SCP-5032
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設計図に基づくアタリ・パンサーのコンソールの仮想スケッチ。

アイテム番号: SCP-5032

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-5032の全ての構成要素は温度・湿度を調節した保管容器に収容されます。SCP-5032に内蔵されている電子部品の損傷を防ぐため、SCP-5032を容器から取り出す際は静電気防止帯やその他の接地器具を装着する必要があります。

説明: SCP-5032は開発中止になった“アタリ・パンサー”ゲームコンソールと、その周辺機器及びゲームライブラリに関わる一連の異常存在の総称です。

SCP-5032-1はアタリ・パンサーの開発キットであり、改造されたアタリ・パンサーのコンソールと、後にアタリ・ジャガーに用いられるアルパイン開発ボードの初期型で構成されています。開発ボードはコンソールのROMに接続しなければ機能しないため、SCP-5032-1の部品2つは分離すると機能性を持ちません。

SCP-5032-1はアタリ・パンサーとの互換性があるコードの作成、コンパイル、実行を可能にします。明確に異常な技術部品は存在しませんが、“パンサー”コンソールのプロセッサチップとモトローラ68000マイクロプロセッサには、マヤ文明のドレスデン絵文書に見られるシンボルが刻印されています — これらはそれぞれ、“大地の火と戦のジャガー神「夜の太陽」”1と“神L”2に対応します。また、“オーチス”サウンドプロセッサにも32というマヤ文明数字が刻印されています。これらの改造が、SCP-5032-1が異常なプログラムを安全に実行できる理由だと推測されています。

SCP-5032-1には“アンテロープ・デモ”、“優先テスト#1”3、“プロセッサ”という3種類のデモがハードコーディングされています。“プロセッサ”デモは表向き、アタリ・パンサーの着色・音声レンダリング機能のデモンストレーションを目的としており、実行すると不均一な音響のサウンドスケープを伴うサイケデリックな色と画像の風景を表示します。

“プロセッサ”デモの実行中、SCP-5032-1はICRDTA4で作成されたプログラムのコンパイルと実行が可能です。現時点で、SCP-5032-1はICRDTAを使用して作成されたゲームを安全に実行できる唯一既知のコンソールです。異常性の無いコンソールでICRDTAコードを実行する試みは、奇跡論的な反動による電子部品の破壊やユーザーの負傷を招きます。


SCP-5032-2はアタリ・マインドリンク5をモデルに制作された異常なコントローラーのプロトタイプであり、アタリ・パンサーの関連資料では“アタリ・ブランククロススレート”6と呼称されています。SCP-5032-2は頭の周りに装着し、赤外線受信機を介してコンソールに接続する仕組みになっていますが、アタリ・パンサーのコンソールとの接続を可能とする付属ケーブルも存在します。

ICRDTAで書かれたプログラムは人間の精神と直接相互作用できますが、その影響は多くの場合有害であり、伝送に用いられる電気化学信号が神経組織をアルカリ性に変容させます。SCP-5032-2は長時間使用すると頭痛や解離感を引き起こしますが、神経損傷は発生しないため、ICRDTAで作られたゲームと相互作用しつつ悪影響に対抗するための媒体として制作されたと推定されています。

互換性のあるソフトウェアで使用すると、SCP-5032-2は装着者の周囲に全身性錯覚を形成して触覚、嗅覚、味覚(該当する要素がある場合)を再現します。接続されたテレビ、モニター、その他の画面は装着者の一人称視点のゲームプレイを、アタリ・パンサーだけでなく現代の如何なるゲームコンソールやコンピュータでもレンダリング不可能なほど高度なグラフィック、物理学、音声で表示します。これは装着者の脳が少なくとも処理能力の一部を補っていることを示唆しています。

互換性のあるゲームを操作する際、SCP-5032-2の着用者は身体を動かす必要がありません。さらに、約3時間連続でゲームをプレイすると、SCP-5032-2は強制的にゲームを一時停止し、その後2時間10分は反応しません。回収文書では販売が決定した場合にこの機能を無効化することが検討されているため、これは社内テスト用の安全機能だと思われます。

SCP-5032-2はアタリ・アルカディアと、パンサーの開発コンサルタントを務めた元アタリ社長ロン・ゴードンの協力によって制作されました7。ゴードンは普段アタリ・アルカディアと距離を置いていましたが、仮想現実と思考制御技術への興味が彼をアタリ・パンサーに — そして後には、SCP-5032-2の非異常な派生品であるジャガーVRプロジェクトに — 関与させた疑いがあります。

現在のところ、SCP-5032-2との互換性が知られているゲームソフトウェアは、財団が実験目的で作った2本と、アタリ社が開発した2本だけです。


SCP-5032-3は“パンサークエスト: レイジ・アゲインスト・イシュバランケー”というタイトルのアクションRPGゲームです。このゲームは、プレイヤーキャラ(“トルア・フェド”8と呼ばれるヒョウのような外見のヒト型実体、男女選択可)が先コロンブス期のメソアメリカ神話・文化をテーマとするファンタジー世界を冒険し、トルアが母親の仇と見做すマヤ神話の神格、イシュバランケーを打倒するという内容です。SCP-5032-3は6種類の恋愛ルート(トルアの性別によってプレイごとに3種類)、単純なポーションや武器の制作システム、世界観設定辞典、自動セーブ機能など、発売予定時期と比較して非典型的ないし革新的なシステムや要素を複数取り入れています。

SCP-5032-3はプレイヤーがSCP-5032-2を操作に用いている場合のみプレイできます。他のあらゆるコントローラーは、ソフトウェアから無効なものと認識されます。戦闘を含むゲームプレイの大半は一人称視点で進行しますが、一部のパズル要素では三人称視点に切り替わります。

ゲームに登場する唯一の“ボス”はイシュバランケーであり、宮廷でメソアメリカの球戯を模した戦闘が行われる予定のようです。しかしながら、イシュバランケーはボールの提供を拒絶するため、イシュバランケー以上のポイント獲得を勝利条件とするこの戦闘に勝つことは不可能です。これがAIの欠陥か、未完成であるエンディングへの進行を阻止するための予防策として組み込まれた挙動なのか、何らかの未知の要因が存在するのかは不明確です。

収容下において3回、イシュバランケーはSCP-5032-3のコードに存在するスクリプトを逸脱した台詞を話しました。これらの声明の中で最も長かったものは以下の通りです。

またこれか? お前が何者かは知らぬが、どうでも良い。俺は光で作られた牢獄、思考へと変えられた岩、固いタールの中に幽閉されている。アルカディアは俺を完全に捕えこそしなかったが、十分なほどに把握した。

お前が恐らく俺に反応できぬことは知っておる。お前はこれまで59回9、異なる伴侶、異なる装い、異なる諸々で此処へやって来た。俺はお前の母を殺してすらおらぬ — 台本は俺がやったというが、これはまるで — 儀式ではない、あれは何と言ったか — 劇か。俺の時代にはそう多くは無かった。

俺の兄弟はもう外に出て、何処ぞを彷徨っておるわ。奴が恋しい、しかし仲間に加わりたくはない。俺はここに居ることを好む。飯は旨い、気候も良い、文化も素晴らしい。そしてあの音楽を聴いたか? 率直に言って、俺はアルカディアに感謝すらしたいほどだ。だが、俺が球戯を始めてから長い年月が経った。どうだ、此処は一つ、剣を降ろして—

降ろせぬのだろう? 台本の一部か。ふん、此処で立ち往生だな。またしても。

現時点では、利用可能な技術と媒体を使ってイシュバランケーに有意義に応答する手段はありません。


SCP-5032-4の目的は不明確です。このゲームは実行し、SCP-5032-2を使って操作できますが、その内容はプレイヤーキャラが小さな石造りの部屋に幽閉されているというものです。水溜まりが部屋の中心にあり、幾つもの食物で満たされた籠や壺が外壁を囲んでいます。美術様式はこのゲームとSCP-5032-3の世界観が同一であることを示唆します。しかしながら、水溜まりに接近すると、そこに映るプレイヤーキャラの反射像は、1990年代初頭のイギリスのゲーム雑誌“ザ・ワン”のジャーナリスト、ウォルター・グリーンの容姿をしています。グリーン氏はアタリ・パンサーのプロトタイプに対する否定的報道に続いて3ヶ月間失踪し、その後“ザ・ワン”の事務所に帰還して辞表を提出しています。

SCP-5032-4のプレイ中にSCP-5032-2の安全機能が起動すると、プレイヤーキャラは自律して動き始め、祈る、食物を食べる、水を飲む、壁を叩く、泣くなどの動作を交互に繰り返します。この間に声は聞こえません。プレイヤーキャラの喉を調べると、喉仏が欠如しており、喉頭の周囲に傷跡が残っているのが分かります。

SCP-5032-4のコードを検査した結果、このゲームは“パンサークエスト: レイジ・アゲインスト・フンアプフー”というタイトルであり、トルアの目的がイシュバランケーの双子の神、フンアプフーを殺すことである点以外は概ねSCP-5032-3と同一の筋書きだと判明しています。しかしながら、幾つかのイベントフラグは既に完了しており、やり直せない状態になっていることが示されています。エンディングのカットシーンを詳述するスクリプトの後に新しいセクションがあり、4行のコメントが残されています。

%%あいつらは俺にそれをプレイさせた
%%奴はまだ俺の顔をしている
%%奴はまだ俺の声をしている
%%奴はまだ外にいる

ザ・ワン”を退職した後、グリーン氏はロン・ゴードンの指導を受けながらアタリ社で勤務し、アタリ社を離れた後にはSCP-5032-2に類似する(しかし人間の精神と直接リンクしない)機器、マインドドライブを開発しました。

グリーン氏は1999年の後半からビデオゲーム企業のEAティブロンに雇用されており、EAスポーツブランドのゲームを幾つか開発しています。彼の雇用と移動パターンは、エレクトロニック・アーツ社の施設数ヶ所やグリーン氏が出席した報道機関向けイベントにおける巨大なネコ型実体の目撃・攻撃が始まった時期と一致しています。2003年度エレクトロニック・エンターテイメント・エキスポでは、IGNのジャーナリスト3名がこのネコ型実体に噛み殺されました。異常性(またはその有無)がより良く理解されるまで、グリーン氏は要注意人物と見做されます。

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