音声記録
日付: 2009/10/27
»記録開始«
トレントン博士: 緊張しているようですね、ミスター・ウッドコック。もし水が飲みたければ、ウォーターサーバーが後ろにありますよ。分かります、こう… これだけ多くの情報を一気に受け入れるのは難しいでしょうから。
PoI-3445: (取り乱している) 今度はメン・イン・ブラックかよ。なぁ頼む、お願いだから俺の話を普通に聞いてくれ。俺は心理戦なんかできないし、また尋問されるのは嫌なんだ。
トレントン博士: ダミアンと呼んでも構いませんか? ダミアン、我々にはあなたを逮捕するつもりはありません。それはもう済んだ話です。そして、少なくとも法律上では、あなたは潔白です。我々はただ幾つか質問があるだけです。
PoI-3445: 両親に電話した?
トレントン博士: りょ — エヘン、いえ、ご両親には電話していません。
PoI-3445は溜め息を吐き、顔を手で擦る。
PoI-3445: 助かった。オーケイ、オーケイ。アンタたちはDEATH KNIFEデスナイフについて知りたいんだろ? メン・イン・ブラックが俺を拉致する理由なんて幽霊ナイフぐらいだ。改バージョンとZバージョンのどっちで聞きたい?
トレントン博士: はい?
PoI-3445: 短いか長いか。ほら、ドラゴンボールネタだよ。
トレントン博士: いや、私はそういうネタには詳しくないので。事の発端からお願いします。必要なだけ時間をかけてください。
PoI-3445: 分かった。ええと、俺はモールで警備員をやってる。8年間務めてきた。俺はいつも、あー、武器とかそういうのに興味を持ってた。伯父さんが持ってたカタナをベッドの上に掛けてるし、割とクールなナイフトリックだって時々やる。見てくれ —
PoI-3445はセーターのポケットから一般的な包丁を取り出し、テーブルに突き立てる。
トレントン博士: (取り乱す) どっ、何処で手に入れたんですか? 身体検査を受けたとばかり思っていました。
PoI-3445: 予備ナイフだ。いつも持ち歩いてる。どんな表面に立ててもバランスが取れるぜ。
PoI-3445が手を放しても、包丁は直立したままである。
トレントン博士: その — 話を続けていただけますか?
PoI-3445: まぁとにかく、俺はこういう武器が好きなんだ。モールには“カトラリー・コレクション”っていう超イカした店があって、俺が欲しいと思える品がないか、入荷があるたびに必ずチェックしてる。ある日それをやってたら、なんか不気味な日本のナイフが目に留まったんだ。そしたら頭の中で声が聞こえて、俺には戦士の決断力がある、このナイフを買えって言うんだ。正直かなりビビったけれど、マジで最高だったね。マンガの第1話そのまんまの展開さ。あ、マンガってのは日本の —
トレントン博士: 知っています、ダミアン。
PoI-3445: そっか。どんなの読んでる?
トレントン博士: いえ、その — 話を続けてください。
PoI-3445: それで、俺はそのナイフを買った。家に帰ると、声はナイフを特定の持ち方で握れって言った。つまりこうだ。
PoI-3445はテーブルの包丁を持ち上げ、それを使って握り方を示す。
PoI-3445: すると、シノビ鎧を着た金属のガイコツ男が出て来たんだ。もしジョジョ見たことがあるなら、スタンドみたいな感じ。そいつはハンゾウって名前の、古代のサムライの幽霊だと名乗った。血への飽くなき渇望、日本文化の知識、軍人としての経歴、そして何年もの戦闘経験を見込んで、俺を主あるじに選んだと言ってくれた。もうスゲークールだった。
トレントン博士: 軍の人事記録によると、あなたは基礎訓練の1ヶ月目で無断離隊したそうですが。
PoI-3445: 1ヶ月あれば山ほど学べる。
トレントン博士: 何年もの戦闘経験というのは?
PoI-3445: うん、俺も最後には、どうもこいつは俺のビデオゲームの力量を褒めてるらしいと気付いた。ええと、アサシンクリードって知ってる? 俺はあれから路地での戦い方をかなり学んだんだ。あとHalo 3の難易度レジェンドも4回クリアした。俺は1週間ぶっ続けでハンゾウに腕前を披露した。一緒にゲームしたりアニメ見たりしただけだけど。ハンゾウはそれがある種の魔法で、俺は別の世界で闘ってるんだと思ったらしい。ちょっとイカした考え方だから俺はそう思わせておいた。
トレントン博士: この実体について詳しく説明していただけますか?
PoI-3445: ハンゾウは、あー、大体800歳ぐらいかな。俺が主に相応しいと納得した後、悲劇的な身の上話を教えてくれた。ずっと昔、異国の魔女が日本にやって来て、魔法で何もかもをメチャメチャに荒らし始めたそうなんだ! ハンゾウは生徒のニンジャたちと一緒にその女と闘わざるを得なくなって、生徒たちは全員殺された。ハンゾウは強い罪の意識を感じて、自分もその場で殺してくれと魔女にすがった。でも魔女は代わりに、自分が持ってた呪いの刃にハンゾウの魂を封じ込めて、宝箱にしまい込んじまった。月日が流れて何やかんやあって、最終的にDEATH KNIFEは俺が働いてたモールに辿り着いた!
トレントン博士: そのDEATH KNIFEというのが刃物の名前なのですよね。
PoI-3445: 俺が自分で考えた! 綴りは全部大文字だから、アンタのクリップボードにもそう書いといてくれ。触れたものを完璧に殺せるナイフだからそう呼んでるんだ!
トレントン博士: 明確にしておきたいのですが、あなたは… 今日の事件以前にはオブジェクトを使用していませんね?
PoI-3445: ハンゾウは使い方を教えてくれたけど、ああ、今日まで一度も使わなかった。ハンゾウが言うには、刺し貫かれた者は苦悶する見放されし者どもの地、ってのはつまり遊☆戯☆王の闇の世界みたいな場所に送られるらしい。影と苦しみに満ちた、見捨てられた次元! DEATH KNIFEが救われざる魂の境域に1,000,000の命を送り込まない限り、ハンゾウは絶対にこの金属の檻から解放されない。あいつは解放されるために、そしてもう一度生徒を指導して誇りを取り戻すために、俺の助けを必要としていた。
トレントン博士: それを聞いてどう感じました?
PoI-3445: なかなかイケてる裏話ではあったよ、でも俺にはちょっと荷が重いと思ったね。1,000,000の魂ってのは相当な数だし、俺には純粋にそれを成し遂げるだけの時間が無い。代わりに、こう、Space Hulkの遊び方なんかを教えられるって話はしてみたけど、ハンゾウは俺を特訓するのにこだわった。数百年前に失った生徒たちへの罪滅ぼしのつもりだったと思う。
トレントン博士: それで、あなたは実体の訓練を受け入れましたか?
PoI-3445: その話は明日にしてもらえないか? 超疲れてるんだ。
トレントン博士: あー、いいでしょう、ダミアン。いずれにせよ、私のチームがオブジェクトに幾つか実験をする予定です。明日の朝、今の続きから始めましょう。
PoI-3445: 携帯返してもらえる?
トレントン博士は耳に手を当て、通信機のスイッチを押す。
トレントン博士: 残念ですがそれは無理です。アング、終わりましたよ。クラスBは片付けてください、必要ありません。
PoI-3445: あれが無いとログインボーナスが貰えないんだよ。ちょっとだけでいいからさ?
トレントン博士は椅子から立ち上がる。
トレントン博士: 今夜のインタビューはここまでとします。退室時に予備ナイフは引き渡してくださいね。
»記録終了«
研究者メモ: 異常な状況に直面した一般人にも拘らず、対象はほぼ前例の無いレベルの受容性と自信を示しました。これが愚かさによるものか、正真正銘の勇気なのかは分かりかねます。とにかく、ちょっとした問題が見つかりました。PoI-3445が過去2ヶ月以上にわたってSCP-5175を所持し、その間にSCP-5175-1とも対話していたのを考慮すると、通常の記憶処理の効果は見込めません。対象は現在、専門的な記憶処理治療の同意が得られるまで、独房C007に拘置されています。インタビューは明日も続きます。Dクラスへの配属を検討すべきでしょうか? - トレントン博士