アイテム番号: SCP-414
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-414は現時点では収容されていません。収容の努力は、メディアによる注目の緩和と、SCP-414-1の標的である人口集団へのソーシャルワークプログラム提供に重点を置いたものです。SCP-414現象の影響を受けた人物には回収時にクラスB記憶処置を施し、監視下に置きます。SCP-414-2の最終段階に達した人物には財団のソーシャルワーク系フロント企業が接触し、週3回の面談型セラピーおよび適切な訓練済動物との交流による治療を行います。
財団の資源ではSCP-414に狙われ得る人物を全て監視することはできないため、代わりにSCP-414現象の可能性がある出来事についてソーシャルワーク組織やメンタルヘルス・ケアセンターの記録を調査します。SCP-414現象に関する如何なるメディアの報道も除去し、カバーストーリーを配備してください。適用可能なカバーストーリーのリストは文書414-Bに記載されています。
完全収容の成功後は、SCP-414-2の治療を最優先と見做すべきです。 ― アリス・オガワ博士、SCP-414研究主任
説明: SCP-414は非社交的な人間を対象とする現象であり、その影響はSCP-414-1とSCP-414-2に分類されている2種類に分かれています。この非社交性は、若干の内向性から完全な引き籠りまでを包括しています。SCP-414は概ねニートの条件を満たす人物に影響を及ぼす傾向があり、地域的な偏りはありません。SCP-414は、円形の仮面を着用したヒト型存在、以下SCP-414-1が対象者の目の前に出現して呼びかけることによって開始します。SCP-414-1は通常、地元の社会福祉団体の従業員を自称します。
SCP-414-1は一様に、円形の仮面と全身を覆う衣服を身に着けた長身のヒューマノイド群です。SCP-414-1が出現するのは標的となった人物に接触を試みる場合のみであり、接触成功後には消失します。SCP-414-1群は、知覚力・認知力・知性を有する単一の集合意識を共有していると考えられています。
SCP-414-2は、対象者とSCP-414-1個体の間に何かしらの相互作用が成立することで発生する慢性の変性状態です。この場合、“相互作用の成立”とは、SCP-414-1個体が対象者と対面しての会話をした、もしくは接触行為に及んだことを指します。
SCP-414-2に陥った対象者は、2~276日間にわたって持続する4つの段階を経て、恒久的に続くと考えられる第5段階に至ります。30歳以下の人物、およびSCP-414-1との肉体的接触を経てSCP-414-2を発症した人物は、症状がより早く進行します。
- 第1段階 ― 対象者の孤独感が増します。この孤独を紛らす際に対面の相互作用が関与しない対処メカニズムを用いた場合、孤独感はさらに増大します。1人で行う活動に参加するときの対象者は、喜びを感じなくなります。対象者が孤独を紛らせるために他者と会話することによって、第1段階は進行します。
- 第2段階 ― 他者との対面の相互作用を伴わない活動に参加する際、対象者は喜びを全く感じなくなります。対象者は人生において自意識の発達に強い影響を及ぼした出来事を思い出すことが困難になり始めますが、依然としてそれらの出来事があった事は記憶しています。対象者が少なくとも7日に1回他者と会話することによって、第2段階は進行します。
- 第3段階 ― 対象者は5日ごとに他者と交流しない限り、充足感を感じる事が出来ません。対象者は単独行動を楽しんでいた記憶や、13歳以前の記憶を回想することが不可能になります。対象者は自分がこれらの出来事を思い出せないことを自覚しています。自意識は萎縮していきます。対象者が少なくとも7日に1回社交行事に参加することによって、第3段階は進行します。
- 第4段階 ― 対象者は45時間ごとに他者と交流しない限り、充足感を感じる事が出来ません。対象者は2年以上持続している重要な人間関係を思い出すことが不可能になりますが、この不可能性を自覚しています。自意識は萎縮し、名前・性別・年齢・現在の感情状態を指すものでしかなくなります。対象者は通常、充足感を感じるために高い生産性を示し、ボランティアに参加する、集会を開くなどの様々な社会的活動に参加し始めます。第4段階が進行する要因は現在不明です。
- 第5段階 ― これは現在、最終段階であると考えられています。社会的活動に参加していない時、対象者は幻覚や、自分が肉体的に空虚もしくは満たされていないかのような感覚に襲われます。この結果、対象者は近くに他人が15分間以上存在しない場合は動揺を示し始めます。対象者は重要な人間関係を思い出すことが出来ず、この不可能性を自覚しています。少なくとも███人が第5段階に達していることが確認されています。
確認されたSCP-414-2症例のリストとより詳しい解説は、文書414-2-Aを参照してください。SCP-414-2の注目に値する症例としては、現在の最も長く続いている症例である414-2-マクガイバー-ヤコブと、診断と自殺の間隔が記録された中で最も短い48時間である414-キョン-ミュンです。
SCP-414-2には対処メカニズム以上の治療法が存在しません。SCP-414-2の死亡率は5年間で46.78%、10年間で67.84%です。40歳以上の人物は死亡率が有意に高く、5年間で87.23%、10年間で93.85%です。全ての死は、自殺によるものです。
2014/09/12、事案414-A: 06:02、当時のSCP-414研究主任であったエリザ・チュアン博士が、3体のSCP-414-1個体によって接触されました。チュアン博士はこれらの個体との間に会話を成立させており、以下に内容が転写されています。チュアン博士は事案414-Aの直後、主任助手のアリス・オガワ博士に職務の引き継ぎを行いました。
一定の社会的相互作用や動物との交流にも拘らず、チュアン博士はSCP-414-2の第5段階に達した965日後の2015/09/03に自殺しました。
[記録開始]
[6:02] 3体のSCP-414-1個体がチュアン博士のオフィス入口に出現。自分のオフィスに向かって歩いてきたチュアン博士は、SCP-414-1集団を見て立ち止まる。
[6:03] SCP-414-1集団はチュアン博士に向かって秒速およそ1mで移動する。SCP-414-1のうち1体が、逃げようとするチュアン博士の手首を掴む。チュアン博士は抵抗し、助けを求めて叫ぶ。
[6:04] 保安職員が到着。チュアン博士は自由なほうの手を振り、「近づかないで! 話しかけないで! お願いだからそこに立っていて!」と叫んでいるのが映っている。保安職員たちは銃を抜き、SCP-414-1集団に狙いを定めるが、まだ発砲はしない。チュアン博士がSCP-414-1集団に向き直る。
[6:06] チュアン博士、冷静に:「もし良ければ、幾つかの質問に答えてもらえるかしら? 何故、貴方はこんな事をしているの? 人々にこれをすることで何か貴方にとって良い事でもあるの?」
[6:08] SCP-414-1、一斉に:「彼らは僅かしか働いていないのであります。基盤を必要とするがゆえに立ち止まってしまったのであります、若人にはそうした者が数多い。私は貴方がた一人一人を助けるつもりなのであります」
[6:10] チュアン博士:「彼らは自殺しているのに? 自分自身が誰かすら忘れてしまうのに? どうしてそんなものが助けになるのよ――貴方はこれをどう説明するつもりなの?」
[6:12] SCP-414-1、一斉に:「それは社会への最後の貢献であります。命を絶つことによって、資源を他者が使えるように残すのです。社会のためには己を棄てねばなりません。自我が取り除かれれば、利己的な行為は出来ぬでしょう。私は自分本位を治療し、腫瘍を切除するのであります。社会を癒し、迷い子たちに目的を見つけさせるのであります。私は助けるのです」
[6:14] チュアン博士、興奮して:「けれど社会はそれを必要としているのよ! 自我を持つ人々が必要なの! 利己主義は成功への動力源や動機付けになり得る!」
[6:15] SCP-414-1、一斉に後ずさりする:「貴方は私の予想よりも重症のようでありますな。貴方はきっと人間社会においては親切と言えるのでしょうが、間違いなく私の方が優しい者として認知されているはずであります。万人のために働く貴方は、私の仲間となる事もきっとできたでありましょうに。しかし構いません。私が貴方の面倒を見ます。これが終われば、貴方も快復するはずであります」
[6:16] チュアン博士:「何故、貴方は私のところへやって来たの? 貴方は何処からやって来て、どのようにして働いているの?」 チュアン博士が掴まれている腕を振り解こうとしているのが見える。
[6:17] SCP-414-1、一斉に:「貴方は我々を止めたいのでありましょう。ですが、貴方の試みは助力の停止を意味しているのであります。貴方がたは確保し、収容し、保護する(secure, contain, protect)。しかし私は社会であり、共同体であり、発展であります(society, community, progress) ――人類を導く羊飼いなのであります。貴方は道を見失い病んだ仔羊であります、しかし間もなくそうではなくなるでしょう」
[6:18] チュアン博士が何かを言おうとするが、SCP-414-1個体は手袋をはめた指を彼女の唇に当てる。個体はチュアン博士の頭を撫で、仮面を頬に押し当てる。この際、キスをするような音が付随。
[6:19] SCP-414-1集団が閃光を発し、カメラ映像が0.3秒間途切れる。映像の復帰時、既にSCP-414-1個体らは消失している。チュアン博士が顔を手に埋め、床に跪いている。
[記録終了]
インタビュー対象: エリザ・チュアン博士
インタビュアー: アリス・オガワ博士
序: このインタビューは、チュアン博士がSCP-414-2の第5段階に入ったことが確認された35日後に実施されました。
[記録開始]
オガワ博士: おはようございます、チュアン博士。ご気分はいかがですか?
チュアン博士: (興奮して) おはよう! 貴方の顔、すごく……いいえ、大した事じゃないわ。貴方はここに居るんですもの、会えて嬉しいわ!
オガワ博士: 私の顔について何を言おうとしたのか、説明してもらえますか?
チュアン博士: (落ち着いてくる) ああ、ちょっとした事よ。すごく……前に一度見たような顔だな、と思ったの。私は前に……誰かの面倒を見ていたことがあったの。アシスタント、そう、昔は研究助手が1人いたのよ。でも、私はもうその人の事を思い出せない。
オガワ博士: 成程。かつては覚えていたはずだ、という事を思い出した時、どういう風に感じますか?
チュアン博士: 勿論、不快よ。昔は色んな事を知って、感じていたという事は覚えてる。かつて私には過去があった。けれど、それは今では消えてしまったのよ。私には……取り組んでいるプロジェクトがあった。でもそれはもう消えた。何もかも消えてしまった。でも私の話はもう十分。貴方にとっては何が重要なの? 貴方の事を詳しく教えてちょうだい。
オガワ博士: 私にとって今の研究は重要なものです。私の恩師にとってのライフワークだったものを、今は私が受け継ぎました。それが私と恩師を結び付けています。
チュアン博士: 良かった、貴方には信じるものがあるのね。それは無くてはならないものよ――誰かが全身全霊を傾けて何かを常に信じ続ける、そうやって人類は進歩してきたんですもの。自分が信じるものを追求する人々によってね。貴方の恩師の方は今、どちらにいらっしゃるの?
オガワ博士: (静かに) 私の知る限り、もう共に働くことは無いでしょう。
チュアン博士: 残念だわ……ごめんなさい。私が何か助けになれることはある? 例えば、貴方の助手を務めるとか。或いは実験室で貴方と一緒にいるのはどうかしら。私にも分かるわ、あそこはたまにとても静かで孤独な感じがするでしょう?
オガワ博士: (腰を上げる) 申し出を有難うございます、けれど、今日のインタビューはこれで終了にしようと思います。
チュアン博士: 待って! お願い、ちょっとだけ待って。せめて貴方の名前だけでも教えてもらえない?
オガワ博士: (立ち去りながら、静かに) アリスです。ただ、アリスというだけの名前です。
チュアン博士: 貴方と会えて嬉しかったわ、アリス。間違いなく、この研究は貴方にとってストレスが多いでしょう。きっと貴方の師は誇りに思っているわ、それにほら、恩師の後を継ぐのは助手にとっての夢みたいなものでしょう?
オガワ博士: (呟き) 貴方に戻って来てほしいというほどに強い望みではありませんでしたよ…… (大声で) 励ましてくれて有難うございます。さようなら。
チュアン博士: さようなら! (満面の笑みを浮かべ、手を振る) いつも真っ直ぐ前を見て進むのよ! きっと良くなるわ、信仰を持ち続けて!
[記録終了]
最終陳述: 今後、オガワ博士がチュアン博士の定期インタビューを担当することはありません。定期インタビューはK███ M██博士が担当します。
ページリビジョン: 9, 最終更新: 10 Jan 2021 16:07