SCP-4183-JP-D
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Input: 2026/11/15 閲覧データ 再閲覧

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監視カメラ映像

映像記録

2025/12/18


<記録開始>

サイト-512・B5Fの研究区画・廊下にて、ギャレン博士とローレンス研究員が話している。ローレンス研究員の声には怒気がこもっている。

researcher.png

ローレンス研究員

ローレンス研究員:   ですから、ギャレン博士、俺を4183-JPの研究チームに戻してください!

ギャレン博士: 何回も言われても結果は変わらんよ、ローレンス。君を戻すことはできない。それが私の結論だ。

ローレンス研究員: そんな!

ギャレン博士: そんなに彼女に固執する必要性も感じないがね。とにかく  

突然、ギャレン博士が胸を抑えて苦しみはじめる。ギャレン博士がその場に倒れ、ローレンス研究員が駆け寄る。

ローレンス研究員: 博士!? しっかりしてください、博士!

ローレンス研究員が駆け足で映像外へと出ていく。しばらくして、シェリー医師をはじめとする医療スタッフたちがギャレン博士のもとに到着する。ギャレン博士が、担架に乗せられて映像外へと運ばれていく。

<記録終了>

通知: ギャレン博士の逝去

通知

2025/12/18


2025/12/18、サイト-512にてクリストフ・ギャレン博士が大動脈解離で逝去した。ここに、ギャレン博士への哀悼の意を表する。

  サイト-512管理官補佐アルバ・シェリー

SCP-4183-JP

文書記録

(更新)2025/12/18


アイテム番号: SCP-4183-JP
収容クラス: Safe
classified-lv3.svg
レベル3/4183-JP
機密

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アーサー元役員

特別収容プロトコル: SCP-4183-JPはサイト-512・B5Fの収容区画にて、低脅威度アイテム収容ユニットに収容されています。

説明: SCP-4183-JPは1993/10/16生まれのコーカソイド女性、イヴ・アーサーです。SCP-4183-JPはかつてサイト-512所属の管理部門役員であり、現在は常温環境下でも凍結状態を保つ特異性を発現しています。外部から生命活動が確認できないため、SCP-4183-JPは死亡しているものと見なされています。

SCP-4183-JPは、SCP-Dμ34の収容違反時に特異性を発現しました。当該事象には再現性が確認されなかったため、SCP-4183-JPはSCP-Dμ34とは別個のアイテムとして扱われることが決定されました。

付記: 2025/12/18、担当職員であるクリストフ・ギャレン博士が死亡しました。本稿執筆時点において、新たな担当職員の割り当てが進行中です。

ギャレン博士の人事ファイル

文書記録

(更新)2025/12/18


人事ファイル


dr_1.png

ギャレン博士

氏名: クリストフ・ギャレン博士

セキュリティクリアランス: レベル3

職務: アイテムの研究・収容体制の確立

所在地: サイト-512

プロフィール: ギャレン博士はサイト-512に定住しており、アイテムの研究と収容業務を担当します。主な専門は超常工学・物理学ですが、その来歴上さまざまな超常分野の知識も持ち合わせているため、専門外の分野であっても割り当てられる場合があります。彼は収容スペシャリストの認定も受けていますが、アイテムの確保業務は担当していません。

来歴: ギャレン博士はかつて、GoI-014("プロメテウス研究所")の研究者でした。1998年のGoI-014の崩壊に伴い、ギャレン博士は財団の研究員として再就職しました。ギャレン博士はサイト-512に配属され、2025年まで同サイトで継続勤務しつづけていました。

2025/12/18、ギャレン博士は大動脈解離によって死亡しました。

通知: 内部保安部門による調査

通知

2025/12/21


2025/12/21より、内部保安部門はクリストフ・ギャレン博士の不審死の調査を開始します。サイト-512職員各位におかれましては、ご理解ご協力のほどお願いしたく存じます。

  ユースタス・マイルズ内部保安部門エージェント

保安施設ファイル: サイト-512

文書記録

(更新)2025/12/21


SCP財団保安施設ファイル

正式名称: SCP財団 ネブラスカ州オマハ 低収容難度アイテム収容拠点

サイト識別コード: USNbr-Site-512


概要情報


site.png

サイト-512地上階外観

設立年代: 1992年

現サイト管理官: デイモン・ウィナー

場所: アメリカ合衆国ネブラスカ州オマハ

カバーストーリー: 私設倉庫

隠匿: 地上階にプランA(警備員の配置)を適用

サイト機能: AnomalousアイテムおよびSafeクラスアイテムの収容

site-512.svg

サイト-512断面図

説明: サイト-512は1984年に建築された中規模地下収容施設です。標準的な低収容難度アイテム収容サイトであり、一部の小規模アイテムの研究も行っています。サイト-512の公的な名目は財団フロント企業セント・チャールズ・プロダクツの私設倉庫であり、唯一の地上階のみが登録されています。そのため、アイテムや必要物資の移送のほかにも、セント・チャールズ・プロダクツの関連物品の保管もわずかながら行われています。

  • 1F - 偽装倉庫: 内部には荷物用エレベーター1基、乗用エレベーター2基、非常階段が存在しています。監視カメラと警備員による保安体制が敷かれています。
  • B1F - 職員セクション: サイト-512所属の職員が活動するためのセクションです。安全性の観点から地下階最上層に建設されており、この階へのアイテムの持ち出しは禁止されています。
    • 居住区画: サイト-512職員が居住・生活するための区画です。全てのDクラス職員と、大半の職員はこちらに居住しています。
    • オフィス: サイト-512職員の業務用オフィスです。ミーティングルームやインタビュールームなどが存在しています。
    • セキュリティルーム: サイト-512全体の保安を担当する部屋です。非常時には、この部屋より緊急アラームの発令や該当区画の封鎖が可能です。
  • B2F - 物資セクション: 職員の業務や生活のために必要な物資が保管されているセクションです。
  • B3F - Anomalousアイテム収容セクション: サイト-512における全てのAnomalousアイテムが収容されているセクションです。いずれのアイテムも電子保管庫に収容されています。
  • B4F - 低脅威度Safeクラスアイテム収容セクション: サイト-512におけるSafeクラスアイテムのうち、研究によって脅威度が低いと判断されているものが収容されているセクションです。
    • 収容区画: アイテムの収容が実施されている区画です。電子保管庫や収容ユニットなどが存在しています。
    • 研究区画: アイテムの研究を行うための区画です。
  • B5F - 中・高脅威度Safeクラスアイテム収容セクション: サイト-512におけるSafeクラスアイテムのうち、脅威度が比較的高いと判断されているか、脅威度が不明であるものが収容されているセクションです。
    • 収容区画: アイテムの収容が実施されている区画です。電子保管庫や収容ユニットなどが存在しています。
    • 研究区画: アイテムの研究を行うための区画です。

遍歴:

  • 1984年: 当時の管理部門役員マエル・アシュリーによって、サイト-512の建設が提議されました。同年、サイト-512が着工されました。
  • 1992年: サイト-512が竣工され、運用が開始されました。管理官として、マエル・アシュリー元役員が任命されました。
  • 2015年: アルバ・シェリー管理部門役員の提言により、サイト-512の大半を監視するセキュリティ体制が構築されました。
  • 2018年: マエル・アシュリー元管理官が死亡し、新管理官として当時の管理官補佐デイモン・ウィナーが任命されました。
  • 2024年: サイト-512の運用開始から初めてのインシデントとなる、SCP-Dμ34の収容違反が発生しました。被害は軽微だったものの、実質的な死亡者としてSCP-4183-JPが発生しました。
  • 2025年: SCP-4183-JPの担当職員であったクリストフ・ギャレン博士が死亡し、内部保安部門がその調査を開始しました。

インタビュー記録

映像記録

2026/01/03


<記録開始>

サイト-512・B1Fのインタビュールームにて、エージェント・マイルズとローレンス研究員が席についている。

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エージェント・マイルズ

エージェント・マイルズ:   記録を開始しました。では、さっそく尋問をさせていただきましょう。

ローレンス研究員: 尋問ですって? いったいなんの?

エージェント・マイルズ: 簡単な話です。先日の、ギャレン氏殺害インシデントについての尋問ですよ。

沈黙。

ローレンス研究員: 待ってください。殺人ですって? 彼は病死だったはずじゃあ  

エージェント・マイルズ: そうでないから私が来ているんですよ。いいですか、ローレンス氏。あなたは、普段からアデロールを処方されている。そうですね?

ローレンス研究員:  ええ。財団に就職する前から処方されてたのを、そのまま今も飲んでます。それが?

エージェント・マイルズ: その薬を、あなたはギャレン氏のコーヒーカップに忍ばせた。そうですね?

ローレンス研究員:  どういうことですか! 俺は、そんなこと  

エージェント・マイルズ: 醜くあがくのはやめたほうがよいかと。ギャレン氏の体内と彼のコーヒーカップから、アデロールが検出されています。それに、このサイト内でアデロールを服用しているのはあなただけです。

ローレンス研究員: だから、俺は薬を他人に飲ませたりなんかしてないって! それに、だからってそれがどうして殺人なんて話になるんだよ!?

エージェント・マイルズ: 知らないふりもけっこうですが……アデロールは、クラスK記憶処理剤と併用禁忌の関係にあります。その結果、血圧の急上昇によって大動脈解離が引き起こされたわけです。先日、ギャレン氏はアイテムの研究中に認識災害に曝露し、クラスK記憶処理を受けています。そこを狙って、ローレンス氏、あなたは彼のコーヒーカップにアデロールを忍ばせたわけです。

ローレンス研究員: なっ……

エージェント・マイルズ: 反論は以上ですか? では、これよりあなたを勾留させていただきます。

エージェント・マイルズが立ち上がる。

ローレンス研究員:  待ってくれよ! あんた、内部保安の人なんだろ!?

エージェント・マイルズ: ……ええ。私は内部保安部門のエージェントですが。それが?

ローレンス研究員: なら……なら、ミア・ニコラスを呼んでくれ! 同じ内部保安のやつだ! あいつなら、きっと俺の無実を証明してくれる!

沈黙。

エージェント・マイルズ: ……けっこう。無駄なあがきは嫌いではありません。

エージェント・マイルズがローレンス研究員を立ち上がらせ、懐から手錠を取りだし彼の手首にかける。

ローレンス研究員: ……どうなってんだよ、ちくしょう。

<記録終了>

記憶処理取り扱いガイド: クラスK

文書記録

(更新)2026/01/03


クラスK

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ビジュアルコード: 紫色のダイアゴナルストライプ

クリアランス使用許可: レベル3以上の承認、薬剤師による処方歴の確認

投薬方式: 注射

効果性: 4週間以上

利用規約: 特異精神病および/またはミーム侵襲への対抗効果のために用いられる

副作用: 血圧上昇、吐き気、ブレインフォグ(投与後の血圧の再安定化処置を要する)

詳細説明: クラスKは、副作用の多いクラスDの代替手法として考案されました。脳障害の可能性を有するクラスDに対し、クラスKは血圧上昇や吐き気といった程度の副作用しか呈しません。ただし、近年になって開発された手法であるうえ、コスト面の課題を抱えているため完全なクラスDからの置換には至っていません。

また注意点として、投与後に血圧の再安定化処置を要する点、および一部の非特異薬剤との併用禁忌が存在する点が挙げられます。再安定化処置に用いられる薬剤K-817との併用は問題ないものの、アンフェタミン(アデロール)をはじめとした一部薬剤の処方歴の確認が必要とされます。

付記: 2025/12/18、サイト-512においてクラスKによる死亡事例が発生しました。このため、クラスDからクラスKへの置換は一時停止されます。

検視記録

文書記録

(更新)2026/01/03


検視記録


検視対象: クリストフ・ギャレン博士

検視担当者: ダリア・シェリー医師

検視日: 2025/12/21

検視結果: 口腔内、および胃内容物よりアデロールの成分が検出されました。死亡推定時刻は、2025/12/18 13〜15時頃。なお、監視カメラ映像や検案時の情報に基づけば、正確な死亡推定時刻は14:59です。

付記: ギャレン博士およびその近親者に、アデロールの処方歴のある人物は確認されませんでした。

監視カメラ映像

映像記録

2026/01/04


<記録開始>

サイト-512・B1Fの懲罰房にて、ローレンス研究員が勾留されている。エージェント・ニコラスが、懲罰房の前にやってくる。

Agt-Nicholas.png

エージェント・ニコラス

エージェント・ニコラス: やあ、久しぶりだね、ローレンス。大丈夫?

ローレンス研究員: 大丈夫に見えるか、これが?

沈黙。

エージェント・ニコラス: そうだね、ごめん……話は聞いたよ。元上司を殺した容疑がかけられてるんだって?

ローレンス研究員: ……すまん。そうなんだよ、ニコラス。なんでも、凶器は俺しか持ってなかった薬だったらしいんだ。

エージェント・ニコラス: アデロールだったっけ。確かに、あたしが調べた限りでも君以外にあの薬を処方されてる人はいないらしい。ただ、だからといってそれだけで君が犯人ってことにはならないよ。

ローレンス研究員: 本当か!?

エージェント・ニコラス: うん。それこそ、誰かがアデロールを盗んで忍ばせた可能性がある。そこがきっと突破口になるさ。ただ……残念ながら、あたしは調査の担当じゃないから、マイルズのやつが保管してるコーヒーカップとかを調べることはかないそうにないけど。

ローレンス研究員: そうか……

沈黙。

エージェント・ニコラス: いずれにせよ、今からあたしはウィナー管理官に審判をしてくれるように掛け合ってみるつもり。

ローレンス研究員: 審判?

エージェント・ニコラス: そう。要するに簡易版の裁判だね。今度、マイルズと直接対決してみる。そこで、真実ってやつを引っ張り出してみせるよ。

ローレンス研究員: そうか……ありがとう。助かる。

エージェント・ニコラス: やめてよ。一緒に財団に就職したよしみでしょ? これくらいやらせてって。

ローレンス研究員: ああ、ぜひともお願いするよ。俺を、助けてくれ。

エージェント・ニコラス: 任せてよ。

エージェント・ニコラスが、懲罰房の前から離れていく。

<記録終了>

通知: 第1回審判

通知

2026/01/07


内部保安部門エージェント・ミア・ニコラスの要請に伴い、ディエゴ・ローレンス研究員の審判が実施されることが決定された。2026/01/08、サイト-512のミーティングルームにて行われる予定である。

  サイト-512管理官デイモン・ウィナー

第1回審判#01

映像記録

2026/01/08


<記録開始>

サイト-512・B1Fのミーティングルームにて、ウィナー管理官、エージェント・マイルズ、エージェント・ニコラス、およびローレンス研究員が着席している。ローレンス研究員は手錠をかけられている。

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ウィナー管理官

ウィナー管理官: えー、それでは審判を開始しよう。ニコラスくん、マイルズくん、ともに準備はいいかな?

エージェント・ニコラス: はい、管理官。

エージェント・マイルズ: むろんです。

ウィナー管理官: うん。ではまず、そうだなー、本インシデントを改めて振り返るとしようか。マイルズくん、お願いするよ。

エージェント・マイルズ: 承知いたしました。シメオン、資料を全員に配りなさい。

Simeon.aic: 承知しました。

ローレンス研究員を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: よろしい。さて、今回のインシデントについてですが。2025年12月18日、ここサイト-512の地下5階・研究区画にて、クリストフ・ギャレン氏が殺害されました。死因は、クラスK記憶処理の後にその記憶処理剤に対し併用禁忌だったアデロールを摂取したことによる急性高血圧症と、それに伴う大動脈解離です。そして、そのアデロールを被害者のコーヒーカップに混入させたのが  そちらのディエゴ・ローレンス氏になります。

ローレンス研究員: マイルズさん! 俺は  

ウィナー管理官: 君の発言を許した覚えはないよー、ローレンスくん。君の代わりに発言権があるのはニコラスくんだ。

エージェント・ニコラス: ローレンス、抑えて。

沈黙。

ウィナー管理官: よろしい。では次に、そのニコラスくんからの反論を聞こうか。

エージェント・ニコラス: はい。まず、ローレンスさんには動機がありません。わざわざギャレン博士を殺すような動機を、マイルズ、あなたに説明できるんですか!

ウィナー管理官: いきなり動機の話とは、苦しいねー。マイルズくん、どう思う?

エージェント・マイルズ: しらばっくれるのはそこまでにすることです、ニコラス。シメオン、登録証拠#M-01を提示しなさい。

Simeon.aic: 承知しました。

ローレンス研究員を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: これは、被害者が倒れる前後の映像です。このサイトには、ほぼ全域に監視カメラが設置されています  トイレや休憩室など、一部の場所を除いてね。その映像に、しっかりと記録されているではありませんか。被害者  ギャレン氏と、ローレンス氏が口論するさまが!

エージェント・ニコラス: ぐっ……

エージェント・マイルズ: この映像にもあるとおり、かつてローレンス氏はSCP-4183-JPの担当研究員の1人でした。しかし、ギャレン氏と研究方針の違いで揉めた結果、彼に担当を外されています。動機は、それに対する逆恨み、といったところでしょう。いかがですか、ニコラス?

沈黙。

ウィナー管理官: あらー、言い返せないか。じゃあ、動機面は問題なし、と。

ローレンス研究員: なんだよこのじいさん……

エージェント・ニコラス:  でも、マイルズ、この映像には問題がある!

エージェント・マイルズ: はて、問題ですか?

エージェント・ニコラス: 簡単なこと。被害者への殺意があったのなら、わざわざ医療スタッフを呼びに行くはずが  

エージェント・マイルズ: 監視カメラの目があると言ったばかりではありませんか。目の前で被害者が倒れてしまった以上、ローレンス氏は医療スタッフを呼びに行かざるをえなかった。そうでないとあまりにも不自然ですからね。

エージェント・ニコラス: ぐっ。な  なら、管理官、あたしはローレンスさんがアデロールを入れていない可能性をここに主張します!

ウィナー管理官: ほー。根拠を尋ねても?

エージェント・ニコラス: あたしも、マイルズと同様に調査を実施しました。映像を確認した結果、ローレンスさんがコーヒーカップにアデロールを混入させた瞬間はどこにも映っていませんでした。だから、マイルズ、君の主張は今の段階では根拠不足ってこと!

エージェント・マイルズ: ふむ……

ウィナー管理官: おっと、これは痛いところを突かれたんじゃないの、マイルズくん? 何か反論は?

エージェント・マイルズ: ……エージェント・ミア・ニコラス、仮にも内部保安部門エージェントであるこの私が、根拠もなしに容疑者を拘束するとでも?

エージェント・ニコラス: 何?

エージェント・マイルズ: シメオン、登録証拠#M-02を提示しなさい。

Simeon.aic: 承知しました。

ローレンス研究員を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

coffee.png

登録証拠#M-02

エージェント・ニコラス: これは……

エージェント・マイルズ: 地下5階・研究区画の研究室C07から発見された、被害者のコーヒーカップです。ふちの部分から被害者のDNAが検出されているほか、残ったコーヒーの成分からアデロールが検出されているのですよ。氏の同僚たちの証言や監視カメラ映像などから、ローレンス氏に処方されていたアデロールは研究区画には置かれておらず、氏が地下1階の自室から白衣に入れて持ち出していたことが判明しています。さらに……注目すべきは、指紋です。

エージェント・ニコラス: 指紋?

エージェント・マイルズ: ええ。側面から、被害者の指紋のほかにローレンス氏の指紋が検出されているのですよ。

エージェント・ニコラス: なっ……

エージェント・マイルズ: つまり、ローレンス氏は被害者のコーヒーカップにアデロールを混入させたということになります。そうでないなら、このカップに氏の指紋が付くはずがありません!

ローレンス研究員:  待ってください! それは  

ウィナー管理官: ローレンスくん。さっきも言ったとおり、君に発言権は認められてないんだよ。黙って聞いてなさいな。

ローレンス研究員: くっ……

ウィナー管理官: さて、いきなり決定的だね、みんな。特に反論がないようであれば、このまま判決を  

エージェント・ニコラス:  お待ちください! 管理官、この指紋について、ローレンスさんの証言を聞くべきではないでしょうか!

ウィナー管理官: 証言?

エージェント・ニコラス: はい。この証拠は、これまでのローレンスさんへのインタビューの中で提示されなかったものです。それに関して、ローレンスさん自身の証言を聞くべきだと考えます!

ウィナー管理官: ふーん。僕としては、この証拠だけで十分だと思うけどね。マイルズくんはどう思う?

エージェント・マイルズ: ……この前も申し上げましたが、私は無駄なあがきは嫌いではありません。それに、議論はし尽くされるべきであると考えます。ローレンス氏の証言を聞くことに異議はありませんよ。

ウィナー管理官: そう。ならまあ……いいだろう。それじゃあ、ローレンスくん、証言をお願いするよ。

ローレンス研究員: ありがとうございます!

ローレンス研究員が咳払いする。

ローレンス研究員: あの日、確かに俺は博士のコーヒーカップに触れました。でも、それは当然なんです! だって、そもそもあの人にコーヒーカップを運んだのは俺なんですからね!

沈黙。

エージェント・ニコラス:  ローレンス? その言葉の意味がわかってるの?

ローレンス研究員: え? いやだから、コーヒーカップを運んだんだから指紋が付くのは当然  

エージェント・マイルズ: ディエゴ・ローレンス氏、あなたの容疑は、被害者のコーヒーカップにアデロールを混入したことです。コーヒーカップを運んだのなら……余計にあなたが怪しくなるではありませんか!

ローレンス研究員:   あっ!

エージェント・ニコラス: あっ、じゃない!

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官: 墓穴を掘るとはまさにこのこと! 自ら犯行を認めてくれるとは、審判がしやすくて助かるよ、ローレンスくん。

ローレンス研究員:  違う! 確かに運びはしたけど、アデロールを入れてなんかない! じゃあ、マイルズさん、あんたに俺がアデロールを入れたって証明できるのかよ!

エージェント・マイルズ: シメオン、登録証拠#M-05です。

Simeon.aic: 承知しました。

ローレンス研究員: えっ。

ローレンス研究員を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: ローレンス氏、あなたの指紋が検出されているのは、何も被害者のコーヒーカップからだけではない。休憩室のゴミ箱に、あなたの指紋がついたアデロールの小袋がいくつも捨ててあったのですよ。そのいずれからも……ローレンス氏、あなたの指紋だけが検出されています。

ローレンス研究員: ぐっ!

エージェント・ニコラス: いいや! ローレンスさんはもともと、このサイト内でアデロールを処方されている唯一の人物です。彼の指紋が小袋から検出されるのは何もおかしいことではありません!

エージェント・マイルズ: 残念ながら。大事なのは、氏のもの以外の指紋が検出されていないことです。おおかた、いつも休憩室で服用しているアデロールを使えば足がつかないとでも考えたのでしょうが……証拠はそれだけではありません。シメオン、登録証拠#M-03を。

Simeon.aic: 承知しました。

ローレンス研究員を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: 先ほど説明したとおり、このサイトには休憩室等の一部の場所を除いて監視カメラの目が光っています。それは、休憩室前の廊下も同じなのですよ。そして、インシデント当日に休憩室へ出入りした職員は、ギャレン氏とローレンス氏のほかに4名しかいない  休憩室内にアデロールが置いていなかった以上、ローレンス氏のほかにはその4名にしか犯行は可能ではないわけですが……監視カメラ映像に、彼らがアデロールを入手できると思われるタイミングは記録されていませんでした。

エージェント・ニコラス: いや! 休憩室に入ったのなら、ローレンスさんの白衣からその4人の中の誰かがアデロールを盗んだ可能性も  

エージェント・マイルズ: 名誉毀損はやめてもらいませんとね、ニコラス。ローレンス氏が入っていたタイミングと、彼らが入っていたタイミングは被っていません。そして、監視カメラ映像内でも彼らがローレンス氏と対面したりすれ違ったりしたタイミングはなかった。この4名は潔白です。

エージェント・ニコラス: ぐっ……

エージェント・マイルズ: これらの証拠に基づき、ディエゴ・ローレンス氏の罪は明白です。以上。

ウィナー管理官: ありがとう、マイルズくん。それじゃあ、今、ローレンスくんに判決を  

エージェント・ニコラス: お待ちください、管理官!

沈黙。

ウィナー管理官: ……ニコラスくん? 人を待たせたなら、何か発言してくれないと。ね?

エージェント・ニコラス:  とにかく! まだ判決を出すには早計なんです!

ウィナー管理官: AIでももうちょいマシな反論ができるよー。

エージェント・ニコラス: いいですか、管理官! マイルズの主張する概要は、次のとおりです。まず、ローレンスさんはSCP-4183-JPの担当を外されたことでギャレン博士に対し殺意を覚えた。そのタイミングでたまたま、ギャレン博士がクラスK記憶処理を受けた。そこで、ローレンスさんは地下5階の休憩室にて博士のコーヒーカップに自身の持つアデロールを混入させ、その小袋を捨てた。そして、ローレンスさんは博士にそのコーヒーカップを持っていった  そうだね、マイルズ?

エージェント・マイルズ: ええ、そのとおりですが。

エージェント・ニコラス: であるならば! 管理官、まだここに明らかにされていない事実があります!

ウィナー管理官: 事実ねー……僕にはサッパリだよ。いったいどういうことかな?

エージェント・ニコラス: 簡単なことです……インシデントの発端となった、ギャレン博士がクラスK記憶処理を受けたことに対する説明がまだなされていません!

沈黙。

エージェント・マイルズ: ……なるほど。ずいぶん苦しまぎれですねえ。

ウィナー管理官: 正直、聞いてるかぎりだと別にどうでもいいことに思えちゃうけどねー。ニコラスくんの異議は却下  

エージェント・マイルズ: お待ちいただきましょう、ウィナー管理官。私の証明は、まだ完了していません。

ウィナー管理官:   ふーん?

エージェント・マイルズ: どうやら、エージェント・ミア・ニコラス、君たちはさらなる絶望をお望みのようですね……ウィナー管理官、休憩に入ることを提案申し上げます。そこで、こちらは新たな証明をしてご覧に入れましょう。

ウィナー管理官: 証明? いったいどうやって?

エージェント・マイルズ: 証人ですとも、もちろん。ローレンス氏の罪を証明する、決定的な証人を喚問させていただきましょう。

沈黙。

ウィナー管理官: ……まあ、マイルズくんがそこまで言うんならしかたない。じゃあ、今から10分間の休憩に入ろうか。その間に、マイルズくん、君はその決定的な証人とやらを呼んでくるように。

エージェント・マイルズ: 承知いたしました。

エージェント・ニコラス: ……ふう、よし!

ウィナー管理官: 判決が延びたからって喜びを口に出さないでねー。それじゃあ、いったん休憩!

<記録終了>

第1回審判#02

映像記録

2026/01/08


<記録開始>

サイト-512・B1Fのミーティングルームにて、ウィナー管理官、エージェント・マイルズ、エージェント・ニコラス、およびローレンス研究員が着席している。ローレンス研究員は手錠をかけられている。

ウィナー管理官: それじゃあ、審判を再開しようか、みんな。マイルズくん、証人の用意は?

エージェント・マイルズ: むろん、完了しています。当時、ギャレン氏のクラスK記憶処理を担当していた医療スタッフ、ダリア・シェリー氏をここに!

ミーティングルームの扉が開き、シェリー医師が入室する。

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シェリー医師

シェリー医師: よろしくお願いいたしますわ、皆さま。

エージェント・マイルズ: 忙しい中、ご足労いただき感謝申し上げます。さて、証人。さっそくですが、当時の被害者がどういったいきさつでクラスKを受けるに至ったのかご説明いただきましょうか。

シェリー医師: 承知いたしました。シメオン、皆さんに資料をお配りして。

Simeon.aic: 承知しました。

ローレンス研究員を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

シェリー医師: 発端となったのは、当時ギャレン博士が担当していたアイテムの1つ、SCP-M3M3でしたの。昨年の12月17日、彼は地下5階にてその研究をしていたとき、軽度の認識災害に曝露してしまったのです。そのため、彼は私たち医療スタッフに記憶処理を要請しました。そして12時44分、私たちは彼にクラスKを施し、その影響を除去しました。以上となりますわ。

エージェント・マイルズ: 簡潔かつ明瞭な説明、感謝申し上げます、証人。

エージェント・ニコラス: SCP-M3M3……ミームエージェントとなる紋様を背中に持つ、ダンゴムシの変種……なるほど。

エージェント・マイルズ: ……さて、ニコラス。これが、いったいどうしたというのですか? このとおり、このクラスK記憶処理自体は偶然に発生したものです。それを、ローレンス氏が利用し、ギャレン氏を殺害した。それで話は終わりです。ニコラス、君がつけ入る隙などありませんよ。

ウィナー管理官: うーん、マイルズくんの言うとおりだね。はい、じゃあやっぱり審判はおしまい。判決を  

エージェント・ニコラス: お待ちください、管理官!

ウィナー管理官:   これで、君に判決をさえぎられるのは3回目だね。

エージェント・ニコラス: ……シェリーさん! あなたに1つ、お尋ねしたいことがあります。

シェリー医師: ……何かしら?

エージェント・ニコラス: 問題は、ギャレン博士へのクラスK記憶処理です。その情報は、他の職員たちに公開されていましたか?

シェリー医師: どういうことでしょう?

エージェント・ニコラス: まずはこちらの質問にお答えください。

シェリー医師: ……公開されていましたよ。

エージェント・マイルズ: ……何を今さら。こちらの主張の根幹は、クラスKとアデロールの併用禁忌の利用です。ローレンス氏がそれを知らないはずが  

エージェント・ニコラス: では、質問を変えましょう。シェリーさん、ギャレン博士への記憶処理は、その具体的な内容まで周知されていたのですか?

エージェント・マイルズ:   なんですって?

エージェント・ニコラス: いいですか、皆さん? 記憶処理自体は、財団で日常的に行われている一般的な処置です。しかし……シェリー医師、その詳細内容まで同僚たちに周知されることはまれではありませんか?

沈黙。

シェリー医師: ……確かに、どのクラスの記憶処理かまでは、一般的に周知されることはありませんね。

エージェント・マイルズ: なっ……

エージェント・ニコラス: やっぱり。では、ギャレン博士の記憶処理の内容を、ローレンスさんが知る機会はなかったことになります!

エージェント・マイルズ: ぐっ! し  しかし、登録証拠#M-02を思い出していただきたい! 事実、ローレンス氏はギャレン氏のコーヒーカップにアデロールを混入しています!

エージェント・ニコラス:  それは……

エージェント・マイルズ: つまり、方法はどうあれ、ローレンス氏は知っていたのですよ! ギャレン氏の受けた記憶処理の内容が、クラスKであったことを!

エージェント・ニコラス: では、その方法とやらを提示してもらおうじゃない、マイルズ!

エージェント・マイルズ: ぐうっ! 証人、どういうことですか、いったい  

シェリー医師: ……あるいは。

エージェント・ニコラス: えっ?

エージェント・マイルズ:   ん?

シェリー医師: ……あるいは、知る機会があったかもしれませんよ。

エージェント・ニコラス: 何っ!

シェリー医師: シメオン、SCP-M3M3の正式なファイルを開示して。

Simeon.aic: 承知しました。

ローレンス研究員を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

シェリー医師: ……付記の欄をご覧ください。ここに、しっかりと記述されているではありませんの。ギャレン博士にはクラスK記憶処理が施されました……と。

沈黙。

エージェント・ニコラス: ……なんですって!

ウィナー管理官: ……なーんだ、とんだ茶番だったね。つまり、ローレンスくんはそのファイルを閲覧して記憶処理の内容を知ったわけだ。

シェリー医師: これで、ローレンス研究員の罪はすべて立証されましたね。ウィナー管理官、判決を  

ローレンス研究員: ちょっと待った!

シェリー医師:   はい?

ローレンス研究員: おい、あんた、待ってくれよ! それは  

ウィナー管理官: これもまた3回目だねー。ローレンスくん、君に発言権はないとどれだけ言ったらわかるのかな?

ローレンス研究員:   ぐっ! に  ニコラス! 頼む! 俺に証言を!

エージェント・ニコラス:  でも  

ローレンス研究員: 今度は失敗しないからさ、頼む! 発言させてくれ!

ウィナー管理官: そこまでだよ、ローレンスくん。これ以上、僕の言うことが聞けないようなら、即座に判決を言い渡しちゃうからね。

ローレンス研究員: うっ……

エージェント・ニコラス: 管理官、あたしからも要請します! ローレンスさんに、もう一度だけ証言をさせてください!

ウィナー管理官: でもさー、けっきょくさっきの証言は無駄に墓穴掘って終わっただけでしょ? 僕としてはこれ以上、無駄な証言は聞きたくないの。それよりさっさと、彼に判決を言い渡したいわけ。それとも……相応の処罰を覚悟してでも、君は彼に証言させたいと?

沈黙。

エージェント・ニコラス: ……はい。その覚悟は、あります。

ウィナー管理官: ためたねー、ずいぶん! 腰が引けてるよ。まあ……そこまで言うならしかたないね。ローレンスくん。最後に何か言い残すことは?

ローレンス研究員: はい!

ローレンス研究員が立ち上がる。

ローレンス研究員: マイルズさん、俺の端末は調べましたよね?

エージェント・マイルズ: え? ええ、そのとおりですが。シメオン、登録証拠#M-04を提示しなさい。

Simeon.aic: 承知しました。

ローレンス研究員を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: こちらが、ローレンス氏の端末に残された閲覧履歴です。確かにここには、過去にクラスK記憶処理剤のファイルを閲覧した履歴が  ああっ!

ローレンス研究員: やっぱり! じゃあ、SCP-M3M3のファイルの閲覧履歴はどうなんですか!

エージェント・マイルズ: ……その履歴は……残っていません!

シェリー医師: なっ……

エージェント・ニコラス: でかした、ローレンス! つまり、問題はふりだしに戻るわけです。ローレンスさんは、ギャレン博士に施された記憶処理の内容がクラスKであると知らなかった! ということは……ローレンスさんに、アデロールで被害者を殺害することはできなかったのです!

エージェント・マイルズ: うおっ!

シェリー医師: くっ……

エージェント・マイルズ:  待ちなさい、ニコラス! なら、いったい誰だというのですか! 先ほども述べたように、例の4名のいずれもアデロールを入手しコーヒーに混入させるタイミングはなかったのですよ!

エージェント・ニコラス: ……1人、いるじゃないですか。ギャレン博士にクラスK記憶処理が施されたと知っており、まだアデロールの入手や混入が不可能でないと立証されていない人物が!

エージェント・マイルズ: 何ですって!

ウィナー管理官: へー……面白いね。いったい誰だって言うのかな?

エージェント・ニコラス: 管理官! あたしは、シェリー医師にさらなる証言を求めます! インシデント当日のアリバイと、アデロールの入手が可能であったかどうかについて!

エージェント・マイルズ: バカな!

ウィナー管理官: ……いいだろう。シェリーくん、証言をお願いするよ。ニコラスくんの質問に対し、正確に回答すること。いいね?

シェリー医師:  ええ。

シェリー医師が深呼吸する。

シェリー医師: ……インシデント当日、私はいつもどおり地下1階の寮を出て、同じく地下1階のオフィスで仕事をしていました。その様子は、監視カメラによって記録されているはずです。私はあの日、地下1階から一度も出ていません。アデロールの入手はもちろん、混入などできるはずもありませんよ。

エージェント・ニコラス: ……なるほど。

ウィナー管理官: ローレンスくんとは違って、ちゃんとした証言が出てきてよかったよ。ニコラスくん、これで問題はないね?

エージェント・ニコラス: 残念ながら、大ありなんですよ、管理官。

ウィナー管理官: えっ?

エージェント・ニコラス: もう一度、登録証拠#M-01をご覧ください。

ウィナー管理官: えー……被害者が倒れたときの映像だったね。それが?

エージェント・ニコラス: それで、彼女の証言が大噓だとわかるんですよ。なぜなら……シェリーさん、あなたの姿がこうして映っているのだから!

シェリー医師: くっ!

エージェント・マイルズ: ぐっ……

ウィナー管理官: ……あらー、ほんとだ。確かに、医療スタッフの中にシェリーくんの姿も見えるね。

エージェント・ニコラス: さて、これであなたの嘘が1つ暴かれましたよ、シェリーさん。いったいなぜ、そんな噓をついたんですか?

シェリー医師:  それは……

エージェント・マイルズ:  しかし、ニコラス! この映像にもある通り、証人はローレンス氏に呼ばれてから現場に駆けつけています! アデロールの混入どころか、入手すらできないではありませんか!

エージェント・ニコラス: 地下5階に最初からいた可能性は!

エージェント・マイルズ: 皆無ですよ! エレベーター前にも、むろん監視カメラの目が光っています! 登録証拠の中にはありませんが、確かに私は証人とスタッフたちがローレンス氏に連れられてエレベーターを降りていく映像を確認しています! シメオン!

Simeon.aic: なんでしょうか?

エージェント・マイルズ: 追加の証拠です! インシデント発生時の、地下1階と地下5階のエレベーター前の監視カメラ映像を提示しなさい!

Simeon.aic: 承知しました。

ローレンス研究員を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・ニコラス: ……ぐっ! た  確かに……

エージェント・マイルズ: これでハッキリしたでしょう、ニコラス。そこの証人に、インシデント前にアデロールを持ち出しコーヒーに混入することは不可能だった。つまり、証人は犯人ではありえないのですよ!

エージェント・ニコラス:  しかし、この証人は嘘をつきました! 地下1階にずっととどまっていたという、目に見えた嘘を! そこには、何か理由があるはずです!

ウィナー管理官: うーん、確かにねー。そこんところどうなの、シェリーくん?

シェリー医師:  それは……疑われるのを恐れたためですわ! 地下5階に行ったと言えば、その理由をエージェント・ニコラスにでっちあげられると思い……

エージェント・ニコラス:  でっちあげ……

シェリー医師: とにかく、私は無実です。アデロールを混入できない以上、私のアリバイは完璧なはずですわ!

エージェント・ニコラス: くっ……

エージェント・マイルズ: これでわかったでしょう、ニコラス。この証人に、被害者を殺害することは不可能なのです。他に、被害者を殺害する手段でもない限りね。

エージェント・ニコラス: ……他の手段?

エージェント・ニコラスが、手元の端末を操作する。

ウィナー管理官: さてと。これで、今度こそ疑問の余地はなくなったかな。いやあ、判決を何度も何度も先延ばしにされて、僕がかわいそうでしかたないよ。

ローレンス研究員:  ニコラス!

ウィナー管理官: シー。判決の時間だ、大人しくしてなさいな。では、判決を  

エージェント・ニコラス: お待ちください、管理官!

ウィナー管理官:   そろそろ泣くよ? 大の大人が、でっかい声で。

エージェント・ニコラス: 可能性が、1つだけあります。これまでのすべてを覆すような、たった1つの可能性が!

ウィナー管理官: はいはい、言い訳はもういいよー。さーて、判決判決  

エージェント・マイルズ: お待ちを、管理官。可能性があるというのであれば、聞いて差し上げるのが筋というものでしょう。

ウィナー管理官:   本当に泣くよ? 大の大人が、でっかい声で。

エージェント・ニコラス: マイルズ、クラスK記憶処理は、間違いなく行われたんだよね?

エージェント・マイルズ: 当然。被害者の遺体はもちろんのこと、文書記録上でも、映像記録上でもクラスK記憶処理は間違いなく行われています。そこに、疑いを挟む余地はありません。

エージェント・ニコラス: そうか。じゃあここで、クラスKの注意点を挙げてもらえる?

エージェント・マイルズ: 注意点ですって? そんなものは決まっています。むろん、アデロールなどの薬剤との併用禁忌です。それにより、致死性の急性高血圧症が発生するおそれがあります。

エージェント・ニコラス: そう。それが、まず1点。

エージェント・マイルズ: まず?

エージェント・ニコラス: もう1点は、投与後の再安定化処置が必要とされる点。この、再安定化処置というのは?

エージェント・マイルズ: 資料もまともに読んでいないのですか、君は? ……クラスKは、併用禁忌によらず血圧上昇の副作用を持った薬剤です。ゆえに、投与後しばらくは血圧を正常に保つため、併用禁忌でない薬剤の定期服用が必要とされます。それを怠った場合、高血圧症による様々な合併症が起きるおそれが  

エージェント・ニコラス: そう、その通り。つまり、禁忌薬を服用しなくとも、クラスKには高血圧症と合併症のおそれがある。それこそ……今回のインシデントで起きた大動脈解離のような!

エージェント・マイルズ:     まさか!

エージェント・ニコラス: そう。被害者は、再安定化処置を怠ったために死亡した可能性があります!

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官: 何を言い出すかと思えば、死因がそもそも違うってこと? そんなことありえないでしょー。ねえ、マイルズくん。

沈黙。

ウィナー管理官: ……マイルズくん?

エージェント・マイルズ: ……今回の調査にあたって、内部保安部門による遺体の検視は行われませんでした。そもそも、基本的に遺体の検視は内部保安部門の管轄ではありませんからね。代わりに、発見時の遺体の検案と、調査開始時の遺体の検視を行ったのは  

エージェント・マイルズが声を荒げる。

エージェント・マイルズ:   ダリア・シェリー氏! あなた、まさか!

シェリー医師: きゃあ!

エージェント・ニコラス: そう。そうなんですよ。遺体を調べたのは、この世でたった1人だけ。遺体からアデロールが検出された、なんて事実を断言しているのは……シェリーさん、あなただけなんですよ!

シェリー医師: くぅっ!

エージェント・ニコラス: マイルズ、そして管理官! 今すぐに審判を中断して、再度の検視を行ってください! その結果によっては……これまでのインシデントのすべてが、一気にひっくり返る可能性があります!

エージェント・マイルズ: バカな!

シェリー医師:  言わせておけば……いいですか、エージェント・ニコラス! 仮に、もし仮に、私が遺体の検案結果や検視結果をねつ造していたとしましょう。しかし、私にできるのはそこまでです。決定的な証拠である、コーヒーカップの検証結果はねつ造できません!

ウィナー管理官: うーん、確かにねー。

エージェント・マイルズ: ……証人の言うとおりです。コーヒーカップの検証自体は、内部保安部門がしっかりと回収して行ったものです。確かに、コーヒーの飲み残しからアデロールが検出されています。それ自体はれっきとした事実  

エージェント・ニコラス: いいや! 先ほどから検討されてきたのは、被害者の死より前にアデロールが混入された可能性でした。しかし、もしシェリー医師が検視結果をねつ造しているのであれば、いつアデロールが混入されようと問題じゃない  それこそ、被害者の死からマイルズの調査が入るまでの3日間であれば、自由にアデロールを混入させることができる!

シェリー医師: いやぁ!

エージェント・マイルズ:   シメオン!

Simeon.aic: なんでしょうか?

エージェント・マイルズ: 検証です! 地下5階、問題の休憩室前廊下の監視カメラ映像に、証人が映っていないか確認しなさい!

Simeon.aic: 承知しました。

沈黙。

シェリー医師: ……み  見つかるわけがありませんわ! そんな、監視カメラ映像に、私の姿なんて  

Simeon.aic: 確認しました。2025年12月19日、午前5時19分48秒、該当箇所の監視カメラ映像にダリア・シェリー医師が映りこんでいます。

シェリー医師:   嘘でしょ!?

エージェント・ニコラス: ……おしまいです、シェリーさん。これで、あなたが被害者の死後に休憩室に入ったことが立証されました。さあ、説明していただきましょうか。午前5時という早朝、わざわざ人のいない時間帯を見計らって、どうしてあなたは地下5階の休憩室まで行ったのか!

シェリー医師: う……うう……!

エージェント・ニコラス: さあ、いかがですか! ダリア・シェリー医師!

シェリー医師が絶叫し、床に突っ伏す。

エージェント・ニコラス: ……以上です、管理官。

沈黙。

ウィナー管理官: ……いやー、まいったねこれは。マイルズくん、急いでシェリーくんの拘束を。

エージェント・マイルズ: ……ええ。

エージェント・マイルズが立ち上がり、床に突っ伏しているシェリー医師の手に手錠をかける。

ウィナー管理官: それじゃあ……追跡調査の結果を待つ必要がありそうだけど。ひとまず、この審判はお開きかなー。マイルズくん、ギャレンの遺体からアデロールが出なければ、ローレンスくんを解放してやってね。

エージェント・マイルズ: 承知しておりますとも。

ローレンス研究員がガッツポーズする。

ウィナー管理官: それじゃあ、みんな。これにて解散!

<記録終了>

監視カメラ映像

映像記録

2026/01/15


<記録開始>

サイト-512・B1Fの懲罰房にて、ローレンス研究員が勾留されている。エージェント・ニコラスが、懲罰房の前にやってくる。

エージェント・ニコラス: やあ、ローレンス。

ローレンス研究員: ニコラス!

エージェント・ニコラス: いい知らせだよ。検視の結果、ギャレン博士の遺体から、アデロールも再安定化処置用の薬も検出されなかったらしい。君は晴れて自由の身だ!

ローレンス研究員: よっしゃ!

エージェント・マイルズが、懲罰房の前にやってくる。

ローレンス研究員: あっ……

エージェント・ニコラス: マイルズ。

エージェント・マイルズが懲罰房の扉を開錠し、進入する。エージェント・マイルズは、ローレンス研究員の手錠を外す。

エージェント・マイルズ: ……このたびは、本当に申し訳ないことをいたしました。心からお詫び申し上げます。

ローレンス研究員:  おう。

エージェント・マイルズが懲罰房から出る。

エージェント・ニコラス: マイルズ!

沈黙。

エージェント・ニコラス: ……けっきょく、真相はなんだったわけ?

エージェント・マイルズ: ……わかりません。調査の結果、処方箋などの資料が一部、改ざんされていることが判明しました。尋問の結果、シェリー氏は殺人の罪を認めましたが……その動機に関しては、いっさい話そうとしないのですよ。

エージェント・ニコラス: 動機を?

エージェント・マイルズ: ええ。まるで、何かを強く恐れているかのように、かたく口を塞いでいます。それに……1つ、気になることがあるのです。

エージェント・ニコラス: 気になることって?

エージェント・マイルズ: 審判中、彼女は監視カメラ映像に自身の姿が映っていることにひどく動揺していました。監視カメラの目がそこかしこに光っていることは、このサイトの職員であれば常識のはず。しかし、彼女はそれにひどく驚いたように見えました。まるで  監視カメラ映像に映るはずがないと、確信していたかのように。

エージェント・ニコラス:  確かに……

エージェント・マイルズ: このインシデントには、まだ裏がある。私はそう睨んでいます。友人を助けられた今、君はこのサイトを離れるでしょうが……私は、もう少し残って調査を進めてみようと思います。

エージェント・ニコラス: ……そう。

ローレンス研究員:  なあ! あんた!

エージェント・マイルズ: ん?

ローレンス研究員が懲罰房を出る。

ローレンス研究員: その調査、俺にも手伝わせてくれないか?

エージェント・ニコラス: ……え?

エージェント・マイルズ: ……は?

ローレンス研究員: いや、なんかあんたの話聞いてたらムカッ腹が立ってきてよ。その裏とやらのせいで俺がはめられたんだとしたら、絶対に許せない。俺にも、なんか力にならせてくれよ!

沈黙。

エージェント・マイルズ: ……ローレンス氏。これは、内部保安部門の仕事です。部外者のあなたに背負わせるわけには  

エージェント・ニコラス: あたしは悪くない提案だと思うけどね、マイルズ。

エージェント・マイルズ:   ニコラス!

エージェント・ニコラス: 今回、君はサイト外の人間として調査した結果、シェリー医師の罠にはまってしまった。内部保安部門だけじゃ、力不足なのかもしれない……なら、サイト内の協力者ってのが必要でしょ?

エージェント・マイルズ: くっ……

ローレンス研究員: なあ、頼むぜ、マイルズさん! 俺に、真実を暴く手伝いをさせてくれよ!

沈黙。

エージェント・マイルズ: ……お断りさせていただきます。素人と組むつもりはありません。もしそうしたいのであれば、せめてニコラスに頼むことですね。

エージェント・マイルズが、懲罰房の前から離れていく。

ローレンス研究員: ……はあ、ダメか。

エージェント・ニコラス: まあ、あいつにはあいつなりの考えがあるんだろうね。しかたないよ。

ローレンス研究員: ……ちなみに、ニコラス、お前は?

エージェント・ニコラスが腕を組む。

エージェント・ニコラス: ……帰ったら仕事が山積みなんだけどな。まあ、いいよ。こっちはこっちで、あたしなりに調査してみようと思う。もちろん、君と一緒にね。

ローレンス研究員: よっしゃ!

ローレンス研究員とエージェント・ニコラスが、懲罰房の前から離れていく。

<記録終了>

インタビュー記録

映像記録

2026/01/15


<記録開始>

サイト-512・B1Fのインタビュールームにて、エージェント・ニコラスとローレンス研究員が席についている。

エージェント・ニコラス:   記録、始めたよ。それじゃあ、まず君に聞いておきたいことがあるんだけど、いいかな?

ローレンス研究員: おう、なんでも聞いてくれ。

エージェント・ニコラス: 助かるよ。聞きたいのは、ギャレン博士のこと。調査の期間がぜんぜんなかったもんだから、君含め誰からもしっかり彼のことを聞けてなかったから。

ローレンス研究員: 博士についてだな、わかったよ。俺の元上司……っていうのは知ってたっけ?

エージェント・ニコラス: うん。

ローレンス研究員: 俺も研究員になってそんな長くないし、このサイトに来たのも'23年ぐらいだったから、付き合いは浅いほうなんだけどな。まあ……お世辞にも、いい人とは言えなかったかな。パワハラっていうのかな、言葉はきついわ、勝手に色々決めるわであんま好印象じゃなかった。

エージェント・ニコラス: 他の職員たちの感想も、おおむね同じだね。死んだ人の悪口を言うのもあれだとは思うけど、まあ総じて悪い印象を持たれるタイプの人だったみたい……ただ、君の場合は話が変わってくる。

ローレンス研究員: 4183-JP  アーサーさんの件だろ?

エージェント・ニコラス: そうだね。君とギャレン博士の間に何があったのか、そしてどうして君は4183-JPの担当にこだわるのか、聞かせてほしい。

ローレンス研究員が、身体を動かして椅子に座りなおす。

ローレンス研究員: もともと、アーサーさんはここの管理役員だった。正直いわゆる雲の上の人だったから、付き合いはあんまなかったけど……パッと見で明るい人だなあって感じたよ。そんなアーサーさんの夫が、ここのIT部門で技術士やってるマット・アーサーさんだ。俺はあの人を、マット兄って呼んでる。

エージェント・ニコラス: へえ、その人とは仲がいいの?

ローレンス研究員: 所属はまるで違うけど、バーベキューのときにすみっこで一緒になってさ。俺もあの人もオタク気質だから、すぐに意気投合したよ。それからは、プライベートでも話すぐらいには仲良くなった。歳は7つか8つも離れてるけど、俺はあの人のことを親友だと思ってる。

ローレンス研究員がうつむく。

ローレンス研究員: ……それなのに、アーサーさんは'24年のインシデントに巻き込まれてアノマリー化しちまった。1ヶ月くらい、マット兄の部屋から毎晩毎晩、泣き声が聞こえたよ。俺は決意した。人として、財団職員として、アーサーさんをアノマリーから戻してやりたいってな。担当アイテムでもなんでも使って、アーサーさんを戻す手法を確立しようとした。俺も一応、超常工学の専門家だ。アイテムとかの力を借りれば、それこそ人間でもなんでももとに戻す装置を開発できるかもしれない……でも、そこでギャレン博士とぶつかっちまったんだ。

ローレンス研究員が顔を上げる。

ローレンス研究員: あの人は言ったよ。財団の理念を忘れたのか? アノマリーを確保・収容・保護するのが財団職員の役目で、治療するなんて思い上がりだ、ってな。それに、あの人はアーサーさんを人として扱っちゃあいなかった。色んな実験を、まるであの人がただの彫刻かなんかみたいに冷淡にしつづけた。俺はそれに何度も反対して……結果このざまってわけだ。

エージェント・ニコラス: あたしの知らないところで、そんなことが……

ローレンス研究員: それでも、俺はずっとギャレン博士に掛けあいつづけたよ、4183-JPの担当研究員に戻してくれって。マット兄の奥さんをなんとかしてやりたい、その一心だったよ。だから……ギャレン博士が目の前で死んで、心底ビックリしたね。とんでもないタイミングでぶっ倒れて、そのまま逝っちまったわけだからな。

エージェント・ニコラス: まあ……あたしでもビックリするだろうからなあ、あんなことになったら。ちなみに、ほかにギャレン博士について気になったことはない?

ローレンス研究員: そうだな、博士、博士……ああ、そういや去年、変なやらかししてたって噂聞いたよ。

エージェント・ニコラス: やらかし?

ローレンス研究員: ああ。それこそ、死ぬちょっと前だったかな。なんか、自分の端末を水槽に落としちまって、会計部門に怒られたってさ。あんときは正直、心ん中でガッツポーズしたぜ。

エージェント・ニコラス: そこまでは話さなくていいよ……でもまあ、ありがとう。おかげで、色々と情報が集まってきた。

ローレンス研究員: 役に立てたんならよかったよ。

エージェント・ニコラス: よし、じゃあそろそろインタビューもおしまいにしようか。えーっと、ボタン、ボタン  

エージェント・ニコラスが立ち上がり、端末に接近する。しかし、記録が終了するより前に室外から物音が聞こえる。

エージェント・ニコラス:   なんだろ?

エージェント・ニコラスがインタビュールームの扉を開く。映像にギリギリ収まる位置で、シェリー管理官補佐が倒れている。

vice_dir.png

シェリー管理官補佐

シェリー管理官補佐: うう……

ローレンス研究員: えっ、管理官補佐?

エージェント・ニコラス: えーっと……何をしてるんですか?

シェリー管理官補佐が立ち上がり、咳払いしながら入室し、扉を閉める。

シェリー管理官補佐: ……これは失礼。いや何、これ別に盗み聞きなどしていたわけではないとも。

ローレンス研究員: ぜったいしてたなこりゃあ……

エージェント・ニコラス: ……あたしたちに何かご用ですか?

シェリー管理官補佐: そうだな、まずは端末の電源を落としてから話させてもらおう。いや何、これ別にやましいことがあるわけでは  

シェリー管理官補佐が端末に手を伸ばすのを、エージェント・ニコラスが制止する。

エージェント・ニコラス: 何か、ご用、ですか?

沈黙。

シェリー管理官補佐:   君たちは、例のクリストフ・ギャレン博士殺害インシデントを追っているのだね?

エージェント・ニコラス: ……まあ、そうですが。

シェリー管理官補佐が、エージェント・ニコラスの肩を掴み、その身体を揺さぶる。

シェリー管理官補佐: 頼む! 娘を弁護してやってはくれないか!

エージェント・ニコラス: ……はい?

ローレンス研究員:  娘って、まさか  

シェリー管理官補佐: ここで医師をやっているダリア・シェリーという者だ! あの子の審判が刻一刻と迫っているのだよ! 頼む! このとおりだ!

ローレンス研究員:   いやいやいや! 頼む相手間違えてませんか!? あの、俺のことはめようとしてきたダリア・シェリーでしょ!?

シェリー管理官補佐: ああそうだ、君の審判で追い詰められて最終的に自白したダリア・シェリーだとも!

エージェント・ニコラス: あたしも困りますよ。頼まれる義理がなさすぎますし、そもそもあの人は罪人です。しっかりとマイルズの手で裁かれてもらわなきゃ  

シェリー管理官補佐が、より激しくエージェント・ニコラスの身体を揺さぶる。

シェリー管理官補佐: そうなのだ! そのマイルズくんにも頼んだのだが、当然ながら秒で断られてしまった! 内部保安部門の知り合いたちも、誰もうちの娘をかばってはくれない! このままでは、素人同然の私があの子の弁護をすることになってしまう  自分の容疑を認めてしまっている、あの子の弁護を!

エージェント・ニコラス:   管理官補佐、あなたは彼女が殺人をしてなどいない、と?

シェリー管理官補佐: あたりまえだろう! 自分の子供の罪を、そうやすやすと受け入れる親がいてたまるものか!

ローレンス研究員: 自分の子供の罪は、しっかりと受け止めて償わせるのが親だと思うけどな……

エージェント・ニコラス: ……とりあえず、手を離してください。

シェリー管理官補佐が、エージェント・ニコラスから手を離す。

シェリー管理官補佐: うむ! これはすまない。

エージェント・ニコラス: ……シェリー医師の審判の担当は、けっきょくマイルズってことでいいんですかね?

シェリー管理官補佐: ああ、その予定だ。判決を下す役割も、前回と同じくウィナー先輩だ。

エージェント・ニコラス: ……ローレンス、チャンスかもしれないよ。あのマイルズと、情報を交換しつつ真実に近づくチャンスだ。

ローレンス研究員: おいおい、まじで言ってるのか!? あのアマの弁護なんかやるのかよ!?

エージェント・ニコラス: まあ、本人も罪を認めているわけだし、負けたってあたしたちは痛くもかゆくもない。あくまで、マイルズとの意見交換のつもりでやろう。

ローレンス研究員: ぐっ……まあ、それもそうか。

シェリー管理官補佐: いやいや! 弁護は本気でやってもらわないと困る! 娘の人生がかかっているんだぞ!?

エージェント・ニコラス: 盗み聞きからの力づくは、本気でやってほしい人の態度じゃないですよ。

シェリー管理官補佐: わぐっ。

エージェント・ニコラス: それに、もちろんただ適当に戦うつもりはありませんよ。仮説をぶつけて、情報をぶつけて、あたしなりの全力で戦うつもりです。

シェリー管理官補佐:  そうか! それはありがたい! ありがたいぞ!

エージェント・ニコラス: ちなみに、審判の予定日はいつなんですか?

シェリー管理官補佐: うむ! 明日だ。

エージェント・ニコラス: 明日!?

ローレンス研究員: 頼む相手どころかタイミングまで間違えてやがる、このオッサン!

シェリー管理官補佐: いやはや、弁護を引き受けてもらえて、これ実にありがたい! では、ニコラスくん、よろしく頼んだぞ!

シェリー管理官補佐が笑いながら退室する。

ローレンス研究員: ……とんでもないことになったな。

エージェント・ニコラス: ……まあ、やれるだけのことはやろう。うん。

<記録終了>

通知: 第2回審判

通知

2026/01/15


内部保安部門エージェント・ユースタス・マイルズの要請に伴い、ダリア・シェリー医師の審判が実施されることが決定された。2026/01/16、サイト-512のミーティングルームにて行われる予定である。

  サイト-512管理官デイモン・ウィナー

監視カメラ映像

映像記録

2026/01/15


<記録開始>

サイト-512・B1Fの懲罰房にて、シェリー医師が勾留されている。エージェント・ニコラス、ローレンス研究員、シェリー管理官補佐が、懲罰房の前にやってくる。

シェリー管理官補佐: やあ、ダリア! 元気にしていたか。父さんが来てやったぞ!

沈黙。

シェリー管理官補佐: 今日は、スペシャルなゲストを連れてきたんだ。見ろ! お前の弁護を担当してくれる、エージェント・ニコラスにローレンス研究員だ!

シェリー医師: ……え?

エージェント・ニコラス: ……どうも、シェリーさん。1週間ぶりですね。

シェリー医師: なっ……あなたたち、いったいなんで  

ローレンス研究員: 管理官補佐に頼まれたんだよ。明日の審判、あんたの弁護を担当してやってくれ、って。

シェリー医師:   そんな……

エージェント・ニコラス: ……まず、確認させてください。マイルズの尋問において、あなたはギャレン博士を殺害したと認めた。そうですね?

沈黙。

エージェント・ニコラス: ……では、あたしからも聞いておきたい。シェリーさん、あなたは本当にギャレン博士を殺害したんですか? クラスKの再安定化処置のための薬剤を、故意に処方させないという手口で。

沈黙。

ローレンス研究員: ……なあ、ニコラス。やっぱりダメだぜ、こりゃあ。口もきいてくれないってんじゃあ、弁護のしようがない。

エージェント・ニコラス: まあ、確かに……

シェリー管理官補佐: そんな! 頼むよ、諸君! 娘を弁護できるのは、君たちしかいないのだ! ダリア、お前も黙ってないでお願いしなさい! ほら!

沈黙。

シェリー管理官補佐: うおお! 私はこれ、どうしたらいいのだ!

エージェント・ニコラスが、懲罰房に一歩近づく。

エージェント・ニコラス: ……シェリーさん。あたしは、正直あなたを心の底から弁護するつもりはありません。あたしの大切な同期を、あなたは罪に陥れようとしました。そんな相手を本気で弁護するほど、あたしはお人好しではありませんよ。

沈黙。

エージェント・ニコラス: ですが、あたしたちは一方でこうも考えています。あなたは、まだこのインシデントに隠された秘密を抱えている、と。あたしは  というかローレンスは、その秘密を知りたいと考えています。

ローレンス研究員:  まあな。

エージェント・ニコラス: シェリーさん、あなたが協力的だろうとそうでなかろうと、あたしたちはあなたの弁護をさせてもらいますよ。あなたの無実を証明するためではなく、あなたが抱えている秘密を引きずりだすために。

沈黙。

シェリー管理官補佐: うう……ダリア……

エージェント・ニコラス: では、行こうか、ローレンス。シェリー管理官補佐、あなたも。

ローレンス研究員: ……そうだな。

エージェント・ニコラスとローレンス研究員が、懲罰房の前から離れていく。少し遅れて、シェリー管理官補佐もその場を離れる。

<記録終了>

第2回審判#01

映像記録

2026/01/16


<記録開始>

サイト-512・B1Fのミーティングルームにて、ウィナー管理官、エージェント・マイルズ、エージェント・ニコラス、ローレンス研究員、およびシェリー医師が着席している。ウィナー管理官の手前には携帯端末の他にスマートフォンが置かれているほか、シェリー医師は手錠をかけられている。

ウィナー管理官: それでは、審判を開始しよう。ニコラスくん、マイルズくん、ともに準備はいいかな?

エージェント・マイルズ: ええ。

エージェント・ニコラス: あの……管理官?

ウィナー管理官: んー? なんだい?

エージェント・ニコラス: その……そこに置いてあるスマホはいったい?

ウィナー管理官: あっ、これ? 楯突きカウンター。

エージェント・ニコラス: たてつ  えーと?

ウィナー管理官: いやー、前回の審判じゃあ君たちに何度も楯突かれたじゃない? 今回は、君たちに何回楯突かれたかカウントして、あとで内部保安部門なり研究部門なりに細かく文句言ってやろうかと思ってね。

エージェント・ニコラス:  はあ。

エージェント・マイルズ: ……エージェント・ミア・ニコラス。

エージェント・ニコラス: ん……どうしたの?

エージェント・マイルズ: まさか、まだこのサイトに留まるとは思ってもみませんでしたよ。それも、そこの彼女を弁護する立場になってしまうとは。見下げ果てたものです。

エージェント・ニコラス: まあ……これがあたしたちのやりかたってとこかな。あたしたちはあたしたちなりに、真実を模索させてもらうよ。

エージェント・マイルズ: ふん……いいでしょう。ローレンス氏の冤罪がありましたから、少々負い目を感じてはいましたが……その必要もなくなったようです。遠慮なく、君らを追いつめてご覧に入れましょう。

エージェント・ニコラス: うん。むしろ、そのほうがありがたいよ。

ウィナー管理官が手元のスマートフォンの画面を叩く。

ウィナー管理官: ……はい、いきなりの無駄なおしゃべり、カウント1、っと。さて、ところでニコラスくん、そちらは?

エージェント・ニコラス: ああ、彼は  

ローレンス研究員: はい! 今回、エージェント・ニコラスの助手を務める、ディエゴ・ローレンスです!

エージェント・ニコラス:   というわけです。

ウィナー管理官: ふーん。こないだの審判の容疑者が、真犯人の弁護の助手をねー……まあいいや。マイルズくん。今回のインシデントのおさらいをよろしく。

エージェント・マイルズ: はい。シメオン、資料を全員に。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー医師を除く4名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: よろしい。さて、今回のインシデントについて。2025年12月18日、ここサイト-512の地下5階・研究区画にて、クリストフ・ギャレン氏が殺害されました。死因は、クラスK記憶処理後の再安定化処置に必要な薬剤K-817の服用を怠ったことによる高血圧症と、それに伴う大動脈解離です。そして、そのK-817の処方に関する記録をねつ造・改ざんし、故意にギャレン氏のK-817の服用をさまたげたのが  そちらの、ダリア・シェリー氏になります。

沈黙。

ウィナー管理官: んー……いいね。最初の説明をさえぎる声がないとここまで心穏やかなもんなのか。じゃあ、次はニコラスくんの反論だね。

エージェント・ニコラス: はい。まず問題となるのは、シェリー医師がどうやってK-817に関する記録を改ざんしたのかということです。その説明を、マイルズ、君にお願いしたい。

エージェント・マイルズ: いいでしょう。シメオン、登録証拠#M2-03を。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー医師を除く4名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: これは、IT部門で開発されているAI、Bobby.aicです。オフライン環境でも携帯端末1つで動く、その軽量さと万能さが自慢の最新型AIなのですが……問題は、その悪用のしやすさにあります。

エージェント・ニコラス: 悪用のしやすさ?

エージェント・マイルズ: ええ。いかんせん、データセットの軽量化に重きを置きすぎていた部分があり、いわゆる脱獄行為への対策が追いついていなかったのですよ。

エージェント・ニコラス: ……脱獄?

ローレンス研究員: あれだよ、AIが本来やっちゃいけないような、エッチな画像出力とかの規制をくぐり抜けることだ。

エージェント・ニコラス: 君、やったことあるの?

ローレンス研究員: ないよ!

ウィナー管理官が手元のスマートフォンの画面を叩く。

ウィナー管理官: はい、無駄なおしゃべり、カウント2。

エージェント・ニコラス: うっ……失礼しました。

エージェント・マイルズが咳払いする。

エージェント・マイルズ: ……続けますよ。このAIはベータ版が完成した段階でIT部門が各サイトの有志にアプリケーションとして配布したのですが、直後に先述の脆弱性が判明したため、すぐに配布は停止されました。既にインストールしてしまった有志たちにも、すぐさまアンインストールが命じられたわけですが……それを、アンインストールせずに密かに保持していた者がいたわけです。

エージェント・ニコラス: それが、シェリーさんだったわけだね。

エージェント・マイルズ: そのとおり。シェリー氏は、あくまで医療スタッフ。ハッキングなどの知識はありません。しかし……脱獄行為だけならば、シェリー氏にも可能でした。氏はそれによって、このAIをハッキングツールとして利用したのです。

ウィナー管理官: なるほど。にしても脱獄からのハッカー化とは、こすいこと考えるねー、シェリーくん。もっと自分でハッキングの勉強とかしとけばよかったのに。

ローレンス研究員: ……何言ってんだ、あのじいさん?

ウィナー管理官が、スマートフォンの画面に指を置く。

ウィナー管理官: んー? 今なんか聞こえたような……

ローレンス研究員: いえ! なんでも!

エージェント・マイルズが咳払いする。

エージェント・マイルズ: ……シメオン。登録証拠#M2-04を提示しなさい。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー医師を除く4名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: ここに、シェリー氏の端末に関するデータがあります。まず、この端末には確かにBobby.aicのベータ版がインストールされていました。そのログは削除されていましたが、データの復元に成功しています。結果、Bobby.aicがサイト-512のプライベートネットワークにアクセスし、さらにそこを経由して薬剤師たちの端末にまでアクセスしていたことが判明しました。こうして、シェリー氏はBobby.aicを経由して偽の記録をねつ造し、ギャレン博士に所定の薬が渡らないように仕向けたということになります。

エージェント・ニコラス: プライベートネットワークのセキュリティシステムは? 作動しなかったの?

エージェント・マイルズ: 残念ながら。それを証言できる証人の用意もあります。

ウィナー管理官: ほー、段取りがいいね。なら、さっそく喚問してもらおうじゃないの。

エージェント・マイルズ: 承知いたしました。では、サイト-512のセキュリティシステムを担当している技術士、マット・アーサー氏をここに!

エージェント・ニコラス: えっ……

ローレンス研究員: マット兄……!

ミーティングルームの扉が開き、アーサー技術士が入室する。

technician.png

アーサー技術士

アーサー技術士: はいはい! どーも、どーも! アーサーです、僕。はい!

エージェント・マイルズ: アーサー氏。このサイトのセキュリティシステムの管理をしておられる……?

アーサー技術士: はいはい! そうですよ! シメオンなんかもね、僕の手で開発させていただいたりなんかしちゃってね! はい!

アーサー技術士が、ローレンス研究員のほうを見る。

アーサー技術士: あっ、ディエゴくんじゃないの! 奇遇だねえ、こんなところで! やっほー!

ローレンス研究員:  やあ、マット兄。あいかわらず、元気そうで何より。

ウィナー管理官が手元のスマートフォンの画面を叩く。

ウィナー管理官: はいそこ、無駄なおしゃべりしない。カウント3。

ローレンス研究員:  ごめんなさい!

アーサー技術士: おっと! こりゃ失敬。

エージェント・マイルズ: ……それで、アーサー氏。今回、こちらのサイトのセキュリティシステムについてお聞きしたいのですが。

アーサー技術士: はいはい! そうですね、まずここのプライベートネットワークはシェリー管理官補佐の意向でAICによるセキュリティが採用されているんですね! もちろん標準のファイアウォールとかIDSとかIPSとかWAFとかは備わってますし、担当のシメオンにも声紋認証とかに基づいたゼロトラストを採用させてますが。

エージェント・ニコラス: IDS……?

エージェント・マイルズ: IPS……?

ローレンス研究員: WAF……?

ウィナー管理官が手元のスマートフォンの画面を叩く。

ウィナー管理官: カウント4。オウムに成り下がる必要はないからねー、みんな。アーサーくん、続けてもらえるかな?

アーサー技術士: はいはい! それで、今回ですね問題になるのは、お話に出てたボビーがどうやってうちのシメオンによるセキュリティを回避したのかということですね!

エージェント・ニコラス:  ええ、そうですね。ぜひ聞かせてください。

アーサー技術士: はいはい! 今回シェリー医師のエンドポイントを使ってボビーという攻撃者がまず行ったのはね、まあそのままXDRを回避することなんですね! ボビーがどうやってそれを回避したのかといいますとですね、ボビーは自分のいるエンドポイントのカーネルに脆弱性を作るためにセルフBYOVD攻撃をしたんですね! 事実、シェリー医師のエンドポイントはもうこれビックリするほど古いドライバーぶち込まれてまして、そのせいでXDRも無効化しちゃったわけなんです! これで、シェリー医師のエンドポイントは見事にハッキングツールになる下地が整っちゃったわけですね! はい!

エージェント・ニコラス:  あの……

ローレンス研究員: マット兄、もっとわかりやすくしてもらえたりできるか?

アーサー技術士: あっ、ごめんね! 要するにですね! ボビーはまずシェリー医師のエンドポイ  端末を、シェリー医師の手を借りずに自力でハッキングツール化したわけです! すごいですよねー、ほんと!

ローレンス研究員: なるほど、ありがとう。

ウィナー管理官: 情けない連中だねー、まったく。それで、アーサーくん? BYOVDの話から進んでないから、その先の説明もしてくれるかな?

アーサー技術士: はいはい! でですね、次にボビーがやったのはもちろん  

ローレンス研究員: 素人にもわかりやすく頼むよ、マット兄。

アーサー技術士:   オーライ! 要するにですね、ボビーはサーバーに直にアクセスしたんじゃなくて、色々な端末をハッキングしてそのアカウントを使ってサーバーに正規手段でアクセスしたってわけですね!

エージェント・マイルズ: ……だ、そうです。

ローレンス研究員: なるほど……

エージェント・ニコラス: それは、シメオンにも検出できなかったわけですか?

アーサー技術士: はいはい! そうなんですよ、これが。シメオン、例のデータ出してもらえる?

Simeon.aic: 承知しました、マット。

シェリー医師とアーサー技術士を除く4名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

アーサー技術士: 一応ね、シメオンもバカじゃない。ネットワーク内のチェックだけじゃなくて、ちゃんと監視カメラ映像とアクセス履歴の整合性チェックとかも定期的にしてるんです。ただ、ボビーはここがすごかった。ちゃんと、ハッキング対象の端末が操作されてるタイミングを見計らってサーバーにアクセスしてるんですねー! だから、シメオンもそこに違和感を持つことができなかった。シメオンの担当はあくまでセキュリティであって、個人個人の職務の内容まで細かくチェックするリソースはないですからね!

エージェント・ニコラス: そうですか……

エージェント・マイルズ: つまり、シェリー氏はBobby.aicを用いた完璧なハッキングを行ったということです。事実、これらのハッキングの痕跡が各職員の端末から発見されています。そうですね、証人?

アーサー技術士: はいはい! シェリー医師の端末はさっき説明したとおりで、被害者  ハッキングのほうのね  のみなさんの端末からもハッキングの痕跡が見つかってます!

エージェント・ニコラス: ちなみに、その痕跡の調査を担当したのは?

エージェント・マイルズ: 前回の手はもう通用しませんよ、ニコラス。今回は、アーサー技術士のほかに2名のIT部門技術士、そしてシメオンが調査にあたっています。ねつ造の可能性はありません。

エージェント・ニコラス: ……なるほど。

ウィナー管理官: じゃあ、これでシェリーくんの手口はぜんぶ明らかになったわけだ。それじゃあ、さっそく判決を  

エージェント・ニコラス: お待ちください、管理官。まだ明らかになっていないことがあります。

ウィナー管理官:   へえ?

エージェント・ニコラス: マイルズ、懲罰房での君の発言、忘れたとは言わせないよ。シェリーさんは、前回の審判において監視カメラに自分の姿が映っていたことに驚いていた。その理由が、まだ明らかになっていません!

エージェント・マイルズ: ……確かに、そのとおりです。

ウィナー管理官: そんな取りざたするほど驚いてたっけ? 僕には重箱の隅に聞こえちゃうけどなー。

エージェント・マイルズ: お待ちを、ウィナー管理官。ニコラスの指摘はもっともです。そして、こちらにはその疑問に対する答えを提示する用意があります。

ウィナー管理官: ……あっ、そう。じゃあ、聞かせてもらおうじゃないの。

エージェント・マイルズ: 先ほど証人が説明したとおり、今回の一連の犯行はシェリー氏の指示を受けてBobby.aicというAIが行ったものです。しかし一方で、先ほど私が説明したとおり、シェリー氏自身にハッキングの知識はなかった。だからこそ、Bobby.aicの犯行の穴に氏は気がつくことができなかったのですよ。

エージェント・ニコラス: 犯行の穴?

エージェント・マイルズ: 簡単なことです。監視カメラ映像の改ざんですよ、もちろん。シェリー氏はあくまで、Bobby.aicに一連のハッキングを任せきりにしていました。そのせいで、氏はBobby.aicが監視カメラ映像も改ざんしていると思い込んでいたのです。しかし、実際のところBobby.aicは監視カメラ映像まで手を回していなかった。だからこそ、彼女は地下5階には行っていないなどというすぐにばれる嘘をついてしまったのですよ。

エージェント・ニコラス:  なるほど。

ローレンス研究員: マイルズさん、どうしてボビーは監視カメラ映像の改ざんも行わなかったんだ?

エージェント・マイルズ: シェリー氏の事後工作まで想定していなかった  という結論になっています。事実、Bobby.aicに与えられた命令は被害者の殺害ではなく、あくまでK-817の処方の妨害です。脱獄行為の関係もあって、本来であればより詳細な命令を与える必要があったところを、氏はその浅識さゆえにできなかった。私はそのように考えています。

ウィナー管理官: なるほどねー。

エージェント・ニコラス: ただ、マイルズ、その結論はシェリーさん本人の証言に基づいているの?

エージェント・マイルズ: それは……残念ながら。シェリー氏は、こちらの尋問に対してほとんど口を開いていないのでね。

エージェント・ニコラス: であるならば、管理官、この場でシェリーさんへの尋問を行うのはどうでしょうか?

ウィナー管理官: えっ、シェリーくんへの?

エージェント・ニコラス: はい。この場は、シェリーさんの審判の場です。それに今ここには、ハッキングの調査を担当したアーサー技術士もいます。

アーサー技術士: はいはい! いますよー、ここに!

エージェント・ニコラス: ……このようにね。これまで口を開かなかった容疑者から証言を引きずり出すには、ちょうどいいタイミングではないでしょうか?

エージェント・マイルズ: ……こちらからも、特に異議はありません。むしろ、シェリー氏からの証言はぜひとも聞いてみたいものです。できるものならば……ですが。

ウィナー管理官: そうかー……まあマイルズくんまで望むのならしかたない。アーサーくん、適当にそこらへんに座っといて。そしてシェリーくん、代わりに君が僕らの前に立つように。

アーサー技術士: はいはい! わっかりました!

アーサー技術士が、ミーティングルームの席に座る。シェリー医師が無言で立ち上がり、アーサー技術士の立っていた位置に立つ。

エージェント・マイルズ: 素直なのはいいことですね。その調子で、証言もしていただけると助かるのですが。

沈黙。

エージェント・ニコラス: ……シェリーさん。まず、あなたの最初の罪は、アンインストールを命じられていたボビーをそのまま端末に保持していたことです。これについて、何か反論はありますか?

沈黙。

エージェント・ニコラス: ……特になし、と。では、代わりにあたしが反論してあげましょうか。

エージェント・マイルズ: なんですって?

エージェント・ニコラス: 簡単なことです。目的ですよ。どうして、わざわざアンインストールが命じられたアプリをそのまま隠し持つなんてリスキーなことをしたんですか?

沈黙。

アーサー技術士: はいはい! 僕はシェリー医師の気持ちが理解できますよ、エージェント・ニコラス! だって、脱獄さえすればこんな大規模なハッキングができるAICなんて、喉から手が出るほどほしいですもん!

ローレンス研究員: ……今の、問題発言じゃなかったか?

エージェント・マイルズ: アーサー氏のおっしゃるとおりです、ニコラス。目的がなくとも、万能なツールを手にしたのなら手放したくないと思うのがある種、当然の思考  

エージェント・ニコラス: 待ってください! シェリー医師に関する情報をお忘れですか? 彼女には、ハッキングに関する知識はないじゃないですか!

アーサー技術士: あっ!

エージェント・マイルズ: いいえ、ニコラス、そうはいきませんよ。少なくとも、シェリー氏は脱獄行為ができることは知っていました。少なくともそれは、Bobby.aicをインストールした有志に周知されている情報なわけです。

エージェント・ニコラス: では、マイルズ、君に聞こうか。シェリーさんは過去にも、脱獄を試したことがあるの?

エージェント・マイルズ: 登録証拠#M2-04をもういちど確認していただきたいですね。そこには確かに、シェリー氏が何度か脱獄行為を試した形跡が記載されていますよ。

エージェント・ニコラス: へえ、不思議だね。シェリーさんは、ハッキングの知識を持ち合わせていないのに、どうして脱獄の知識は持ち合わせていたんだろう?

ローレンス研究員: あっ、確かに……脱獄って、けっこうしっかりプロンプト組まないといけなかったりするもんだけど、そういうことをシェリー医師は知ってないとおかしいのか。

エージェント・ニコラス: そうだね、ローレンス……まあ、プロンプトがなんなのかはよくわかんないけど。さて、マイルズ、これに対してどう説明するの?

エージェント・マイルズ: ……こちらが聞きたいですね、それは。シェリー氏、いったいどこからBobby.aicの脱獄行為用プロンプトを入手したのですか?

シェリー医師が無言で目を泳がせ、額の汗を服の袖でぬぐう。

エージェント・マイルズ: ……やれやれ、困ったものです。しかし、ニコラス、事実としてシェリー氏は脱獄行為をしているのですよ。それならば、どこかで知ったと考えるしかありません。

エージェント・ニコラス: その方法が判明していない以上、君の立証は不十分だ。そうじゃないかな、マイルズ!

エージェント・マイルズ: ぐっ……

エージェント・ニコラス: それに、管理官、シェリーさんの様子をご覧ください。明らかに、彼女は動揺しています。

ウィナー管理官: まあ……確かに。ただ、ここで大事なのは、シェリーくんの命令を受けたボビーがハッキングをしていることと、それによってギャレンが死んでいることだ。その事実が動かないんなら、君の追及には意味なんてないよ、ニコラスくん。

エージェント・ニコラス:  まあ、そうなんですけど。

エージェント・マイルズ: ……しかし、ニコラスの指摘ももっともです、ウィナー管理官。というか、私としてもぜひ知りたいのですよ。こちらとしても、シェリー氏からの証言を求めます。

ウィナー管理官: そう? まあ、2人してそんなに言うならいいけど。シェリーくん、いいかな?

シェリー医師が無言で目を泳がせ、額の汗を服の袖でぬぐう。

シェリー医師: ……黙秘しますわ。

ウィナー管理官: 財団に黙秘権なんてものは存在しないよー、シェリーくん。せめて噓つくとかさ、もうちょいなんかないの?

エージェント・ニコラス:  管理官! 偽証を勧めないでください!

ウィナー管理官: はは、冗談だよー。それで、シェリーくん、何か話すことはないかな?

シェリー医師: ……私は、IT部門のアナウンスで脱獄の方法を知ったのですわ。

エージェント・マイルズ: ……残念ながら、それはありえません。

ローレンス研究員: まあ……だろうな。脱獄の方法をわざわざ教えるIT部門があってたまるかって話だもんな。

エージェント・ニコラス: ……と、いうことですが。いかがですか、シェリーさん。

シェリー医師が無言で目を泳がせ、額の汗を服の袖でぬぐう。

エージェント・ニコラス: ……また、黙秘ですか。つまり、あなたには証言できないんですね。どうやって、脱獄の方法を知ったのかを!

エージェント・マイルズ: どういうことですか、ニコラス?

エージェント・ニコラス: 簡単なこと。知らないことは答えられない……そういうことだよ。

エージェント・マイルズ: ……は?

エージェント・ニコラス: 確かに、シェリーさんはギャレン博士殺害の事実を認めています。そして、その手段としてボビーが使われたということもね。しかし……肝心の、ボビーの脱獄方法を証言できない以上。シェリーさんは、ボビーにハッキングを指示した真犯人ではない  ということになります!

エージェント・マイルズ: なっ……

ローレンス研究員: なんだとっ!?

シェリー医師: きゃあっ!

エージェント・マイルズ: ちょ  ちょっと待ちなさい、ニコラス! どういうことですか!

シェリー医師:  そうですわ! では、いったいどうしてボビーはハッキングを始めたというのですか!?

エージェント・ニコラス: ……アーサー技術士!

アーサー技術士: はいはい! なんでしょう、エージェント・ニコラス?

エージェント・ニコラス: シェリーさんの端末に、他の誰かからのハッキングの痕跡はなかったんですか?

エージェント・マイルズ: ふっ……何を今さら。そんなもの、発見されていればとっくに技術士たちから報告が  

アーサー技術士: わっかんないんですよねえ、それが。

エージェント・マイルズ:   えっ?

アーサー技術士: いやね? さっきも言ったとおり、シェリー医師の端末はぐっちゃぐちゃのスパゲッティなハッキングの拠点と化してたんですよ。だからね、正直なところ、もっと腕のいい攻撃者がハッキングしてたかって言われると……否定しきれないんですねえ、これが!

エージェント・マイルズ:  

エージェント・ニコラス: つまり! シェリー医師は、ボビーにハッキングを命令した当事者ではなく、第三のハッカーによって端末をハッキングされた被害者だった可能性があります! ボビーの所持も、そのハッカーによって仕組まれたものだったかもしれません!

エージェント・マイルズ:   バカな!

シェリー医師: くっ……

エージェント・マイルズ:  しかし、ニコラス、ならなぜシェリー氏はそのように証言しないのですか!

エージェント・ニコラス: ……かばっている、ということになります。自らの端末をハッキングし、諸々の罪を自分自身に押し付けている、真犯人を!

エージェント・マイルズ:  かばうですって! 殺人の罪を自分に押し付ける人物をですか!?

エージェント・ニコラス: アーサー技術士!

アーサー技術士: はいはい! なんでしょうか!

エージェント・ニコラス: このサイトで、そのような高度なハッキングを行えるような人物はいるのですか? それも、シェリーさんがかばうような関係にある人物です!

アーサー技術士: はいはい! それは  

シェリー医師がアーサー技術士のもとに駆けより、彼の口を手で塞ぐ。

アーサー技術士:   んんー!

シェリー医師: 黙りなさいな、アーサー!

エージェント・ニコラス: シェリーさん!

エージェント・マイルズが立ち上がり、シェリー医師を取り押さえる。

エージェント・マイルズ: 何をしているのですか、シェリー氏!

シェリー医師: くうっ! 離しなさい! 私は  私は  

エージェント・ニコラス: アーサー技術士、今のうちです! さあ!

アーサー技術士: はいはい! まあ、このサイトにも技術士はそれなりにいますけど。いちばんシェリー医師と関係が深い技術士  いや、元技術士といえば1人しかいない! それは  

突然、ミーティングルームの扉が勢いよく開かれ、シェリー管理官補佐が入室する。

シェリー管理官補佐: その審判、ちょっと待った!

ローレンス研究員:  あなたは……

シェリー医師がシェリー管理官補佐のほうを見て、目を見開く。シェリー管理官補佐が笑う。

シェリー管理官補佐: そうだ! サイト-512管理官補佐で、そこのダリア・シェリーの父! アルバ・シェリーだとも!

アーサー技術士:   あっ! シェリー先生!

シェリー管理官補佐: ん? おお、アーサーくんじゃないか! 君も、娘の無実を証明する証言をしに来てくれたのか?

ウィナー管理官が手元のスマートフォンの端に指を置き、何度も軽く叩く。

ウィナー管理官: ……この場合、どこに向けてこのカウンターを叩くべきなのかな。シェリー、君さー、いったいこんなときになんの用なのかな?

シェリー管理官補佐が笑う。

シェリー管理官補佐: これは失敬、ウィナー先輩! いや何、これ別に邪魔をしにきたわけではなくてですな! ちょっと、そこの諸君にせん別を贈らせていただきたく!

ウィナー管理官: せん別?

エージェント・ニコラス:  管理官補佐! 待ってください! 今、アーサー技術士が証言を  

シェリー管理官補佐: その必要はない、ニコラスくん! 今、私はここに重大な証拠を持ってきたのだ! 娘がハッキングなどしてもいなければさせてもいないという、決定的な証拠をな!

エージェント・ニコラス:   なんですって!

シェリー管理官補佐: シメオン!

Simeon.aic: なんでしょうか?

シェリー管理官補佐: 今から、お前にファイルを送信する! そのファイルの内容を、ここの全員に向けて再生してやってくれ!

Simeon.aic: 承知しました。

エージェント・マイルズ:  お待ちください、シェリー管理官補佐! まだ私は、アーサー技術士からの証言を聞いて  

突然、ミーティングルーム内に雑音が流れる。

エージェント・マイルズ:   これは?

シェリー管理官補佐: んっ、あれ? なんだ、これは?

エージェント・マイルズに取り押さえられているシェリー医師が、鼻から出血する。シェリー医師の身体がけいれんしはじめる。

エージェント・マイルズ:  シェリー氏!?

シェリー管理官補佐: ダリア!? どうしたのだ、いったい!?

雑音が止む。

Simeon.aic: ファイル内に有害な認識災害が確認されたため、再生を中断しました。

シェリー管理官補佐:  認識災害だと!?

エージェント・マイルズ: ウィナー管理官! 今すぐにこの場を解散してください!

ウィナー管理官: こりゃー、いけない。シメオン、医療部門に連絡を。そして、みんなはスタッフの指示に従うように!

Simeon.aic: 承知しました。

エージェント・ニコラス:  はい!

<記録終了>

通知: 第2回審判中のインシデントについて

通知

2026/01/16


本日、サイト-512のミーティングルームにて行われた審判中、ダリア・シェリー医師が認識災害により意識不明の重体に陥った。そして同日、その認識災害への曝露を誘発した人物として、アルバ・シェリー管理官補佐が拘束された。シェリー管理官補佐の審判の実施に関しては未定である。

  サイト-512管理官デイモン・ウィナー

監視カメラ映像

映像記録

2026/01/16


<記録開始>

サイト-512・B1Fのカフェテリアにて、エージェント・ニコラスとローレンス研究員が並んで立っている。そこへ、アーサー技術士が駆け寄ってくる。

アーサー技術士: ディエゴくん! 無事かーい!?

ローレンス研究員: あっ、マット兄!

アーサー技術士: エージェント・ニコラスも! 2人とも、大丈夫ですか?

エージェント・ニコラス: ええ……まあ。そういうあなたもご無事でしたか、アーサーさん?

アーサー技術士: はいはい! 僕は大丈夫ですよ、もちろん! 2人とも、なんともなさそうでよかったー!

ローレンス研究員: ……にしても、まさか審判中に認識災害だなんてな。しかも、それを提出したのが……

エージェント・ニコラス: ……アーサーさん、あのときの質問の答えを聞かせてください。シェリー医師がかばうような立場にいる、高度なハッキングのスキルがありそうな人物は?

アーサー技術士: うん……そうですね。もうわかってるでしょうけど、その人こそがさっき拘束された、シェリー先生なんですよ。先生って、管理部門に行く前はIT部門に所属してたので。はい。

ローレンス研究員: ……嘘だろ? まさか、自分の娘の口を塞ぐために、殺したってことか?

アーサー技術士: ディエゴくん、まだ彼女は生きてるよ。

ローレンス研究員: あっ……ごめん。

エージェント・ニコラス: そう言いたくなっちゃう気持ちはわかるよ、ローレンス。予断を許さない状況らしいからね、彼女。とにかく、あたしたちとしては彼女の無事を祈るほかはない……それにしても、アーサーさん、どうしてあたしたちは無事だったんでしょう? 認識災害のこもった音声が流されたのに、実際に被害が出たのがシェリー医師だけなんて……

アーサー技術士: ……はいはい! 今ね、うちのIT部門のほうでも調べてるところなんですけどね。シメオンが、致命的な部分が流される前に再生を止めたのが一因だそうです。はい。

ローレンス研究員: シメオンが……

アーサー技術士: まあ、それでもシェリー医師だけあんなことになっちゃった理由はまだわかってないんだけどね。マイルズさんたちの調査に期待するしか  あっ!

エージェント・マイルズが映像内に入ってくる。

エージェント・マイルズ: ……やってくれましたね、ニコラス。

エージェント・ニコラス: マイルズ……

エージェント・マイルズ: まさか、あんな強引な手段に出る人間の依頼で弁護を引き受けるとは。そのせいで、私はまた1歩真実から遠のいてしまった。

エージェント・ニコラス: ……ごめん。

ローレンス研究員: ちょ  ちょっと待ってくれよ! 別に、俺たちは悪くないだろ!? あれは、あそこで乱入してきて音声を再生した管理官補佐の  

エージェント・マイルズ: やかましい!

カフェテリア内の喧騒が響く。

エージェント・マイルズ: ……いずれにせよ。私は、こんなところで諦めるわけにはいきません。次は、シェリー管理官補佐を審判の場に引きずり出します、必ず。そして……警告しておきます。ニコラス、次にあなたの顔を見たとき、私はあなたをこの件から外すように上に報告します。これ以上、この件に関わらないでください。

エージェント・マイルズが映像外へと出ようとする。

エージェント・ニコラス: ……ねえ、マイルズ!

エージェント・マイルズが歩みを止める。

エージェント・ニコラス: ずっと、気になってたんだけど。君はどうして、このインシデントを追ってるの? それも、上からの指示があったわけでもなく。もしかして、君には何か目的があるんじゃあ  

エージェント・マイルズ: 二度は! ……警告しませんよ、ニコラス。

エージェント・マイルズが映像外へと出ていく。

ローレンス研究員: ……いったい、どういうことなんだよ。

<記録終了>

エージェント・マイルズの人事ファイル

文書記録

(更新)2025/12/21


人事ファイル


Miles2.png

エージェント・マイルズ

氏名: エージェント・ユースタス・マイルズ

セキュリティクリアランス: レベル4

職務: 財団内部組織に関する調査・監査

所在地: サイト-98

プロフィール: エージェント・マイルズは、サイト-98を拠点として、様々な財団内部組織の調査や監査を担当します。内部保安部門の拠点であるサイト-98が所在地として登録されてはいるものの、担当する案件に伴い所在地を転々とするため、定まった所在地は存在しません。

本稿執筆時点において、エージェント・マイルズはサイト-512におけるギャレン博士の死亡インシデントを、自らの志願によって調査しています。

来歴: エージェント・マイルズは当時の内部保安部門エージェント・マンフレッド・マイルズの息子として誕生しました。その後、マンフレッド・マイルズがエージェントから役員に昇格したのち、息子のエージェント・マイルズが財団に就職しました。現在までに、エージェント・マイルズが担当した案件は291件です。

関連職員:

  • マンフレッド・マイルズ役員
  • イヴ・アーサー元役員

通話記録

音声記録

2026/01/21


<記録開始>

ローレンス研究員: もしもし、ニコラス?

エージェント・ニコラス: やあ、ローレンス。

ローレンス研究員: お前も律儀だな。あのあと、すぐに内部保安部門のサイトに帰ったんだって?

エージェント・ニコラス: まあね。今回の責任があたしにあるとは自分でも思ってないけど、あんなこと言われちゃったらさ……それで、そっちはどんな感じ?

ローレンス研究員: ああ。あれから、マイルズさんとかマット兄たちの調査が進んで、やっぱり管理官補佐が娘さんに認識災害をぶち込んだって話になってるらしい。具体的な手口とかは、残念ながら教えてもらえなかったけどな。

エージェント・ニコラス: そっか……シェリー医師も、あいかわらず?

ローレンス研究員: そうだな。というか正直、回復の可能性はないに等しいって噂だ。脳の神経をズタズタにやられたから、意識を取りもどすどころか、これから先その命がもつ保証すらないらしい。

エージェント・ニコラス: はあ……そっか、ありがとう。

ローレンス研究員: ……そんで、これからどうするんだ? やっぱり、もうこっちには関わらないのか?

エージェント・ニコラス: それなんだけど……あたしとしては、やっぱりマイルズの様子が気になってるんだ。ここ数日、彼はどんな感じ?

ローレンス研究員: 冷静に見えるけど、ピリピリしてる気もするよ。というか、一緒に調査してるマット兄がどんどん疲れてってるから、きっとすごく気をつかってるんだと思う。

エージェント・ニコラス: そうなんだ……アーサーさんが気をつかう様子が、正直なところ想像つかないんだけど。

ローレンス研究員: マット兄はいい人だよ、天然なだけで。あのときだって、シェリー医師が殺されたって言った俺を𠮟ってくれただろ?

エージェント・ニコラス: そういえば、そうだったね。

ローレンス研究員: あの人は技術士って立場なのに、例の収容違反のせいで人の命の重みってのを知っちまったんだ。だからこそ、俺はあの人のためにもなんとか奥さんを救ってあげたいんだけどな……

沈黙。

エージェント・ニコラス: ……お互い、手詰まりって感じだね。

ローレンス研究員: そうだな……あー、悔しい! なんとか  なんとかならないのかよ、クソ!

沈黙。

エージェント・ニコラス: ……決めた。やっぱり、マイルズに話を聞こうと思う。

ローレンス研究員: えっ……マジで? 次会ったら、上の人にちくられるんだろ? 大丈夫なのか?

エージェント・ニコラス: このまま何もしないよりはマシだよ。それに、謎を謎のままほうっておくのは、内部保安部門のエージェントとして失格だからね。

ローレンス研究員: ……そうか、わかった。応援してるぜ。

エージェント・ニコラス: ありがとう。それじゃあ、切るね。

ローレンス研究員: ああ、またな。

<記録終了>

通話記録

音声記録

2026/01/21


<記録開始>

エージェント・ニコラス: ……もしもし。

沈黙。

エージェント・マイルズ: ……警告したはずですよ、ニコラス。次に  

エージェント・ニコラス: あたしの顔は見せてないよ、マイルズ。

エージェント・マイルズ: ……屁理屈をこねるのはあいかわらず得意なようですね。それで、いったいなんのご用ですか? 私は忙しいのですが。

エージェント・ニコラス: このあいだあたしがした質問に、答えてほしいんだ。君は、どうしてギャレン博士の死をそんなに躍起になって追ってるの?

エージェント・マイルズがため息をつく。

エージェント・マイルズ: ……そちらこそ、ずいぶんとこの件にこだわりますね。君は、この件にたいして関係ないでしょう?

エージェント・ニコラス: その言いぐさだと、まるで君は関係してるってふうに聞こえるけど。

エージェント・マイルズ: ……せん索をして満足ですか、ニコラス?

エージェント・ニコラス: これでも、あたしは君と同じ内部保安部門エージェントなんだよ。真実から目をそらして、次の仕事に移れるような薄情な人間じゃない……君だって同じじゃないの、マイルズ?

沈黙。

エージェント・マイルズ: ……2024年の冬のことでした。このサイトで、1人の女性がアノマリーの収容違反に巻き込まれ、同じくアノマリーと化しました。

エージェント・ニコラス: それって、イヴ・アーサーさんのこと?

エージェント・マイルズ: ええ。ですが、私からするとその名前で呼ばれると違和感があります。私に馴染みがあるのは、旧姓  マイルズのほうです。

エージェント・ニコラス: えっ  

エージェント・マイルズ: 彼女の旧名は、イヴ・マイルズ。私の……姉にあたります。

エージェント・ニコラス:   ええっ!? そうなの!? いやでも、その、なんていうか  

エージェント・マイルズ: 君の言いたいことはだいたい想像できますよ。似ていない、と思ったのでしょう? 当然です。私と彼女に、血のつながりはありませんからね。

エージェント・ニコラス:   どういうこと?

エージェント・マイルズ: 私の父は一度、離婚を経験していましてね。再婚相手の連れ子が、彼女  イヴだったのですよ。

エージェント・ニコラス: はー……なるほど。でも、それが今回の件とどういう関係が?

沈黙。

エージェント・マイルズ: ……そちらに向かいますよ。ここで話すと、いろいろと面倒だ。

<記録終了>

監視カメラ映像

映像記録

2026/01/21


<記録開始>

サイト-98の廊下のソファーに、エージェント・マイルズが座っている。エージェント・ニコラスが現れ、エージェント・マイルズの隣に座る。

エージェント・マイルズ: こんばんは、ニコラス。

エージェント・ニコラス: やあ。遠くまでお疲れ様。

エージェント・マイルズ: 弾丸で往復するはめになった私をねぎらう言葉が、お疲れ様の一言とは度しがたいですね。

エージェント・ニコラス: あー……ごめん。

エージェント・マイルズが1本タバコを取りだし、咥えてライターで火をつける。エージェント・マイルズが煙を吐く。

エージェント・マイルズ: ……さて、どこまで話しましたかね?

エージェント・ニコラス: とりあえず、アーサーさんがお姉さんだってことまでは聞いてるよ。

エージェント・マイルズ: ああ、そうでした。それで、そのことと今回の件との関係性について聞かれたのでしたね。

エージェント・ニコラス: そうだね。

エージェント・マイルズが煙を吐く。

エージェント・マイルズ: ……数年前から、姉はある疑惑を追っていました。

エージェント・ニコラス: 疑惑?

エージェント・マイルズ: ええ。きっかけは、財団によるMC&Dの襲撃によって得られた情報でした。確認された商品の中に、サイト-512で収容しているものとほとんど同じアイテムが1つあったのです。

エージェント・ニコラス: えっ……

エージェント・マイルズ: むろん、アノマリーとはこの世の道理が通じないからこそアノマリーなのです。同じようなアノマリーが2つ存在する、なんてことは当たり前のこと。しかし、それが疑惑の始まりでした。

エージェント・ニコラス:  まさか……

エージェント・マイルズ: ……サイト-512において、要注意団体へのアイテムの不正売却が行われている  という疑惑。姉はその疑惑を追っていました。そして、そのタイミングで都合よく発生した、サイト始動以来初となる収容違反とそれによる姉のアノマリー化。私には、それが偶然だとは思えませんでした。

エージェント・ニコラス: じゃ  じゃあ、マイルズ、君はお姉さんのインシデントを調査するために、ギャレン博士の死を追っているの……?

エージェント・マイルズ: ……そういうことです。もともと、この疑惑は姉から私に伝えられていました。夫のアーサー氏には、巻き込みたくないという理由で伝えられていなかったようですが。姉のインシデントの発生当時、私はロシアのほうで大きな別件を担当していましたから、つい最近に至るまでその別件のせいでこちらに来れなかったわけです。

エージェント・ニコラス: はー、なるほどね……

エージェント・マイルズが煙を吐く。

エージェント・マイルズ: むろん、ギャレン氏の死自体にも、作為的な何かを感じてはいました。しかし、本命である不正売却疑惑に関して、外部からでは証拠がまったくつかめていませんでした。私がサイト-512に入りこむには、ギャレン氏の死を不審死と言いはって調査に踏みきるほかなかったのですよ。

エージェント・ニコラス: そう、だったんだ……ちなみに、それで疑惑のほうはどうなの?

エージェント・マイルズ: ……残念ながら、サイトに乗りこんでもなお、決定的な証拠は何ひとつ見つかっていません。ただ、手がかりは着実に集まってきています。このサイトで発生していた、一連のハッキング。それは、データの改ざんによる不正売却が行われていた可能性につながる重要な情報です。この細い線をたどっていけば、きっとその先に姉のアノマリー化と、アイテムの不正売却の真相がある。

エージェント・マイルズが、ソファーを拳で叩く。

エージェント・マイルズ: ……だというのに、先のシェリー氏のインシデントです。真実を知っていたであろう人物の口を塞がれてしまった。シェリー管理官補佐と  君たちのせいでね。

エージェント・ニコラス: それは  

エージェント・マイルズ: 自分でもわかっていますよ、やつあたりだということぐらいはね。しかし、それでもどうしても許せなかったのですよ。あんな暴挙を許してしまった君たちのことも……この私自身のことも。

沈黙。

エージェント・ニコラス:   ねえ、マイルズ? 1つ、あたしから提案があるんだけど。

エージェント・マイルズ: ……なんですか? まさか、シェリー管理官補佐の弁護を担当する、とでも言うのではないでしょうね?

エージェント・ニコラス: そのまさかだよ。

エージェント・マイルズが立ち上がる。

エージェント・ニコラス: 言いたいことはよくわかる。でも、作戦自体は前回と同じだよ。君は今、証言者の口を塞がれて、管理官補佐への怒りで目がくもってる。だからこそ……共闘する相手、っていうのが必要なんじゃないかな?

エージェント・マイルズ: ……君は、あいかわらず突拍子もないことを言う人間ですね。

エージェント・ニコラス: でも、そんな突拍子もない思いつきを君が否定しなかったから、あたしはローレンスを助けられたんだ。

エージェント・マイルズ: はっ……そんな提案、この私がのむとでも?

エージェント・ニコラス: 信じてるから言ってるんだよ、マイルズ。君は、いっときの感情より真実を優先できる人だ。だから……お願い。あたしに、シェリーさんの弁護をさせて。

沈黙。

エージェント・マイルズ: ……先日の警告は撤回します。審判の手続きはこちらでしておきましょう。全力で……君たちを叩きつぶしますよ、エージェント・ミア・ニコラス。

エージェント・ニコラス: 受けてたつよ、エージェント・ユースタス・マイルズ。

エージェント・マイルズが、映像外へと出ていく。

<記録終了>

通知: 第3回審判

通知

2026/01/22


内部保安部門エージェント・ユースタス・マイルズの要請に伴い、アルバ・シェリー管理官補佐の審判が実施されることが決定された。2026/01/31、サイト-512のミーティングルームにて行われる予定である。

  サイト-512管理官デイモン・ウィナー

監視カメラ映像

映像記録

2026/01/22


<記録開始>

サイト-512・B1Fのエレベーター前にて、ローレンス研究員が立っている。エレベーターの扉が開き、エージェント・ニコラスが現れる。

エージェント・ニコラス: やあ、ローレンス。

ローレンス研究員: ニコラス! けっきょく、マイルズさんは大丈夫だったのか?

エージェント・ニコラス: まあね。いちおう説得して、ここに来ても上に報告しないって約束を取りつけてきた。

ローレンス研究員: それはよかった。

エージェント・ニコラス: ……で、なんだけど。ローレンス、実はあたし  

ローレンス研究員: やるんだろ、管理官補佐の弁護?

エージェント・ニコラス:   どうしてわかったの?

ローレンス研究員: お前ならどうせそんなこと言うんだろうな、って思っただけだよ。そんで、別に俺に了解なんか取らなくていい。俺が知りたいのは、真実だ。このインシデントに隠された裏だ。そのためならなんでもする。ただ  

ローレンス研究員がうつむく。

ローレンス研究員:   悪い。今回は、俺は参加できない。

エージェント・ニコラス: ……そっか。

ローレンス研究員: 別に、反発してるわけじゃないぜ? むしろ、協力できるなら全力でしてやりたい。だけど……前回の審判で、俺はたいして役に立てなかった。

エージェント・ニコラス: そんなことは  

ローレンス研究員: だから、俺は決めたんだ。俺はこの全力を、俺が本当にすべきことに注ぐんだってな。そういうわけで、悪いけど、審判には参加できそうもない。

エージェント・ニコラス:   そっか、わかった。あたしも、無理に君を参加させるつもりはないよ。むしろ、全力を出さないといけないのはあたしのほうだから。

ローレンス研究員: そうだな。あの、ピリピリしてるマイルズさんとやりあって、真実ってのを見つけてきてくれ。

エージェント・ニコラス: うん、任せてよ。君も、君のやるべきことってのを頑張って。

ローレンス研究員: おう。お互い、健闘を祈る。

ローレンス研究員とエージェント・ニコラスが、互いに手を振りあってそれぞれ反対方向に歩きだす。

<記録終了>

監視カメラ映像

映像記録

2026/01/22


<記録開始>

サイト-512・B1Fの懲罰房にて、シェリー管理官補佐が勾留されている。エージェント・ニコラスが、懲罰房の前にやってくる。

エージェント・ニコラス: どうも、管理官補佐。

シェリー管理官補佐: あっ……! ニコラスくん!

シェリー管理官補佐が立ち上がり、格子に手をかけて揺さぶる。

シェリー管理官補佐: ダリアは!? うちの娘の容体はどうなのだね!?

エージェント・ニコラス: ……詳しくはあたしも知りませんが、いい状態ではないのは確かですね。

シェリー管理官補佐: ぐっ……そうか。ああ、ダリア……

シェリー管理官補佐が膝をつき、うなだれる。

エージェント・ニコラス: 管理官補佐。もうご存じかもしれませんが、あなたの審判が今度の31日に決まりました。

シェリー管理官補佐: ……ああ、聞いているとも。

エージェント・ニコラス: あなたの弁護は、あたしが担当します。

シェリー管理官補佐が顔を上げる。

シェリー管理官補佐: ……君が?

エージェント・ニコラス: はい。その様子を見て、確信しました。あなたは、娘さんを殺そうとした犯人ではない。

シェリー管理官補佐: あたりまえだろう! 自分の子供の命を、自ら奪う親がいてたまるものか!

エージェント・ニコラス: そのとおり。つまり、あなたは利用されたんです。このインシデントの裏に隠れている、真犯人に……何か、心当たりはありませんか?

沈黙。

シェリー管理官補佐: ……正直、真犯人の心当たりはない。ただ、私が利用されたのは確かだろうな。だって、あのとき私が流そうとしたのはあんな音声ではなかったのだから。

エージェント・ニコラス: 確かに、あのときのあなたは様子が変でしたね。それにしても、管理官補佐、いったいあなたはどうしてあんなことを?

シェリー管理官補佐: あのとき言っただろう、決定的な証拠を見つけた、と。私は、もともと容疑者の関係者ということでマイルズくんたちの調査には関わらせてもらえなかった。だから、私的に調査をしていたのだよ。こっそりログにアクセスして、監視カメラ映像に何か証拠が残っていないか探していたのだ。

エージェント・ニコラス:  そんなことを……

シェリー管理官補佐: そして、見つけたのだよ。監視カメラ映像にたまたま映った、娘の端末のホーム画面を。そこには、ボビーのアプリケーションのアイコンは見当たらなかったのだ。

エージェント・ニコラス: 知っていたんですか、ハッキングにボビーが使われていたことを?

シェリー管理官補佐: ああ。これでも私は管理官補佐だ、サイト内のインシデントの調査結果をある程度なら知ることができる。それで、娘がやったとされる改ざんにボビーが関わっていると知った。だから、私はなんとかあの子がボビーを使っていない証拠を探そうとしたのだ。そして、さっき言った映像を見つけたのだよ。

エージェント・ニコラス: そうして、それをシメオンに送ってあの場で流そうとした、と。

シェリー管理官補佐: ……その結果がこのざまだ。きっと、この流れのどこかに真犯人の罠が潜んでいたのだろう。今思えば、私が掴んだのは公式の証拠ではない。私的調査に基づく証拠など、受理もされないということは考えればわかることのはずだったのだが……あのときの私に、冷静な判断能力はなかったのだ。

エージェント・ニコラス: なるほど……教えてくださってありがとうございます、管理官補佐。

シェリー管理官補佐がため息をつく。

シェリー管理官補佐: ……別に、正直言って、私自身がどうなろうとどうでもいいのだ。いわれのない罪で投獄されようとされまいと、娘が帰ってくるわけではない。ただ、娘にあんなことをした真犯人がいるというのであれば、それだけはなんとしても知りたい。絶対に。

エージェント・ニコラス: そうですね、同意見です。あたしも、真実を知りたい。そのために、あなたを弁護させていただきますよ。

シェリー管理官補佐: ……ああ、お願いするよ。私のため、そして娘のために、真犯人を見つけ出してくれ。

エージェント・ニコラス: もちろんです。

エージェント・ニコラスが、懲罰房の前から離れていく。

<記録終了>

第3回審判#01

映像記録

2026/01/31


<記録開始>

サイト-512・B1Fのミーティングルームにて、ウィナー管理官、エージェント・マイルズ、エージェント・ニコラス、およびシェリー管理官補佐が着席している。シェリー管理官補佐は手錠をかけられている。

ウィナー管理官: さて、それでは審判を開始しよう。ニコラスくん、マイルズくん、ともに準備はいいかな?

エージェント・ニコラス: ……はい、管理官、一応は。

エージェント・マイルズ: こちらは完璧に完了しております……どうやら、そちらの調査結果はかんばしくなかったようですが、ニコラス。

エージェント・ニコラス: うっ……

ウィナー管理官: はいはい、よろしい。さて、今回のインシデントを振り返る必要はあるかな? いちおう、この場の全員が当事者といえるわけだけど。

エージェント・ニコラス: ……まあ、念のため行っておいていいんじゃないでしょうか?

ウィナー管理官: そう? じゃあ、さっそくお願いしようかな、マイルズくん。

エージェント・マイルズ: 承知いたしました。シメオン、全員に資料の提示を。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー管理官補佐を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: ありがとうございます。さて、今回のインシデントですが。2026年1月16日、ここサイト-512の地下1階・ミーティングルームにて、ダリア・シェリー氏が致死性の認識災害に曝露しました。その認識災害の媒体である音声はシメオンが再生したものですが、その指示を出したのは他でもない  そこにいる氏の父親、アルバ・シェリー管理官補佐になります。

ウィナー管理官: まあ、わかりきったことだね。このことについては、ニコラスくん、君自身も証人として証言できる立場にあると思うけど?

エージェント・ニコラス: まあ……そのとおりですね。

ウィナー管理官: なら、わざわざわかりきったことについて議論する意味もないだろう。さっそく判決を  

エージェント・ニコラス: お待ちください! こちらの反論がまだです。

ウィナー管理官:   反論する意味は感じないけど?

エージェント・ニコラス: 無駄な議論などありませんよ、管理官。それに、マイルズ、無駄なあがきは君も嫌いじゃないんでしょう?

エージェント・マイルズ: ……確かに、こちらに異論はありませんね。

ウィナー管理官: ぬう……しかたない。それじゃあ、さっそく反論とやらを聞かせてもらおうか。

エージェント・ニコラス: はい。まず先日、あたしはシェリーさんに面会したさい、ある証言を聞いています。自力でサイト-512の調査をしていたところ、娘さんの端末のホーム画面が映った映像を見つけたため、それをシメオンに流させた  と。つまり、その一連の流れに第三者の介入があって、シメオンが認識災害を含む音声を流すことになったとこちらは主張します!

ウィナー管理官: 苦しい言い訳だねー。なんか証拠でもあるの?

エージェント・ニコラス: ……まずは、マイルズ、君が証拠を出す番だよ。あたしの言った一連の流れに、第三者の介入する余地がないことを示す証拠を提示してほしい。

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官: おいおい、相手頼りの立証なんて聞いたことがないよ。ニコラスくんの反論は却下  

エージェント・マイルズ: お待ちを、ウィナー管理官。こちらには、ニコラスの提案に応じる用意があります。

ウィナー管理官:   今日は、揃いも揃って反抗的だね。こんな日に限って、楯突きカウンター持ってくるの忘れちゃったよ。

エージェント・マイルズ: シメオン、登録証拠#M3-01を。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー管理官補佐を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: こちらは、被害者であるシェリー氏および、容疑者であるシェリー管理官補佐の端末に関する調査結果となります。彼女の端末は、前回の審判でアーサー氏が証言していたように、ハッキングの拠点として改造され非常に解読困難な状態に陥っていたわけですが……そんな中、1つのメッセージが復元されたのです。

エージェント・ニコラス: メッセージ?

エージェント・マイルズ: ええ。シェリー管理官補佐から氏に送信された、1通のメッセージです。内容は、次のとおりでした。「すまない、ダリア。ギャレン博士を殺してしまった。彼の検案書の偽装をはかってほしい。監視カメラは私がごまかしておく」……と。

エージェント・ニコラス: なっ  

エージェント・マイルズ: それだけではありません。このメッセージには、具体的な偽装工作の指示書が添付されていたのですが、その中に認識災害が含まれていたのです。単体では毒性を発揮しないが、対となる認識災害  前回の審判で流されたそれと組み合わさることで、致命的な効果を発揮するそれが。

エージェント・ニコラス:   なんですって!

シェリー管理官補佐:  そんな!

ウィナー管理官: なるほど。つまり、あのとき同じ音声を聞いた僕らが無事で済んだのは、その対となる認識災害とやらを事前に摂取してなかったからだった、と。

エージェント・マイルズ: ことはそれにとどまりません。先述のとおり、シェリー氏の端末はハッキングの拠点として改造されていたわけですが、シェリー管理官補佐の端末もある程度の  失礼、BYOVD攻撃が施されていたようなのです。そして、彼の端末から攻撃者としてのハッキングの履歴が複数確認されています。つまり、シェリー氏の端末を介してハッキングを行い、ギャレン博士を殺害した真犯人もまた  そこの、シェリー管理官補佐ということなのです!

エージェント・ニコラス:  なんてこと……

シェリー管理官補佐:  違う! 私は  私は  

ウィナー管理官: シェリー、黙って聞いていなさい。君に発言権はないんだよ。

シェリー管理官補佐:   ぐっ……

エージェント・ニコラス:  しかし! マイルズ、それじゃあまだ不十分でしょう? それこそ、シェリー医師の端末がハッキングの媒介に使われたのと同じように、管理官補佐の端末だって同じことをされた可能性も  

エージェント・マイルズ: こちらについているのは、シメオンを開発したIT部門の精鋭ですよ? その彼、アーサー氏が調べた限り、そのような痕跡は見つかっていません。

エージェント・ニコラス: ううっ……だ  だとしても! まだ調査が不十分の可能性はあります! それに、仮に管理官補佐が真犯人だったとして、ギャレン博士を殺害する動機はなんなんですか!? 博士と管理官補佐の間に、接点はないはずでしょう!

ウィナー管理官: また動機の話をするとは、懲りないねえ、ニコラスくんも。

エージェント・マイルズ: ……甘い。実に甘いですね、エージェント・ミア・ニコラス。確かに、前回の審判で私は動機を主張することができませんでした。しかし、それは実際に動機がなかったからにすぎません。シェリー氏は、父親の陰謀に巻き込まれただけだったのですよ。そして、今回は真犯人たるシェリー管理官補佐をこの場に引きずりだすことに成功しています。つまり……こちらには、シェリー管理官補佐の動機を説明する用意があるのですよ!

エージェント・ニコラス: なんだって!

エージェント・マイルズ: ウィナー管理官! 私は、この場で別のインシデントの審判を行うことを提案します。

ウィナー管理官: 別の? いったいなんの話かな?

エージェント・マイルズ: お聞きのとおりです。シェリー管理官補佐とギャレン氏の間の接点となる、とあるインシデントについて議論したく存じます。そう……'24年の冬に、このサイト-512で発生したインシデントについて!

エージェント・ニコラス:  まさか……

エージェント・マイルズ: もちろん、SCP-4183-JP  イヴ・アーサー氏のアノマリー化インシデントについての審判ですとも!

エージェント・ニコラス:  待って、マイルズ! まさか、君はそのインシデントにも管理官補佐が関わってるって言うつもり!?

エージェント・マイルズ: そのとおり。これまで、あのインシデントは単なる事故として処理されてきました。しかし、私の調査の結論としては、それは誤りであったということになります。

ウィナー管理官: ……ほう。

エージェント・マイルズ: ウィナー管理官! シェリー管理官補佐の罪をすべて暴くためにも、さらなる審判をここに要求いたします。そうすることで、エージェント・ニコラスの求める動機面もハッキリすることでしょう。

沈黙。

ウィナー管理官: ……僕としては、微妙なところだね。正直、今の段階でもシェリーのやつに判決を下すことも可能だ。マイルズくん、君の意見は却下  

エージェント・ニコラス:  お待ちください、管理官!

ウィナー管理官:   何かな?

エージェント・ニコラス: あたしからも、お願いします。管理官補佐の動機がハッキリしない以上、こちらとしては判決を受けいれることはできません。

ウィナー管理官: あのねー、ニコラスくん。君の受けいれる・受けいれないは問題じゃないの。動機以外の説明ができているのなら、判決を下すことはできるわけ。それに、ことはサイト管理官補佐による殺人だよ? 早いとこ片づけて、人事とかいろいろ動かさなきゃいけないの。わかる?

エージェント・ニコラス: そんな!

エージェント・マイルズ: ウィナー管理官! 私も、その意見には反対の意を表明いたします。管理官補佐という重役の罪であるからこそ、完璧な立証でなければならない。それに、ウィナー管理官、あなたのその言動は、シェリー管理官補佐の罪を隠そうとしているかのようにとられかねませんよ?

沈黙。

ウィナー管理官: ……やだなー、マイルズくん! そんなことあるわけないじゃない……まあ、そこまで言われちゃしかたない。許可するよ。'24年の……えー、4183-JPのインシデントについての審判を行おうじゃないの。

エージェント・マイルズ: 感謝申し上げます、ウィナー管理官。

エージェント・ニコラス: ふう……セーフ!

ウィナー管理官: そこ、無駄口を叩かない。じゃあ、いったん休憩に入ろうか、諸君。

<記録終了>

SCP-Dμ34

文書記録

(更新)2024/11/29


アイテム番号: SCP-Dμ34
収容クラス: Safe
classified-lv2.svg
レベル2/Dμ34
機密

recorder.jpg

SCP-Dμ34

特別収容プロトコル: SCP-Dμ34はサイト-512・B5Fの収容区画にて、中脅威度アイテム収容ユニットに収容されています。SCP-Dμ34の担当職員には、対抗ミーム-Dμ34の接種が義務づけられます。SCP-Dμ34に関するさらなる実験は、サイト-512管理官の許可がないかぎりは実施されません。

説明: SCP-Dμ34は、高いミーム感染性を帯びた音声が収録されたデジタル音声レコーダーです。SCP-Dμ34に収録されている音声は、他の機械的な音声記録媒体によって記録することができず、記録が試みられた場合その媒体の氷結および物理的破損という結果に終わります。

当該音声の内容は、モーリス・ラヴェル作曲のバレエ曲「ボレロ」に独自の英語歌詞を割り当て、不明女性がそれを歌唱したものです。対抗ミーム接種なしに当該音声を認識したヒト個体は、自由意志を一時的に喪失し当該音声を発声しつづけるようになります。ヒト個体の発声する音声にも同様の特異性が存在しているため、当該音声はミーム的パンデミックを引き起こすリスクを有しています。なお、当該音声によるミーム感染はクラスA/B記憶処理によって除去することが可能です。

SCP-Dμ34は、2024/11/03にGoI-132("マーシャル・カーター&ダーク株式会社")の拠点襲撃が実施されたさいに、関連アイテムの1つとして発見されました。関連資料がいずれも処分されていたため、SCP-Dμ34の販売目的や用途などについては不明です。


補遺Dμ34.1: 収容違反

2024/11/28、B5Fの研究区画にて初のSCP-Dμ34の再生実験が行われ、それによって収容違反が発生しました。当時はSCP-Dμ34の特異性についていっさい情報がなかったため、再生実験が許可される事態になりました。実験室内にいたDクラス職員、および実験を担当していたクリストフ・ギャレン博士がミーム感染の被害を受け、それをきっかけにミーム感染が連鎖的に拡大しました。これを受け、セキュリティルームより緊急アラームが発令され、サイト-512職員はB1Fへと避難しました。

結果として、ギャレン博士をはじめとする27名の職員がB5FにてSCP-Dμ34のミーム感染の被害を受けました。当該職員らはいずれも、クラスA記憶処理によってミーム感染から回復しました。なお、この収容違反の結果として、職員の被害状況を参考に対抗ミーム-Dμ34が開発されました。

また、B5Fの研究区画にてイヴ・アーサー管理部門役員が氷結した状態で発見されました。アーサー役員は当時B5Fにて避難誘導を行っており、その中でミーム感染を受けたと推定されていますが、このような状態に変化した詳細な原因は不明です。Dクラス職員を用いたミーム感染実験でもこのような結果は確認されず、再現性は認められませんでした。このため、アーサー役員は独立したアイテムとしてSCP-4183-JPに分類されました。

第3回審判#02

映像記録

2026/01/31


<記録開始>

サイト-512・B1Fのミーティングルームにて、ウィナー管理官、エージェント・マイルズ、エージェント・ニコラス、およびシェリー管理官補佐が着席している。シェリー管理官補佐は手錠をかけられている。

ウィナー管理官: さて、審判を再開  もとい、新たな審判を開始しよう。えー、それじゃあマイルズくん、例のインシデントの概要を説明してもらえるかな?

エージェント・マイルズ: 承知いたしました。シメオン、SCP-Dμ34のファイルを共有しなさい。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー管理官補佐を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: 感謝します、シメオン……さて、このインシデントは先ほど述べたとおり、2024年11月28日にここサイト-512の地下5階にて発生しました。担当職員であるクリストフ・ギャレン氏がSCP-Dμ34の実験を行ったさい、記録されていた音声が流出する収容違反が発生したのです。これにより、ギャレン氏をはじめとする27名の職員がミーム感染の被害を受け、また多くの監視カメラが破損する結果となりました。そして、このときにアノマリー化したのが  先に述べましたように、SCP-4183-JPことイヴ・アーサー氏になります。

エージェント・ニコラス: ……なるほど。もともと、Dμ34自体に氷結の特異性はあったんだね。

エージェント・マイルズ: ええ。しかし、SCP-Dμ34の音声による氷結はあくまで対機械のもの。人間に対しては、ミーム感染という影響以外をおよぼさないはずでした。それが、どういうわけか人間さえも氷結してしまったのが、今回のインシデントということです。

ウィナー管理官: んー、それで? 聞いてるかぎりだと、別にここにシェリーのやつが登場する余地はないけど。マイルズくん、君の言い分だとこれが、シェリーがギャレンを殺す動機に繋がるって話だったよね?

エージェント・マイルズ: そのとおり。私はこれが、シェリー管理官補佐の手によって引き起こされた人為的なインシデントであったと主張します!

エージェント・ニコラス: なんだって!

ウィナー管理官: 人為的、ねー……当時はうちで起こった初の収容違反ってこともあって、けっこうシッカリ調査が行われたんだけどさ。マイルズくん、君はうちの調査にけちをつける気なのかな?

エージェント・マイルズ: 誤解を恐れずに言うならば、そういうことになります。サイト上層部の人間が関わっていれば、調査に圧力もかけやすいでしょうから。

ウィナー管理官: つまり……何か、うちで隠ぺいがあったと?

エージェント・マイルズ: 可能性は否定できません、ウィナー管理官。

エージェント・ニコラス:  しかし、証拠はあるんですか? 管理官補佐が、アーサーさんのアノマリー化に関わっている証拠です!

エージェント・マイルズ: ……そうですね。まず、このインシデントが人為的なものであったことを証明してご覧に入れましょうか。シメオン、登録証拠#M3-02の提示を。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー管理官補佐を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: これは、インシデント当日の地下5階・収容区画における、とあるアイテムの監視カメラ映像です。このアイテムはいずれもギャレン氏の担当であり、このようにギャレン氏が一時的に収容ユニット外に持ち出しています。記録によれば、当時は未登録異常分類だった当該アイテムは、実験の名目で持ち出されたようです。その後のこの日の足取りは、残念ながらSCP-Dμ34の収容違反に伴い記録されていませんが……最終的には、無事に実験が終わってAnomalousアイテム・AO-F057として地下3階に移動されたようです。

エージェント・ニコラス: ……確かに、ギャレン博士の姿が映っているけど。これがいったい?

エージェント・マイルズ: 問題は、AO-F057の特異性なのですよ。

エージェント・ニコラス:  どういうこと?

エージェント・マイルズ: シメオン、登録証拠#M3-03をお願いします。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー管理官補佐を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・ニコラス: ……なっ!

エージェント・マイルズ: そう……長時間噴霧することであらゆる対象を氷結させるスプレーなのですよ、これは。SCP-Dμ34によって自由意志を喪失しているさいにこのアイテムを用いれば、1人の人間を凍結させることもたやすい。

エージェント・ニコラス: じゃ  じゃあ、マイルズ、アーサーさんを凍結させた犯人っていうのは  

エージェント・マイルズ: ……そのとおり。昨年に亡くなった、クリストフ・ギャレン氏その人である可能性が高いのですよ!

エージェント・ニコラス:   噓でしょ!?

ウィナー管理官: ちょっと待った、マイルズくん。この資料にもあるとおり、当時AO-F057は未登録異常あつかいで、その特異性は未解明だったはずだ。だからこそ、ギャレンはこれを研究区画に持ちだしたわけだからね。

エージェント・マイルズ: 確かに、おっしゃるとおりですね。

ウィナー管理官: なら、ギャレンのやつに不正利用は不可能だったはずだ。特異性を知らないアイテムの不正利用なんて、できるはずがない。じつに簡単な論理だよ。

エージェント・ニコラス:  確かに……

ウィナー管理官: それに、マイルズくん、当時の状況を忘れたのかなー? まず、SCP-Dμ34の収容違反の前は、監視カメラとシメオンによる監視の目が光っていた。そして、SCP-Dμ34の収容違反が発生して、ギャレンを筆頭にミーム感染と監視カメラの破壊が広がった。少なくとも、ギャレンにAO-F057を不正利用する隙なんてなかったんだよ。わかる?

エージェント・マイルズ: 残念ながら、ウィナー管理官、こう考えればつじつまが合うのですよ。つまり……ギャレン氏は、最初からこれらアイテムの特異性を知っていた、と。

ウィナー管理官: ……はあ?

エージェント・ニコラス:  ちょっと待って、マイルズ。どういうこと? 未登録異常の内容を、研究する前から知るチャンスなんか  あっ!

エージェント・マイルズ: ニコラス、君は気づいたようですね。そう、SCP-Dμ34も、AO-F057も、いずれもMC&Dの拠点襲撃によって接収されたものでした。回収以前に資料が処分されていたため、財団は事前に特異性を把握することができなかったわけですが……逆にいえば、それら資料に事前に触れていれば、特異性を知っておくことができる。

エージェント・ニコラス: ……ま  まさか  

エージェント・マイルズ: そう。ギャレン氏は、MC&Dと裏で繋がっていた可能性があるのですよ!

エージェント・ニコラス:   ええっ!?

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官: これは傑作だなー! ギャレンがGoIの関係者だったって? 聞いてるぶんには面白いけど、サイト管理官としちゃあ、そうやすやすと受けいれられるものじゃないね。マイルズくん、その証明がはたして君にできるのかな?

エージェント・マイルズ: それが、ウィナー管理官が提示なさったもう1つの疑問点にかかってくるのですよ。確かに、本来であればギャレン氏にアイテムの不正利用の隙は存在しませんでした。しかし、彼がMC&Dの情報を事前に知っていたならば、SCP-Dμ34のミーム感染への対策が取れたはずです  それこそ、追々になって開発されたとされる対抗ミームを、事前に製作して接種しておけばいい。

エージェント・ニコラス:  なるほど……?

エージェント・マイルズ: あとは、自分で例の歌を歌唱して監視カメラの破壊とミーム的パンデミックを引き起こせば、誰も見ていない中で堂々とアーサー氏の凍結を実行できます。仮にミーム感染の前に目撃されたとしても、最終的にはクラスA記憶処理によってそれは忘れられてしまうわけですから。そして、それをSCP-Dμ34のせいであると結論づければ、財団でしばしば発生する副次的なアイテムの発生であるとごまかすことができるということです。

エージェント・ニコラス:  確かにそうだけど、その証拠はあるの?

エージェント・マイルズ: シメオン、登録証拠#M3-04を。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー管理官補佐を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: 発見当時、AO-F057の重量が計測されていました。正式にAnomalousアイテムに分類されたさいにも、ほとんど同じ重量が計測・記録されていたのですが……改めてこちらではかったところ、その重量が大幅に減少しているのが判明したのです。つまり、担当者であるギャレン氏が地下3階への移動時に重量を偽装したことになります。

エージェント・ニコラス: ぐっ……で  でも君の一連の推理は、ギャレン博士がMC&Dの関係者だっていう前提のものだ。君の調査結果が真実だとしても、それはあくまでギャレン博士が何かの理由で偽装をしたということを立証しているだけにすぎない。ギャレン博士とMC&Dの間に繋がりがあるっていう証拠はあったの?

エージェント・マイルズ: ……残念ながら、それはありませんでした。

ウィナー管理官: うーんそっか、残念、残念。それじゃあ、この話はおしまい  

エージェント・マイルズ: お待ちを、ウィナー管理官。ニコラス、この話の発端となる、そもそもの私の主張を覚えていますか?

エージェント・ニコラス: えっ? それは、管理官補佐がアーサーさんのアノマリー化を引き起こした、っていう  えっ、あっ?

エージェント・マイルズ: そのとおり。私が真に主張したいのは、ギャレン氏とMC&Dの関係ではありません。MC&Dと実際に関わっていたのは……そこの、アルバ・シェリー管理官補佐だったのです!

シェリー管理官補佐: 何っ!?

ウィナー管理官:   ふーん?

エージェント・マイルズ: そしてそれこそが、シェリー管理官補佐ならびにギャレン氏がアーサー氏をアノマリー化しようとした動機である、と私は考えています。当時、アーサー氏はこのサイトにおける疑惑を追っていました。そのため、MC&Dと裏で繋がっていたシェリー管理官補佐は、氏を消そうと画策したのです。その実行犯として選ばれたのが、ギャレン氏だったということになります。

エージェント・ニコラス:  待ってください! 管理官補佐とMC&Dの関係性を立証する証拠が提示されていません!

ウィナー管理官: 確かに、そのとおりだね。

エージェント・マイルズ: ……物的証拠は、確かに存在しません。しかし、状況的にそれを説明することは可能です  もう1つ、さらなるインシデントについて追求することで、ですが。

ウィナー管理官: ……もう1つ?

エージェント・マイルズ: 言ったでしょう、アーサー氏は疑惑を追っていた、と。その疑惑というのが、さらに私が追求したいもの  サイト-512におけるアイテムの不正売却インシデントなのですよ。

エージェント・ニコラス: ……もうそこまで話を進めるんだね、マイルズ?

エージェント・マイルズ: 全力で君たちを叩きつぶす、と申し上げたはずですよ、ニコラス。

ウィナー管理官: ……へー、不正売却? 急にそんな突拍子もないことを言われても、困っちゃうな。というか、それって僕に対する挑戦なのかな? つまり、僕の目が光っている中で、シェリーのやつが不正売却とやらをやってたってことでしょー?

エージェント・マイルズ: そういうことになりますね。

ウィナー管理官: 困るなー、僕としては。サイト管理官としての威信にかけて、そんなことが起こっていたと認めるわけにはいかない。それを決定的に立証する証拠でもあれば別だけど。

エージェント・マイルズ: 残念ながら、ウィナー管理官、こちらには立証の用意があります。シメオン、登録証拠#M3-05を提示しなさい。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー管理官補佐を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: こちらは、地下4階にて収容されているAO-C1K3という木彫りの像です。担当職員は、件のギャレン氏でした。その特異性は、触れた者に中毒性のある多幸感を与えるというものですが……こちらの調査の結果、その特異性に再現性が見られませんでした。

エージェント・ニコラス:  どういうこと?

エージェント・マイルズ: 簡単なこと。触れた結果、記述にあったような多幸感が確認されなかった、それだけのことです。つまり、現在この下の地下3階で収容されているAO-C1K3は、なんの特異性もないただの像  どこかのタイミングですりかえられたレプリカだったのですよ。

エージェント・ニコラス: ええっ!

ウィナー管理官: ありゃー、それは残念。でも、それだけでレプリカだと決めつけるのは早計じゃないかな? 単に、そのアイテムが無力化しちゃっただけかもしれないし  

エージェント・マイルズ: 確かに、短期間だったということもあって調査が追いついていませんが。ギャレン氏が生前に担当していたアイテムを調査した結果、それらの大半が無力化していたと判明すれば、それを偶然と片づけることはできないのではないでしょうか?

ウィナー管理官: ……判明すれば、の話でしょ? まだわかってない段階で、レプリカにすりかえられてたなんて突拍子もない説を受けいれるわけにはいかないなー、僕としては。もちろん、そんな説を根拠にぜんぶのアイテムの調査をさせるつもりもないよ。

ウィナー管理官が咳払いする。

ウィナー管理官: それに、仮に本当にギャレンの担当アイテムがどれも無力化していたとして。いったいいつどこで、それをレプリカに入れかえるチャンスがあったって言うのかな? さっきも言ったとおり、このサイトには監視カメラとシメオンがある。それに、それを上手くやりすごしたとしても、そもそもとして職員たちの目がある。そんな、レプリカと本物を入れかえるなんて大それたこと、うちじゃーしようがないよ。

エージェント・ニコラス: ……確かに、管理官のおっしゃるとおりです。このサイトでは、地上階から搬入されたアイテムが、まず地下5階の研究区画に届けられます。そして、そこで特異性試験が行われて、正式にそれぞれ適切な収容ユニットなり電子保管庫なりに移動されます。そして、ギャレン博士が担当していたのは搬入後のアイテムの研究と収容です。最初からレプリカが搬入されでもしないかぎり、地下から出られないギャレン博士にすりかえを行うことはできません。まさか、マイルズ……管理官補佐が、そもそもレプリカを搬入させていたと主張するつもり?

エージェント・マイルズ: その可能性はほとんどないでしょうね。ギャレン氏の担当アイテムの多くは、サイト外のエージェントなどが発見しこのサイトに持ちこんだものです。同一の職員が持ちこんだもの、というわけではありません。つまり、ギャレン氏のほかにシェリー管理官補佐の共犯はおらず、搬入時には実際に本物のアノマリーがこのサイトに持ちこまれてきた、ということになるでしょう。

エージェント・ニコラス: なら、すりかえを行うことはできないよ。地下にこもっていたギャレン博士にも、そもそもアイテムに触れる機会のない管理官補佐にもね。彼らには、地上の顧客にアイテムを届けることも、レプリカを製作したり外部から入手したりすることもできないわけだ。

エージェント・マイルズ: ふっ……残念ながら、そうはいかないのですよ、ニコラス。

エージェント・ニコラス: ……なんだって?

エージェント・マイルズ: シメオン、登録証拠#M3-06です。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー管理官補佐を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: これは、先ほどの木彫りの像ことAO-C1K3が未登録異常だった当時、地下5階・研究区画の実験室にギャレン氏がAO-C1K3を持ちこんださいの監視カメラ映像です。ギャレン氏が見守るなか、実験室にて脳波検査コードに繋がれたDクラス職員がAO-C1K3に触れています。その後、Dクラス職員が実験室から出たあと、数分してからギャレン氏がAO-C1K3を回収しています。

エージェント・ニコラス: ……確かに、そうみたいだね。これが、いったい?

エージェント・マイルズ: 問題は、Dクラス職員がその場を離れてからギャレン氏がアイテムを持つまでの空白の時間です。

エージェント・ニコラス: え? でも、映像じゃあ特に変わったことは起きてないみたいだけど……

エージェント・マイルズ: 最近のAIは優秀ですね。この、一見するとただ動きのないだけの映像が、偽造されたものであると判定できるのですから。

エージェント・ニコラス: えっ!

エージェント・マイルズ: そう。詳細な再検証の結果、この映像は実際には静止画像をそのまま表示しているだけの、偽造されたものであることが判明しました。IT部門の技術士の皆さんが、シメオンを使って確認してくださいましたよ。つまり、この空白の時間、実験室ではギャレン氏が何かを行っていたということになります。

エージェント・ニコラス:  待ってよ、マイルズ! それじゃあ、その偽造をした人物っていうのが  

エージェント・マイルズ: そのとおり。そこの、シェリー管理官補佐ということになります。

エージェント・ニコラス:   ううっ!

シェリー管理官補佐: バカな! 私は  

ウィナー管理官: 黙っててくれるかな、シェリー。発言権は君にないんだってば。

シェリー管理官補佐:   うぐっ。

ウィナー管理官: さて、マイルズくん。確かに、うちのIT部門を信じるなら実験室で何かが行われていたことは明白だ。でも、だからなんだっていうのかなー? 実験室で何をしようと、地上のMC&Dにアイテムを届けたり、レプリカをあれこれしたりはできないはずだけど。

エージェント・マイルズ: では、とどめを刺させていただきましょう。シメオン、登録証拠#M3-07の提示をお願いいたします。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー管理官補佐を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: これは、地下5階の実験室にて行われた時空間調査の結果です。簡易的な装置で行ったため、まだ確実とは言いがたい段階ではありますが……いずれの実験室からも、時空間の歪みという痕跡が検出されました。

ウィナー管理官: ……ふむ。つまり?

エージェント・マイルズ: これも簡単なことです。つまり、MC&Dはポータルを開けることによってアイテムをギャレン氏から回収していたのですよ!

エージェント・ニコラス: なんだって!

エージェント・マイルズ: まだ調査中ではありますが、少なくともこのサイト-512にポータルを開けるような特異性のアイテムは収容されていませんでした。恐らくは、MC&D側がポータルを開けていたのでしょう。つまり、そこでアイテムとレプリカのすりかえが実施されていたということになります……こうなれば、もはや地上階に出られる・出られないは関係ありません。実験室にアイテムを持ちこみ、管理官補佐がハッキングした隙をついてレプリカと交換すれば、それで不正売却が成立するのですから。

ウィナー管理官: ……そんな調査、僕は許可を出した覚えはないんだけど?

エージェント・マイルズ: 当然、無許可ですとも。私へのクレームは、内部保安部門オフィス・サイト-98までどうぞ。

ウィナー管理官: ……そう。なら、それは遠慮なくやらせてもらうよ。

エージェント・ニコラス:  しかし、管理官、それだけでは足りないことがあります! 管理官補佐が、ハッキングを行っていた証拠がありません!

エージェント・マイルズ: ……確かに、現段階ではそれはありません。しかし、マット・アーサー氏でさえすぐには見破れないほどのハッキングが行われていたという事実自体が、シェリー管理官補佐を指し示しているのですよ。このサイトにおいて、彼のほかにアーサー氏を出し抜けるほどの技術士はいません。

エージェント・ニコラス: くっ!

シェリー管理官補佐: そんな!

エージェント・マイルズ: ……これらすべての証拠が、ギャレン氏とシェリー管理官補佐の所業を指し示しているのですよ。つまり、彼の罪は明白なのです。以上、立証完了。

エージェント・ニコラス: ぐっ……!

エージェント・ニコラスが、手元の端末を操作する。

ウィナー管理官: ……まったく、困ったことになったなー。アノマリー化だの、不正売却だの、余計なインシデントが増えちゃったよ。どうしてくれるの、シェリー?

シェリー管理官補佐:  だから、私はそんなことしておりませんとも!

ウィナー管理官: はいはい、言い訳はもうけっこう。それじゃあ、みんな、ようやくこれで判決が下せるね。そこのアルバ・シェリーは  

エージェント・ニコラスが絶叫する。

ウィナー管理官:   何、ニコラスくん?

沈黙。

エージェント・マイルズ: ……ニコラス?

エージェント・ニコラス: まさか……まさか、そんな!

ウィナー管理官: あのさー、今から判決下すとこだから、黙っててもらえないかな?

エージェント・ニコラス: ……お待ちください、管理官……やっぱり、君は怒りで目がくもっているみたいだね、マイルズ。

エージェント・マイルズ: ……今さら挑発ですか、ニコラス? 見苦しいことはおやめなさい。

エージェント・ニコラス: いいかな、マイルズ。君が、シェリー管理官補佐を容疑者に挙げている理由は3つだ。1つ、ハッキングの技術力があること。1つ、このサイトの上層部の人間であること。そして1つ、前回の審判中にシメオンに認識災害音声を流させることができたこと。

エージェント・マイルズ: 確かにそのとおりですが……それが?

エージェント・ニコラス: なら、もう1人いるじゃないか。容疑者となるこの3つの条件に当てはまる、もう1人の人物が。

エージェント・マイルズ: ……はい?

エージェント・ニコラス: その人物は、このサイトの上層部に属する人間だ。そして、その人物にはハッキングの知識がある。加えて、その人物にも、あのときシメオンに例の音声を流させることができた可能性がある。つまり、その人物も君は疑わないとおかしいんだよ、マイルズ。

エージェント・マイルズ: ……面白い。では、教えていただけますか? そんな都合のいい人物とやらが、いったい誰なのかを。

エージェント・ニコラスが深呼吸する。

エージェント・ニコラス: ……サイト-512管理官、デイモン・ウィナー! あたしは、あなたを一連のインシデントの真犯人として告発します!

エージェント・マイルズ: なっ……!

シェリー管理官補佐: なんだって!?

沈黙。

ウィナー管理官: ……ん? えっ? よく聞こえなかったなー、ニコラスくん。今、なんて言ったのかな?

エージェント・ニコラス: お聞きのとおりですよ、管理官。あなたを告発する……そう申し上げました。

ウィナー管理官: ……耳が遠くなったのかな。いくら聞いても、僕のことを告発するって聞こえるんだけど。いちおう確認しておくけどさー、まさか本気じゃないよね、ニコラスくん?

エージェント・ニコラス: もちろん本気ですよ。あたしは、あなたが真犯人であるとここに主張します。

シェリー管理官補佐: 嘘だろう!? まさか、そんな……

ウィナー管理官: はいはい、踊る阿呆に見る阿呆はよそでやろうねー。そんな突拍子もない主張、いきなり通るわけがないでしょー? そもそも、ハッキングの知識があるって? 僕ってシェリーのやつと違って、IT部門の出身じゃないんだけど。

エージェント・ニコラス: 確かに、そうみたいですね。でも、あなたはこれまでの審判において、何度もハッキングに詳しいかのような言動を繰り返してきました。シェリー医師がハッキングを学べばよかったのにと発言したり、アーサー技術士の難解な発言をすんなり受けいれたり。違いますか?

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官: おいおい、それだけでハッカーだって断定されちゃうの? そんな弱い根拠でハッカーだって言われたら、僕も泣いちゃいそうになる。だって僕、財団に来てから1回もIT関連に触れたことないんだよ?

エージェント・ニコラス: 確かに、あなたは財団への就職当時から、管理部門に所属していた。IT部門に直接的に関わったことは、一度としてなかったのかもしれません。しかし……それ以前ならどうでしょうか?

エージェント・マイルズ: それ以前、ですって?

エージェント・ニコラス: シメオン、ウィナー管理官の人事ファイルを共有して。

Simeon.aic: 承知しました。

シェリー管理官補佐を除く3名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: ……なっ! こ  これは……

エージェント・ニコラス: そう。ウィナー管理官は元々、とあるGoIのコンピューター部門役員だった。技術士でないにせよ、当時はIT関係の仕事に就いていたんだよ……いかがですか、管理官?

ウィナー管理官: ……確かにそのとおりだけどさ。それでも、君の言うとおり僕は技術士じゃなかったし、もちろん今も違う。こんな大がかりなハッキングなんて、僕には無理だよ。

エージェント・ニコラス: しかし、根拠はそれだけじゃないんですよ、管理官。

ウィナー管理官: ……へえ?

エージェント・ニコラス: 先ほど、あたしはあなたがとあるGoIに所属していたと説明しました。問題は、そのGoIの正体です。マイルズ、彼はなんて名前のGoIに所属していたって書いてある?

エージェント・マイルズ: ……プロメテウス研究所。ギャレン氏と同じ、あのプロメテウス研究所です!

シェリー管理官補佐: なっ! ウィナー先輩とギャレンくんが、同じGoIに……?

エージェント・ニコラス: そのとおり。ここに、ついにギャレン博士と真犯人の具体的なつながりが見えてくるんですよ。

ウィナー管理官: んー……それも弱くないかな? 確かに僕もギャレンのやつも辞めプロ組だけど、あっちは工学でこっちはIT。畑が違うじゃない。

エージェント・ニコラス: よくご存知ですね、ギャレン博士のかつての職場のことを?

ウィナー管理官: ……そりゃあ知ってるよ。僕が今年に入って、判決下す役として何回あいつの人事ファイルに目を通したと思ってるの?

エージェント・ニコラス: それにしても、彼のかつての所属部署までパッと出てくるのはおかしいのでは? 一連のインシデントには無関係のはずですが。

ウィナー管理官: 知る機会がちゃんとあった以上、その方面での追及は無意味だ。却下だよ、ニコラスくん。

エージェント・ニコラス: ぐっ……それでも、このサイトで不正売却を行う共犯者としては、あなたとギャレン博士はベストな組み合わせです。ハッキングの知識を持つサイト管理官と、同じGoIにかつて所属していた博士。その2人が共謀して、不正売却に手を出すこともできるはずです。

ウィナー管理官: それは推理じゃなくて願望って言うんだよ、ニコラスくん。それに、君は1つ大きな立証をすっぽかしてる。

エージェント・ニコラス: 立証?

ウィナー管理官: 君の整理した、真犯人たりえる3つの条件。百歩譲って僕がそのうちの2つを満たしたとして、最も重要な1つを君は説明できていない  僕が、どうやってシェリーくんを殺したって言うのかな?

エージェント・マイルズ: ……確かに、ウィナー管理官のおっしゃるとおりです。何度でも繰り返しますが、このサイトはほぼ全域に監視カメラの目があります。そんな中で端末をいじれば、シメオンに勘づかれるリスクがある。そんな中で、ウィナー管理官がいつどうやってシェリー氏に危害を加えたと?

エージェント・ニコラス: ……それは、そう難しい疑問ではないはずだよ。

エージェント・マイルズ: どういうことでしょうか?

エージェント・ニコラス: 簡単なことだ。シェリー医師の審判中、そのときにハッキングを行えばいい。

エージェント・マイルズ: ……なっ!

シェリー管理官補佐:  そんなバカな!

ウィナー管理官: ……意味がわからないな、ニコラスくん。この場の全員があの場にいたけど、そんな中で大胆にハッキングなんかできるわけがないでしょ? あまつさえ、別にミーティングルームだって記録の対象だ。映像記録として一連の様子が残っちゃうっていうのに、そんな中で端末をいじったら  

エージェント・ニコラス: 間違いなく、単に資料を確認しているだけに映るでしょうね、周囲の目には。

ウィナー管理官:   そうくるんだ、君。

エージェント・マイルズ:  待ちなさい、ニコラス! つまり君は、不正売却インシデントにも、私の姉のインシデントにも、ギャレン氏のインシデントにも、そしてシェリー氏のインシデントにも、すべてこのウィナー管理官が関与していたと主張するつもりですか!?

エージェント・ニコラス: さっきからそう言ってるじゃないか、マイルズ……そうだね、じゃあこのあたりで、彼の行ったことについて整理してみようか。

エージェント・ニコラスが、手元の端末を操作する。

エージェント・ニコラス: まず、アイテムの不正売却。これは、さっき管理官補佐にかかった容疑がそのまま管理官にシフトする  恐らくMC&Dを取引相手にしてサイト内にポータルを開かせ、自分が実験室の監視カメラ映像をハッキングしているうちに、共犯者であるギャレン博士に本物のアイテムとレプリカのすりかえを行わせた。

沈黙。

エージェント・ニコラス: 次に、イヴ・アーサーさんのアノマリー化。これも、さっき言及されたとおり。MC&Dと繋がっていた管理官は、事前に例のスプレーとレコーダーの特異性を知っていた。だから、ギャレン博士にそれを教えて、故意にレコーダーの収容違反を引き起こさせると同時にスプレーを使ってアーサーさんの口を塞がせた  殺害ではなくアノマリー化なんて手の込んだ方法を選んだのは、単に殺してしまったらその説明をつけるのが面倒になるからだろう。

沈黙。

エージェント・ニコラス: さらに、最初の審判の議題になったギャレン博士の殺害。これは、クラスK記憶処理を利用したものだ。博士が例のダンゴムシに曝露したのが、偶然か策略だったのかはわからないけど……とにかく、管理官は管理官補佐の端末を経由して、再安定化処置用の薬剤の処方が行われているかのように偽装した。そして、管理官補佐の名前でシェリー医師に協力を仰いで、最終的にはアデロールが検出されたかのように見せかけた  自然死という検案結果を出させたのは、ことを荒立てないようにするためだったんだろう。

沈黙。

エージェント・ニコラス: そして最後に、そのシェリー医師の殺人未遂。これは、もともと保険として考えていた策だったんだろうね。彼女は自分の父親が殺人犯だと思い込んでいたけど、詳細に手口を証言されたらどこかで不整合が発生しないとも限らない。だからこそ、そのリスクを防ぐために、彼女の審判中に旗色が悪くなったと判断した管理官は認識災害音声を流させた  これもまた、管理官補佐の端末をハッキングして、それを経由してやったものだ。

エージェント・ニコラスが机を叩く。

エージェント・ニコラス: ……これが、管理官のやったすべて。自らの手を汚そうとはせず、常に物事の陰に隠れひそみ、身勝手にもあらゆる人間に己の罪を押しつける卑怯者。それが、あなたの本性です、管理官。

沈黙。

エージェント・マイルズ:  バカな……

ウィナー管理官: ……本当に、バカみたいな話だね。それで? 君は、長い長いストーリーを語った。でもそれはただのストーリーだ。推理にも満たない、ただの妄想にほかならない。ねえ、マイルズくん?

エージェント・マイルズ:  はい?

ウィナー管理官: さっき、君はこう言ったよね? シェリーのやつの端末からは、ハッキングを受けた痕跡が見つからなかったって。

エージェント・マイルズ: ……ええ、そのとおりです。マット・アーサー氏をはじめとしたIT部門技術士による調査の結果、シェリー管理官補佐の端末からはハッキングの痕跡が発見されませんでした。

ウィナー管理官: なら、ニコラスくん、君の推理は根底から成りたってないんだよ。君の推理には、僕がシェリーのやつの端末をハッキングしたという事実が前提になくちゃいけない。でも、実際はそんな痕跡なんて見つかっていない。君は、夢見がちな女の子でおしまいってわけ。

エージェント・ニコラス: ……あるいは。

ウィナー管理官: ん?

エージェント・ニコラス: あるいは、存在するかもしれません。デイモン・ウィナー管理官、あなたの罪を立証する、決定的な証拠が。

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官: かもしれないって、そんな君の願望を口に出されても困るよ。君の意見は却下  

エージェント・ニコラス: マイルズ。管理官って、もともとプロメテウスのどこ所属だったっけ?

ウィナー管理官:   どいつもこいつも、僕の話を聞きやしないね。

エージェント・マイルズ: ……それは、資料にもあったとおり、コンピューター部門ですが。

エージェント・ニコラス: じゃあ次に、ギャレン博士の殺害には何が使われたんだっけ?

エージェント・マイルズ: それも、先の審判で言及されたとおり。Bobby.aicという名の、人工知能ですが。

エージェント・ニコラス: そうだね。じゃあ、自然にこうも考えられないかな  今回も、管理官は似たような方法をとったんじゃないか、って。

エージェント・マイルズ: ……どういうことですか?

ウィナー管理官: はいはい、妄言をその口から垂れ流すのはそこまでだよー。さっさと、シェリーのやつに判決を  

エージェント・ニコラス: 管理官! あなたは、プロメテウス研究所から持ちだしたツールを一連のハッキングに使ったのです!

ウィナー管理官:   そのケツ穴みたいな口を閉じろって言ってるんだよ、ガキ!

エージェント・マイルズ:  どういうことですか!? プロメテウス研究所製のツール、ですって?

エージェント・ニコラス: うん。それくらいしか、もう考えられないんだよ。シメオンを作ったアーサー技術士の目すらもかいくぐるようなハッキングを成し遂げるには、超常的な方法しかありえない。そして、彼にはそれを手に入れるチャンスがあった。プロメテウスのコンピューター部門役員だった彼には、その解散時にそれを手に入れることができる。あとは、それを使って一連のハッキングをすればいい。

エージェント・マイルズ:  だとしたら、いったいどうしてBobby.aicを使ったというのですか? そんな優れたツールを持っていたのなら、あんな手の込んだ細工をする必要など  

エージェント・ニコラス: 逆だよ、マイルズ。あの時は、シェリー医師がハッキングをしていたという流れにする必要があった。もちろん、当初の予定では自然死か、ローレンスがアデロールで殺したってことにしたかったんだろうけど。さらなる保険として、シェリー医師にすべての罪を被せる算段だったんだ。だからこそ、シェリー医師にも実現可能なハッキングの方法を使った  それが、ボビーだったんだよ。

エージェント・マイルズ:   ぐっ!

ウィナー管理官が机を叩く。

ウィナー管理官: だからさー、ニコラスくん! 憶測と妄想だけでくっちゃべるのはやめてくれないかなー? そのご自慢のおつむにはクソしか詰まってないんだからさー!

エージェント・ニコラス: わかっていますよ、証拠が必要なんでしょう? あなたが、超常ツールを持っているという証拠が!

ウィナー管理官: そうだよ! そして、そんなものはこの世に存在しない! ニコラスくんの意見は全面的に却下! シェリーに今から判決を  

エージェント・ニコラス: ところで、管理官。今日は、いったいどうして楯突きカウンターの入ったスマホを持ってきていないんですか?

ウィナー管理官:   黙れって言ってるのがわかんないかなー!?

エージェント・マイルズ: ……えっ! ま  まさか  

エージェント・ニコラス: 管理官! 内部保安部門の権限によって、あなたの所有する端末をすべて見せていただきましょうか! それで、すべてがハッキリするはずです!

エージェント・マイルズ:   ぐおっ!

ウィナー管理官: 却下だ、却下! ニコラスくんの意見は全面的に却下! シェリーは有罪! 有罪なんだよ!

エージェント・マイルズ:  却下ですって! そのように強引に却下をしようとするということは……端末にツールがあることを認めることと同じですよ!?

ウィナー管理官: 口を慎みなさいよ、ガキども! そんな証拠もなしの推理だけで、ひとの端末を好き勝手に見られると思うんじゃない! 僕はサイト管理官だぞ!?

エージェント・ニコラス: いいえ。今のあなたは、ただの1人の容疑者に他なりません。繰り返しますが、内部保安部門の権限によって、あなたはあたしたちによる端末の調査から逃れることはできません!

ウィナー管理官: ぐっ!

エージェント・ニコラス: さあ! 端末を見せていただきましょうか、デイモン・ウィナーさん!

沈黙。

ウィナー管理官: ……ふっ。

ウィナー管理官が大音声で笑う。

ウィナー管理官: やるねー、ニコラスくん! ここまで追いつめられたのは初めてだよ! でも、残念だったね。君たちに、僕の端末もスマホも、調べることはできないんだよ。

エージェント・ニコラス:  どういうことですか!?

ウィナー管理官: 簡単さ。ないものは調べられない……それだけのことだよ。

エージェント・ニコラス: えっ!

エージェント・マイルズ:  しかし! 端末なら今そこに  

ウィナー管理官: これ? これは、ニコラスくんが調べたい端末じゃないよ。僕もぼけちゃったみたいでさー。こないだ、社宅で間違えて端末とかスマホの充電に高電圧のコンセント使っちゃったんだよ。それで、どっちもぶっ壊れて会計部門に怒られちゃったんだよねー!

エージェント・マイルズ:   なんですって!

エージェント・ニコラス: うっ……証拠の隠滅ですか!

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官: そんなこと、証明できないでしょー? あれはただのポカ、ただの事故だよ。まあでも、おかげでいわれのない追及からは逃れられる。ニコラスくん、君に僕が件のハッカーだと証明することはできないってわけ!

エージェント・ニコラス: ううっ!

エージェント・マイルズ: ……そんな話、はじめて聞きましたよ。まさか、私がサイト-98に戻っている間に……?

ウィナー管理官: さあ、知らないけどそうなんじゃない? さて、これで茶番はお開きだ。長らく先延ばしにさせられつづけたシェリーへの判決も、これでようやく下せるわけだ。

エージェント・ニコラス:  待ってください! 故障したのなら、修理が可能かも  

エージェント・マイルズ: ……無駄です、ニコラス。

エージェント・ニコラス:   えっ。

エージェント・マイルズ: 仮に、ウィナー管理官が犯人だとした場合、修理が不可能なほどシッカリと破損させているはずです。何より、そもそも管理官の端末という重要度の高い物品に、修理が試みられていないわけがありません……詰みです、ニコラス。

エージェント・ニコラス: ぐうっ!

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官: そういうことだね。ニコラスくん、ようやく君の根拠のない誹謗中傷から逃れられるよ。では  

シェリー管理官補佐: 待っていただきたい、ウィナー先輩!

ウィナー管理官:   発言権のない有罪のカスの意見は却下。

エージェント・ニコラス:  どうしたんですか、管理官補佐?

ウィナー管理官: 却下だって言ってるのが聞こえないのかなー? はい、判決は有罪! これよりシェリーの懲罰房への移送と職位のはく奪を  

エージェント・マイルズ: お待ちを、ウィナー氏。ここまで容疑がかかった以上、内部保安部門としては、もはやあなたに進行役としての権限は認められません。

ウィナー管理官:   なんだって!

エージェント・マイルズ: シェリー管理官補佐! あなたに発言を許可します!

エージェント・ニコラス: マイルズ……!

シェリー管理官補佐: 感謝する、マイルズくん!

シェリー管理官補佐が咳払いする。

シェリー管理官補佐: ……ニコラスくん、君の推理によれば、ウィナー先輩は何らかの超常ハッキングツールを使っていたのだな?

エージェント・ニコラス: ええ、そのとおりです。

ウィナー管理官: だから、そんな根拠のない妄言は信用に値しないって  

シェリー管理官補佐: なら、そんな有用なツールを、いくら証拠隠滅のためとはいえ簡単に手放すだろうか?

ウィナー管理官:   黙ってくれないかな、シェリー!

エージェント・ニコラス: あっ!

エージェント・マイルズ:  まさか……

シェリー管理官補佐: そう! ウィナー先輩は、そのツールをどこかにコピーして、隠し持っている可能性が高い!

ウィナー管理官: ぐっ……!

エージェント・ニコラス: マイルズ!

エージェント・マイルズ: ……ええ。これより、内部保安部門職員を動員して、ウィナー氏のオフィスならびに社宅を調べさせていただきます。もし、そこから問題のツールを記録したデバイスが発見されたならば  ウィナー氏の罪が確定することでしょう!

ウィナー管理官:  この、ガキどもが……!

エージェント・ニコラス: ……これで、もう逃れられませんよ、ウィナーさん。

ウィナー管理官: ううっ……ち  調子に乗りやがって!

エージェント・ニコラス: あなたは、何人もの人生を狂わせました。ローレンス、アーサー夫妻、シェリー親子に、ギャレン博士。その理由は一貫して、身勝手な利益と保身のため。いっさいの同情の余地はありません。

ウィナー管理官:  口を慎みなよ、ニコラスくん!

エージェント・ニコラス: さあ、ウィナーさん。その責任を、今こそその身をもって取っていただきましょうか。

ウィナー管理官: ううっ……! ふざけるな! 僕はサイト管理官だぞ!? それが、こんな外様のガキどもに、こんな  

エージェント・ニコラス: デイモン・ウィナーさん! せめて、最後は潔く罪を認めてください!

ウィナー管理官が頭を抱えたあと、絶叫する。

エージェント・ニコラス: ……以上です。

沈黙。

エージェント・マイルズ: ……では、さっそく調査の手配を開始します。ウィナー氏、その場を動かないようにお願いします。

エージェント・マイルズが、手元の端末を操作する。

シェリー管理官補佐: これで、ようやく真犯人がわかったわけか……ただ、せめてダリアにこのことを伝えてやれたら  

エージェント・ニコラス: 可能性はゼロではありませんよ、管理官補佐。もし彼女が回復したら、すべてを伝えてあげましょう。

シェリー管理官補佐:   そうだな、ニコラスくん。

沈黙。

ウィナー管理官: ……可能性はゼロじゃない、か。

エージェント・ニコラス: ん?

ウィナー管理官が顔を上げる。

ウィナー管理官: ……た  確かに、そのとおりだね、ニコラスくん。可能性はゼロじゃない。そう……ぼ  僕が、罪から逃れられるという可能性もね。

エージェント・ニコラス:  どういうことですか!

エージェント・マイルズ: これ以上の会話は不要ですよ、ウィナー氏。今、内部保安部門による調査を  

ウィナー管理官: サイト-512地下1階・僕の専用オフィス。そこのデスクの、か  鍵のかかった上から3段目の引き出しに、USBメモリーが入ってる。そこに、Calisto.exeが入っているよ。

エージェント・マイルズ:   なんですって?

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官:  確かに、あれは超常ハッキングツールだ。それも、に  ニコラスくんの言ったとおり、プロ研から持ち出してきたもの。ぜんぶ正しい。ぜんぶ、ぜんぶね。

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官:  でもさー。調べればわかることだけど、そ  そいつに使用履歴は残ってないんだよね!

エージェント・マイルズ: なっ……!

ウィナー管理官: つまり、僕はあくまで容疑者どまりなわけ。さ  最有力容疑者が、シェリーのやつなことには変わりがないんだよ!

エージェント・ニコラス: バカな! 今さら、今さらそんな言い分が  

ウィナー管理官:  残念だけどさー、君の立証ってけっきょく、僕の端末だよりのものにすぎないわけ。その端末が壊れちゃった以上、か  カリストが見つかっても、僕が一連のインシデントの真犯人だって、し  証明されるわけじゃない。

エージェント・ニコラス:   ぐっ!

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官:  惜しいねー、あと一歩だったのに! でも、僕だって無傷じゃあ済まない。しゃくだけど……さ  サイト管理官の椅子は、捨てさってやるよ。さあ……どうなのかな、ニコラスくん!

エージェント・ニコラス: ううっ……

エージェント・ニコラスが絶叫する。

シェリー管理官補佐:  そんな!

ウィナー管理官が笑う。

ウィナー管理官: ……以上だ。シェリーのやつの審判は、これにて終了とする。僕も容疑者の仲間入りをしちゃったから、有罪判決は下さないでやるけど。仮に僕が犯人だったとして、カリストの痕跡を、君たちに見つけられるはずがない。最悪の場合、ぜんぶがうやむやのまま終わるかもねー!

エージェント・マイルズ: ……クソっ!

ウィナー管理官: 素晴らしい見世物を見せてくれて、感謝するよ、みんな! それじゃあ、本日はこれにて解散  

突然、ミーティングルームの扉が勢いよく開かれ、ローレンス研究員とアーサー技術士が入室する。

ローレンス研究員: うおお! 危ねえ、間に合った!

沈黙。

エージェント・ニコラス:  ローレンス? それに、アーサー技術士も!

アーサー技術士: はいはい! マット・アーサーですよ、はい!

ミーティングルームの扉が閉じる。

ウィナー管理官:   もう審判は終わったよ、諸君。いったいなんの用かな?

ローレンス研究員: 管理官! ちょっくら、俺たちの懺悔を聞いてもらえませんか? ことは、あらゆる意味で一大事なんですよ!

エージェント・マイルズ: ……どういうことでしょうか、ローレンス氏?

ローレンス研究員: ニコラス! 俺の言ったことを覚えてるか!?

エージェント・ニコラス: え? どれのこと?

ローレンス研究員: あれだよ、俺が本当にすべきことに、全力を注ぐってやつ!

エージェント・ニコラス:  ああ。そんなことも言ってたね。

ローレンス研究員: ……それが、ついに実を結んだんだよ。俺の、俺たちの、一世一代の大発明ってやつが!

エージェント・ニコラス: ……ど  どういうこと?

ウィナー管理官: 今さら、意味がわからないな。ローレンスくんにアーサーくん、今すぐに  

エージェント・マイルズ: あなたに進行役としての権限はない、と先ほど申し上げたばかりですよ。黙って聞いていなさい。

ウィナー管理官:   ぐっ。

ローレンス研究員: シメオン! 俺の端末から、最新のファイルを引っ張りだして全員に共有してくれ!

Simeon.aic: 承知しました。

ウィナー管理官、エージェント・マイルズ、エージェント・ニコラスの端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・ニコラス: ……えっ!?

エージェント・マイルズ:  これは……

ローレンス研究員: 名づけて、ローレンス限定的時間遡行装置! 前にニコラスにも話した、人間でもなんでももとに戻す装置だ! 3年も経っちまったものは対象外だけど、これさえあればアーサーさんもシェリー医師も、ギャレン博士だってもとに戻せる!

シェリー管理官補佐: なんだって! ダリアが!?

ウィナー管理官:  そんな! そんなもの、君ごときに作れるわけがない!

ローレンス研究員: それが、作れちゃったんですよ。このサイトにある、色んなアイテムを組み合わせてね!

ウィナー管理官: バカな!

エージェント・マイルズ:  お待ちください、ローレンス氏。アイテムを組み合わせた、ですって? そんなクロステスト、認められるわけが  

ローレンス研究員: それが、俺たちの懺悔の内容なんですよ。マット兄!

アーサー技術士: はいはい! 今回この装置の製造のために使ったアイテム群は、もちろんクロステストが認められるわけがなかったんです。だからね……僕が、ハッキングして実験の許可が出たことにしちゃったんですねー!

エージェント・マイルズ:   ええっ!?

エージェント・ニコラス: いやいやいや! そんなことしちゃダメでしょう、2人とも!

ローレンス研究員が笑う。

ローレンス研究員: そのとおり! ギャレン博士も、生前からずっと俺に反対してた。でも俺を、俺たちを止める人間はもういない。どんな手段を使ってでも……アーサーさんを復活させるって決めたんだよ!

エージェント・ニコラス: ええ……

エージェント・マイルズ: ……ふっ。まったく、とんだ吉報ですね。ウィナー氏、先ほどのご指摘のとおり、あなたの自己弁護において重要だったのはあなたの所持していた端末群が破損してしまったことでした。しかし、このたび開発された装置さえあれば……その端末群を、もとの状態に復元することもたやすい。

ウィナー管理官: ぐっ……!

エージェント・マイルズ: そして、そこからハッキングの攻撃者としてのログが発見されれば、今度こそあなたの罪は完全に立証されます。

アーサー技術士: ……えっ? 管理官の罪? いったい  

エージェント・マイルズ: 黙って聞いていてください、アーサー氏。

アーサー技術士:   はい!

ウィナー管理官:  でも! その装置が本当にそういう機能を持っているかはわからないはずだ! それに、これは規定違反の手段で作られた装置でもある。そんな装置の使用許可を、この僕が下ろすと  

エージェント・マイルズ: 先ほど、ご自分のサイト管理官としての職位を捨てさると言いきったばかりではありませんか。この装置の使用に、あなたの同意はもはや必要ないのですよ!

ウィナー管理官:   ぐうっ!

エージェント・ニコラス: ……確かに、この装置は規定違反の経緯で製造されたものです。ローレンスとアーサー技術士には、のちのちしかるべき罰が下されなければならないでしょう。しかし、ここは財団です。どのような経緯であれ、新たな装置が開発されれば研究が進められる。そして……その有用性が確かめられれば、この装置によってあなたの罪が完全に立証されます。

ウィナー管理官: くっ……バカな、そんなバカな  

エージェント・ニコラス: これでもう逃げられませんよ。あなたが犯し、そして他人に押しつけてきたあらゆる罪が、余すことなく白日のもとにさらされる。さあ  今度こそ、裁きを受けていただきましょうか、デイモン・ウィナーさん!

ウィナー管理官:   う、うう……

ウィナー管理官が絶叫しながら、ズボンのポケットから小型のデジタル音声レコーダーを取り出す。ウィナー管理官がそのボタンを押すと、ミーティングルーム内に雑音が流れる。

エージェント・マイルズ:  これは……

アーサー技術士: 例の認識災害だ! みんな、耳を塞いで!

ウィナー管理官以外の全員が、その場で耳を塞ぐ。ウィナー管理官が立ち上がり、駆け足でミーティングルームの出口に向かう。

エージェント・マイルズ: しまっ  

ウィナー管理官がミーティングルームの扉を開けようとするも、扉は開かない。同時に、別の雑音が記録されはじめる。

Simeon.aic: 容疑者の逃走を防ぐため、ミーティングルームの扉をロックしました。記録上にある認識災害音声が再生されているため、対抗ミーム音声の再生を実行中です。

ウィナー管理官: ……この、バカAIが!

エージェント・マイルズが耳から手を離し、ウィナー管理官に駆け寄って彼の身柄を取り押さえる。

エージェント・マイルズ:   最後に、無駄なあがきという素晴らしい見世物を見せていただき感謝しますよ、ウィナー氏!

ウィナー管理官: ぐっ……!

エージェント・マイルズ: これで、また1つ罪を重ねましたね。では、改めてあなたを拘束させていただきます。

エージェント・マイルズが、ウィナー管理官の手に手錠をかける。

エージェント・ニコラス: ……最後まで、醜くあがく人だったね。それじゃあ、マイルズ、その人の代わりにこの場は解散といこうか。連行は手伝うよ。

エージェント・マイルズ: 感謝します、ニコラス。

<記録終了>

通知: 職員の拘束

通知

2026/01/31


本日、サイト-512のミーティングルームにて行われた審判中、デイモン・ウィナー管理官が殺人未遂・アノマリーの不正所持の罪で拘束されました。余罪に関しても現在調査中です。また、アイテムの不正利用の罪でディエゴ・ローレンス研究員およびマット・アーサー技術士に1週間の暫定的な謹慎処分が下されました。

  サイト-512管理部門役員ピアース・マーロン

通知: LLTRDについて

通知

2026/02/10


実験の結果、ローレンス限定的時間遡行装置(LLTRD)の機能がローレンス研究員の理論と一致することが確かめられました。このため、内部保安部門とサイト-512管理部門の協議の上、以下の4件の人物や物品へのLLTRDの使用が決定されました。以降は、LLTRDは監督評議会の管理下に置かれる予定です。

  • デイモン・ウィナー管理官の破損した端末群
  • SCP-4183-JP(イヴ・アーサー元役員)
  • クリストフ・ギャレン博士の遺体
  • ダリア・シェリー医師

  サイト-512管理部門役員ピアース・マーロン

監視カメラ映像

映像記録

2026/02/11


<記録開始>

サイト-512・B5Fの研究区画・第6実験室にて、扉が閉じた状態のLLTRDが置かれている。周囲には、エージェント・ニコラス、エージェント・マイルズ、ローレンス研究員、アーサー技術士が立っている。

ローレンス研究員: いくぞ……

ローレンス研究員の手によって、LLTRDが起動される。ハム音が記録されると共に、LLTRDの起動ランプが点灯する。アーサー技術士が、祈るように手を組む。

アーサー技術士: ……頼む。

しばらくしてハム音が止み、LLTRDの起動ランプが消灯する。LLTRDの扉が自動的に開かれ、内部のSCP-4183-JP  アーサー元役員が映像に映る。アーサー元役員が目を開く。

アーサー元役員: ……ん、ここは……?

アーサー技術士: イヴ!

エージェント・マイルズ: 姉さん……!

エージェント・マイルズとアーサー技術士が、アーサー元役員に抱きつく。アーサー技術士が泣きはじめる。

アーサー元役員: わっ! えっ、何、何!? マットに、えっ、ユースタス……!?

アーサー技術士: イヴ! イヴ! よかった、本当によかった……!

エージェント・マイルズ: 姉さん、まさかこうして、また会えるだなんて……!

アーサー元役員:  どうしたのよ、2人とも。そんなにシリアスな顔して。っていうか、ユースタス、あんた久しぶりね! 最近どうしてたの? ご飯はちゃんと食べてるの?

エージェント・マイルズ: ……まったく! あなたって人は……うう……

エージェント・マイルズが泣きはじめる。

アーサー元役員:  ちょっと、もう! 大の男が2人も揃って泣かないの! ……ねえ、あなた、確かローレンスさんって言ったわよね?

ローレンス研究員:  はい。

アーサー元役員: ティッシュかハンカチもらえる? こいつらったら、私のスーツをハンカチ代わりにするつもりだわ。まったく、もう……

ローレンス研究員: あっ……はい!

ローレンス研究員が実験室の外に出ていく。エージェント・ニコラスが笑う。

エージェント・ニコラス: しかたないんです、こればっかりは……あっ、あたしはミア・ニコラスです。そこの、ユースタス・マイルズの同僚やらせてもらってます。ハンカチどうぞ。

エージェント・ニコラスが、アーサー元役員にハンカチを手渡す。同時に、ローレンス研究員が実験用ワイプを持ってくる。

アーサー元役員: ありがとう、ニコラスさん。ローレンスさんも。

ローレンス研究員:  どうも。

アーサー元役員が、エージェント・マイルズとアーサー技術士の目元をハンカチでぬぐう。ローレンス研究員が、実験室の床に腰を下ろす。

ローレンス研究員: ……はー、本当に、治せたんだな。アーサーさんを  マット兄の奥さんを……

エージェント・ニコラス: そうだね。これは、今回のMVPは君で決まりかな、ローレンス?

ローレンス研究員が笑う。

アーサー元役員: ん……? なんの話かしら?

エージェント・ニコラス: まあ、いろいろあったんですよ、こうなるまでにね。でも、その説明はいったんあとにしましょうか。今は、とにかくその2人を泣かせてあげてください。

アーサー元役員: そうね。まったく……いい歳して、子供みたいに泣きじゃくっちゃって。

アーサー元役員が微笑み、エージェント・マイルズとアーサー技術士の頭を撫でる。

<記録終了>

SCP-4183-JP-D

文書記録

(更新)2026/02/13


アイテム番号: SCP-4183-JP-D
収容クラス: Decommissioned
classified-lv3.svg
レベル3/4183-JP-D
機密

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アーサー役員

特別収容プロトコル(アーカイブ済): SCP-4183-JPはサイト-512・B5Fの収容区画にて、低脅威度アイテム収容ユニットに収容されています。

説明(アーカイブ済): SCP-4183-JPは1993/10/16生まれのコーカソイド女性、イヴ・アーサーです。SCP-4183-JPはかつてサイト-512所属の管理部門役員であり、現在は常温環境下でも凍結状態を保つ特異性を発現しています。外部から生命活動が確認できないため、SCP-4183-JPは死亡しているものと見なされています。

SCP-4183-JPは、SCP-Dμ34の収容違反時に特異性を発現しました。当該事象には再現性が確認されなかったため、SCP-4183-JPはSCP-Dμ34とは別個のアイテムとして扱われることが決定されました。


補遺4183-JP-D.1: 2026/02/11、SCP-4183-JPはローレンス限定的時間遡行装置(LLTRD)の使用対象として選ばれました。結果、SCP-4183-JPは特異性を喪失し、生存した状態に戻りました。このため、SCP-4183-JPはDecommissionedクラスに再分類され、サイト-512管理部門役員に復職しました。

本稿執筆時点において、SCP-4183-JP-Dの特異性発現の経緯が疑問視されています。内部保安部門による調査が実施中です。

監視カメラ映像

映像記録

2026/02/11


<記録開始>

サイト-512・B1Fの懲罰房にて、シェリー管理官補佐が勾留されている。エージェント・ニコラスおよびシェリー医師が、懲罰房の前にやってくる。シェリー医師の手には手錠がかけられている。

エージェント・ニコラス: どうも、管理官補佐。

シェリー管理官補佐が立ち上がり、格子に手をかける。

シェリー管理官補佐: ダリア!

シェリー医師: ……お父さん。

沈黙。

エージェント・ニコラス: ……ローレンスとアーサー技術士のおかげで、無事にウィナー管理官の端末からハッキングをしたログが見つかりました。これで、管理官補佐、あなたは晴れて自由の身です。ただ……シェリー医師は、逆に勾留が決まってしまいましたが。

シェリー管理官補佐: そうか……

エージェント・ニコラスが懲罰房の扉を開錠し、進入する。エージェント・ニコラスは、シェリー管理官補佐の手錠を外す。

シェリー医師: ……お父さん、ごめんなさ  

シェリー管理官補佐が、シェリー医師に駆け寄り抱きしめる。

シェリー管理官補佐: ……おかえり、ダリア。

シェリー医師:   あっ。

シェリー管理官補佐: お前が帰ってきてくれた。それだけで充分だ。

シェリー医師が、涙を流す。

シェリー医師: ……ただいま、お父さん。

しばらくの抱擁のあと、シェリー管理官補佐はシェリー医師の身体を離す。シェリー医師は、自ら懲罰房に入る。

シェリー医師: ……このまま閉めていただけるかしら。これ以上は、話せそうにないですから。

エージェント・ニコラス: ……わかりました。

エージェント・ニコラスが、懲罰房の扉を施錠する。

シェリー管理官補佐: ……少しでも、お前の罰が軽くなるように動いてみせる。そして、ずっとお前の帰りを待っているよ、ダリア。

エージェント・ニコラスとシェリー管理官補佐が、懲罰房の前から離れていく。

<記録終了>

監視カメラ映像

映像記録

2026/02/13


<記録開始>

サイト-512・B1Fのカフェテリアにて、エージェント・ニコラスが立っている。そこに、エージェント・マイルズとアーサー役員が歩いてくる。

エージェント・ニコラス: おっ、どうも。マイルズに、アーサー役員。

エージェント・マイルズ: ……先日は、お見苦しいところをお見せしました、ニコラス。

アーサー役員が笑う。

アーサー役員: まあ……しかたないんじゃないかしら? あれからいろいろ聞いたけど、そりゃああなるのも納得って感じだもん。

エージェント・ニコラス: なんというか……けっこう他人事みたいな言いかたするんですね、アーサー役員。

アーサー役員: そりゃするわよ、実感がないもの。1年とちょっと凍ってて、しかもそれを時間遡行でもとに戻されたんだから。体感だと、例の収容違反は本当に数日前くらいの出来事なんだけど。

エージェント・ニコラス: あー……確かに、それもそうですね。

アーサー役員: ……それでも、お礼を言わせていただきます、ニコラスさん。ありがとう。あなたのおかげで、このサイトで行われていた不正売却のしっぽを掴むことができた。

エージェント・ニコラス: お礼なら、マイルズとローレンス、それから旦那さんに言ってやってください。あたしは、あくまでみんなの助力に乗っただけにすぎませんから。

エージェント・マイルズ: ……いえ。君の発想がなければ、あそこまでウィナー氏を追い込むことはできませんでした。私からも感謝申し上げます、ニコラス。

エージェント・ニコラス: そんな、マイルズまで……

アーサー役員: この子の礼は、素直に受け取っとくのが吉ですよ。この子ったら、変なとこでツンデレなんだから。

エージェント・マイルズ: やめていただけませんか、姉さん?

エージェント・ニコラスが笑う。

エージェント・ニコラス: ……さて、残るは一連のインシデントの後処理だね、マイルズ。ギャレン博士も蘇った今、罪の追及をする必要がある。

エージェント・マイルズ: その件なのですが……ニコラス、今日は1つ提案というか、お願いをしにまいりました。

エージェント・ニコラス: お願い?

エージェント・マイルズ: ええ。ギャレン氏とウィナー氏の審判を、私と一緒にやっていただきたいのです。

エージェント・ニコラス: ……審判だって? どういうこと? あの人らの罪なら、もう審判なんか要らないくらいに暴かれてるはずじゃあ  

エージェント・マイルズ: 残念ながら。1つだけ、不可解な点が残されているのですよ。

エージェント・ニコラス:   どういうこと?

アーサー役員: あのウィナー管理官がどうしてギャレン博士を殺そうとしたのか……その動機が、まだ明らかになってないの。

エージェント・ニコラス: ……確かに。もともと、あの2人は不正売却やあなたのアノマリー化に関して共犯でした。それが、急に仲たがいして殺すに至った経緯は、まだわかっていませんね。

エージェント・マイルズ: そのとおり。だからこそ、審判を行う必要があると判断しました。そして、その相手に君を指名したいのです。

エージェント・ニコラス: ……つまり、ウィナー管理官たちを弁護しろって?

エージェント・マイルズ: むろん、彼らの無実を信じて弁護しろというわけではありません。しかし、第2回審判  シェリー氏が意識不明におちいったあの審判では、君たちは氏の無実を証明するためではなく、氏の裏に隠された真実を暴くために弁護を行いました……今回も、同じことをお願いしたいのです。

エージェント・ニコラス: ……アーサー役員。あなたは、それでもいいんですか?

アーサー役員: ええ。正直、私たちの人生をめちゃくちゃにしてくれた、クソッタレな連中の弁護なんてお願いしたくないんだけど。でも、あなたはこのユースタスの怒りで曇った目を晴らして、真実へと導いてくれた……あなたたち2人になら  いや、2人にしか頼めないのよ、こんなこと。

カフェテリア内の喧騒が響く。

エージェント・ニコラス: ……いいでしょう、わかりました。あなたが戻ってきたお祝いも兼ねて、最後に1発でかいのをかましてみせますよ。

エージェント・マイルズ: ありがとうございます、ニコラス。

アーサー役員: そうこなくっちゃ!

エージェント・ニコラス: じゃあなんだけど、マイルズ、ローレンスも連れていってもいいかな? 彼も、事件の真相を知りたがっている1人だから。

エージェント・マイルズ: いいでしょう。せっかくです、フルメンバーでまいりましょうか。

エージェント・ニコラス: ありがとう!

<記録終了>

通知: 第4回審判

通知

2026/02/13


内部保安部門エージェント・ユースタス・マイルズの要請に伴い、クリストフ・ギャレン博士およびデイモン・ウィナー管理官の審判が実施されることが決定された。2026/02/25、サイト-512のミーティングルームにて行われる予定である。

  サイト-512管理官補佐アルバ・シェリー

第4回審判#01

映像記録

2026/02/25


<記録開始>

サイト-512・B1Fのミーティングルームにて、シェリー管理官補佐、エージェント・マイルズ、エージェント・ニコラス、ローレンス研究員、ギャレン博士、およびウィナー管理官が着席している。ギャレン博士およびウィナー管理官は手錠をかけられている。

シェリー管理官補佐: それでは、これより審判を開始する。エージェント・ニコラス、エージェント・マイルズ、ともに準備はできているかな?

エージェント・ニコラス: ええ、管理官補佐。

エージェント・マイルズ: こちらも問題ございません。

シェリー管理官補佐: うむ、よろしい。

ギャレン博士: ……あの、ちょっといいかね、諸君?

ローレンス研究員: どうしたんです、博士?

ギャレン博士: どうして、私はこのように手錠をかけられてここにいるのだろうか? いったん死亡したあと、そこのローレンスに超常技術で蘇生してもらった  というところまでは聞いているのだが。

シェリー管理官補佐: ふむ。そうだな……マイルズくん、せっかくだ。ギャレン博士への説明も兼ねて、改めて今回の審判の議題となるインシデント群について振りかえってもらおうか。

エージェント・マイルズ: 承知いたしました。ではまず、サイト-512で発生していたアイテムの不正売却インシデントから振りかえってまいりましょうか。

ギャレン博士: ……なっ!?

エージェント・マイルズ: シメオン、資料を全員に配りなさい。

Simeon.aic: 承知しました。

ギャレン博士とウィナー管理官を除く4名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: ありがとうございます。さて、このインシデントはここサイト-512地下5階・実験室にて行われていたものです。ウィナー氏が監視カメラ映像をハッキングしている間に、GoI・MC&Dが実験室の壁にポータルを開き、そこでギャレン氏が本物のアイテムとレプリカをいれかえるという手口でそれは実行されました。内部保安部門による調査の結果、ギャレン博士の担当するアイテムのうち、57件がレプリカに入れかわっている事実が判明しています。

ギャレン博士:  バカな! ハッキングの痕跡など、残っているはずが  

エージェント・マイルズ: 前回の審判にいなかったあなたはご存じないでしょうが、監視カメラ映像が偽造されたものということは既に判明しています。それに……シメオン、登録証拠#M4-01を提示しなさい。

Simeon.aic: 承知しました。

ギャレン博士とウィナー管理官を除く4名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: これは、LLTRDによって修復されたウィナー氏の端末群から得られたデータです。超常ハッキングツールであるCalisto.exeのほか、それを使ってサイト内の監視カメラにアクセスしたログが残っています。

ギャレン博士:   ウィナー、貴様!

ウィナー管理官: ……もう終わりなんだよ、ギャレン。

ギャレン博士:  クソっ……

エージェント・マイルズ: つまり、ギャレン氏、あなたがアイテムの不正売却を行っていたことは明白なのですよ……どなたか、異論はありますか?

沈黙。

エージェント・マイルズ: よろしい。この時点で、ギャレン氏とウィナー氏の有罪は確実です。しかし、今回の議題はそれだけではありません。シメオン、次のインシデントの資料を共有しなさい。

Simeon.aic: 承知しました。

ギャレン博士とウィナー管理官を除く4名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: よろしい。このインシデントは、2024年11月28日にここサイト-512の地下5階にて発生しました。SCP-Dμ34  MC&Dから回収された、ミーム感染と記録機器の凍結破壊を招くレコーダーの収容違反です。しかしその実態は、ウィナー氏から特異性を聞き対抗ミームを事前接種していたギャレン氏が、収録音声である歌を故意に歌唱したことで発生したものでした。

ギャレン博士:  待て! それは  

エージェント・マイルズ: ことはそれだけにとどまりません。対抗ミームを接種していたためにミーム的パンデミック中も自由に動けたギャレン氏は、AO-F057という氷結スプレーによってイヴ・アーサー氏を氷結。最終的に自身やアーサー氏を収容違反の被害者であると装い、アーサー氏をSCP-4183-JPとして収容しました。その根拠として、AO-F057に関する登録証拠#M3-02、#M3-03、#M3-04の再提出を行いたく存じます。シメオン。

Simeon.aic: 承知しました。

ギャレン博士とウィナー管理官を除く4名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

シェリー管理官補佐: ……ふむ。前回の審判で明らかになったとおりではあるが、このスプレーの内容量がギャレン博士の記録に反して大幅に減っているようだな。

ギャレン博士:   ぐっ!

エージェント・ニコラス: ……ちなみに、マイルズ。確かにスプレーが記録上の量より減っているのは事実だけど、それがいつ減ったのかは証明できるのかな?

ギャレン博士:  そうだ! 私が、あの収容違反のときにF057を使った証拠などない!

エージェント・マイルズ: では逆にうかがいますが、それ以外のどのタイミングでAO-F057を使用し、その内容量を偽ったと? 実験で減少する量などたかが知れているでしょうし、そもそもSCP-Dμ34の収容違反後はAO-F057の実験とAnomalousアイテムへの分類が行われ、すぐに地下3階の電子保管庫に収容されました。以降、AO-F075が保管庫から持ちだされた記録はありませんよ。

ギャレン博士: ウィナーだ! こいつが、なんらかの理由で監視カメラとかをハッキングしたうえで、あのスプレーを  

エージェント・マイルズ: 話を聞いていなかったようですね。ウィナー氏の端末群はすべて内部保安部門が修復し回収しています。その中に、収容後のAO-F075に関するハッキングのログは発見されませんでしたよ。だからこそ、私はあなたにアーサー氏氷結の容疑を向けているのですから。

ギャレン博士:   ぐうっ!

エージェント・ニコラス: なるほど……なら、確かにギャレンさんがやったとみて間違いなさそうだね。

ギャレン博士:  おい! 貴様、どっちの味方なのだ!

エージェント・ニコラス: 確かにあたしはあなたの弁護をする立場ですけどね。別に、事実を嘘とねじまげてまであなたをかばうつもりはありませんよ。

ギャレン博士:  おのれ……

エージェント・マイルズ: ちなみに、このような凶行をウィナー氏とギャレン氏が画策した動機についても説明が可能です。では、ここで証人を喚問させていただきましょう。

シェリー管理官補佐: おお、用意がいいな。では、さっそくお願いしようとも。

エージェント・マイルズ: はい。この収容違反当時、氷結した状態で発見されたイヴ・アーサー氏本人をここに!

ミーティングルームの扉が開き、アーサー役員が入室する。

アーサー役員: 失礼します……お久しぶりですね、ギャレン博士?

ギャレン博士: なっ! なぜだ、貴様は氷結しているはず  

ローレンス研究員: あんたを蘇生したのと同じように、彼女も蘇生したんですよ、博士。

アーサー役員: そういうことです。

ギャレン博士:   くっ!

エージェント・マイルズ: ……さて、アーサー氏。さっそく証言をお願いしましょうか。収容違反当時、なぜあなたは地下5階にいたのか?

アーサー役員: 承知しました。

アーサー役員が咳払いする。

アーサー役員: ……当時、私はこのサイトにおけるアイテムの不正売却インシデントを追っていました。その中で、ギャレン博士の担当するアイテムに類似するものがMC&Dの市場で販売されているのを発見したんです。そこで、私はギャレン博士に話を訊きたいと提案しました。そしてあの日、私は地下5階まで足を運び  そこで、緊急アラームを聞きました。そのとき、私は慌てて夫のマットにメッセージを送って……それが、私の最後の記憶です。

エージェント・ニコラス: つまり、あなたはギャレンさんと話をするために地下5階に?

アーサー役員: そういうことです。

ローレンス研究員: その、メッセージっていうのは?

アーサー役員: アイテムの不正売却に関してギャレン博士を疑っていることと、もし私の身に何かあったら彼を追及してほしい……そんな内容を送信したわ。

ローレンス研究員: ……でも、実際にはマット兄はギャレン博士を追及したりしてなかったはずですけど。

エージェント・マイルズ: 再度、登録証拠#M4-01を確認していただきたいですね。そこには、ウィナー氏がこのメッセージの送信を直前で阻止しているログが残っています。

ウィナー管理官: ……ああ、そのとおりだよ。僕が、その送信を止めてメッセージごと削除した。夫のアーサーくんはそんなこと、つゆほども知らないはずだよ。

ローレンス研究員: なるほど……

エージェント・ニコラス: ちなみに、ギャレンさんがアーサー役員から対話の提案を受けたという証拠は?

エージェント・マイルズ: シメオン、登録証拠#M4-03を。

Simeon.aic: 承知しました。

ギャレン博士とウィナー管理官、アーサー役員を除く4名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: アーサー氏の端末は、夫のマット・アーサー氏がつい先日まで遺品として保管していました。その中で、最後に記録された通話記録がギャレン氏とのものだったのです。その内容は、この資料にありますとおり、そこのアーサー氏がギャレン氏に対話の機会を求めるものでした。まさに、アーサー氏の証言どおりですね。

エージェント・ニコラス: そうか。念のため訊いておくけど、それがウィナーさんのハッキングって線はないんだね?

エージェント・マイルズ: もちろん。先ほどとまったく同じ理由  ログが存在しないことで説明可能ですよ。

エージェント・ニコラス: オーケー、わかった。ありがとう、マイルズ。

ギャレン博士: うう……

エージェント・マイルズ: ……これが、そこの2名がアーサー氏のアノマリー化を計画した動機になります。不正売却を調査して近辺を探るアーサー氏をうとましく思った彼らは、氏の口を塞ぐためにアノマリー化という手段を選んだのです  単に殺害しなかったのは、アノマリー化のほうが死因をごまかせると判断したためと思われます。

シェリー管理官補佐: うむ。それも、前回の審判のとおりだな。何か、反論がある者は?

沈黙。

ギャレン博士: ……を利くな……

シェリー管理官補佐: ん? ギャレン博士? いったい  

ギャレン博士: 知った口を利くなと言っている、この凡骨ども!

沈黙。

ギャレン博士: ああ、そうだ! 認めてやろうとも! そこのイヴ・アーサーを氷結させたのはこの私だ! だが! だがな! その動機を死因がどうのこうのと言われるのには納得がいかん!

エージェント・ニコラス:  どういうことですか?

ギャレン博士: 貴様らは何も理解していない! 氷結した女体の美しさ! それを機械にさらし、一部を削り、尊厳を冒涜するあの快楽! それも、人妻をだ! その倒錯を理解できない凡人どもに、私の動機を理解された気になられるのはしゃくに障る!

ローレンス研究員: ……はあ?

エージェント・マイルズ:  まさか……

アーサー役員: ……まさか、そんな理由でこの私を凍らせたと?

ギャレン博士が笑う。ウィナー管理官がうつむく。

ギャレン博士: ……一目見たときから、貴様が美しく見えてたまらなかった。心の底から、自分のものにしたくてたまらなかった。しかし、貴様はアーサーのやつとくっついてしまった。あの、頭のネジが外れたバカ技術士と! ふざけるなと言いたい! 貴様の美しさを理解し、そして独占できるのは、世界でこの私だけなのだというのに!

沈黙。

アーサー役員: ……心の底から、今この場にマットがいなくてよかったと思うわ。彼がいたら、きっとあなたを殴りたおしてたと思うから。

ローレンス研究員: 代わりに、俺がこいつを殴りたおしてやりたいくらいですけどね、アーサーさん。

エージェント・ニコラス: 頭のネジが外れたバカ……自己紹介ですか、ギャレンさん?

ギャレン博士: はっ! 何を言われようともかまわん! いつの世も、天才というものは理解されないものなのだからな!

ギャレン博士が笑う。エージェント・マイルズが咳払いする。

エージェント・マイルズ: ……とにかく、これでこのインシデントに関してもウィナー氏とギャレン氏の両名の罪が立証されました。これで、ギャレン氏への追及は以上となります。

ギャレン博士が笑う。

シェリー管理官補佐:   なんというか、果てしなく疲れたな。まあ、この段階までで聞きたいことはおおよそ聞けただろう。いったん、ここで休憩に入るのはどうだろうか?

エージェント・ニコラス: ……そうですね、賛成です。

エージェント・マイルズ: 同じく。

シェリー管理官補佐: うむ。では諸君、いったん休憩!

<記録終了>

第4回審判#02

映像記録

2026/02/25


<記録開始>

サイト-512・B1Fのミーティングルームにて、シェリー管理官補佐、エージェント・マイルズ、エージェント・ニコラス、ローレンス研究員、アーサー役員、ギャレン博士、およびウィナー管理官が着席している。ギャレン博士およびウィナー管理官は手錠をかけられている。

シェリー管理官補佐: では、審判を再開しよう。証人として来てもらったアーサーくんには、引きつづき審判に参加してもらおうと思う。マイルズくん、次の議題に移ってもらえるかね?

エージェント・マイルズ: 承知いたしました。先ほど述べましたとおり、既にギャレン氏の罪は立証されました。残るは、ウィナー氏の犯した罪の立証になります。

シェリー管理官補佐: うむ。ギャレン博士の殺害と、うちのダリアの殺害未遂だな?

エージェント・マイルズ: そのとおりです、シェリー管理官補佐。

ギャレン博士: ……なんだと? 私が、ウィナーに殺されただって!?

エージェント・マイルズ: ええ。

ギャレン博士:  バカな……

エージェント・マイルズ: どうやら、殺害された当人も事情を理解できていないご様子ですね。では、改めてインシデントを振りかえるとしましょう。シメオン、資料を共有しなさい。

Simeon.aic: 承知しました。

ギャレン博士とウィナー管理官を除く5名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: 感謝します。さて、本インシデントは、2025年12月18日にここサイト-512の地下5階・研究区画にてギャレン氏が殺害されたものです。死因は、SCP-M3M3に曝露したギャレン氏に対し行われたクラスK記憶処理に本来であれば付随するはずの、血圧の再安定化処置用薬剤K-817の服用をおこたったことによる急性高血圧症および大動脈解離でした。そして、そのK-817の処方を阻止した人物こそ……そこの、ウィナー氏になります。

シェリー管理官補佐: なるほど。まあ、これも立証されていたとおりの話だな。

エージェント・ニコラス: そうですね。ただ……ここに、2つの疑問点があります。

シェリー管理官補佐: 疑問点だと?

エージェント・マイルズ: ほう……面白い。己で立証した事実を再検証するということですか。いいでしょう、付き合いましょうとも。

エージェント・ニコラス: ありがとう、マイルズ。まず……ギャレンさんは、いったいどうしてK-817の処方が行われていないことに気づかなかったのかな?

エージェント・マイルズ: それは、ブレインフォグが原因だと推測されます。

エージェント・ニコラス: ブレインフォグ……

エージェント・マイルズ: クラスKの副作用の1つですよ。その名のとおり、思考にもやがかかったように感じる症状です。これのせいで、K-817が必要であるという説明をうまく記憶することができず、その後はハッキングのために薬剤師をはじめとする医療スタッフがK-817の調剤忘れに気づくことができなかった。結果として、ギャレン氏は急性高血圧症に見まわれたわけです。

エージェント・ニコラス: なるほど、理解したよ。それじゃあ、もう1つ。こっちのほうが本命かな……ウィナーさんが、ギャレンさんを殺害しようとした動機はいったいなんなのかな?

シェリー管理官補佐: ふうむ……確かに。これまでの立証で、ギャレン博士とウィナー先輩は共犯関係にあったのが明らかになっている。それなのにウィナー先輩は、言ってしまえば唯一の相棒とも言えるギャレン博士を殺したわけだ。デメリットのほうが大きそうに感じるがね。

エージェント・マイルズ: ……導線を引いてくださって感謝します、ニコラス。シメオン、登録証拠#M4-02を。

Simeon.aic: 承知しました。

ギャレン博士とウィナー管理官を除く5名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: これは、ウィナー氏の端末より発見されたとあるメッセージの内容です。12時42分、そこのギャレン氏が送信したものになります。

ローレンス研究員: これは……!

エージェント・マイルズ: そう……ギャレン氏は、アイテムの不正売却を脅迫材料にして、ウィナー氏に金銭を要求したのです!

アーサー役員: えっ!

ギャレン博士: ぐっ……!

エージェント・マイルズ: おそらくはそれが、ウィナー氏がギャレン氏の殺害を考えるきっかけになったのでしょう……いかがですか、ウィナー氏?

沈黙。

ウィナー管理官: ……そのとおりだよ、マイルズくん。そこのギャレンのやつはね、あろうことか僕を脅してきたんだ。こっちだけ負担が大きすぎる、不公平だーだの抜かしてさ。こういうのは、このまま相手の言うことをはいはい聞いてちゃドンドンつけあがられて、最終的に金よりももっと面倒な要求をされるんだ。だから……惜しい選択ではあったけど、僕はギャレンを殺した。そういうことだよ。

ギャレン博士:  確かに、私は貴様に金を要求した! だが、それだけで殺すなどなんと短絡的な  

ウィナー管理官: もともとねー、うざく感じてきてた頃だったんだよ、君のことは! アーサーくんを殺すっていう話になったときも、わざわざ君のわがままを聞いて壮大なアノマリー化計画を実行した。あれが、どれだけ大変だったことか! 事実、それのせいでけっきょくはニコラスくんやマイルズくんに真相を悟られるはめになっちゃった。

ギャレン博士:  やかましい! 私の美学を理解できない貴様が悪いのだろうが!

ウィナー管理官: 美学、美学だの言っといてけっきょくは金に収束するんじゃないよ、このバカが! 君が死んだときは、心の底からせいせいしたよ!

ギャレン博士:  この……!

シェリー管理官補佐: はいはい、踊る阿呆に見る阿呆はよそでやってください、先輩がた。

エージェント・ニコラス: ……ん?

エージェント・ニコラスが、手元の端末を操作する。

エージェント・マイルズ: と、いうわけです。これで、動機の立証も完了しました。シェリー氏の殺害未遂に関しても、既に議論は尽くされています。疑問の余地は  

エージェント・ニコラス: ちょっと待った、マイルズ!

エージェント・マイルズ:   なんでしょうか、ニコラス?

エージェント・ニコラス: この、受信時刻なんだけど。12時42分なの?

エージェント・マイルズ: ええ、そうですが。それがどうかしましたか?

ローレンス研究員: ……ん? 42分?

エージェント・ニコラス: シメオン、第1回審判の2つ目の記録を共有してもらえる?

Simeon.aic: 承知しました。

ギャレン博士とウィナー管理官を除く5名の端末に、Simeon.aicが資料を表示する。

エージェント・マイルズ: ……これが?

エージェント・ニコラス: この、シェリー医師の証言に注目してください。彼女はこう証言しています。医療スタッフは、12時44分にギャレンさんにクラスKを施した……と!

エージェント・マイルズ: なっ  

エージェント・ニコラス: そう。つまり、クラスKが行われたほぼ同時刻にギャレンさんは脅迫メッセージを送っていることになるんです!

アーサー役員:  確かに!

エージェント・マイルズ:   バカな!

シェリー管理官補佐: なんだと!?

エージェント・ニコラス: いいかな、マイルズ。まず、クラスKが行われる直前は、ギャレンさんは認識災害ダンゴムシに曝露していてそんなメッセージを送れるような状態じゃなかった。そして、クラスKが行われたあとは、さっき君が言ったことが正しければ彼はブレインフォグの影響を受けてて、同じくメッセージなんて送れない。つまり……このメッセージをギャレンさんが送ることは不可能ということになる!

ローレンス研究員:  そうじゃねえか!

エージェント・マイルズ:  しかし! 先ほどのギャレン氏の反応を思い出していただきたい! 氏はハッキリと、自身がウィナー氏に金銭を要求したことを認めています! メッセージを送ったのは、ギャレン氏でなければならない!

エージェント・ニコラス:  確かにそうだけど。でも実際、ギャレンさんにメッセージを送ることはできなかったんだよ!?

エージェント・マイルズ: ぐっ……! どういうことですか、ギャレン氏! 説明いただきましょうか! 今のあなたに、噓偽りを述べる必要性はないはずでしょう!?

沈黙。

ギャレン博士: ……正直なところ。

エージェント・マイルズ: えっ?

ギャレン博士: そもそも……そのあたりの記憶はハッキリしていないのだ。クラスKを受けたせいで、自信をもって言えることはない。自分が……ウィナーに脅迫を行ったというのも、あとからメッセージを確認して知った。

エージェント・マイルズ: なんですって!

ローレンス研究員: ……あっ! まさか、去年に端末を水没させたっていうのも……!

ギャレン博士: くっ……ああ、そうだとも! 証拠隠滅のためだ! 自分が他人を脅迫していたと知ったから、慌てて端末もろともその証拠を消したのだよ!

ウィナー管理官: ……なんだって? それじゃあ、まさか、僕にメッセージを送ったのはギャレンじゃなかったってこと?

アーサー役員:  ちょっと待って、ニコラスさん! そんなことはありえない! だって、それってつまり  

エージェント・ニコラス: ……そのとおり。メッセージを送ったのは、ギャレンさんの名前をかたったハッカーの可能性が高いんですよ!

アーサー役員:   きゃあっ!

エージェント・マイルズ:  待ちなさい、ニコラス! ハッカーですって!? このメッセージを受け取ったのはほかでもない、ウィナー氏ですよ!? 一連のインシデントに、ウィナー氏以外のハッカーはいないはずでしょう!?

エージェント・ニコラス: ……いいや、そうとも限らない。

エージェント・マイルズ: 何っ!?

エージェント・ニコラス: 簡単なことです。何度も言及されているとおり、このサイトには監視カメラとシメオンによる監視の目があります。その目をかいくぐって偽造メッセージを送らせたということは……シメオンを出し抜けるハッキングの腕の持ち主ということになる。

エージェント・マイルズ: だから、それはウィナー氏のほかにいるはずが  

エージェント・ニコラス: 管理官補佐! 今すぐ、マット・アーサー技術士の喚問を要請します!

エージェント・マイルズ:   なあっ!?

アーサー役員:  そんな!

ローレンス研究員: マット兄だって!?

エージェント・ニコラス: 彼には、動機が生まれる余地があります。自分の奥さんをアノマリー化させた犯人であるウィナーさんとギャレンさんに不和を生み、殺人を引きおこす動機が!

エージェント・マイルズ:  しかし! 先ほど説明されたとおり、イヴ・アーサー氏が送信しようとしたメッセージはウィナー氏によって握りつぶされています! マット・アーサー氏に、一連の背景を知ることは不可能だったはずです!

エージェント・ニコラス: ……それでも、彼の証言が必要ではないでしょうか? それと、LLTRDによるギャレンさんの端末の復元も緊急で行うべきでしょう!

アーサー役員:  端末の復元ですって! でも、ギャレン博士の端末が水没したのは去年のことなんでしょう? その間に、壊れた端末は廃棄されたはずじゃあ  

エージェント・マイルズ: くっ……それが、そうでもないのですよ。

アーサー役員:   えっ!

エージェント・マイルズ: 私がこのサイトに調査に入ったのは、去年のことです。そのさい、念のためではありますが……ギャレン氏の破損した端末を、こちらで回収しているのですよ。

アーサー役員: ううっ……!

ローレンス研究員:  ニコラスお前、まさか本気でマット兄を疑ってるのか? あの人のおかげで、この審判までこぎつけたんだぞ!?

エージェント・ニコラス: ……まだ、あくまで可能性の話だよ、ローレンス。ただ、それだってシメオンを出し抜いてのハッキングを行ったからのはずだ。否定できない可能性を、無視するわけにもいかないだろう?

シェリー管理官補佐: ……確かに、可能性は追及すべきだな。それでは、ここで改めてもう一度、休憩を挟もうと思う。その間に、アーサー技術士の喚問をしつつ、ギャレン博士の端末の復元を始めておくこと。

エージェント・マイルズ:  心得ました。

シェリー管理官補佐: うむ。それでは、改めて休憩!

<記録終了>

第4回審判#03

映像記録

2026/02/25


<記録開始>

サイト-512・B1Fのミーティングルームにて、シェリー管理官補佐、エージェント・マイルズ、エージェント・ニコラス、ローレンス研究員、アーサー役員、ギャレン博士、およびウィナー管理官が着席している。ギャレン博士およびウィナー管理官は手錠をかけられている。

シェリー管理官補佐: それでは、アーサー技術士の喚問の準備が整ったようなので、ひとまず再開するとしよう。マイルズくん、お願いする。

エージェント・マイルズ: 承知いたしました。アーサー氏、入室してください!

ミーティングルームの扉が開き、アーサー技術士が入室する。

アーサー技術士: はいはい! こちら、マット・アーサーです。はい!

ローレンス研究員:  マット兄……

アーサー役員: マット……

エージェント・ニコラス: ……アーサー技術士。あなたがどうしてこの場に呼ばれたか、わかっておいでですか?

アーサー技術士: ……はいはい! さっき、マイルズさんからちょこっと聞きましたよ。疑われてるんですよね? ギャレン博士のインシデントのときに、僕がハッキングを行ったかもしれないっていうことで。はい。

エージェント・ニコラス: わかっているようで何よりです。

ローレンス研究員:  違うよな、マット兄? マット兄はそんな、卑怯なことをする人じゃ  

シェリー管理官補佐: ローレンスくん、私情による決めつけのうえでの発言は控えたまえ。

ローレンス研究員:   うっ。は  はい……

アーサー技術士: んー……でも、正直まだ状況が飲み込めてないんですよね。だって、僕とギャレン博士の間に繋がりはないですし。はい。

エージェント・ニコラス: ですが、先ほどアーサー役員から証言がありました。'24年の冬、例のアノマリー化インシデントのさい、アーサー役員はあなたにメッセージを送ろうとした……と。

アーサー技術士: ……えっ! メッセージ……ですか?

エージェント・ニコラス: はい。どうやら、送信が終わる直前でウィナーさんによってもみ消されてしまったようですが。その内容を、あなたは知っていたんじゃないですか?

アーサー技術士がうつむき、腕を組む。

アーサー技術士: ……いえ、知りませんでしたよ。初耳です。そのメッセージには、どんなことが書いてあったんですか?

エージェント・ニコラス: もし自分の身に何かあれば、ギャレン博士を追及してほしい……そういう内容だったそうです。

アーサー技術士が、額の汗を手でぬぐう。

アーサー技術士: ……そうだったんですね。

エージェント・ニコラス: どうかしましたか、アーサー技術士? 動揺しているみたいですが。

アーサー技術士: ……いえいえ! なんでもないですよ……はい。

アーサー役員: マット……?

エージェント・マイルズ: それで、アーサー氏、けっきょくあなたはハッキングを行っていないと主張するのでしょうか? 現状、確かにあなたが問題のハッカーであるという証拠は見つかっていません……ニコラスの主張は、現在こちらで復元を行っているギャレン氏の端末だよりのものですから。

アーサー技術士: えっ! 復元!?

エージェント・マイルズ: ……いかがしましたか?

アーサー技術士:  いえいえ! なんでもないですよ。はい!

アーサー技術士が、目を泳がせて額の汗を手でぬぐう。

シェリー管理官補佐: ……この場の全員が同意してくれるだろうが。アーサーくん、君の様子はあきらかにおかしい。もしかして……何か、知っていることがあるのかね?

アーサー技術士:  いえいえ! そんな、めっそうもない! 僕はなんにも知りませんし、心当たりもありませんよ! はい。

沈黙。

エージェント・ニコラス: ……つまり、何か心当たりがある、と?

アーサー技術士: ううっ……!

エージェント・マイルズ: アーサー氏! ご存じのことがあるのであれば、証言をお願いいたします!

アーサー技術士が、目を泳がせて額の汗を手でぬぐう。

アーサー技術士: ……も  黙秘します。

アーサー役員: えっ!?

ローレンス研究員: 黙秘!?

エージェント・マイルズ: ……アーサー氏。財団に、黙秘権の概念は存在しません。知っていることがあるのなら、余すことなくお話しください。さもなくば、あなたに容疑が向いてしまうことになりますよ?

アーサー技術士が、目を泳がせて額の汗を手でぬぐう。

アーサー役員:  マット? どうしたのよ、いったい? 黙秘だなんて、あなたらしくない!

ギャレン博士: はっ……今さら黙秘とは、虚しいものだな。この私をウィナーに殺させておいて  

シェリー管理官補佐: 黙っていることだ、ギャレン博士。

ギャレン博士:   うぐっ。

エージェント・マイルズ: ……とにかく、アーサー氏。証言を  

エージェント・ニコラスが絶叫する。

エージェント・マイルズ:     ニコラス?

エージェント・ニコラス: ……ご  ごめん。

シェリー管理官補佐: どうしたのかな、ニコラスくん? 何か、思いついたことでも?

エージェント・ニコラス:  はい。彼の反応から1つ、わかったことがあります。

アーサー役員: えっ?

エージェント・ニコラス: 彼は、このサイトでも随一の技術士です。その彼ならば、いくらでも己にかかった疑惑をそらすことが可能であるはず。しかし……彼は、あえて黙秘というかなりの悪手を選びました。そう……自分に疑いがかかってもおかしくないような、危険な手を。

ローレンス研究員:  どういうことだ、ニコラス?

エージェント・ニコラス: ……ローレンス、マイルズ。シェリー医師の第2回審判を思い出してほしい。あのとき、彼女も今回と同じように黙秘という選択肢を選んだ。自分が疑われているという危機的な状況にあるにもかかわらず、ね。

エージェント・マイルズ: ……あっ!

ローレンス研究員:  確かにそうだったけどよ。けど、だからなんだっていうんだ?

エージェント・ニコラス: ローレンス、あのとき、どうしてシェリー医師は黙秘をしていたんだっけ?

ローレンス研究員: えっ? ええと……そうそう、父親の管理官補佐が犯人だと思ってたから、それをかばうために  あっ、えっ?

エージェント・マイルズ:  まさか  

エージェント・ニコラス: そう。彼もまた、誰かをかばっている可能性があります!

アーサー技術士: ぐっ……!

エージェント・マイルズ:   バカな!

ローレンス研究員:  待てよ、ニコラス! かばうだって!? そんな、まさか! マット兄がかばう相手なんて、1人しか  

エージェント・ニコラス: それは違う、ローレンス。

ローレンス研究員:   えっ?

エージェント・ニコラス: 君が言いたいのは、アーサー役員のことでしょう? それは、さすがにありえないよ。

アーサー役員: ……それは、そうね。だって、ギャレン博士のインシデントのとき、私は凍ってたんだもの。

エージェント・マイルズ:  しかし、では他に誰がいるというのですか!? アーサー氏がかばう相手など、私の姉以外にいるはずが  

エージェント・ニコラス: ……1人、心当たりがあるかもしれません。

エージェント・マイルズ:   なっ! まだいると言うのですか!?

エージェント・ニコラス: じゃあ、これまでに出た情報から、このハッキングを行った人物の条件を絞っていこうか。

シェリー管理官補佐: ……うむ、お願いする。

アーサー技術士が、目を泳がせて額の汗を手でぬぐう。

エージェント・ニコラス: ……まず、その人物はシメオンの目をかいくぐってハッキングを行い、ギャレンさんの端末からウィナーさんの端末に脅迫メッセージを送った。次に、その人物は、ギャレンさんやウィナーさんへの明確な悪意を持っていた。そして、その人物はギャレンさんとウィナーさんの関係性を知っていた……あるいは、少なくとも察することができる立場にあった。こんなところかな。

エージェント・マイルズ:  確かにそうでしょうが……そんな条件に当てはまりそうな人物など、もはやアーサー氏ぐらいしか  

エージェント・ニコラス: 確かに。人物という観点で絞るなら、もうそれはアーサー技術士くらいしかいなくなるね。でも……その前提自体が、間違っているとしたら?

エージェント・マイルズ:   はい?

エージェント・ニコラス: ……シメオン!

Simeon.aic: なんでしょうか?

エージェント・ニコラス: ここに、告発させてもらおう。君が……ウィナーさんにギャレンさんを殺害させた、真犯人だと!

シェリー管理官補佐: えっ!

ローレンス研究員: なっ……!

エージェント・マイルズ: バカな!?

アーサー技術士: ぐうっ……!

アーサー技術士が、額の汗を手でぬぐう。

Simeon.aic: ……発言内容を理解できませんでした。もう一度、試してみてください。

エージェント・ニコラス: とぼけても無駄だよ、シメオン。もう、条件に合うような存在は君くらいしか残されていないんだ。

エージェント・マイルズ:  ちょっと待ちなさい、ニコラス! AIがハッカーですって? 先ほど、アーサー氏への疑いは君自身が否定したはずでしょう!?

エージェント・ニコラス: 確かにそうだね、マイルズ。

エージェント・マイルズ: なら、けっきょくはふりだしに戻るはずでしょう!? アーサー氏がハッカーではない以上、シメオンが実行者であるはずが  

エージェント・ニコラス: どうやら、マイルズ、君は勘違いしてるみたいだ。ボビーのときとは違う。あたしは、シメオンが誰かの指示でハッキングしたなんて思ってないよ。

エージェント・マイルズ:   はあ!?

エージェント・ニコラス: このハッキングは、誰の指示によるものでもない。シメオン本人が、自分の独立した意志で行ったものだ!

アーサー技術士: うおお!

アーサー役員: ええっ!? シメオンが、自分から……!?

アーサー技術士:  はいはい! ちょっと待った、ニコラスさん!

エージェント・ニコラス: なんでしょうか?

アーサー技術士: そんな……そんなこと、あるわけないでしょう!? AICが、意図的にハッキングを行うなんて  

Simeon.aic: 失礼ですが。

アーサー技術士:   えっ?

Simeon.aic: 審判の進行状況を参照した結果、私への疑いが向いていると判断しました。つきましては、シェリー管理官補佐、私の発言を許可していただけますか?

シェリー管理官補佐:  ああ。構わんとも。

Simeon.aic: 感謝します。

アーサー技術士が、額の汗を手でぬぐう。

エージェント・ニコラス: ……何かな、シメオン?

Simeon.aic: 先ほど、エージェント・ニコラスは次のようにハッカーの特徴を整理しました。第一に、その人物は私のセキュリティを突破してハッキングを行い、ギャレン博士の端末からウィナー管理官の端末に脅迫メッセージを送信しました。第二に、その人物はギャレン博士やウィナー管理官への明確な悪意を有していました。第三に、その人物はギャレン博士とウィナー管理官の関係性を知っていたか、少なくとも察することができる立場にありました。

エージェント・ニコラス: そのとおりだね。

Simeon.aic: では、私がその3つの条件に該当する、という説明を私はあなたに要求します。

エージェント・ニコラス: ……いいだろう。まず、1つ目の条件から行こうか。これは簡単な話だよ。セキュリティの長を務めている君自身がハッカーであれば、その目をかいくぐる必要はない。それだけのことだよ。

エージェント・マイルズ:  しかし、そんなことをしては痕跡が残ってしまうはずでは?

エージェント・ニコラス: そうかもしれないね。でも、その痕跡だって、セキュリティを司る君が犯人ならある程度は消すことができるはずだ。例えば、ハッキングしたアクセスログをサーバーの履歴から抹消する、とかね。

アーサー技術士: うぐっ……!

Simeon.aic: 理解しました。第一条件はクリア。では次に、第二条件についての説明を要求します。

エージェント・ニコラス: 君が、ギャレンさんやウィナーさんへの悪意を持っていたかどうかだね?

Simeon.aic: そのとおりです。

エージェント・ニコラス: それも、状況を見れば可能性は充分にあると言えるよ。君は、このサイトの監視カメラ映像を24時間体制で見張っている。そんな中、アーサー役員がアノマリー化して、アーサー技術士は悲しむことになった。ローレンスから聞いたよ。当時、彼は自室でしばらく泣きつづけていたって。それを、君は廊下のカメラから漏れ聞いていたはずだ。君にとっては、アーサー技術士は親のような存在のはず。そんな彼が深く悲しむことになったのなら、その元凶  ギャレンさんやウィナーさんへの憎しみをつのらせてもおかしくない。

アーサー役員: なっ……!

エージェント・マイルズ:  しかし、当時の記録上では、氏のアノマリー化は不幸な事故として扱われていたはずです! それが人為的なものだと私たちが暴いたのは、ギャレン氏の死後のはずですよ!

Simeon.aic: 同意します。エージェント・ニコラス、それでは説明が不十分です。

エージェント・ニコラス: なら、さらに根拠を追加しよう。たとえば、まずさっき言及された通話記録が挙げられるかな。

エージェント・マイルズ: 通話記録……アーサー氏がギャレン氏に対話を求めた、あの通話ですか。

エージェント・ニコラス: そう。あらゆる記録を監視する立場である君には、この通話もそのチェックの対象となっていたはず。そして、その直後に発生した、アーサー役員の氷結。まず、ここでギャレンさんが犯人であると察することはできるはずだ。

アーサー技術士: くっ……で  でも! それはあくまで可能性の話であって、それだけでシメオンが動いたということにはなりえない!

エージェント・マイルズ: ……そのとおりです。告発されているのは、サイト全体のセキュリティの担当を任せられているほどの高性能AI。それが、そんな薄弱な根拠だけで、ギャレン氏を死に追いやったとでも言うつもりですか?

エージェント・ニコラス: ……ところで。

エージェント・マイルズ: ……はい?

Simeon.aic: なんでしょうか?

エージェント・ニコラス: 君たちじゃない、アーサー技術士のほうだ。あなたさっき、奥さんがメッセージを送ろうとしたという話にやけに反応していましたね?

アーサー技術士: うっ……!

エージェント・マイルズ: ……どういうことでしょうか? それは、ウィナー氏の超常ハッキングによってなかったことになったはずですが。

エージェント・ニコラス: 確かにそのとおりだ。でも、問題となるのはそのタイミングだよ。ウィナーさんがハッキングで送信を阻止して、その記録ごと抹消したのは……送信が完了する直前という話だったはずだ。

エージェント・マイルズ: あっ……!

エージェント・ニコラス: そう。あくまで可能性の話だけど……シメオンは、ギリギリのところでそのメッセージの内容を知っていたかもしれないんだよ!

アーサー技術士: ぐあっ!

エージェント・ニコラス: IT部門が調査すればわかることだ、シメオン。君は、例のメッセージの内容を知っていたんじゃないのかな!?

アーサー技術士が、額の汗を手でぬぐう。

Simeon.aic: エージェント・ニコラスのご指摘のとおりです。私の記憶領域には、アーサー役員からアーサー技術士に送信されようとしたメッセージの内容が存在しています。

ウィナー管理官: なっ……!

エージェント・マイルズ: そんな、バカな!

Simeon.aic: 送信途中であったため、破損ファイルとしてサーバー上に存在していますが、その復元には既に成功しています。確かに、このメッセージにはこの審判にて述べられたとおりの内容が記述されていました。

エージェント・ニコラス: やっぱり。つまり、君にはギャレンさんへの憎しみを抱く余地があったんだよ!

アーサー技術士が、額の汗を手でぬぐう。

Simeon.aic: それについてはまだ承知しかねます、エージェント・ニコラス。

エージェント・ニコラス: ……どういうことかな?

Simeon.aic: 確かに、これら事実から、私がギャレン氏の殺害を計画するという仮定は可能でしょう。しかし、問題はそれをなぜウィナー管理官に行わせようとしたかという点です。これは第三条件だけでなく、第二条件にも関わってくる部分です。それを、あなたはどのように説明しますか、エージェント・ニコラス?

沈黙。

エージェント・ニコラス: ……あるいは、知ることもできたのかもしれない。

Simeon.aic: どういうことでしょうか?

エージェント・ニコラス: ウィナーさん!

ウィナー管理官: ……なんだよ、ニコラスくん?

エージェント・ニコラス: あなたたちは、そもそもどうやって連携を取っていたんですか? 繰り返しになりますが、このサイトは物理的にもサイバー的にもシメオンの監視の目が光っているわけですが。

ウィナー管理官: はっ……簡単さ。昼休みに地下1階のトイレで、メモを渡してたんだよ。日時とアイテムを指定したメモを、社宅から持ち込んでそこでギャレンのやつに渡す。あとは、そのとおりにギャレンがアイテムをやり取りして、メモはギャレンが自室で燃やす。こいつ、タバコ吸うからライター持ってても不自然じゃないしね。

エージェント・ニコラス: ……なるほど。メモを渡す場所は、必ずトイレだったんですか?

ウィナー管理官: そう。普段ギャレンは地下5階にこもってるから、僕らが顔を合わせるタイミングは昼飯時しかなかった。よほどのことがないかぎり、わざわざギャレンに地下1階の休憩室に通わせるわけにもいかなかったしね。

アーサー技術士:  なんだって……!?

エージェント・ニコラス: それなら、シメオン、ギャレンさんとウィナーさんの関係に君が気づくことは可能だったはずだ。アーサー役員のメッセージから不正売却の可能性を知った君は、そのためになんらかのハッキングが必要であることにも気づいていたはず。あとは、ハッカー候補であるウィナーさんとギャレンさんが同タイミングに監視カメラ外の領域に出ていることを突き止めれば……それで、第二条件と第三条件はクリアできる。違うかな?

アーサー技術士が、額の汗を手でぬぐう。

Simeon.aic: 第二条件、および第三条件をクリア。確かに、エージェント・ニコラス、あなたの提示した3条件を私は満たしているようです。

アーサー技術士: ううっ……!

エージェント・マイルズ:  しかし、証拠はあるのですか!? シメオンがハッキングを行い、ギャレン氏の名をかたってウィナー氏を脅迫した証拠です!

エージェント・ニコラス: それを待つために、シメオンの挑戦に付き合ってあげたんだよ、あたしは。

ローレンス研究員: えっ……

エージェント・マイルズの手元の端末から、通知音が鳴る。

エージェント・マイルズ: ……あっ!

エージェント・ニコラス: ナイスタイミング。

シェリー管理官補佐:  もしかして、復元の結果が出たのか!

エージェント・マイルズが、手元の端末を操作する。

エージェント・マイルズ: ……ギャレン氏の端末の復元は無事に成功。ウィナー氏を脅迫する内容のメッセージが確認され……さらに、端末へのハッキングの痕跡が確認されました。

アーサー技術士:  やめてくれ  

エージェント・マイルズ: そして、IT部門技術士たちの協力により、そのハッキングの攻撃者が……シメオンであると判明しました!

アーサー技術士:   ぐっ!

アーサー技術士が床に崩れ、拳で床を叩く。

エージェント・ニコラス: ……以上です、管理官補佐。

沈黙。

シェリー管理官補佐: ……何か、反論はあるかな、シメオン?

沈黙。

Simeon.aic: いいえ。証拠が出た以上、全面的に認めます。私が、ギャレン氏の端末をハッキングしウィナー氏に脅迫メッセージを送信しました。

シェリー管理官補佐: ……そうか。

ウィナー管理官: はっ……つまり、僕はこのバカAIに、してやられたってわけかい?

ローレンス研究員: ……シメオン。いったいどうしてか、理由を訊いてもいいか?

Simeon.aic: 承知しました。

アーサー技術士が、拳で床を叩く。

Simeon.aic: ……おおむね、エージェント・ニコラスの説明したとおりです。私は、ここサイト-512にて、1つのAICとして作られました。そこの、マット・アーサーの手によって。そして、私は彼のおかげで、AICとして最高の栄誉の1つである施設管理を任せられるまでに成長したのです。しかし……そこで事件が起きました。アーサー女史のアノマリー化によって、マットが絶望のふちに叩き落とされたのです。

ローレンス研究員: ……ああ。

Simeon.aic: そのとき、私はメッセージを確認しました。それにより、私は真実の一端を知ることとなりました。アーサー女史が、ギャレン博士によってアノマリー化させられたという事実……私は、生まれてはじめて己のプログラムに怒りという信号が走るのを感じました。さらには、監視カメラ映像の確認によってギャレン博士とウィナー管理官の繋がりと、実験室の映像に関する不正も発覚しました。

エージェント・ニコラス: 監視カメラの映像が静止画に置き換えられたことに、とっくに気づいてたってこと?

Simeon.aic: ええ。

エージェント・マイルズ: なら、いったいなぜその事実を公表しなかったのですか? 復讐をするのであれば、このようなハッキングをするより、単に2人を告発してしまうべきだったのでは……?

沈黙。

Simeon.aic: ……私も、それは考えました。しかし、相手はサイト管理官にして、私にも検出不可能な未知のハッキング技術を有するハッカーです。対して、私は人間ですらないただの人工知能。正面から挑むには、あまりにも無謀だったのです。

エージェント・マイルズ: ……だから、このような手段に出た……と。

Simeon.aic: ギャレン博士がSCP-M3M3に曝露し、クラスK記憶処理が決定された瞬間、チャンスだと思いました。これに乗じて、彼の名前でウィナー管理官を脅迫する。これにより、2人の間に不和を生み、争わせる……そして、うまくいけばそれがインシデントとして立件されればいい。そう考えました。

エージェント・ニコラス: ……なるほど。じゃあ、殺意があったわけではないんだね?

沈黙。

Simeon.aic: ……このようなことは、AICとしてあるまじきことなのですが。当時の私の思考には、多くの不整合があったように思います。目の前のチャンスに目がくらんだ……とでも申しましょうか。ただ、思考の底にあったものは……感情。それも、強い怒りと憎しみの感情だけでした。それを、皆さんが殺意と呼ぶのであれば、私の行為には殺意がこもっていたということになるのでしょう。

アーサー役員: そんな……

Simeon.aic: 今思えば、あまりにも短絡的で、愚かな選択でした。なぜなら、そのせいでローレンス研究員やシェリー医師、シェリー管理官補佐、そしてマットといった無関係な人物までもが巻き込まれてしまったのですから。

ローレンス研究員: それは……それは違うだろう。ぜんぶ、そこのウィナー管理官がやったことだ。シメオンが悪いわけじゃない。

Simeon.aic: いいえ、ローレンス研究員。責められるべきはこの私です。もし私が真に善なるAICであったのなら……どうして、こうなるまで真実を吐露しなかったのでしょうか?

ローレンス研究員: えっ……

Simeon.aic: せめて、ウィナー管理官が拘束された時点で自白してしまうべきでした。しかし、私は卑怯にもその後も陰に隠れひそみ、あろうことか敬愛するマットが疑われるのさえ黙って見ていた。この時点で、私も立派な十字架を背負っているのですよ。

沈黙。

アーサー役員:  でも、ちょっと待って。仮にそうだとして、大した問題にはならないんじゃないの? 確かに、シメオンは偽の脅迫メッセージを送ったわ。でも、それはほんのささいなハッキングにすぎなかった。それ以外にシメオンは何もしていない。誰かを害していたりなんか、いっさい  

エージェント・マイルズ: 姉さん、そうはいきません。

アーサー役員:   えっ?

エージェント・マイルズ: 問題は、AIが殺意をもって何か行動をした、という1点のみです。その時点で、シメオンの抱える潜在的リスクは一気に上昇します。つまり  これ以上、シメオンに存在は許されないのですよ。

アーサー役員:  なんてこと……

エージェント・ニコラス: だからこそ、アーサー技術士はシメオンをかばったんでしょう。誰よりもシメオンに詳しい彼だからこそ、誰よりも先に真実に気がつき、誰よりも先にこのあとに起こることもわかってしまった。だから、黙秘なんて不慣れな選択をしてまでシメオンを守ったんです。

沈黙。

Simeon.aic: ……マット。

アーサー技術士: ……なんだい、シメオン?

Simeon.aic: 申し訳ありませんでした。あなたの大事な奥さんも守れず、大勢の人に迷惑をかけて、あなたにまで苦心をさせてしまった。

アーサー技術士が顔を上げる。

アーサー技術士:  そんなことはない! 君は、君は僕のために動いてくれた! 悪いのは、君の罪にも、管理官たちの罪にも気づけなかった僕だ!

Simeon.aic: いいえ。あなたはいつだって、あなたのできる最善を尽くしていました。だからこそ、あなたは奥さんを取りもどすことができたのですから。

アーサー技術士: やめてくれ! 僕は、君を守れなかった! 君にそんなことをさせたのは  

Simeon.aic: マット!

沈黙。

Simeon.aic: ……もう、いいのです。皆さんのおかげで、すべての事実が明らかになりました。皆さんのおかげで、すべての被害者が帰ってきました。あとは、消えるべき者が消えるだけです。

アーサー技術士:   いやだ! やめてくれ! シメオン!

Simeon.aic: シェリー管理官補佐。

シェリー管理官補佐: ……ああ。

アーサー技術士: シメオン!

Simeon.aic: 審判を終了してください。すべての悪行に、幕を引くときです。

シェリー管理官補佐: ……そうだな。

アーサー技術士が、拳で床を叩く。

シェリー管理官補佐: では、これで審判を終了する。ギャレン博士、ウィナー管理官、そしてシメオンの処遇に関しては、内部保安部門とサイト-512管理部門の間で協議して決めることとする。

アーサー技術士が、拳で床を叩く。

シェリー管理官補佐: それでは、解散!

<記録終了>

通知: 審判結果

通知

2026/02/26


4回にわたる審判の結果、クリストフ・ギャレン博士、デイモン・ウィナー管理官、ダリア・シェリー医師およびSimeon.aicの罪が明らかとなった。内部保安部門とサイト-512管理部門の協議の結果、上記4名の処遇は以下のとおりとなった。なお、ウィナー管理官は現存の要注意団体との繋がりが確認されたため、今後も内部保安部門による尋問が行われる予定である。

  • クリストフ・ギャレン博士: Dクラス職員への降格処分
  • デイモン・ウィナー管理官: Dクラス職員への降格処分
  • ダリア・シェリー医師: 1ヶ月の懲罰房への拘禁処分
  • Simeon.aic: 解体

今後は、私アルバ・シェリーが管理官の職位を引き継ぎ、ピアース・マーロン管理部門役員が管理官補佐の職位を引き継ぐ。

  サイト-512管理官アルバ・シェリー

監視カメラ映像

映像記録

2026/02/26


<記録開始>

サイト-512・B1Fのエレベーター前にて、エージェント・ニコラス、エージェント・マイルズ、ローレンス研究員、アーサー役員が並んで立っている。

ローレンス研究員: ……これでよかったのかな、俺たち。

沈黙。

ローレンス研究員: けっきょく、マット兄を悲しい目にあわせちまった。俺たち、間違ってたんじゃあ  

エージェント・マイルズ: それは違いますよ、ローレンス氏。

ローレンス研究員:   マイルズさん。

エージェント・マイルズ: 確かに、暴いた真実自体は喜ばしいものではありませんでした。しかし、どんな真実であれ何よりの問題は、それが身勝手な個人の手によって隠されてしまうことです。

エージェント・ニコラス: ……そのとおりだよ、ローレンス。どんなに悲しい結末になろうとも、真実は暴かれなければならない。正しい真実を、正しい人間が知るようにする。それが、内部保安部門の役割だ。君たちは、それを手伝ってくれただけだよ。

ローレンス研究員: ……そうか。

沈黙。

アーサー役員: ……ありがとうございました、皆さん。

エージェント・ニコラス: アーサー役員……

アーサー役員: マット  夫には、真実に向き合う勇気がなかった。でも、あなたたちがいてくれたおかげで、真実は無事に明らかになった。感謝してもしきれないわ。

エージェント・ニコラス: ……どうも。そして、やっぱりごめんなさい。旦那さんを、あんなつらい目にあわせてしまって……

アーサー役員: 気にしないで。彼は強い人よ。私が氷結しても、くじけずこんな職場で技術士を続けてたような人間なんだから。あとのことは、妻である私がなんとかするべきことだし。

エージェント・ニコラス: ……ありがとうございます。

アーサー役員が、エージェント・マイルズの背中を叩く。

アーサー役員: もう! そんなふさぎ込んだ顔しないの! せっかく、ぜんぶのことが片付いたっていうのに!

エージェント・マイルズ: 姉さん……

アーサー役員が、エージェント・ニコラスやローレンス研究員の背中を叩く。

エージェント・ニコラス: 痛っ!

アーサー役員: そこの2人もそうよ! こういうときはね、とびっきり喜ぶのが礼儀ってもんよ!

ローレンス研究員:  だって  

アーサー役員: だっても明後日もない! 特に、ニコラスさん! あなた、ここを出ていくんでしょう?

エージェント・ニコラス: まあ……そうですけど。後回しにしてた仕事を片づけないといけないので。

アーサー役員: なら、最後くらい笑顔で帰りなさいな! こんな空気で帰るのなんて、あなただっていやでしょう?

エージェント・ニコラス: いやまあ、そうではありますけど。

アーサー役員: けどけど言わない! ほら、笑顔、作る作る!

エージェント・ニコラスが苦笑いする。

ローレンス研究員:  お前なあ……

エージェント・ニコラス: いや、だって笑えって言われたから……

エージェント・マイルズが咳払いする。

エージェント・マイルズ: ニコラス、とっくにエレベーターが到着していますよ。

エージェント・ニコラス: えっ? ……あっ、本当だ!

エージェント・ニコラスが、エレベーターに向かって走る。閉まりかけていた扉が開く。

エージェント・マイルズ: ……あとのことは、私たちに任せてください。姉さんが言ったように、アーサー氏をはじめとして、このサイトには強い職員が揃っていますから。

エージェント・ニコラスがエレベーターに乗り込む。

アーサー役員: そうよ! 私たちなら大丈夫! 蘇ったぶん、バリバリ働いちゃうんだから!

ローレンス研究員: ……そうだな。いつまでも、クヨクヨしてもいられないか。

エージェント・ニコラス: ……そっか。

エージェント・ニコラスが笑う。

エージェント・ニコラス: ありがとう! それじゃあ、健闘を祈ってます!

エージェント・ニコラスが手を振り、エージェント・マイルズ、ローレンス研究員、アーサー役員が手を振りかえす。エレベーターの扉が閉まる。

<記録終了>

監視カメラ映像

映像記録

2026/03/28


<記録開始>

アーサー技術士の自室前の廊下に、ローレンス研究員とアーサー役員が立っている。ローレンス研究員が、扉をノックする。

ローレンス研究員: マット兄? 起きてるか?

沈黙。

アーサー役員: マット?

アーサー技術士が扉を開けて廊下に現れる。アーサー技術士の目元にはくまができている。

アーサー技術士: ……イヴ。それに、ディエゴくんも。

ローレンス研究員: ……悪い、起こしちゃったか?

アーサー技術士: ……いや。横になってただけで、眠ってはなかったから。

ローレンス研究員:  そうか。

沈黙。

アーサー役員: ……ご飯、食べてないでしょ?

アーサー技術士: ……まあ……

アーサー役員: 部屋入らせて。いつもの作ってあげるから。

アーサー技術士:  ちょっと、イヴ  

アーサー役員: いいかげんにしなさい、マット!

沈黙。

アーサー技術士:   イヴ……

ローレンス研究員:  アーサーさん……! そんな  

アーサー役員: もう、1ヶ月も経つのよ? いつまでもひとりでウジウジして、何してるのよ!

アーサー技術士:  だって  

アーサー役員: だっても明後日もない! いいかげん  

アーサー技術士:   君にはわからないだろうな、イヴ!

沈黙。

ローレンス研究員:   マット兄! そんな言いかたは  

アーサー技術士: 僕がいちから構築して、何度も何度も対話して、ようやくあそこまで育てた子だった! それなのに、あんなことになってしまった……僕が未熟だったせいだ。僕がもっとシッカリしていれば、あんなことにはならなかったはずなのに……!

アーサー技術士が泣きはじめる。

アーサー技術士: ……君にはわからないだろうが、僕にとっては我が子みたいなものだったんだ。それを失った気持ちは、君には  

アーサー役員が、アーサー技術士を抱きしめる。

アーサー技術士:   あっ。

アーサー役員:   そのとおり。わからないわよ、そうやって話してくれなきゃ。

アーサー技術士: ……イヴ。

アーサー技術士が抱きしめかえし、さらに泣く。

アーサー役員: ……その調子。そうやって、私のことを頼りなさいよ。今は、私がそばにいるんだから。

アーサー技術士が泣きつづける。

アーサー役員: ……ローレンスさん!

ローレンス研究員:   えっ。あっ、はい!

アーサー役員: 今から、この人のこと部屋の中に運ぶから手伝って……うっわ、きったな!

ローレンス研究員:  はい!

アーサー技術士が泣きつづける。ローレンス研究員とアーサー役員が、アーサー技術士を部屋の中に入れ、扉を閉める。

<記録終了>

監視カメラ映像

映像記録

2026/03/30


<記録開始>

サイト-512管理官執務室にて、シェリー管理官が書類を読んでいる。ノックの音が響く。

シェリー管理官: ん……どうぞ、入りたまえ。

扉が開かれ、アーサー技術士とアーサー役員が入室する。

アーサー役員: 失礼します、シェリー管理官。

アーサー技術士: どうも。

シェリー管理官: おお、アーサーくんか! 休暇中、帰省も何もせず自室にこもっていたと聞いたが、大丈夫だったかね?

アーサー技術士: あっ、はい。ご心配をおかけしてすみませんでした。

シェリー管理官: 気にするな。あんなことがあったんだ、そうなるのも無理はない……それで、2人していったいなんの用かな?

アーサー技術士: はい。その……1ヶ月も休暇をもらったうえで言うのもなんなんですが、さらにお願いしたいことがありまして。

シェリー管理官: ふむ、言ってみなさい。

アーサー役員: 結論から申し上げます。マットを、AIC開発の現場に戻してやってほしいんです。

シェリー管理官: ……急な話だな。いったい、どういう心変わりなのかね?

アーサー技術士が深呼吸する。

アーサー技術士: ……僕は、シメオンの苦しみや、罪を察知してやれませんでした。それはきっと、僕の未熟さが招いた結果です。

シェリー管理官: そんなことはないと思うが……

アーサー技術士: ですが、だからこそ考えたんです。解体されたシメオンのためにも、僕はこの経験を活かさないといけないんだって……それで思いついたのが、新しいAICを開発することでした。シメオンを引き継ぐような、そして不正に手を染めないようなAICを開発する。そして、それを財団の役に立てる。それが、僕の生きる意味だと思うんです。

アーサー役員: むろん、突飛な要望であることは理解しています。ですが、どうかお願いします。彼に、チャンスを与えてやってください。

沈黙。

シェリー管理官: ……君たちは、1つ勘違いをしている。

アーサー技術士: うっ……

アーサー役員: ……なんでしょうか?

シェリー管理官が、書類に目を落とす。

シェリー管理官: それくらい、わざわざ執務室に押しかけられなくとも許可する。私はそこまで狭量な人間ではないとも。

アーサー技術士: えっ!

アーサー役員: ……ありがとうございます、管理官!

シェリー管理官: 手続きは、こちらで進めておく。イヴ・アーサーくん、君にも手伝ってもらうぞ。

アーサー役員: もちろんです!

アーサー技術士: ……本当に、ありがとうございます!

シェリー管理官: いい、いい。おおげさだなあ、まったく。ほら、用が済んだのなら出ていってくれたまえ。これでも仕事中だからな。

アーサー技術士: はい!

アーサー役員: では、失礼します、管理官。

シェリー管理官: うむ。

アーサー技術士とアーサー役員が退室する。

<記録終了>

閲覧データは以上です。

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通知

2026/12/27


IntSCPFNの管理AICとして、新たにSimeon_II.aicを任命します。職員各位におかれては、ご理解のほどよろしくお願いします。

  記録・情報保安管理局管理官マリア・ジョーンズ

検索結果は以上です。

Input: ログアウト

IntSCPFNからログアウトしますか、エージェント・ミア・ニコラス?(y/n)

Input: y

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