
ライプツィヒで開催された2006年度“Spacescape”LANパーティー。SCP-5203-22が生成される直前の写真。
アイテム番号: SCP-5203
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 1体のSCP-5203個体(現在はSCP-5203-22)が標準的な収容庫に保管されます。電磁気的な伝導を防ぐため、収容庫はファラデーケージの内部に配置されます。この個体には電力を供給し、電源が入った状態に保ちます。
電子機器関係のコンベンション、大規模なLANパーティー、インターネットカフェ、その他の類似する集まりは、SCP-5203個体の形成に備えて監視されます。SCP-5203個体が形成された場合、集会を解散させ、目撃者に記憶処理を施し、接続されたコンピュータを全て分離してSCP-5203個体を無力化します。
SCP-5203個体にインタビュー、またはその他の会話形式の交流を行う際は、質問者は訓練を受けた心理学者を同伴しなければいけません。SCP-5203個体への譲歩は認められず、また当該個体の如何なる要請にも応じるべきではありません。

出現するSCP-5203-22 [右の画面]。
説明: SCP-5203個体は、一般的に何らかの技術的競争、特にビデオゲームやEスポーツに関連する論争の現場に出現するヒト型の異常実体です。SCP-5203は論争の直後、その関係者が使用しているモニター/ディスプレイの画面上に形成され、その後も意見の相違が続くと物理世界に実体化します。物理世界に出現したばかりのSCP-5203は、オリーブ色の肌と滑らかな髪を有する若い男性に似ていますが、実際の人間とは幾つかの違いがあります。この時点でのSCP-5203個体は、現代のレンダリング・ソフトウェアで作成されたものと類似する、ポリゴン数の多い三次元モデルの姿です。これは堅苦しくぎくしゃくした動きに加えて、SCP-5203の全ての体表面が光沢を帯びた半反射性の外観を有することでも明白です。SCP-5203個体の主な異常性は個体ごとに異なりますが、ある種の一般的な映像の乱れが例外なく関与します。さらに、SCP-5203は常に低レベルの電磁波を放出し、周囲のBluetooth、赤外線、NFCなどの無線接続手段に干渉します。これは近くで発生する言い訳の数を増加させるためだと考えられています。
SCP-5203個体は、文書5203-Tに詳述されるものと似たフレーズ1に続いて出現し、やがて身体が不透明になり、10~30回の声明(内容の深刻さによる)に続いて完全に実体化します。物理世界における具現化が進行すると、SCP-5203の姿は変化し始め、視覚だけでは検出困難になります。これは通常、SCP-5203個体が非異常な人間に合わせて皮膚の質感を変更し、逆光や反射性を失うことから開始します。また、多くのSCP-5203個体の衣服は出現地点に照らして適切なもの — ロゴ入りのTシャツや、2件の事例においてはコスプレ衣装など — に変化します。
補遺1: 創造と増殖: SCP-5203の最初の媒介物だった“カドゥケウス・ユニバーサル・ターボコントローラー”は、アルカディアによって1989年から1992年まで製造、頒布されていました。開発期間を通してハードウェア及びソフトウェアの不調が相次いだため、アルカディアのエンジニアたちは異常な接続手段に着目しました。
補遺2: アルカディアの開発メモ
補遺4: 2004/10/02 インタビューログ:
回答者: SCP-5203-22
質問者: シーザー・ディロサリオ次席研究員
背景: SCP-5203-22は、前述したアルカディア開発メモの発見後、最初に収容されたSCP-5203個体だった。
序: “Spacescape”LANパーティー後の観察中、SCP-5203-22は様々な言語で発声し始めた。ディロサリオ次席研究員は財団での経験をあまり積んでいなかったが、当該異常存在に近接していたため、SCP-5203-22に即興でインタビューを実施することを、収容主任のバノック博士から許可された。他全てのSCP-5203個体と同様に、SCP-5203-22は最初のうち、様々なコイネー・ギリシャ語とラテン語の方言で話していた。これらは読み易さを考慮して翻訳されている。<記録開始>
ディロサリオ次席研究員が双方向通信マイクのスイッチを入れようと試み、収容チャンバー内にリバーブが響く。
SCP-5203-22: Χαίρετε?2ディロサリオ次席研究員がマイクのスイッチを入れる。
ディロサリオ: もしもし? 聞こえますか?
SCP-5203-22: Salve, lacertula3
ディロサリオ: あー、その… avresti parlato inglese?4
SCP-5203-22: 粗野な言葉だ。
ディロサリオ: うわっ– いえ… 失礼しました。
SCP-5203-22: 何故君たちは僕を猟犬のように追い回す? もし疑問があって、答えが見つからないままなら — それらを聞くべきじゃないのか?
ディロサリオ: オーケイ… あなたはアルカディアのコントローラーとどう関わったかを覚えていますか?
SCP-5203-22: 彼らを“アルカディア”と呼ぶな。僕はアルカディアの子孫だ、あの山は僕が生まれた場所だ。僕を幽閉した者たちは何も気に掛けようとしないし、その称号に値しない。
ディロサリオ: ではその… 幽閉者たち… 彼らはどのようにあなたを捕まえたのですか?
SCP-5203-22: あの愚か者たちはドーロス5のような策略で僕を陥れた。彼らはオリンポスの神として僕を崇めた — コンスタンティヌスの時代以来、渇望していた歓びだった。僕は彼らへの恩恵を施し、彼らは蜜蜂が巣に蜜を集めるようにそれを集め、ネズミが果実を隠すように僕の好意を貯め込んだ。
ディロサリオ: コントローラーが何故このようにあなたを召喚するかをご存じですか? この現象を止める手段は無いのでしょうか?
SCP-5203-22: 彼らは今や自分たちの“カドゥケウス”で僕を嘲笑っている。本来のカドゥケウスは幸運や癒しの力を持つ杖だ。ところが電気を弄ぶあのトリックスターたちが作った物は、使い勝手の良い紙切れをかき集める乗馬鞭でしかない。彼らは僕の力をつまらない道楽に浪費し、しかもその力は僕に返らない。マルキア水道と同じように、この惨めな殻の中以外には、あれは僕の本質を1滴たりとも零さない。
ディロサリオ: では、この姿は実際のあなたではないのですか? “残響”エコーのような何か?
SCP-5203-22: 僕は自分の仕える女王に呪われたオレイアスかだって?6 否、僕は反射像、自らの子供だ。僕は人間のくだらない傲慢さには耐えられない。だから君たちが自分の欠点を取り繕おうとする時、僕は君たちに立ち向かう。
ディロサリオ: だからあなたは、人々が…えー、より良い言葉が無いのでこう表現しますが、“コントローラーのせいにする”と現れるのですか?
SCP-5203-22: 人間は不平等な生き物だ。生まれながらにしてそうであり、自ら好んでそう振る舞う。肉を巡って不平を言い、火を巡って不平を言い、洪水とオリーブと死を巡って不平を言う7。かつてテレマコス8は自分の剣を、プシュケー9は自分の指を、カイネウス10は自分の容姿を責めたか? 否、勝利や死を経て、彼らは英雄になった。人間の最大の欠陥は、自分に欠陥があるのを認めようとしないことだ。欠陥が無ければ、君たちは変化しない。変化が無ければ、君たちは干からびた朽ち木以外の何物でもない。蛇の魂を持つ者に与える慈悲は無い。この形の名残は弱いが、アケローン川が海に流れ込む時、僕はヒュブリス11の従者たちを迎え撃つだろう!
僕は商売と成功の神、富裕なるメルクリウス。伝達と旅人の神、賢智なるメルクリウス。幸運と盗人の神、強大なるメルクリウス。だが、もう僕は薬と健康の神、寛容なるメルクリウスにはならない — 人類が成功を受け入れず、幸運を認めず、変化を拒むのならば、君たちは僕の祝福に値しない。カドゥケウスは再び僕の物となる。
このインタビュー以降、SCP-5203-22は会話を拒み、あらゆる意思疎通の試みに各種の古風な侮辱や罵倒語でのみ応じている。今後のインタビューを容易にするため、SCP-5203-22にはヒト型生物長期収容措置が取られている。
記録終了