SCP-5284
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図1.1: SCP-5284 (月の向こう側に一部が視認できる)。写真は2015年3月4日に撮影。

アイテム番号: SCP-5284

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: UNOOSA1に配属された財団工作員はSCP-5284の経路と位置を監視し続けます。SCP-5284の進行方向が変化した場合、担当の収容管理官にはプロトコル・GLITTERWØLFを自身の裁量次第で実行する権限が与えられます。

説明: SCP-5284は質量不明かつ体積可変の異次元突出体です。放射観測および分光観測から、SCP-5284は熱をほとんど排出せず、不明な有機化合物で構成されており、微生物に相当する振る舞いを見せると判明しています。GRACE2人工衛星による測定から、観測された最大の体積 (推定21.352 * 1010 km3) でも、測定できるほどの引力は働いていないと判明しています。

歴史上にはSCP-5284への言及が断片的に存在するにもかかわらず、太陽系内で直接観測された事例は一度しかありません。2015年2月19日、財団職員は月の向こう側にSCP-5284の存在 (および同程度の体積) を確認しました。SCP-5284はその軌道を1週間維持していましたが、2月26日に軌道角運動量が増大しました。

財団による指揮の下、無人宇宙船がSHAR3によってアーンドラ・プラデーシュ州 (インド) のシュリーハリコータから打ち上げられました。2月28日、宇宙船が月の軌道に乗り、SCP-5284の3 km圏内に接近しました。SCP-5284はアメーバの仮足に類似した構造体を伸ばし、それを用いて宇宙船を捕食し、破壊しました。SCP-5284の角運動量と体積は急速に増大しました。

SCP-5284に言及したシュメール語でのいくつかの断片的文献を調査した末、メアリー・ロス研究員が同文献で “サル=キ” と呼称される実体との接触を提案しました。機動部隊サンピ-6 ("虚数") が動員され、エージェント・ヤラ・トマ (シュメール語に精通した秘術専門家) の助力を借りて、適切に保存された人間の器にサル=キを召喚する儀式を実行しました。

音声ログ


日付: 2015年3月1日


トマ: — それで結構かと。これで彼は — いや、それはいずれやってくるはずで —

対象: [解釈不能]

トマ: 早いな。

対象: [解釈不能]

ロック: 何と言っているのですか?

トマ: えー……

対象: [解釈不能]

ロック: シュメール語は話せないので?

トマ: 誰も話せませんよ。今はもう誰も。私にできるのはざっくりとした表現だけです。しかし —

対象: [解釈不能]

トマ: 何を言っているにせよ、シュメール語で話しているとは思えません。

3月4日、SCP-5284の角運動量と体積が再び増大しました。この時点で一部が月の向こう側に視認できるようになり、その軌道は減衰しつつありました。研究員は1週間後に地球の大気圏に到達すると推定しました。

財団工作員は最終手段として核が必要となる可能性に備え、軍事資産を動員しました。一方で、言語学研究者らは録音された対象の声を分析し、いくつかの古代方言に共通する主要な要素を見出しました。北ユーラシア原語の外部専門家であるマリア・ティルダは、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビーの無関係なコンベンションに出席していたため、当人のいるホテルにエージェントが派遣されました。

音声ログ


日付: 2015年3月5日


[ノックの音。]

[ガタガタという音。]

ティルダ: えー…… こんにちは?

ハーディン: ティルダさんですね?

ティルダ: ああ、少し早かったですね。まだスーツの準備もできて —

ハーディン: こんな時間にお邪魔して申し訳ありません。私はセバスチャン・ハーディンと申します。そして…… あー、いや。どう表現してもわけが分からないでしょうから、早速本題に入ります。この男が何を言っているのか分かりますか?

[対象の声の録音が流される。]

ティルダ: 何を — それは誰の声ですか?

ハーディン: 何故です? 何か気付いたことでもあるのですか?

ティルダ: えっと。もう一度再生していただいても?

[録音を再び流す。]

ティルダ: 多分…… 多分ですけど、あー…… "黒き月が吠えている" というようなことを言っているのでは? これを何処で見つけたのです?

[沈黙。]

ティルダ: いや待って。あなた — このコンベンションの参加者ですか?

ハーディン: ティルダさん、荷物をまとめて私と一緒に来ていただきたい。

ティルダ氏は財団エージェントに連れ出され、意見交換のためにサイト-76まで移送されました。3月6日、ティルダ氏に対象とのインタビューに助力する許可が出されました。

インタビューログ


日付: 2015年3月6日
備考: 会話に用いられている祖語については大まかな翻訳が記載されています。


ティルダ: «ハロー?»

対象: «粗暴な言葉遣いだ。何故私を呼び出した? 言葉を述べるのか?»

ティルダ: «私は別に — 言葉? あなたは何者なのですか? あなたの望みは?»

対象: «私はサル=キ。待機する者。良き者。私は言葉を待っている。»

ティルダ: «待っているって — 言葉とは?»

対象: «私が言葉を言わねばならぬのなら、お前は言葉を述べる立場にない。»

ハーディン: 何と言っているので?

ティルダ: さあ — 意味はさておき、"言葉" を待っているようで。曰く、自分が "待機する者" だとか? それに "良き者" だとも?

ハーディン: 黒き月について尋ねてください。

ティルダ: «先ほどおっしゃっていた黒き月とやらですが —»

[対象が興奮する。]

ハーディン: そう熱くなるな。

対象: «敵。卑劣なる者。狡猾であり、隠れ場所を多く知っている。しかし我々は警戒を怠らない。私の仲間は警戒を怠らない。我ら見張る者、待機する者、追跡する者なり。我々の警戒心は決して緩まず、我々の任務は決して終わらない。我々は敵を見張り、言葉を待つ。そして —»

[対象が歯をむき出しにする。]

ティルダ: «あなたの仲間?»

対象: «私は彼らの始まりだった。最初の良き者であり、最初に言葉を知った者。最初に述べる者を知った者であった。»

ティルダ: «述べる者 —»

ハーディン: 何と言っているので?

ティルダ: 少々お待ちを —

対象: «始め、我々は2つだった。彼の仲間と、私の仲間。どちらも互いを必要としていなかった。しかし、我々は同じ食物を狩り、同じ地で暮らしていた。無関心は苛立ちとなり — 苛立ちは軽蔑となり、軽蔑は怒りとなった。»

対象: «しかし、そこに敵が来た…… 敵は次第に小さくなり、休息をとっていた私に襲いかかってきた。私は逃げ出した。傷を癒すために洞窟に隠れた。そこで述べる者が私を見つけた。私は残虐な目に遭うと、それか関心を持たれないだろうと予期した。殺されるか、追い出されるか — あるいは無視されると。しかし……»

ティルダ: «彼はあなたを助けた。»

対象: «彼は私の傷を治療してくれた。食物を与えてくれた。護ってくれた。見守ってくれた。私は彼の火の輝きで暖まりながら、肉で腹を満たした…… 火が私を満たした。私は誓いを立て — 心に焼き付けた。彼が私に食物を与えてくれたように、私もまた彼に食物を与えよう。彼が私を護ったように、私もまた彼を護ろう。彼が私を見守ってくれたように、私もまた彼を見守ろう。我々は、彼と私は兄弟になろう。そうして、私は言葉を教わった — 私の仲間もまた教わった。2つは1つとなった。1つは敵に立ち向かい — そして勝利を収めた。»

ティルダ: «どうやって?»

対象: «どうやって? 他に何がある? 牙と槍、すなわち歯と爪でだ。»

ティルダ: «歯と — 待ってくださ —»

[警告のクラクションの音。]

ハーディン: クソ。ここから出なければ。

ティルダ: いや、しかし —

ハーディン: 今すぐに

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図1.2: サイト-76に接近しつつあるSCP-5284。写真は2015年3月6日に撮影。

SCP-5284の軌道がインタビュー中に停止しました。その後、SCP-5284は地球と直接衝突する経路を取りました。研究員は約1時間後にサイト-76に衝突すると推定しました。

核ミサイルが3箇所 (ネバダ州のネリス空軍基地、コロラド州のワーレン空軍基地、カリフォルニア州沖に位置していた海軍潜水艦) から発射されました。弾頭は3つともSCP-5284に吸収されました。

サイト-76の職員は現地の地下バンカーに避難するよう命令を受けました。その一方で、エージェント・ハーディンはティルダ氏を連れて対象のセルに戻り、インタビューを再開しました。

音声ログ


日付: 2015年3月6日


ティルダ: このクラクションはどうにかならないので?

ハーディン: ご婦人、我々はもうあと4分であの世行きだ。あなたの仮説が何であれ、何かしたいなら今しかない。

ティルダ: わ、分かりました。えっと。«サル=キ? 私からあなたに1つ質問があります。»

対象: «何だ?»

ティルダ: «あなたは — かつてのあなたは —» — ああクソ。私の知る限り、これに対応する単語はない。えっと。

ハーディン: あと3分になった。

ティルダ: «サル=キ、あなたは歩くとき2本足でしたか? それとも4本足でしたか?»

対象: «それはどういう質問だ?»

ティルダ: «答えは?»

[鼻を鳴らす。]

対象: «無論、4本足だ。»

ティルダ: 彼は人間ではありません、ハーディン。彼の仲間は人間じゃない — 彼らは — 彼らはオオカミです。

ハーディン: 何?

ティルダ: 彼が話してくれたのは、ただ2人の人間が団結して共通の脅威に立ち向かったって話じゃない。人間がオオカミを飼い慣らした話だった。

ハーディン: それが一体何の役に立つ?! あと2分と30秒だぞ!

ティルダ: «サル=キ、あなたは何故待機する者なのですか?»

対象: «述べる者が言葉を述べたからだ。»

ティルダ: «待機するように言った。待てと言ったのですね。»

対象: «そうだ。それが言葉の一つだ。そして私は待った。何故なら私は良き者であるからだ。»

ティルダ: «サル=キ、あなたが、あなたの仲間が待っている言葉というのは — 一体 —»

対象: «彼らはお前の仲間でもある。»

ティルダ: «— 一体…… えっ? それは — それはどういう意味です?»

対象: «私が自分の親族に気付かないとでも思ったか?»

ティルダ: «私 — あの、そうではなく。えっと。私はそんな — 私の身体とは —»

ハーディン: あと2分だ! 早く切り上げろ!

対象: «我々がたかが肉体に縛られているとでも思うか? 群れとは血縁などと同様にくだらんものであると? お前の心のうちに見える。我々の聖なる誓いが、お前の中で燃え上がっている。太陽のように輝いている。そして我々の全ての仲間にも同じく、その心のうちで燃え上がっている。»

ティルダ: «私 — 私は……»

対象: «もう何度も質問してきたであろう、子犬よ。ならば私からもお前に1つ問おう。答えてくれ、黒き月は何故吠える?»

ティルダ: 吠えるのは……

ハーディン: マリア!

ティルダ: 吠えるのは、恐れているから。私たちを恐れているから。

対象: «言葉を述べよ。»

ティルダ: «サル=キ — ボールを取ってこい。»

ハーディン: あと1分、1分と — 何だ —

[破砕音、続いて遠吠え。]

[音声が途絶する。]

このインタビューに続き、世界中のイヌが空に向かって一斉に吠えたと報告が届きました。人間も同様の行動を取った事例が数件ほどありました4が、理由はその後も説明できていません。

SCP-5284は直ちに経路を反転しました。2021年現在の予測では、SCP-5284は太陽系から約1.5428388 * 1012 km離れた場所にいるとされており、現状さらに加速を続けています。

サル=キの行方は現在も不明です。

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