探査記録5119-1
日付: 2020/10/12
投入職員: D-680
注記: 本記録がSCP-5119への初の侵入となる。記録機器 1点・双方向無線機 1点・標準的な余剰空間探査キット 1点を装備したDクラス職員1名 (D-680) が派遣された。以下の指示文はD-680向けに出現した広告素材からそのまま抽出されたものであり、SCP-5119へ到達するために実行された。
- みどりのジョリーレンチャーをひとつ、その口にしまいこんで (ぜったいに出さないこと!)
- ウォルハイム通りから外れて、ドロ道を15分かけて進んで (引き返さないこと!)
- えがおを忘れずに
- あの感覚が足にあったら、左に曲がって
D-680は上述の指示に従うよう命令された。標識のない道路を直進中、下半身に灼熱感を覚えたD-680は運転していた自動車を指示通りに左折させ、SCP-5119への到達に成功した。その後、D-680はエリア-179との通信を維持したままSCP-5119へ進入するよう命令された。
D-680がSCP-5119に進入する。対象は店舗入り口に四散した瓦礫や損傷した玩具を検分する。SCP-5119-Aのイラストと「WELCOME」のテキストとが描かれた大きな看板が天井から吊るされている。
司令部: 進んで。
D-680が前進し続ける。すぐ左手に位置する通路を直進する。
D-680: ずいぶんと燃えた感じの跡があるね。火事でもあった?
司令部: 分からないわ。引き続き進んでちょうだい。
D-680が肩を竦め、宇宙をモチーフとして飾られた箱に入れられたボードゲームを手に取って調べる。カバーには装甲を纏ったキャラクターが複数描かれている。ロゴには『HIVE: THE COSMIC CHRONICLE』と記されている。箱の一角には当該のボードゲームを原作としたと思われるテレビ番組の宣伝ステッカーが貼られており、「アニメーション・ネットワークで放送中」と記されている。
D-680: アニメーション・ネットワークって?
D-680はボードゲームを床に置き、バービー人形に似たパッケージで「CARLY」と記載された人形を手に取る。
D-680: これ、パチモンでしょ?
司令部: 分からないわ。
D-680: (ため息) そっか。
D-680がSCP-5119内部を探索し続け、当ても無く店舗内を歩き回る。レジカウンターの手前で立ち止まる。カウンターには壊れたレジスターが置かれている。
司令部: D-680、気分はどうかしら?
D-680: (少しの間) まあまあ、かな?ここって… 私には分からないけどさ。昔ながらのおもちゃ屋さんって1回だけ入ったことあるの。何年も前だけど、ジャージーでの休暇中に。ちいちゃな小売店だけど、雰囲気はこんな感じだったかな。変ちくりんなオモチャを売ってたり、夢の中に出てきたりなんてこともなかったんだけど、でも、子どもの時の私はこんな場所をずっと憧れてた。
司令部: 何か体に不調を感じたりは?
D-680: うん? 大丈夫。大丈夫よ、ただ… ちょっぴりノスタルジックに浸ってる。子どもの時はあまりオモチャ買ってもらえなかったし。大人になってからこんな場所に来てるのが変な感じで。でも、その感覚はなんだかあったかいの。しっくりくるというか、えっと、私じゃない誰かの時間に紛れ込んだみたいな、そんな感じ。
司令部: そのまま前進してちょうだい。
D-680が無言で10分間進み続ける。やがてクスクスと笑い出し、歩く速度がやや速くなる。
司令部: 応答して、D-680。
D-680: なんでもないってば。(笑い声) ここがなんだか可愛くてさ。
司令部: D-680、幼少期を思い出すことはできる?
D-680: えっと、多分… どうして?
司令部: 話してちょうだい。どんな内容でも構わないけど、可能な限り詳しく聞きたい。
D-680: 待って。あー、いい思い出探さなくちゃ。(笑い声) 小1の時の先生かな… サーシェルクって先生。読み書きで助けてくれた、たくさん。テストとか、それ以外でも。うちの事情も分かっててくれてて… それだから、昼休みに呼ばれて特別に教えてもらったりしてね。あの人のおかげで私は落ちこぼれなかったんだと思う。クラスのみんなにパーティーを開いてくれたんだけど、わざわざ買いに行ってくれてたんだ、私の食べれる物を。私のアレルギーとかを考えてくれて。その1年間だけは学校が楽しめた。毎日の7時間だけ、自分を解放して、それから、えっと、現実から逃避できた。うん、これでいい?
司令部: (少しの間) そのまま進んでちょうだい。
D-680は巨大なキリンのぬいぐるみに向かって進み出す。玩具は著しく損傷しており、頭は存在しない。
D-680: (笑い声) すっごい可愛い!
D-680がぬいぐるみの背に跨る。騎乗を真似た動作して笑う。
司令部: D-680、オブジェクトからどいてちょうだい。
D-680: それってどういう意味? これ乗らずにいられる? (笑い声) ていうか、体重に耐えてるのすごくない?
D-680が咳き込む。自身の胸を何度も軽く叩く。キリンから降りて先に進む。
司令部: 具合が悪いのかしら?
D-680: いや、大丈夫。ただ喉に何か、引っかかっただけ。(咳き込み)
時折漏らす咳と笑い声を除き、5分間D-680が沈黙し続ける。回転式の商品棚へ最終的に到着する。棚にはロリポップキャンディが並べられているが、大半が腐敗しているか黒く変色している。
D-680: ここ、めっちゃ広い! 外で見てた感じよりもずっと。あ、キャンディだ!
司令部: キャンディは食べちゃダメ、D-680。
D-680: (笑い声) ダメ? (咳き込み)
司令部: どうなるのか影響が不明だから。別段の許可もなしには何も食べないでちょうだい。
D-680は興味を失った様子を呈する。遠くに位置する大きな紫色のバランスボールにスキップして向かう。
D-680: (歌う) スーパー・ビッグ・ストア〜! ひろーいストア~! どうして建てた~? 彼は見るのが好きだから〜!
司令部: D-680 —
D-680がバランスボールで跳ね始める。]
司令部: D-680、止めて —
D-680: (歌う) 遊び続けるっきゃない! このビッグストアで~! 彼に見つけられちゃった! このビッグストアで~!
司令部: リー・ジョセフィーン・ボレット。
D-680が動作を停止する。
D-680: どうしたの?
司令部: D-680、今唱えていた歌詞を繰り返すことはできる?
D-680: どういう意味? 私、歌なんて — (咳き込み)
D-680が床に倒れ込む。20秒間激しく咳き込む。対象は黒く変色した粘液を吐き出す。
D-680: うそ。(咳き込み)
対象が立ち上がる。録画機器の焦点が合い、D-680のすぐ前方の壁に小さな木製ドアが映し出される。
D-680: あそこ、入っていい?
司令部: (少しの間) 許可しない。
D-680がドアに接近する。
司令部: D-680、その扉には入ってはダメ。従わなければ処分対象になる。
D-680: (小声で) 見つけられちゃった。ビッグストアで。木のドア向こうにいるのはなぁに?
D-680がドアを開ける。前方には暗黒が存在する。対象が身をかがめてドアを潜り、空間内部に進む。穴蔵の向こう側から声が響く。
SCP-5119-A: 扉を閉めておくれ、お嬢ちゃん。
D-680がドアを閉める。突如として穴蔵の内部に橙色の光が1つ灯り、遥か彼方まで続く広々とした何もない空間が確認できる。対象が前進する。広告で確認されたSCP-5119-Aと外見的に類似する巨大な実体1体が出現する。実体は肥え太り、何も着ていない。身体とは不相応な程度に指が長く伸びている。空間の壁と床、およびにSCP-5119-Aの身体にはD-680が咳で喀出した粘液に似た粘性物質が塗布されている。D-680は動きを停止する。息を荒げる。
D-680: 一体なにこれ ─
SCP-5119-A: お前さんを痛めつけるつもりはない。まったくね、まったくないんだよ。
対象が振り返る。通過してきた穴は消失し、壁に置換されている。
D-680: アンジェラ? ねぇ、誰か?
SCP-5119-A: 心配いらんよ、リー。
D-680: なんで私の名前を? どうやって —
SCP-5119-A: (笑い声) お前のチャーリーおじさんなんだぞ、知ってて当然だろう。それにだ、こちらに心近づけるぶんだけ、お前さんをもっと分かってやれるのさ。ああ、そうとも。来なさい、そう、そうだ。お前のためにこの場所を作ったのだから。
D-680: あなた、何なの?
SCP-5119-A: ただの友達だよ。お前さんにはそういなかっただろう? リーや。友情とは万能なものではない、そのことをお前さんは早い時分に理解してしまったのだものな?
D-680: 自分の言ってることを、あなた何も分かってない。
SCP-5119-A: お前さんは誰にとっても好い友人にはなれなかった、なぁ。ジェイソンの姉として、お前は責任を感じていただろう? ほんの少し… あと少し手を差し伸べてさえいたら… 今がずいぶん変わっていたはずだと、そう思っているのだろう?
D-680: (涙ぐんで) あなたが… あなたがわかるはずない。
SCP-5119-A: 愛い子だねぇ、わかるさ。知性というものについてお前さんがこれから理解する以上に私は忘却してしまったさ。(笑い声) 後悔を理解してるのさ、私の愛しい子や。お前さんは毎日を悔いて過ごしてる。毎晩を悔いに暮れている。お前さんは後悔して… 後悔し尽くしてる。
SCP-5119-Aが腕を伸ばす。D-680が身をすくめると同時に実体は彼女を摘み上げ、長い指で撫でる。
D-680: 何が望みなの? お願いだから、放して。
SCP-5119-A: 気分を害したのなら謝ろう。この作業はな、私が心酔わされるものを確認したいというただそれだけなのだよ… 私がそれに心奪われてしまう前にね。
SCP-5119-AがD-680の背中を撫で続ける。実体が腹部を指でつつく。
SCP-5119-A: おや、いいね。申し分ない。こんなに傷ついて、こんなに悔いて。あんなに幼い頃からずっと苦しみ続けてきたんだと、そういうわけだな。もしも私がお前さんみたいな性分であれば哀れみを覚えていたのかもしれない。けれどね、私が見据えるのは未来なのだよ。リーや、お前をその苦痛から解放してやりたい。その重荷、その全部を私が担いでやろう。酷く重たく、酷く忌まわしい、その重荷をな。
突如として、D-680の口へSCP-5119-Aが指を1本突っ込む。対象が喉に指を詰まらせて咽び、実体は対象の喉のさらに奥まで指を掻き入れる。
SCP-5119-A: 重たいな。こりゃあ重たい! (笑い声)
実体が指を引き抜く。指には黒色の物質がべったりと付着している。D-680は数分に渡って、当該物質から成る大きな塊をSCP-5119-Aの手の中に吐き出す。
SCP-5119-A: 全部吐き出してしまいなさい。よくなるさ。
SCP-5119-AがD-680を床に戻す。当該実体は手を口へ運び、黒色の物質を摂食し出す。
SCP-5119-A: 美味だねえ。
D-680: ど— どうしてこんなのが、私に?
SCP-5119-A: この世が残酷だからさ、お嬢ちゃん。
SCP-5119-Aの傍にある床下扉を激しく叩く喧しい音が聞こえる。実体が笑みを浮かべる。
D-680: 何の音?
SCP-5119-A: 気にしないでいい。
音が増す。何かが下から押し破ろうとしているかのように、床下扉が震え出す。
SCP-5119-A: おやおや、お前さんをここから放すべきかな。
実体がD-680の頭に触れる。D-680が床に崩れ落ちる。次の瞬間、SCP-5119への侵入時に使用された道路近くに位置する森林地帯へ対象は転送されていた。