クレジット
タイトル: SCP-502-JP
著者: ©︎ukit
作成年: 2014
██████市役所に擬態しているSCP-502-JP
アイテム番号: SCP-502-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル:SCP-502-JPが現在収容されているサイト-81██から移動した場合、近隣のエージェントは直ちに移動先を封鎖し、SCP-502-JPへの民間人及び当局の干渉を防止してください。SCP-502-JP建物内へ侵入を試みる対象がいた場合、非致死的な手段で無力化し、記憶処理を行います。ただし、対象が建物内に侵入してしまった場合はSCP-502-JP-1との接触の妨害のために致死的手段を用いることが許可されます。しかしその際にはSCP-502-JPおよびSCP-502-JP-1実体にいかなる形の損傷・危害をも加えないようにしてください。SCP-502-JP-1実体への接触は実験目的にのみ限定され、セキュリティクリアランスレベル3以上の職員三名以上の許可とサイト管理者による実験内容の承認が必要です。
説明:SCP-502-JPは日本の市役所ないし役場に擬態する異常な建物と、そこに配置される人型実体で構成されます。建物部分はSCP-502-JPとして、人型実体はSCP-502-JP-1、SCP-502-JP-2にそれぞれ分類されています。SCP-502-JPは下記条件を満たすと日本国内の空き地へランダムに移動します。
- SCP-502-JP、SCP-502-JP-1に対して故意に損傷・危害を加えること。
- 一地域内で40 人のSCP-502-JP-2を発生させること。
上記の条件を片方でも満たせばSCP-502-JPは即時に移動します。SCP-502-JPの門扉を小突く、SCP-502-JP-1の胸ぐらをつかむという極めて軽微な内容も「損傷・危害」に含まれることには注意しなければなりません。また、いままでに移動時に内部にいたSCP-502-JP-1、SCP-502-JP-2以外の対象は例外なく消滅し、回収された事はありません。
SCP-502-JPは移動直後から、自身をその地域の役所であると誤信させるために外見・内装を日本の一般的な役場へ偽装し、自治体職員に扮したSCP-502-JP-1を建物内へ配置する他に、様々な工作を行います。「新庁舎が完成し、住所が移転した」などという内容の含まれた「███だより」のような広報誌を郵便物に紛れ込ませるのが最も一般的な手段です。場合によっては自治体のホームページを改竄したり、過疎の進行した村落に対しては、自治体職員を名乗るSCP-502-JP-1実体が直接に案内を行なったケースも存在します。
SCP-502-JP-1はばらつきはありますが、日本人の民族的特徴と一致する外見をしており、着衣もその地域の役所の服装規定に従ったものを身につけています。しかし、SCP-502-JP-1は食事や排泄を必要としないばかりか、あるべき生理現象が一切確認できません。加えてSCP-502-JP-1に身体的損傷を負わせたり、情報災害効果によって行動をコントロールする試みは全て失敗しています。SCP-502-JP-1実体は人間の接触時に概して「気だるげ」もしくは「機械的」とみなされる態度をとり続け、これを崩すことはありません。SCP-502-JP-1同士が談笑している事がありますが、人間が注意を向けるとこれを中断します。SCP-502-JP-1実体に危害を加えることはSCP-502-JPの即時移動を引き起こすため、固く禁止されています。
SCP-502-JPは内部にその地域に住所を持つ、あるいは持っていた人間が進入し、SCP-502-JP-1に何らかの要求を行った場合に、その人間に対して特徴的な異常性を示します。どのような形式であれSCP-502-JP-1に役場としての対応を求めると、「自分にはその権限がない」「ここは担当部署ではない」などの理由で他の受付へ行くように指示し、その場所を指定します。この時点で対象はSCP-502-JP-1同様の特性を獲得し、加えて老化もしなくなる事から事実上不死となります。この状態に至った対象はSCP-502-JP-2に指定されています。SCP-502-JP-2はSCP-502-JP-1の指示に盲目的に従う存在であり、外部からの説得に応じることはありません。ただ指示に関わりの無い通常の会話は可能で、以前の記憶及びアイデンティを完全に保持しています。
その後は、SCP-502-JP-2が指定された場所にたどり着くと次の受付の場所が指定されるという一連の動作が、永久に繰り返されるものと推測されています。これに対応して、SCP-502-JPは際限なく内部を拡大させ、出来たスペースに受付役のSCP-502-JP-1を配置し続けます。SCP-502-JPが擬態している建物の外見が、この内部の拡大に影響されることはありません。SCP-502-JPの所在地に住所を持った事の無い人物に対してこの異常性が現れることは無く、単純にSCP-502-JP-1は対応を拒否します。
また、SCP-502-JPでは電力や水道が電線や水道管からの供給無しに、不明な経路から確保されています。SCP-502-JP内に存在するコンセントや冷水機は問題なく使用することができ、室内の備品に工作を加えてもSCP-502-JPの移動を招くことはありません。この性質を利用して、コンセントから自動で充電ができるように設計された複数の探査用ドローンが長期探査任務に割り当てられています。このドローンからの各種の情報送信を受け取るためにSCP-502-JPの内部には複数の観測拠点が設置されました。
SCP-502-JPは行方不明者が急増した██████市での、「家族が市役所に行ったまま戻らない」という複数の通報を財団が傍受し、発見に至りました。財団の収容下では五度の偶発的移動が発生し、██人の人的損失を被った後に現在の収容プロトコルが確立され、以降██年間SCP-502-JPは移動していません。現在、SCP-502-JP-2は確認されただけでも█████個体がおり、そのうち██個体がDクラス職員や██████博士を含む元財団職員です。幼少期にごく短期間しか住んでいなかったこともあってか、██████博士はかつて██████市に住所があったことを失念しており、SCP-502-JP-1に「君たちの目的は何なのか、ここに来た住人に何を求めているのか」という質問をした結果、SCP-502-JP-2に指定されました。█████博士だったSCP-502-JP-2(以下、SCP-502-JP-2-d)に対してはドローンによる監視が行われており、このSCP-502-JP-2-dの総移動距離は現在██████ kmです。この距離はドローンから走行距離情報が送信されてくる度に更新されます。
補遺:SCP-502-JP-2-dは、かつて財団内でクリアランスレベル3を保有していた██████博士の記憶とアイデンティティを完全に保っており、一部職員は機密情報の漏洩を懸念しています。██████博士の財団への忠誠心は強く、漏洩の危険性はあまり大きくはありませんが、念の為にSCP-502-JP-2-dの発言をかき消すための音響装置を備えたドローンにより監視が続けられます。
以下はドローンから送信されてきた、SCP-502-JP-2-dの[20██/██/15]の監視映像記録です。
SCP-502-JP-2-d:……うーん、まったく。いつになったら[不明瞭なつぶやき]
SCP-502-JP-2-dが後頭部を掻きながら、ドローンのカメラをちらりと見る。
SCP-502-JP-2-d:さて、次の受付は……1033階の2198号カウンターだったか?ずいぶん遠くまで来てしまったな。
SCP-502-JP-2-dはエレベータに乗り、ドローンはそれを追跡。SCP-502-JP-2-dが1033階のボタンを押してから5分ほどでエレベータが停止する。
SCP-502-JP-2-d:いちいち長いな……(カメラに向かって)そう思わないか?まあ、なんというかいつも退屈な記録映像で悪いね。
受付へ到着するまでの5分ほどの間、SCP-502-JP-2-dは時折カメラに話しかけつつ歩いて行く。その際に別のSCP-502-JP-2とすれ違う。SCP-502-JP-2-dはそれに対して軽く会釈する様子を見せた。その後すぐに受付に辿り着き、SCP-502-JP-2-dは受付の中年男性の外見をしたSCP-502-JP-1に話しかける。
SCP-502-JP-2-d:どうも、ちょっと「君たちの目的は何なのか、ここに来た住人に何を求めているのか」を聞きたいんだけど。
SCP-502-JP-1: ええ、ちょっとお待ちを。(手元の書類を捲って)ううん、私は担当じゃないんでお答えしかねますねぇ。
SCP-502-JP-2-d:まあ、そうでしょうね。次はどこへいけばいいの?
SCP-502-JP-1:そうですね、確かそのご質問だと3階の窓口の何処かで……確か24号カウンターが担当だったと思いますよ。
SCP-502-JP-2-d:そう……。また遥か彼方だなあ。
SCP-502-JP-1:はあ、そう言われましても、庁舎自体がこうだから私にもどうしようもないんでねぇ。
SCP-502-JP-2-d:それはよく承知してますとも。それじゃあどうも。
再度、エレベータにSCP-502-JP-2-dが乗り込む。今度は1時間程の時間をかけて3階へエレベータが到着する。
そしてしばらくの移動の後、カメラに三階の観測基地が映しだされ、エージェント三枝が動揺した様子でテントから出てくる。その間もSCP-502-JP-2-dは歩みを止めない。
エージェント三枝:あ!██████さん。
SCP-502-JP-2-d:おや、どうも。でも、私の事はちゃんとオブジェクト番号で呼んだほうがいい。こうして映像記録も取ってるんだしね。
エージェント三枝:え、いや、すみません。不注意でした。
SCP-502-JP-2-d:オブジェクトへの感情的な反応は君のキャリアに不利になる。特に、私のようなケースではな。
エージェント三枝:い……あ、ち、ちょっと今いいですか?出来ればあなたに今からインタビューを。
SCP-502-JP-2-d:いや、もう失礼するよ。次の受付に急いでるんでね。それに、無許可のインタビューなんかしたら懲戒もんじゃないのかね?
エージェント三枝:うっ、いや、それは……。
SCP-502-JP-2-d:……こんなところで出世を急いでもしょうがないだろう。功を焦って何にでも手を出そうとすると、俺みたいになっちまうかもよ?
エージェント三枝:……分かりました。すみません、お疲れ様です。
SCP-502-JP-2-d:……ふん、疲れなんてここ██年間感じたこともないよ。
そのまま、エージェント三枝を置いてSCP-502-JP-2-dは受付カウンターへ向かう。カウンターには若い男性の容姿のSCP-502-JP-1が待機している。
SCP-502-JP-2-d:すみません、ちょっと「君たちの目的は何なのか、ここに来た住人に何を求めているのか」って所をお聞きしたいんですが。
SCP-502-JP-1:すみませんが、ここにはそれにお答えできる職員がおりません。
SCP-502-JP-2-d:そうでしょうね。では、どこの職員さんなら教えてくれるんですか?
SCP-502-JP-1:確約できかねますが、3048階の受付ですとお答えできるかもしれません。あちらは何でも相談課ですので。
SCP-502-JP-2-d:そうですか。これはまた、月にまで届きそうな彼方ですなあ。まあ期待せずに行ってみますよ。
SCP-502-JP-1:ええ、すみませんがよろしくお願いします。
SCP-502-JP-2-d:どうも。
エレベーターへ向かう間、SCP-502-JP-2-dはうつむき加減で腰のあたりを揉んでいる。これはSCP-502-JP-2-dの身体状況とは関連が無く、後頭部を掻くのと同様に単なる癖であることが、元同僚の日本支部理事の証言から分かっている。ややあって、SCP-502-JP-2-dはエレベータへ乗り込み、映像の最初と同様にボタンを押す。
SCP-502-JP-2-d:はあ、参っちゃったよなあ。(カメラに向かって)ほらこれ、シャツの袖が朽ちてきちゃった。はは……。
SCP-502-JP-2-d:このままだと、あと何十年かで素っ裸かなあ。観測拠点にまた女性職員が来たら困っちゃうな。
SCP-502-JP-2-d:それにしても……まったく、どうしたものかな。
その後、二時間が経過しても目的の階へたどり着かない。SCP-502-JP-2-dは無表情に、カメラに向かってとりとめの無いことを話し続ける。
補遺2:SCP-502-JPの特性を逆手に取り、SCP-502-JP-1に干渉する実験が行われました。具体的には本オブジェクトが日本の市役所などのシステムを模倣しているのを利用し、SCP-502-JPが所在する県の終業時間以後に、SCP-502-JP-1群に対して「終業時間が過ぎている」ことを認識させることでSCP-502-JPの部分的な無力化を狙ったものでした。これに用いられた無力化プロトコル試案『螢の光』はサイト-81██管理官と日本支部理事会の承認を得て、20██/3/31 に実行されました。以下に、SCP-502-JP内で実施された実験の映像ログを付します。
対象: 1 階ロビーに存在するSCP-502-JP-1群
実験責任者:魚棚博士、宇喜田博士
付記:いくつかの干渉方法が魚棚・宇喜田両研究員により立案されましたが、これらは時間を置いて1 つずつ実施されました。即ち
- SCP-502-JPが擬態する市役所の内規をSCP-502-JP-1の前で読み上げ、室内の時計を指し、終業時間を過ぎていることを示す。
- SCP-502-JP-1が各持ち場から一時も離れることがないことを利用し『一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律』五条を読み上げ、規定の勤務時間の著しい超過を認識させる。
- SCP-502-JPが擬態する市役所が、終業時間になると流す音楽「螢の光」をSCP-502-JP内スピーカーに接続した機器から放送する。
という3 つの案でした。この無力化プロトコル試案は観測拠点にいる宇喜田博士からヘッドセットでDクラス職員D-502-78に指示を与えながら、順次行われました。
<録画開始,(20██/3/31/00:01)>
宇喜田博士:記録を開始します。D-502-78は準備はよろしいですか?指示が聞こえているなら返答してください。通信に問題がある場合、付き添いの保安要員にその旨を伝えてこちらに戻ってきてください。
D-502-78:はい、問題ありません。聞こえています。
宇喜田博士:結構です。では正面にいる淡いピンク色のブラウスの女の人に何か質問してください。
D-502-78:分かりました。なんと聞けば?
宇喜田博士:そうですね……。「生活保護の窓口はここでいいのか?」とでも聞いてみてください。
D-502-78:……はぁ、分かりました。
[D-502-78は両脇を保安要員に挟まれて、カウンターまで歩いていく]
D-502-78:あのう、生活保護の窓口はここでいいんですか?
SCP-502-JP-1ああ、申し訳ないんですけどここの住民以外の方への受付はしてないんです。ごめんなさいね。
D-502-78:(宇喜田博士に小声で)これでいいんですか?
宇喜田博士:ええ、正常な反応です。あなたへの危害が加わる可能性ももうないと考えていいでしょう。ですので臆せずメモの内容を順番に試して下さい。
D-502-78:了解しました。
[試案1を実行]
SCP-502-JP-1ええっ!もうそんな時間ですか?大変!
宇喜田博士:「あなたも帰ったほうがいいですよ」と言ってください。
D-502-78:ええ、だからあなたも帰ったほうがいいですよ!
SCP-502-JP-1でも……私もまだ仕事が残っていて……。
[隣のSCP-502-JP-1が「彼女は自主的に残業中である」とD-502-78に向かって発言したのが小さく録音される]
SCP-502-JP-1ああ、そうなんですよ。もうちょっとだけ頑張ります。
宇喜田博士:D-502-78。手順の2を実行してください。
D-502-78:あ、はい。
[試案2を実行]
SCP-502-JP-1うーん。確かに、██████時間残業は法律違反ですよね……。確かに私もいいかげん疲れちゃってます。
[このSCP-502-JP-1の発言の次の瞬間に、カメラの死角から男性型のSCP-502-JP-1-aが出現。保安要員・D-502-78は共に出現の瞬間を認識していなかった]
SCP-502-JP-1-a:███ちゃん。もう退勤した方がいいんじゃない?そろそろ残業も██████時間だし、寝るのが遅くなるとお肌に悪いぞ。
SCP-502-JP-1:████さん!すみません。じゃあ、窓口係をちょっと代わってもらってもいいですか?
SCP-502-JP-1-a:もちろんだとも。お疲れさん!
D-502-78:あ、おい!ちょっと!
[SCP-502-JP-1がカウンターの奥に数歩歩き、消滅した。この瞬間もまた記録されず、室内の人間は認識できなかった。]
D-502-78:あれ?えっ!?
宇喜田博士:……手順3を実行します。D-502-78!保安要員から機器を受け取ってください。それを壁についているスピーカーに接続してください。
D-502-78:は、はい。ええと、これはどこに……。
宇喜田博士:スピーカーの横から垂れている線の先端のソケットに機器を差し込んでください。
D-502-78:はい。よし……。
[試案3を実行]
[螢の光が流れ始めると、室内にいるほとんどのSCP-502-JP-1が一斉に立ち上がり、手荷物を持ってカウンター奥に消える。]
宇喜田博士:よし、よし……ん?
[SCP-502-JP-1-aのみが残り、手元の書類に何か書き付けている。]
D-502-78:あの。
宇喜田博士:……なぜ帰らないのか質問してください。
D-502-78:どうしてあなただけ残ってるんです?やはり残業ですか?
SCP-502-JP-1-a:いやあ、ここ深夜対応窓口なんですよ。こりゃあしばらく帰れそうもないですわ。でもごめんなさいねぇ。お客さんウチの管轄外だから何もしてあげられないですよ。
D-502-78:へえ、そうですか。(宇喜田博士に)どうします?
[魚棚博士の深い溜息が宇喜田博士のマイクにより録音されたほかに、しばらく無音]
宇喜田博士:……実験を終了します。保安要員はD-502-78を連れて観測拠点に戻ってください。記録終了。
<録画終了>
この実験の失敗に伴い、SCP-502-JP-1への干渉を試みるすべての実験は一時的に中止されています。