アイテム番号: SCP-419-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-419-JPは現在サイト-81██の低危険物収容室に保管されています。接触および実験は生物オブジェクト研究担当の上級研究員3名以上の認可と、1名以上の研究員の立会いの下行ってください。
SCP-419-JPを使用していた文明が築かれていたことを隠蔽するため回収した資料は公的には失われたものとし、世間および考古学会にはカバーストーリー、"モアイ像建設のための森林伐採と資源の枯渇説"を流布しています。
説明: SCP-419-JPは、1930年代にチリ共和国によって日本国へのイースター島1の売却が検討された際に財団が介入した現地調査によって発見されました。同時に発見された当時の記録より、SCP-419-JPは後述するイースター島で起こった文明の崩壊の原因になったと考えられています。SCP-419-JPは元は約70体ほど存在していたと考えられていますが、そのほとんどが破壊され無力化されており、異常性が残っていた個体はわずか5体のみでした。さらに実験により2体の異常性が失われたため、現在収容されているSCP-419-JPは3体で、うち1体が休眠状態です。
SCP-419-JPは凝灰岩で構成された石像です。材質の調査により、島にポリネシア人が移住してきた4世紀よりも前に作られたことが判明しています。一般的に"モアイ"として知られている形状2をしており、内部に有機体が存在することが確認されています。有機体は非活性時に空気に触れると瞬時に凝灰岩に変化し、同時にSCP-419-JP自体の異常性を喪失します。そのためSCP-419-JPを分解しての調査の試みは失敗に終わっています。
SCP-419-JPは眼窩部に石灰岩で構成された眼球状の部品を嵌め込むことで活性化します。SCP-419-JPと共に発見された為、便宜上SCP-419-JP-aとしますが、SCP-419-JP-a自体は異常性の無い石灰岩であり、SCP-419-JPに嵌め込むことが可能な形に加工したものであれば異常性を発揮させるために使用することができます。
活性化状態のSCP-419-JPは顔面下部が融解したように軟化し、強力な粘着力を持ちます。物体が軟化部分に接触するとSCP-419-JPは粘着力によって拘束し、蠕動を以って対象をSCP-419-JP内部に取り込みます。取り込んだ物体が生物でない・既に死亡している場合、SCP-419-JPは対象を消失させ再び融解状態へ移行します。生物を取り込んだ場合、活性化前と同様の形状へと復元し生産状態へと移行します。もし生産状態である時にSCP-419-JP-aが何らかの手段によって取り外された場合、SCP-419-JPは非活性化状態へ移行し、内部に取り込んだ対象は消失します。いずれの状態においても一度SCP-419-JP内部に取り込まれた対象を取り出す試みは失敗しています。
生産状態に移行したSCP-419-JPは、取り込んだ生物の体内に有機組織を侵入させ生体構造を改造します。改造を施された対象は、体内で受精卵3を作り出し、自身と同一のDNAを持つ個体(以下SCP-419-JP-b)を妊娠することが可能になります。この改造にオスメスの性差は無く、また妊娠部位も腹部・子宮に限定されず複数個所に同時に発生することがCTスキャンによる調査で判明しています。発生したSCP-419-JP-bは通常の約█████倍の速さで急速に成長し、生殖が可能な年齢まで達すると出産を経てSCP-419-JP外部へと排出されます。このプロセスにかかる時間は生物の種類ごとに異なり、また大きな生物ほど大量に生産されます。特にヒト(Homo sapiens)個体の場合、SCP-419-JPの活性化から█時間で最初のSCP-419-JP-bが排出され、約███時間かけて合計50体から100体前後のSCP-419-JP-bが生産されます。生産終了後にはSCP-419-JP-aが消失し、SCP-419-JPは非活性化状態に戻ります。この状態の内部調査をしたところ取り込まれた対象が消失していたことから、死亡したか生産によって消費されたものと考えられています。
SCP-419-JPが生産行為を行っている最中にSCP-419-JP付近の土壌が消費されることが判明しています。消費される土壌は一定の水分とミネラル分を含む土に限定されており、砂や砂利、瓦礫などは消費されないことが判明しています。SCP-419-JPが接触部位からそれらの物質を吸収していることが確認できますが、消費された土壌から取り出すことのできるエネルギー量は、SCP-419-JP-bを生産するためのエネルギー量より明らかに少なく、どのようにしてエネルギー変換を行なっているかは不明です。また土壌の吸収が遮断された場合SCP-419-JP-bの生産数が著しく減少し、早期に非活性化状態へ移行します。
またSCP-419-JPの生産行為には休息期間が必要とされ、非活性化状態から次の活性化状態に入るまでに20日以上の休息期間を設けずに4000日以上の生産を行わせた場合、長期間の休眠状態に入ります。休眠期間は数十年間から数百年にも及ぶと考えられていますが、長期の実験となるため正確な休眠期間や連続生産可能期間は判明していません。なおこの休眠状態に入った場合、生産途中であった対象はSCP-419-JPの内部で休眠期間が終了するまで生命活動を維持されることが確認されており、休眠期間の終了後には再び生産状態に移行するとされています。
添付資料: 以下はイースター島の調査の際に発見された記録を元に考察された島の歴史です。
黎明期
4世紀頃にイースター島へ移住してきたポリネシア人がラノ・ララク4にてSCP-419-JPを発見し、その性質について実験をしていたことが分かっています。彼らはオブジェクトの異常性によって生産されたSCP-419-JP-bを"祖先の霊による恵み"だと解釈し、一ヶ月に約1度の信仰の儀式とともにオブジェクトによる家畜の繁殖を行っていました。次第に彼ら独自の宗教文化を形成していき、7世紀頃からSCP-419-JPを模した祖先の像を作るようになりました。文明の発達と崩壊
先祖信仰の文化はそれから600年程続いていましたが、生活が豊かになってくると島民は食料だけでなく、モアイ製作と運搬に必要な奴隷も生産するようになったとされています。
移住期の島民はオブジェクトの特性を知っており休眠期を設けない範囲での使用方法をわきまえていましたが、時代が変わり人口が多くなると先祖崇拝の儀式とされていたSCP-419-JPの使用は食糧生産のために頻繁に行われるようになりました。そして長い休眠期があることを知らない島民らはひたすらSCP-419-JPに生産を行わせました。
SCP-419-JPがひとつ休眠状態に移行すると、シワ寄せによって使用頻度の増加した個体が同様に休眠状態に入り、次々とオブジェクトは使用不可に陥ったと考えられています。特に需要のあった食糧用の家畜の生産が激減し、オブジェクトによって消費された土壌では作物が育てられず、同時に奴隷の急増によって人口爆発を起こしていたため、島民らは深刻な食糧不足に悩まされました。漁業や脱出用の船を作る資材もすでに無く、供給が断たれたことによって島民同士の資源を奪い合う抗争が勃発したとされており、食糧不足から人肉食のための狩猟が行われていた記録も見つかっています。抗争と混乱の中で活性化状態のSCP-419-JPを奪い合い、時には奪われる前に破壊し、休眠状態となったものも同様に多くが破壊されました。
住民は解決策を求め、SCP-419-JPが発見されたとされるラノ・ララクから材料を削り出し、よりSCP-419-JPに近い造形の像を生産し続けました。当然ながら異常性が発揮されるはずもなく、ただモアイ像だけが増えていく結果となり、末期には生産途中のまま打ち捨てられた多くのモアイがラノ・ララクに見られました。文明のリセット
抗争と飢えにより島民は1度全滅したと考えられています。その後、数十年の空白の期間を経てオブジェクトが休眠期から回復し、残っていた僅かな家畜たちを生産し、同時に奴隷を生産する為に動かされていたオブジェクトから生産されたSCP-419-JP-bが現在表向きに公表されている生き残りの島民とされています。この文明リセットにより1722年にヨーロッパ人が島にたどり着いた時に、島民は石器時代と同様の生活レベルだったとされている理由です。人間にとってメリットをもたらすオブジェクトが異常性によってではなく、皮肉にも「異常性を失くした」ことで文明を滅ぼした、非常に稀有な例となりました。