アイテム番号: SCP-4338-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-4338-JPを中心とした半径1km圏内にカバーストーリー「土砂崩れによる侵入禁止」を適用し、周辺に2名以上の警備員が常駐されます。また、SCP-4338-JP付近の仮設サイトに、SCP-4338-JP担当職員もしくはDクラス職員が常に配置されます。
説明: SCP-4338-JPは、██県██山に存在する一軒の屋敷です。SCP-4338-JPは毎日12時に、SCP-4338-JPの最も近くに存在するヒト(Homo Sapiens)(以下対象)をSCP-4338-JP内に転移させます。内部には40cmほどの人型実体(以下SCP-4338-JP-A)が1体存在し、対象に対して板チョコレート(以下SCP-4338-JP-B)を用いた後述するゲームを持ちかけます。この際、対象はゲームのルールを即座に理解します。SCP-4338-JP-Bの大きさは各事例によって異なり、規則性は発見されていませんが、事例を経るにつれ緩やかながら大型化している傾向があります。また、SCP-4338-JP-Bが平常時のSCP-4338-JPの大きさを超えた場合、SCP-4338-JPはSCP-4338-JP-Bの大きさに合わせて拡大します。現在確認されている最大の大きさは123m×185m(8219×7407ピース)です。
ゲームのルール
初期盤面
初期盤面では、縦にn分割、横にm分割されたSCP-4338-JP-Bがあります。先攻をSCP-4338-JP-A、後攻を対象とし、以下の行動を交互に繰り返します。
- SCP-4338-JP-Bのピースのうち一つを選び、そのピース及びそれより右下にあるピースをすべて取り除く。
赤色の円が描かれたマスを選ぶと、網掛け部のピースが消滅する。
これで先攻の手番は終了し、次は後攻がピースを1つ選ぶ。
これを交互に繰り返し、左上のピースを選んでしまったプレーヤーの負けとなります。
ゲームの進行例1
縦3ピース、横4ピースの盤面を例に説明する。
先攻が上から2ピース目、左から3ピース目を選ぶと、下図のような盤面になる。
以降、先攻は赤色、後攻は青色を用いて図示する。
先攻の着手が終了した盤面。次は後攻の番となる。
次に後攻が上から3ピース目、左から2ピース目を選ぶと、下図のように1ピースが取り除かれる。
後攻が1ピース選んだ盤面。
上のように、途中図は階段状になる。
以下、先攻が上から1ピース目、左から2ピース目を選び、後攻が上から2ピース目、左から1ピース目を選んだとする。
図のように、取り除くピースの形は長方形にならないこともある。
これで左上のピースのみが残る。
すると左上の1ピースだけが残り、次に先攻はこのピースを選ぶしかなくなるため、後攻の勝ちとなる。
ルールに従いSCP-4338-JP-Bのピースを取り除いた際、そのピースを摂食するような動作をとることでピースは消失します。また、対象が敗北した場合、昏睡した状態でSCP-4338-JPの外で発見されます。この際に対象の血中から睡眠剤が検出されることから、SCP-4338-JP-Bの左上のピースには睡眠剤が添加されていると推測されています。現在までSCP-4338-JP-Aが敗北した事例は存在しません。
SCP-4338-JP-Aは非常に小さいため、SCP-4338-JP-Bの左上のピースを摂食した場合、長期間昏睡するもしくは致死的な影響を受けると推測されています。SCP-4338-JP及びSCP-4338-JP-Bの拡大によって収容難易度が上がる可能性があるため、SCP-4338-JP-Aに勝利することによって収容の安定化を試みる案が可決されました。以下は、SCP-4338-JPを担当しているエージェント・尾田と戦術求解部門2の相馬博士による作戦ログです。
作戦ログ4338-JP-1
<録音開始>
[前略。Agt.尾田は相馬博士にSCP-4338-JPで行われるゲームのルールを説明する]
相馬博士: なるほど。これは、「chomp」というゲームですね。
Agt.尾田: 有名なゲームなのですか。
相馬博士: 有名というほどではありませんが、ゲーム理論の分野ではある程度知られたゲームです。
Agt.尾田: そうでしたか。では早速聞きますが、このゲーム、私たちは勝つことはできるのでしょうか。
相馬博士: 残念ながら、このゲームは先攻が必勝であると知られています。つまり、双方が最善を尽くせば必ずSCP-4338-JP-Aが勝ちます。
Agt.尾田: そうですか…… では、後攻の私たちが勝つことはできないのですね。
相馬博士: ……いえ。希望はまだあるかもしれません。
Agt.尾田: え、でも、SCP-4338-JP-Aの必勝法が既に見つかっているんですよね。じゃあどうやって……
相馬博士: 詳しく説明しましょう。まず、説明を分かりやすくするために、いくつかの言葉を定義しますね。
[相馬博士は紙を一枚取り出し、図を描く。]
相馬博士: 縦nピース、横mピースのゲームをn,m-chompと呼びます。そして、上からiピース目、左からjピース目を(i,j)と名付けます。図にするとこんな感じです。
左上のピースは(1,1)となる。
Agt.尾田: 分かりました。
相馬博士: さらに、先攻後攻と呼ぶとこの後ちょっとややこしくなるので、先攻をAlice、後攻をBobと呼びましょう。
Agt.尾田: AliceとBob、ですか。
相馬博士: 頭文字がAとBで覚えやすいですから。こういう時は慣用的にAliceとBobが使われることが多いんです。
Agt.尾田: なるほど。
相馬博士: さて、Aliceが必勝であることを示しましょう。この証明では背理法3を使います。4Bobが必勝であると仮定しましょうか。この時、Aliceがどんな初手を選んでもBobは勝つことができます。ですから、一番右下のピース(n,m)をAliceが選んでも、Bobはあるピース(a,b)を選べば勝つことができます。
Aliceが(n,m)を選んだ盤面。次はBobの番。
Bobが(a,b)を選んだ盤面。次はAliceの番で、仮定よりこの盤面はBob必勝である。
相馬博士: さて、では次に、Aliceが初手で(a,b)を選んだ盤面を考えましょう。
Aliceが(a,b)を選んだ盤面。次はBobの番。
相馬博士: この図と上の図を見比べてみてください。全く同じ盤面で、手番だけが逆になっていますから、この盤面はAlice必勝ですね。しかし最初にBob必勝と仮定しましたから、Aliceが初手に(a,b)を選んでもBobが勝つことが出来るはずなので、矛盾していますね。したがって、仮定が間違っていることが分かりましたから、n,m-chompはAlice必勝です。
Agt.尾田 え、これで終わりですか。まだ必勝法の手順は何も分かってませんよね。
相馬博士: そう思いますよね、気持ちは分かります。こういった、具体的な方法を表さずに存在だけ証明することを、「非構成的証明」といいます。慣れないかもしれませんが、これでちゃんと証明になっています。
Agt.尾田: 結局、具体的な必勝手順は分からないんですか。
相馬博士: 未解決問題です。話を戻しましょうか。我々が勝つ希望が残っているかもしれない、と話しましたよね。
Agt.尾田: はい。
相馬博士: SCP-4338-JP-Aも必勝法を知らない可能性があります。
Agt.尾田: あっ。
相馬博士: 盤面が大きすぎますから、コンピュータによる完全な解析も困難です。もちろんアノマリーである以上、我々の知らないような必勝法を発見している可能性も十分にありますがね。
Agt.尾田: SCP-4338-JP-Aが必勝法を知っているのなら私たちが勝つことができる可能性は残っていないし、知らないのなら相手のミスを咎めれば勝てるかもしれない、ということですか。一体どちらなんでしょうか。
相馬博士: 分かりません。ですが、どちらにせよ我々にできるのは、研究し続けることだけです。
Agt.尾田: そうですね。これからよろしくお願いいたします。
相馬博士: こちらこそ。
<録音終了>
当作戦ログの後、エージェント・尾田と相馬博士の主導でSCP-4338-JPの研究が開始しました。また、数学部門・情報技術部門と共同でSCP-4338-JPの研究・解析に用いるコンピュータシステムの開発に着手しました。以下は、SCP-4338-JPと財団の対戦記録の一部抜粋です。
対戦記録4338-JP-7 - 2025/04/17
SCP-4338-JP-Bの大きさ: 641×974ピース
備考: 戦術求解部門による研究が始まってから初の対戦。以下特に注記のない限り、プレイヤーは相馬博士の指示を受けているDクラス職員とします。
結果: 負け。
考察: まずは自力でプレイしてみましたが、勝てませんでした。今回から対戦をすべて記録し、研究を進めていきます。 - 相馬博士
対戦記録4338-JP-31 - 2025/05/11
SCP-4338-JP-Bの大きさ: 13×21ピース
備考: 各行・各列のピース数が2桁以下となった初の事例。
結果: 負け。
考察: 実験後にゲーム木5の全探索によって検証したところ、SCP-4338-JP-Aの着手は必勝法と一致しました。 - 相馬博士
対戦記録4338-JP-83 - 2025/07/02
SCP-4338-JP-Bの大きさ: 2627×1271ピース
備考: 当対戦から、情報技術部門と合同で開発したchomp解析コンピュータシステムを導入している。
結果: 負け。
考察: おおよそ100×100ピース以下の盤面であれば、どちらの勝ちか判定ができるようになりました。まだまだ勝てる見込みはありませんが、進歩はしていると思います。 - 相馬博士
対戦記録4338-JP-94 - 2025/07/13
SCP-4338-JP-Bの大きさ: 4906×1692ピース
備考: なし。
結果: 負け。
考察: これまでの全てのケースにおいて、100×100ピース以下になった時点ですでにこちらの負けになっていることが判明しました。 - 相馬博士
対戦記録4338-JP-98 - 2025/07/17
SCP-4338-JP-Bの大きさ: 8219×7407ピース
備考: 記録上最大のピース数となった事例。当対戦までに両辺とも5000ピースを超えた事例は存在しなかった。
結果: 負け。
考察: 想定を超えるサイズのピースが出現し、一般人に露見する可能性が即座に判断できなかったため、2手目に左上の睡眠剤入りピースを選択することでゲームを強制的に終了しました。 - 相馬博士
当事例を受け、特別収容プロトコルが一部見直されました。
対戦記録4338-JP-105 - 2025/07/24
SCP-4338-JP-Bの大きさ: 5729×5729ピース
備考: 縦と横の大きさが同じとなった初の事例。
結果: 負け。
考察: 以下の作戦ログを参照。
作戦ログ4338-JP-2
<録音開始>
Agt.尾田: お久しぶりです、相馬博士。
相馬博士: お久しぶりです。各部署との渉外やプロトコルの再検討など、いつも助かります。
Agt.尾田: いえいえ、それが仕事ですから。
相馬博士: では、早速ですが昨日の対戦6までを踏まえた現状の考察を話していこうと思います。
Agt.尾田: はい。
相馬博士: まず結論として、SCP-4338-JP-Aに勝てる見込みはまだ全くありません。
Agt.尾田: ……そうですか。
相馬博士: 残念ながら。これまでの主な進展は、情報技術部門と合同でchompの解析用システムを開発したことです。現在のバージョンでは、100×100ピース以下の途中図に対して高精度の勝敗判定ができます。ですが、これまでの全ての対戦記録においてシステムで解析させたところ、100×100ピース以下になった時点でこちらの負けになっていました。
Agt.尾田: 全て、ですか。
相馬博士: はい。解析の性能では、SCP-4338-JP-Aにまったく及んでいないと言わざるを得ません。システムの性能を高めることはまだまだ出来ますが、どれぐらい性能を高めればSCP-4338-JP-Aに勝てるようになるのかは見当もつきません。
Agt.尾田: しかも、前回の説明によれば、このゲームはもともとSCP-4338-JP-Aの必勝なんですよね。つまり、どれだけ性能を高めても無駄になる可能性まであるのではないですか。
相馬博士: その通りです。
Agt.尾田: 他のアプローチでの研究はないんでしょうか。
相馬博士: 数学部門との研究で、いくつかの特殊パターンにおいて必勝手順を具体的に構成しています。ちょうど昨日の対戦でそのパターンが出たので、ちょっと解説しましょう。
Agt.尾田: 昨日の対戦というと、縦と横のピース数が同じやつでしたっけ。
相馬博士: はい。縦と横の長さがともにnピースとしましょう。前回と同じく先攻をAlice、後攻をBobと呼びましょう。
Agt.尾田: はい。
相馬博士: Aliceは、初手で(2,2)を選択します。そして、残ったピースのうち、(1,k+1)と(k+1,1)に番号kをつけます。
Aliceが(2,2)を選ぶと、盤面は逆L字型になる。
1からn-1までの番号がついたピースが2ピースずつある。
相馬博士: この盤面で、次はBobの番ですね。ここからAliceは、Bobが選んだのと同じ番号のピースを選び続ければ、必ず勝つことができます。
Agt.尾田: ええと、同じ番号のペアのうち片方だけがなくなることは……ないですね。これを繰り返すと、L字型の盤面がだんだん小さくなるので、いつかはBobが睡眠剤入りピースを選ぶことになると。なるほど、確かにAliceの勝ちですね。
相馬博士: Aliceが初手で(2,2)以外のピースを選ぶとBobの勝ちになることも示しましょう。まず、Aliceが(2,2)より右下のピースを選ぶと、Bobは(2,2)を選べばいいですね。
Aliceが(2,2)より右下のピースを選択した盤面。
Aliceが初手で(2,2)を選んだ盤面と比較して、手番だけが逆になっている。
[図] (Aliceが(2,2)より右下を選んだ盤面と、Bobが(2,2)を選んだ盤面)
相馬博士: 一方で、Aliceが左端もしくは上端のピースを選んだ場合、盤面は長方形となるので、これはBobが先攻のchompとみなすことが出来ます。chompは先手必勝ですから、これはBobの勝ちですね。もっとも、ここからBobの必勝法を具体的に構成することはできませんが。
Agt.尾田: なるほど。なんとなくですが分かりました。
相馬博士: はい。昨日の対戦では、SCP-4338-JP-Aは正解の手順を選びました。他にも3ケースほど先手の必勝手順が分かっている盤面があったのですが、全てSCP-4338-JP-Aは正解の手順を選択しています。昨日の事例は盤面も大きかったですから、単なるゲーム木の解析だけではこの結論に辿り着くのは簡単ではありません。
Agt.尾田: SCP-4338-JP-Aはやはり必勝手順を知っているのでしょうか。
相馬博士: 明確な証拠はないですが、私はそうではないかと推察しています。3か月ほど研究を続けて方針がまったく立たないとなると、そろそろ研究をやめる、あるいは縮小した方がいいのではないか、とも思っています。
Agt.尾田: ……なるほど。今後どうするか、少し検討させてください。
<録音終了>
補遺: 2025/08/03の対戦において、SCP-4338-JP-Aに勝利しました。以下はその対戦記録です。
2025/08/04以降、SCP-4338-JPの異常性は発現していません。これを受けて、PendingもしくはNeutralizedへのオブジェクトクラス変更が検討されています。



