ま██初めてだな、幽霊なん██るの。これは幸運だ。

痛い痛い! ちょっと██着けって。何もしてないししない█ら。イタイタイタ。

おいお前もスマホ向け█な。気持ち██かる█ど。

[認識災害削除済]

なんかお前…… こいつに恨██るっぽいな。しかも滅██茶に。幽霊はやっぱ恨みあるもんなのかな。

ああ変な方███がってる! ちょっと待て、一旦話聞██て。殺し███たら、取り返しつか██なる。こいつが何██かはわかんな█けど。

……てかお前、まさか……

[認識災害削除済]

……あぁ、なるほどね。そういうことか。

こんなと█ろに、いた██な。

うん、辛かった████な。相当。よく、頑張ったな。

残念だ█ど、俺には███け辛かったかはわからない。どんな目に遭って、███思いをしたか██からないし、想像██かない。ごめん。

何もしてやれなかった。俺が別の場所で馬鹿み██に過ごしてる裏でそん██いして██んて、知りもしなかった。

[認識災害削除済]

俺ばっか辛い思いしてます、そんな中で██張ってます██いな顔して、結局自分勝手で。そう██な、ホント。糞野郎だよな。

恨ま██も、仕方ないよな。

逃げ██って、本当にごめん。

最██で守ってやれなくて、本当██めん。

謝っ█も許███いよな。

[認識災害削除済]

多分、こい██相当なウンコ野郎なんだろうな。その恨みようからして、わかる。

でも、こんな奴の███お前がこれ以上バケ████る必要は、ない。

よく頑張ったな。俺なんかに褒めら████しくないかも██ないけど、よく、頑張った。

もう、休んでいい。

[認識災害削除済]

……その子か。その子が、心配なんだな。

じゃあ、そ██な、俺が親代わりに███やる。じゃなくて…… ならせてほしい。

信用できな████う。仕方ないよな。よ██かる。でも。

でも、もしほんの少しでも、信じ████なら、俺に、そ██を、任せてくれないか。

普通には生きら████もしれ██。でも、できる限り、幸せ██るから。なっ。

それ██いだから、█としてして██るのは。

[認識災害削除済]

休んでくれ。もういいんだ、誰かを傷つけ███、傷つかなくて、頑張らなくて。

だから、聞いてくれよ。

自分で言うのは█んだけど、でも、きっと。

俺は相当な、有望株だぜ?

[データ破損]

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2030


SCP-4100-JP調査報告

提出者: 比企連理


(……)

インシデント4100-JP以前の研究を参考において、当時のSCP-4100-JP-1は「若年女性の遺留子配列と乳児/胎児の遺留子配列が融合・混在したことで生み出された霊的実体」であるとされています。ただし乳児/胎児は性格を形成する情報配列が極めて短く、情報量がほとんどありません。また、当該インシデント以降に行われた複数融合型霊的実体に関する先行研究において、プライマー配列に対し情報配列が過剰に不足すると、霊体として著しく不安定化する旨が示されています。当時のSCP-4100-JP-1が外見こそ奇形を生じていたものの性質としては比較的安定していたことを踏まえると、当時のSCP-4100-JP-1はより正確に言えば「乳児/胎児のプライマー配列と若年女性の情報配列が複合して生み出された霊的実体」と考えられます。珍しい事例ですが、前例もわずかながら確認されています。

とはいえ、このような霊的実体が相対的に不安定であることは変わりありません。収容期間に応じて活動の鈍化が見られたことから、霊子の自然放散があったという可能性は当時の研究から示されています。インシデント4100-JPでは、これまで見られなかった広範囲かつ強力な異常能力の行使が見られました。異常能力の機序が不明なため仮説に過ぎませんが、これは霊的エネルギーを浪費したものと思われます。これと当時の千里警備員の発言内容から、SCP-4100-JP-1は「自身が消耗・不安定化していることを認識し、乳児/胎児の世話を千里警備員に仮託した」可能性があります。恐らくこの時点で当初の若年女性の情報配列はほぼ拡散したものと思われます。ただしあくまで状況証拠に基づいた仮説に過ぎず、また他者の意図的な霊体化に関する研究も不足しているため、これに関する調査が今後の研究課題と見られます。

先ほども軽く述べましたが、現在のSCP-4100-JP-1は「乳児/胎児のプライマー配列と千里警備員の情報配列が複合した霊的実体」であるものと考えられます。死者が霊体化する際にはラグが生じることが大半のため、異常性の空白期間は問題なく説明できます。この期間における、死体に接近した際の抵抗感は、わずかに残存した若年女性の情報配列、または乳児/胎児自身の僅少な情報配列が作用した可能性があります。

現在のSCP-4100-JP-1の情報配列が千里警備員のものであるとする別の根拠として、エージェント・千里──千里警備員の生前の配偶者──への友好的反応が挙げられます。エージェント・千里に対しては便意を催させる異常性が発現しないほか、実験において、他の被験者では見られない、物体を周囲で回るように浮遊させるなどの振る舞いが見られました。また、彼に同行した私にも便意の異常性は発現しませんでした。

蔵元式霊話コンバーターを用いても有効な意思疎通を行えていないため、現在のSCP-4100-JP-1にどの程度知性や生前の記憶があるかは不明です。単純に、霊的実体となってから最初に遭遇したエージェント・千里に友好的であるというだけかもしれません。しかし、これはほぼ完全な私の仮説に過ぎませんが、現在のエージェント・千里の性格や口調がインシデント当時の千里警備員のそれと酷似していたことで、生前の記憶が惹起された可能性もあります。

先述の通り、放置していれば現在のSCP-4100-JP-1の霊子も拡散する可能性が高いと思われます。しかし、現在はメトカーフ非実体反射力場発生装置によりその固定が可能です。これはSCP-4100-JP-1の収容を可能とするほか、その存在の維持にも寄与すると見込まれます。

(……)


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気が付くと、そこには部屋が広がっていた。

久しく見ていないが、つい最近も見た部屋。子供の頃、悲痛と疑念と怒りをたっぷりと育てた部屋。

そこの机には、一人の少年が座らされていた。背は縮こまり、下を向き、表情は見えずとも相当に惨めなことはわかる。

その側には中年女性が立っている。その角ばった顔には汚らしい皺が寄っており、厚化粧でもそれを到底隠せていない。

振り返ると、中年男性がこちらに背を向けて寝っ転がっている。自ら動く気配を見せない鈍重な身体を見せつけつつ、尻をポリポリと掻いている。

これは明晰夢というものか。見たのはいつぶりだろう。ここまで明瞭なものは初めてかもしれない。

「ねえ、何でまたミスしたの? この程度も満足にできないの?」

不快な声が耳に入る。というより、夢なので頭に直接響いてくる。

「私は智基のために言ってるのに。これくらいできないと、あんな底辺の仕事することになるんだから。ね、お父さん?」

自分は正しい、自分の見えている世界が絶対的に正しい。そう思いたさが隠れてもいない。子供の頃は何でこんな言葉に真面目にショックを受けていたのだろうかと、自嘲する。

「あ? あぁ、そうだぞ。うん。だから勉強しろー」

さっきまでの話を聞いていないことが誰の耳にも明らかな声が聞こえる。面倒くさい、関わりたくない、責任を負いたくない。そんな態度が露骨すぎるほどに透けている。

少年は、ただ黙々と塾で出された宿題を解き続けている。できる限り外部の騒音をシャットアウトして、やけくそに、そこに書かれた文字だけに意識を集中している。

その姿があまりにも惨めなので、少し助け舟のようなものを出してやることにする。

「私、政府に認められてる小学校卒業してないですけど、すごい年収高いとこ入ってますよ」

……多分発言すべきことを間違えた。唐突すぎるし、助け舟には恐らくなっていない。自分でも、何を言ったのかよくわからない。まあ、夢だから。

最初は自分はいないものとして扱われていたが、これを言った途端、部屋中の視線がこちらに集まる。全員口をぽかんと開けて、呆然と見つめている。

それを見ていると、なぜか無性に腹が立ってくる。根拠も糞もない、理不尽な怒り。

そしてその怒りのままに、目の前の女を手で横に弾き飛ばした。

すると女は驚くほどの勢いで吹っ飛び、そのまま寝っ転がっていた男にぶつかると、2人まとめてピンボールのように更に吹っ飛び、壁を跡形もなく破壊してどこかへ飛んで行ってしまった。

急にシュールギャグになってしまった。まあ、夢だから。

振り返ると、少年がやはりぽかんとした顔でこちらを見つめている。

とりあえず、サムズアップしておく。


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「なあ、靴下って上司にふさわしいと思わないか? だってずっと臭い足にも文句言わずに、人のことを優しく支えてくれるじゃん」

1ヶ月前の告白などなかったかのように、千里は平然と話しかけてくる。彼と出会ってからの日常は、SCP-4100-JPという特異点を挟んだ後も続く日常だった。


結局、比企は千里のことを告発しなかった。オブジェクトの異常性に千里が関わっている旨は示したが、それ以前の無断侵入、異常の隠蔽については一切触れなかった。何故かは、比企本人も説明できない。ただ、暴露すべきでないと感じた。

正直、後悔はないと言えば嘘になる。というよりもかなり後悔している節がある。

バレたらどうなるのか、どんな処分を下されるのか、どう対応すればよいのか、あれ以来ずっと気が気でない。


「でも、靴下って簡単に穴あきますよね? そんな脆いのを上司にして大丈夫なんですか?」
「ま、上が多少弱いところ見せてくれた方がかえって下は安心するもんよ」
「そうですか」


とはいってもそこまで重い処分にはならないとは考えている。千里と比べればだいぶ小規模な隠蔽に思えるし、何より物的証拠がない。不確定な情報を混ぜるのはまずいかと思った、その後報告を忘れてしまった、といえば過失で済むだろうか。済まないか。

最悪、千里に脅迫されていたことにでもするか。本人も多分、協力してくれるだろう。

だが、比企には「不正をした」という事実そのものが比較的重くのしかかっていた。これまで馬鹿真面目に過ごしてきた彼にとって、このような行為は耐えがたいものだと思い知らされた。

まあ、やはり自分はこれからなおのこと真面目に仕事をしようと思えたという意味では、学びになったのかもしれない。


「比企はどう? 上司として良さそうなの」
「え? えー…… あーっと…… 眼鏡、ですかね」


そう考えると、やはり比企は千里のような人物とは根本的にそりが合わないのだろう。適当で、非論理的で、場合によっては不正さえ犯す。それが彼と会ってからの2ヶ月ほどで、紆余曲折を経てたどり着いた結論であった。

巡り巡って最初と同じ意見に舞い戻ってしまった。ならばこれは全て無意味だったのだろうか。

恐らくそうではないだろう。何故嫌いでどう嫌いか知るきっかけにはなったし、それにまた、非論理的な浅慮さ、思い込みから自分も逃れられていないことを自覚できた。少なくとも、そう思いたい。


「眼鏡?」
「はい。視力…… 良くなるじゃないですか。それがなんか、正しい真実を、ぼんやりしてたところをはっきり見せてくれるっていうか。それを支えてくれるって感じです」
「なるほど。なかなか悪くないな」


だがまあ、他の会社や組織ならともかく、財団ではこういった思考の持ち主はだいぶ異端だろう。彼のような人材は、年中人手不足の財団においてある意味貴重ともいえるのかもしれない。

その一方で、財団から外に出ればこのような非論理的な人は珍しくない。そもそも異常存在からして、異常存在であるという時点で非論理的だ。

とすると、千里はそれらへの対応の練習台とも、考えようによっては捉えられる。


「あの、話変わるんですけど」
「ん? 何?」


君は人についてもうちょっと知った方がいい、そう言われたことがある。プリチャード学院時代、担任との面談でのことだった。当時は何を言っているんだと不満を抱いたものだが、今ならその意味が少しわかる気がする。

殊にこの千里という人物は、比企とは本来到底相容れない、反対の人物だ。だからこそ、こうしてすぐ側にいるという機会は相当に貴重といえるのかもしれない。

だからこそ、「人を知る」という意味では、これほどの適任もいるまい。


「もしこの後帰る時、時間あったら」


この人のエゴに散々付き合わされた。身勝手に振り回された。私欲のために使われた。

だから、




「ラーメンでも行きます?」




今度はこちらが、せいぜい使ってやろう。

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アイテム番号: 4100-JP
レベル2
収容クラス:
euclid
副次クラス:
{$secondary-class}
撹乱クラス:
vlam
リスククラス:
caution

特別収容プロトコル: SCP-4100-JPの周囲30 mは物理的に封鎖し、常時2名の警備員と複数の監視カメラで監視を行います。監視カメラにはハルトマン霊体撮影機が導入されます。接近する人物にはカバーストーリー"不安定な地盤"を説明し退去させます。封鎖を突破された場合、侵入者は確保後に尋問が行われ、異常やGoI-4100-JPとの関連が見られなければ記憶処理を施されて解放されます。(担当研究員注: SCP-4100-JP-1の便意を誘発させる異常性が侵入者の境界からの自発的な退去を促す可能性も高いですが、収容をオブジェクトの性質に依存すべきではありません。)

SCP-4100-JPは2ヶ月に一度定期点検を行い、崩壊のリスクがないか調査されます。現状SCP-4100-JPにその危険は見られませんが、リスクが高いと見做された場合、補修またはSCP-4100-JPに代わる新たな構造物の構築が行われる予定です。

前述の封鎖境界の各チェックポイントにはメトカーフ非実体反射力場発生装置が設置され、SCP-4100-JP-1の収容違反及び霊子の自発的な消散による無力化を防ぎます。現在まで、SCP-4100-JP-1の収容違反の試みや弱体化は確認されていません。

封鎖境界内に財団職員が進入する際は、可能な限りSCP-4100-JP-1が認知している職員を同行させてください。警備員を含めたSCP-4100-JP担当職員等が該当します。具体的な人物の一覧は別途文書を参照してください。

SCP-4100-JPのベランダに埋葬されている死体は、いかなる場合でも接触/調査を試みてはなりません。

追記: SCP-4100-JP-1の精神状態の安定ないし友好度維持のため、定期的にエージェント・千里をSCP-4100-JPに訪問させる案が担当研究者である比企研究員から提出されています。承認は保留中です。

説明: SCP-4100-JPは神奈川県██町の██山に存在する3階建のアパートです。全体が荒廃しているほか、北西側を主として約8%が崩壊しています。

SCP-4100-JP内には多量の霊子が充満しており、後述のSCP-4100-JP-1が霊的能力を行使しやすい環境が整っています。SCP-4100-JPがこの性質を持っていたことがSCP-4100-JP-1発生の原因となったのか、SCP-4100-JP-1によりSCP-4100-JPがこの性質を有するようになったのかは不明です。

SCP-4100-JP-1はSCP-4100-JPを中心に活動する霊的実体であり、内部及び周辺で発生する大部分の異常現象の主要因です。基本的にSCP-4100-JP内に留まっていますが、外部への移動も問題なく可能と見られています。目視では視認不可能ですが、ハルトマン霊体撮影機では不定形なものの大まかに人型の形態が確認可能です。接近した人物は、女性及び乳児の声、主に笑い声を知覚する場合があります。そのうち女性の声は、2023年のインシデント4100-JPで死亡した千里瑠美奈警備員のものとやや類似していると報告されています。

SCP-4100-JP-1は遠隔で物体を操作する能力を有します。比較的緻密性・柔軟性は高く、SCP-4100-JP内部の雑多な物体を集めて直径30 cmほどの球体を作り出し、ある程度自在に移動・変形させた事例も確認されています。

また、SCP-4100-JPないしSCP-4100-JP-1に接近した人物は強い腹痛と便意を訴えます。これらに接近するほど腹痛・便意は増大し、最終的には抑制できずに排泄します。しかしながら、SCP-4100-JP-1が友好的であると考えられる人物、及びその同行者にはこの異常性は発生しないため、SCP-4100-JP-1が対象を知覚した上で任意で調整しているものと思われます。

SCP-4100-JP-1に蔵元式霊話コンバーターを使用しても判読不能な内容や雑多なワードサラダが出力されるのみであり、言葉での有効な意思疎通には至っていません。しかしながら、先述の異常性の調整や、複数の実験により、一定の知能を有するものと考えられます。また、SCP-4100-JP-1は自身が認識している人物に対しては友好的反応を見せます。

SCP-4100-JPのベランダには女性の死体が埋められており、これはインシデント4100-JP以前のSCP-4100-JP-1に付随していたものと同一です。しかしながら、接近した人物は強い抵抗感を覚え、更に接触を試みた職員は尖ったガラス片を眼前に浮遊させられるなど、SCP-4100-JP-1から敵対的反応を受けています。


























その日の空は、馬鹿みたいな青色と能天気な白い雲で彩られていた。

比企がまたSCP-4100-JPにやって来たのは、最後の「実験」をするためだった。既に別のオブジェクトの担当として配属が決定している彼にとって、ここに次に来るのは当分先になりそうだった。

実験とはいっても、大体の作業は既に終わっている。現在のSCP-4100-JP-1誕生に関する具体的で正確なメカニズムは未だ判然としていないが、霊的実体に関する面白い事象が起きたということで、そちら方面の専門家が研究を引き継ぐことになった。だから、比企の実験することはもうないと言っていい。とはいっても、比企がSCP-4100-JPの主任研究員であり続けることには変わりないが。

そんな状況でわざわざここに来たのは、他でもない、エージェント・千里の頼みだった。どうやら千里には、このオブジェクトに関してこれまで忘れていたことがあったらしい。その上無関係の業務で忙しくなったため、比企にお遣いを任せたということだ。

封鎖境界の手前には、警備員が一人立っている。腕を後ろに組んで背を伸ばすその姿は、少なくとも今の時点での態度は、極めて真面目かつ勤勉に見えた。

「お疲れ様です」、比企はそう言って一礼する。警備員の方もキビキビとそれを返す。それから、軽い事務手続きをした上で、境界の内側に入る。が、そこで一歩引き返す。

比企は2枚の紙を警備員に手渡す。「良かったら使ってください。もう一人の向こう側にいる方にも渡してください」サイト付近にあるラーメン店のクーポン券。千里が忙しくなっている以上、有効期限内には使い切れないだろうということで、彼らに託すことにした。


SCP-4100-JPはいつもの如く荒れ果てている。外壁は崩れ、塗装は剥げ、廊下は陥没し…… もう見慣れたものだ。

前置きはなしに、さっそく「実験」を始めることにする。

「これなんですけど」比企は小さく光るものを指で挟み、アパートに見せつけるように掲げる。それは、財団のロゴにゴタゴタと装飾が付いたバッジだった。

まばゆい陽の光に照らされ、目の前には希望しか広がっていないなどとでも言うかのように、輝きを放っている。

「これは、千里さん──千里、瑠美奈さんに送られた財団勲章です。自らを犠牲にして財団職員としての責務に貢献したから、だそうです。……どうですか?」

どうですかって何だよとは思いつつも、それをまじまじと見せつける。裏を向けてみたり、回転させてみたり、そこにいるはずのその人が、これを確かに見られるように。

やがて、比企は手からバッジがするすると離れていくのを感じる。手が滑るというのではなく、何かに引っ張られるように。

そうしてバッジは空中に浮かび、改めてその眩しさを比企に見せつける。

30秒ほどそうして留まっていたが、それから唐突に回転し、ベランダの中へと飛んでいく。急いで比企はそれを追いかけるが、バッジの到達地点の直前で慌てて立ち止まり、つんのめる。

バッジは地面に置かれ、その周囲を鳥の糞が楕円形を描くようにして囲っていた。そしてこの位置は、あの死体が埋められた場所だった。

鳥の糞は、立入禁止のエリアを彼女──この代名詞を使うのはたびたびはばかられるのだが──がわかりやすく示すために設置したのだろう。そしてその中心に、勲章がある。

勲章を贈られるべきは彼女ではなく、最初にSCP-4100-JP-1となったその少女ということなのだろうか。会話ができない以上、正確な意図はわからない。だがきっと、その心にある想いは後ろ暗いものではない。少なくとも、そう思いたい。

目を閉じて、バッジの置かれたそこに手を合わせた。


ある先輩職員から聞いた言葉が、ずっと引っかかっている。「呪い」。エージェントの方の千里は、いつまでも亡き妻に縛られ、人格を偽った挙句、ほぼなり替わってしまった。その妻の方も、霊に殺された者が今度は霊となってしまう、そういうありがちな怪談と同じケースとも捉えられる。これは美談などでは到底ないのかもしれないし、今でも彼らは苦しみ続けているのかもしれない。

正直、比企にはそこの判断はつかない。たとえ苦しんでいたとしても、彼らがそれを外に見せ、伝えることはないだろう。

だが、仮に呪いだとしても。きっと彼らはそれすらも受け入れ、一笑に付すのではないかと、比企は思う。やはり、千里のことが人間的に肌感覚で好きではないことには変わりない。変わりないが、それでも彼には、彼らにはそうあってほしい。比企が今想像したことくらいは、裏切らないでほしい。論理的思考を大切にすると決めたとはいえ、それくらいの希望的観測は許されるだろう。

未来に希望しかないということはまずないだろうし、それなりの絶望もあるだろう。だが、きっと自分には、どこかに切れ端程度には希望があるような気がする。

ろくでもない家庭に生まれて、自殺を試みて、拾われて、今に至る。思えばこれも、幸運も不運もひっくるめて奇跡の連続で成り立っているのかもしれない。それをどう解釈し、受け止めていけばいいかはまだわからない。答えを出すのは将来の自分に任せよう。


カバンからメモ帳を取り出す。何年も使われたそれは、かなりボロボロになっている。『千里さんメモ』と題されたそこには、こちらもよく知っている性格特徴がこれでもかと羅列されている。

千里薫──これを書いた当時は楊薫──が、千里瑠美奈のことを書いたメモ。しばらく前にもらったのだが、もらったとてどうしたらいいのかと困っていた。だが、今日初めて、使ってみることにする。

メモ帳の最後のページを開き、比企は書き込む。




千里さんメモ

千里さんは生き続ける。




















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