SCP-4941-JP
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アイテム番号: SCP-4941-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: 現在、SCP-4941-JP発生のための詳細な条件が研究中です。SCP-4941-JPは手順の煩雑さから一般へ露見する可能性は非常に低いため、積極的な隠蔽・収容措置は不要です。SCP-4941-JPに関連する情報が確認された場合にはアーカイブの上で削除を行なってください。

説明: SCP-4941-JPは1970年以前まで当時のソビエト連邦領内で民間に広まっていた反ミーム効果を付与する異常な技術です。SCP-4941-JPは指定の一連の動作(SCP-4941-JP-1に指定)を行った上、外傷を負っている箇所に切創をつけることで、該当箇所に微弱な反ミーム効果を付与します。

SCP-4941-JPの効果は未婚/離婚済みの女性にのみ発現することが文書4941-JPにおいて示唆されており、実験によりこのことが確かめられました。

発見経緯: 1991年のソ連崩壊に伴い、ロシア連邦軍参謀本部情報総局"P"部局が解体されました。その際、提供された文書群内にてSCP-4941-JPに関する記述が確認されました。(記述されていた文書は文書4941-JPに指定。)文書4941-JPはその書式から"P"部局により記されたものと推察されていますが、認証されたことを示す印章が一切確認されておらず、非公式な文書であったとの可能性が指摘されています。

補遺1:文書4941-JP 以下は文書4941-JPの転写です。

Гла́вное разве́дывательное управле́ние

ロシア連邦軍参謀本部情報総局


OSI "スパシーチェリナヤ・ルカー" "P"部局 第三課
未承認 印字 署名       
課長 III-P-9-GR D.NR: 未登録 責任者: アレクサンドル・ニコラエヴィッチ・イワノフ
詳細 OSI "スパシーチェリナヤ・ルカー"とは、複数の儀式的手順を行った後に実施することが可能な反ミーム効果を付与する手法である。レニングラード周辺における不自然な民間説話の広がりを不審に思われたことを発端とし、調査が行われた。

"スパシーチェリナヤ・ルカー"は20余りからなる煩雑な手順の後、任意の刃物で肌に切創をつけることで効果が発現する。(この手順については過度に煩雑であるため付録文書に記述。)手順の複雑さからなぜこれが発見されたかは甚だ疑問ではあるが、異常な性質を持った人物により開発された可能性もあり、その出自については警戒すべきである。

"スパシーチェリナヤ・ルカー"に対しての追加調査が完了した。殆どの住民は口を噤んだか、知らないとその存在を否認したが██████に住む████████████1が情報を提供した。"スパシーチェリナヤ・ルカー"は退役軍人女性たちのコミュニティで密かに広まっている手法であるようだ。そこで女性の退役軍人の悲惨な現状も合わせて知らされた。戦争から帰還してきた男たちにとって、彼女らは妹でしか無い。しかし、 これは主観だが 彼女たちは同世代の娘たちに比べ、何かきれいなものへの憧れが強いように思う。つまりは、結婚願望が強いのだ。あの戦場の汚さ、シラミ、青白い死人の顔や死にゆく黄ばんだ戦友の顔なんかを見た後は、そういったものに憧れるのだろう。

彼女によれば件のコミュニティメンバーにしか作用しないようだが、実際には未婚/離婚済みの女性にのみ作用しないというのがその実だろう。結婚していて幸せな女性は退役軍人コミュニティには顔を出さないし、退役軍人の女性ははみ出し者にされているのが祖国の現状だ。

現在、"スパシーチェリナヤ・ルカー"が国家の安全を脅かす可能性は0に等しく、仮に上層部に報告されたとしてもアーカイブ化の上、これに関わったものに忘却処分を行い終了となると予想される。

提言された用途:

だからこそ、私は本事案を秘匿する。国家の英雄ながら、誰にも認められない彼女たちに、せめてもの餞として"スパシーチェリナヤ・ルカー"の存在は覚えられるべきと考える。これが忘れ去られるのは、彼女らが真にこれを必要としない、性別関係無しに誰も彼もが認められる世の中になってからでも遅くはない。基本方針第4条(2)の(d)と自身の良心に従い、この処分を決定する。
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OSI "スパシーチェリナヤ・ルカー" "P"部局 第三課

補遺2: 退役軍人コミュニティへの聞き取り調査

報告書執筆時点である1998年、文書内にて示唆される退役軍人コミュニティの参加者名簿を入手しました。名簿に記載されていた人物の内、連絡が取れた人物に対しインタビューを行いました。以下はインタビュー記録の抜粋です。

インタビュー記録4941-JP/2-1

対象: エカテリーナ・ウラジーミロヴナ・スミルノワ

インタビュアー: アナスタシア次席研究員

付記: インタビュー当時対象は74歳であった。

<録音開始, [1998/2/9 3:51]>

アナスタシア次席研究員: 本日はお時間頂きありがとうございます。

スミルノワ氏: ええ、夫がいなくなってから人と話す機会も減ったし、こういうのは私も嬉しいわ。ええと……雑誌に載せるための話かしら?

スミルノワ氏: 当時の話って言ってもねぇ……昔はこういうインタビューがあれば、夫がどこでどんな戦いがあったか地図まで使って教えてくれたのだけれど、もうあの人もいないし、自由に当時のことを話しましょう。そうね、じゃあ包帯のガーゼで縫い上げた花嫁衣装の話をしちゃいましょう!私の一番の特ダネよ。

[関係性が薄いため省略]

アナスタシア次席研究員: ありがとうございました。その、思い出すのは辛くありませんでしたか?

スミルノワ氏: いいえ、辛くないわ!……その、全くと言えば嘘になるけれど……私は痕も残らないで帰ってこれたから……辛かったのは、戦後ね。

アナスタシア次席研究員: というのは?

スミルノワ氏: ああ、最近の若い子はあんまり詳しくないかも知れないわね。うぅんと、私達みたいな戦争に行った娘は、はみ出し者だったのよ。

スミルノワ氏: どこから話せばいいかしらね……ええ、私達みたいな、所謂戦地の女は、男たちにとっては斥候に行く仲間であっても妻ではないの。大抵の 少なくとも私の会った殆どの男は、女性を母親であり花嫁だと思っていたの。それなのに、退役軍人ですって!

アナスタシア次席研究員: それは……

スミルノワ氏: いいのよ。貴方が気にすることじゃないわ。……これでも感謝してるのよ、この国には取材の対象になるような男はごまんといるの。そんな中、私達みたいな者に目を向けてくれるってのは、ありがたいことなのよ。特に戦後なんかは扱いが今より酷かったのよ。『売女め』って、『私達の夫を誘惑したんだろ』『戦地のあばずれ』……ってね。酷かったものよ……鍋に酢を入れられたこともあるわ。皆、傷を隠して生きてきたのよ。

アナスタシア次席研究員: その……辛い話をさせてしまって申し訳ありません。それで……えっと。余談なのですが、戦後この地域で傷を消す民間説話があると聞いたのですが、そういった伝承のようなものを聞いたことがありますか?

[沈黙]

アナスタシア次席研究員: 大丈夫ですか?スミルノワさん?

スミルノワ氏: え、あぁ、大丈夫よ。そうね、あんまりそういったことは聞かないわね、ええ。それまたどうしてそんなことをお聞きになるの?

アナスタシア次席研究員: 雑誌のコラムに掲載予定なのですが、どうにも有益な証言がかなり少なくて……

スミルノワ氏: ……そう。あ、もうこんな時間。ごめんなさいね、今日は買い出しに行かないといけないから、ここらへんで切り上げてもいいかしら?

アナスタシア次席研究員: ええ、構いません。ご協力ありがとうございました。

<録音終了, [1998/2/9 5:11]>

終了報告書: あくまでも主観ではありますが、スミルノワ氏はSCP-4941-JPについて何らかの情報を知っているように思われます。SCP-4941-JPの話題になった途端、あからさまに動揺した姿が確認されました。SCP-4941-JPに関する重要参考人としてスミルノワ氏へのインタビューは継続されます。  アナスタシア次席研究員

インタビュー記録4941-JP/2-3

対象: エカテリーナ・ウラジーミロヴナ・スミルノワ

インタビュアー: アナスタシア次席研究員

付記: アナスタシア次席研究員はクラスW記憶補強役を服用していた。

<録音開始, [1998/2/12 13:21]>

アナスタシア次席研究員: ありがとうございます、お昼時にお邪魔してしまって申し訳ない。

スミルノワ氏: いいのよぅ、最近は友達もめっきり減っちゃって。戦友会だって開く度に規模が小さくなっちゃって。だから退屈しのぎにもいいし、寂しさを紛らわせられるわ。……またあの話なの?

アナスタシア次席研究員: ええ、そうですね。大祖国戦争後にあったとされる都市伝説的な話を調べておりまして、今日もまた……

スミルノワ氏: でもねぇ、そんな事言われたってわからないわよ。そんな物があれば良かっただろうけど。ま、夫ももういないしあの戦争の 所謂ぶっちゃけた話みたいなのは話せるのだけれど……知らないものは知らないわ。

アナスタシア次席研究員: そうですか……今日も当時の話を伺っても?

スミルノワ氏: 勿論よ。どこまで話したかしら……あぁ、腹を撃たれたときの話、あっ。

[沈黙]

スミルノワ氏: ごめんなさい間違えたわ、忘れて頂戴。

アナスタシア次席研究員: すみません、腹を撃たれたというのは?

スミルノワ氏: いや、ええと、あ、友達の話よ、間違えてしまってごめんなさい。ちょっと頭がこんがらがってしまって、私は五体満足で傷一つ無く帰れたから 

アナスタシア次席研究員: ちょっと失礼しますよ、

スミルノワ氏: ま、待って。

[衣擦れの音]

アナスタシア次席研究員: ……この腹の銃創について、説明をお願いしてもよろしいでしょうか?絶対に誰にもお話しないと約束します。

スミルノワ氏: ……でも、少し考えさせて頂戴。

アナスタシア次席研究員: 勿論です。

[その後8分間にわたり物を漁る音が聞こえる。]

スミルノワ氏: ……あったわ。

[ゴトンという物音]

アナスタシア次席研究員: その箱は?

スミルノワ氏: 戦友の娘達との手紙よ、ええと、これね。

アナスタシア次席研究員: これは手紙と……メモ、ですか?

スミルノワ氏: そうよ、一部読めなくなってしまっているけれど。

[深い溜息]

スミルノワ氏: 名前だけ黒塗りにさせて頂戴、それなら見せます。

アナスタシア次席研究員: 構いません。

[鉛筆の音]

スミルノワ氏: 読み上げるわよ。

[深呼吸の音]

『親愛なるカチューシャへ。先日、そのお腹の銃創のせいで良縁を逃がしたと聞きました。このメモを送るべきかはわからないけれど、もしひどく思い悩んでいるのなら力になりたくて、筆を執った次第です。付属のメモにある手順を正確に行うことで、他人から、(よーく見ない限りは)傷跡が見えなくなります。「この傷跡も私にとってはレーニン勲章ものよ」と言っていた貴方に、この方法を勧めるのは気が引けますし、どれだけ侮辱的な行為かも理解しています。

[深呼吸の音]

しかし、貴方がこれ以上悲しむ姿を見たくありません。手紙が届く度に滲み出る、貴方の柔らかな、平穏な生活への願望は日に日に増しているように感じます。貴方は、足のない私と違い、とても素敵な女性です。だからどうか、私のことは忘れて、素敵な方と結婚してください。  近々、親戚のもとに引っ越さなくてはならなくなりました。悲しいけれど、もし貴方に夫が出来たら、この手紙は見られてはいけないから、メモと一緒に、この手紙を燃やしてください。私との、最後の約束です。貴方の幸せを、一番に願っています。貴方の一番の戦友より。』

[啜り泣く声]

スミルノワ氏: ごめんねぇ、約束守れずに、ごめんねぇ……

<録音終了, [1998/2/12 13:27]>

終了報告書: 回収されたメモは研究対象としてデータベース上に保存されました。

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