アイテム番号: SCP-4996-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-4996-JPが発生する該当店舗の営業時間は21:00までに制限されます。深夜時間帯はDクラス職員1名が滞在し、異常が発生した場合報告されます。また10日に1度、SCP-4996-JPの発生実験が実施されます。
説明: SCP-4996-JPは██県██市に存在する特定のドラッグストア(該当店舗と表記)でのみ発生が確認されている異常な現象です。SCP-4996-JPの発生時間帯は深夜1に限定されています。同市内に存在する他のドラッグストアにてSCP-4996-JPが発生した例は確認されていません。
SCP-4996-JPは以下の条件を満たした際に発生します。
- 時間帯が深夜である
- 一般客の会計が終了しており、レジの待機列が存在していない
- 店員によって「お次の方どうぞ」という旨の発言が行われる
SCP-4996-JP発生時、該当店舗に設置されたレジスターは突如として購入処理を開始します。これは店員による操作とは無関係の事象です。SCP-4996-JPの発生に伴い、これまでの平均で約10万円が電子決済により支払われ、レシートが出力されます。レシートには購入した品物の名称や情報は記載されておらず、金銭の取引が行われた記録のみが記載されています。
補遺1: 発見
SCP-4996-JPは20██/██/██、該当店舗が他の系列店と比較して売り上げが異常に増加していることを不審に思った潜入中のエージェントにより発見されました。結財団は重要参考人として店長の長谷川氏を確保し、インタビューを行いました。
以下はインタビュー記録の一部抜粋です。
インタビュー記録
日付: 20██/██/██
対象: 長谷川晃大氏(長谷川氏と表記)
インタビュアー: 箕田博士
<抜粋開始>
箕田博士: では長谷川さん。あの取引について教えてください。
長谷川氏: 実を言うと俺も分かってないんです。
箕田博士: 分かってない、ですか?
長谷川氏: はい。何でかよく分からないけど、夜の誰もいない時に「お次の方どうぞ」って言うと大金が支払われるんです。取引というより、不思議な現象みたいな感じですね。
箕田博士: では、その現象を見つけたきっかけは何でしょうか。
長谷川氏: えーと、当時はですね、夜勤のバイトが全然見つからなくて。今は何人か雇えていますが、その頃は時給が低くて人が来なかったんです。それで私一人で10連勤とかしてたんですよ。ある夜自分でも大分キテるな、と思った時、客がいないのに「お次の方、どうぞ〜」って言っちゃたんですよね。
箕田博士: そうしたら、大金が支払われたと。
長谷川氏: そういうことです。急にレジが鳴り出して、最初はいよいよおかしくなっちゃったんじゃないかと思いました。その日は店を閉めてしっかり寝て、それで試しに次の日もやってみたらまた大金が支払われて。寝ぼけてたわけじゃない、これは本当だって信じるしかできなくなっちゃって。
箕田博士: それで、そこからはどうしたのですか?
長谷川氏: 最初はこれは止めようって思ったんです。だってあり得ないじゃないですか。対価も無しに大金が入ってくるなんて。出処の分からないお金なんて使えないし、絶対何か良くないことが起きる気しかしませんでした。でも止められなくて、結局週2くらいで「お次の方どうぞ」をしていました。
箕田博士: 何故ですか?
長谷川氏: うち、結構経営厳しいんですよ。あまり人も来ないし、正直なことを言うと売上が少なくて。毎月赤字だったんです。でも「お次の方どうぞ」をすれば大金が入ってくる訳です。ウン十万ってお金が何度も何度も入ってくるから売上も安定して、赤字を脱することができて。不気味だしいつかしっぺ返しが来るんじゃないかと怯えていたんですが、それでもどうしても止められなかったんです。
箕田博士: なるほど。ご協力ありがとうございます。
長谷川氏: それで、俺はどうなるんですか。
箕田博士: どう、とは。
長谷川氏: わかっています。こんなよくわからない金を大量に手にしてしまって捕まったんですから、覚悟はできています。口封じに殺されるんですか。それともこれまで稼いだ分内臓を売られるんですか。
箕田博士: い、いやいや。そんなあなたに危害を加えるようなことはしませんよ。──ああ、でも。それでしたら少し協力してほしいことがあるんですが。
長谷川氏: ああ、やっぱり報いは来るんだ。マグロ漁船ですか?それとも運び屋?
箕田博士: いやいやそんな闇バイトじゃないんですから──いや、裏バイトのようではあるか?
長谷川氏: (悲鳴)
<抜粋終了>
当インタビュー後、長谷川氏の協力の下でSCP-4996-JPの性質を解明とした実験が行われました。長谷川氏は引き続き重要参考人として財団の保護下に置かれます。該当店舗の封鎖はSCP-4996-JPに関する調査が完了するまで保留されます。
補遺2: 経過と検証
SCP-4996-JPの異常性解明に関する実験の過程で、以下の傾向および現象が報告されました。
- 全体の売上は上昇したが、SCP-4996-JP以外の売上は減少傾向にある
- 来客数も同様に若干の減少傾向にある
- 顧客満足度調査アンケート(お客様アンケートとも呼ばれる)の数値に有意差は認められない
20██/██/██からの1カ月、一定期間SCP-4996-JPを発生させなかった場合の売上や店舗経営状況を調査することを目的とした検証が行われました。期間中長谷川氏の勤務時間は夜間を禁止し日中に限定されました。
検証期間中の売上は██万円、来客数は██人でした。これはSCP-4996-JPによる売上を除いた数値として有意に減少しているとは言えず正常な範囲内であると結論付けられました。
検証期間後期より、来客及び店員から異変が報告されるようになりました。報告された異変は「どこからともなくスクラッチ音が聞こえる」や「床を叩く音が聞こえる」というものでした。財団による原因の究明が行われましたが、有効な結果は得られませんでした。合わせて長谷川氏よりSCP-4996-JP発生実験の実施要請が複数件寄せられました。当初財団は、数カ月間SCP-4996-JPを発生させない場合の検証を予定していましたが、上記報告された異変や長谷川氏からの強い要請を鑑み、SCP-4996-JP発生実験の実施を許可しました。
以下は実験時のログの抜粋です。
実験ログ
日付: 20██/██/██
対象: 長谷川晃大氏(長谷川氏と表記)
担当: 箕田博士
<ログ開始>
長谷川氏: 本当に、本当にやっていいんですね?
箕田博士: はい、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。いつも通りにお願いします。
長谷川氏: 分かってます。ああ、久しぶりだ。ようやくできる。
長谷川氏がレジカウンターの前に立つ。
長谷川氏: えー、お次の方どうぞ。
レジスターが購入処理を開始する。160,000円が電子決済によって支払われる。レシートが出力される。
箕田博士: おお、今回は結構多めの決済額でしたね。特に異変はありませんでしたね。では長谷川さん、戻ってきてくださ──
長谷川氏: あ、あれ。
箕田博士: どうしました?
長谷川氏: あー。お次の方、どうぞ。
レジスターが購入処理を開始する。147,940円が電子決済によって支払われる。レシートが出力される。
箕田博士: 長谷川さん、何をしてるんですか。実験は終了ですよ。
長谷川氏: 分からない、分からないんです。でもこうしないといけないって気がして、気がついたら、俺。
長谷川氏: お、お次の方、どうぞ。
レジスターが購入処理を開始する。212,961円が電子決済によって支払われる。レシートが出力される。
箕田博士: 長谷川さん、一旦止まってください。長谷川さん!
長谷川氏: すみません、すみません。お次の方、どうぞ。
レジスターが購入処理を開始する。315,871円が電子決済によって支払われる。レシートが出力される。
箕田博士: (舌打ち) らちが明かない。エージェント、長谷川を拘束してください。
長谷川氏: (虚ろな目で) お次の方!どうぞ!
レジスターが購入処理を開始する。458,920円が電子決済によって支払われる。レシートが出力される。
付近で待機していたエージェントが該当店舗に進入し、長谷川氏を拘束する。長谷川氏は抵抗する素振りを見せない。
エージェント: 確保完了しました。
箕田博士: 長谷川さん、話はできますか。
長谷川氏: (沈黙)
箕田博士: 駄目そうですね。一旦引き離しましょう。エージェント、長谷川さんを連れて帰還してください。
エージェント: 了解。
長谷川氏: (不明瞭な発言)
エージェント: ん?
長谷川氏: (掠れた声で) お次の方、どうぞ。
レジスターが購入処理を開始する。558,014円が電子決済によって支払われる。レシートが出力される。
<ログ終了>
実験終了後、長谷川氏は昏倒し、約16時間後に覚醒しました。昏倒直前の長谷川氏は恐慌状態にあり、実験時の記憶に関する軽度の混乱が見られました。長谷川氏は財団によるカウンセリングによって回復しています。
該当店舗からはSCP-4996-JPに由来する大量のレシートが回収されました。回収されたレシート群の内容を統合した結果、実験時に合計で約185万円が電子決済によって支払われたことが明らかになっています。
当該実験の結果は、長期に渡ってSCP-4996-JPを発生させなかったことに由来するものであると結論付けられました。また、当該実験を経てSCP-4996-JPには未解明の性質が存在すると結論付けられました。今後の調査では該当店舗の店員として雇用されたDクラス職員を利用することが決定されています。調査は継続される予定です。
研究員覚書
長谷川はずっと何かに怯えていた。最初はSCP-4996-JPを悪用して金銭を得ていることに対してだったはずだが、次第に何か別の存在に対して怯えるようになっていった。そしてあの実験で怯えが限界に達した。SCP-4996-JPの発生を止められなくなってしまった。
そもそもSCP-4996-JPで何が起こっているのかは未だによくわかっていない。どのようにして購入処理が行われているかも解明されていないし、あれだけの金額が払われている理由も不明だ。SCP-4996-JP発生の前後でドラッグストアから無くなったものは何もなく、物質的な変化が皆無であることは何度も確認されている。それでも、電子決済が行われたということは「何か」が買われているということだ。不可視の客によって、高額な「何か」が。
発生させなかった期間に異変が発生したことから、定期的にSCP-4996-JPを発生させ「何か」を売る特別収容プロトコルが制定された。現在もその方法で収容が行われており、それからは異変も発生していないしドラッグストアも変わらず営業を続けられている。おそらく現在のもので収容プロトコルは適切なのだろう。しかし──私だけでなく他の職員も感じている。あのドラッグストアは収容当初と比べどこか変わった。それが何なのかは未だに突き止められていないが、訪れる度に違和を覚えずにはいられない。私たちは本当にこのまま「何か」を売り続けてよいのだろうか。
箕田太一



