SCP-4242-JP
評価: +35+x
blank.png

アイテム番号: SCP-4242-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: 紀崎氏に関連する全ての映像・写真資料(以下、映像)は日本国内に限り自由に閲覧することが可能です。国内主要メディア企業には財団フロント企業を通じて、定期的に紀崎氏の映像を放送させてください。ただし、国外のメディア企業やインターネットサーバーへ紀崎氏の映像が流出しないよう、厳重な監視・検閲体制を敷いてください。

紀崎氏の映像を過去に閲覧した経験がある財団職員のうち、精神的不調が見られる職員には、定期的に紀崎氏の映像を閲覧することが推奨されます。

説明: SCP-4242-JPは2020年1月25日、脳梗塞により死亡した紀崎 政一氏に関連する認識災害です。SCP-4242-JPは紀崎氏を直接・間接的に視認した際に発生する記憶・認識異常を指します。

紀崎氏は██テレビに197█年入社後、約40年以上にわたり報道分野で活動したアナウンサーです。特に全国で放送されていた朝の報道番組で長期間メインキャスターを務め、日本国内で高い認知度を有していました。2020年1月時点で、日本人口の約90%以上が生前の紀崎氏を少なくとも一度は視認していたと推定されています。

SCP-4242-JPの異常性は、紀崎氏を生前に対面、または映像越しに視認した人物(以下、SCP-4242-JP-A)が、紀崎氏の氏名を永続的に記憶する点にあります。この記憶は時間経過や記憶処理剤の影響を受けません。また、言動に関する記憶も同様の影響を受けにくい傾向が確認されていますが、その内容を完全に想起できるわけではなく、想起の精度や細部は個人差・時間経過によって変動します。

その一方で、顔貌や声質などの身体的特徴に関する記憶は、時間経過により正常範囲内で忘却されます。身体的特徴の忘却によって、軽度の不安・焦燥・抑うつなどの悲嘆反応を呈する場合がありますが、当該反応は微弱であり、ごく一部のSCP-4242-JP-Aにのみ確認されています。

しかしながら、脳神経の物理的破壊や記憶処理剤によって紀崎氏の身体的特徴に関する記憶が完全に消去された場合、SCP-4242-JP-Aは「覚えているはずである」という確信と、外見を想起できない事実との間に強い認知的不協和を示し、中度から重度の悲嘆反応を呈します。

なお、SCP-4242-JPの異常性発現は日本国内に留まっており、国外に居住するSCP-4242-JP-Aには同様の現象は確認されていません。この原因は不明ですが、紀崎氏の映像が日本国内でのみ長期間に渡り高頻度で放送され、日本社会全体の共通認識として定着していたことが関係していると考えられています。すなわち、一定規模以上の集合的記憶の共有が発現条件である可能性があります。

インタビュー記録4242-JP-1 抜粋

日付: 2020/02/18
対象者: D-4242-1
インタビュアー: 宮島研究員
付記: D-4242-1に対してクラスC記憶処理を行った後、インタビューを実施。D-4242-1は記憶処理前、紀崎氏の担当番組を日常的に視聴していたと証言している。今回のインタビューでは、SCP-4242-JPの影響を判別するために、記憶処理を行ったことのみD-4242-1へ事前に伝えている。

<記録開始>

宮島研究員: 体調はどうですか?

D-4242-1: まあ普通だ。ちょっとだるい気はするけど。

宮島研究員: 昨日までの記憶に違和感は?

D-4242-1: 特にねえよ。何かの記憶消したって言われても違和感はないな。

宮島研究員: では確認なのですが、██テレビの紀崎元アナウンサーを知っていますか?

D-4242-1: は?ああ、そりゃあ知ってるよ。有名だったしな。朝のニュースの顔だろ。

宮島研究員: どのような印象の人物でしたか?

D-4242-1: えーと、落ち着いてて、真面目で……なんか、安心感あったな。あいつが原稿読むと「ちゃんとしてる」って感じがしてさ。

宮島研究員: 声はどのようなものでしたか?

D-4242-1: 声?……低めで、聞き取りやすくて……いや、待てよ。低かったっけ?

宮島研究員: 思い出せませんか?

D-4242-1: いや、思い出せる。思い出せるはずなんだ。ただ、具体的に言えって言われると……。

宮島研究員: それでは、どのような見た目であるか説明してください。

D-4242-1: 見た目?見た目はほら……普通だよ。

宮島研究員: どのように普通ですか?

D-4242-1: ……あー、本当に普通の顔というか。でも、ちょっと渋めの顔つき?みたいな……。スーツ似合ってて、髪は……髪は、ちゃんとしてた。

宮島研究員: 「ちゃんとしていた」とは?

D-4242-1: だから、その……ニュース読む人っぽい髪型だよ。

宮島研究員: 具体的に説明してください。長さ、色、分け目などで。

D-4242-1: ……色は黒、だと思う。いや、黒じゃなきゃおかしいだろ。分け目は……右?左?

[5秒間の沈黙]

D-4242-1: なんでだ?なんでこんな基本的なことが出てこねえんだ?

宮島研究員: 落ち着いてください。では別の質問をします。紀崎氏の代表的な発言を一つ挙げてください。

D-4242-1: 「本日のニュースです」……いや、それはみんな言うか。えーと……災害の時、なんか言ってたな。「自分の命を守ることを優先してください!」とかって。

宮島研究員: その時の表情は?

D-4242-1: 表情は、そりゃ当然険しい顔に決まって……。

[8秒間の沈黙]

D-4242-1: ちゃんと覚えてる。絶対覚えてるんだよ。あんなに見てたんだ。毎朝だぞ?

宮島研究員: 落ち着いて。それでは、紀崎氏の見た目を絵で表してください。簡単で構いませんので。

[D-4242-1に紙とペンが手渡される]

D-4242-1: えーと……。

[D-4242-1は顔の輪郭らしき円を1つ描く。その後、目と思しき点を左右に打つが、すぐに強く塗り潰す。]

D-4242-1: 違う。こんなんじゃない。

宮島研究員: 続けてください。

D-4242-1: 分かんねえ。絶対顔覚えてるはずなんだけど。なんでだ?なんで、なんで……。

宮島研究員: 記憶処理の影響の可能性があります。

D-4242-1: でも名前は分かるんだ。紀崎 政一。ちゃんと分かる。ニュースも覚えてる。なのに顔だけ、顔だけが……。

[D-4242-1の呼吸が荒くなる]

D-4242-1: なんか、霧みたいなんだよ。そこにいるのに、輪郭がない。無理やり思い出そうとすると、頭の中がギシギシする。

宮島研究員: それは痛みですか?

D-4242-1: 痛みっつうか……焦りだ。思い出せないのがおかしいって分かるんだ。覚えてるって確信してるのに、証明できない。

[10秒間の沈黙]

D-4242-1: ……俺、本当に見てたよな?

宮島研究員: はい。事前にあなたから紀崎氏が出演している番組を毎朝見ていたと聞いています。

D-4242-1: じゃあなんで…。

[D-4242-1が突然泣き始める]

D-4242-1: 絶対に覚えてるはずなのに……。 [鼻を啜る音]だって覚えてなきゃ……。

<記録終了>


D-4242-1は発汗および軽度の動悸を示しました。その後約30分間、断続的に「覚えている」「絶対に知っている」と繰り返しました。描画された紀崎氏の顔は、目鼻口の位置関係が不自然に歪んだ抽象的図形となっており、後の比較実験でも同様の傾向が確認されています。

発見経緯: 2020年2月上旬、財団製Webクローラが国内主要SNSを巡回中、「顔が思い出せなくて焦った」「はっきり覚えているのに説明できなかった」といった趣旨の投稿を複数自動検出しました。投稿間に相互関連性はなく、年齢層や居住地域も分散していましたが、いずれも紀崎氏の外見のみを想起できないという共通点を有していました。

当初、本現象は著名人の死去に伴う一時的な記憶混乱と判断されました。しかし、対象者への聞き取りや簡易認知試験の結果、紀崎氏の氏名や発言内容は明確に想起できる一方で、顔貌や声質を具体化できないことが確認されました。さらに、記憶処理を行った後も氏名と言動の記憶が保持される事例が発生したため、通常の心理的反応ではないと結論づけられました。

その後、紀崎氏の映像を再視認させる実験を実施したところ、身体的特徴の想起が可能となりました。それに伴い、持続していた悲嘆反応は速やかに軽減し、心理状態の安定が確認されました。

上記の結果から、本現象は認識災害と判断され、SCP-4242-JPにナンバリングされました。SCP-4242-JPの影響を受けている人口の多さからオブジェクトクラスはKeterに指定されましたが、SCP-4242-JP-Aの人口は西暦2100年頃には現在の約5%まで減少すると推計されており、一般社会におけるSCP-4242-JPは最終的に無力化される見通しです。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。