クレジット
本記事は、CC BY-SA 4.0ライセンスの下で提供されます。これに加えて、本記事の作成者、著者、翻訳者、または編集者が著作権を有するコンテンツは、別段の定めがない限りCC BY-SA 3.0ライセンスが付与されており、同ライセンスの下で利用することができます。
「コンテンツ」とは、文章、画像、音声、音楽、動画、ソフトウェア、コードその他の情報のことをいいます。
アイテム番号: SCP-4445
オブジェクトクラス: Thaumiel
特別収容プロトコル: SCP-4445はエリア-90のアイゼンハワー複合施設にある改装済の最大保安収容室に収容されています。SCP-4445は常に監視下に置き、正常な機能の継続を確認します。アイゼンハワー複合施設とSCP-4445の監督は現在、運用制御責任者のワイアット・アトウッド博士と、システム運用管理者のリア・ヴァンス博士が担当しています。
SCP-4445の収容室は技術者チームによって綿密に検査され、維持管理が行われます。これらの技術者の多くは財団外の民間組織や官業に務めており、SCP-4445の異常性を認識していません。このため、SCP-4445は専用の偽情報活動 — コードネーム “マクリーン・プロトコル” — によって、プロジェクト・ランスロット(有資格者をSCP-4445の保守作業に採用するために使われる財団の学術系フロント組織)が地球外鉱物サンプルのスペクトル分析に使用する機材として説明されます。
マクリーン・プロトコルに則り、SCP-4445割当の非財団職員は人事管理者によって監督され、各々の作業が機器の他領域に及ばず、何者もSCP-4445の機能の全体像を把握できない状態に保たれます。SCP-4445の真の性質に気付いた非財団職員は現地の記憶処理チームに拘留され、可能な限り早く作業に戻されます。
SCP-4445は数値945.2で安定したメロディア/ハルモニア共振近似値(M/HRAV)を維持するように設計されています。SCP-4445のM/HRAV出力の変動は珍しくありませんが、過剰な変動は因果の揺らぎを引き起こす可能性があるため、しばしば財団の偽情報チームによる対処が必要となります。SCP-4445チームには機器の動作変動を比較的正確に予測する能力があるので、これらの変動が情報侵害に繋がる可能性は低くなっています。
運用を予期してはいないものの、SCP-4445のM/HRAV出力に劇的な変動が発生した場合の緊急プロトコルが用意されています。エリア-90緊急手順マニュアルで説明されているように、割当財団職員はヴァイスロイ・プロトコルおよびアルダーマン・プロトコルの双方に、レベル4研究者および監督者はイレヴン・オア・ビロウ・プロトコルに、それぞれ精通していなければいけません。
説明: SCP-4445は、1959年6月にプロジェクト・フリートウッド・チームが構築した、調整済“アトウッド-ノリエガ”因果調和共振増幅装置です。SCP-4445は複数の強力な神秘的・奇跡論的要素を利用し、半径240,000km以上のメロディア/ハルモニア共振近似値力場を生成します。SCP-4445は音楽を構成する旋律と調和の因果的・概念的発現を強化するように設計されています。
SCP-4445は高さ約27.5mで、メロディア/ハルモニア共振の自然発生条件を模倣するように設計された多様かつ複雑な部品の配列で構成されます。エリア-90下部の地熱発電所から給電されており、SCP-4445出力変動の追跡用に設計されたM/H共鳴チューナーの配列に囲まれています。加えて、SCP-4445の地下およそ1kmに埋設され、周囲に一定間隔で配置されている一連の長いアンテナが、増幅装置の機械部品によって生成されるノイズを軽減しています。
補遺4445-1: トリニティ・ゼロとSCP-4445の開発 [改訂 2004/1/19]
SCP-4445は1959年2月3日、アメリカのロックンロール・ミュージシャンであるバディ・ホリー、リッチー・ヴァレンス、J.P. “ビッグ・ボッパー” リチャードソンを乗せた飛行機がアイオワ州クリアレイクに墜落し、3名全員が死亡したトリニティ・ゼロ事象への対応として、財団の技術者たちが構築したものです。この事件は発生後の数週間にわたって、旋律と調和の構造における概念安定性に即時かつ壊滅的な影響を及ぼしました。
トリニティ・ゼロ事象は、実際のところ、1958年の最後の数ヶ月と1959年の最初の数週間を通して観測されていた、普遍的な背景メロディア/ハルモニア共振の一連の下落の極値でした。
メロディア/ハルモニア共振の破綻の性質上、音楽を抽象として知覚する能力の喪失は、民間社会において即座に明白となるものではありませんでした。財団の偽情報活動によって共振が破綻した日は“喪の日”と呼ばれ始め、知覚力の変化は認知されなかったか、何らかの形で見過ごされました。偽情報チームは“全般的憂鬱”についてのカバーストーリーを流布し、世界各地の音楽聴取者に対して彼らが経験している変化を無視するよう促しました。
補遺4445-2: アイザック・アトウッド博士著、“プロジェクト提言: フリートウッド — M/H共振に関する大規模破綻事象の一般的解析と再構築”の序文 [改訂 2004/1/19]
宛先: D・ウィルマー博士、G・オラン博士、Q.W.バンクス博士、A・ブライト博士、V・ティマル博士、S・ギャリソン博士、L・サソラ博士、ビーコン管理官、ランクス管理官、ウェストウッド管理官、キャリバン管理官、モンブラン管理官、セントルーク地域統括官、ケルヴス地域統括官、O5-1、O5-2、O5-7、O5-9、O5-11
送信者: アイザック・アトウッド博士、サイト-10
同僚の皆さん、
トリニティ・ゼロ事象に対処するべくして現在講じられている措置については、皆さんも良くご存知でしょう。このMK-クラス共振破綻は不測の事態であり、また前例の無い事象です。我々は既に、統制された音に対する一般社会の関心の低下という影響を観測しました。状況回復を望むのであれば対策を取らなければいけません。
大部分の人々が認知の変化に気付かないということは到底考えられませんし、音楽業界関係者の失業率は確実に急上昇するでしょう — 彼らもまた共振の破綻による変化を経験し始めています。この変化は全ての人々にそれぞれ異なる速度で影響していますが、遠からず誰もがノイズと音楽の差異を適切に識別できなくなるのは間違いありません。
我々のチームは、この事象は種族全体の存続を脅かしこそしないものの、音楽は人間にとって本質的なものであり、双方を分離すべきではないと考えます。我々は数百万年にわたって共振のある世界で進化し、やがてその贈り物から真に恩恵を得られる存在へと成長しました。しかも我々はまだ発展途上です! 共振は言葉で表現できる以上の恵みを授けました — それは魂の真の表現です。他者に手を差し伸べ、自らと同じ生の感情でその心に触れる手段。共振はただの音楽を知覚する形式ではなく、想像力を育む霊感なのです! それは世界を変え、我々を変えた!
我々は人類と共振が共に存在しない世界は容認し難いと考えています。結果として生じる人類は、我々の基準と比較して理解できないほどに異質な、完全に正常の埒外に属する種となるでしょう。
この目的のために、次のように提言します: ある巨大な機械を構築し、少なくとも我々が知覚できるレベルまで共振に再び命を吹き込みます。我々は既にこの装置の試作機で大きな成功を収めており、大型化すれば地球周辺の共振力場を十分に基準線まで引き戻せると考えています。
明確にしておきますが — 我々の計画は奇跡論の要素を含みます。回避することはできません、そこを補填する技術力が単純に存在しないからです。しかしながら、西海岸第五主義者セクトへの襲撃作戦で回収された要素を使用すれば、自然の共振力場が以前のレベルに回復するまでの間、代替として機能するのに十分強力な増幅装置を構築できると我々は信じています。
回路図と詳細な行動計画を添付いたします。既に及んだ被害の取り返しがつかなくなる前に、どうか我々のプロジェクトの承認をご検討ください。
有難うございました。
補遺4445-3: SCP-4445共振の変動による因果異常のログ [改訂 2004/1/19]
以下はSCP-4445変動との相関関係を持つ出来事のログです。これらの出来事が因果改変の結果か、単なる偶然の一致かは現在も調査中です。
ID # |
出来事の説明 |
M/HRAV偏差 |
偏差の期間 |
001 |
比較的知名度の低いヒップホップ・バンドの“X-Aight”がアルバム“No Sir”のレコーディングを開始する。“No Sir”は後に25,000枚を売り上げ、トロントのヒップホップ業界におけるX-Aightの地位を確固たるものにした。 |
+11.4 |
31時間 |
017 |
ホイットニー・ヒューストンが第25回スーパーボウルで“星条旗”を歌う。 |
+193 |
2分15秒 |
023 |
クウェートの公共図書館近辺で自爆テロが発生。図書館は崩落し、収蔵されていた同国の貴重なビニール盤レコードが完全に破壊された。 |
-49.9 |
8.4秒 |
064 |
電子音楽ミュージシャンのVektroidがアルバム“Floral Shoppe”を録音・発表し、Vaporwaveジャンルを主流派の意識に導入する。 |
+76.0 |
14週間 |
101 |
2006年5月24日。未知の出来事。 |
-54.1 |
4時間 |
118 |
バンド“Monacker”のリードシンガー、ブライアン・メドウズが薬物の過剰摂取らしき要因で死亡する。 |
-47.2 |
13分 |
補遺4445-4: アイザック・アトウッド博士からクレオ・ビンガム博士へのメモ [新規改訂]
以下のメモは1994年のクレオ・ビンガム博士の死後、彼の私物から発見されました。アトウッド博士はこの7年前に死亡しています。筆跡はアトウッド博士との正確な一致が確認されましたが、このメモの内容に関する他の情報はアトウッド博士の私物から見出されていません。
クレオ、
こんなに早々と返事をくれて有難う。実を言うと、お前は応じてくれないんじゃないかと思っていた。近頃は雰囲気をコントロールするのが難しいし、至る所に監視の目がある。できる限り簡潔にまとめるつもりでいる。
俺たちは監督評議会へのプレゼンで嘘を吐いた。俺は奴らがその嘘に気付いていないのを怖れている。と言うのも、俺はあらゆる意味で、俺たちの欺瞞が暴かれ、俺たちが犯した愚行の責任を他人が背負うのを願っていたからだ。だが奴らは欺瞞を見逃し、俺たちは成功してしまった。
俺たちの嘘はこうだ — 共振は急落しただけでなく、消滅した。共振を聴くために設計されたチューナーはもう振動しない。衛星に載せて宇宙に飛ばした装置でも結果は同じだった。音楽を構成する抽象構造は完全に崩壊している。
だが例の機械は上手く作動する。スイッチを入れれば、今までずっとそうだったのと同じぐらい明瞭に、もう一度音楽を聴くことができる。だが俺はもう秘密を黙っていられない、クレオ。俺はかつて非道な行いには一切手を染めずに出世しようと誓いを立てたが、あの第五主義者たちを襲撃した時、俺たちは何も発見しなかった。俺たちは奪い取った。歌手のまだ脈打つ心臓から歌を切り落とした。俺にはまだあの歌が聴こえる、クレオ — お前にもいつか聴く機会があればと願う。あれは夏と暖かい風と青空の全てが一緒になったものだった。この地球に残された最後の純粋な歌、共振の最後の一息だった。そして俺たちはそれを切り取って、機械に縫い付けて、あの同じ歌を歌えと命令した。
いや、俺たちが計画を始めた時から、お前は既にあの歌を聞いているはずだ。例えば一斉にウォーミングアップする沢山のチェロ。弓に沿って長く引かれる響き、撫でるように唸る糸、固く引き絞られて音を奏でる弦。その全ての裏に、あの歌がある。雄大な歌だ。
だが永遠には続かない。結局のところ、機械は摩耗する。俺たちはあれを頑丈に作った — 上から千個の核爆弾を投下されても外殻にヒビ一つ入らないはずだ。それでも、最終的には作動しなくなり、それ以降はもう音楽は無くなる。想像できるか、クレオ? 一瞬でいいから考えてくれ。想像できるか?
きっかけはバディ・ホリーだったと、チームの皆がそう言っているんだ。皆は例の事故でホリーが最後に死んだと考え、共振が急落したのは丁度その時だったと計測している。あいつの曲にはきっと本当に特別な何かが宿っていたに違いない。その死が音楽の概念を永久に殺してしまうほどに。
俺たちは生命維持装置を作り上げた。だが正直な話、クレオ、いつの日か音楽は完全に消えてしまうだろう。あの歌を聴いた経験があり、装置の動作原理を理解してる連中は殆ど残っていない。いずれ止まる。俺の生きている間、今日生きている誰かの生涯の間じゃない。それでもやがて音楽が死ぬ日がやって来る。光が消える。
その先、何が起こるんだ?