アイテム番号: SCP-495-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-495-JPが出現する建造物は財団フロント企業によって所有され、実験時を除いて立ち入りが制限されます。建造物の周囲は2 m以上の高さを持つ柵で囲み、一般人の侵入を防いでください。実験時は、事前のアンケートでSCP-495-JPの出現条件に合致するDクラス職員を用いてください。Cクラス以上の職員の侵入は認められません。
説明: SCP-495-JPは、行方不明になったエージェント・██のGPS信号が███ビルで検出されたことによって発見されました。信号を発信していたGPSは当該ビルの敷地内で発見されています。
SCP-495-JPは██県の███ビル内部に出現する一室です。発見時すでに当該ビルは手入れが行われておらず、廃墟と化していました。SCP-495-JP内部に侵入するための扉が出現するのは3階と4階の間の踊り場です。実験によりSCP-495-JPが出現するためには、███ビル内部に存在する人間(以下侵入者)が1人のみであり、侵入者が自身の生活に対して強いストレスや疲労を感じている必要があることが判明しています。また、SCP-495-JPが出現する空間にもともと部屋は存在していなかったことが判明しています。SCP-495-JPの出現非出現に関わらず、外部からのX線等による透過観測はSCP-495-JPが出現している地点に空間は存在しないことを示します。
SCP-495-JP内部へは出現する扉を通って侵入することが可能です。Dクラスを用いた侵入実験によると、SCP-495-JP内部にはコーカソイド系女性のような外見を持つ人型実体(以下SCP-495-JP-1)が存在することが判明しています。SCP-495-JP-1は侵入者に対し、SCP-495-JPのことを靴磨き屋であると説明します。また、SCP-495-JP内部及びSCP-495-JP-1の配色は一般的な色彩ではなく、セピア色で構成されているように見えます。ただし、その中にあっても侵入者自身を含む外部から持ち込まれたものの色彩が変化することはありません。侵入者が完全にSCP-495-JP内部に侵入すると、入り口の扉は自然に閉じ、外部との一切の通信が遮断されます。
探索記録: 以下はDクラスを用いて実施されたSCP-495-JPへの侵入実験の録画記録です。被験者は視線に合わせた映像記録が可能なように、頭部に小型カメラを装着しています。また、被験者はそれ以前の実験で得られた記録について一部知らされています。
探索記録-1
被験者: D-4951
[記録開始]
[被験者は扉を通ってSCP-495-JP内部に侵入する。前方にはカウンターがあり、カウンターの奥にはSCP-495-JP-1が座っている。またSCP-495-JP-1が座るさらにその奥には木製の扉がある。]
SCP-495-JP-1: あら、いらっしゃいませ。
被験者: ん、ああ。えーっと、ここは……
[被験者は周囲を見渡す。壁は下駄箱で構成されており、多くの靴が入っているのを見て取れる。]
SCP-495-JP-1: ここは靴磨き屋です。せっかくいらしたのですから、磨いていかれませんか? お靴もだいぶ汚れてしまっているようですし。
[被験者は自分の靴に視点を移す。この日被験者が履いていた靴は財団から支給された汚れの少ないスニーカーであったはずだが、カメラには、傷つき、大量の泥が付着した革靴が写っている。]
被験者: あれ、俺は革靴なんて履いてなかったはずだが……
SCP-495-JP-1: ふふふ、靴は誰でも履いているものですよ。それでは、どうぞこちらにお座りください。
[SCP-495-JP-1はカウンターから椅子を出し、被験者を誘導する。被験者が誘導に従って椅子に座ると、SCP-495-JP-1はカウンターからタオルを取り出し、被験者の履く革靴に付着した泥を拭き取る。]
被験者: なんだか申し訳ないな。こんなに汚い靴をさ……
SCP-495-JP-1: いえいえお気になさらずに。むしろ、私は汚れている靴こそ素晴らしいと思いますよ。
被験者: それは、なんていうか…… 変わってるな?
SCP-495-JP-1: そうでしょうか? 靴の汚れはあなたが歩いた証です。汚れが付いていればついているほど、あなたが前に進み続けたということです。それは誇らしいことではありませんか?
[SCP-495-JP-1は泥をすべて拭き終え、クリームと布、ブラシを用いて靴磨きを始める。しばらくの間、被験者は無言だった。]
被験者: そういえばさ。
SCP-495-JP-1: なんでしょうか?
被験者: 俺はあんたのことをなんて呼べばいいんだ?
SCP-495-JP-1: [沈黙] そうですね…… 案内人とでもお呼びください。
被験者: 案内人? 名前とかはないのか?
SCP-495-JP-1: 名前は忘れてしまいました。覚えていることと言えば、靴磨きのことくらいです。中途半端に忘れられないがために、私はここで靴を磨きながら案内人をしているのです。
被験者: なるほどな…… よくわからないんだが、案内人ってのは、一体どんなことをするんだい?
SCP-495-JP-1: [沈黙] あまり、楽しい仕事ではありませんね。私はできることなら靴を磨いてだけいたいものです。……おっと、お話の途中ですが靴磨きは完了です。いかがでしょうか?
[被験者は自身の足元を見る。革靴は綺麗に磨かれており、汚れや傷の一つも確認されない。被験者は立ち上がり、椅子の周辺を歩く。]
被験者: おお! めちゃくちゃ綺麗になったな! 心なしか足取りも軽くなった気がするぞ!
SCP-495-JP-1: ふふふ、それはよかったです。私ができるのは靴磨き程度ですから、これ以上はお茶も出せないことをお許しください。
被験者: いやいやいいんだ! ありがとうな、足が軽くなったら少し気分もよくなってきたよ。さて、これ以上いても邪魔になるだろうし、俺はそろそろ行くかな。
SCP-495-JP-1: ええ、そうしましょう。ここはあまり長くいるべき場所ではありませんし。
被験者: ああ、それじゃあ、またな!
SCP-495-JP-1: はい。本日はお越しいただきありがとうございました。
[SCP-495-JP-1は深く礼をする。被験者は軽く礼を返してSCP-495-JPの扉から外へ出る。被験者が足元を覗くが、靴は革靴ではなく財団で支給されたスニーカーに戻っていた。被験者はすぐに後ろを振り向くが、SCP-495-JPへの入り口は消滅していた。]
[記録終了]
探索記録-2
被験者: D-4952
[記録開始]
[被験者はSCP-495-JP内に侵入。周囲を見渡すが、下駄箱内の靴の数が若干増えていること以外には変わりがない。足元を見ると、靴は財団が提供したものとは違うスニーカーに変わっている。スニーカーには前回と同様に大量の泥が付着し、靴紐にはほつれがみられる。]
SCP-495-JP-1: どうもこんにちは、いらっしゃいませ。
被験者: どうも。俺も靴を磨いてもらっていいかな?
SCP-495-JP-1: あら、ここのことをどなたかにお聞きになられたのですか?
被験者: ああ、まあ、同僚からな。
SCP-495-JP-1: なるほど…… それはそうとして、あなたも大分お靴が汚れていらっしゃるようですね。喜んで磨かせていただきますよ。
被験者: ああ、頼む。
[被験者はSCP-495-JP-1の誘導に従い椅子に座る。SCP-495-JP-1は靴に付着した泥をブラシなどを用いて拭き取り始める。SCP-495-JP-1は靴を脱がさないまま泥を拭き取ろうとしているため、無理な姿勢をとっているように見える。]
被験者: やりにくそうだな…… 靴脱いだ方がいいか?
SCP-495-JP-1: いえいえ、お気になさらず……
被験者: いやでも、大分つらそうだぞ?
[被験者は靴を脱ごうと手を伸ばす。SCP-495-JP-1はそれを見て伸ばされた手を咄嗟に掴む。被験者が驚きのけぞったのか、カメラが激しく揺れる。その後、被験者はゆっくりと手を戻す。]
SCP-495-JP-1: あ、申し訳ございません。とんだご無礼を……
被験者: い、いやいいんだ。それにしても、靴を脱いじゃいけない理由でもあるのか?
[SCP-495-JP-1はその質問に答えず、靴の泥を拭き続ける。やがて泥を拭き終えると立ち上がり、カウンターから靴紐を取りだす。]
被験者: いや、答えにくい質問だったら答えなくても……
SCP-495-JP-1: 靴を脱ぐということは
被験者: ん?
SCP-495-JP-1: 靴を脱ぐということは、歩むのをやめるということです。前に進むのをやめるということです。
被験者: [沈黙]
SCP-495-JP-1: 私には歩みを止めるのが幸せなことだと思えません。それは、この先に待っているすべての幸せなことを捨ててしまうことで、とても悲しいことだと思うからです。……ですから、靴を脱がないで頂きたいのです。
被験者: ……よくわからないが、靴を脱がない方がいいってことはわかったよ。なんか嫌な思いさせて悪かったな。
SCP-495-JP-1: いえいえ。取り乱してしまったのは私の方ですから……
[SCP-495-JP-1は被験者のスニーカーの靴紐を交換し終える。スニーカーには汚れやほつれなどは確認できない。]
SCP-495-JP-1: これで綺麗になりました。出来の方はいかがでしょうか?
被験者: ……うん、見違えるように綺麗になったな。ありがとう、なんでかはよくわからないけど鼻歌でも歌いたい気分だ。
SCP-495-JP-1: それはそれは、お気に召したようで喜ばしい限りでございます。
被験者: ああ、ありがとう。それじゃあ、俺は帰ることにするよ。……なんか色々と悪かったな。
SCP-495-JP-1: いえいえ、何度も同じことの繰り返しになって申し訳ありませんが、悪いのは私の方ですから。それでは、お気をつけて。
被験者: ああ、じゃあな。
[被験者は扉を開けてSCP-495-JPの外に出てすぐに振り向く。扉は消失しており、靴は元の財団が支給したスニーカーに戻っていた。]
[記録終了]
探索記録-3
被験者: D-4953
[記録開始]
[被験者がSCP-495-JP内部に侵入する。前回の探索時よりも靴箱に収められている靴が若干増加している。]
SCP-495-JP-1: いらっしゃいませ。こんにちは。
被験者: [沈黙]
SCP-495-JP-1: ここでは靴磨きを
被験者: いや、靴磨きはいい。
[被験者は自身の足元に視線を落とす。靴は完全に泥に覆われており、原型が判別できないほどである。SCP-495-JP-1の顔はこわばっているように見える。]
SCP-495-JP-1: ……大丈夫ですよ。しっかりみがけば、綺麗にすることができますから。
被験者: いいんだ。綺麗にしたところでまた泥が付いてしまうだろう。
SCP-495-JP-1: ですが……
被験者: ここに来た時からなんとなくわかっていたんだ。そして、なにかが俺を呼んでいるような気がしていたんだ。俺は生まれてからもうずっと歩いてきた。だから、もう休ませてくれ。俺は止まりに来たんだ。幸せになりに来たんだ。
SCP-495-JP-1: ……わかりました。
被験者: 反対しないんだな。
SCP-495-JP-1: 私は案内人です。目的地を決めるのはあなたですから。反対することはしませんし、できません。ここはリンボの一つ、そしてあなたが望む場所へ繋がる場所です。さあ、どうぞこちらにいらしてください。
[SCP-495-JP-1は被験者をカウンターの奥の扉まで案内し、扉を開く。扉の先はカメラでは暗くて確認できない。]
被験者: うおっ、ははは。これはすごい匂いだ。ここにいるだけで酔っちまいそうだよ。まあ、きっとそれがいいんだろうな。
[被験者は靴を脱ぎ、素足でドアの向こうに進もうとする。]
SCP-495-JP-1: すいません。この靴はお預かりしてもよろしいですか?
被験者: まあいいが、どうしてだ?
SCP-495-JP-1: もしあなたが戻ってこられたときは、この靴を綺麗にしてあなたにお返しできるようにするためです。私にはそれくらいしかできませんから。
被験者: ……変な奴だな。意味はないと思うが、まあ好きにしてくれ。それじゃあ俺は行く。じゃあな。
SCP-495-JP-1: それではお気をつけて……
[被験者は装着していたカメラを床に放り投げて、扉の奥に進んでいく。映像には強い衝撃によってノイズが走る。扉が閉まるとカメラはSCP-495-JP-1に持ち上げられ、カウンターの上に置かれる。SCP-495-JP-1は被験者が残した靴の泥を拭き取り始める。映像のノイズは徐々に大きくなり、やがて録画は停止した。]
[記録終了]
備考: カメラは███ビルの敷地内で回収された。この実験以降、侵入調査の際にカウンター奥の扉に入ることは禁止されている。D-4953は未だ発見されていない。
補遺: 探索記録毎に下駄箱内に収められている靴の数に差異があったことから、他にもSCP-495-JPへの侵入経路があるとみて調査がなされています。現在も、下駄箱の靴は増加し続けています。