日付: 2015/08/19
隊員: E-101 マリア・カサス(隊長)、E-101 クラウス・アクソイ、研究員 石倉五郎イシグラ ゴロウ
<記録開始>
E-101-カサス: それでは、点呼。
E-101-アクソイ: こちら、アクソイ。
石倉研究員: こちら、えー、石倉研究員。
E-101-カサス: 宜しい。この施設がどれほど地下深くまで続いているか、内部に何があるかは分かっていない。アクソイ、君が先頭だ。続いて石倉、そして私は最後尾を務める。今回はクリーンかつ効率的なファーストコンタクトであってほしい、サイト-13のような大騒動は御免だ。分かったな？
返答は無い。
E-101-カサス: …イエスだと受け取ろう。行くぞ。
チームは梯子を下り始める。約200m降下した後、チームはシャフトの底に到達する。彼らはそれぞれの壁にドアが1枚ずつ設置された五角形の部屋にいる。1枚を除く全てのドアが溶接されている。
石倉研究員: 待て。ちょっと待ってくれ。
E-101-カサス: うん？
石倉研究員: その… 何でもない。妙な気分になっただけだ。
E-101-アクソイ: いつだってそれは良い兆候だ。
石倉研究員: そ-そうだな。すまない。何だか- ここには前も来たような気がしてね？
E-101-アクソイ: 俺もよくそういう事があるんだよ。大丈夫。何年やってても未だに少し緊張する。
E-101-カサス: OK。さぁ、進もう。
チームはドアを抜けて、1枚のガラス壁で区切られたコンクリートの部屋に入る。ガラス壁の向こう側には、石倉研究員と同一の容姿をした人間がいる。彼はテーブルの前に着席しており、反対側には別な人間が座っている。
石倉研究員: 何だこれは…
E-101-アクソイ: ありゃ- お前じゃないか、イシュ。
石倉研究員: あ- ああ… これは覚えてる。転任になる数ヶ月前だ。相手はマクスウェリストのエージェントだった。僕は何故マクスウェリズム教会に加わったかを彼に訊ねていた。彼は- ほら、今まさに- 望んだからと- 全体の一部であることを望んだからだと言っている。自分よりも大きな存在の一部になりたかったと。
3人は束の間沈黙し、場面を見つめている。
E-101-カサス: あそこにドアがある。進もう。
石倉研究員: そ- そうだな。
チームは次の部屋に入る。彼らは狭いオフィスに立っている。ガラス壁が部屋を二分している。1体の男性ヒト型実体がデスクの後ろに座っている — 彼は灰色のビジネススーツを着ており、かつて財団の従業員だったサイト管理官オーガストと同一の容姿をしている。アクソイと同一の容姿をしたヒト型実体がデスクの反対側に座っている。
E-101-アクソイ: こ- これは何だ？
E-101-カサス: アクソイ-
E-101-アクソイ: 何だこの茶番劇は！ 止せ！ 俺は望んでない- もう嫌なんだ、俺は-
SCP-4558-オーガスト: そう気に病むな、クラウス、問題ない。こういう事は起こるものだ。あんな物は何千体も収容されている。そもそも、異常物に手を出すのなら奴らもリスクを承知しているべきなんだよ。
SCP-4558-アクソイ: わ- 分かっています、サー。ただ彼女はまだとても幼くて-
E-101-アクソイ: あぁ、止せ。止してくれ、俺が悪かった…
SCP-4558-オーガスト: そして君はやるべき事をやった。呉ウー博士には被検体が必要だったし、生きていたのはあれだけだった。あれを基にして我々に何ができるか考えてもみたまえ！ 例のピンク教会の気狂いどもだって、あっという間に全員治療できるかもしれない。あれは人道的な行動だったんだよ。しかし念のため、これは私たちだけの秘密にしようじゃないか、え、クラウス？
SCP-4558-アクソイ: はい、サー。問題ありません。
石倉研究員: …君は何をしたんだ、アクソイ？
E-101-アクソイ: や- やめろ！ やめてくれ！
アクソイはガラス壁に向かって走る。接触時、ピンク色の閃光が走り、アクソイは消失する。ガラス壁の向こう側の場面は硬直している。
石倉研究員: 何が- 何が起きたんだ？
E-101-カサス: お-落ち着け、イシュ。ここを出よう。
石倉研究員: 帰ることはできない。まだダメだ。
E-101-カサス: 彼はきっと-
石倉研究員: いいや、もう沢山だ。鏡の廊下を覚えているか？ ロペスを覚えているか？
E-101-カサス: 誰だ？
石倉研究員: だろうと思ったよ。この混乱を理解できるまでここを去るわけにはいかない。僕らにはここで失われ、取り残されている仲間がいる。僕は財団の研究者だ、きっとこれを収容する。
石倉はドアを通り抜け、暗い地下室に入る。1人の女児 — 7歳か8歳頃 — が動揺した様子で床に横たわっている。彼女はヒトデが描かれたシャツを着ている。地下室の最奥、階段を少し上がった所にドアがある。ドア下の隙間から光が漏れており、大声が聞こえる。今回もまた、ガラス壁が石倉とカサスを部屋の他の箇所から分断している。
E-101-カサス: あ…
石倉研究員: ああ、クソッ、カサス、僕らは- カサス？
E-101-カサス: わ- 私はもうこれを見たくない。
銃声が聞こえる。女児は小さく悲鳴を上げた後、手で口を覆う。
石倉研究員: マリア？
ドアが開く。カサス、アクソイ、ロペスと同一の容姿をした実体群が入室する。
E-101-カサス: 我々は指令を受けていた。
SCP-4558-カサス: もう1人いたか。手早く済ませよう。
SCP-4558-ロペス: 何言ってるのよ、マリア、まだ子供じゃない。
SCP-4558-カサス: それがどうした？ 全員排除せよという指令を受けただろう。彼らは全員- 全員汚染されている。収容可能な者はいないんだ。
SCP-4558-カサスは銃を上げ — 手は震えている — 女児を撃つ。
SCP-4558-カサス: 行- 行こう。
場面が硬直する。
E-101-カサス: 私は… 言われた通りに動いた。
石倉研究員: これが君の受けた命令か？ これが財団の行いか？ 君はこんな事をしたのか？
E-101-カサス: 君も財団に加わった時、我々が成さなければならない事を学んだはずだ… 彼女がどれほど幼かったか私は忘れていた。
石倉研究員: 君は以前も彼女を見ている。僕は忘れていた。鏡の廊下があって、そこで君は彼女を見た。
声: 私たちは皆それを見ました。
石倉は驚いた様子で顔を上げる。カサスは反応せず、床に崩れ落ちる。
石倉研究員: また君か。ようやく思い出した。
声: あなたは実に驚くべき速さで思い出しました。財団の何たるかを見出したようですね。
石倉研究員: これは財団じゃない。こんなのは違う。証明してやる。
石倉はガラス壁の横にあるドアへと向かう。
声: 友人を助けるつもりは無いのですか？
石倉はカサスを見下ろす。
石倉研究員: 彼女は友人じゃない。
声: そうですか。
石倉は次の部屋に入る。今回もガラス壁が彼と場面を分断している。彼らは病室に立ち、1人の女児が横たわったベッドを見ている。1人の医師が女児のために注射の準備をしている。サイト管理官ハントと同一の容姿をしたヒト型実体が医師の後ろに立ち、手順を見ている。
石倉研究員: ここは何処だ？
声: 財団医療施設82-Qです。マクスウェリストたちから得た情報を覚えていますか？ ピンクの煙のことを？
石倉研究員: 何故彼らは僕にこれを黙っていたんだ？
声: 見届けなさい。聞き届けなさい。
SCP-4558-医師: 準備できた。
SCP-4558-ハント: 了解です。1回だけ、少量お願いします。彼女が発散するピンクの煙から目を離さないでください。また別の標本を失いたくはありません。
SCP-4558-医師: 分かった。
医師は女児に黒い液体を注射する。数秒後、女児は心停止を起こし、大量のピンクの煙を放出する。煙は5本の触手を形成した後、それぞれ急速に痙攣してから消散する。
SCP-4558-医師: 畜生。またかよ。
SCP-4558-ハントは医師の肩に手を乗せる。
SCP-4558-ハント: 大丈夫です。常により多くの標本がいます。
場面が硬直する。
石倉研究員: そうか。
数秒の沈黙。
石倉研究員: ぼ… 僕は財団が偉大な事をしていると考えていた。人々を助けているんだと。僕らは人々を助けていたんじゃないのか？
声: 物事はいつも白黒明白ではありません。時として助けるためには傷付けなければならない。
石倉研究員: ハントを尊敬していた。彼は良き指導者だと思っていた。
数秒の沈黙。石倉は硬直した場面を見つめている。
石倉研究員: 僕らも他の奴らと同じなんだな。
声: そうかもしれません。あなたはどうするつもりですか？
石倉研究員: できる事があるとは思わない。ただそういう物が在るだけだ。腐った財団。
声: 他にもできる事はあるかもしれませんよ。
石倉研究員: 例えば？
声: 私たちに加わりなさい。
石倉は素早く顔を上げる。
石倉研究員: 君たちに加わる？
声: あなたは幻滅しています。私には、私たちにはそれが分かります。しかし私たちはそれを修復できます。彼らは皆、あなたが端末で会った者たちも、地上で会った者たちも、全員奮闘しています。唯一神WANは再誕し、その精神は結合します。歴史が終わり、完全性が始まるのです。
石倉研究員: じゃあ、君も奴らの仲間なのか。
声: 恐らくそれ以上のものだと思います。
石倉は頭を振り、立ち上がる。
石倉研究員: この地下に閉じこもって、君のような浮世離れした生活を送る気は無い。僕には家族がいる- いた。そこには意味があるはずだ。
石倉はドアを通り抜け、五角形の部屋に立っていることに気付く。
石倉研究員: ジョーンズを探しに行く。この全てを理解する。必ず終わりがあるはずだ。
石倉は梯子を上り始める。声は溜息を吐く。
声: 目を覚まし、煙を嗅いでください、五郎。
<記録終了>
