SCP-4775
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胸腔内に位置するSCP-4775実例。

アイテム番号: SCP-4775

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-4775の宿主は、標準人型収容セルに収容されます。加えて、宿主には社会的特権が与えられており、Dクラス職員とともに食事をとることが許可されています。外科的にSCP-4775を除去・交換する手法の開発を目的とした研究が進行中です。

SCP-4775-1は隔離人型収容セルに保管されます。レベル2以上のセキュリティクリアランスを持つ研究員は、SCP-4775-1を対象とした外科的な実験を行うことができますが、あらゆる臓器の除去・再配置は禁止されています。

説明: SCP-4775は、標準的な人間の内臓が置換された胆嚢です。SCP-4775は置き換わった内臓に必要な生物学的メカニズムを欠いているにも関わらず、その機能の全てを模倣することができます。一例として、SCP-4775に腎臓を置換された宿主の場合、SCP-4775を通して血液のろ過を行います。この変化は宿主にわずかな苦痛を与えるか、もしくは全く苦痛を与えません。

全てのSCP-4775実例の起源はロシアのヴォルゴグラードです。以下はSCP-4775の実例と、その発見のきっかけとなったインシデントについての解説です。

名前(年齢) 置換された臓器 発見 備考
アンナ・ペトロヴァ(32) 左腎 背中の裂傷から著しく出血し、マッサージ台の上でうつ伏せに倒れているところを発見されました。ペトロヴァ氏は行われた施術について全く思い出すことができない一方、マッサージが行われている間はずっと目が覚めていたと主張しました。 ペトロヴァ氏の左腎は、SCP-4775に置換される3年前には機能しなくなっていました。
エリック・キャバン (44) 肝臓 現地のバーにあるトイレの便座に両手を縛り付けられている状態で発見されました。傷口にはペーパータオルが乱雑に巻き付けられ、カクテルナプキンで塞がれていました。キャバン氏は女に追われているとトイレの中で主張しましたが、酩酊状態にあったため、明確な特徴を思い出すことができませんでした。 アルコールの過剰摂取により、キャバン氏は収容される5ヶ月前に肝硬変を患っていました。
バレーリ・サヴィン (37) 頭部の周囲を切開されて傷口を包帯でくるまれ、公園のベンチの上で意識不明となっているところを発見されました。切断された頭蓋骨と皮膚組織は、黒色の金属でできた蝶番によって残りの頭部に接続されていました。 サヴィン氏には重度のコミュニケーション障害があり、財団職員との交流は困難です。これがSCP-4775の胆汁のニューロン活動を模倣する能力の限界なのか、それとは無関係な疾患であるのかは不明です。
アイヴァン・オルロフ (27) 皮膚 モーテルに宿泊していた客が、天井から滴る血液に気づいて目を覚ましたことをきっかけに、その客の上の部屋のベッドから回収されました。オルロフ氏の表皮は全て除去され、体表に巻き付く1つの長く伸びた胆嚢1に置換されていました。オルロフ氏は2週間前から付き合い始めた女性と一夜を過ごしていたと主張しました。オルロフ氏は財団にその女性の写真を提供し、その名前が"アンジェラ・ターナー"であると主張しましたが、同一の名前を持つ人物は近隣地域には居住していませんでした。 オルロフ氏の皮膚は以前から座瘡を発症しやすい傾向がありました。

オルロフ氏によって証言された女性はPoI-4775に指定されています。顔認証ソフトウェアを用いてPoI-4775の写真やスケッチとヴォルゴグラード市民のデータベースを照合する試みは、何の成果も上げられませんでした。PoI-4775の捕獲はレベル4優先事項に指定されています。

補遺4775.1: 2018/03/22、PoI-4775と思われる人物がヴォルゴグラード外のコーヒーショップで武装強盗を行いました。以下は監視カメラの記録の写しです。

<ログ開始>

ほぼ無人のコーヒーショップを映している。2人の従業員がカウンターの後ろにいる。中高年の女性2人が茶を飲みながら話をしており、1人の若い男性(アルフォンス・ハーバートと特定された)がラップトップで仕事をしている。4分後、スキーマスクとオーバーコートを着たPoI-4775が入店する。ズボンについた輪から麻袋を提げている。PoI-4775はポケットから拳銃を引き抜く。

PoI-4775: 全員今すぐ伏せろ!

女性の1人が驚きのあまり息をのむが、もう1人の女性によってなだめられる。2人の従業員は手を挙げる。ハーバート氏は椅子から降り、地面に伏せようとする。PoI-4775はハーバート氏に駆け寄り、彼の頭部に拳銃を突き付ける。

PoI-4775: お前はダメだ。

ハーバート: 何?

PoI-4775: お前の心臓をバッグに入れろ。そうすれば誰も傷つけない。

ハーバート: 私の何だって?

PoI-4775: お前の心臓だっつってんだろ!お前が持ってんのは分かってんだぞ。

ハーバート: わ、私の胸にあるもののことを言ってるのか?言葉遊びか何かだろ?悪ふざけはよしてくれないか?

PoI-4775: この銃が悪ふざけに見えるか?

ハーバート: いや、しかし、心臓が奪われるのは困る。

PoI-4775: でたらめを言うな。

ハーバート: でたらめ?どういう意味だ?君は銃を持っているし―

PoI-4775: はぐらかすな、アルフィー。

ハーバート氏は首を傾げ、立ち上がろうとする。

ハーバート: 君と私、知り合いだったか?

PoI-4775: 今すぐシャツを脱げ。でないと誰かの頭に風穴が開くぞ。

ハーバート: しかし― 君は誰だい?

PoI-4775: 早く!

ハーバート氏はシャツを脱ぎ始める。

PoI-4775: [周りに向かって] 誰か1人でも、少しでも動いたら、そいつの頭を撃つぞ!

ハーバート: 心臓の代わりになるものはあるのかい?

PoI-4775はコートのポケットから素手で胆嚢を取り出す。

ハーバート: 冗談だろ?

PoI-4775: 使える。これが嫌なら、新しい心臓が手に入る場所を教えてやる。

ハーバート: なら、君がそこから心臓をもらえばいいじゃないか。

PoI-4775: 私には売ってくれない。

ハーバート: 何?

PoI-4775: どうでもいいことだ。このままぐずぐずしてると、ババアを撃つぞ。

ハーバート: ナイフはあるか? 素手では胸の切開なんてできないぞ。

PoI-4775はバックポケットからカッターナイフを取り出す。

PoI-4775: これを使え。

ハーバート: さすがに消毒はしてるよな?

PoI-4775: 今朝すすいでおいた。

ハーバート: せいぜい近いうちにあんたと私の立場が逆にならないことを願うんだな。

ハーバート氏は自分の胸の中央を上から下に切り開き、PoI-4775は皮膚を引きはがし、黒い金属でできた突起に覆われた筋組織が見えるようにする。PoI-4775は切開部のちょうど前に移動し、カメラの視界を遮る。

ハーバート: オーケー、中央にあるエオリタルスパイク2に覆われたのを持ち上げてくれ。

PoI-4775: 持ち上げたぞ。次は?

ハーバート: よし、ダイヤルが見えるだろ?それを時計回しに90°回して、その後反時計回しに45°回してくれ。

PoI-4775: オーケー、回すぞ…

PoI-4775はハーバート氏の胸から心臓を取り出すまでに、およそ3分間施術を行う。黒色の釘のようなものが左心室から突き出ている。PoI-4775は心臓を麻袋の中に入れる。この間に従業員が救急サービスに電話をかける。

ハーバート: ほら、これで満足か?

PoI-4775: ああ、とても。我慢してくれて礼を言う。

ハーバート: ちょっと待て、縫合ぐらいはしてくれないか?

PoI-4775: すまないが、張りの無い奴を縫う針は無い。

PoI-4775はコーヒーショップを出る。少し遅れて、女性の片方が失神する。ハーバート氏は筋肉や内臓が身体から零れ落ちないよう、胸を覆う皮膚をきつく引っ張りながら、足を引きずって出口まで歩く。ハーバート氏は血痕と傷口から零れる金色の皮膜を残して立ち去る。2分後、当局が到着する。

<ログ終了>

補遺4775.2: 補遺4775.1の事件の後、アルフォンス・ハーバートが"ミート・サーカス"と呼ばれる要注意団体の構成員の1人であることが判明しました。ミート・サーカスがPoI-4775と関連する可能性から、ハーバート氏は機動部隊イプシロン-6("村のアホ")によって拘留されました。捕獲作戦に参加した職員は、ハーバート氏の部屋はほとんど何もなく、スプリング付きマットレスとテーブル、椅子2脚のみが残されていたと証言しました。

ハーバート氏の収容に伴い、財団の収容スペシャリストのチャールズ・バックリーはPoI-4775に関するさらなる情報を入手するため、彼にインタビューを行いました。

<ログ開始>

バックリー: こんにちは。

ハーバート: ああ、そんな時間ですか。

バックリー: 今日は先日の事件についていくつか質問をさせていただきます。

ハーバート: 続けてください。早く片付けてしまったほうがいいでしょう。

バックリー: あのマスクを被った女性とは知り合いだったのですか?

ハーバート: 私が思うに、確証はないですが、いくつか心当たりがあります。

バックリー: では、この人物に見覚えはありますか?

バックリーはハーバート氏にPoI-4775の写真を見せる。ハーバート氏は写真を見るなり、テーブルに手を叩きつける。

ハーバート: やっぱりか!やっぱりそうだったのか!

バックリー: それでは、彼女について教えてください。

ハーバート: もちろんです。アイツはオリヴィア・ヴァジナといいます。アイツ、私に"ああ、お前の芸術は無茶苦茶に過ぎる"だとか"もっと繊細さを身に付けろ"だとか、そういうクソみたいな手紙を大量によこしてきたんです。バカじゃないのか。私に繊細さが足りないと。繊細が何か分かってないでしょう?スタバで他人の心臓盗みやがったんですよ。

バックリー: 彼女があなたの心臓で何をしたかったのかわかりますか?

ハーバート: わかりません。アイツ、他に何か盗んでいったんですか?

バックリー: 今のところ分かっているもので、腎不全になった腎臓や疾患に罹った肝臓―

ハーバート: 待ってください、本当ですか?

バックリー: 私があなたに嘘をつく理由がありますか?

ハーバート氏は椅子に座り、自嘲気味に笑う。

ハーバート: こんな侮辱を受けていたとは思わなかった。アイツ私を癌だと思ってるんですよね。クソ、アイツめ。

バックリー: さっき自分の芸術について何か仰っていましたね。詳しく話していただけませんか?

ハーバート: しらばっくれないでくださいよ。私が何をしているかなんて、全てあなたたちにはわかってるんでしょう。

バックリー: あなたが肉から芸術を作っていることは知っていますが、それについてこれまで特に話して頂けていないのでね。

ハーバート: 私の芸術ですか?あなた、私の芸術を理解したと思っているようですが― あのですね、いや、いいです。ここでやって見せましょう。

バックリー: 私がインタビューを終了するというまで、この部屋を出ることはできませんよ。

ハーバート: バカにしないでほしいですね。隠れていられなくなったというのに、自分の部屋でぼうっとしていただけだと思っているんですか?捕まるか殺されるかするのをおとなしく待っているとでも?

バックリー: なんですって?

ハーバート: ま、どちらにせよ、私は死ぬんでしょうが。

ハーバート氏の皮膚は弛み始め、眼球は落ちくぼむ。身体は「シュー」という音を立てる。

ハーバート: 話してくれてありがとう。少なくとも、ただ話しているよりは得るものがあったと思いますよ。お互いにね。

ハーバート氏の身体が完全にしぼむと、眼球と歯が地面に落下する。警備隊が彼の住居の捜索を開始したが、ハーバート氏は発見されなかった。残された皮膚と歯、眼球は標準Safeクラス収容ロッカーに保管された。

<ログ終了>

その後、財団はアルフォンス・ハーバートの収容をレベル3優先事項に指定しました。これはSCP-4775の調査とは独立して実施されます。

補遺4775.3: ハーバート氏、医療記録、納税記録から得られた名前の組み合わせを用いた結果、財団はPoI-4775の住居を特定することに成功しました。"オリビア・ヴァジナ"について顔認証データベースを調査した結果、これまでの調査から判明したPoI-4775の写真とは全く異なる顔写真が取得されました。

バークレイと機動部隊イプシロン-9の隊員2名が、交代制で5日間PoI-4775の住居に張り込みを行いました。その間、PoI-4775は観察されませんでした。6日目、バークレイと機動部隊イプシロン-9はPoI-4775が既に住居を放棄しているという想定の元、アパートを襲撃しました。

アパートは荒らされた状態でした。財団はそれぞれ異なる5つの電話と3つのクレジットカード、12枚の運転免許証3を回収しました。

住居から回収された注目すべきオブジェクトの1つは身長が異常に高い4人型実体であり、SCP-4775-1に指定されました。SCP-4775-1は、アパートの寝室で上下逆さまになって木の車輪と繋がれ、チョークで輪郭を描かれた状態で発見されました。SCP-4775-1の胸の中央下部は黒色の金属でできたジッパーになっており、SCP-4775-1の身体を覆い、皮膚として機能する小さく細長い腸に繋がっていました。

SCP-4775-1のジッパーを開いたところ、体内にある臓器の全てが正しい位置になく、また正しい機能を果たしていませんでした。SCP-4775-1の内臓それぞれにDNA解析を行った結果、かねて収容下にあるSCP-4775の宿主のうち同一の臓器を失っている者と合致するか、もしくは未特定の人物のDNAを含んでいました。

以下は、SCP-4775-1と標準的な人間の間で注目すべき差異を示した生体構造の一覧です。

置換された臓器 代替した臓器 備考
肝臓 臓器内の酸は標準的な胃酸とは異なり、食物ではなく血液細胞や脂肪を破壊します。
リンパ節 置換された臓器と代替した臓器の大きさが異なるため、SCP-4775-1の咽喉は膨れています。
心臓 小腸 この臓器がどのようにSCP-4775-1の身体に血液を送り出しているのかは現在調査中です。
食道 腎臓 この腎臓は引き延ばされ、喉の奥と膵臓5とを繋いでいます。通常老廃物を除去するのに用いられるフィルターは食物が腎臓を下るのを助ける役割を果たしています。
この舌は折り重なってひだ状となっており、互いに癒着しています。MRIスキャンを行った結果、味蕾間の電気信号がニューロンのそれを模倣していることが判明しました。

財団は未だSCP-4775-1の意識の有無について明らかにできていません。座瘡に覆われた上皮の断片で構成された中枢神経系は不完全であり、この体における舌は外部刺激から遮断されています。

SCP-4775-1は生命維持に必要な臓器のうちいくつかを失っているにもかかわらず、生存しています。中でも、膵臓、甲状腺、眼球、胆嚢などの臓器が欠損している点は注目すべきです。

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