SCP-4997-JP
評価: +22+x
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サイト-8100音声記録/必要クリアランス5


ナビゲーター: 6人分の着席を確認。生体反応普通。意識無し。詳細な状態確認結果、睡眠剤による軽度の気絶状態。

ナビゲーター: 指定された状態を確認いたしました。これより、日本支部理事会の人事継承業務を開始します。今この瞬間よりあなたたちの名前・痕跡・記憶は全て抹消されます。

ナビゲーター: 今この瞬間より、あなたに"獅子"の名と、"獅子"の名に付随する全権限・全能力を付与します。その牙、その眼光、その鬣、その体躯を以て日本を統括しなさい。

"獅子"と名付けられた金髪の男: ……うう、は……

"獅子": はい、かしこまりました。かつて"管理者"が名付けた7の守り人うち1を、有難く頂戴いたします。

ナビゲーター: 今この瞬間より、あなたに"若山"の名と、"若山"の名に付随する全権限・全能力を付与します。日本における全ての地を見通し、観察しなさい。

"若山"と名付けられたつり目の女: ……ええ、もちろん、です。

"若山": 私が見るは自然、私が見るは街、故に私が見るは生命の動きと景色の静けさ。すなわち日本全土ですから。

ナビゲーター: 今この瞬間より、あなたに"千鳥"の名と、"千鳥"の名に付随する全権限・全能力を付与します。情報という塊を断片に加工し、水辺に溶かし、群れなす鳥となって攪乱しなさい。

"千鳥"と名付けられた小柄な男: ……噓を、つこうか。

"千鳥": 私が紡ぐ声に噓を、私が書く文字に噓を、大衆が見る私に噓を、それが日本支部を守る噓になるのだから。

ナビゲーター: 今この瞬間より、あなたに"鳳林"の名と、"鳳林"の名に付随する全権限・全能力を付与します。最も自由な翼として、神聖に繁る林として、財団に徒なす組織と交渉・接敵しなさい。

"鳳林"と名付けられたくせ毛の女: ……翼を広げられる、この瞬間を。

"鳳林": 待っておりました。わたくし、歓喜に打ち震えております。財団のため、"管理者"のため敵を啄む日が来ようとは。感謝、申し上げます。

ナビゲーター: 今この瞬間より、あなたに"升"の名と、"升"の名に付随する全権限・全能力を付与します。収め納める1つの箱として、あらゆる「待った」をかけなさい。

"升"と名付けられた長髪の女: …..神酒を入れ、米を入れ。

"升": 地を入れ、空を入れ、宇宙すら入れる極少の単位。僕がブレーキであり、故に僕が基準である。

ナビゲーター: 今この瞬間より、あなたに"稲妻"の名と、"稲妻"の名に付随する全権限・全能力を付与します。神の御業の雷として、神の第六感を用い未来を見通しなさい。

"稲妻"と名付けられた傷だらけの男: ……我がマントラは、この国に張り巡らされた。

"稲妻": 聳え立つ山が景色を見通すならば、我は雷電として存在せぬものを見通そう。予言は、遂に財団の手中に落ちるが故に。

ナビゲーター: 名前の定着率、定着状況を確認中…良好。既存の想定しうる問題、確認できず。理事の抵抗値…許容範囲内。

ナビゲーター: お疲れ様です。日本支部理事会の皆様、次いで確認に移ります。

"若山": 思ったより不思議な感覚だわね。

"獅子": 感想は後だ、今は引継ぎ業務に集中しろ。

ナビゲーター: それでは皆様、お手元の日本支部理事会書類を開き、専用設備の項をご覧ください。

ナビゲーター: 皆様にはサイト-8100とは別にそれぞれ、別々のサイトの管理権限を所有することになります。これにより当該サイトに秘密裏な収容を行われているクリアランス認証5以上が必須であるオブジェクトは皆様の管轄下となりました。そして機動部隊い-0("零号部隊")の使用───

ナビゲーター: いかがなさいましたか、"稲妻" 様。

"升": 早速予言かい?参ったな、理事の初仕事が取られてしまった。

"稲妻": 福島、肥留弥産婦人科病院。おそらく感染経由の増殖する異常。

"鳳林": どれほど先の未来なのですか。

"稲妻": 10分もない、急ぐ必要があるぞこれは。

"獅子": .aic、引継ぎ業務中断。最寄りサイトの管理官回線に繋げ。

ナビゲーター: かしこまりました。

"稲妻": 待て、これは……

"千鳥": 追加の予言はもういいだろ、発生場所と異常性パターンさえ分かれば

"稲妻": 全員出ろ。

"千鳥": は?

"稲妻": ここにいる6人全員が、病院に向かう必要がある。これは今のためではなく、未来に来る禍への布石である。と…

"若山": 答えなさい.aic、過去の代の"稲妻" で類似した予言はあった?

ナビゲーター: 「日本支部理事会がこのアノマリーを管轄せよ」や「理事のうち1人が収容を指揮せよ」といった内容はありましたが、「理事会の6人が収容現場に出向け」という旨の予言は存在していませんでした。

"獅子": ……"零号部隊"に通達。

"升":本気なのかい、冗談だろとは言いたくないが。

"鳳林": 楽しくなってまいりました。我々が他の代の理事には成し遂げられない先駆けを成すのですね。

"獅子": これも新たな時代の変遷、というわけか……

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・

アイテム番号: 4997-JP
レベル4
収容クラス:
keter
副次クラス:
{$secondary-class}
撹乱クラス:
gevurah
リスククラス:
notice

特殊攪乱クラス説明:Gevurah

アイテムは財団の内部構造に攻撃を誘引もしくは直接行い、当該オブジェクト自体の収容や他オブジェクトの収容状態などを困難なものにします。

特別収容プロトコル

当該報告書作成時点でSCP-4997-JPの異常性より復帰できた財団職員は雅灯 しん博士(Dr.Sin Gato)1人のみです。財団は彼女の証言等を情報源とし、SCP-4997-JPの報告書作成ならびに対策を立案してください。

説明

SCP-4997-JPは、サイト-81管区勤務の財団職員を対象にした基底世界とは異なる平行世界へと転移する消失現象です。現在SCP-4997-JPによって100名を超える財団職員が唐突に、かつどのような抵抗も無意味なままに消失しています。

以下の説明項は雅灯博士の証言により作成されました。信憑性が薄いことを考慮して読み進めてください。SCP-4997-JPの標的とされた財団職員は以下の別次元世界に置換されます。

  • 大部分の異常が消失もしくは著しく弱体化している
  • 財団を始めとした要注意団体が一切存在しない
  • 別次元世界に置換された財団職員は財団に雇用された当年の時代・年齢となる
  • 別次元世界に滞在すればするほど「自身は財団職員である」「基底世界に帰還する必要がある」といった意識、ならびに基底世界の記憶そのものが薄れていく

SCP-4997-JPがどのような基準で置換する財団職員を選出しているのか、なぜ財団を対象としたのか、別次元世界がSCP-4997-JP本体なのか使役する意識体が存在するのか、その一切は現状不明です。

元来より財団職員のみを対象とした職務復帰が完全に不可能となる異常は複数観測されてきました。それに対して財団は当該異常から脱する水際対策こそ講じることは可能であったものの明確な収用プロトコルは立案できていません。そのような背景に加え、SCP-4997-JPによる財団職員の消失プロセスは高頻度かつ81管区内外において主要な人物を対象としていたため財団はSCP-4997-JPをGevurahクラスに指定しました。

なぜ雅灯博士のみがSCP-4997-JPから帰還できたかの明確な理由は不明ですが、「自身が持つ異常存在への憎悪と定期的に発生する幻覚症状によって正気を保てていた」と本人は証言しています。

補遺

以下はSCP-4997-JPの曝露対象となった雅灯博士が所持していた財団支給ならびに私物のスマートフォン2台に残されていた音声・映像記録ならびに電子メモの記録です。当該記録はSCP-4997-JPから帰還した場合物品を基底世界に持ち帰れる貴重な証左になりました。

ボイスメモ-01:

えっと……聞こえていますかね。雅灯です、雅灯しん。サイト-81YH勤務、クリアランスは3。目が覚めたら明らかに異常な事態かつ全く解決策が思いつかないので、せめてもの抵抗と思って詳細な状況を残すため録音しています。

まず、時代が遡っています。2013年の6月28日、20歳の初夏。財団にスカウトされてヴェールの内側を認知した日です。それに伴って肉体も……どうかは直感的に分かりませんが、体が軽いので若返っている……気がします。

場所は神奈川県藤沢市、マンション「チュチュ」。信じられませんが、私が記憶している当時のままです。乱雑な床も、両親に買い揃えてもらった家具も、壁の丸時計も。本当に……憎いほど懐かしい、異常に対して無知で無力な大学3年生……

申し訳ありません、感傷に浸っていたみたいです。ですがこれが明らかに異常事態であることは理解できます。私が2025年の記憶を持っていることと、所持品がそのままであることが理由です。

ですがどのようにして現状を打開するかは考えあぐねています。まずは近場にあって私が記憶する限りの財団フロント企業を訪ねてみますが……もっと良い案があったらそちらをやってみます。

ボイスメモ-02:

1日経って再び連絡しています、正直言って想定が甘かったです。と言っても潜入エージェントの専門知識もない、財団の設備やバックアップもない、そもそもこれがどのような異常なのかも全く分からない現状ではフロント企業に訪問して「財団の雅灯しんを知っているか」と問い詰めるしかできませんが。

もれなく警備に突き返されました。藤沢、鎌倉、横浜のフロント企業全部に。理解できない。通常想定できる対応なら、財団の名前を語った時点で情報漏洩を恐れて捕縛して記憶処理するはず。でも何を言っているのか分からないとだけ言われ離されたり警察を呼ぶぞと脅されるだけなのは…….

……本当に、この世界には財団が存在しない可能性がある。ふざけている、本当に。

実際、これが奇行と判断されるのならそのまま警察に逮捕されるのも1つの手として考えました。大体の警察機関には財団の潜入エージェントが潜っているので対応もマシでしょうから。でも、この過程が当たっているならリターンなしの危険な橋になる。

思ったより長期戦になりそうです。なので逮捕は本当に八方塞がりになった最後の手段として温存します。この時ほどフィールドワークをしてこなかった職員であることを恨んでいることはありません。

ボイスメモ-03:

あれから自体はあまり進展していません。1つ分かった事と言えば、この世界の私は「財団はもちろん、ひょっとしたら異常存在がいない世界線の雅灯しん」として存在しているということです。本当に、本当に悔しいのですがこれは確定でいいと思っています。そうなっているということは、私には大学3年生としての日常が存在し、人間関係や人生もあるということです。

……友人や、ゼミの先生から色々心配されました。どうやら突撃した会社から連絡が行っていたようで、口頭による厳重注意だけで済んだのは私の成績と普段の素行のようですけど。懐かしい、本当に懐かしい名前でした。ヴェール内側という陰に潜り込んで世界の礎になろうと決意したその日に、全ての捨てることを決意した名前でした。

今の私に存在するのは、懐古による安堵が少々、大部分は異常存在に好き勝手されているという憎しみです。このままいいようにされるかという感情と、この世界にはない財団への忠誠心だけで正気を保っています。しばらくいると私の記憶と世界のギャップに気が狂いそうになるから、声に出して反芻しています。「これは異常による幻想だ。私が財団の記憶を持ったままこの世界に置換されているのと、私の声を記録している2025年規格のスマホがその証拠だ」と。

私がこの世界における設定相応の立場に置換されているという仮説を基に、新しいやり方を考えました。私の顔馴染みである財団職員は、この世界だとどうなっているのか訪ねます。雑談で財団に入る前の経歴をざっくばらんに知っている人が何人かいる。

……すいません、長期戦を想定していると前に言った気がするので外面だけでも良くしようと立ち回ります。これから大学に行って、バイト先、買い出し、家事……

……本当に、正常で普通の生活を異常だと断定するのは気が狂いそうになる。

メモアプリ内文章(原文ママ)-04:

訪ねた職員 話したこと
夢原助手 東京在住、自身を普通の人間だと思い込んでおり、財団・ヴェール・異常関連の記憶なし。会社員(詳細は聞きだせず)、1人暮らし。
エージェント・相尾水 千葉県の農家として存在、自身を普通の人間だと思い込んでおり、財団・ヴェール・異常関連の記憶なし。ご家族は健在。
羽場逆管理官 東京在住、おそらく企業の役員?自身を普通の人間だと思い込んでおり、財団・ヴェール・異常関連の記憶なし。普段の厳格そうな雰囲気とは打って変わって、穏やかそうなおじさんだった。
名賀研究員 神奈川県在住、自身を普通の人間だと思い込んでおり、財団・ヴェール・異常関連の記憶なし。飲食店アルバイト?正社員の可能性もあり、少なくとも学生ではない。勝手に「一歩冷めた目で俯瞰しているな」という印象を抱いていたが、財団に所属していない彼は多くの仲間から目に見えて好かれていて、楽しそうであった。

備考: 分かってはいたけど初対面の人間に「あなたのことを詳細に教えてください」と言われて、人は自分のことを話すわけない。大部分は推察や傍から盗み見た情報だ。それに大したことは分かっていない。話せば話すたび、本当に彼らは私のことを知らない彼らなのだと突きつけられ、孤独感と申し訳なさを感じる。

違う、私はちゃんと財団の使命に殉じている。私は正常だ。

ボイスメモ-05:

今日はバイト代をはたいて撮影用の機材を購入しました。財団のやり方に則るなら、まずは自分の存在を偽装する建前が必要でした。配信者ってこの年代ではポピュラーなのかは、ちょっと分かりませんが……焼け石に水でも私にできることをやります。

正直言って、普通の生活をするのにもこれほどお金がかかることを久しぶりに痛感しています。それと同時に、私の行動は「お前はこの世界では異物である」という、共に闇で戦う仲間すらいない本当の孤独に突き刺すような寒さを感じます。

……ああ、そうだ。お前がいたんだった。夜になると現れる、ただ私のことを見守るしかしない幻覚が。10数年間見えているけど、お前は異常じゃないんだな。

メモアプリ内文章(原文ママ)-06:

訪ねた職員 話したこと
エージェント・天世 群馬在住、大学生。財団・ヴェール・異常関連の記憶なし。趣味の写真撮影は変わっていなかった。何度か賞を取ったこともあるらしく、誇らしそうに、でも穏やかな楽しさを表情に湛えていた。
八鯉研究員 埼玉在住、企業所属の研究職?財団・ヴェール・異常関連の記憶なし。私が記憶している三角研究員のイメージ通りであり、ふざけ半分といった様子で色々なことを話してくれた。こっちの世界でも仕事はそつなくこなすんだろうなと、思ってしまった。
創田博士 青森在住、菓子小売店勤務。財団・ヴェール・異常関連の記憶はうっすらとありそう?こちらの話を妄想だと切り捨てず真摯に対応してくれた他、「財団」「SCP」「日本支部」といったワードに体がピクリと反応したように見えた。勢い余って問い詰めたが、特に何も知らなかった。なのでうっすら?
在原研究員 兵庫在住、財団・ヴェール・異常関連の記憶なし。高校生。話すきっかけに手こずっていたが、向こうの方から話しかけてきてくれた。曰く「どこかで会った気がする」らしい。財団の記憶は全くないにも関わらず。羽月ちゃんは高校の時から背も大きくて、それを気にして声も小さくて、でも自分の勘という一点でひとりぼっちで困っている私に話しかけてくれて、不要な情報だったけど記しておきたかった。彼女は何回かサイト-8148のおやつ会議にお邪魔した時と同じように見えて、でも財団にいる時よりも、人生をちゃんと生きている気がした。

備考: ネガティブな感情の正体がいくつか言語化できた気がする。普段は人々の生活を陰ながら守っている私が、今はその人々の生活に土足で立ち入っている。その事実に耐えられないのだ。しかも相手は私の知っている仲間たちの顔をしていて、呼び捨てにするくらい親しい間柄もいる。日の当たる人たちの暮らしを守るためなら、闇の中で殉職していいという覚悟だった。財団に忠誠心もあった。

でも、共に心中する覚悟だった仲間たちが陽だまり側に行ってしまったら、どうするのが正解なんだと思うようになってきた。想像すらしていなかった幸せそうな未来に直面して、思考が揺らいでいるのを感じる。あの幻覚は、いつも通り夜になると現れて、ただ私を見守るだけ。

会えそうなアテも尽きつつある。避けていた青森・兵庫より遠出となると、時間・軍資金も底が見えそうになる。

手詰まりを、追い詰められているのを、感じている。

ボイスメモ-07:

一旦、実家の福島に帰ります。金の無心と、両親の様子と、お盆の時期なのと……

疲れて、しまって。申し訳ありません。

ボイスメモ-08:

2週間更新を空けました。ごめんなさい。実家でみんなが寝静まった時に話しています。結論から言うと、家族は健在でした。

祖父母は記憶処理で私のことを覚えていないのに、私を温かく出迎えてくれました。

母は肥留弥の産婦人科で殺されたはずなのに、2013年の夏まで私のことを心配してくれていました。

母に立ち会っていた父も、生きています。駅から車を出してくれて、私のことを怒ってくれました。

当時妊婦であった母を殺されて流産になった弟も生きていました。微妙な距離感の中に、姉が帰ってきた安堵のようなものがあるのを感じました。

2階の自室も、海の見える窓も、壁の丸時計も、みんな記憶の通りです。全てが、何もかもが異常です。異常だと、分かっているのに……

……こんなの、ずるい。ずるいよ。私にも帰ることができる陽だまりがあるって、ずっと孤独だった状態からこんなことをさせるって、信念が揺らいでしまう。

ここまでやってきた原動力が異常に対する憎悪だったのに、みんな生きているなら、どこにぶつければいいの?

動画ファイル-09:

[画面は夜空を捉えており、花火が上がっている。画面外より複数の声が確認できる。]

男の声: おい、しん!すごい花火だぞ、撮っておけって!

女の声: もうお父さんったら。ごめんね、しんが帰ってきて嬉しいの。

雅灯博士: 分かってるよ母さん。父さんも、ちゃんと撮ってるから。

老人の男の声: にしても……うちの盆祭りはここまで派手にやってたかね?

若い男の声: ね、まあ姉ちゃんが帰ってくる時にナイスタイミングだから良かったんじゃね。

雅灯博士: ……何?あんたも花火見に来たってわけ?

老人の女の声: しんちゃん?誰と話しているんだい……?

雅灯博士: ずっと見てばっかり……ていうか、それ、指……?

[空に打ち上がった花火のうち1つが光を保ったまま収縮し、球体となって録画画面に浮遊しながら接近する。]

雅灯博士: え……?

光る球体: がんばって

光る球体: ちゃんと あなたの目で直接 時計の裏側に隠された涙を見て

光る球体: またお盆に 会えるといいな

雅灯博士: 球、体……丸……

[突如として画面が大きくぶれる。雅灯博士が球体と録画しているスマートフォンを持って走り出したものと推測される。]

若い男の声: 姉ちゃん!おい姉ちゃん!

[画面のぶれが止まる。]

若い男の声: どこ行くんだよ、姉ちゃん!

雅灯博士: ありがとう、理人。あんたが生まれていたらこうだったんだろうなって思うと、お姉ちゃんになれなかった人間としては楽しかった。

雅灯博士: でも、財団職員としては反吐が出る。本物にしろ幻影にしろ、私の家族を利用しやがって。

雅灯博士: じゃあ、そういうことで。

[再び画面が大きくぶれる。]

動画ファイル-10:

[画面は深夜の高速道路を走行する乗用車の後部座席から映されている。運転席と助手席には人影が見える。]

雅灯博士: 録画開始した。

運転席の人影: ほっほっほ。なら現状の把握から行くとするかの。財団に生還した時の記録として残しておくんじゃろう?

雅灯博士: ……雅灯しん。サイト-81YH勤務、クリアランスは3。福島の実家から親の車を奪って神奈川の自室に帰ろうとしたら、いつの間にか寝ていて知らない誰かが運転していた。

運転席の人影: 深夜に高速道路を爆走していたので、多少疲労を労おうとのう。ま、誰が運転してもスピードが同じなら変わらんじゃろ。

雅灯博士: あなたたちも異常でしょ。この世界にもまだいたんだ。

運転席の人影: 存在するのがやっとなくらい、相当に弱体化しておる。故に現状最も脱出に近づいておるあんたの手助けをしようとな。

雅灯博士: 私が脱出に近づいていると判断した根拠は?

運転席の人影: あんたがこれからどうすればいいか明確に理解している点と、あんたにしか見えていない幻覚のおかげじゃ。

雅灯博士: この幻覚が何なのか知っているって。なら教えて。

運転席の人影: それは、あんたが元の世界に帰った時にあんたの上司から説明があるじゃろう。ここから脱出してもこの世界を作った元凶を倒す必要がある。わしらも協力しよう。

雅灯博士: 財団の存在を知っているなら倒すじゃなくて「収容する」って言い換えて。

運転席の人影: ほほほ、失敬。

雅灯博士: 助手席にいるのは?

運転席の人影: 先ほども言ったようにわしら───運転しているわしと、助手席のこやつと、お前が持っている光る球体の3人を指す───こいつらはこの世界に来るにあたって大きく力を制限されている。本来なら隣には相棒のトナカイを連れてくるつもりが出来んかった。この世界に来れたのは、こやつの力によるものじゃ。

助手席の人影: お前の夢、なかなかに、美味かった。苦いのに、甘くて、少し塩辛い果実のなる夢だ。

助手席の人影: だが、ずっと生え続けている木は存在しない。ずっと実をつけることはできない。いつかは枯れ、腐り、また生える。それを僕らは収穫したい。

助手席の人影: 人間どもが夢を見るのは夜だ。この木を植えたやつは、夜を消そうとしている。それは困る。腹が減るから。

助手席の人影: ここにいるのは、夜の暗闇にしか生きられない奴らだ。お前も含めて。だから、協力してやる。夜を、取り戻すため。

助手席の人影: 元の世界の夜で、また会おう。

雅灯博士: ……もう少し分かりやすく喋って。

助手席の人影: 僕らの日本語、おかしいか?やっぱり、覚えたてだからか。

運転席の人影: だからといってお前さんの絵が上手いかと言われると、それも疑問じゃがのう……

ボイスメモ-11:

雅灯しんです。今こちらの世界の神奈川にある自室の前にいます。

ずっと不思議に思わなかったのは注意を向けてほしくないから。つまり脱出のカギとして大正解という訳でしょう。認識災害か反ミームかは知らないけど。神奈川にも福島にもあったのは、私を監視か観覧したいからでしょう。異常という大きな憂いから解放されて、幸せそうに暮らす財団職員を見て何が面白いのかは理解できませんが……

今、ドアを開けます。大きな音が出ると思うので、注意してください。

………

やっぱりだ。神奈川県藤沢市、マンション「チュチュ」。乱雑な床も、両親に買い揃えてもらった家具も当時のまま。でも1つだけ違う。

私は自堕落な大学生だったから、壁掛けの丸時計を買うほど丁寧な生活はしていなかったのよ。

あなた、なんで文字盤が全部「4」なの?

[ガラスもしくはプラスチックが割れるような音。]

時計の裏に、何か───

記録・情報保安管理局(RAISA)より通達

現在閲覧している報告書の改訂が受理されました。最新版を表示します。

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アイテム番号: 4997-JP
レベル5
収容クラス:
esoteric
副次クラス:
Tiamat
撹乱クラス:
amida
リスククラス:
critical

特殊オブジェクトクラス説明:Tiamat

オブジェクトは財団単独による通常の収容方法では一般社会への露見を回避できず、また人類文明に対し喫緊の脅威となりうる広範かつ強大なアノマリーです。ですがヴェールを破る、全リソースを該当オブジェクトに充てるというような理論上困難・不可能な方法によって名目上の「収容」をすることは可能です。

特別戦略対処手順

SCP-4997-JPの無力化作戦に日本支部理事会7名が関与しているため、当該報告書のクリアランスは5に固定されます。作戦現在も更新中であり、81管区内の職員はSCP-4997-JPによってもたらされる副次的被害を最大限緩和してください。状況は随時更新されます。

説明

SCP-4997-JPは夜間時刻にのみ出現するサイト-81管区上空全土を覆うようにして出現した超巨大類魂エグレゴアです。外見は黒色の全身に赤い涙を流しているような人型部分と、背景には全ての文字盤が4になっている時計部分が存在しており、時計部分は人型部分よりも巨大です。人型部分が時計部分を背負うようにして磔にされており、時計部分に設置された1本の針は非異常性の時計に相当する12が位置する部分で停止しています。

SCP-4997-JPの異常性のうち喫緊の課題は、サイト-81管区職員を対象とした現実改変です。日本標準時刻を参考にした日没から日の出までの夜間時刻に突入した場合、サイト-81管区職員はその間消失します。これは物理的な消失だけではなく存在していた戸籍情報や物理的な痕跡も含まれます。この現実改変を無効化可能な財団職員は、現状では日本支部理事会7名とSCP-4997-JPの異常性から生還した雅灯 しん博士(Dr.Sin Gato)のみです。

旧版報告書に記載されていた「財団職員を対象にした基底世界とは異なる平行世界へと転移する消失現象」もSCP-4997-JPの異常性によるものであり、その突発かつ超広範にわたる全長から財団はヴェールの部分的な放棄、それによってBKクラスシナリオを発令しました。

K-クラスシナリオ説明:BKクラスシナリオ

BK-クラス:ヴェール棄却シナリオは財団もしくはGOCが自主的にヴェールを放棄した際に行われるシナリオです。これは該当するオブジェクトが財団の全リソースを使用しても秘匿状態での確保収容保護が不可能であると判断され、オブジェクトの無力化の際に正常性ヴェールが戦力的な障害となる際に一般社会への混乱を防止する名目で発動されます。詳細はパンゲア協定とパンゲア議定書、それぞれの説明要綱を参照してください。

SCP-4997-JP作戦状況(Botによるリアルタイム更新)

4997-JP:001

雅灯博士: 失礼します、雅灯しん入室します。

"獅子": うむ、サイト-8100までご足労だった。簡潔かつ迅速に情報共有を行うため気にせず座ってほしい。

雅灯博士: はい……

"鳳林": 話に入る前に、あなたに限定的なクリアランス5を付与します。こうでもしないと対等にお話できませんものね。

雅灯博士: よ、よろしいのですか?

"升": ……僕は最後まで反対したのですよ?

"若山": 損な役回りね、ブレーキ役って。……大丈夫です雅灯博士。SCP-4997-JPが「収容」され次第剝奪と記憶処理が待っていますから。

雅灯博士: SCP-4997-JP……それが、職員消失現象のナンバリングなのですね。

"若山": あなたがSCP-4997-JPの転移から生還した直後に昏倒していた41時間の間にスマートフォンに記録されていた証拠は全て確認しました。同時に本体も出現したのですがね。

雅灯博士: 本体、ということは元凶がいると。

"若山": 夜間以外は肉眼で見ることは出来ませんが、朝と昼は休眠状態のようなものになっていることが私の眼では観測できます。

雅灯博士: ……?

"千鳥": 我々理事はそれぞれ固有の異常性を所持している。それらは理事の「名」によって縛られているため悪用は出来んがな。

雅灯博士: ……なるほど、上手く吞み込めていませんがひとまず了解しました。それで、なぜここに私は招集されたのでしょうか。

"稲妻": SCP-4997-JPに対応できるのが、我々とお前しかおらんからだ。

雅灯博士: なぜ、でしょうか。

"稲妻": かの者は、財団職員の夜を消し飛ばす。SCP-4997-JPが存在する限り日本支部職員は夜にその存在を抹消され、朝になれば再びこの世界に出現する。ゆえに「時を消し飛ばす」という表現を使った。

"千鳥": SCP-4997-JPの異常性によって日本中に存在していた何百万ものフロント企業職員、潜入エージェントが一般人の前で不自然に消失。これに関しては記憶操作でどうにかなったが、まあ上空のアレはどうにも誤魔化しが効かなかった。

"鳳林": これにより財団はSCP-4997-JPをTiamat指定。BK-クラスシナリオも同時に発令しました。ですが日本の財団職員は先ほども言ったように本体の現れる夜には消失してしまいます。他支部より大陸弾道兵器や本土上陸の作戦も検討されていますが……それはできる限り私が押しとどめています。現状としてSCP-4997-JPは我々の保護すべき一般人には何の害も及ぼしていない。

"升": そして、SCP-4997-JP影響下での夜間でも消失しない、SCP-4997-JPを止めることができるのが我々という訳です。

雅灯博士: それな───

"獅子": それならばSCP-4997-JPの異常性を無効化する法則性を解明し、戦力増強の方針の方が良いという意見か。

雅灯博士: はい……

"獅子": 「どのような職員が夜に耐えられるのか」という法則性は解明済みだ。「なぜその法則で夜を耐えることができるのか」といった理由に関しては不明だが。

"獅子": その結果、その法則に当てはまる財団職員は増やせないことが分かった。

雅灯博士: どうして!?……申し訳ありません。

"獅子": 構わない。……1つの映像がある。すぐ終わる短いものだが、見てくれないか。

雅灯博士: え……?


サイト-8100音声記録/必要クリアランス5


4997-JP:002

"獅子": ……ひどい。

"鳳林": 気に病む時間はありません。8100から福島まではどう頑張っても10分以内に到着するはずがない。

"稲妻": すまぬ……我が"稲妻"として未熟でなければ……

"升": 理事任命から数分も経っていないあなたが思い上がるな、しゃんとしなさい。

"千鳥": 先に到着していた最寄りサイトの機動部隊がいるはずだ!状況を更新せよ!い-0、"零号部隊"は適宜協力しろ!

機動部隊司令室: 現状オブジェクトの収容・無力化は達成出来ましたが、建物が物理的な損傷や火災等の影響で崩落しています。今は救助目的の瓦礫撤去作業に当たっていますが……肥留弥産婦人科病院の生存者はいるかどうか。

"獅子": ……そうか、引き続き作業に当たってくれ。警察消防に扮した潜入エージェントは周囲の封鎖に当たれ。周囲への影響は?

機動部隊司令室: 異常に曝露した存在はキャリア含めて確認されていません。あれで全部でした。あの……皆様はどうしてここに?

"獅子": ……

"若山": さて。なぜ予言は我々をここに招集したのか、ですわね。

"升": 「今のためではなく、未来に来る禍への布石である」らしいが……

???: ……れ、か。たす、け……

"稲妻": なんだと……!

"獅子": 生存者と思わしき発声を確認!手の空いている者はこの周辺を捜索!

"若山": あそこ!ちょうど暗がりになってる!

・・・

・・・

・・・

"千鳥": 大丈夫か……おい!しっかりしろ!

救護班: 危険な容態です。ここからさらに記憶処理剤を投与することを考えると、こんなに小さな体では……

???: ……たの。

"稲妻": 何と言っている。

"獅子": やめろ、喋らせるな。

???: 弟が……産まれるの。理人って……いうの……

"鳳林": ……

???: でも……ママのお腹から、出てきたのは……虫みたいに気持ち悪くて……他のみんなのお腹も……破っちゃって……

???: みんな、死んじゃったの……?私だけに、なって……

"千鳥": 大丈夫だ、全ては悪い夢なんだよ。全部忘れちゃうから、だから今は頑張れ。頑張って意識を持って。

???: ……

???: だれ……?そこに、いるの……?

"千鳥": え?

"鳳林": "若山"さん!

"若山": ……いる。確かにそこの虚空に。でも、でもこの気配は。

???: わたし……タバコ、吸えないよ……?

"稲妻": ……まさか。

???: 手を……握って……

"獅子": SCP-4999が、見えているんだ。

"千鳥": あり得ない!SCP-4999は周囲に人がいない孤立状態の時にのみ出現する!それに……もしそうならこの子は20分以内に……!

???: …..いや、だ。

???: 手を、どけて。まだ、死にたく、ないの。

???: あなたたちを、許さ、したく、ない、から。

4997-JP:003

雅灯博士: ───

"獅子": 今の映像は、我々6名が日本支部理事会に就任した初日に発生したインシデントの映像記録だ。就任して間もない我らは"稲妻" の能力である予言を受信した。「福島県にある肥留弥産婦人科病院にて、今から10分以内におそらくだが感染経由の増殖する異常が出現する」「理事6人で現場に迎え」「この予言は今のためではなく、未来に来るであろう禍に対抗するためのものだ」

"獅子": 現場は異常性や建物の崩落も相まって異常存在・一般人関係なく全ての命が絶えていた凄惨な状況だった、ただ1名を残して。彼女はその幼い体で家族の心配を優先し、SCP-4999と対面したにも関わらず彼を拒絶し、信じられない生命力で一命を取り留めた。

"獅子": その生命力の名は、憎悪。自身を顧みることなく、罪のない人々に降りかかる「異常」という理不尽な災いに向けて燃やす感情。

"獅子": 時が経ち、その子は財団に見出され職員となった。我々にそのような意図は全くなかった、ましてや記憶処理やカバーストーリーによってご存命である祖父母を除いた彼女の家族の死は偽装されていたはずなのに。家族を喪った暗い夜に何度押しつぶされそうになっても、闇の中で灯った憎悪は消えなかったのだ。

"獅子": そして今。その子は我々の前に、未曾有のTiamat案件を解決する鍵として座っている。全て予言通りだ。

雅灯博士: まさか。

雅灯博士: ───あなたたちも?

"獅子": そうだ。

"獅子": SCP-4997-JPの異常性を無効化するのは、SCP-4999に対面しながらも生存した人間だけだ。

"升": 補足しておくと、日本支部理事会に入る必須条件がそれというわけではありません。ただこの椅子に座るまでに、それなり以上の修羅場をくぐり抜けてきたというだけのことです。

"鳳林": それでもなお、SCP-4999が出現した状態で死を受け入れないケースは極々稀ですがね。SCP-4999の出現が死を招くわけではなく、死にかけている人間の前に出現するので可能性がないとは言い切れませんが。

"若山": 理解できましたか?しなくとも時間がないので作戦会議に移行しますが。

雅灯博士: 作戦って、え?

"若山": Tiamatというオブジェクトクラスはかみ砕いて言えば「財団がなりふり構わず捨て身でかかれば収容自体は可能である」オブジェクトクラスです。この「なりふり構わず」にはヴェールの棄却、各国政府の連携、Thaumielオブジェクトの段階的使用、他オブジェクトに充てられている収容リソースをTiamatオブジェクトに回すなどが想定されていますので。

雅灯博士: 説明に、なっていません。どういう───まさか、噓でしょう?

"升": あなたの想定している通りですよ、雅灯博士。ブレーキ役からしてみれば馬鹿馬鹿しいにもほどがありますが、なりふり構わずという言葉の必死さから考えれば納得は出来ます。

"鳳林": 要するに、Tiamatオブジェクトに関しては我々も消費されるリソースなのです。人的資源と言った方が正しいでしょうか。自らの羽を広げ、久方ぶりに強敵に立ち向かうチャンスなのですから。

"獅子": 我々の命で財団の理念が守れるのなら安いものだ。"稲妻"、改めて雅灯博士に予言を聞かせなさい。

"稲妻": ……まず、雅灯博士はどうなるか分からない。そのような予言はまだ落ちてきていない。だがSCP-4997-JPは無力化による収容が達成される。

"稲妻": 日本支部理事会も"獅子"、お前と"鵺"は生き残れる。いかようにも日本支部は立て直せる。ゆえにこの作戦は我々財団の勝利となるだろう。

4997-JP:004

"獅子": まず前提として、SCP-4997-JPの背部に存在している時計は雅灯博士が強制的に帰還する直前で見た壁掛けの丸時計と同一なのだな?

雅灯博士: はい、間違いありません。であるならば本体は人間部分ではなく時計部分である可能性があると考察します。

"獅子": それで、君のスマートフォンより回収した音声によれば裏側に何か書かれていたと。

雅灯博士: ですが、私が気絶している間に調査された結果ではSCP-4997-JPの背面部には何も書かれていなかった……

"獅子": 君が直接見れば変わるかもしれない、SCP-2953-JPが言ったように。

雅灯博士: そのような余裕があるのでしょうか。

"獅子": SCP-4997-JPが攻撃を仕掛けてくるという情報は入っていない。オブジェクトは日没と同時に日本の夜空を覆うようにして出現し、日本の財団職員を残らず消し飛ばし、日の出と同時に消失を繰り返す。人型部分は時計部分に縛られるようにして動かず、時計部分も起動の様子は見せない。

"獅子": 何より博士はSCP-4997-JPに1度完全な曝露をしている。……もちろん雅灯博士の接近により活性化してしまえば元も子もないのだが。

雅灯博士: 結局のところ計画と呼べるものは何も出来なさそうですね……

"獅子": 博士が遭遇した複数のオブジェクトは「また会おう」と言っており、SCP-4997-JPを敵視しているような発言も同時にしていたと。連絡は取れそうか?

雅灯博士: 無理です、SCP-2953-JPに相当する個体も基底世界に帰還する際に喪失していました。

"獅子": なるほどな……

雅灯博士: "獅子" はそこに突破口があると?

"獅子": ああ、君との共通点としてSCP-4997-JPの平行世界に侵入していた点と夜に関係している点がある。

雅灯博士: 幻覚と思っていたSCP-4999の話ですか。

"獅子": 言ってしまうなら、我々はSCP-4999と遭遇して生存した人間だ。博士のように毎夜、しかも死の淵にいないのにSCP-4999を視認した経験など……存在しない。

雅灯博士: ……その件に関しては、SCP-4999の話を聞いた時に直感的にひらめいたことがあります。多分私は、あの日初めてSCP-4999に会ったその瞬間からとっくに死んでいるんです。

"獅子": そういう詩的な暗喩によって異常性の法則は曲げられることは極稀だ。SCP-4999は未だ未解明な点が多く存在するオブジェクトであるからして、異常性の変化というものは他よりも大きいが。

雅灯博士: 「自身を顧みることなく、罪のない人々に降りかかる異常という理不尽な災いに向けて燃やす感情」。私の短気なところをそう評価してくださってありがとうございます。励みになりました。自身を顧みないなら、いつ死んでもおかしくないということなので。

"獅子": ……

"千鳥": 今戻った。欺瞞部門を中心とした隠蔽手順はどうにかなりそうだ。プロトコル・アンニュイもいつでも行ける。

"鳳林": 各国政府と他支部の連携も上々、我々が散ろうとも彼らによって収容されるでしょう。

"升": サイト-81管区内の収容室も出来る限りAIに運営させた。本当に定期的な管理が必要なオブジェクトだけで、本当に最低限だけどね。

"稲妻": 話し合いの結果はどうだ。何か有益な作戦は立てられたか。

"獅子": ああ、雅灯博士をSCP-4997-JPに接近させる。博士に接触したオブジェクトも集結する可能性が高い。

"若山": まあそうなりますか。期待もしていませんでしたが。……待って、みんな。

"獅子": 何か視えたか?

"若山": サイトの外、日没には少し早いけどどうやら来たみたいよ。

4997-JP:005

[記録場所は財団製の軍用ヘリコプター内部。日本支部理事会6名、雅灯博士、黒い毛皮に覆われた動的実体SCP-2953-JPSCP-3982-JP-1、-2が搭乗しており、SCP-3982-JP-2が操縦を担当している。]

"鳳林": まず、我々財団はあなたたちのことを信用していいのでしょうか。

SCP-3982-JP-2: ワシが操縦するヘリに乗り込んで言うことじゃないじゃろう。あ、ヘリの腕ならば心配せんでもええわい。道路を走る車よりも空を飛ぶ方がむしろ慣れとる。

"鳳林": 失礼しました。いずれも財団での確保ケースが皆無であるKeterオブジェクトですので。

SCP-3982-JP-2: ケテル、王冠とは仰々しいわい。サンタ帽子とかに出来んのか。

"升": なぜ僕たちに協力する?それぞれの利害が一致したか、それとも雅灯博士に関連しているとか?

黒い毛皮の実体: 確かに嬢ちゃんの夢は美味かったが、僕らはそうじゃない。俺たちは夜が無くなって欲しくないだけなのさ。あの、でっかい魂によってな。

"千鳥": SCP-4997-JPを指して魂と言及する根拠は?

SCP-3982-JP-2: ワシは明言せんがな、正体は「親としての役割の具現化」のようなモンじゃ。じゃからあれが悲しい子供たちの集合した魂の具現化だと直感的には理解できるし、あれが生まれたのはアンタらが原因だということも分かる。

"稲妻": 財団の職員を狙う時点で財団が発生源である可能性は考慮していた。同じ敵を打ち取る仲間ならば、詳しく教えてはくれんのかな。

SCP-3982-JP-2: それはできんわい。言ったじゃろう、直感的にしか分からんと。ただあの魂がいるならワシは満足に仕事もできん。夜を眠ってサンタクロースを待つのは構わんが、そのものを失くすのは道理が合わんわい。

黒い毛皮の実体 : 僕らもだ、人は夜に眠る。僕らの食事は夜に行われる。腹ペコになりたくないんだ。

SCP-2953-JP: ぼくら 「また夏にここで会おうね」って パパやママに約束したんだ

SCP-2953-JP: 気づいてもらうためには うんといっとう大きく光りたい だから夜が無くなるのは いやだなあ

SCP-3982-JP-1: [大きくいななく]

"若山": 賑やかですね。夜に生きる存在を自称しているとは思えないほどに。

"獅子": 全くだ。

"鳳林": 私めはこういうの、好きですよ。

SCP-3982-JP-2: さて……指定したポイントに到着したぞい。この高ささえあれば背後を取れる、でいいんじゃよな?

"獅子": ああ、準備は良いか雅灯博士。

雅灯博士: ……はい、いけます。

"升": 日本標準時間による日没想定時刻まで30……20……10……SCP-4997-JP、出現します!

[SCP-4997-JPが想定されていた向きを反転させて、地面に背を向けヘリを凝視するようにして出現する]

雅灯博士: え?

SCP-3982-JP-2: こりゃいかん!

"獅子": "若山""ま───"

[SCP-4997-JP背面部の時計部分にある針が3つ反時計回りに進み、順に4、4、4を指す。]

SCP-4997-JP: SCP-444は財団の手を離れ、財団職員に幸福と安寧を齎した。

[SCP-4997-JP全体から波形が確認され、ヘリコプター内部が微弱な衝撃に襲われる]

"若山": [SCP-444収容違反発生中。財団Botによる対抗ミーム検閲が発動します。]……?

"稲妻": [SCP-444収容違反発生中。財団Botによる対抗ミーム検閲が発動します。][SCP-444収容違反発生中。財団Botによる対抗ミーム検閲が発動します。]

黒い毛皮の実体 : [SCP-444収容違反発生中。財団Botによる対抗ミーム検閲が発動します。]───

"鳳林": 「"鳳林"の名において嘴より命じる。なれ等、統一された言の葉に縛られること勿れ。枝葉の別れし木々の中にこそ言霊は宿り、相対す言霊の中にこそ鳳凰は最も自由に飛ぶことができる。」

[SCP-444の再収容を確認。検閲を解除します。]

"鳳林": 話して、大っ、丈夫です!

"千鳥": 現状は!?計器確認の結果は出たか!?

雅灯博士: 時計が動くたびに超高濃度のEVEエネルギー観測!何らかの改変が発生しています!

"稲妻": 推察するに過去改変だ。先程の発話を真に受けるならば、SCP-4997-JPは過去まで遡り特定のオブジェクトをこのヘリコプター内部に限り収容していなかった状態に出来る!

"若山": 私が視なくても分かる。あの4しかない時計が3つ戻って4、4、4を指したなら最低でもあと……

"獅子": 3回来る!SCP-3982-JP-2、低空飛行でSCP-4997-JPの背後を取れるか!?

SCP-3982-JP-2: 戻らなくていいんじゃな!?続行するんじゃな!?

黒い毛皮の実体 : おい!無茶だ!一旦戻っ、て……

雅灯博士: ───"鳳林"

"升": 分かっていたはずなのに。

"升": ……こんなの、信じられないよ。

"鳳林": ダ、ダメですよ……これ逃したら、また、初めからっすか?今、決めた方が良い……

"獅子": "鳳林" ……済まない……分かった。

"鳳林": すんま、せん。"獅子"パイセン。444の収容自体は、できたけっ……ど。敬語使う、余裕、ねーや……バックラッシュ、モロに喰らっち、まった……

[SCP-4997-JP背面部の時計部分にある針が3つ反時計回りに進み、順に4、4、4を指す。]

"千鳥": 次が来る!

SCP-4997-JP: SCP-CN-444は財団の手を離れ、流麗な旋律を以て盤古を呼び出した。

[SCP-4997-JP全体から波形が確認され、ヘリコプター内部が微弱な衝撃に襲われる]

"稲妻": SCP-CN-444とは何だ!?何が来る!?

"若山": 私覚えてる。オブジェクト指定されているのは単なる演奏なんだけど、今SCP-4997-JPが言った内容って……

SCP-3982-JP-2: なんじゃあ!?地面が盛り上がって、こっちにせりあがって来とる!

"若山": どいて!私によく視せなさい!……やっぱり!

"若山": 「"若山"の名が命ずる、"若山"が視る。我が双眸届きしは日本全て。我が視線突き刺すは不可視の檻。ゆえに我が目は異邦の偽神たる貴様の降臨を禁ず!」

雅灯博士: 地面が、人の形みたいに……でも中にあるのって、空……?

"獅子": 盤古とは、中国の開国神話に登場する開闢の神だ。その巨体は空と地に分けられるほど大きいらしく、それが今、この日本で生まれようとしている……!

"若山": 来るな、来るな来るな目の届く範囲に収まれ……!クソっ、マジで大きすぎる……!

"千鳥": やめろ"若山"!眼球から出血している!

"若山": 上等よ、先に熱で眼球が膨張して破裂するか、それとも脳味噌茹るかの───

"稲妻": 「"稲妻"の名が命ずる、そなたらの唄う神降ろし、そなたらの奏でる神降ろし、尽くが逆鱗に触れる悪である。日本を張り巡らす神たる雷に、かような降臨の予言は不要とす。」

"若山": スケールが縮小した!「"若山"の名が命ずる、"若山"が視る。我が双眸に閉じ込められよ!」

黒い毛皮の実体 : お、収まっ、た……

"稲妻": "若山"。……見事であった。

"若山": 別に……?でも、これで分かったでしょ……

"獅子": ああ。SCP-4997-JPは「444」のナンバーを持つオブジェクトを収容されていない過去に改変できるが、あくまでもそれは報告書のみから得られる範疇の想像だ。

"若山": そう……SCP-CN-444だって、SCP-CN-444を演奏すれば盤古が降臨するわけじゃない……けどSCP-4997-JPはそう、読み取ったってことだよね……

"獅子": 財団のナンバリングにかこつけて報告書を読み取り想像する、いよいよもって「財団の生み出した魂」が信憑性を帯びてきたな。

"若山": ねー……あとさ、"獅子"……

"獅子": 何だ。

"若山": 予言さあ、これはそういうこと、だよね……?

"獅子": ……ああ、順調だ。

"若山": ……へへ。あーあ……私が2番目に脱落かあ……頼んだわよ、マジで……

"獅子": ……ああ。

雅灯博士: ………

"稲妻": 気を強く持て"升"よ!敵が未収容改変という攻撃手段を取るならば、お前は最後の切り札になりえる!

"升": ……そうだよ、ね。分かった。僕が最後に死んで終わらせる。覚悟なら決まっている!

"千鳥": 同感だ、"獅子"

"獅子": 現在降下中だ!次に備えろ!

[SCP-4997-JP背面部の時計部分にある針が3つ反時計回りに進み、順に4、4、4を指す。]

"稲妻": 次は一体何───ぐっ!?

黒い毛皮の実体 : は……?

雅灯博士: 噓。一体どこから。

"稲妻": 不可視の刃、いや違う……!撲殺、絞殺、圧殺……あらゆる殺し方で……!

SCP-4997-JP: SCP-444-KOは財団の手を離れ、終わりの無い殺人事件を繰り返す。

[SCP-4997-JP全体から波形が確認され、ヘリコプター内部が微弱な衝撃に襲われる]

"獅子": 頭を守れ!見えない凶器が殺しに来る!

"稲妻": "千鳥"

"千鳥": ああ、「事件」と名がつくなら私が

[SCP-4997-JP背面部の時計部分にある針が3つ反時計回りに進み、順に4、4、4を指す。SCP-4997-JPの時計部分が1周を完了する。]

"千鳥": ───は?

SCP-4997-JP: 緋色の鳥よ。宙を舞え。全てを喰らい、命を啄め。

"升": バカな、あり得ない。だって日本支部のそのスロットは長年空白だった……

[SCP-4997-JP全体から波形が確認され、ヘリコプター内部が微弱な衝撃に襲われる]

"千鳥": 「"千鳥"の名が命ずる!我が軌跡は真を隠す、故に我が偽は真と同義!いかなる伝達も真偽の意味を持たず!」

"千鳥": "千鳥""升""稲妻"以外は出来るだけヘリコプター前に詰めるな!絶対に後ろを向け

"獅子": "千鳥"……

"千鳥": こいつら「書き人知らず」だ。絶対にお前らは知っていい。俺ら3人で「虚空棄」する。

雅灯博士: えっ、えっ……?

"獅子": 了解した、ありがとう。

"升": "千鳥""稲妻"、僕の順で行く。じゃあね、財団の理念の名のもとに。

"稲妻": 必ず勝て、財団の理念の名のもとに。

[ヘリコプターの搭乗口が開き、"千鳥""升""稲妻"が飛び降りる。]

"千鳥": 「"千鳥"の名が命ずる。湖のほとりより千鳥飛び立ち、千々に別たれる。そこに委細の証拠なく、後を濁さぬ証拠によって。終わる物語は堂々巡りを始め行く。」

"稲妻": 「"稲妻"の名が命ずる。この雷、空へと返したもう。この予言、地に落ちることは2つとして無くなりし。故に人の子が、その足で未来を作る。足泣き禽は野に還るのみ。」

"升": 「"升"の名が命ずる。我は升なり、我は箱なり。日本に伝う極小の単位、その箱に押し込まれし物の怪も爪先の垢よりさらに小さき。」

["千鳥""升""稲妻"の3人が空中落下と同時に肉眼で完全に観測できない程の小ささになる。]

"升": 「───だが、もしそれでもなお。この日本の地に悲劇が血と共に流るなら。」

"升": 信濃の大うつろよ。我ごと虚空に散りさせたまえ。」

[3人の肉体が"升"の管理下にあり紐づけられていたSCP-280-JPの真上に転移し、極小サイズの状態を維持しながらSCP-280-JP内部に飲み込まれる。]

雅灯博士: 何、が

"獅子": 「書き人知らず」はそのオブジェクト本体にとどまらず、情報を知るだけで曝露するオブジェクトの隠語だ。"升" は「書き人知らず」に対する特攻手段を所持しており、それが「虚空棄」だった。詳細は歴代の"升"以外に知る者はいない。"升"とその自爆に巻き込まれた全ては、血痕1滴皮膚の1片までもうこの世に残っていない。

SCP-3982-JP-2: 奴の裏に付けるぞ!お嬢さん、しっかり見るんじゃ。何が書いてあったのかを!

[SCP-3982-JP-2の操縦するヘリコプターが、低空飛行を維持したままSCP-4997-JP時計部分の背後に到着する。]

黒い毛皮の実体 : 急げ!犠牲を無駄にすんな!

"獅子": どうだ、何と書いてある?それとも、何も……

雅灯博士: ───ヴェル、ダンディ。

雅灯博士: 「ヴェルダンディ・エグレゴア」!"獅子"!この名前に心当たりありますか!?

"獅子": ……ああ、ある。

"獅子": なるほどな、それは確かに言う通り……「財団職員の悲しい魂の集合体」だ。

4997-JP:006

"鵺": おや、お疲れ様です"獅子"。夜も明けぬうちからこんなところに来て、一体どうしたのです。

"獅子": 歩きながら話す。まずここは私の管轄下にある秘匿サイトであり、よってお前の方が異物だ。

"鵺": ははは、手厳しい……そちらの方は?

雅灯博士: 雅灯しんと申します。サイト-81YH勤務、クリアランスは3……いえ、この瞬間だけ5です。

"鵺": ああ!存じていますよ。SCP-4997-JPから唯一生還した有名人ではないですか。この事件の犯人に会いに来たので?

雅灯博士: 犯人……

"獅子": そうだ、SCP-4997-JPの収容に関係する事柄だ。

"鵺": 申し訳ありません。では、詳しく説明しましょうか。早歩きでね。

雅灯博士: ……お願いします。

"鵺": ……ふふ。

"鵺": 遠い遠い昔、明確な文献や証拠が現存していない時代の財団は、"管理者"という1人の存在が中心になっていた組織でした。いや、頂点に君臨して運営していたの方が正しいのかな。分からないや。

雅灯博士: ……?えっと、何の話を

"鵺": "管理者"の力はそれはもう絶大だったそうです。当時はまだ異常の認知も圧倒的に少なかった時代というのもありましょうが……少なくとも基底世界の全ての異常は"管理者"によって財団に収容されたと本気で信じられています。

"鵺": それだけの強い力を持っていたがために、彼は覗いてしまったのです。別の並行世界の"管理者"が、あまりにも望まぬ形で世界を支配している姿を。

"鵺": この世界の"管理者"は苦悩しました、悩みました。自分がこれ以上表舞台に立って力を振るえば、守るべきだった光の当たる世界も闇の世界も全て飲み込んだ独裁者になってしまう。だが自分は裏方ですら影響力を持ってしまう。ゆえに"管理者"は全てを捨てたのです。痕跡も、生きた証も、"管理者"としての功績も、名前そのものも。

"鵺": さて、"管理者"が消えてしまったと推測される時期とほぼ重なって、ヴェールの内側に1つの噂が流れ始めました。「それ」は男の形をしている。「それ」はタバコを吸っている。「それ」は孤独な者の今わの際にただ寄り添い、ただ見守るだけである。「それ」はその性質上、数多くの財団職員を看取ってきたし、これからもそうなるだろう。

雅灯博士: まさか、まさかそれは。

"鵺": お察しの通りです。"管理者"が自身の独裁による暗黒の未来を恐れて、財団に一切の干渉をすることなく、幾たびの夜を超えてそれでも闇の中で死んでいく職員に唯一姿を現す、ただ「私たちを見守るもの」になった空の器。

"鵺": 紫色の煙を吐き出す"管理者"のなれの果て。それこそがSCP-4999である。

"鵺": ……と!言われているんですねえ。

雅灯博士: は……?

"鵺": いやだって、"管理者"が死んでいればO5や我々日本支部理事は存在していません!「名を受け継ぎ、その力をもってして研鑽し、その研鑽を名と共に次代に受け継ぐ」のは"管理者"の能力です。なぜ死んでいるのにこのシステムが稼働し続けているのか分からない。我々のクリアランスだって5止まりですし。

"鵺":"管理者"は数百年単位の時代、公に姿を現していない」。これが唯一分かっている事実です。それ以外は全て真偽のほどがありません。

雅灯博士: なら、あなたはなぜそのような噂を信じているのですか?

"鵺": それが仕事だから。

雅灯博士: え?

"鵺": そのような性質を持つオブジェクトの管理が、私の仕事です。全ての情報を重ね合わせることは不可能で、それ故に財団に無尽蔵の力を与えてくれる救世主。管理下に置いている私ですら報告書の全容を知り得ない。どれが本当かどれが嘘か、全て本当で全て噓かもしれない。

"鵺": 様々な獣の容姿、声、性格を全て混ぜ合わせた物の怪の類。故に明確な実体を持たず、全ては紫色の夜空に煙のごとく消えゆく化生。それこそが"鵺"であるがゆえに。

雅灯博士: それが、"鵺"……

"鵺": そう、そして!我が隣を行く"獅子"の管理下オブジェクト、この秘匿サイトの最深部に収容されているオブジェクトこそが!

"獅子": ……ここだ、開けるぞ。

"鵺": SCP-001-JP - CODE:meshiochi

雅灯博士: プロトコル・ヴェルダンディの、中核……

4997-JP:007

"獅子": SCP-4997-JPは、ヴェルダンディの犠牲になった「自分以外が無事に暮らしてほしい」「自分は暗い夜の中で死に絶えたくない」という相反する感情の類魂エグレゴアだ。

雅灯博士: 類魂エグレゴア、とは……?

"鵺": このような無意識物質は単一体です。我々はそれを類魂エグレゴアと呼びます。そしてこれは、それを形成したもの同士を区別しません。端末の前で過ごした苦悩の夜、怒りや不満の鬱積した瞬間、施設中で起きる不可解なインシデント、その全てが意図せずしてそのようなものをこの世界にもたらしたのです。感情が多量に集中する場所、特に異常存在と重なる場所で起きることが知られています。

"鵺": ……SCP-9000現行報告書より引用。

雅灯博士: 異常存在がある場所で一定量以上の負の情動が蓄積されると産まれる敵対的な異常ということですよね?

"鵺": 聡明でいらっしゃる。

"獅子": 私は当事者ではない。それ故に今から話す全ては記録上の知識と推測でしかないが、この部屋で、多くの職員が死んでいった。世界を救うために。2度と明けぬ夜の中で、孤独と暗闇に耐えながら。

"獅子": 名誉を胸に抱いて死んだ者もいただろう、やっと解放されると半狂乱になって死んだ者もいただろう。だがプロトコル・ヴェルダンディに抜粋された全員が、生きているうちに孤独な夜を体験したはずだ。目の前の大きな災いを解決するために、辛く寂しい闇の中という小さい災いを耐えてきた。

"獅子": 類魂が生まれるのは必然だった。あれほど大きく、あれほど強大に育ち死の時計を背負って磔にされた礎たちのしたことは「財団職員の夜を消し飛ばすこと」だった。

"獅子": 重ねて勝手な推察になるが、SCP-4997-JPもといヴェルダンディ・エグレゴアは同士に味わせたくなかったのではないだろうか。いつ明けるか分からない、長く辛い孤独な夜という災いを。

雅灯博士: 私にも理解できます。ですが、実際にそのSCP-4997-JPの被害に会った私が、SCP-4997-JPを無力化させてよろしいでしょうか。

"獅子": ───

雅灯博士: 先駆けて財団の理念に殉じたお節介な先輩方に対して、これから礎になる後輩が言いたいことがあります。

"獅子": ───勝算は、あるのか?

雅灯博士: 未だに優しい夜に閉じ込められている同胞と、笑顔で散っていった先達に誓って。

"獅子": 分かった、部屋に入りたまえ。

[雅灯博士がSCP-001-JP - CODE:meshiochiの眼前に立つ。]

雅灯博士: 私は、8歳になる頃家族を亡くしました。異常が原因でした。

雅灯博士: 産婦人科で産まれるはずだった弟は、虫の化け物になって母の腹を食い破って出てきました。父も、他の妊婦さんや赤ちゃんも病院の人も、みんな犠牲になりました。パニックになった病院は崩壊して、遺体は瓦礫の下敷きで原型を留めていませんでした。

雅灯博士: そこから私の、長い長い夜が始まりました。祖父母はどちらも健在でも、寒くて暗かった。時間帯なんて関係ない。孤独という環境は温めあう方法を弾いてしまうし、進む道を見えなくしてしまう。だから私は炎を点けました。憎悪の炎でした。

雅灯博士: カバーストーリーでは火災発生と建物老朽による崩落と伝えられました。当時幼かった私は経営陣といった大人が悪いと思い彼らを憎みましたが、それ以上に自分自身を憎みました。「私が犠牲になればよかった」と、寒くて暗い夜に憎悪の炎で自分自身を燃やしました。

雅灯博士: 財団が犠牲の上に成り立っている組織であることは否定しません、犠牲に功罪両方があることも認識しています。私が言いたいのは、それらをなかったことにして幸せな世界は築けないってことです。

雅灯博士: あなたの創造した世界に行きました。顔馴染みの財団職員がみんな楽しそうな顔をしていました。私はこの世界が異常によるものなら、楽しそうな顔をする財団職員は存在を許さないと最初は憤っていました。自分を燃やしているはずだった憎悪の炎は、無意識なうちに大事な仲間に向けられていました。恥ずべき考えだと思います。

雅灯博士: でも。その世界にいるうちに、闇の中にいるべき財団の人間だとしても、僅かな陽の光当たることは否定できないと思い始めました。私はその感情をなかったことにしません。自分の憎悪も、夜の冷たい孤独も忘れません。みんな背負って進みます。

雅灯博士: だからあなたも、私たちから夜を取らないで。災いは壊すものでもなかったことにするものでもなく、超えるものだから。どれだけ寒くて暗くて、明けるかすら分からない孤独な夜だったとしても、私たちは超えていくから。

雅灯博士: だから私たちはあなたの、SCP-4997-JPの行いを否定します。SCP-4997-JPの世界を否定します。あなたから夜を取り戻したいから。どうかそっと、ただ見守っていて欲しいから。

雅灯博士: でもね、いや、だからこそね。

[雅灯博士がSCP-2953-JPを取り出す。SCP-2953-JPの光量は観測したことのないほど輝いている。]

雅灯博士: そんな長い長い夜をほんの数秒でも忘れられる、すこしふしぎな救いがあなたたちにもありますように。

[突如として黒い毛皮の実体とSCP-3982-JP-1、-2がSCP-2953-JP内部より出現し、原寸大の大きさに戻って雅灯博士に並び立つ。]

"鵺": このオブジェクトたち、いったいどこから……

黒い毛皮の実体: 僕らは夜に生きる存在だ。同じ夜に生きる存在がいるなら助けてみたいさ。

SCP-3982-JP-2: まるで子供のように怯えている眠れない夜があれば、そっと毛布を掛けてやる。それが大人というものじゃな。最初から最後まで利害の一致とは。

SCP-3982-JP-1: [大きくいななく]

[SCP-2953-JPが雅灯博士の手を離れ浮き上がり、直視できないほどの輝きを放つ。周囲に過去改変の兆候を示すEVEエネルギーが観測される。]

SCP-2953-JP: ありがとう ぼくたち いってくる

"鵺": 過去改変の兆候?SCP-4997-JPか、それともSCP-2953-JPが?

"獅子": いや……どうやら違うようだ。

[SCP-4999が突如として出現し、集結しているオブジェクトの中心に立つ。]

"獅子": 今度は我々にも見える。なるほど。自己を犠牲にしてまで誰かを救いたいと思う夜に苦悩していたのは、彼も同義だったようだ。

"鵺": "管理者"の力は絶大、力を捨ててなおもこの規模の過去改変も行える……というわけですか。

雅灯博士: ありがとうございます、"管理者"。あなたが死の間際に現れるのは、きっと死という暗闇に向かう人たちを元気づけてあげたかったのでしょうか。死という夜が怖いものにならないように寄り添っていたのでしょうか。

雅灯博士: だからずっと見守っていてくれたんですね。私が長い夜をいつか超えることを信じて。

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プロトコル・ヴェルダンディ志願者: ……寂しい、な。だがやらなくてはいけない。世界を救うために、たとえ自分が死のうとも。

黒い毛皮の実体: よう、あんまり根詰めるなよ。

プロトコル・ヴェルダンディ志願者: な、何だ!?該当オブジェクトが存在しないか検索!

機械音: 該当候補 1 件 あります。候補:SCP-2975-JP

プロトコル・ヴェルダンディ志願者: ……害は、なさそうだ。長期間起きていると発生するオブジェクト、なぜ時間の止まったこの世界に来れた?

黒い毛皮の実体: 食料ある?これでも食わないか?

プロトコル・ヴェルダンディ志願者: いや、俺はもう……ごめん、ありがとう。気持ちだけもらっておくよ。

黒い毛皮の実体: ああ、そう?じゃあね。

プロトコル・ヴェルダンディ志願者: 何だったんだ……でも、まあ……

プロトコル・ヴェルダンディ志願者: 少し休んでから、また頑張るか……

プロトコル・ヴェルダンディ志願者: あなたたち、SCP-3982-JP!?どうしてここに……!?

SCP-3982-JP-2: ここに長居するとあんたの立場が悪くなるのは分かっておる、簡潔に要件を済ますならプレゼントの贈り物じゃ。

プロトコル・ヴェルダンディ志願者: これって、私が小さいころ連れてってもらった遊園地の……

SCP-3982-JP-2: たとえ今日が聖なる夜じゃなくとも、子供たちに祝福がありますように。

SCP-3982-JP-1: [小さくいななく]

プロトコル・ヴェルダンディ志願者: ……幻覚だったのかな。

プロトコル・ヴェルダンディ志願者: ええと、たった今部屋の中にSCP-2953-JPと思われる光源が出現して、そのまま消失しました。SCP-2953-JPと思う根拠は異常性の一致です。見た目や、光り方、それに……

プロトコル・ヴェルダンディ志願者: もう会えない子供の声で、ありがとうと聞こえた気がしたから……

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4997-JP:008

えっと……聞こえていますかね。雅灯です、雅灯しん。サイト-81YH勤務、クリアランスは3。今は夜になった自分のデスクで、このボイスメモを撮っています。

結論としてSCP-4999が行った過去改変はその範囲と比べればささやかなものでした。「プロトコル・ヴェルダンディを遂行中の財団職員の前に、特定のオブジェクトが数秒間だけ出現する」というもの。結果としてその過去改変が成功した直後にSCP-4997-JPは消失した訳ですが。プロトコル・ヴェルダンディの財団職員による類魂がSCP-4997-JPであったなら、その根幹である負の感情が過去改変によってある程度は払われたんだと、信じたいです。

どれだけ過去を変えようと、プロトコル・ヴェルダンディの遂行者は世界を救って死亡します。それは変えられない事実だったとしても、ほんの少しだけでも孤独じゃない夜が合ったのなら災いを超えられるかもしれないって、私とSCP-4999は思ったからこういう結果になったんだと思います。

これからも、財団は犠牲の上に成り立ちます。欠員が出た理事会のメンバーはまた新たに補充されて、名前を受け継ぐでしょう。私も財団の一員である以上、その本質自体を否定しません。

でも、それでも私は、そんな乗り越えるべき夜という災いに、穏やかな炎や光があってもいいのかなと今回のインシデントを通して思うようになりました。

その温かさに依存して自身を燃やし尽くすのではなく、その温かさを道標にして夜を超えるために。

……こんなところかな。後は私は記憶処理されて今回のことは忘れてしまう、クリアランスだって元の3に戻ったからSCP-4997-JPの報告書も読めない。でも、保持して良い記憶の中で楽しみにしていることだってちゃんとあるんですよ。

……あっ、言ってるそばから。ねえねえ羽月ちゃん!今度のおやつ会議さ、クリスマスも近いしそれにちなんだものにしたいんだよね。もう、いつものことだけどそんなに怯えないでよ!……

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