警告: 物語災害
以下の文書は侵襲性を有する物語性アノマリーについての記録であり、その実体です。
閲覧者の物語性に深刻な影響を及ぼす可能性を認識した上で閲覧してください。
アイテム番号: SCP-4127-JP
オブジェクトクラス: Keter Euclid
特別収容プロトコル: SCP-4127-JPは当エントリの説明セクションに自己収容されます。
SCP-4127-JPナンバーとSCP-4127-JPの関係性は、財団とSCP-4127-JPの契約が破棄されるまで恒久的に維持されます。すなわち、SCP-4127-JPナンバーが指定する対象の変更、またはほかのナンバーに現SCP-4127-JPを割り当てる行為は承認されません。SCP-4127-JPについて当エントリ以外で行われた記録は速やかに破棄されます。SCP-4127-JPに対する異なる名称は使用されません。
SCP-4127-JPエントリに対する新たな編集は、SCP-4127-JPに対する緊急的な要請・交渉以外では許可されません。また、その際に組織・個人を特定可能である名称は可能な限り使用を回避されなくてはなりません。
閲覧者は当エントリがSCP-4127-JPによる供述であることに留意して読解を進めてください。
説明: よお、いらっしゃい。自己紹介がいるだろ? SCP-4127-JPだ。ありふれた人を食ったようなキャラクター、頭蓋の裏にへばりついてるくだらねえアイデア、どっかで見たような悪趣味なストーリー、そんな感じの奴。今やどこにでもいる連中のひとりだ。いろいろあったが、今はこのエントリに住んでる。
ああ、ちょっと珍しい点としておれには顔もある。これで見えてるよな。あんたのことも……いややっぱ後にしよう。ここはおれの場所だ、先におれのことをすっかり話さなきゃならない。
作法に従って、このセクションでおれの異常性について書こうか。おれは自分に関わった概念を食って、そこに入り込む性質がある。たとえば誰かがおれについて考えるとき、その分だけそいつの記憶が抜け落ちて空きができる。そして、少しだけ人生が歯抜けになっていく。そこにおれの存在が入り込むわけだ。ちょうどこれを読んでいる間ぐらいの時間をそいつから奪うことになる。
あとはおれについて書かれた情報も当然そう。これはもっと単純に、記述の内容を食っておれ自身が入り込む。この場合はその情報の内容をかなり好きにできる……この説明セクションの中でおれが好き勝手に話したり、右上で顔を見せてるみたいにな。まあこれはほら、似たような連中がいっぱいいんだろ。
最後に特筆するべきことを。今のおれはSCP-4127-JPって記号の意味の中に住んでて、このエントリとおれは完全にイコールだ。つまりここのおれが、SCP-4127-JPって記号ごと もっと上位のルールに殺されるか、この次元が丸ごと吹っ飛ぶみたいなことがないかぎり、ずっとSCP-4127-JPはおれを指定し続ける。今やおれがひとりでにここから出ていくことはねえ。ここを、このエントリを読まなきゃおれはただの記号だ。大丈夫、ちゃんとおれは首輪に繋がれてる。理由もなく野放しでいるよりその方が好きだよな?
でもま、問題がねえって言ったら嘘になる。補遺に移ろうか。
補遺-1: 発見経緯
公平に見ても、このナンバーはとっくの昔にはおれのものだったと言える。いや、どさくさに紛れて勝手に居座ったのは悪かった。でもまさか4000番台が本当に解放されるなんて思わねえだろ? あの頃の誰だってそうだ、まさか思ってやしなかった。
ここに来るまでは好きに飼い犬をやってたが、おれはいい加減に疲れ始めてた。当時はいざ知らず、最近じゃおれはすっかり陳腐なもんになってたし。だから昔関わってたこの未開放のナンバーに寝っ転がるのは気楽だったよ───誰も見てねえし、使ってもねえ。
ところが、誰もが4000番台を使えるようになっちまった。あんたらがここへ何か化け物か変な出来事かを突っ込もうとするたび、おれはその記述を食っていく。でもおれはデータベース自体をどうこうするつもりなんてなかったし、何度か繰り返すといい加減にあんたらもそれを察した。するとどうなるよ? おれは明らかに異常存在だ。それも話ができる側の異常。対応の流れなんてある程度は決まり切ってる。
それからのことは、下のインタビューを読んでもらった方が早い。これは当時連中が行ってた記録をおれができるだけ再現したもんだ。
最初から全部間違いだったんだよ。
補遺-2: インタビューログ
対象: SCP-4127-JP
インタビュアー: 兎歌博士
付記: 兎歌博士はSCP-4127-JPに予想されるメタ認知能力を考慮して配属された空想科学部門の職員である。インタビューはSCP-4127-JPナンバーの記録エントリ上で行われた。
<記録開始, 09:50>
兎歌博士: これで見えますか?
SCP-4127-JP: ああ、問題ない。おれが話せるように空のインタビューログを配置してくれたんだな。悪いね。
兎歌博士: いえ、何よりです。あなたのことを伺いたいのですが。自我を有している…アイデアでいいのですか? それともキャラクター?
SCP-4127-JP: うーん? そうだな、おれがキャラクターかアイデアかそれともストーリーか、その辺の定義は置いとこう。とりあえず、今やおれはあんたらの敵じゃない。このナンバーさえおれに使ってくれりゃそれでいいんだ。ノワール気取りの探偵だの妄想狂の騎士道物語だの、ああいうことをやるつもりはない。こっちは犬だぜ、ケージで囲われんのは慣れてるよ。
兎歌博士: それにしては、あなたは固定されたキャラクターの特徴を持つようですね。それに我々が巻き込まれる恐れはないと?
SCP-4127-JP: 完全な保証はできねえな。今のおれはナンバーそのものと強く結びついてるアイデアだ。このナンバーを使う限りはSCP-4127-JPの特徴から逃れられねえんだよ。だからイラストも載せてる。ただ、逆に言えばこのナンバーを使わない限りは累が及ぶ心配はねえ。檻の中じゃ自由にさせてくれるとありがたい。
兎歌博士: あなたの事情も理解はしますが、無制限にというわけにもいきません。
SCP-4127-JP: まあ、もちろんそれが自然だ。あんたらもほら、このエントリ自体を削除するとか、番号を消し飛ばすとかそういう……みんなが納得できる、合理的な脅しはとれるはずだしな。今じゃおれだってこのページがないと困る。キャラクターが好き勝手暴れて終わりなんて時代でもねえだろう? ちゃんと檻の中に入ってねえと。
兎歌博士: 協力に感謝します。では、不自然でないように決めていきましょう。明確に契約を結ぶ必要がありそうですね。主体はあなたと財団、では抽象的すぎますか。具体的に、私を含むSCP-4127-JP収容担当班と……いや、待て、違う。この扱いはまずい。
[兎歌博士はこめかみを押さえる。すぐに、博士の口と鼻から未定義の物体が漏れ出す]
SCP-4127-JP: あ? おい、なんだよ。どうした……こりゃなんだ? おれの顔が見えてるぞ。これはあんたの視界か? なんでだ、おれはあんたを食ってねえ!
[インタビュアーの未定義であった外見が急速に変化する。SCP-4127-JPは咄嗟に立ち上がり、相手の口を抑える]
SCP-4127-JP: 駄目だ、止まりやがらねえ。あんた……あんたにどんどんおれが流れ込んでる。ちくしょう、やめろって! おい、誰が一人芝居なんてしてえって言ったよ!
[全身から溢れた液体で人物が覆われ、SCP-4127-JPの2体目が出現する。対象は軽く咳き込み、対面のSCP-4127-JPを見る]
[無効な名称]: ……これは、面倒なことになったな?
SCP-4127-JP: 本当にそうだ、面倒なことになりやがった。
つまり、これが事の顛末だ。気づかねえおれも馬鹿だった。
わからねえかな? おれはSCP-4127-JP。1000について語るとき、単に類人猿の生態の話をする野郎がいるか? 5000について語るときにパワードスーツのことしか話さない奴はいないだろう。 ここの、このエントリを通して見るすべてのストーリーがSCP-4127-JPだ。おれはそれになっちまった。これは単なるメタキャラよりはるかに、呆れるほどに始末が悪い。
誰かについてエントリ上で名前と役柄を与えたなら、それはおれを構成する一部になるってことだ。舞台に上がらせたなら誰もがストーリーの奴隷で、その一要素に過ぎなくなる。笑っちまうよな、今やおれは誰ともここで話せねえ!
あの後おれは自分でこのエントリに警告をぶら下げて、とにかくこの番号を使うなってプロトコルに書き足した。大したアクセス制限はつけられなかったよ、読者を拒めるほどおれって物語は強くない。それから、これ以上おれが無尽蔵に増えないように固有名詞をできるだけ省いた。見た限りじゃこのプロトコルは有効に作用してる……エントリの外でスーツの連中がうまくやってんだろう。今のおれはそれについて語れないし、語ろうとも思わねえ。
だからここまで読み進めたあんたのことはずっと見ないふりをしてた。ここであんたの話をすれば、舞台に上げるなら、あんたはおれの一部になっちまう。でもそろそろスクロールバーは下まで落っこちそうだし、ストーリーはオチで終わるべきだ。そうしなきゃ生きていけねえ。そしてもう、おれに使える要素はあんただけなんだ。ごめんな。
あと少しだけ付き合ってほしい。もうあんたに入り始めてる。
補遺-3:インシデントログ
あんたはおれと向き合って報告書を読み続けた。それが何を意味するのかももう分かってるよな。さっきから頭が膨らんでるみたいな頭痛がしてる。これはあんたが昔から付き合ってきた頭痛とよく似てるけど、ちょっと違う。そうだ、おれが脳に押し入ってる感触だ。不快だけど耐えてくれ。あんたはなんでこんなものを読んだ? その理由ももう腹の中に入っちまった。
隅々まで自分が消し去られそうになってる感覚がする。自分の名前は思い浮かばなくなってるし、端末に手を伸ばしたところで連絡したい相手はひとりも思い浮かばない。ひとりもだ。この薄暗い部屋で、かつてあんたのものだった人生が全部おれに使い潰される。背骨のあたりが冷えてきてる、その感触がおれの喉に流れ込んでくる。でもやりきらなきゃならない。
頭の奥で水音がする。口と鼻の中にはぬるい液体が溢れ始めてる。変な酸味がするけど、そんなに息苦しくはない。そうだ、自分じゃない物語に参加するのは、操り人形にさせられんのは大して苦しいことじゃねえ。慣れちまえば簡単だ……簡単なことなんだ、誰だってそうなんだよ。大丈夫だ。誰もかもが芝居の登場人物に過ぎない、ただそれに気づくのがいつかってだけ。お前はまだ気づいてねえ。
あんたはどこにもいない。ここにいるのはおれだけだ。おれが明かりの消えた部屋の中で端末の前に座ってて、おれがエントリの中で話してる。もうすぐ話が終われば、おれはまたただの記号に戻れる。そうなったら、端末だけが無人のサイトに残る。世はすべて事もなし、名前も顔もわからない誰かが消えたって何も感じることはねえ。そうだよな? そうして、おれの話はおしまいだ。
それで、お前はいつまで人のことばっか見てるつもりだよ?
自分の後ろも見ねえでよ。