SCP-4170の合成画像、SCP-4170は背景の星に対して黄色の円で囲んである。ヒッグス場の密度は緑で、νσの放射は赤で、可視光はグレースケールで表されている。
アイテム番号: SCP-4170
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: コロラド高精度ニュートリノ望遠鏡 (Colorado High-Accuracy Neutrino Telescope、CHANT) の修理が完了するまで、SCP-4170の軌道位置、ヒッグス場の密度、νσのおよその変動は大型暗黒物質アレイで監視します。CHANTの機能が完全に回復した場合、SCP-4170によるνσでのコミュニケーションの翻訳版は全て、SCPデータベースと暗黒体データベースの両方で記録します。暗黒体データベースではSCP-4170を2014DBIミリアムと表記し、2種類のエントリがある状態を維持します。
修理が完了した後でもCHANTは使用せず、収束されたニュートリノ波による直接攻撃から十分保護できる遮蔽物が設けられるまで温存します。この遮蔽物を製作する技術は現状存在しないため、財団は暗黒物質天文学部門への資金と資源の配給を25%以上増加させ、ニュートリノ兵器に対する防御手段の研究開発を迅速に進めます。
説明: SCP-4170は土星の軌道よりわずかに外側の、周期34.7年、半長軸10.64AUの太陽周回軌道上にある知的暗黒体 (dark-body intelligence、DBI) です。質量崩壊率の計算から、SCP-4170は比較的新しい暗黒体であり、形成されたのは2万~2万5千年前であることが窺えます。物理的な観点から見ると、SCP-4170は中心部のヒッグス場のエネルギー密度が約350 GeV、Hess半径が約12 kmと、既知の非異常なDBIの中では目立った特徴はありません。心理検査では中程度の反社会的行動や感情の不安定さが示されています。
暗黒物質は通常のバリオン物質 (例: 光学望遠鏡、X線望遠鏡、電波望遠鏡) では観測できず、検出もされないのが典型的です。ただし、ヒッグス場の密度を測定したり、ステライルニュートリノ (νσ) の放射を検出したりすれば、暗黒物質の観測や検出が可能です。財団外の研究員には現状これらの暗黒物質に関する天文学技術を利用できないため、DBIの存在は一般社会に知られていません。それと同時に、DBIは太陽や近隣の惑星の強い引力に影響を受けやすいものの、DBIが人間の存在を認識できる既知のメカニズムは存在しません。財団はこれまでに数千ものDBIから豊富な通信データを収集してきましたが、SCP-4170以外のDBIが人類 (Homo sapiens) を含めた太陽系に住む他の知的生命体を認識しているという証拠はありません。
SCP-4170は2014年の財団の大型暗黒物質アレイによる掃天観測で初めて検出され、当時の暗黒物質天文学部門によって2014 DBI62と指定されました。他のDBIと交わされたνσでのコミュニケーションを詳細に観測した結果、SCP-4170が少なくともクラス-III (擬似知性持ち) かクラス-IV (知性持ち) の暗黒体であると確認され、無作為に生成された共通指定 "2014DBI ミリアム" が割り当てられました。分類と改称が遅れたのは、他のクラス-III DBIやクラス-IV DBIとの社会的交流がおざなりかつ簡潔であり、十分なデータの収集が極めて困難であったためです。乏しいデータセットを補完するべく、他のDBIから間接証拠が収集されました。その一例を以下に提示します。
注記: 読みやすくするため、SCP-4170の発言は赤でハイライトしてあります。
2016DBI セオドア: [くだけた挨拶]。[質問: 貴方の感情状態の自己評価]?
2011DBI アシュリー: [くだけた挨拶]。[返答: ポジティブな感情状態]。[質問: 貴方の感情状態の自己評価]?
2016DBI セオドア: [返答: ニュートラルな感情状態]。
2011DBI アシュリー: [質問: 詳述の要求]?
2016DBI セオドア: [返答: 要求の拒否]。
2011DBI アシュリー: [強い質問: 詳述の要求]?
2016DBI セオドア: [返答: 直近の出来事と現在の感情状態に因果関係は無い]。
2011DBI アシュリー: [疑念の表現]。
2016DBI セオドア: [直近の出来事と現在の感情状態に因果関係は無い]。訳者注: 2016DBIセオドアのコミュニケーション中に突然かつ頻繁に起こる減速は、先の反応と相反するネガティブな感情状態を伝えようと意図して試みたものである。これまでの会話で、2016DBI セオドアはこの方法を用いて2011DBIアシュリー (頻繁に会話する相手であり、親友でもある) から心配や共感を故意に引き出していた。
2011DBI アシュリー: [愛称]。[質問: 貴方は最近2014DBI ミリアムと交流している]?
2016DBI セオドア: [返答: 肯定]。
2011DBI アシュリー: [愛称]。[同情の表現]。
2014DBI ミリアム: [くだけた挨拶]。
2011DBI アシュリー: [形式張った挨拶]。
2016DBI セオドア: [形式張った挨拶]。訳者注: 大幅に遅れた返答は、コミュニケーションにかなり嫌気が差していることを意味する。
2014DBI ミリアム: [質問: 貴方の感情状態の自己評価]?
2016DBI セオドア: [返答: 元気]。
2011DBI アシュリー: [返答: 元気]。
2014DBI ミリアム: [言明: 私はネガティブな感情状態である]。
2011DBI アシュリー: [どっちつかずの返事]。
2016DBI セオドア: [どっちつかずの返事]。
現状唯一の例外であるSCP-4170を除けば、DBIは異常でないと見なされています。財団が太陽系内で地球外の知的暗黒体を発見した際、当時の研究員は大いに関心を寄せましたが、財団によって導かれた現在の理論では、暗黒物質から成る知的存在の進化を完全に説明できます。DBIの始原の発達段階、擬似神経学、言語、文化は十分に立証されており、その存在は現代の自然法則の理解と全く矛盾しません。これまでのところ、SCP-4170はSCPデータベースにエントリが与えられた唯一のDBIです。
SCP-4170の異常性の潜在的証拠は、SCP-4170 (2014DBI ミリアム) と2016DBI セオドアの会話で初めて明らかになりました。
2014DBI ミリアム: [くだけた挨拶]。
2016DBI セオドア: [形式張った挨拶]。
2014DBI ミリアム: [言明: 新しい友達ができた]。
2016DBI セオドア: [どっちつかずの返事]。
2014DBI ミリアム: [言明: 新しい友達は惑星である]。
2016DBI セオドア: [どっちつかずの返事]。
2014DBI ミリアム: [言明: 新しい友達は第三惑星である]。 訳者注: 地球。
2016DBI セオドア: [どっちつかずの返事]。
2014DBI ミリアム: [言明: 貴方は第三惑星と友達になれない]。
2016DBI セオドア: [どっちつかずの返事]。
2014DBI ミリアム: [言明: 第三惑星は私とだけ会話をする]。
2016DBI セオドア: [どっちつかずの返事]。
この記録後、個人もしくは複数人とのコミュニケーションの有無を確認するため、コロラド高精度ニュートリノ望遠鏡に2014DBI ミリアムを24時間監視させるようにしました。以下の抜粋は、SCP-4170と地球上もしくは地球近辺の関係者との間で交わされた一方通行の会話と見られる記録から選出しました。地球からνσの放射は検出されていないため、νσスペクトル以外の未知の手段で通信できるSCP-4170の能力は異常であると見なされています。
2014DBI ミリアム: [くだけた挨拶]。
2014DBI ミリアム: [質問: 貴方は誰]?
2014DBI ミリアム: [返答: 分からない]。[繰り返しの質問: 貴方は誰]?
2014DBI ミリアム: [質問: 確認、貴方は第三惑星]?
2014DBI ミリアム: [仰天/驚愕の表現]。[質問: 確認、第三惑星には貴方たちが大勢いる]?
2014DBI ミリアム: [質問: 第三惑星にいる全員が友達]?
2014DBI ミリアム: [仰天/驚愕の表現]。[言明: 私は貴方の友達]。
2014DBI ミリアム: [ポジティブな感情状態の表現]。
2014DBI ミリアム: [くだけた挨拶]。
2014DBI ミリアム: [質問: 貴方の感情状態の自己評価]?
2014DBI ミリアム: [質問: 貴方がネガティブな感情状態である理由]?
2014DBI ミリアム: [言明: 理解できない]。[質問: <翻訳不能なフレーズ> とは何]?
2014DBI ミリアム: [言明: 私に <翻訳不能なフレーズ> はいない]。[言明: 私を生み出したのは私自身である]。
2014DBI ミリアム: [返答: いいえ、私は孤独ではない]。
2014DBI ミリアム: [返答: 感謝の表現]。
2014DBI ミリアム: [ポジティブな感情状態の表現]。
訳者注: 文脈から判断するに、繰り返される翻訳不能なフレーズは "(両) 親" の意だと推測される。新たな証拠が出てきた場合、以降のログにこの翻訳を反映する。
2014DBI ミリアム: [くだけた挨拶]。
2014DBI ミリアム: [言明: 私は第六惑星の近くにいる]。訳者注: 土星。 [質問: 今貴方の望遠鏡で土星を観測できる]? 訳者注: 前は分からなかったが、今ならこの語句の意は "望遠鏡" だと確信を持って言える。この人物がDBIに "光" の概念を説明できたことに感銘を受けた。
2014DBI ミリアム: [言明: 私も貴方と同じように第六惑星を感じたい]。[質問: 私に第六惑星について説明できる]?
2014DBI ミリアム: [仰天/畏敬の表現]。
2014DBI ミリアム: [言明: 第六惑星の近くにいると、ヒッグス場の密度の変動を感じる。変動のパターンが審美的に好ましい]。
2014DBI ミリアム: [ポジティブな感情状態の表現]。
2014DBI ミリアム: [くだけた挨拶]。
2014DBI ミリアム: [質問: 第三惑星の貴方側の半球の太陽に対する自転軸の傾きが最大に達しようとしている。これは過去数年に、第三惑星の1年の約4分の1にわたって貴方たちの教育プログラムが停止することを意味した。今回もそうであるのか]?
2014DBI ミリアム: [質問: つまり、貴方はまた夜も望遠鏡を持って活動するということであるのか]?
2014DBI ミリアム: [ポジティブな感情状態の表現]。
2014DBI ミリアム: [くだけた挨拶]。
2014DBI ミリアム: [質問: 貴方がネガティブな感情状態である理由]?
2014DBI ミリアム: [同情の表現]。[言明: 貴方の両親がもっと仲良しであればいいのに]。
2014DBI ミリアム: [感謝の表現]。[言明: 私は初めて出会った時に不誠実であった。私は孤独ではないと言ったが、それは嘘であった]。[言明: 貴方と会うまで私に友達はいなかった]。[言明: 貴方の両親は不親切だが、その人たちはこの太陽系で最も親切な人をどうにかして生み出した]。
2014DBI ミリアム: [ポジティブな感情状態の表現]。
2014DBI ミリアム: [くだけた挨拶]。
2014DBI ミリアム: [言明: 第三惑星に異物が見える気がする。とても小さな点。これから接近して調査する]。
最下のコミュニケーションログは、コロラド高精度ニュートリノ望遠鏡が収集した最後の通信記録です。このメッセージを受信してから12秒後、νσを一点に収束したビームがメインの集光板に命中し、検出システムを粉々に破壊してCHANTに回復不能な障害を与えました。CHANTのような機器はこれまで他に建設されておらず、加えて財団は建設に多額の費用をかけたため、DBIのコミュニケーションの収集は無期限に停止しています。5~10年以内に修復が予定されています。
ページリビジョン: 5, 最終更新: 21 Feb 2024 12:29