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SCP-4877: 良好な空気波 (元タイトル 9.8 m/s2)
自由落下と呼ばれるのには理由がある。
著者: Captain Kirby
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モハーの断崖、アイルランド。SCP-4877が日常的に発生する場所。
アイテム番号: SCP-4877
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-4877に理解を示す全ての個人は質問されます。SCP-4877に関する全ての可能な情報を引き出せたら、これらの個人には記憶処理が施され解放されます。SCP-4877を描写または記述した写真、動画、その他のメディアは財団のウェブクローラーによって削除されます。
SCP-4877と関連がある個人が7日以上行方不明になった場合、高所から落ちて死んだというカバーストーリーの下で個人の死を偽装するために複製体を用意します。
説明: SCP-4877は自由落下中に個人にかかる重力を減少させることができる現象です。この現象を引き起こすために必要な状況はよく分かっていませんが、初期の研究から以下のことが分かります。
- SCP-4877は個人を問わず発動します。
- 個人が自由落下していないと発動しません。
- 個人は意識的にSCP-4877を引き起こすことを試みなければいけません。
- 個人は目を閉じる必要があります。
SCP-4877が正常に発動する前に、肉体的にも精神的にも満たされる追加の条件があると考えられています。SCP-4877に関する具体的な情報が不足しているため、財団は必要な手順を確認できていません。
発見: SCP-4877はYouTubeに投稿された動画が1時間以内に約30000回再生されたことを受けて、財団の目を引きました。
<00:00> 黒い画面。中央に字幕: "飛行クラス: 最終試験"。
<00:04> 少年が海沿いの崖っぷちに立っています。長い黒髪を持つ10代後半で、すらりとした体つきです。何人かの若い男女がカメラのフレームの端にいて話しています; マイクに向かって吹く風が他の全ての音をかき消しています。
<00:10> 40代半ばくらいの禿げた男がフレームに入ります。アロハシャツとスウェットパンツを身につけています。男は近づき少年の肩に手を置きます。二人が交わす言葉は風にかき消されています。
<00:44> 男は微笑み、少年の背中を軽く叩いてフレームから出ます。
<01:08> カメラは崖っぷちをパンします。水面に突き出た岩に波がぶつかります。カメラはまたパンして少年を映します。
<01:14> 少年は走って崖から飛び降ります。
<01:20> 少年は岩に突き刺さります。
<01:23> カメラは崖っぷちに集まった観客に戻ります。観客は拍手をします。観客の表情ははっきりしません。
<01:30> - 黒い画面。"今日からOneLeapに参加しよう!"という字幕があります。
<01:32> - 動画終了。
この動画はYouTubeのコミュニティガイドラインに違反しているとして、人気を博した後すぐに削除されました。当初この動画はアノマリーとして目を付けられていませんでしたが、奇妙な性質が示されたことから若手の研究員アバゲイル・リンが駆け出しの調査を行いました。
リンは動画の場所をアイルランドのモハーの断崖の南端であると特定しました。崖の高さが約120mであることを確認した後、リンは動画に映った落下が本来かかるべき時間よりも1秒近く長く続いたことを指摘しました。
追記 SCP-4877-1: 投稿された動画で観察された現象をSCP-4877と正式に命名した後、リン研究員は少年を17歳のアストン・クーチャーと特定しました。アイルランド治安防衛団はクーチャーが事故中に本当に死亡したことを確認しました。動画に映っている出来事についての詳細は財団の調査に支障をきたさないことを保証するため、法執行機関には公表されませんでした。
リンはクーチャーに話しかけた禿げの男をレインボーと特定しました。彼の住所と連絡先を聞き出したリン研究員はOneLeapのことについて知りたい民間人を装ってレインボーにインタビューをしました。
<ログ開始>
リンはレインボーと会う約束をした喫茶店に入ります。彼は窓際のテーブルに座り、マグカップから飲み干しています。リンはテーブルの横で止まります。
リン: あのー… こんにちは。あなたがレインボーさんですか?
レインボーはリンの方を向きましたが、彼女の後ろに目を向けているように見えます。
レインボー: あなたがキャサリンと呼ばれている人か。良好な空気波だな。
リン: 座ってもいいですか?
レインボー: 好きなようにリラックスしてくれ。座ったり、立ったり、挙手跳躍運動をしたり。快適に過ごしてくれ。良好な空気波だな。
リンは座ります。レインボーは彼女と目を合わせません。
リン: あなた達が一週間前に投稿した動画を見て興味が湧いたのですが、まだあなた達が何をしているのかよく分からなくて…
レインボー: 物事をすることに意味はないよ。感じることが大事なんだよ。良好な空気波のようにね。
リン: 話についていけないのですが。
レインボー: それは誰かが内部のダイオクセリン受容体ではなく頭で考えている音だよ。
レインボーはシャツのポケットからペンを取り出し、ナプキンに住所と時間を走り書きします。それが終わると、レインボーは初めてリンと目を合わせます。
レインボー: 見る前に跳べよ。良好な空気波だな。
レインボーはテーブルから立ち上がり、よろめきながら喫茶店を出ていきます。
<ログ終了>
インタビューで収集した情報が不足していたため、プロジェクトリーダーのテラー博士はOneLeapグループに潜入して情報を収集するための調査を行うことを決定しました。通常のプロトコルでは現地調査のためにフィールドエージェントを選ぶことになっていますが、レインボーに出席することを期待されているリン研究員が選ばれました。
追記 SCP-4877-2: 以下はリン研究員がOneLeapの調査の際に提出した一連の現地レポートです:
レポート #: 1
日付: 4/13/2019
第一回目の集会から帰ってきました。起こったことを全て説明しようとしますが、多くは記憶からのものです… 筆記帳はおろかマイクすら持って行くのを忘れてしまいました。
荒れ果てた公民館の奥の部屋で会いました。誰かがお菓子を持ってきていたと思います。正直、皆が静かだったことを除いたら父のアルコール中毒者更生会の集会の説明を想起させました。
何人いたかは正確には覚えていません。16人くらいか20人近くだった気がします。レインボーを待っている間に話しかけておけばよかったです。彼は遅刻しましたが、皆それが当たり前かのように振舞っていました。
会議が始まると私たちは皆地面に輪になって座っていましたが、レインボーは折り畳み椅子に座っていました。彼はシャツのポケットに入れていた小さな筆記帳から何かを読み始めました。何を言っていたかは覚えていません。私は緊張しながら必死に馴染もうとしていました。
しかし私の偽名は忘れていませんでした。レインボーは新人たちを全員起立させて自己紹介をさせました。私の吃音は正しい名前を覚えようとしたというよりも緊張からだと思われたのだと思います。新人の女の子は私だけじゃなかったです。彼女の名前はオリビアでしたが、苗字は忘れてしまいました。
私はなぜこんなことをしているのか分かりません。なぜかは分かっていますが、私には研究室のほうが向いています。
次回のレポートではもっと徹底してみせます。申し訳ございませんでした。
レポート #: 2
日付: 4/18/2019
今回はメモを取りました。マイクは他のメンバーに見られるのが怖くて付けませんでしたが、メモは十分に徹底していると思います。
集会には他に12人いました。ほとんどが20代か30代でしたが、年配の人も数人いました。一人の女性は60代後半に違いないです。
今日は特別に"講演会"がありました。他のメンバーがレインボーのことを"R先生"と呼んでいるのが時々聞こえてきました。夜間学校のような扱いをしているようですね。
前回のように輪になって座るのではなく、私たちはレインボーと彼の折り畳み椅子の前の地面に集まりました。彼は持ってきた白板紙を使いながら、1時間近くも話し続けました。スピーチの構成は例や朗読を散りばめた講演のような感じでしたが、どちらかというと説教のように聞こえました。
メモを取っているのは私だけでした。それが許容されているかどうかは分かりません。どちらにしても許されていなかった場合に怒鳴られるのが嫌だったので、後ろの方に座っていました。以下、講義からの引用をいくつか入れておきますが、何か聞き逃しているかもしれません。
ネット民。ネットから離れろ。画面上の明かりは全て君を狙っている。昔は何が本物で何が魂のないものか見分けることができたが、今はもうできない。俺が得るのは悪い空気波だけさ。
偽物についている糸を見てみろ。全部絡まって下の自分を見ている。縛られているバイブスに混ざるのはまっぴらごめんだ。
"フィルター"というのは否定派の人たちが嘘と呼んでいるものに過ぎない。
後日の練習として、見知らぬ人に多幸感を経験する頻度を聞いてみろ。その後もう一度同じ質問をしてみな。ただの練習としてな。
Q学習と探査戦略の発明により、チャットボットAIが発するディナイン放射線が300%減少したことが分かる。誰か理由を知ってるか?
ライト兄弟はかつて『特異性は今世紀が終わる前に我々を蝕むだろう』と言った。この言葉はもっと評価されるべきだ。
空気波が悪いな。空はそれらでいっぱいだ。今や機械が我々より先に飛ぶことを学んだせいでメカトロニクスの信号と青い色で汚染されている。
レポート#: 3
日付: 4/23/2019
またマイクをつけませんでした。どこにつけても隠しきれないからです。もう諦めたほうがいいと思います。そのせいで今日は遅刻しそうになりました。
今回の集会はどちらかというと公開討論でした。私は貢献しませんでした。変に思われてなければいいですけど。オリビアも何も言わなかったので、多分大丈夫です。また印象に残った引用句をレポートの最後に入れておきますね。
集会の最後にレインボーが、今週末は"ランウェイ"に行くと宣言していました。どうやらマーグレット(60歳の女性)が"最終試験"を受けることになったようです。試験前にレインボーの家に行って、午後2時頃に集合するそうです。私は自分がどんな気持ちなのか分かりません。彼女は明らかに興奮していました。どっちにしても見ることになりそうです。
集会の後、やっとオリビアと話しをしました。彼女にはあまり質問しませんでしたが、電話番号を教えてもらいました。近いうちに彼女にインタビューをしようと思っています。最終試験を見た後彼女が逃げ出してしまって、話す機会を失うのは残念なので近いうちにインタビューしてみます。
いつか魚のようにリラックスしてやるよ。魚マジリスペクト。
最初に進化した魚は自分たちが何をしているか知ってたと思うか?頭の中の小さな声が「空気を吸いに行くぜ、あばよ水生のアミーゴ」と言ったんだろうな。
Vestigial、形容詞 - 退化した、初歩的な、または委縮した、進化の過程で機能しなくなった。
鳥は時間が皆にとって一秒に一秒で動いているわけではないことを証明している。他にどのようにして彼らは俺らよりも速く進化してきたっていうんだ?
レポート #: 4
日付: 4/27/2019
今日はオリビアに追いつきました。一緒にコーヒーを飲みながら彼女にいくつか質問しました(彼女の姓名はオリビア・ウォルシュでした)。今回はマイクもつけました!以下、最も関連性の高い部分の書き起こしを載せておきます。
<書き起こし開始>
リン: … いつ卒業する予定?
ウォルシュ: そう言われると面白いわね。私は2年で卒業するはずだったんだけど、1つの学科で単位を落としちゃって必修科目とかで遅れを取ってしまったから3年で卒業することになりそうだわ。
リン: ああ、それは残念だね。
ウォルシュ: 気にしないで。これは私がOneLeapに参加した理由の1つよ。私は…何かと途方に暮れていたの。"成功への一歩"プログラムは通常すべてデタラメだけど、分からないわ。時にはデタラメを試してみることも必要だからね。
リン: OneLeapのことをどうやって知ったの?
ウォルシュ: キャンパスのあちこちにポスターが貼られていたの。
リン: ああ、なるほどね。
ウォルシュ: それはともかく、なぜあなたは参加したの?
リン: YouTubeで宣伝ビデオを見たの。今は削除されてるけどね。
ウォルシュ: いやいや、そうじゃなくて。どうやって知ったかじゃなくて、なぜ参加したかを聞いてるの。
リン: えーと…。自分のためになると思ったからかな。
ウォルシュ: 答えることよりも質問することに慣れてるんじゃない?
リン: どちらかといえばそうかもしれないね。私は研究員だから、両方ともしてるの。
ウォルシュ: あなたは答えを探しに来たように聞こえるわ。
リン: え?
ウォルシュ: 答えよ。個人的な答え。キャサリンについての質問への答え。
リン: えーと、何のことだかよく分からないわ。
沈黙。
ウォルシュ: あ、ごめんね。ちょっとレインボーに似てきたかな。
ウォルシュは独り笑いする。
リン: そうね。ちょっとだけ。
ウォルシュ: 何注文したの?
リン: アイスモカよ、何で聞いたの?
ウォルシュ: 飲み物用意できてるみたいよ。
リン: すぐに戻るわ。
<書き起こし終了>
レポート #: 5
日付: 4/27/2019
最初の動画を入手したとき、子供の体が岩にぶつかった瞬間を正確に測って計算するために100回くらい視聴しました。見るために覚悟を決めたつもりでしたが、自分の考えの甘さにびっくりしています。
皆で崖の上で待ち合わせをして、レインボーとおばあさんが来るまで少し待っていました。誰も何も言いませんでした。風が強くて曇っていました。ベテランたちは完全に沈黙して崖のそばに立っていて、オリビアと私と他の何人かは暖を取るために歩き回っていました。
レインボーとおばあさんが到着すると、皆で崖っぷちに集まりました。オリビアに何が起きているのか何度か聞かれましたが、私はただ肩をすくめました。そこから先はおばあさんが走るというよりも足を引きずっていることを除けば動画と同じことが起きました。
彼女が落下するのを見ているだけで…間違っていると感じました。恐ろしくはありませんが、ただ間違っています。落ちても悲鳴は出ませんでした。永遠に落下しているように感じました。動画に映っていた少年よりも長く落下していた可能性が高いです。15秒くらいだと思います。しかしもっと長く感じました。彼女が地面に叩きつけられた後、レインボーは彼女が"Cを取った"と宣言しました。そこから拍手が始まりました。
私が拍手についてどう感じたかは言葉では言い表せません。オリビアも拍手していました。私もそうしました。尊敬に値する何かがあったのだと思います。彼女は自分の意思で落下しました。認められてもいいんじゃないでしょうか?
レポート #: 6
日付: 5/5/2019
今週オリビアが戻ってきました。少しも動揺していないように見えました。先日おばあさんが死ぬのを見たことを誰も受け入れていませんでしたが。ミーム現象によって抑圧されているのでしょうか?不安を感じたのは確かだし、なぜ自分が例外になるのかが分からないので多分違うと思います。しかしオリビアは何かを感じているように見えて…分かりません。落ち着いていた?以前よりも今日のほうがたくさん話すようになりました。彼女は幸せそうでした。
奇妙な行動はさておき、今日は結び付きの話をしました。色んな結び付きについてです。なぜ今回は話してしまったのか分かりません。他の人が私の変なところに気づくのではないかと思ったのかもしれません。私の言ったことが自然に感じたのでそうは思いませんが。無理して話したわけでもないので。考えすぎかもしれません。
皆リラックスしてるか?今日は良好な空気波だな。本当に良好な空気波だ。これらはどこから来てるか知ってるか?結び付きだ。結び付きを十分に揺さぶれば波がくる。
だから俺は挙手跳躍運動をするんだ。結び付きを緩めておくためにな。
かつて結婚には意味があったんだぜ。結婚している人は最高の波動を発していた。"離婚"が出来る前はね。ヘンリー8世がそれを全て台無しにした。
塩化マグネシウムを分解したときに放出されるダイオクセリンの量を知っている人はいるか?そうだ、とてもお利口なオリビア、4.32モルだ。
それが俺たちがここにいる理由の一つだ。OneLeapは俺たちの理想の結び付きを引き寄せているんだ。だから君たちはここにいる。
揺さぶっとけよ。良好な空気波だな。
レポート #: 7
日付: 5/7/2019
またオリビアと1対1で話をするために連絡を取りました。なぜ彼女が落ち着いているのか知りたかったのです。財団で酷いものをたくさん見てきたので自分の感覚が麻痺しているのはそのせいだと思っていましたが、オリビアが落ち着いている理由は説明できません。インタビューで具体的な答えを知ることはできませんでしたが…書き起こしを読んだら分かると思います。
<書き起こし開始>
ウォルシュ: コーヒーを毎週飲むことになるの?私は反対しないわ。
リン: そうなる可能性はあるわ。私も反対はしないけど、なぜあなたがそうしたいのか分からないわ。
ウォルシュ: 分からないわ。あなたと話していると面白いからかしら。
リン: ああ。うーん…ありがとう。
ウォルシュ: 何か話したいことがあったの?
リン: ちょっと前に見た試験の話をしたいんだけど。
ウォルシュ: それがどうしたの?
リン: 女性が崖から身を投げるのを見ていたのに、彼女にそうしろと言った人たちのところに戻ってきた…なぜ?
ウォルシュ: あなたも戻ってきたよね。多分同じ理由よ。
リン: あなたは多分私がここにいる理由を理解してないわ。
ウォルシュ: その場合は、気になってるだけだと思う。
リン: 気になってる?
ウォルシュはしばらく考えてから身を乗り出して、リンに近づいてくるように指示を出します。リンも同様に身を乗り出します。
ウォルシュ: [囁き声で] 皆家に帰った後、色んなことを感じてたわ。怖かったし、混乱してたし、言葉にするのが難しい感情が入り交じっていたわ。対処するために月曜日は授業をサボったわ。それで何だったのか分からないけど、何かが…カチっと音がしたの。バイブスや空気波の話。全て理解できたの。パズルのようにしっくりきたの。
リン: パズル?
ウォルシュ: そう。それで私のパズルがどんな風に見えるか見てみたいわ。どんな絵なのかしら?ピースに近づきすぎていたから一歩下がる必要があるの。大きなパズルなの。俯瞰図が必要ね。
リン: 話についていけないわ。
ウォルシュ: 私飛びたいわ。
リン: 落下したらどうするの?
ウォルシュ: 落下しないわ。
ウォルシュはのけぞって微笑む。リンはしばらく止まってから同様にのけぞる。
リン: なるほど…
ウォルシュ: 大丈夫?ボーっとしてるようだけど。
リン: 大丈夫よ。アパートで何かするのを忘れてたみたい。もう行かないと。ごめんね。
ウォルシュ: 大丈夫よ。来週もっと話せばいいから。
リン: そうね。来週ね。じゃあまたね。
ウォルシュ: 良好な空気波ね。
<書き起こし終了>
レポート #: 8
日付: 5/9/2019
今日レインボーはオリビアがここ数日成績優秀なため、早期に卒業することを発表しました。彼女は今週末に"最終試験"を受けることになっています。
何もしてはいけないとは思っていますが、どうでしょう。彼女はとても幸せそうでした。彼女は自分が飛び降り自殺することを知っています。というか、もう分かりません。彼女は飛ぶのかもしれません。飛べたらいいです。彼女の人生は崖の下の岩の上で終わるには短すぎます。
毎週のコーヒーの話は一体何だったのでしょうか。
ストリートマジシャンを見たことがあるか?良好な空気波だな、あいつら。昔はカードトリックをやってたよ。両親が上手いと言っていた。
…手のひらを使ったマジックにはいつも驚かされる。目の前から消えていくんだぜ。スクリーンでもなく、目の前で。
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レポート #: 9
日付: 5/11/2019
彼女は飛びました。
この現象の引き金となるものがあるかもしれないので、できるだけ詳細に全ての出来事をリストアップしてみます。
1. オリビアはジーンズと白いTシャツを身につけてレインボーと一緒に到着しました。
2. 前回と同様、彼女が飛び降りる崖っぷちの周りに皆が集まってきました。
3. オリビアはあまり変わった行動をしていませんでした。他の人たちは皆興奮しているように見えましたが、彼女はずっと落ち着いていました。
4. オリビアは位置に着いて用意しました。
5. レインボーは『一っ飛び!』と何度も唱え始めました。皆(私も含めて)も真似し始めました。
6. オリビアは目を閉じました。
7. オリビアは崖から飛び降りました。
8. 彼女は落下せず、上昇し始めました。
9. 後ろで立っている全員が拍手しました。
10. レインボーはオリビアが"A+"の成績で合格したと宣言しました。
彼女が今どこにいるのかは分かりません。しかし彼女はきっと大丈夫だという予感がします。彼女が幸せなら私は嬉しいです。
今になって考えてみると…彼女が飛んだときに上昇気流のようなものを感じました。あれはレインボーのいう"良好な空気波"だったのでしょうか?
追記 SCP-4877-3: レポート9を受けてリン研究員の任務は完了したと判断され、リンはサイト-24に戻るよう命じられました。リンからの帰還の確認が取れないまま12時間が経過した後、機動部隊イオタ-10("ポリ公")はリン研究員の回収のためにダブリンに派遣されました。任務のために借りていたアパートは空室で、中にはリン研究員の持ち物が入っていました。リン研究員のパソコンからは以下の資料が回収されました:
序文: 以下のファイルは"rainbow_interview_2.mp3"というタイトルです。リン研究員のスマホで録音されているようです。
<書き起こし開始>
これが公共の場で録音されていることを示す暗騒音が聞こえてきます。
リン: お忙しいところすみません。
レインボー: 心配いらないさ。今日はいいバイブスだな。
リン: 気になったのですが、なぜオリビアを早く卒業させたのですか?
レインボー: 飛びたくなったか?
リン: 違います!急ぎたくないです。ただ気になっているだけです。
レインボー: あなたが探しているものがあるよ。
リン: あのー…よく分からないのですが。
レインボー: オリビアは利口な娘だったよ。すぐに理解できた。良好な空気波だな。
リン: つまり彼女に何か特別なものがあったということですか?
レインボー: 特別?誰が特別だって?彼女があなたより特別だとは思わないよ。
リン: 私も卒業できるってことですか?
レインボー: 分からない。俺は成績を与えるだけだからね。君は卒業できると思うか?
沈黙。
リン: 理解できたような気がします。本当にありがとうございました!
レインボー: 見る前に跳べよ。良好な空気波だな。
<書き起こし終了>
序文: 以下のファイルは"01103_STREAM_v0491.mp4"というタイトルで、財団が配布している現地カメラの映像と同じ命名規則です。リン研究員には今回のミッションのために、このようなカメラが与えられていました。
<書き起こし開始>
動画は崖っぷちを映しています。周りには誰もいないように見えます。空は暗いですが、雲に覆われているので見えません。
リン: 分かったわ。そして私は上に何があるのか見に行くわ。これは私の仕事の1つで、できることを知っているわ。説明するのが難しいわね。どこから確信を得たのか分からないけど、今はあるの。それでこのまま消えて行ってほしくない。
リンは深呼吸をして、崖っぷちに向かって走る準備をします。
リン: [息を切らして] 一っ飛び、一っ飛び、一っ飛び…
リンは崖っぷちに向かって走り、飛びます。彼女は上昇し始めます。
リン: 一っ飛び、一っ飛び、一っ飛び!
リンの体が水平になり、両腕を広げます。マイクに当たる風の向こうに彼女の笑い声が聞こえます。3分後、リンは雲の中に入ります。
リン: も- もう目を開けてもいい?
リンの速度から推定するとこの時点で雲を抜けたはずですが、霧はまだ続いています。前方に光が見えます。
リン: 上昇気流に押されているのを感じるわ。飛んでいるような気がする。見たくない。
リンが光に近づくと光の向こうにシルエットが見えますが、その特徴は判別できません。
ウォルシュ: キャサリン?あなたなの?
リン: オリビア?どこに何があるか分からなくてごめんね。まだ目を開けてないの。
ウォルシュ: いいのよ!謝る必要はないわ。良好な空気波ね。
リン: 良好な空気波ね!
人影が手を伸ばす。
ウォルシュ: 手を伸ばして私の手を掴んで、引っ張り上げてあげる!
リン: 分かった。
リンが人影に向かって手を伸ばします。リンを引っ張って向かい合っているように見えます。後ろの光のせいで特徴が分かりません。
リン: あなたの手冷たいわ。大丈夫なの?
ウォルシュ: 私はリラックスしてるだけよ。あなたも翼を見つけたみたいね。
リン: そうなの。まだ頭の中が整理できてないけどね。
ウォルシュ: 今はここにいるよ。
リンは人影の手を放します。二人は宙を舞っています。
リン: またレインボーみたいに話してる。
ウォルシュ: そうね。彼に影響を受けたみたい。
リン: 言いたいことがたくさんあるの。あなたもここにいるなんて信じられない!私と雲だけになると心配してたの。
ウォルシュ: まあ、こんな感じになったね。
リン: 本当に夢みたい。目を覚ましたくない。毎週コーヒーを飲むのを再開することもできるし。
ウォルシュ: コーヒー?
リン: 週に1回会って話をしようて言ったでしょう。
ウォルシュ: そうだったね!ごめん、忘れてた。
リン: あなたオリビアだよね?
ウォルシュ: 私を信じてないの?
リンは目を見開きます。
リン: あなた- あなたオリビアに見えないわ。
<書き起こし終了>
リン研究員の遺体はモハーの断崖の底の岩に突き刺さっているのが発見されました。レインボーやリンの過去の報告書に記載されているメンバーの居場所を突き止めようとしましたが失敗に終わりました。OneLeapに関わりのある全てのメンバーの収容はレベル4の優先事項とされています。