SCP-4122-JP
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昔々、ある所に若い夫婦がありました。二人は人里離れた山の中、食うものもままならない程に貧しいながらも、身を寄せ合って仲良く暮らしていました。

アイテム番号: SCP-4122-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-4122-JPは5m×5m×5mの鋼鉄製の収容セルに収容されます。収容セル内壁の破壊による収容違反を防ぐため、SCP-4122-JPは監視カメラによる監視状態を継続してください。収容セルに大きな損傷が生じた場合はSCP-4122-JPを麻酔薬にて昏睡させ、その間に損傷個所を修復して下さい。

給餌は3日に1回のペースで行い、その食性から主な餌は牛または豚が与えられます。また、給餌終了後の収容セル内が血液で汚染された場合は適宜清掃ロボットによる清掃を行って下さい。

ある日、夫は遠くの山に猪を狩りに行くと決めました。嫁はその山に恐ろしい狐が出るという噂を聞いていたので、夫をたいそう心配しました。

「あの山には恐ろしい狐が出ると聞きます。たいへん危ないでしょうから、どうか行かないでください。」

「お前はいつも、自分が食べる物を俺に寄越しているのではないか? 『私は先に食べました』などと嘘をつきながら、本当は食べていないのだろう。だから、そんなに痩せ細ってしまったのだ。」

「……私のことはいいのです。あなたが元気でいてくれれば。」

「そうはいかん。たまにはお前にも目一杯食べてもらいたいのだ。なぁに、俺は鉄砲を持っている。そんなものがいたとして、すぐにやっつてけやるさ。」

夫はいつも腹を空かせた嫁を満腹にさせてやるため、勇んで向かっていきました。


残された嫁は夫の帰りを待ち遠しく思いながら、洗濯や夕飯の準備に精を出しました。

「……もう日が暮れてしまう。どうしたものか。こうしてはいられない。」

しかし、その日ばかりは晩方になっても夫が帰ってきません。心配で居ても立っても居られなくなった嫁は夫を迎えにいくため、一人で山へと向かいました。

説明: SCP-4122-JPは未確認のヒト型実体です。常に興奮状態であり、積極的な収容セルの破壊行動が確認されています。また、自身の頭部を搔きむしるといった精神的ストレスの増大を示唆するような行動も散見されています。

全長約2.5mであり、現存するいかなる生物との類似性も示されていません。

嫁は華奢な足で懸命に歩き続けました。しかし、長い道のりで疲れ果てて、山を目前にとうとうその場で座り込んでしまいます。腹も減って力が出なくなり、万事休すかと思われたその時、どこからか僧侶が現れました。

「お困りのようですね。私に任せてくれるなら、あなたの望みが叶うよう手伝ってあげましょう。」

まさに渡りに船だと歓喜した嫁は事の経緯を説明しました。それを聞き終えた僧侶は手に持っていた錫杖を天に掲げると、不思議な光が嫁へ降り注ぎ、嫁の足がまるで馬のように大きくなりました。

「その足ならどんなに長い道でも走り抜くことが出来るでしょう。それで山まで走りなさい。」

嫁は自分に起こったことを飲み込めずにいましたが、いち早く夫のもとへ行きたいという一心で走り出しました。

SCP-4122-JPの両下肢の筋群は非常に発達しており、SCP-4122-JPはこれを用いて収容セル内壁の破壊を試みます。また、草刈鎌様の両上肢を振り上げることで職員に対して威嚇を行う様子も確認されており、その性質は極めて敵対的であるものと推測されています。なお、両上肢は複数箇所に磨損及び欠損がみられ、これは剛性の高い何らかの物体に対して上肢を酷使してきたことによるものと考えられています。

そうして無事に山に着いた嫁に、さらなる困難が待ち受けていました。

「困った。草木が邪魔で進めない……。」

鬱蒼と生い茂る草木に行手を阻まれてしまったのです。それでも立ち止まるわけには行かぬと、何とかそれを掻き分けて進もうとしたところ、向こうで会ったはずの僧侶がどこからともなく現れました。

「なるほど、これが邪魔で中々進めないのですね。なら、こうすればいいのです。」

僧侶は錫杖を掲げると、今度は嫁の手が鋭い草刈り鎌のように変化していきます。嫁は自身の体に生じる変化に恐れ慄きましたが、夫を探し出すにはむしろ好都合だと思い、それを受け入れました。

SCP-4122-JPは発達した上顎骨・下顎骨と咬筋群も有しており、牛や豚の肉を骨ごと摂食する傾向にあります。

SCP-4122-JPの脳は解剖学的構造は人間に酷似しているものの著明な萎縮がみられており、それによる知能の低下が知能検査の結果から示唆されています。その影響により、SCP-4122-JPとの意思疎通は興奮が抑制された状態となっても困難であると推測されています。

「あ、あれは……。」

その手で生い茂る草木を薙ぎ倒しながら進むと、遠くに倒れている人影が見えます。急いで駆け寄ると、その人が夫であることが分かりました。どうやら気を失っているようです。

「あなた、あなた!」

必死に呼びかけると、夫は僅かに顔をしかめました。命があって良かったと、嫁は心から安堵しました。

「辿り着けて良かったですねぇ……しかし、改めて見ると、本当に酷い姿だ。」

しかし、それも束の間。またしても僧侶が現れました。

「では、あなたの望みを叶えるのに必要な最後のまじないをかけてあげましょう。」

そう言って錫杖を掲げると、嫁の頭を恐ろしい怪物のものに変えてしまいました。すると、次第に嫁は我を忘れていき、感じるのは食欲のみとなってしまいます。

「あなたはずっと空腹に耐え続けていましたね。一番の望みは腹を満たすことでしょう。なので、私がこの肉を用意しておいたのです。ほら、たんと食べなさい。」

僧侶は微笑みながら、その姿を狐へと変えていきます。これが僧侶の正体であり、その性質は人々を弄ぶ邪悪そのものだったのでした。

しかし、それは今の嫁の眼中には入りません。夫を見て涎が止まらなくなった嫁は、その大顎で喰らわんと飛びかかりました。

SCP-4122-JPは栃木県██市にて「守り神の住む山で不思議なことが起こる」との風説をエージェントが現地住民より聴取し、調査したことにより発見に至りました。SCP-4122-JPの確保作戦の際、作戦中の機動部隊の進行経路を阻むような落石や土砂崩れが計15回(怪我人や死亡者なし)生じたことが特筆すべき事象として挙げられ、SCP-4122-JP収容後に███山での事後調査が行われました。その結果、現実改変の痕跡やSCP-4122-JPに関連する異常性も認められなかったことから、これらの事象は偶発的なものであったと結論付けられました。現在は███山に何らかの異常があると仮定されており、調査が継続されています。

その瞬間、夫が目を覚ましました。

「お前、どうしたんだ……そんな姿になって。」

夫は自分に飛び掛からんとする怪物を、一瞬のうちに嫁であると見抜いたのです。その声を聞いた嫁はハッとして立ち止まりました。

「なんてことだ、狐に姿を変えられてしまったのだな。俺が情けないばかりに大変な目に合わせてしまって、本当にすまない……腹が減ったのなら、俺を食ったって構わない。だが、他人様だけは食わないと約束してくれ。お前が人食いなどと言われてしまっては、死んでも死にきれない。」

涙ながらに訴える夫を見て、嫁は自分を取り戻しました。そして、自身のしようとしたことの恐ろしさに震え、膝から崩れ落ちます。

「私、なんてことを……。」

夫は嫁を優しく抱きしめました。

「その姿では、もう我が家に戻るのは難しいだろう。なら、二人でこの山にひっそりと暮らせばいい。大丈夫、俺はお前がどうなっても、ずっと一緒にいる。もう二度と、そばから離れることはない。」

その様子を見ていた狐は、自身のしたことを後悔しました。この夫婦の愛情がどこまで深いのかを思い知り、心の底から美しく感じたのです。

「全て私がやったことです。本当に、ごめんなさい。」

狐は夫婦の前に姿を見せて謝罪すると、尊ぶべき夫婦に対する悪辣な行いの詫びとして全てを元通りにしようとしました。

しかし、まじないをかけても解くことをしてこなかった狐に、嫁を元の姿へ戻すことは叶いませんでした。

補遺1: 事後調査中に80歳代とみられる男性が海藤研究員に接触した事案が発生しました。事後調査中の███山は閉鎖されており、その際に侵入した者は確認されていなかったことから、男性に異常性があると推測した海藤研究員によって会話が録音されました。以下はその内容です。

対象: 男性

インタビュアー: 海藤研究員

<記録開始>

海藤研究員: [物音]今こちらで作業中でして。何か御用でしょうか?

男性: すまんね、忙しいところに。お前、この集まりの長だろう?少し話がしたいと思ってな。あの妖について。

海藤研究員: 妖?

男性: 知らないふりなんてしなくてもいい。俺はお前達が妖を捕まえたところをこの目で見た。あれだけ落石があったのに、よくもまぁ辿り着けたものだ。

海藤研究員: すみません、何を言っているのか分かりかねます。

男性: なるほど、中々に口が硬い。

海藤研究員: それに今、この山は封鎖されています。どうやってあなたはここへ来たのですか?失礼ですが、あなたは一体何者ですか?

男性: ははは、そんなことはどうだっていいじゃないか。それより、俺に昔話をさせてくれよ。妖の起源を知りたくはないか?

海藤研究員: [沈黙]

男性: 顔に聞きたいと書いてあるぞ。恐らく、お前達の目的は妖を討つのではなく、捕まえて調べ上げること……そんなお前達が知りたがってること、俺は知っている。どうだ?聞いていかないか?

海藤研究員: ……妖がなんだかは分かりませんが、個人的な趣味として伝承には興味があります。聞かせていただいてもよろしいですか?

男性: そうこなくちゃな。[咳払い]……

[男性が伝承について語る]

男性: ……とまぁ、そんなところだ。

海藤研究員: つまり、"狐"にあたる存在は今も存在していると?

男性: そういうことだな。

海藤研究員: ……その狐が今どこにいるか、それが分かるような伝承はないのですか?

男性: 白々しいやつめ……じゃ、そろそろお暇させてもらう。歳だからか、こうしているのも辛いもんでね。

海藤研究員: 待ってください、話はまだ  

男性: 最後に、お人好しそうなお前に頼みたいことがある。彼女は決して人間に危害を加えたりない。約束を破ったりしない。だから、彼女をこの山に帰してやって欲しい。頼む。

<記録終了>

<追記>

記録終了直後に男性は瞬間的に消失しました。消失した地点にホンドキツネ(Vulpes vulpes japonica)の痕跡が残されていたことが特筆すべき点として挙げられています。

「私を殺してください。」

取り返しがつかぬと悟った狐は、せめてもの償いとしてその命を差し出そうとします。

しかし、夫が狐に銃を向けることはありませんでした。

「心の底から、お前を殺してしまいたいよ。しかし、多くの者に悪さをし、その命までも奪ったのだろう?」

狐は頷きました。

「その者達は、二度と元には戻らぬ。その罪、命を断つだけで償えると思うな。お前はその生涯を人々を助けること、そして嫁にかけたまじないを解くことに捧げるべきだ。」

「……分かりました。私はもう二度と悪さはせず、人々のために生き、あなたの嫁を必ず元に戻すと誓います。」

補遺2: 男性が消失した際に残されたホンドキツネの痕跡を追跡した結果、SCP-4122-JPを捕獲した地点の周辺で何者かによって直方体状に加工された岩石が発見されました。海藤研究員の提言によってこれをSCP-4122-JPの収容セル内へ安置したところ、SCP-4122-JPの積極的な破壊行動や職員への威嚇行為は確認されなくなりました。現在、SCP-4122-JPは岩石の前に自身の餌を置き、両手を合わせて礼をするような行為を頻繁に繰り返す傾向にあります。

SCP-4122-JPは直方体状に加工された岩石の付近から積極的な移動をしないとの仮説が立てられました。これを受け、海藤研究員は特別収容プロトコルの改訂を以下のように提言しました。

海藤研究員による提言

収容当初、SCP-4122-JPは我々に対して非常に敵対的な反応を示し、セル破壊による収容違反リスクが高いオブジェクトでした。

何者かが加工したと考えられる岩石を収容セル内に安置したことで、敵対的行動を見せることは少なくなりつつあるものの、SCP-4122-JPには現状でも精神的ストレスを示すような行動が散見されます。この状態が継続すれば、収容セルの破壊や自己終了のリスクが再び高まることが懸念されます。

そのため、私は上述したリスクをSCP-4122-JPの精神的負担軽減によって低減するため、SCP-4122-JPを███山にて収容することを提言します。加工された岩石の周辺から積極的に移動しないことを鑑みれば、現実的な選択肢であると考えます。

これを受け、現在は封鎖した███山へSCP-4122-JPを移送し、その行動を監視する実験が継続中です。現状、SCP-4122-JPは███山から脱走を試みることはなく、一連の行動も精神状態の安定を示唆するものであると推測されています。

こうして、狐は決して許されぬ程の悪行を重ねたと自覚しつつも、せめてもの償いとして自身の生涯全てを人助けと夫婦を守ることに費やすと決めました。

狐は自分の目一杯の力を使い、困っている人々を陰ながら助けて回りました。また、夫婦が山で不自由なく生活できるよう手伝うことも欠かしませんでした。

それから時が経ち、夫が天寿を全うしたその後でも、狐は誓いを破ることはありませんでした。悪さをすることなく、今尚まじないを解く方法を探しながら皆を守り続けてるそうです。

そうして、いつしか山は"守り神の住む山"と呼ばれ、多くの人々に愛されるようになりました。しかし、狐はそれに甘んじることなく、終わりのない償いを続けていくのでした。

補遺3: SCP-4122-JPを███山へ移送後、SCP-4122-JP周辺に不定期で牛または豚が出現する現象が確認されています。現在、SCP-4122-JPはこれらを捕食して生命活動を維持してるため、給餌を一時的に中断して経過を観察中です。

この現象が生じる原因は未だ明らかになっていません。



おしまい


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SCP-4122-JPを移送した███山

 

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