SCP-4405
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U-991RFの跡地に存在するSCP-4405-1店舗。

アイテム番号: SCP-4405

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: 財団は次元間移動手段を有する無認可の実体がSCP-4405-1実例にアクセスするのを防止します。

レベル3クリアランスを有する財団職員にはSCP-4405-1実例での食事が許可されます。

説明: SCP-4405は1つの宇宙が完全に消滅した後の空間に影響する一連の事象です。SCP-4405が発生すると、アメリカ発祥のダイニングレストラン“TGIフライデーズ”の店舗1軒が、諸設備を完備し、従業員が常駐している状態でその空間を引き継ぎます。

SCP-4405現象を通して出現するTGIフライデーズ店舗はSCP-4405-1実例に指定されます。局所的な重力場と、一見したところ無限の電力・食料供給を別とすれば、SCP-4405-1実例は完全に非異常です。SCP-4405-1実例からは窓やドアを抜けて退出可能ですが、適切な移動手段を持たない限り、SCP-4405-1実例を退出した人物は重力でゆっくりと実例に引き戻されます。

SCP-4405-1実例内部の従業員たちは異常性を持たず、標準的なTGIフライデーズの食事を調理・提供します。財団職員やその他の認可された実体群以外で、SCP-4405-1実例を訪れる常連客の存在は記録されていません。

以下は、初期に出現が観測されたSCP-4405-1実例の1軒、SCP-4405-1-FR3Y4の店長へのインタビューです。店長はインタビュー担当の財団エージェントに自らの名前を開示しませんでした。

<記録開始>

店長はオフィスのドアを開け、デスク正面にある赤い革張りの椅子2脚の片方に座るよう、身振りでエージェント ルースに促す。エージェント ルースは着席し、店長は背後でドアを閉めてからデスク裏の椅子に座る。

店長: いつかはFBIが来ると思ってたよ。何処の世界から来たんだ? C4181? TDU8Y? それとも例の楽しい騒ぎが溢れてる世界の1つかもしれないな、ん?

エージェント ルース: それを明かすクリアランスが私にあるかどうか分かりませんが、その冷めた態度から判断する限り、あなたは尋問に慣れていると捉えて宜しいのでしょうか?

店長は含み笑いする。

店長: そうだな、この俺は違う。でも他所の終わった宇宙にいる無限人の別な俺たちは慣れてるよ。

エージェント ルース: では、他の自分との間に何らかの繋がりがあるのですか? 精神リンクのような…?

店長は軽くあしらうような仕草を見せる。

店長: いや、もっとこう… 1つの脳を共有する感じだな。俺たちは厳密に言えば全員が同一人物だ。全部のフライデーズにいる全員が同じなんだ、ただ… 違うだけさ。

エージェント ルース: コピーのように? それともクローンでしょうか?

店長: それより計算式の合計に近い。2足す2は4だし、1足す3だってそうだろう。それぞれの宇宙がどういう成り行きで生まれ、何が起きて終わるかは問題じゃない。どうせ最後は皆このクソッたれフライデーズに行き着く。

エージェント ルースは片手の指で髪を梳く。

エージェント ルース: 他の従業員たちも知っているのですか? 全員まるで… 普通の人間にしか見えません。

店長: 知ってる。当然知ってるさ、あいつらは俺と同じだよ。この店にだけ居るんじゃなくて、同時にあらゆる場所に存在してるんだ。だからこそ従業員の多くは退屈そうに見える、俺たちは皆、同じ死んだ宇宙で同じ仕事をやってるだけだからな。

店長は腕を組み、溜息を吐いて目を逸らす。

店長: 俺はもう数え切れないぐらいこの一部始終を説明させられてんだよ。ヘッ、俺が打ち明け話をした宇宙の幾つかも、今じゃここと同じフライデーズに変わっちまった。それで…

店長とエージェント ルースは沈黙する。

エージェント ルース: じゃあ、そういう事なんですか?

店長: そういう事だ。

エージェント ルース: TGIフライデーズ?

店長: そう。

エージェント ルース: あらゆる存在が、これから続く未来の全てが、最後には平凡なファストフードのチェーン店になる?

店長: ああ。その通り。それで全部だ。

店長とエージェント ルースは再び沈黙する。

エージェント ルース: 何故なのかを知っていますか? 何故TGIフライデーズなんです?

店長: いやぁ、俺の考えはアンタのと似たり寄ったりだと思うね。アンタ自身はどうしてだと思う?

エージェント ルース: … 私の… 推測に過ぎませんけれども。

店長: 言ってみな。

エージェント ルース: はい。少し自己中心的かもしれませんが、TGIフライデーズが人間の施設であるという事実から、ここには人類と何らかの接点があると思います。何がその接点については…

エージェント ルースは天井を見上げる。

エージェント ルース: 強欲? 快楽主義? 分かりません。

エージェント ルースは頭を振る。

エージェント ルース: 私たち、つまり私たちの社会は、ただ… 消費してばかりです。職場に行って働き、帰宅し、得たお金で何をするでしょう? ファストフードを買う。ケーブルを買って広告だらけのテレビ番組を見る。それと… 有名ブランドの靴を、ブランド名を自慢するためだけに買う。ニュースで良い事や悪い事を、どちらにも大して興味を持たずに見る。そして酔い潰れるまで飲み続ける。

エージェント ルースは溜息を吐く。

エージェント ルース: そして、私たちはこういう諸々を行う中で、このままだと将来を継ぐ子供たちには何一つとして残らないだろうということを気にかけもしません。何故なら私たちはゴミクズを消費して生きなければならない暮らしに手一杯で、それを酒の力で忘れるのに忙しいから。だから… これも一理あると思います。これが私たちの遺産です。これが私たちの遺す物なんです。よりによってTGIフライデーズが。

店長とエージェント ルースは長時間にわたって沈黙する。店長はその後、腕を組み、鼻を鳴らす。

店長: アンタ、すげぇな。

エージェント ルース: えっ?

店長: 俺はてっきり、こいつは宇宙が初めっから素晴らしいもんじゃなかった証拠だと思ってた。

エージェント ルース: 成程。

店長: でもアンタの説のほうが気に入った。それで行こう。

店長とエージェント ルースは座ったまま沈黙している。

店長: 他に何か、質問はあるかい?

エージェント ルースは沈黙している。

店長: まぁな、気持ちは分かるよ。こいつは素人に優しくない。俺はここでアイデンティティとか実存の危機をたっぷり見てきた。そのうち慣れるさ。

店長はデスクに足を乗せ、天井を見つめる。

店長: だって、ほら… これだよ。これが終わりだ。アンタの宇宙が死ぬ時さえも、これが全てなんだ。

店長は椅子の背にもたれかかる。

エージェント ルース: 本当にこれで… 終わりなんですね。

店長は溜息を吐く。

店長: そうなんだよな。

エージェント ルースは大きく固唾を呑む。

エージェント ルース: では… もう1つお訊きしたいと思います。

店長: 何だい。

エージェント ルース: 飲み物を頂けますか?

店長は軽く笑う。

店長: 身分証は持って来たかい?

エージェント ルースは頷き、身分証明書を見せ、ゆっくり立ち上がってオフィスを退室する。エージェント ルースはその後、ボックス席に座り、45分かけてモッツァレラ・スティックを食べ、汎銀河ピーチ・ロングアイランド・アイスティーを飲み、代金を支払ってからSCP-4405-1-FR3Y4を退出する。

<記録終了>

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