アイテム番号: SCP-5331
オブジェクトクラス: Keter-provisi Safe-supernus
特別収容プロトコル: SCP-5331は太陽系から大きく離れているため、正常性に対する脅威とは見做されません。観測は不可能です。ブラジル政府や様々な天文学組織との連携による記憶処理・隠蔽作戦の完了後は、収容プロトコルは必要とされません。
説明: SCP-5331は断頭された人間の頭蓋骨であり、地球の南半球から見えるけんびきょう座に向かって、0.99999999cを超える速度で飛行しています。観測結果が示す限り、SCP-5331は極度の耐久性を有しており、繰り返しの相対論的衝突や、通常ならヒトの骨組織を破壊するような加速度誘発性ストレス要因にも拘らず、その構造の完全性を維持しています。現時点では、SCP-5331の推進方式は不明です。
SCP-5331は本来、プエルトリコのアレシボにあるアレシボ天文台に勤務していた宇宙物理学の学部生研究者、グラシリア・メロの頭蓋骨でした。SCP-5331が発生するまでの数ヶ月間、メロは望遠鏡から得られた天文学的な電波データを解析する新たな手法を研究し、言語学、難解な暗号法、推計学的なL-system文法の分析を適用して、その結果を“活発な地球外放送の証拠”だと主張していました。方法論の不備が原因で、メロの研究は一貫して受け入れられず、解析を継続するために研究業務を疎かにした結果、彼女は解雇されました。彼女がコーネル大学1に審査のため提出した最後の論文はベテルギウスからの電波信号の研究であり、彼女はこの信号を“他の手段では到達できない星間距離を越え、情報手段を介して燃料を転送するための手段”だと解釈しました。コーネル大学は問題の論文を却下しました。
1996年6月、故郷であるブラジルのイタニャエンに戻った後も、メロは実家の裏庭に設置した機材で天文学の研究を続けました。この間、彼女はごく大人しく振る舞い、“ベテルギウスをもっと良く吸い込む”、或いは彼女に聞こえると称する放送を受信するために機材の傍で眠っていたと伝えられています。6月半ばから、彼女はモータースポーツへの顕著な関心を示し始めました。
1996/06/17の02:31、メロの両親は裏庭からの爆発音で目覚めました。裏庭に出た両親は、メロの身体が自然燃焼しているのを発見しました。プラズマが彼女の眼窩、口腔、大後頭孔から噴出し、肉を蒸発させ、炎が周辺半径11m以内に引火しました。骨格系は多段式ロケットに似た形状に再構築され、離陸しました。
その後4時間にわたって、ブラジル軍は上昇軌道で加速するSCP-5331を追跡しました。SCP-5331は地上11km地点で音の壁を破った後、1段目を分離しました。この際、5km離れた旅客機がソニックブームを聞き取りましたが、異常な音程の変化が確認されています — この振動は群衆が声援を送る音と並行して発生し、緑色の閃光を伴なっていました。2段目の分離は03:01に確認され(地上100km)、03:10には地球脱出速度に達しました。
太陽系脱出速度は05:00に達成されました。この時点でSCP-5331は地球の重力圏を離脱し、光速に向かって加速していました。SCP-5331と惑星間塵雲の相対論的衝突によって放出されるガンマ線の観測を介して、監視が行われました。
1996/06/19、大規模な青方偏移放射線バーストに続いて、SCP-5331は消失しました。破片やガンマ線放出が確認されなかったことから、SCP-5331は1cの閾値を超えて光速を突破したという仮説が有力視されていますが、まだ確証されていません。これ以降、目撃情報はありません。
この大規模な異常事象を受けてイタニャエンに急行した財団職員は、隠蔽作戦への支援を求めてブラジル政府との交渉を始め、全面的な軍事支援と引き換えに、政府による異常物運用制限の緩和を約束しました。交渉は同日中に成立し、財団は全世界の天文学組織と協力して2SCP-5331関連の情報の流れを制限し、必要に応じて記憶処理を行いました。
メロの両親は財団の関与に先立って入院しました。両者は第2度~第3度の部分的な熱傷を負いましたが、それ以外の容体は安定していたため、警察の聞き取り調査を装ったインタビューが実施されました。家がSCP-5331の離陸によって焼失する前に回収された注目すべき物品は、裏庭に通じるドアにテープで貼り付けられたメロの書置きのみでした。内容の大部分は焼損していましたが、幾つかの断片は読み取り可能でした。ポルトガル語からの翻訳は以下の通りです。
レースに参加した。何処に向かうかはもう分かってると思う。コースの始まりは […]
[…] 文化を共有しようとしているんだと思ったけれど、どうやらそれは単に娯楽施設の日程表が流出しただけのようで […]
[…] でもベテルギウスは、驚くほど積極的に新規の参加者を後援してくれる。あの星の燃料の量ときたら […] の勢いで使っても […] を両方持続させるのに十分以上 […] 願わくば、超新星になってしまう前に私が […]
[…] 肉から反重力臓器へ […] きっと迷惑をかけると思う、ゴメン […]
[…] あと10分で始まる。沢山 […]
[…] 愛してる。きっと優勝杯を持ち帰るとコーネル大学に伝えて。
SCP-5331が活性化した当時、同様の相対論的速度で飛行する正体不明のオブジェクトの一群が、けんびきょう座に向かう軌道で太陽系を通過するのが記録されたのは特筆に値します。