SCP-4961

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接収直後のサイト-114。


特別収容プロトコル: 2019/01/10付けでSCP-4961はNeutralizedに再分類され、以前の収容プロトコルは全て廃止されました。残るプロトコルは臨時サイト-114の法的・経済的所有権の保持、並びに財団標準の秘匿プロトコルの継続となります。同様に、臨時サイト-114へ初期配備された職員も再配備され、今後は少なくとも2名の職員が清掃・修繕を担う維持管理者としてサイトに駐留しなければなりません。

説明: SCP-4961は、モンタナ州ノクソン南西部に位置する住所不詳の不動産にもたらされる現象です。効果範囲に留まっている間、家畜化・飼養されたイヌ科動物には異常な肉体的強化がもたらされます。当該の不動産はサイト-114に指定されました。

当該の強化効果はその時点で家畜化・飼養されているイヌ科動物にのみ作用し、SCP-4961の影響下にあるイヌ科動物には種々の好ましい効果が即座に発現します。当該の強化効果により、対象となるイヌが罹患していたであろう疾病が克服される、または四肢の欠損・奇形のような病症においてはそれを補うように正味の身体的出力が増強されることが観察されました。また、SCP-4961に曝露したイヌがサイト内で攻撃的行動をすることは稀であり、個体によっては攻撃的になることが全くなかったことが確認されています。

SCP-4961はサイト-114となる不動産の法的境界線の内側でのみ機能しており、その効果範囲は約120エーカー1の長方形型の土地全域に及び、鉛直方向の範囲については確定していません。大抵の場合において、この境界線を越えて外側に出ることによりSCP-4961の効果は機能を失います。(補遺4961.1参照)

SCP-4961-1は、サイト-114を住み処としていたゴールデン・ラブラドール・ミックスと推定されるオスの雑種犬でした。自他の意思に問わず、SCP-4961-1が不動産外に移動することは絶対に不可能であり、それ以外の異常性は示しませんでした。使用される機器の唐突な故障や一見してエーテル様である障壁の発生による移動の妨害など、様々な現象を理由としてSCP-4961-1をサイト-114の法的境界の外側へ物理的に移動させる試みの一切が失敗しました。SCP-4961-1は敵対的な行動を全く取らず、異常に高い確率で同種の他個体を誘引して社会化させることが言及されています。

特筆すべき点として、墓石に解読不能の文言が刻まれている墓がサイト-114の庭地に存在しています。内部スキャンにより、墓には1名の女性が埋葬されていることが判明しています。死体発掘による調査は不要と判断されています。

発見: 2010/06/15、財団のアナリストが老後の住居として改築する目的で当該の不動産を購入しました。工事中、アナリストが飼育する犬が敷地内に進入し、以前から失われていた片目の視機能を取り戻しました。器官が自然に再生したことに気が付いたアナリストは異常性干渉の可能性を財団に報告し、当該の不動産自体が異常性を有していることが追加実験により判明しました。これを受けて、同年の末にサイト-114が設立されました。

当該サイトの安全性確保の段階において、当時まだ確認されていなかったSCP-4961-1が発見され、迷い犬と憶測されました。サイトからの除外を試みたところ、SCP-4961-1を敷地内から物理的に除外できないことが判明しました。そのため、SCP-4961-1はSCP-4961の構成要素の一部として記録されました。

補遺 4961.1:
標本の説明 疾患 SCP-4961への曝露結果 その他注記
ビーグル・ダックスフント・ミックス (オス・5歳) 化学薬品事故による左目の失明。 対象の左目は徐々に正しい色合いに戻り、破壊された細胞が再生されて両眼視能を取り戻した。 SCP-4961の範囲から離れた後も対象の左目は完全な状態を維持し、以降は視覚に関する大きな問題は発生していない。
ジャーマンシェパード (メス・9歳) 全身に転移した癌腫瘍、それに伴う呼吸器障害。 SCP-4961の効果範囲内に踏み入れると体表の腫瘍は急速に縮小し始め、対象は呼吸機能を完全に取り戻した。 SCP-4961から離れた後の対象へのスキャン結果から、全身の悪性腫瘍が消失したことが確認された。数か月後に癌腫瘍が再発生したが、その転移速度は減衰しており容易に治療された。以降の対象は癌と無縁の状態にある。
ブラック・ラブラドール・レトリーバー (メス・10歳) 自動車事故による右後肢の変形のために正常に歩行出来ない状態。 SCP-4961に進入すると目に見えて肢の変形が元に戻り始めた。SCP-4961の影響範囲内において、対象は足を引き摺ることはなくなり、不自由なく歩行できるようになった。 SCP-4961を離れた対象は再び足を引き摺るようになったが、著しく楽に歩行する様子を呈した。
アメリカン・スタッフォードシャー・テリア2 (メス・5歳) 出生時の合併症による右前肢の切断。 対象に残っている肢の俊敏性と筋力は顕著に強化され、走行速度は平均的な家畜犬をはるかに上回る時速50kmほどまで優に達することが見られた。 SCP-4961の範囲から離れると、強化された身体能力が数時間かけて徐々に減衰していった。
ダッチマスティフ3 (オス・4歳) 約160匹の犬糸状虫4の寄生、それに伴う健康問題。 対象がSCP-4961に進入した時点では即座に結果を判定することはできなかった。 対象がサイト-114を離れてから2週間後になされた健診により、心臓血管系のいずれにも犬糸状虫が存在しないことが判明した。以降、対象は犬糸状虫ないし同様の寄生虫へ感染していない。
ハイイロオオカミ (オス・15歳) 脚部の関節炎。 即座に、対象は同齢の同種個体に予期されるよりも遥かに活発に活動し始めた。動きに際して痛みを感じる様子はなく、関節炎の症状が完全に緩和されたように示唆される。 対象が異常性の範囲から離れた後、SCP-4961による強化が急速に減衰した。イエイヌ1種だけでなく複数のイヌ科動物にかけてSCP-4961の効果が発現することが示唆される。
シャー・ペイ5 (メス・8歳) 両前肢肘部のアトピー性皮膚炎ならびに軽度の毛包虫症。 SCP-4961の範囲に進入すると、罹患部位の皮膚で炎症が抑制・保湿され始め、数分と経ずに欠損していた毛皮が瞬時に再生した。SCP-4961が潜在疾病を治癒したためか対象の呼吸機能も改善した。 患部に潜行していたイヌニキビダニ (Demodex canis) は完全に消失していた。以降、それ以外の表皮疾患は報告されていない。
チベタン・マスティフ (オス・16歳) 高齢とそれに伴う種々の疾病。 即座に、対象は同齢の同種個体に予期されるよりも目に見えて遥かに活発に動き始め、いかなる行動をしても痛みを感じる様子を呈しなかった。2018/08/26に老衰で死亡するまでの9日間、対象はサイトに留まり続けた。 その死の直前、サイト内にいた複数のイヌ個体が対象の周囲に集まり、沈黙状態のままでいた。その死の瞬間、対象を取り囲む草花にハシドイ属 (Syringa) の未記載種ないしライラックの花のような実体群が多量に出現した。実体群はそれを直視した人物へ落ち着きをもたらす軽度の認識災害を伴うことが確認された。当該実体群は即座にサイト-114から取り除かれ、追加調査が必要と判断される場合に備えて、現時点ではサイトー19内で冷蔵保管されている。

インシデントログ4961.A: 2019/01/10 世界標準時刻 PM10:34 頃、SCP-4961-1が老衰により自然死しました。アノマリーを由来として寿命が延びていたことが予測されるため、SCP-4961-1の死亡時の年齢は不明です。死の数日前までのSCP-4961-1の行動は「心安らか」でいて「穏やか」なものであったことがサイト職員により記録されていました。この間、サイト内のイヌ科動物はSCP-4961-1の周囲に集まり、顕著に高い頻度でSCP-4961-1の周囲で互いに交流し、SCP-4961-1に触れました。死の7時間前、SCP-4961-1はサイト-114のメイン階段の下部分を引っ掻き始めました。その場に居合わせた職員は階段内部に小さな空洞を発見し、さらに空洞内部に封のなされた手紙1枚と身元不明の女性 (P.o.I. 291115 に指定) が写った古惚けた写真1枚を発見しました。(補遺4961.2 参照) SCP-4961-1の死後、その死体の周囲には数百種類もの草花が咲きました。チベタン・マスティフの事例同様、当該の草花は軽度の認識災害を有していましたが、この事例で発生した新規実体の効果は顕著に強力でした。当該の草花を除去する試みはその全てが失敗しています。これは、根ごと引き抜いたり別の場所に植え直したとしても当該実体群が数分と経たずに元の場所・大きさに生長するためであり、当該実例群の除去は現時点ではもはや試みられません。

補遺4961.2: 以下は階段内部の空洞から発見された手紙の書き起こしであり、不動産の元々の所有者 (P.o.I. 291114に指定) により書かれたものと推測されています。当該人物に関して、他の詳細情報は判明していません。


これが読まれてるということは、遂げられたということなのだろう。


妻と2人、こちらの世界に逃れてきたとき、こんな土地に辿り着くだなんて思いもしなかった。

ここを憧れ続けていた人もいたのだろうね。広くて、静かで、誰かの住まう、そんなどこかを。

ずっと前にここへ辿り着いた時、僕らが逃れてきた戦争は、その爪痕は記憶に鮮明にこびりついていた。

ここで数ヶ月を落ち着かせた後でもそれははっきりと目に見えていたんだ。

可哀相なルタ、彼女はストライダーを夢見た悲鳴で真夜中に目覚め、よく僕の腕の中で泣き崩れたものだった。

そんなある日、買い出しのために赴いた街、その街の道端で迷子の犬と出くわしたんだ。

僕は動物が好きといえるほどの人間ではなかったけど、だけど思ったんだ、とにかく試してみようと。おチビは体を震わせて、酷くお腹を空かせてるようだった。

そのチビ助を腕の中に抱えて帰って来た僕を目にしたとき、ここ数年なかったくらいにルタの顔が輝いた。戦争以前にも見たことのないような顔だった。

彼女は決してその子の傍を離れようとしなかった。

名前も付けたんだ— ラデック。本当に、僕なんかよりもずっと、彼女の方がその子に愛を注いでいた。



だが、僕たちに比べれば、ラデックは短い生涯を送る運命にあった。

ルタはその考えに耐えられず、マズルに白髪が増えてきただとか、散歩のスピードが少し遅くなっただとか、僕が口にするその度に話題を逸らしていた。

そして遂に彼女はやると心に決めたんだ。

ルタと僕との特性について、これを読んでいる君はそこまで知らないだろうから搔い摘んで述べる。

君たちの言葉で表すなら、ルタは自らの "命" をラデックに与えたんだ。

こうして、僕たち3人はどうにかこうにか生き延びることができた。



しかし、運命というものはどうやらいたずらなもののようだ。

命を、愛を、ラデックに分け与えたことで彼女は自分自身を弱めてしまった。

たったの50年、僕てずから最愛のルタを埋葬する他なくなったのは50年が過ぎた頃だ。ラデックもそれを快く思わなかったんだろう。

君にも分かるだろう、僕たちは共に受け止められずにいたんだ。可哀相に、この子は何週間もルタの墓から離れようとせず、飲んだり食べたりもほとんどしなかった。

やがては甘受するようになったけれど、それは地獄だった。



それから数週間のラデックはこの土地から離れることをなおも拒んだ。

ある夕べ、ここから出ていって、そう遠くもない湖まで散歩するのが健全だと思い至った。ラデックは来るのを拒み、リードを咥えて抵抗し続けた。

リードが外れたか、さもなくば裂けてしまって、ラデックを抱きかかえて外に連れ出そうとした。

その時に至って点と点が繋がった、最愛の人が僕と、僕たちに残した "別れのプレゼント" に、少なくともその一端に気が付けたんだ。

時折、野良の犬たちがここを出入りしていたものだったけれど、その子たちの疥癬は数秒の内に自然と治り、見ることのできなくなった目は数分の内に再び見えるようになっていた。

その度に、見知ったはずなのによく分からない痛みを、その存在を胸の内に感じられたんだ。

ルタが、ルタじゃないとしても、彼女が残してくれた何かが、まだここにある。



ラデックを愛しているけれども、これ以上ここにいることに堪えられない。思い出があまりに多すぎるみたいだ。

僕は旅をしてこの世界がもたらす景色を目にしてやる。それこそが彼女の望んでいたことだったから。

僕のいない間のラデックは何も心配することはない、上手くやってることを確信してる。

だけど、万が一に備えて手を尽くしておいた。

万事が計画通りに進めば僕たちからこの土地を継いだ人がこの手紙を見つけるだろう。

祖の地の組織のような人たちがこの世界にもいれば、遅かれ早かれここも明るみになるだろう。

いつかまた戻ってこよう。最期にルタの傍に横たえることができるのならばそれ以上の喜びはない。

生あるうちと同じく、死した後も。



庭に植えたライラックとライラックの茂みの間、柳の隣へ、どうかラデックを埋めてやってください。

ライラックはルタがいつだって愛していたものだったから。

僕たちを忘れないでくれ

クイン


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上述の手紙とともに発見された写真。P.O.I. 291115のものと推測される。撮影された正確な年代は不明だが、20世紀初期に撮影されたものと思われる。

インシデントログ 4961.B: 2021/01/10、1人の老人が許可もなくサイト-114に侵入してきました。自身をクインとだけ名乗った当該男性は、サイト内の庭地の一角、花々が植えられている箇所に駆け寄り、ちょうど2年前に死亡したSCP-4961-1が埋葬された場所に跪きました。当該男性は墓に向かって俯くとともに泣き出し「立派にやり遂げた」「もう休んでいい」など、サイト職員が拘束しようとする最中にも様々な言葉を語りかけていたと報告されています。

その後、地面に倒れた男性はしわがれた声で「手紙」と話した後、サイト-114設立当初に発見された墓に向かい腕を伸ばして這い進もうと試みました。その最中の男性は「ルタ」と囁きながら笑みを浮かべていました。その後、対象は重度の心不全に陥り、数分後に死亡しました。

キャバレロ博士の指示により、対象 (後にP.o.I.291114と特定) は、元より存在した墓の隣に埋葬されました。それ以降、サイト-114に関する新たなインシデントは発生していません。

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