SCP-531-JP
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図1.1 SCP-531-JP。

アイテム番号: SCP-531-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-531-JPの存在する建造物を覆うようにサイト-8136が建設されています。週に1度、担当職員はSCP-531-JPの点検を行います。SCP-531-JP-1へのアクセスには担当博士の許可が必要です。この時、SCP-531-JP-1内では対特異現実性防護服が使用できないことに留意してください。

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図1.2 SCP-531-JP-1内部での進入者。

説明: SCP-531-JPは木造の扉(図1.1)であり、SSUI2世界重複1に指定されるポータルです。SCP-531-JPの内側への進入は、SCP-531-JP-1に指定される異空間へのアクセスを招きます。SCP-531-JPには「Out of Yteicos Field」と記入されたステンレス製のプレートが取り付けられています。

SCP-531-JP-1内の空間現実性強度平均は3.4 Hmです。進入直後、進入者は瞬時に金属質な外見(図1.2)へと変化します。進入者と同時に進入した物品は一時的に消失しますが、それ以外の物品は原則SCP-531-JP-1の影響を受けません。肉体を構成する物質はステンレスであることが確かめられており、体内には電子回路と、「EGO Σ」、「QUI Σ」、「I VALUE」と書かれた3本のメーターが存在します。「EGO Σ」のメーターには左手の、「QUI Σ」のメーターには右手のエンブレムが取り付けられています。この状態の進入者にも、進入以前と同様の感覚が存在することが確認されています。この状態は基底現実に帰還すると解除されます。SCP-531-JP-1内では、進入者に高い現実性による精神影響が確認されます。

SCP-531-JP-1内には、SCP-531-JP-2に指定される人型実体が存在します。SCP-531-JP-2の頭部は酸化鉄で構成されており、頚部上部はステンレスで構成されています。この状態にも拘わらず、SCP-531-JP-2は不明な手段で発声することが可能です。SCP-531-JP-2の服装は、[削除済]で用いられているエレベーターボーイの制服であることが判明しています。胸ポケットには「Worger」と記入されたネームプレートが取り付けられており、また左手には工具箱と思われる物体を持っています。

探査ログ531-JP

映像記録

前記: この映像は、SCP-531-JP-1内にまずカメラを投入し、その後エージェント・反町を投入、Agt.反町にカメラを回収させて記録させたものです。


<抜粋開始>

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図2.1 進入直後のSCP-531-JP-1内の様子。

[映像にSCP-531-JP-2が映る]

Agt.反町: 人型実体を確認。接触を試みます。…あの、こんばんは。

SCP-531-JP-2: ん?おお、サイコノートか。久しぶりに腕がなるな。

Agt.反町: あの、すいませんが、お名前を伺っても?

SCP-531-JP-2: ワージャ。機械技師をやってる。それにしても、お前のエゴ和とクィ和2は全く等しくないな。そりゃI値3もこんなに低くなるだろう。

Agt.反町: 何を言ってるんですか?

SCP-531-JP-2: お前の中のエゴ和とクィ和だよ。ちょっとカバー開けるぞ。

[SCP-531-JP-2がAgt.反町に接近する]

Agt.反町: ちょっと、やめ…。

[SCP-531-JP-2がAgt.反町に右手を伸ばす。直後、映像全体が発光し、Agt.反町に存在するカバーと思われる金属物体が映る]

SCP-531-JP-2: やっぱり。ほら、見てみろ。

[SCP-531-JP-2がズボンのポケットから手鏡のような物体を取り出し、Agt.反町に向ける。手鏡には「EGO Σ」、「QUI Σ」のメーターが映っており、エゴ和のメーターの方が針の指す値が大きい]

Agt.反町: これは…。

SCP-531-JP-2: I値もあまり高くないだろう?それに、内部も結構錆びてきてる。雨を浴びすぎたな。

Agt.反町: I値とは、一体?

SCP-531-JP-2: まったき者かどうかの指標だ。お前はユタイコス場4の中で、大層負荷を受け続けてきたらしい。お前、今までどこにいた?

Agt.反町: どこ?…あなたにはお話できませんが。

SCP-531-JP-2: なるほど。さて、お前はエゴ和もクィ和も宜しくないみたいだな。となると、かなり大仕事になりそうだ。

Agt.反町: な、何をするんですか?

SCP-531-JP-2: クィ和の調整だ。ただエゴ和をクィ和に近づけるだけじゃユタイコス場に弾かれかねない。だから、履歴を辿ってクィ和を調整し直す。その為には…。

[SCP-531-JP-2が手鏡を地面に置く。直後、手鏡が姿見のような形状に変形する。鏡に映ったAgt.反町は、表面の50%程度が錆びているように見える]

SCP-531-JP-2: この門をくぐる必要がある。お前の…。

[衝撃音と共に映像が上空を映す。雲が身長30 m程度の人型を形作っている]

SCP-531-JP-2: おい、お前の雲神はあんなに大きいのか?まずい、早く行くぞ。

Agt.反町: ま、待って…。

[SCP-531-JP-2がAgt.反町の腕を掴み、鏡の方へ引く。扉の向こうは屋内であるように見える。そのまま、Agt.反町とSCP-531-JP-2は鏡に触れ、鏡に映った光景の内部へと進入する]

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図2.2 鏡の奥の空間。

Agt.反町: ここは、一体?

SCP-531-JP-2: お前の中枢部だ。良くないクィ和の原因は大体ここにある。

Agt.反町: 私の…。

SCP-531-JP-2: まずは玉座に行こう。確かめたいことがある。

[SCP-531-JP-2が探索を開始する。Agt.反町はその後をついていく。その後SCP-531-JP-2は、放射線注意のマークが刻まれた鉄製に見える扉の前で立ち止まる]

SCP-531-JP-2: …よし、ここだな。

[SCP-531-JP-2が扉を開くと、電線が壁・床・天井に張り巡らされた部屋に到達する。部屋の中央には高さ15 m程度の本や紙の山が存在しており、その頂点に金色の玉座が置かれている。玉座の上と本や紙の山の横には計2つのスクリーンが置かれており、それぞれに人型の映像が映し出されている]

Agt.反町: あれは…。

SCP-531-JP-2: やっぱりそうか。お前の場所なのに統治しているのはマザーコンピュータの幻影というわけだな。どうやらそういう履歴の中で歪んだエゴ和が算出されてきたらしい。

Agt.反町: その、エゴ和というのは何なんでしょうか?クィ和というのもわからないんですが。

SCP-531-JP-2: エゴ和は現状であり、人工だ。クィ和は本来であり、自然だ。さて…。

女性の声: 騎士団長。

[Agt.反町の服装が西洋風の鎧に変化する]

Agt.反町: え?…じょ、女王…。

SCP-531-JP-2: お前はこの物語にエル=スティグマを刻んだつもりだったんだろうが、残念ながらまだまだその息はあるみたいだな。なあ、マザーコンピュータ。

女性の声: 騎士団長よ、命令を受けとるがいい。

[Agt.反町の目の前に紙が出現する。紙に書いてあった文章は映像のぶれにより判別できない]

Agt.反町: こ、これを?

[Agt.反町が紙を手に取る。直後、SCP-531-JP-2が紙をAgt.反町から奪う]

SCP-531-JP-2: もういない幻影に従うつもりか?

Agt.反町: いや、女王なら目の前に…。

SCP-531-JP-2: [遮るように] それは玉座に座ることから逃げているだけだ。教えてやろう。

[SCP-531-JP-2が工具箱から電動ドリルを取り出し、本や紙の山の横にあるスクリーンへ走る。SCP-531-JP-2はドリルをスクリーンに突き立て、スクリーンは火花を散らしながら破壊される。スクリーンの映像が黒く変化する]

SCP-531-JP-2: ほら、お前もやるんだ。そんなちゃちな剣じゃなく、これで思い切り穿ってしまえ。

[SCP-531-JP-2が工具箱からもう1つのドリルを取り出し、Agt.反町に投げる]

Agt.反町: ほ、本当にやるのか?

SCP-531-JP-2: ここはお前の中枢部だぞ?お前が統治しなくてどうする。ほら、早く。

[Agt.反町が本と紙の山を登り、玉座まで到達する]

女性の声: や、やめなさい。私がどれほどお前に…。

Agt.反町: [叫び声]

[Agt.反町がドリルをスクリーンに突き立てる。女性の悲鳴が記録され、火花が散り、スクリーンの映像が黒く変化する]

SCP-531-JP-2: そうだ。良くやった。さあ、その玉座に座ってみろ。

[Agt.反町が玉座に座る。直後、Agt.反町の服装が元に戻る]

Agt.反町: …そうか。ここは、私の…。

SCP-531-JP-2: 少しはクィ和の狂いがわかったか?さあ、次の場所に向かうぞ。

Agt.反町: 次?

SCP-531-JP-2: ああ。まだまだ2つの和には修正の余地がある。扉を操作して別の場所に行こうじゃないか。

[SCP-531-JP-2とAgt.反町がこの空間への進入に用いた鏡まで移動する。この時、鏡に映ったAgt.反町の表面の錆は減少しているように見える。SCP-531-JP-2が工具箱からスパナを取り出し、鏡に投げつける。直後、鏡に映る光景が変化し、巨大な柱が映る]

SCP-531-JP-2: 次は…柱だな。今度は、クィ和だけでなくエゴ和にも関わってくるかもな。じゃあ、行くぞ。

[SCP-531-JP-2がAgt.反町の手を取り、2名は同時に鏡の光景の内部へと進入する]

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図2.3 鏡の奥の空間。

[移動した空間の中央には、高さ不明の白い金属質な柱が存在している。床には全長3 m程度のニワトリ、ブタ、ヘビに見える実体が存在しており、何れも柱に近づこうとしているが、金属質な浮遊体がレーザーで実体群を攻撃しており、柱に到達できていない]

Agt.反町: これは…。

SCP-531-JP-2: お前の柱は随分と太いんだな。バグたちにアレルギーを起こしているようだ。

Agt.反町: バグ?

SCP-531-JP-2: 柱を食らおうとする者たちだ。彼らは柱を食らい、時には倒してしまう。

Agt.反町: それは、良くないことなんじゃ?

SCP-531-JP-2: 確かにそうだ。でも、バグはクィ和に近い生き物だ。それを柱から離しすぎても良くない。どれ、あの白血球どもを少し減らしてやろうじゃないか。

[SCP-531-JP-2が工具箱からメガホンを取り出し、顔面に当てる]

SCP-531-JP-2: 来い。

[浮遊体群がSCP-531-JP-2に接近し始める。SCP-531-JP-2がメガホンを外す]

SCP-531-JP-2: さて、サイコノート。お前にもやってもらうぞ。

Agt.反町: え、何をすれば?

SCP-531-JP-2: 簡単なことだ。叫べ、思い切り。そうすればあれは壊れる。

Agt.反町: わ、わかった。

[浮遊体群が接近し続ける。Agt.反町は浮遊体群に向かって叫び声を上げる。直後、浮遊体群は突然停止し、落下する]

SCP-531-JP-2: 良し。これで…。

[ニワトリのような実体が柱に到達し、柱をつつき始める。暫くして、ヘビのような実体とブタのような実体も柱を摂食し始める]

Agt.反町: 大丈夫なのか?

SCP-531-JP-2: ああ。まだ白血球は残っているし、柱が倒されることもないだろう。平衡状態になった。…さあ、次だ。

[SCP-531-JP-2が工具箱からスパナを取り出し、鏡に投げつける。この時、鏡に映ったAgt.反町の表面の錆は更に減少しているように見える。直後、鏡に映る光景が変化する]

SCP-531-JP-2: さあ、行くぞ。

Agt.反町: ああ。

[SCP-531-JP-2とAgt.反町が、同時に鏡の光景の内部へと進入する]

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図2.4 鏡の奥の空間。

[内部は暗く、照明と思われる設備はいずれも点灯していない。映像にはスクラップの山が複数確認できる。大半のスクラップの表面には、「L-C」或いは「L-Ϛ」という赤い文字が確認できる]

Agt.反町: 今度は、スクラップ処理場か?

SCP-531-JP-2: そうだ。お前が、正確に言えばマザーコンピュータと雲神がエル=スティグマを刻んだ、あり得ない物語の集積場だ。勿論わかってるだろうが、その殆どはお前のクィ和の調整に必要なものだ。

Agt.反町: なるほど。…そういえば、ここには何もいないな。

SCP-531-JP-2: そりゃそうだ。メインコンピュータがマザーからお前自身に変わったわけだからな。もう、雲神以外でお前の物語を廃棄する者はいなくなったろう。調子も良くなったんじゃないか?

Agt.反町: 確かに、肩が大分軽くなったかもしれない。

SCP-531-JP-2: その調子だ。

Agt.反町: …ん?あれは…。

[Agt.反町がスクラップの山を掻き分ける。暫くして、スクラップの中にクレヨンの絵が描かれた紙が映像に映る。絵は、王冠を被った子供のように見える]

Agt.反町: これは、懐かしいな…。

[SCP-531-JP-2がAgt.反町に手を伸ばす。Agt.反町は、手に取った紙をSCP-531-JP-2に渡す]

SCP-531-JP-2: お前にも、こういう履歴があったんだな。

Agt.反町: ああ。今まで忘れていたけど。

SCP-531-JP-2: なら、もっと思い出すといい。最後の手助けをしようじゃないか。

[SCP-531-JP-2は工具箱から、工具箱よりも遥かに大きく見える巨大なファンのようなものを取り出す。この時、ファンは金属製のように見えるにも拘わらずゴムのように伸縮した。SCP-531-JP-2がファンを床に置き、先程の紙をファンの根元に置く。直後、ファンが作動し始め、スクラップが風によって浮き上がり始める]

SCP-531-JP-2: このファンに発端を設置すれば、お前の履歴が辿られて真の物語が見つかるだろう。それで、お前のクィ和は完成する。

Agt.反町: 真の物語があれば、雲神を晴らせるんだな?

SCP-531-JP-2: ああ。雲神はお前とマザーとその他のプレコンピュータたちが創造した、謂わば物語未満のものだ。エル=スティグマはそれにこそ刻まれないといけない。

[Agt.反町が、浮き上がったスクラップの方を見る]

Agt.反町: …覚えてる。どれも、昔描いたものだ。

SCP-531-JP-2: …なあ、あれは何だ?天井に貼り付いてる…。

Agt.反町: ん?…あれは、そうだ。あれかもしれない。

[SCP-531-JP-2が跳躍して、天井に貼り付いているスクラップを回収する]

SCP-531-JP-2: …なるほど。これが、ユタイコス場の中でお前が捨てた物語か。

[Agt.反町がSCP-531-JP-2に接近する。SCP-531-JP-2は財団の休暇申請書を手に持っている]

Agt.反町: …そうか、私は…。

[SCP-531-JP-2が工具箱からスパナを取り出し、鏡に投げつける。この時、鏡に映ったAgt.反町の表面の錆は殆ど存在しないように見える。直後、鏡に映る光景が変化する]

SCP-531-JP-2: さて。ついにお前の真のクィ和が算出された。最後にすべきは、エゴ和の調整だ。雲神を晴らすぞ。

Agt.反町: ああ。

[SCP-531-JP-2とAgt.反町が、同時に鏡の光景の内部へと進入する。鏡の奥の空間では、雲が身長10 m程度の人型を形作っている]

SCP-531-JP-2: よし、雲神は崩れかけている。あとは、お前が叫べば終わりだろう。柱を細めて、玉座から思うがままに。

Agt.反町: クィ和を叫べばいいんだな。

SCP-531-JP-2: わかっているじゃないか。

[Agt.反町が人型の雲の前に移動する。人型の雲は幕電で発光しながら、Agt.反町に手を伸ばす。直後、Agt.反町が息を吸う音が聞こえる]

Agt.反町: 私は、憩いたい。憩わせてくれ。 [叫び声]

[人型の雲が自壊し、通常の雲に戻っていく。雨粒が地面から空へと飛翔していき、その後天気が晴れに変化する]

Agt.反町: …終わったよ、ワージャ。

[SCP-531-JP-2が拍手しながら接近する]

SCP-531-JP-2: おめでとう。これで、エゴ和とクィ和の距離は0に限りなく近づいた。I値は無事に全きところまで充填されたようだ。

Agt.反町: ありがとう。お陰で錆びも取れたみたいだ。

SCP-531-JP-2: 礼を言うのはおかしいな、サイコノート。私は機械技師であり、そして…。

[SCP-531-JP-2の頭部部分が、Agt.反町の本来の頭部に変化する]

SCP-531-JP-2: お前でもある。自分自信に感謝する必要はないだろう?

Agt.反町: …そうか。

SCP-531-JP-2: さて、そろそろユタイコス場の近くに戻る時だ。もう、玉座を誰にも明け渡すんじゃないぞ?

Agt.反町: ああ。これからも中枢を統治し続けるよ。

SCP-531-JP-2: なら良かった。さあ、帰るといい。そして、これからも2つの和の等号を狂わせないように。

[Agt.反町がSCP-531-JPを開く]

SCP-531-JP-2: シャローム、全き者よ。

<抜粋終了>


後記: 探査終了後、Agt.反町は「少しずつあの空間の思想に同調していったように思う」と証言しました。Agt.反町は身体検査を終えてから、1週間の休暇を申請しました。申請は許可されました。

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