SCP-476-JP
評価: +35+x

アイテム番号: SCP-476-JP
 
オブジェクトクラス: Safe
 
特別収容プロトコル: SCP-476-JP-1は現在サイト-8144の静物収容用個室に収容されています。SCP-476-JP-1の収容セキュリティレベルは収容初期から2のままですが、映像による監視は24時間体制で行い続けてください。
 
SCP-476-JP-2の出現が確認され次第、対象に長期遅効記憶処理を実行した上でサイト-8144の特設隔離収容建屋に収容してください。SCP-476-JP-2に対しては現行の一般社会と同程度の教育を施し、マニュアルによって定められた範囲の社会生活経験をさせてください。
このマニュアルによっては、現在、一日に最大6時間の教化訓練、保育士による情操カリキュラム、精神科医による無制限のメンタルケア、記憶区画の再調整、模範的態度のDクラス職員複数名を用いた社会生活訓練、コミュニケーション訓練、専属護衛要員の配置が定義されています。
 
SCP-476-JP-2の収容は、SCP-476-JP-2が80歳になるのと同時にプラン:リサイズへと移行します。プラン:リサイズでは長期遅効記憶処理が発動され、対象は意識レベルが回復する47分間以内に、長期タイマー式自動開錠装置と輸送用ドローンによって一般社会へ解放されます。
プラン:リサイズ後のSCP-476-JP-2はエージェントによって監視と周辺環境の囲い込みを行ってください。対象がSCP-476-JP-2Rと接触し、恋愛関係への発展が確認されたとしても、SCP-476-JP-2とSCP-476-JP-2Rが死亡するまで監視と報告を継続してください。
プラン:リサイズへの移行前にSCP-476-JP-2Rが特定された場合は、SCP-476-JP-2Rに対し2名以上の監視を直ちに配置し、現在位置の報告を行ってください。これらの人員は、プラン:リサイズへの移行前にSCP-476-JP-2RとSCP-476-JP-2が対面しないよう、確率改変の影響が微小と思われる誘導を行う義務も負います。
 
説明: SCP-476-JP-1は全高約7mのブナの木です。対象は定期的な活動傾向を示すものの、植物生理学的には常に枯死状態にあります。幹には約2ℓの人血が付着後乾燥した痕跡があり、その痕跡の中心部分に直径20cm程の樹洞が存在します。
SCP-476-JP-1は3年に一度のサイクルで、樹洞より出生直後の状態のSCP-476-JP-2を発生させます。SCP-476-JP-2出現の原理は不明ですが、後述の異常性により、非常に広範な現実もしくは確率改変の結果であると推測されます。
SCP-476-JP-1は蒐集院より回収された異常存在ですが、その時既に蒐集院が入手していた、SCP-476-JP-1に関連していると見られる資料の年代から、少なくとも紀元前███年には存在していた可能性が示唆されています。
 
SCP-476-JP-2は独立した身体的特徴と遺伝子を有する人型存在です。全ての特徴は現行人類のものと類似しており、明らかに何れかの人種や身体的特徴を模したものですが、完全に同一な個体が存在しない独自の個体であるため、既存の特定個体を模倣したものではなく、完全に独立した一個体の"出生"なのではないかと論じられています。
SCP-476-JP-2は現行人類としては一切の異常性を持たない個体です。しかしその出現と同日に誕生した出生児の中で、SCP-476-JP-2と同性では無い個体が無作為的にSCP-476-JP-2Rとして選定され潜在的に異常性が付与されます。この選定条件は不明であり、範囲も全世界中に分布しているため、特定出来ていません。
 
SCP-476-JP-2とSCP-476-JP-2Rは4〜6歳時より、互いの存在を明確に認識しないまでも、曖昧模糊な「好ましい異性のイメージ」として意識し始めます。両者の接点が一切無い場合でもこの現象は発生し、如何なる記憶処理によっても改変は不可能でした。
精神活動の活発化と成熟に伴ってこのイメージはより具体化しますが、その段階では両者は互いの存在を確信してはいません。
 
SCP-476-JP-2とSCP-476-JP-2Rは、互いに遠隔地に居住していた場合であっても、最終的には両者がその人生に於いて必ず対面するよう確率の改変が発生します。
この確率の改変は、両者の対面を完全に阻止するような障害が存在する場合、より顕著になります。蒐集院の資料によれば、それらは両者の異常な長命や歴史的なイベントの発生をも含み、財団に於いても初期の収容プロトコルによって複数の事故と中規模な収容違反と[削除済]が確認されています。
恋愛関係への移行後に両者の強制的な引き離しを行うこと、もしくは故意に一方あるいは両方を殺害しようとする行為についても、最終的にはこの確率改変によって再び両者の対面へと誘導が行われます。
SCP-476-JP-2とSCP-476-JP-2Rは共にこの現実改変について自覚していません。
 
SCP-476-JP-2とSCP-476-JP-2Rが確率改変によって対面すると、両者は確実に恋愛関係へと発展し、可能な限り共同生活を行おうとします。しかし同時に、身体的な異常の有無に関わらず、明らかに通常の妊娠確率に逆らった確率的不妊が女性側の個体に発生します。
SCP-476-JP-2とSCP-476-JP-2Rのどちらが女性側であってもこの現象は見られますが、両者共にこの現象に疑問を持つことはなく、子供を持つという欲求も一切見られなくなります。
この不妊現象はどちらか一方が自然死もしくは事故死するまで継続しますが、その後も生存個体は非常に強い恋愛感情を維持し続けるため、生殖に対して極端に消極的になります。
 
一方もしくは両方の、偶発的な死亡によって確率改変現象は鎮静化します。
 
補遺: サイト-8144管理官・青堂 篤文による宣言文
 

SCP-476-JP-2の収容には多大なる犠牲が払われた。
蒐集院の連中は道術的封印と言って事実上アレを放置し、子供を育て社会の礎となるかもしれなかった人物が、ただ消費されるだけの閉じ切った愛に人生を零し続けるのに、見て見ぬふりを決め込んだ。
連中がアレを取り扱う前から、それは永きに渡って連綿と行われてきただろう。
人の生き方は、その人間が自ら決めるべきものであり、その上で社会を生み出していかなくてはならない。
あの樹が一人の人間の生き方を完全に定めてしまうのならば、"人間"という言葉に一体何の意味があるものか。
それは看過出来ぬ損失であり、許してはならない堕落である。

我々はそのために犠牲を払った。彼らのために我々は多くを失った。
多くの資源を、多くの同僚を、多くの友を、サイト-81██を、それこそ多くの愛を失った。
だがそれらは浪費では無かった。私はここに、SCP-476-JPの特別収容プロトコル開発の完遂を宣言する。

愛する二人が出会うのを阻止する、野暮な奴らは馬に蹴られて死ぬのが似合いと、そう来るのならば結構だ。
我々は最初から、SCP-476-JP-2の解放を約束しよう。
いつか必ず二人は出会う。ならば望みは叶えられるだろう。
SCP-476-JP-2が80歳になった瞬間に、記憶区画内に隔離された記憶を除いた全記憶を処理して解き放つのだ。
その瞬間を初めから定め、必ず実行されると固く誓い、永々粛々と、何の異論も無く解放するのだ。

SCP-476-JP-2RはSCP-476-JP-2と対面したその時から、子供を持つことも育てることもしなくなる。
だが出会う前ならば、互いは漠然とした好意を持つだけだ。
そして人間は、その程度の想いには妥協する。必ず妥協する。
果てしなく力強い現実と人生の前に膝を折り、現実的な生き方と表層的な幸福を無理矢理心の内に納めるのだ。
そうして消化し切れぬ想いを抱えながらも、社会の中で真っ当に生きていく。子供を作り、育て、独立させ、胸を撫で下ろして自らの役割が終了したことを自覚する。
まさにその時に、SCP-476-JP-2とSCP-476-JP-2Rは出会う。人生の役割を終える年齢で、我々はそれを許す。
そもそも子供などもう望めず、活動的にもなれぬ年齢ならば、行動に沿った形で発生する確率改変も発生確率は低い。
社会への露出は減り、走り回ることもなく、何かに備えることも無いならば、確率改変が起きたとして小規模にならざるを得ないのだ。

当然ながら、監視は続行し、緩やかな囲い込みは維持する。
だがそれらの対応は、事前にSCP-476-JP-2Rを特定する方法が不明な以上後手に回らざるを得ない。
なればこそ、この方法が最も周辺への影響を抑えられうるのだ。
二人はごく普通に出会い、ごく普通に言葉を交わし、ごく普通に幸福を味わう。
人生の全てを終えた後で。

私はこの方法に確信を持っている。
明確な結果が出るのは未だ先であるだろう。
だが、計画は既に始動しているのだ。
既に4体のSCP-476-JP-2を対象者とした、来るべき社会生活のための訓練が始まっている。

勝利は我々へと傾くだろう。
愛は、これより終わる。

サイト-8144管理官: 青堂 篤文

 
206█年現在、既に3例に於いてプラン:リサイズの成功が確認されています。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。