SCP-5078

評価: +20+x
財団科学部門より通達
以下のファイルはマークヘイヴン監視プロジェクト関連の情報を含むため、閲覧はマルドゥク・レベルのクリアランスを有する財団職員のみに制限されます。
隔離。安定。伝達。
ガイドへのリンク
アイテム番号:5078Item#:5078
クリアランスレベル2: Clearance
収容クラス: safe
safe-icon.svg
副次クラス: Gödel
G%C3%B6del.svg
撹乱クラス: #/dark
dark-icon.svg
リスククラス: #/notice
notice-icon.svg

サブクラス: Alterius
配属サイト サイト管理官
サイト-145 ジュリエット・ルイス博士 及び クラーク・ハミルトン博士

IMG_20200905_003407.jpg

インディアナ州マークヘイヴン、イーグルトン通り257番地。現在SCP-5078が収容されている住宅。

特別収容プロトコル: SCP-5078はインディアナ州マークヘイヴンのイーグルトン通り257番地で原位置In situ収容されています。地所は財団のフロント企業を介して購入され、暫定サイト-145に改装されています。SCP-5078の前壁には、SCP-5078の居住者と意思疎通を図るためのガラスパネルが設置されています。倫理委員会の審査結果に従い、インタビューや観察は休憩時間を設けた上で実施されます1

マークヘイヴンに浸透している政治的・社会的文化は被害妄想、部外者への不信、確固たる社会的保守主義に基づいて形成されているため、マークヘイヴンで活動する財団職員は精巧な背景情報や偽名を必要とします。現在、ジュリエット・ルイス博士とハミルトン・クラーク博士が、マークヘイヴンの“新世代”家族であるルシール及びアンドリュー・フィンチ夫妻を装っています。偽装が露見した場合の最終手段として、記憶処理薬の投与が許可されています。

説明: SCP-5078は、核時代の放射性降下物シェルターと、その居住者 (SCP-5078-1及び-2と総称される) の指定名称です。

SCP-5078は一部が地中に埋まっており、構造の大部分はインディアナ州マークヘイヴンの郊外住宅の地下に位置しています。SCP-5078、ひいてはその居住者たちは、構造物の大半を覆っている相当量の土の層のために、この住宅の前の住人には気づかれていなかったと考えられています。この土の層から採取された土壌サンプルには、微量の未同定または未発見の物質と共に、異常な量の放射性微粒子の存在が確認されています。土壌の微生物学的な分析では、過去に発見例のない原生生物種と思われる生命体のコロニーが大量に発見されています。コロニーの観察によって、この生命体群は嫌気性2極限環境微生物であり、分子や放射性廃棄物を分解して酸素を生成することが判明しました。この酸素は構造物の基礎に存在する小さな空洞を通してSCP-5078に供給されます。SCP-5078の外部構造は、表面的にはコンクリートに似た素材で構築されていますが、未特定の異質な材料を多分に含みます。構造の基部には無数の空洞や穴があり、酸素供給を担当する土中の微生物群に似た別な生命体のコロニーが生息しています。両コロニーは同種または近縁種だと考えられます。現時点で判明している唯一の相違点は生息域です — 構造基部の生命体は多極限環境岩石内微生物3に分類されています。

SCP-5078の内部空間は大雑把に区分けされた1つの広い部屋、共有リビング、キッチンを兼ねた寝室から成ります。室内には簡素な調度品が設置され、家具や装飾はソビエト流ミニマリズムに酷似した美学に基づいてデザインされています。SCP-5078の内部に存在する様々な物品の中に、異常な特徴や起源を有するものは無いと考えられています。SCP-5078には、ガリーナ4及びドミトリー・アルメタフというロシア系の夫婦を自称する人間2名が収容されています。ガリーナとドミトリーは共に、26年前に結婚し、ソビエト連邦のスターリングラード5に居住していたと一貫して主張しています。どちらの居住者も、SCP-5078の外部のアメリカで生活していたことを明確に記憶していません。

C9e4e7d-1.jpg

ドミトリーとガリーナ・アルメタフ。この写真は1972年付のものであり、両者とルイス博士の最後の面会時に提供された。写真の中央に映っている人物の身元は特定されていない。

両者は栄養やカロリーの摂取を必要としないと考えられており、これはどちらも飲食をせず、排便・排尿も確認できず、SCP-5078の内部に見たところ食品が欠如しているという観察結果からも明らかです。現時点での仮説では、異常な代謝機能、もしくはSCP-5078の外部環境に存在する微小な物質や微生物を通して栄養を補給していることが示唆されています。ドミトリー・アルメタフ自身は現在、栄養摂取の不要性は、彼と妻が突然SCP-5078の内部に出現した事象の副作用だという説を提唱しています。

補遺 No. 1 意思疎通の試み

SCP-5078-1/2との対話は、財団と彼らの言語の違いにより、現在のところ有意義な成果を上げていません。ロシア語に堪能な財団の翻訳者は、SCP-5078-1/2が話す言語は現時点では英語に翻訳できないと断定しました。言語学的分析によると、SCP-5078-1/2の話し言葉・書き言葉は外見上ロシア語に類似するものの、根本的に異なる文体のキリル文字で書き記され、異なる言語規則、綴り、発音に従っています。更に、SCP-5078-1/2の話し方には強い訛りがあるらしく、英訳はほぼ不可能です。

SCP-5078-1/2はどちらも英語をほとんど理解していません。財団言語学部門長のジュリエット・ルイス博士はSCP-5078-1/2との初歩的な会話を試みました。ルイス博士は両者に簡易版の英語辞書を渡すことに成功し、更に後ほど、SCP-5078-1/2の双方がSCP-5078内部に見られる文字、ラベル、家庭雑貨品を通して基礎的な英語の用語・単語を理解できることが判明しました。SCP-5078の内部にある様々な家庭雑貨品には、当初はキリル文字が書かれていたようですが、後に英語へと変化しました。この原因はまだ不明であるものの、SCP-5078が現在の世界へ転移したこととの関連性があると仮定されます。

この仮説は、SCP-5078内部に見られる幾つかの物品の英語表記が途切れ途切れで堅苦しいことからも裏付けられています。一例として、洗濯用石鹼の容器のラベルには“泡布洗浄”とあります。

12月からの1ヶ月間、ルイス博士はSCP-5078-1/2が出した質問・回答を記録しました。ルイス博士は、SCP-5078-1から順に、両者への個別インタビューを実施しました。

補遺 No. 1-A: ドミトリーへのインタビュー

あなたの名前は何ですか?

ドミトリー。私の妻はガリーナ・アルメタフ。

結婚してからどのくらい経ちますか?

沢山。 (SCP-5078-1は指を伸ばした両手をかざす。その後、SCP-5078-1は掌を改めて掲げ、右手で指を1本立てる。)

いつからその中にいるのですか?

沢山の年。時間は長い。年々と日々。

何故あなたはここにいるのですか、ドミトリー? このマークヘイヴンに?

私はマークヘイヴンを知らない、それはこれがある所か? 不明な単語よりも強い輝きがあった。人々は (自らを身振りで指す) …死んだ。 これのような沢山の部屋 (壁を指差す) 街の中に。大きな… (首を振る) 私たちはここに来た、安全にあるために、そして私たちは (祈りの仕草) 神に、私たちを生かし続けてくださるように。彼は与えた。全てを与えた。

それが起きた日付は分かりますか?

1980年11月4日。私はそれについて話すのが好きではない。

今、一緒にいられて、あなたは幸せですか、悲しいですか?

そうだ。とても幸せだ。 (笑顔) (腹を抱えて笑う仕草)

何から幸福を感じますか?

ガリーナは私を幸せにする。新聞、ラジオを聞く、昔の歌、歌う。彼女は行った、そうだろう?

そこを離れたいと思ったことはありますか?

勿論ある。これは人生ではない。一緒にいて幸せで、安全だが、これは人生ではない。焼かれるより良い。しかし幸せな結果ではない。私は彼女にそれを聞かせたくない。私が時々離れたいと感じることを。しかしそれは安全ではない。私たちは外の世界を知らない。それが私たちをどう扱うか。

それは何故ですか?

因われているように感じる。囚、囚われる、間違えた
そうだ。私は幸せではない、時々、違う。しかし、私はそれを見せない。それはガリーナを動揺させるだろう。時々… やましさを感じる。それが言葉だ、やましさ。不幸せであることが不幸せ。とても沢山が生きられなかった、そしてここで、私は動揺している-

そう感じるのは普通のことです。サバイバーズ・ギルトと呼ばれています。

そんなものは知らない。私は自分が生存者サバイバーだとは考えていない。私はガリーナと共にいられて幸せだ。私たちが一緒であることが幸せだ。しかし、生存者としては、私はそうは思わない。生存のためには、そう、楽しみに待つもの、戻るべきものが残されていなければいけない。何も残っていない。私たちだけ。私はガリーナのためにできる全てをする。そして彼女は幸せな私を見るのを望むので、私は彼女のために幸せになる。彼女には何もない、残されたものはとても少ない。

ドミトリー、あなたは幸せですか?

分からない、時々そうだが、時々そうではない。とても長く過ぎた。認めよう、私がガリーナを幸せにしようとするのは、自分も幸せを感じるためだ。

上手くいっていますか?

分からない。

補遺 No. 1-B: ガリーナへのインタビュー

あなたがガリーナですか?

はい、はい、それが私の名前です。私の母は、それは花と同じ名前だと言いました。彼女は正しくありませんでした - でも私はまだ、心からそれを打ち明けました。

あなたたちはどんな仕事をしていましたか?

夫は、工場へ。私は畑で働きます。良い生活でした。とても良かった。厳しかったけれども、とても良かった。私たちは神様を信じ、神様は私たちに良い人生を与えてくださいました。

では、ここでは? これは良い生活ですか?

これが良い生活かは分かりません。安全である、それは良い事です。夫が私と一緒にいるのがとても幸せです。彼がいなければとても孤独な時間でしょう。壁を壊して夫と共に出ていけたらといいのにと思います。でも世界は安全ではありません。

ここに留まる他の理由はありますか?

勿論、夫のためです。ドミトリーは幸せそうです、ここでとても幸せです。私は彼からそれを取り上げたくありません。彼の幸せは私にとって大切です。彼はみんなを置き去りにしました。私たちだけが、私はそう思います、私たちだけが助かりました。何故かは分かりません。神様は多分私たちをからかっておられる。

ガリーナ、あなたは幸せですか?

そうである日もあれば、そうでない日もあります。それはドミトリーも同じだと思います。私のように、彼は辛い日々を送っています。私が去りたいと、逃げたいといったこと — それは本当です。でもこれは家でもあります。ややこしいです。とてもややこしいです。

何か待ち望んでいることはありますか、ガリーナ?

私にはこの先どうなるか分かりません。自分たちのペースに合わせて日々を過ごします。私たちは一緒にいて、ここにいるでしょう、いつものように。私たちの幸せはお互いから来ます。私たちはいつもここにいます。

補遺 No. 3: ハミルトン博士の覚え書き

インディアナ州マークヘイヴンに駐留している間、ハミルトン博士はSCP-5078-1/2との交流体験を詳述する日誌をつけていました。RAISAの要請を受けて、記録保持及び今後の調査のために、日誌はSCP-5078のファイルに追加されました。

1980年12月9日。

我々二人がマークヘイヴンに来て一ヶ月が経つ。我々は相変わらず余所者だ。この街の全てが理解に苦しむ。何もかもが清潔で、まるで偽物のディズニーランド・アメリカーナといった雰囲気だ。そう、ディズニーランドのよう、という表現がお似合いだ。全てがあまりにも清潔で、誰もがあまりにも幸福で、何が起こっていようと微笑んでいる。黙示録の後、数百年後の人々は、黒焦げでもニコニコ歯を見せて笑っている人々の死体を見つけるだろう。

私はガリーナとドミトリーに親近感を覚えている。彼らは見知らぬ土地にいる余所者だ。私と同じように、この世界を理解していない。ジュールは彼らに英語を教えている。まだ意思の疎通もおぼつかないが、私はあの二人と、特にドミトリーと友達になりたい。私はドミトリーの言葉をほとんど理解できない — どんな言語を話しているにせよ、訛りのせいで何も聞き分けられない。しかし、そんなことは問題ではないだろう。彼の傍に付き添っていられるならそれで良い。友人がここにいれば彼も幸福だろう。ジュリエットはどうして彼らがマークヘイヴンに、それもよりによって我が家の地下室にいるのかを突き止められていないが、私は気にならない。全く気にならない。財団で働き始めて以来、私は隣人を持ったことがなかった — 彼らも同様に隣人などいなかっただろう。

お互いに気分が良い。

1980年12月13日。

ジュールのおかげで今日は進展があった。あの二人はソビエト連邦の出身だ。 …我々のソビエト連邦、この世界のソ連ではなく、彼らの世界のソ連。私もジュリエットも、ガリーナとドミトリーがそれ以外の場所から来たとは考えていなかったはずだ。見れば察せる。戸惑いの表情、何となくしっくりこない衣服。食事の必要性が無い。あれもこれも理解できない。

しかし、不安なのは、もしこれが外に漏れたらどうなるかだ。彼ら二人ではなく、ソ連の国民二人がアメリカのド田舎にある地下室に閉じ込められているという知識が流出してしまったら? 掻き立てられる怒りの凄まじさを想像してみるがいい — ソ連のロケットが飛ぶだろう、我が国からも同様に。

恐らく彼らもそういう風にここへ飛ばされたのだ。ロケットのせいで。彼らは乗り込まなかったが、ロケットとミサイルは彼らの狭い牢獄に命中し、遠く離れた我々の世界へと押しやってしまった。もし、我々の身にもそれが起きたらどうなる? 彼らのどちらかが逃げるか、偽装が露見して、UIUとGRUがそれを聞き付け、ロケットを飛ばし合い、それが我々に命中する — 多分、ジュリエットと私は狭い部屋に閉じ込められ、奇妙なロシア人たちに観察され、一挙手一投足に至るまであれやこれやと書き留められたりするのだろう。

1981年1月1日。

今日はドミトリーやガリーナと共に過ごせる最後の日になる。基幹要員が一名、こちらに配属になる — 我々はマークヘイヴンでもっと重要な任務を請け負うらしい。

あの二人と離れ離れになるのはとても辛い。私はジュリエットの覚え書きを、インタビューログを読んだ。二人とも希望と絶望の狭間で揺れ動いているように思える。どちらも自分一人では幸福ではなく、お互いがいるからこそ幸福であるようだ。多分、大抵の人々よりは上手くやっているのだろう。全くの話、誰もが同じように順応できるわけではない。とは言え、彼らが実際に順応していると考えてよいものだろうか。状況はとても厳しく、ほんの些細な事でも不和に繋がりかねない。もしかしたら、彼らはそれを上手く取り繕っていて、私たちに話した事は全て建前なのかもしれない。あり得る。

我々は二人のために食事会を開いた。新年祝いだ。どちらも食べられはしなかったし、我々の言葉もよく分からなかっただろうが、共に集うのは我々一同にとって大いに楽しかった。ちょっとした事が幸福を生む。ドミトリーは我々に一瓶のウォッカを送り、我々は二人に古いビートルズのレコードを送った。素晴らしいプレゼント交換会だった。

一連のインタビューや意思疎通試行よりも、彼らとの距離を縮めることができたように思う。彼らは善人だ。とても善良な人々だ。私たちにも彼ら自身にも理解できない状況の中にいる、善良な人々。外に目をやり、ロケットが火を吹いて飛ぶのを見ると、その意味が身に染みて分かる。これは私たち全員に起こり得る事なのだ — 狭苦しいシェルターに閉じ込められ、世界が死ぬのを待つ。勝負の終わり。

まるでハムとクロヴのようだ。戦争に勝者はいない。ただ、ガリーナとドミトリーのような、囚われた庶民がいるだけだ。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。