アイテム番号: SCP-5280
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: グレンデール自営農園を含む残余未耕地は、農業用不動産の売買を専門とする財団フロント企業を通じて買い付けられました。グレンデール自営農園が人口密集地域内に位置しているため、有刺鉄線フェンスを利用した農地の囲繞からなる、その時代に合った形式で人目を忌避するだけの低レベル収容システムが承認されています。
SCP-5280実体が含まれる巣は農場から可能な限り撤去し、サイト-68内の臨時養蜂部門に置き直されます。農場家屋内の脆弱な部分に作成された巣は家屋の構造的崩壊を防ぐために移動させません。コロニーの維持およびに全体的な世話を目的として、サイト-68の基幹要員である養蜂家がグレンデール農場内へ常駐されています。
説明: SCP-5280は、ダエーバイト園芸1に広く関連する、異常な改良が施されたApis mellifera(セイヨウミツバチ)です。基準種であるA. melliferaと比較して、SCP-5280は重要かつ異常な特質をいくつか有します。
- 寒冷気候への順化 — 基準種のA. melliferaと比較して、SCP-5280実体は極めて寒冷な気候でも生存可能です。このことにより、ダエーバイト帝国はシベリアを含む広範な地域を領土として拡張できたと推測されます。
- 巣作り — SCP-5280が作る巣(人工の養蜂箱を与えない場合に見られる)は典型的に大きなものとなり、高度な建築的構造を呈します。巣の拡張が可能な場合、SCP-5280の巣はダエーバイトの神殿または他の文化的に重要な建造物に類似した構造をしばしば有します。
- 園芸授粉 — ダエーバイトの園芸植物の大多数は自然繁殖が不可能であり、外界の送粉者を必要とします。しかし、非異常の生物ではほとんどがこの役割を担うことはできず、手作業とSCP-5280のみがダエーバイトの異常植物の授粉を可能とします。
- 植物の改変 — これまでにダエーバイトの園芸技術およびSCP-5280による改変を受けていない植物もSCP-5280との相互作用2により改変されます。これらは一般的には非異常な変化であり、ダエーバイトの園芸技術で施される更なる改良の前準備となります。既に改変済みの植物も再度改変されることがありますが、何によりその違いが生じるかは不明です。
現時点でSCP-5280のコロニーは2つ存在します。1つはオリジナルの個体群であり、イギリス、██████のグレンデール自営農園に位置します。もう1つはオリジナルコロニーからの分派であり、グレンデール自営農園から取り分けられてサイト-68養蜂場に移植されました。ダエーバイトの神殿の形状をした巣の文化的・史学的な研究意義を勘案して、オリジナルの個体群をグレンデール自営農園に残すことが許可されました。
基準種のA. melliferaと完全に同一の行動を示すことはSCP-5280に典型的です。しかし、SCP-5280個体が別のHymenoptera(膜翅目)の巣を発見すると、コロニー全体の個体が攻撃的になり他の巣を襲撃します。ただし、SCP-5280は効果的な防御手段を基本的に持ちえず、SCP-5280の巣は自身の攻撃的行動または攻撃対象である膜翅目昆虫からの反撃により破壊されます。
SCP-5280がいかなる方法で創造されたか、その詳細は不明ですが、SCP-140-A3がグレンデール自営農園の創立者であると確信を以て考えられています。これが事実であるならば、SCP-5280はSCP-140が造本される以前に創造されたこととなり、ダエーバイト文明を復興するための代替的な試みの1つであった可能性が挙げられます。
SCP-5280の再現にまつわる正確な背景は全く判明していません。初期段階と思われるSCP-5280の改良を示す証拠写真がグレンデール自営農園で発見されていますが、この証拠写真からは基底現実の人類との共存関係が示されています。SCP-140-Aがグレンデール自営農園で非異常の人々と共存していた場合、その行動パターンは通常見られる特徴から異なっていたものと推測されます。
補遺5280.1 — SCP-140からの抜粋
以下はSCP-140からの抜粋です。ダエーバイト文明におけるSCP-5280の活用、およびにSCP-140-Aによるグレンデール自営農園でのコロニー再確立の試みについて記述しています。以下のセクションは、2003年に生じた収容違反によるSCP-140の記述拡張で生成されました。
小さき巫女らThe Little Priestesses4は、言うに及ばず、帝国の存続に必要不可欠であった。我らの創り出した多数の傑作のうちの幾つかは、彼女ら抜きには成されなかったことであろう。我らの花園はこの世界のいずれのものとも異なり、我らの花園は我らの兵仗と軍勢を生み出す。そして、我らの花園を世話するのは小さき巫女ら以外にありはしない。
なぜその名か? 彼女らは自らの棲処を我らの宗教に模した。巣を切り開いてみたならば、その内部が我らの神殿のそれと完全に同じであることに気がつくであろう。女王が正面に座し、まるでそこは皇后やその世継ぎが礼拝に赴く場所である。私自身、その玉座に腰を下ろしたことが幾度とある、1匹の小さき蜂のように。
彼女らは数多の点で我らを模倣していた、そう認めざるを得ない。母権社会、武器、秩序。ひとつの巣の中に帝国の全てを映し出す小さき鏡があるとは、なんと可笑しきことか。そこには我らの文化、生活、営造物、宗教が包み込まれていた。言うなれば、我らの文明の骨子となる部分そのものなのだ。
いかなる時でも我らが最初に新天地へ持ち込む物、そのひとつが彼女らであった。であるからに、血の薔薇から雫の滴るを目にした際には、そこが新たな住まいとなることが理解できた。彼女らは外界に飛び出でて、蜂というものが営むこと全てを為す。そして、それに呼応するかのように風景も変容し始め、転回し折り重なって新たな美しき創造物となるのを見よう。大傑作はそのすぐ後に続く。
私が帝国の栄光を取り戻そうと心して試みた第一歩は小さき巫女らにあったと思う。当時は、それが最も論理的な出発点に思えたのだ。しかし、その計画にはあまりにも多くの外的因子があった — 同盟者どもの裏切り、不快な場所、蘇る嫌な記憶 — 畢竟、それらを原因に全てが破綻してしまった。それならそれで、まあ良しとしよう。
補遺5280.2 — 実験ログ
SCP-5280の有する植物の改変特性を試験するため、SCP-5280に曝露させて様々な植物種に改変を触発させました。
試料: Rosa chinesis(チャイナローズ)12株、花壇に植栽。
結果: バラの棘から、外見およびその他性質において人間の血液と極めて類似した粘性液を棘から分泌され始めた。当該の粘性液の化学的組成は良質な肥料を示した。儀式的な実験により、SCP-140に記述される様々な隠秘学的儀式に対して当該の粘性液が人間の血液の代替として利用可能であることが示唆された。
試料: Larix decidua(ヨーロッパカラマツ)1本。
結果: 外的成形を経ず、樹木の複数部分が人間の体躯の形状に自ずと成長し始めた。改変のプロセスは遅緩であり、組織の改変が完了するのに3年以上の時間を要した。
当該の樹木に生成された人体には一切の異常はなく、動き出すこともなかった。四肢はより発展的なダエーバイト園芸技術には活用できなかった。
試料: Citrus reticulata(マンダリンオレンジ)1本。
結果: 初めは外見的変化が見られなかった。当該の樹木に結実するオレンジは内部が極端に改変されていた。
マンダリンオレンジは種子が点在しているのが典型的だが、当該の果実は中心に種子を1粒だけ有している。それぞれの種子は、精巧性には欠くものの、ある特定の女性の頭部を模したと思われる彫刻様立体構造を呈した。うち多くの種子には、当該人物が統治者であることを示すレガリアを模した構造も見られた。
これらを植えたところ、いずれの種子もC. rendiculaの木に生長した。先と同様に種子も得られたが、ダエーワ的特徴が露悪的に強調されて付加されていた。第3世代になると、いずれの種子も人間の顔とかけ離れたものとなっていた。
付記: 後述の実験は、SCP-5280に大量の試料を改変させることを意図して実施された。以下の試料をSCP-5280に1年間曝露させている。
試料: Buxus sempervirens(セイヨウツゲ)約30株、未改変かつサイト-68の整形式庭園に植樹。
結果: 全てのB. sempervirens標本が改変されることにより、特異で広がりのある光景が形成される。光景は複数の人型標本や建物型標本で構成されている。ダエーワ(様々なポーズで悲嘆に暮れている)と兵士(ダエーワを攻撃している)から成る2つのグループに人型標本は分けられる。改変された整形式庭園は卓越した芸術的技巧で形成されており、非異常な手段では不可能なほどに細部まで作り込まれている。
SCP-140からの情報に基づくと、紀元前2██年に中国の武将であった秦開が起こしたダエーワの虐殺が表現されていると考えられる。SCP-140が造本された際、ダエーバイト文明の終焉の日として最初に与えられたのがこの情報である。
付記: グレンデール自営農園の土壌からPrunus persica(ハナモモ)の種子が発見された。SCP-3925と関連する仮説が立てられ、以下の実験が実施された。
試料: SCP-392、1実体。
結果: SCP-392実体に結実した頭部は人語の発話が可能だった。加えて、SCP-392に結実する他の頭部と異なり、当該の頭部は両目と耳小骨を欠損していた。頭部は低使用域ダエーバイト語での独言を幾つか発した後、種々の奇形を原因に程なくして死亡した。以下は翻訳となる。
我が帝国の栄光が為に! 宇内を超越し、真理をも超える栄光が為に!
戻り給え、戻り給え、我が君よ。
過去は冒涜すよりも、銘肝し尊重すべし。
此れは布に付けられた1点の染みとしか言いようがない! 濯ぐことも能わず、さりとて一様にせんと染みを広げることも叶わず。
我らの遺産は失敗の遺産だ。幾度なく試みようとも避けられはせず。我が娘よ、過去のその先を見据えよ。さもなくば繰り返すこととなろう、幾度なく、幾度なく、幾度なく。