
SCP-524-JPの入口となる廃墟、写真では異常性は確認できない。
アイテム番号: SCP-524-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-524-JPの入り口となる廃墟は、周囲を閉鎖した上で警備員による監視と管理を実施してください。警備員は右目を損傷させたDクラス職員をあててください。廃墟周辺は常時監視を行い、SCP-524-JP内の生命体と考えられる実体を確認した場合は機動部隊による対処を実施してください。現在探査試験の計画は停止されています。
説明: SCP-524-JPは左目でのみ視認可能な異空間です。SCP-524-JPの入り口は██県市内の廃墟内に存在しており、両目で廃墟内部を視認すると廃墟内の風景に重なる形でSCP-524-JPが確認できます。両目で視認する限りにおいてSCP-524-JPに相互干渉することはできません。廃墟内で右目を閉じることでSCP-524-JP内の風景を鮮明に確認することができます。さらに右目を閉じた状態を続けるとSCP-524-JP内に侵入し、匂いや音を感じることが可能となります。SCP-524-JPに侵入した人物は現実世界から消失せず、外部より観測すると見かけ上同じ場所にいるように見えます。侵入した人物とは会話や通信などのやり取りも相互に行うことができます。また、基本的に侵入している状態であっても右目を開くことでSCP-524-JPから即座に脱出することが可能です。SCP-524-JPと現実世界では地形や構造体などに差異があり、侵入した人物の挙動によっては現実世界の地形や構造物に"めり込む"ことがあります。めり込んだ状態で右目を開いて現実世界へ帰還すると、めり込んだ部位が消失します。眼帯で隠すなどして右目が見えない状態で廃墟内に入った場合はSCP-524-JPを確認できず、侵入することもできません。
SCP-524-JP内には、通常の生態系において未確認の節足動物及び軽度の知性を持つと考えられる知的生命体が棲息していることが確認されています。SCP-524-JP内の生命体及び内部に存在している物品はSCP-524-JP内に侵入することでのみ視認することが可能です。SCP-524-JP内の生命体はいずれも侵入者の右目を損傷させるような敵対的な行動を取ります。右目を損傷するなどして右目の視力を失ったケースにおいて侵入した人物の帰還は成功していません。未帰還の人物についてはSCP-524-JP内の生命体により捕食されたり、現実世界の地面下の座標へ運ばれたりすることで姿を消しています。
SCP-524-JPは入り口の廃墟内だけでなく廃墟外部にも存在していることが確認されていますが、明確な範囲は判明していません。SCP-524-JPの入り口である廃墟はSCP-524-JP内においては一本道の洞窟の中腹に位置しています。洞窟は前後いずれの道も下り坂になっているため、進んでいくと現実世界よりも低い位置へ移動することになります。このため探索を進めると侵入した人物を観測し続けることが困難となります。これまでDクラス職員と機動部隊による探査が実施されましたが、いずれもSCP-524-JP内の敵対的な生命体による攻撃を受けて壊滅しており、これ以上の探査試験はさらなる人的損耗が予測されるため停止されています。特に、最後の探査試験においてSCP-524-JP内の生命体がSCP-524-JP外の観測班に危害を及ぼしており、探査自体がSCP-524-JP内の生命体の現実世界への侵入リスクに繋がると予測されています。
探査ログ524-JP-01 - 日付 20██/██/██
SCP-524-JPの特性を調査するためにDクラス職員(D-524-JP)に探査を行わせた。観測班は廃墟外よりD-524-JPを観測している。
<記録開始>
D-524-JP: 何だかけったいなところだな、景色がダブって見える。で、どうするんだ。
観測班: 右目を閉じてください
D-524-JP: 了解、おお、何だこれ。洞窟の中が見える。ありゃ、先生たちがいない。
[観測班はD-524-JPの姿と音声を観測している。]
観測班: こちらの声が聞こえますか。
D-524-JP: ああ、いないけど聞こえる。え、もしかして俺、このままなのか?
[D-524-JPは右目を開ける。]
D-524-JP: お、大丈夫だ、先生たちが見えるぞ。
観測班: 勝手な行動はやめて下さい。しかしまあ、こちらに戻るのは容易であるようです。また右目を閉じて周囲の状況を説明して下さい。
D-524-JP: すまんすまん、了解。[右目を閉じる。]さっき言ったみたいに洞窟の中みたいだ。暗いが見えない程ではない。よく見ると周りに虫、みたいなのがうじゃうじゃいる。気持ち悪い。
観測班: 捕まえることはできますか?
D-524-JP: うーん、嫌だけど仕方ない、やってみる。[周囲を歩き回り何かを掴むような動作をする。]うげ、気持ち悪。蜘蛛っぽいが、何だろう見たことないな。頭の右半分がない。そっちに戻ったら連れていけるんだろうか。
[移動したことでD-524-JPの足が地面にめり込んだ状態にあることを確認した。]
観測班: ちょっと待ってください、さっきの場所まで一旦戻ってから右目を開けてください。
D-524-JP: 了解。[先ほどの位置まで戻ってから右目を開ける。]ありゃ、いないな。
観測班: 分かりました。一旦中断してさらに実験を進めます。
<記録終了>
探査ログ524-JP-02 - 日付 20██/██/██
Dクラス職員(D-524-JP)を用いてSCP-524-JP内に出入りした際の挙動を調査した。
実験記録524-JP-01
使用物品: 木の棒(現実世界)
実験内容: 木の棒の先端を地面に"めり込ませ"、SCP-524-JPから脱出させる。
実験結果: めり込んだ部分が消滅した。SCP-524-JPに戻ったが先端は消失したままだった。地面を掘っても消えた部位は確認できなかった。
分析: 不用意にSCP-524-JPより脱出するのは危険であると判断する。Dクラス職員を損耗しなかったのは幸運だった。
実験記録524-JP-02
使用物品: 木の棒(現実世界)
実験内容: 逆に、SCP-524-JP内の岩に木の棒の先端が重なるようにしてSCP-524-JP内に侵入した。
実験結果: 先端部は消失せず、逆にSCP-524-JP内の岩が削られた。
分析: こちらの世界とSCP-524-JPとでは挙動が非対称となっていることが分かった。侵入した時に何かがめり込んで損傷を与えることはなさそうだ。
実験記録524-JP-03
使用物品: 石(SCP-524-JP内)
実験内容: SCP-524-JP内の石を持ったままSCP-524-JPより脱出した。
実験結果: 石が消失したとのこと。観測班は終始石を確認できなかった。
分析: SCP-524-JP内のものを現実世界に持ち帰るのは困難、あるいは不可能と判断する。
実験の結果、SCP-524-JPと現実世界との挙動の関係性が判明しました。この情報を参考とし、Dクラス職員を用いてさらに探索を続けることとしました。
探査ログ524-JP-03 - 日付 20██/██/██
Dクラス職員を用いたさらなる探査の実施。より広い範囲の探索を目的としている。
<記録開始>
D-524-JP: はい侵入、スリルがあってなかなか楽しいかもしれないな。
観測班: 不注意に右目を開けると足を失いますよ、注意してください。こちらが安全と判断したところで帰還して下さい。
D-524-JP: 了解。何だか虫が増えてきた気がするな。地面の這ってる奴以外にブンブン飛んでるヤツもいる。
観測班: 急に大きく動くとこちらでも捕捉できなくなるので、ゆっくり進んでください。そちらの移動可能な範囲が分かるよう、少しずつ歩く範囲を広げてください。
D-524-JP: 了解。とりあえず行けるところまで行ってみるか。
[数分間周辺を歩き回る。廃墟入口周辺から洞窟を進むと下り坂になっていることが分かる。]
D-524-JP: 虫が鬱陶しいな。見えないがやたら右の方から羽音が聞こえてくる。間違えて目を開けちまいそうだ。
D-524-JP: 痛!
[D-524-JPは突然右目を抑えてうずくまる。]
観測班: どうしました?
D-524-JP: 瞼を何かに刺されたみたいだ。いてててて。
観測班: 大丈夫ですか?一旦戻りましょう。その位置なら帰還に問題はありません。
D-524-JP: そうだな、いたたた。あれ、右目が開かない。
[D-524-JPの顔を確認すると右瞼が腫れあがっており、右目が塞がれた状態にあった。]
D-524-JP: あれ、これヤバいんじゃ、どうすんの、戻れないんだけど。
観測班: 恐らく蜂のようなものに刺されたようですね。少し待ってください、今治療します。
D-524-JP: 先生、お願いします。虫がエラい集まってきた。ちょっと、ヤバいぞ。こっちに来るなよ。
[D-524-JPは虫を振り払う動作をしながら移動する。]
D-524-JP: ちょっと待て。おい、さっきまでこんなにいなかったぞ、痛!また刺された。いたたたたたたた。
観測班: 落ち着いてください、とりあえず逃げて下さい。
D-524-JP: 無理無理!クソ!顔ばっかり刺しやがって!いってえ、血までれれきやがった、たしゅけてくれ。
[D-524-JPの呂律が回らなくなり、痙攣しながら倒れこんだ。]
D-524-JP: ちからがはいらない、せんせぇたすけてくれ。
[D-524-JPの顔の右半分が血まみれになっていく。]
D-524-JP: めが、たしゅけ―ー
[D-524-JPの右眼窩が露出し、完全に右目が潰れているのが確認できる。その場で治療を試みたが、その間も捕食が続いているとみられた。D-524-JPは弱弱しく振り払うような素振りを見せていたが、数分後動きを止めた。出血は顔だけでなく徐々に全身に及び、やがて出血多量で死亡した。死亡後も捕食は続き、1時間後には大部分の皮膚及び筋肉が消失した。]
<記録終了>
探査ログ524-JP-04 - 日付 20██/██/██
機動部隊3名(アルファ隊長、ブラボー、チャーリー)によるSCP-524-JP内の探索、先のDクラス職員による探索の結果をもとに装備を揃え、より広い範囲の探索を試みた。
銃火器等の標準潜入装備に加え、SCP-524-JP内の生命体からの攻撃を防ぐためにヘルメットを装備している。
<記録開始>
アルファ: 侵入開始、確かに見たことのない虫がうようよいるな。侵入に問題はないか。
ブラボー: オーケー。装備の持ち込みも問題なし。
チャーリー: 同じく。とりあえず焼き払ってみますか。
アルファ: よし、勢い余って元の場所まで焼かないように。
[チャーリーが装備していた火炎放射器を使用する。]
アルファ: よし、こんなもんだな。引き続き注意しながら進むぞ。
[3人は移動を始める。観測班はなるべく3人を捕捉できるように追従するが、進むとともに3人の頭だけが見えている状態となる。]
アルファ: 観測班、こちらを視認できているか?
観測班: かろうじて頭だけが見えています。そこで目を開いたら即死するので注意して下さい。
アルファ: 了解。恐らく100m程度は進んでいるようだが、すでに廃墟の外だろうか。
観測班: はい、その空間は廃墟内だけではないようですね。どれだけ広がっているのか検証しましょう。
ブラボー: 何らかの気配を感じる。2人ともどうです?
アルファ: 右に何かいるような気がする。[周囲を見回す。]うーん、見えないな。3人でカバーしているがどうしても死角ができる。注意した方が良さそうだ。
チャーリー: 同じく見えません。片目を閉じていると視野が狭まって不安ですね。虫かな。また集まってきている気はします。
[3人とも警戒しながら進んでいるとみられる。探査開始から5分程度経過。]
アルファ: 洞窟の終わりが見えてきた。おお、原始的だが集落のようなものがある。
ブラボー: 何が住んでいるんですかね、虫みたいに攻撃的でなければいいですけども。
チャーリー: ん、 誰か今私に触った?
アルファ: チャーリー!左に回避行動!
[チャーリーの頭部が大きく左に移動する。]
チャーリー: [叫び]、クソッ殴られた!
アルファ: 化け物だ!クソ、どこへ行った。観測班、人型実体を確認した。詳細は未確認!
ブラボー: 死角を作るな!見えてないところに弾幕を張れ!
[銃声に混じり打撃音、ブラボーの生命反応が急速に弱まったことを確認した。]
アルファ: ブラボーがやられた!アイツはもう駄目だ!チャーリー戻るぞ!走れ!
[アルファとチャーリーの頭部が廃墟方向へ移動する。]
チャーリー: 観測班!あとどれだけで戻れる!?
観測班: あと200m程です!こちらから合図します。
アルファ: [激しい息遣い。]1つ目の化け物だ!クソ!
[アルファの動きが止まる。首を掴まれているとみられ、抵抗しているがヘルメットが外される。]
アルファ: 放せ!クソ!よせ!ここはダメだ!
[アルファの右目が強制的に開けられる。胸から下部分が消失し、アルファは即死した。]
チャーリー: [激しい息遣い。]隊長!、クソッたれ、まだか、足の、一本くらい、くれてやる。
観測班: もう少しです!
[観測班との交信の2秒後、チャーリーの身体が大きく左に飛んだ。ヘルメットが破壊され、顔面に損傷を負った。]
チャーリー: 痛、ああ、目が、あああああああ!こっちに来るな!
[チャーリーは銃撃を行い応戦していると見られる。しかしやがて捕捉され、ヘルメットを脱がされる。]
チャーリー: ぐがが、放してくれ、いだだだ。
[チャーリーの右顔面が引きちぎられ、生命反応が消失した。その後、顔面を含むチャーリーの死体は集落の方向に運ばれていき、地面下に移動したことで捕捉できなくなった。]
<記録終了>
探査ログ524-JP-04に示すように3人の機動部隊員はKIA、あるいはMIAとなりました。現場検証のために観測班2名が留まり調査を続けていましたが、うち1名が殺害されています。遺されたカメラには殺害される直前に撮影されたと思われる人型実体の画像が保存されていました。なお、人型実体の消息は不明です。
殺害された職員周辺の血痕を調査したところ、先の探査の際にKIAとなったチャーリーの生体情報が確認されました。上記写真と探査時の隊員による証言とでは人型実体の外観が一致していませんが、これは損耗した人員の身体の一部を取り込んだことが理由であると考えられます。探査が失敗した場合、損耗した人員の身体を利用してSCP-524-JP内の人型実体が現実世界へ侵入する可能性が示唆されます。このため、再度の探査計画は停止されています。