特別収容プロトコル: SCP-5117は補強された高セキュリティロッカーに保管されます。人型であるかに関わらず、いかなる知的実体もSCP-5117への接触は固く禁止されています。SCP-5117の使用はキャロウェイサイト管理官から明確な許可を得た人物に限定されなければいけません。
説明: SCP-5117は同型のローズゴールドの結婚指輪1組です。この指輪をはめた2名の人物が物理的に接触している時、両者が提案された変化に同意するか、互いに同様の願望を表明した場合に限り、クラスIV現実改変者と同程度の影響を現実に対して与えることが可能になります。
SCP-5117-1は既知の範囲で最初にSCP-5117の異常性を使用した人物であるノア・ピアソン氏です。SCP-5117-1は2016/9/25に無力化されました。
SCP-5117-2はSCP-5117の異常性を意図せず使用した2番目の人物であるマリア・ピアソン氏です。SCP-5117-2は2016/9/24に通常の要因で死亡し、SCP-5117の異常性によって一時的に蘇生した後、収容過程で死亡状態に戻りました(補遺5117-2を参照)。
RAISAより通達
以下のファイルは不完全です。
追加の情報を得るために次のファイルを確認してください。
デブリーフィング録画記録
日付: 2016-10-2
参加者:
- ジェームズ・オルソン博士
- アレクサンダー・コーラ研究員
[記録開始]
オルソン: 記録のために名前を名乗ってください。
コーラ: アレクサンダー・ロバート・コーラ上級収容エンジニア。
オルソン: どうも。SCP-5117-1とどのようにして知り合いましたか?
コーラ: なあ、彼の名前はノアだ。
オルソン: 失礼。ノアとどのようにして知り合いになったのですか?
(コーラは悲し気に微笑む。)
コーラ: 幼馴染。
オルソン: えー、では、子供の頃について教えてください。
(コーラは少し間を置いて深呼吸する。)
コーラ: 魅力的で小さな町で育った。両親は私が物心つく前に亡くなり、私は叔父と暮らしていたが、彼はいつも家を空けていた。時間はたくさんあったが、一緒に過ごす人は誰もいなかった。
(コーラは静かに笑う。)
コーラ: 私は…変な奴だった。友達はなかなか近づいてこなかった、私の奇妙な興味のせいでね。あるいは、奇妙なことへの興味かな。ほとんどの時間を家の中で過ごし、本を読んだり、パソコンに向かったりしていた…そちらにすればそれほど驚くことではないだろうな。私は決して社交的な性格ではない。でも、ノアは私のそばにいてくれた。
コーラ: ノアはいつも素敵だった。物静かで。臆病だったのかもしれない。人懐っこいが、社交的じゃない。孤独な子供だった。ごく普通に見えたが、多くの人々よりも良い奴だった。
コーラ: どうやってそんなに仲良くなったのか、はっきりとは覚えていないんだ。私が彼の学校の勉強を手伝っていたとか、そんなところだろうか。とにかく、私たち二人とも異常なものに興味があった。もちろん、私たちが調べたもののほとんどは実際のものではなかった。だが、それでも私たちの執念は止まらなかった。
オルソン: なるほど。そして、それが██████████大学を出てから財団に勧誘された際に入る動機になったと。
コーラ: ある程度は、まあ。つまり、入るだけでも大変だったものでね。
オルソン: では、大学時代のノアとの関係はどうでしたか?
コーラ: えー、私が██████████へ進学した時、ノアは結局町に残って電気屋を開いた。しかも、連絡は取り合っていたが、会えるのは休暇で時々だけ。そして、この仕事だと…まあ、ご存知の通り。
(コーラは鼻を鳴らす。)
コーラ:数年前、彼の結婚式に出席した。私の代わりが色々やらかしたから管理官が怒って、その後収容違反が起きた。あの12月に、大きな事件だったな。
オルソン: よく覚えています。
コーラ: ああ。すっかり落ち込んだよ。今でもその悪夢にうなされるんだ。その話をする必要はあるか?
オルソン: いいえ、全く。あなたとノアは親しかったと言えますか?
コーラ: 随分と控えめな表現だと思っただろうな、今までに同じ様なことを聞かれていれば。私たちは兄弟のようだった。私を完全なる孤独から守ってくれた唯一の男だった。当然だが、仕事はまるで助けにならない。仕事では、スキップ同様に窮屈さを感じていると言ってもいいだろう。
(コーラは下を向く。)
オルソン: ノアに機密情報を開示したことはありますか?
コーラ: まさか、ないとも。私がしたことと言えば、名前を変えて、話すことを許されないようなものを扱っていると話したぐらいだ。彼は私がFBIか何かで働いてると思っているよ。でも今は関係ない。彼は死んだんだ。
オルソン: なるほど。ノアはここでのあなたの仕事にどのような影響を与えたのでしょうか?
(コーラはオルソンの方を向く。)
コーラ: 何と?
オルソン: ノアはここ、財団でのあなたのパフォーマンスにどのような影響を与えたのでしょうか?
(コーラは肩を竦める。)
コーラ: 良い方向だけだ、間違いなく。苦しい一日の後、彼と私で夜遅くまで話をしたものだ。実の所、私が長いことここに居続けたのは恐らく、偏に…そう、自分がノアのような外側の人々を守っていると考えていたからだ。彼らが「光の中で暮らす」ことができるように。
(コーラは少し間を置く。)
コーラ: 私が何をしたのか、私達二人とも知っているだろう、オルソン。人類のために…私の人生、私の良心を犠牲にすることには価値があると思っていた。
コーラ: しかし、今や本当はそうではないと思うんだ、そうだろう?私は…私が思うに、もし彼のような善良な人間、一般市民が…他の人々が考えるのと同様に、収容されるべき…さらなるアノマリーにしかなり得ないのだとすれば…
コーラ: 私が作ったプロトコルは…今となっては、彼ら一人一人が、████から████まで…全員が人間だったことを思い出さずにはいられない。少なくとも、少しはそうだった。畜生、████を閉じ込めた時、彼女はほんの子供だった。
(コーラは唾を飲み込む。)
コーラ: なあ、何にせよ、頼む。一生の…私の人生をかけて、お願いだ。君が収容するすべての人が、少なくとも少しは人間であることを忘れるな。それだけが私の願いだ、それだけが私のしたことだからな。ノアが只の人間だったことを忘れないために、私は君にあのテキストログを渡したんだ。
(オルソンは頷く。)
オルソン: 分かりました。ファイルに記載されるよう最善を尽くしましょう。
コーラ: ありがとう。
(オルソンが事件記録を読み返す。)
オルソン: さて…記録によれば、あなたは財団がノアの異常性を発見するのを阻止するために行動したようですね。
コーラ: それは質問か?
オルソン: つまり弁解するつもりはないと?自分の行動が財団規則の不履行と取られることは理解しているでしょう?どれだけの違反行為に問われるでしょうね?
コーラ: 私なら彼が…あんな事になるのを止められると思ったんだ。私は彼の知り合いだろう?私の言うことなら聞いてくれるはずだったんだ。もし私が最初に着いていれば、昼飯を食べながら解決して、次に進んでいたかもしれない。
オルソン: しかしあなたはプロトコルに違反しました。
(コーラが怒った様子を見せる。)
コーラ: これのプロトコル、あれのプロトコル。幼い女の子を母親から遠ざけるプロトコルか?私の親友を殺すプロトコルか?プロトコルが私の6年間やってきた全てだ、オルソン!クソみたいなプロトコルを構築するために、私は自分の人間性を捨てたんだ。
(コーラはオルソンを非難するかのように指差す。)
コーラ: そんなプロトコルが彼を殺したんだ。彼らが私の足なんざを撃つんでなく、ノアのことを任せてくれていれば、こんなことは起きなかったんだ。
(コーラは机を殴りつける。)
コーラ: 私なら彼を救えたんだ。私なら、もしも…
(コーラは泣き崩れる。)
コーラ: (啜り泣きながら)もしも…私が一人にさえしなければ。
[記録終了]
注記: コーラが計り知れないほどSCP-5117に入れ込んでいるのは明らかである。彼が財団で働き続けるかどうか—そして、とんでもないことだが、知的アノマリーに関する仕事をし続けるかどうか—に関わらず、記憶処理が唯一の適切な処置に思われる。 - オルソン博士
補遺5117-1: 回収された通信記録
以下の通信記録はアレクサンダー・コーラ上級収容エンジニアの個人用スマートフォンから回収されたものです。この記録は発見時の通信を転写しており、全ての誤りや矛盾は元の通信記録に存在するものです。
いくつかの記録はコーラ氏が個人的に記載を要求したものであり、RAISAの内部審議の結果、特定の記録の記載が許可されています。
[無関係な情報を削除]
回収された通信記録
日付: 2012/11/17
関係者:
- アレクサンダー・コーラ上級収容エンジニア
- SCP-5117-1
注記: SCP-5117について言及された最初の記録。 - オルソン博士
SCP-5117-1: もう少しで計画が完成するぞ
コーラ: 何の計画?
SCP-5117-1: もちろん結婚式
SCP-5117-1: あと2つだけ
コーラ: 何?
SCP-5117-1: 1つ目は指輪
コーラ: …
SCP-5117-1: ホントに
コーラ: 結婚式の計画を立てていながら指輪はないと
SCP-5117-1: なあ、今
SCP-5117-1: ローズゴールドかホワイトゴールドかでマリアと膠着状態なんだ
コーラ: それで指輪がないのか
SCP-5117-1: うんまあ、重要な決断だから
SCP-5117-1: 残りの人生、薬指にどの金属をはめ続けるか
コーラ: 確かに
コーラ: 自分のじゃないしどうでもいいけど
SCP-5117-1: アレックス、一緒に考えてくれよ
SCP-5117-1: ローズゴールドかホワイトゴールドか
コーラ: わかった
コーラ: ローズゴールドがいいんじゃないか
SCP-5117-1: いいねいいね
SCP-5117-1: ありがとう
SCP-5117-1: もう片方はどう
コーラ: え?
コーラ: それも俺が必要なのか?
コーラ: 俺もウェディングプランナーとして雇えばいいんじゃないか
SCP-5117-1: www
SCP-5117-1: もう1つは花婿付添人なんだけど
コーラ: ほう
SCP-5117-1: 今手配してるんだけど、お前がやってくれるんじゃないかって思ってる
SCP-5117-1: イヤだったりしなければだけど
コーラ: 最高の友人と、そいつの一番幸せな日に一緒にいられるんだ
コーラ: どうしてやらないと?
SCP-5117-1: 粋だね
SCP-5117-1: 30日にやるんだけど
コーラ: 待った、30日か
コーラ: 実は30日にはすることがあるんだ
SCP-5117-1: まあわかんないよ
SCP-5117-1: 他の細かいこととかは全部計画してあるから
コーラ: 解決できると思う
コーラ: 行くよ
回収された通信記録
日付: 2012/12/10
関係者:
- アレクサンダー・コーラ上級収容エンジニア
- SCP-5117-1
注記: このやり取りは████/██/██のサイト規模の収容違反の後に短時間行われた。詳細は割愛するが、死傷者の数は3桁近くにも及んだ。トラウマになったのは間違いない。私の記憶が正しければ、コーラはこの悲劇的事件の数日前に欠勤し、彼の代理人が補助システムのひとつを見事に壊してしまった。コーラがこのファイルの記載を要求した理由は理解できる。 - オルソン博士
コーラ: なあノア
SCP-5117-1: どした
コーラ: 今日仕事でデカいやらかしがあった
コーラ: 責任の一端は俺にあると思う。
コーラ: 俺
コーラ: マジで言葉にできない
SCP-5117-1: 何があった
SCP-5117-1: 大丈夫か
コーラ: 今ちょっと気が動転してる
コーラ: なんていうか
コーラ: つらい
SCP-5117-1: アレックス、俺に何かできることはあるか
コーラ: 分からん、ただ話をしていたい。
SCP-5117-1: なら話そう。
SCP-5117-1: いつだってお前のためにここにいるぞ、アレックス
コーラ: 本当にありがとう
コーラ: でも何があったかはあんまり話せない
コーラ: マジでどうしようもない
SCP-5117-1: 何があったんだ?
コーラ: 彼らが無力に見えた
コーラ: 死ぬ覚悟をしていて、何もできなかった
コーラ: 俺もそこにいた
コーラ: 俺も死ぬかもしれなかった
コーラ: あと少しで死んでた
コーラ: 音も臭いも、何もかも
コーラ: めちゃくちゃ怖かった
コーラ: ノア?
SCP-5117-1: うん?
コーラ: 何をすればいいのか分からない。
SCP-5117-1: 気の毒に、アレックス
SCP-5117-1: とても気の毒だ
SCP-5117-1: アレックス?
[無関係な情報を削除]
回収された通信記録
日付: 2013/2/10
関係者:
- アレクサンダー・コーラ上級収容エンジニア
- SCP-5117-1
注記: これはSCP-5117の異常性が明確に記された最初の記録である。コーラはSCP-5117-1に対して、それ以上異常性を使用しないように指示したと主張している。SCP-5117-1はしばらくの間それに従った。この間、コーラは自分の地位を利用して、現地にあるカント計数機の2月中の記録を削除した。 - オルソン博士
SCP-5117-1: なあしばらく話してないけど
SCP-5117-1: アレックス?
コーラ: ああうんごめん
コーラ: ずっと仕事で忙しくて
SCP-5117-1: お前最近毎日そんな感じだな
SCP-5117-1: 仕事にやられかけてるだろ
コーラ: すまん
SCP-5117-1: いや、気にするな
SCP-5117-1: 自分のことを気にしろ
SCP-5117-1: ともかく言わなきゃいけないことがある
コーラ: へえ?
SCP-5117-1: 思うに
SCP-5117-1: 思うにマリアが力をくれてるんだ
コーラ: は?
SCP-5117-1: 魔法か何かみたいに
SCP-5117-1: そりゃおかしな話に聞こえると思うけど
SCP-5117-1: 最後まで聞いてくれ
コーラ: わかった
SCP-5117-1: 数日前の夜、マリアと一緒にいて、停電になったんだ
SCP-5117-1: 俺はかなり苛立って、マリアは俺に直せないかって言った
SCP-5117-1: 俺が電子機器とか扱う仕事をしてるから
SCP-5117-1: 俺はただ彼女を抱きしめて、彼女の髪を撫でて、そうできればなあって言ったんだ
SCP-5117-1: そしたらすぐに電気が戻った
コーラ: なるほど、偶然?
SCP-5117-1: そう思ってた
SCP-5117-1: 昨日はひどい土砂降りで
SCP-5117-1: マリアと俺は小さくて古い黒色の傘をさして車まで歩いてたんだが、彼女は凍えていて、雨がやんでくれたらいいのにって言ってた
SCP-5117-1: 1週間も降り続いてるんだ
SCP-5117-1: そんで、俺もそう思うと言った時、ちょうど雨が止んだ
コーラ: 妙な話だな。
SCP-5117-1: だろ?
SCP-5117-1: だからただの偶然だと思った
SCP-5117-1: でも今日は暇だったし、やってみても損はないと思ったんだ
SCP-5117-1: それで色々やってみて
SCP-5117-1: 何ができるか試してみた
SCP-5117-1: どうも使えるのはマリアと一緒のときだけらしい
SCP-5117-1: でもまあほとんどのことはできる
SCP-5117-1: 何をすべきかは分からないけど
SCP-5117-1: マリアはあまり信じてくれないしどうでもいいや
コーラ: よし、聞いてくれ
SCP-5117-1: ああ
コーラ: こういう物のために
コーラ: 命を奪いにくる組織がある
SCP-5117-1: 待て、おれだけじゃないのか??!?
コーラ: そうは言ってない
コーラ: だが使うのは止めるんだ、いいな?
コーラ: 絶対にだ
コーラ: こういうよく分からない物に関わろうとしてはいけない
SCP-5117-1: わかった
コーラ: 俺を信じろ、ノア
SCP-5117-1: 信じるよ、アレックス
回収された通信記録
日付: 2016/9/18
関係者:
- アレクサンダー・コーラ上級収容エンジニア
- SCP-5117-1
注記: コーラは個人的にこの記録を記載することを要求した。 - オルソン博士
SCP-5117-1: アレックス?
SCP-5117-1: マリアが
SCP-5117-1: こないだ心臓発作を起こした
SCP-5117-1: 生命維持装置に繋がれてる
SCP-5117-1: 医者は助かると思ってない
SCP-5117-1: あと数週間の命らしい
SCP-5117-1: アレックス?
コーラ: ん?
コーラ: えっ
コーラ: 心から同情するよ
SCP-5117-1: 他に俺に何ができるか分からない
SCP-5117-1: 本当に彼女が心配だ
SCP-5117-1: アレックス?
回収された通信記録
日付: 2016/9/24
関係者:
- アレクサンダー・コーラ上級収容エンジニア
- SCP-5117-1
注記: 収容以前におけるコーラとSCP-5117-1の最後の通信記録。 - オルソン博士
SCP-5117-1: アレックス
SCP-5117-1: 今マリアと家にいる
SCP-5117-1: 医者は何もできないって
SCP-5117-1: 俺にできるのは彼女と一緒にいることだけだ
SCP-5117-1: 彼女が死ぬ時に手を握ることだけ
SCP-5117-1: 一緒にいられさえすればいいのに
SCP-5117-1: お前がここにいてくれさえすればいいのに
SCP-5117-1: アレックス?
補遺5117-2: 収容活動音声/映像記録
以下はSCP-5117の初期収容の際に機動部隊ε-12(“グリーンガード“)隊員の機材で記録された音声・映像の転写を統合したものです。各隊員によって描写が異なるため、統合記録には様々な現実歪曲に関する注記が加えられています。
収容活動音声/映像記録
日付: 2016/9/25
派遣された機動部隊:
機動部隊ε-12 (“グリーンガード”)
- ε-12指揮官 フレイザー
- ε-12-2 ムニョス
- ε-12-7 陳
[記録開始]
ε-12指揮官 フレイザー: 記録開始。マイクチェック。
ε-12-2 ムニョス: チェック。
ε-12-7 陳: チェック。
ε-12指揮官 フレイザー: よし。司令部、聞こえるか?
サイト司令部: はっきりと。
ε-12指揮官 フレイザー: オーケー。お前ら演習は覚えてるな。武器を構えておけ。直ちに対象を探し出して無力化するぞ。
ε-12-2 ムニョス: 鎮静?それとも殺害?
ε-12指揮官 フレイザー: 司令部?
サイト司令部: 任せる。無論、民間人の犠牲は最小限に。
ε-12指揮官 フレイザー: 了解。思い出せ、奇襲だけが俺達がタイプグリーンに対して持てるアドバンテージだ。こんなに小さい町だ、トライデントを行おうと思う。
ε-12-7 陳: トライデント?よく分かりません、フレイザー。
ε-12指揮官 フレイザー: そういえばお前はノースリッジにいなかったな、陳。バラバラになって、俺が左、お前が右に回り込む間にムニョスが背後を取るんだ。
ε-12-2 ムニョス: (嘲って)新人はもうプロトコルを教わらないのかしら?
ε-12-7 陳: すまないが、君のタイプグリーンのキルカウントはいくつだったか?
ε-12-2 ムニョス: そんなにキルカウントが自慢なら、遠慮せず住処のクソGOCに帰りなさい。
ε-12-7 陳: GOCの話じゃない、より経験があるという話だ。
ε-12-2 ムニョス: それじゃあ、悲しいことに女性の経験はあんまりなかったのねえ?
ε-12指揮官 フレイザー: 二人とも黙れ。時と場所を弁えろ。
ε-12-2 ムニョス: 了解。
ε-12-7 陳: 了解しました。
(チームは徒歩で無人の町を進む。部隊は分かれ、別々の方向から目標に接近する。)
(ε-12-2 ムニョスがカント計数機を確認し、数値が逓増していることに気づく。)
ε-12-2 ムニョス: ねえ、近づいてるみたい。
ε-12指揮官 フレイザー: どの辺りか分かるか?
ε-12-2 ムニョス: こっちのヒューム値は-
ε-12指揮官 フレイザー: ヒューム値じゃない、阿呆。目標地点だ。
ε-12-2 ムニョス: ええ。今位置を送るわ。
(ε-12-2 ムニョスが自分の位置情報をε-12指揮官 フレイザーに送信する。)
ε-12指揮官 フレイザー: なるほど。そっちに向かう。できれば家の裏口を探してくれ。
ε-12-2 ムニョス: まったく、このタイプグリーンは本当にイカれてるのね。
(ε-12-2 ムニョスは郊外の小さな家の前に立っている。家の前の木々は画面いっぱいに上へ伸びて捩れており、地面は脈動して波打っている。家自体は移動する塊となっており、屋根は有り得ないほどに折り重なり、レンガは絶えず位置を変えて再構成されている。)
(ε-12-2 ムニョスは家に近づくが、一歩進むごとに距離が広がっていく。)
ε-12-2 ムニョス: 空間歪曲よ、フレイザー。SRAを起動しても?
ε-12指揮官 フレイザー: 承認する。だが目標地点には入るな。俺達を待て。
(ε-12-2 ムニョスは目標地点の周囲に携帯式スクラントン現実錨を設置し始め、順次起動させる。)
(ε-12-7 陳が目標地点の裏口に不明な人物がいることに気づく。)
ε-12-7 陳: ちょっと、目標地点に第三者がいるみたいですが。
ε-12指揮官 フレイザー: クソッ。GOCか?インサージェンシーか?
(ε-12-7 陳はヘルメットの光学式ズームレンズを使い、不明人物に焦点を合わせる。)
ε-12-7 陳: そうじゃなさそうです。民間人かと。
ε-12指揮官 フレイザー: 近づけるか?
ε-12-7 陳: 了解しました。
(不明人物が目標地点に進入する。)
ε-12-7 陳: 第三者が建物に入りました。
ε-12指揮官 フレイザー: まだ見えるか?
ε-12-7 陳: ええ、そうですね。男で、30代前半に見えます。
ε-12指揮官 フレイザー: 了解した。接触を許可する。
ε-12-7 陳: 了解。
(ε-12-7 陳は銃で頭を狙いながら近づく。)
ε-12-7 陳: 動くな!
(不明人物はε-12-7 陳の方を向き、両手を挙げる。)
不明人物: なんてこった、もう機動部隊が?
ε-12-7 陳: 我々は-
不明人物: SCP財団を代表して、だろ。私も財団職員だ。アレクサンダー・コーラ上級収容エンジニア。頼む、私は行かなきゃならないんだ、ノアの所へ…それが彼の名前だ、ノア・ピアソン。
ε-12-7 陳: 身分証明書を提示してもらいたい。
コーラ: ああ、IDを出させてくれ。
(コーラは片方の手を挙げたままにしつつ、ポケットから財団のIDカードらしきものを取り出す。)
ε-12-7 陳: 司令部、分かるか?
サイト司令部: 財団職員のアレクサンダー・コーラ上級収容エンジニア、クリアランスレベル3と確認。
ε-12-7 陳: なるほど。コーラ、だそうだが?
コーラ: その通りだ。行ってもいいか?
ε-12-7 陳: 待て。何故ここに?
コーラ: 長くなるぞ。私はノアの知り合いなんだ。助けようとしている。
ε-12-7 陳: あなたには作戦後の記憶処理をせずにここにいられるだけのクリアランスさえ無いことは分かっているだろう?
コーラ: そうだな、だが私はもうここにいるだろ?いいか、私が入る必要がある、今すぐにだ。事は急を要する。
ε-12-7 陳: 進入は許可しない、コーラ。我々にとって、あなたは基本的に民間人だ。
コーラ: 個人的な知り合いなんだ、多分話をすることが-
ε-12-7 陳: 駄目だ。タイプグリーンと会話をするのは厳禁だ。
コーラ: そいつは彼じゃない、私は彼だと思わない。いつもはこんな事をする奴じゃ-
ε-12-7 陳: タイプグリーンは様々な場面で異常性を発現するんだ。信じてくれ、俺はこんなのを何十回も見てきた。
コーラ: 私もそうだ。だが…いいか、君は分かっちゃいないんだ。どうか彼と話を-
ε-12-7 陳: 我々には我々の使命があるんだ、コーラ。万が一プロトコルを破ろうとするなら、俺は躊躇いなくあなたを撃つ。
(コーラが一瞬押し黙る。エコーに似た声が家から発せられたかのように周囲全体に聞こえる。)
不明な声: アレックス?
(コーラが唐突な現実性の変位により家の中へ吸い込まれ、建造物全体が回転する。)
ε-12-7 陳: なん-
ε-12-2 ムニョス: あなた達聞こえた?
ε-12指揮官 フレイザー: ああ、聞いた。アレックスってのが第三者だな?
ε-12-7 陳: そうです。彼はちょうど…あー…家に吸い込まれたところです。玄関からはもう入れません。
ε-12指揮官 フレイザー: クソッ。おいムニョス、現実錨を起動し終えるまで後どれくらいだ?
ε-12-2 ムニョス: もう少しよ。ああ、クソ、またヒューム値が下がってきた…
(ε-12指揮官 フレイザーが自分のカント計数機を確認する。計数機はヒューム値が50を下回って減少し続けていることを示す。)
ε-12指揮官 フレイザー: さっさとしろ!これ以上は固定する現実が無くなるぞ!
(ε-12-2 ムニョスは迅速に最後の携帯式スクラントン現実錨を起動する。)
ε-12-2 ムニョス: 安定したわ、これで進める。
ε-12指揮官 フレイザー: 了解。陳、急げ!
ε-12-7 陳: 裏口に回ってます、フレイザー。
ε-12指揮官 フレイザー: よし。進むぞ。
(チームは目的地に入るために進む。照明は消え、部屋の中の物体には大きく歪んでいるように見えるものがあり、空間的一貫性はほぼ流動的に見える。部屋の一部で特に激しい現実性断裂が見られる。床は液状になって流れているように見える。)
ε-12-2 ムニョス: 畜生…まるでダリの絵か何かね。
ε-12-7 陳: 床が全部溶けてる。
ε-12指揮官 フレイザー: お前ら大丈夫か?頭痛はまだ無いか?
ε-12-7 陳: 俺は…実の所…少し待って…
(ε-12-7 陳は自分のカント計数機を確認し、その値が部屋における自分の位置によって激しく変動しているようであることに気づく。)
コーラ: ノア?ノア、何処だ?
(コーラが壁の反対側にある廊下を通って現れ、壁に向かって歩く。壁が分離してコーラを通し、その背後で閉じる。)
ε-12-7 陳: 彼がコーラです。
不明な声: いまここにきたのかアレックス?
コーラ: ここにいるぞ、ノア。お前が必要な時にここにいなかった、いるべき時にここにいなかった、でも今ここにいるぞ。
不明な声: おまえはおれをひとりにしたアレックス?
コーラ: すまなかった。本当にすまない。
(局所的にヒューム値が減少し、不明な光の放射が家の壁から発生する。移動する床板が分裂し始め、壁の漆喰が沸騰しているように見える。)
ε-12-7 陳: コーラがタイプグリーンを怒らせています。
ε-12指揮官 フレイザー: かもしれん。だがまずはそいつを見つけ出す必要がある。そこがコーラの行き先だと思わないか?
(コーラが移動する絵画から再出現する。部屋が超空間的に折り畳まれたように見え、その後窓から出現する。)
ε-12指揮官 フレイザー: いたぞ。
(チームは直ちにコーラに近づき、床板の間の超空間的な断裂を跨ぐ。屋根が縮んだようになり、下の空間が引き延ばされる。)
(チームは巨大で静的な寝室に出現する。コーラはベッドの脚に立ち、無限に続いているように見える天井を見上げている。)
ε-12指揮官 フレイザー: 何…
コーラ: (大声で) お前はいつも俺のためにいてくれた。俺…俺はお前が必要としている時にここにいてやれなかった。俺の仕事が、俺の…いや。言い訳はしない。今俺はここにいるぞ、ノア。ここにいる。世界はまだ存在する。お前の頭の中にあるこの現実は…これは現実じゃない。
不明な声: それがどうしたげんじつとはなんだここにまりあがいるかのじょがいてかのじょがひつようでここにかのじょをいさせられておまえはたいせつじゃなくておまえはあそこにいなかったけどかのじょはいたからでまりあにいてほしくてでもできなくていまはできてアレックス?
コーラ: マリアは死んだ。ただの思い出…思い出の欠片でしかないんだ。頼むよ。
不明な声: なにもわかってないおれはおまえがおれをしってるよりもおまえをしってるおれはいつもおまえのためにそばにいたこれからはまりあのためにここにいるアレックス?
コーラ: 本当にそれがお前の望むことか?ここで生きることがか?こんな…捻じ曲がった…
不明な声: かのじょにしんでほしくないしんでほしくないほしくないほしくほしアレックス?
コーラ: これは現実じゃない。俺にとっては。彼女にとっても現実じゃないだろうよ。もし手放せないなら…俺はお前とここに閉じこもったままじゃいられない。もし彼女を手放せないなら…お前は俺を手放すことになる。
不明な声: おいていかせないおれはこどくだおれのすべてはこどくでおれはおまえがこどくだからおまえがこどくをしってることをしっててこどくがおれのすべてだアレックス?
コーラ: ここには、お前の孤独な現実にはいられない。マリアの亡霊と…空っぽの人形になっちまった…ノアと。
(部屋が脈動し、壁は折り重なり潰れる。SCP-5117-1が背後に浮かぶ、死んでいるように見える女性に掴まりながら降下すると、天井が実体化し下に折れ曲がる。彼は女性の、発光しているローズゴールドの指輪を着けた手を握り締めながら、コーラに向かい手を伸ばす。)
コーラ: さよなら、ノア。
SCP-5117-1: おまえはおれをすてたおれをこどくのくるしみのなかにおいていったおまえはおれのともだちだったおまえもこどくだおれはこどくだとてもこどくだアレックス?
(コーラは後ろを向き、部屋の端に向かって歩く。彼とドアの距離は広がり、勢いで彼を後退させる。しかしコーラはドアに向かってゆっくりと進み続け、部屋の現実性が変動しているためドアへ登り始める。突如部屋が反転し、コーラはドアから離れて落下し始めるが、体を反転させ天井伝いにドアへ歩くことができた。)
(僅かに現実性が安定したことにより、チームが再出現する 。)
ε-12指揮官 フレイザー: おい。おい。おい、ムニョス、陳?
ε-12-2 ムニョス: 何なの?何処に…いつなの?
SCP-5117-1: やめろあれっくすやめろアレックス?
(ε-12指揮官 フレイザーは振り向き、部屋の反対側に朦朧状態のε-12-7 陳がいるのを発見する。陳はライフルでコーラを狙っている。)
ε-12指揮官 フレイザー: やめろ、なん-クソが!
(ε-12-7 陳はコーラに発砲し、直後コーラが部屋の中央に崩れ落ちる。)
SCP-5117-1: アレックス?
(SCP-5117-1が女性の手を離すと指輪の発光が停止し、SCP-5117-1は数メートルの高さから床に落下する。激しい破砕音が聞こえる。SCP-5117-1は痛みで叫んだ後、体を起こしてよろめきながらコーラに近づく。現実性は基底状態に戻り、指輪に吸収されているように見える。)
SCP-5117-1: アレックス!駄目だ、アレックス…起きろ。なあ、アレックス!
(SCP-5117-1は動かないコーラの体を揺さぶり、コーラの頭を強く抱きしめる。コーラは太腿の上部から出血している。)
ε-12指揮官 フレイザー: 陳、一体何だってんだ?
(SCP-5117-1は部屋を見回し、ε-12指揮官 フレイザーとε-12-2 ムニョスに気付く。ε-12-7 陳は正気を取り戻し、よろめきながら壁に下がる。)
SCP-5117-1: お前らが奪ったのか?残った現実はこれだけか?今俺にあるのは何だ、何もない!全くありゃしない!
(SCP-5117-1は泣き始める。)
SCP-5117-1: 孤独だけだ、俺にあるのは…
(SCP-5117-1は叫び、立ち上がり始める。)
(ε-12-7 陳は反射的にSCP-5117-1を左のこめかみへの一撃で終了する。)
(沈黙。)
ε-12-2 ムニョス: くたばれ、陳。
ε-12-7 陳: 俺はただ-
ε-12指揮官 フレイザー: 構うな。準備をしたら行くぞ。司令部、アノマリーの収容を確認、隠蔽班を送れ。
サイト司令部: 了解。皆よくやった。
[記録終了]
サイト運営 | |
To: <pcs.noitadnuof|2aroc-rednaxela#pcs.noitadnuof|2aroc-rednaxela> | 詳細 |
違反報告
2016年10月5日 午前7時12分
現在、アレクサンダー・ロバート・コーラ上級収容エンジニアは、財団の主要目標達成の妨害、及び/またはヴェールの崩壊を引き起こす可能性のあった、重大な懸念がもたらされる違反を少なくとも4つ犯しています。
- アノマリー発見の阻止を目的として、関連する情報を隠蔽した事
- 異常な振る舞いを監視する財団の機材を攪乱した事
- フィールドオペレーションを妨害した事
- 財団職員の人命を危険に晒した事
関連する全ての情報を検討した結果、アレクサンダー・コーラ上級収容エンジニアは記憶処理を受け、その地位を剥奪され、財団の職務から永久に解雇されることとなりました。
個人的な追記として書くが、君の違反行為はたった1つだけでも甚大な悪影響を及ぼしかねなかった。言うまでもないが、君は知的アノマリーの収容に関する専門家だ。誰よりも分別をつけるべきだろう。
私には善意でこの結論を撤回することはできない。君はカリフォルニア全土のカント監視網を破壊する可能性があった。そして、もしも収容違反が深刻化していれば何が起こっていたか、誰にも分からない。君の行動の深刻さは我々二人とも理解していると思っている。
しかし、私は今でも君がここ、財団で成した業績を評価している。君はあらゆる部門の中で、最も優秀かつ明晰な人間の1人だった。君は自分のしたことを誇りに思ったことはないかもしれないが、自分のしていることが如何に重要であるかを理解していなかったわけでは無いだろう。
君が作り出したプロトコルによって、外の世界は安全に保たれた。それこそが重要なのだ。ノアの身に起こったことは、より大きな利益のために起こったのだと理解してくれることをただ望んでいる。
幸運を、
A. キャロウェイ
サイト管理官
追伸 個人的な通信記録のサンプルを記載してほしいという君の要求は承認された。我々が戦っているのは、偏に人類を守るためだ。私は、財団が自らの活動による人的犠牲を忘れてゆくのが我慢ならないのだよ。