SCP-5370
評価: +32+x
board.png

1983年7月17日時点でのSCP-5370の配置図の8×8マスを切り抜いたもの。逆転したビショップは、斜め方向に2マス飛び越えて移動できる駒 “アルフィル”を表す。

アイテム番号: SCP-5370

オブジェクトクラス: Thaumiel

特別収容プロトコル: ブルー・チームの潜在的候補者を発見するため、SCP-5370のルールと現行の配置図を基にした問題が主導的な数学研究組織に提供されています。ブルー・チーム候補者は以下の条件を満たす必要があります。

  • 超限的ゲーム理論及び現代のチェス戦略の分野において高度な理解力がある
  • 異常実体との外交交渉及び基礎的な悲嘆カウンセリングの完全な資格を有する
  • 候補者死亡率が95%以上の任務に参加するうえで必須の精神医学的評価を受けている

現在、SCP-5370との相互作用は中止されており、監督評議会と倫理委員会の双方から承認を受けられるゲーム戦略の開発待ちです。

mainframe.jpg

現在SCP-5370をホストしているメインフレーム “パーフェクト・ブルー”。

説明: SCP-5370は2組のプレイヤー集団間で現在進行中の異常なフェアリーチェス1の試合です。一方のプレイヤーは財団数学者の機動部隊である“ブルー・チーム”、もう一方は[5370/ブルー・チームクリアランス制限]である“レッド・チーム”です。SCP-5370のルールは1977年に財団によって考案され、試合は6年後の1983年1月4日に始まりました。

SCP-5370のルールと国際チェス連盟が規定するルールの最も重要な相違点の概要は以下の通りです。

  • SCP-5370はコンピュータハードウェアでシミュレートされる無限のチェス盤上で行われます。ただし、試合状況の大半は110×110マスの範囲内に留まっています。
  • SCP-5370は標準の16駒ではなく、双方のチームが128駒を所持した状態で始まり、多数の非標準的な駒(素数のマスのみを斜めに移動できる“ホイヘンス”など)が組み込まれています。
  • SCP-5370は50手ルールの改変版を採用しています。過去50手の間に1駒も取られていないか、ワンムーバー2が動かされていない場合、引き分けが宣言されます。1手あたりの制限時間は10年に延長されています。

本稿執筆現在、ブルー・チームの駒の数と配置はレッド・チームに対してかなり有利であり、今後200手以内にチェックメイトを達成する可能性があります。

SCP-5370の主な異常性は、レッド・チームとの存続可能な意思疎通を促進する能力にあります。運用上の保安リスクのため、更なる情報へのアクセスには5370/ブルー・チームクリアランスが必要です。


補遺SCP-5370-A: 将来のブルー・チーム戦略の概要

目標: SCP-5370を可能な限り長期にわたって続行させる。

動機:

  1. SCP-5370を可能な限り続けることによって、財団はレッド・チームが提供可能な情報から最大限の価値を引き出せる。
  2. 倫理委員会の応用研究チームは、レッド・チームの監禁の性質上、SCP-5370の終了がレッド・チームに容認できない結果を及ぼすことを証明している。

方法:

  1. 特定の観念を伝達するにあたり、可能な限り最適ではない試合の進め方を研究する。これによって財団は、レッド・チームとの意思疎通能力を維持しつつ、時間制限に基づく引き分けで試合が終了するのを回避できる。
  2. SCP-5370の作成に用いられた儀式の抜け穴を利用し、試合ルールの変更を試みる。詮索を最小限に抑える目的で、SCP-5370の作成に関する文書の多くは概ね非公式であったため、これは究極的にはレッド・チームのみが提供可能な情報に依存している。
  3. レッド・チームの配置が悪化し続ける場合、倫理委員会の承認を待って、ブルー・チーム職員をレッド・チームの直接助言役に選抜することが考慮される。


補遺SCP-5370-B: SCP-5370意思疎通ログサンプル

日付: 2009年7月23日

目的: アメリカ合衆国の軌道上超常工学プラットフォーム “モーニングスター”の再収容

参加者:

  • O5-11
  • マリア・ジョーンズ、RAISA主任 (MJ)
  • アミタ・サンムガスンデラム博士、SCP-5370進行役 (AS)
  • ヴィア・セルバンテス、SCP-5370倫理委員会連絡員 (VC)
  • 各種ヒト素材 37名 (HM-1から-37)

<記録開始>

[簡略化のため編集済]

AS: — 意思疎通自体は正しい動きを特定するのと同じくらい簡単に行えるが、理路整然とした結果を得るのは困難だ。だから今日ここにあるような儀式用具が使われる。

VC: な… 成程。概要説明のファイルには言及がありませんでしたが —

AS: リラックスしろ。これをするのはお前の仕事じゃない。お前がすべき事は観察だ。私が彼らに対して残酷になり過ぎないように見張っててくれ。 (MJに) 釣り針を頼む。

O5-11: 彼女が新顔なのは分かりますが、アミタ、私はあなたがこれを実行するのを見るのも初めてです。何か変更があったのですか?

AS: 今回の奴は裏切り者だ、イレブン、だからチームからプレイヤーを分離する通常の手段が使えない。ゲシュタルトが彼を協力させられるとは期待できない、つまり漫然と駒を動かしながら回答を待つことはできないんだ。

O5-11: 成程。

AS: だから、我々は駒の動きに意義を吹き込み、具体的に彼に呼び掛ける必要がある。レッド・チームは硬貨の詰まった袋で、ここにいる我々のボランティアたちは金種選別機だと考えてほしい。我々は各々から一定の資質を抽出する —

[5370/ブルー・チームクリアランス制限]

AS: 離婚経験者 —

[5370/ブルー・チームクリアランス制限]

AS: — 元アルコール中毒者 —

[5370/ブルー・チームクリアランス制限]

AS: — 二児の父 —

[簡略化のため編集済]

AS: — 幸い、お前が思ってるほど無駄じゃない。彼らのこういう部分は暫く経つとまた元に戻る。まぁ、子供たちは戻らないかもしれないが。

VC: きゅ… 休憩を頂けますか?

AS: ダメだ。デスクの裏にエチケット袋がある。

VC: ああ。

AS: さて、次は我々が求める最も重要な資質。裏切りだ。

(沈黙)

O5-11: そのタトゥー。あなたは蛇の手だったのですか?

AS: たった5分間だけな。 (MJに) フェンタニルを頼む。

[5370/ブルー・チームクリアランス制限]

VC: な、なんて事 — 止血帯を持ってきます、これは —

AS: 私から流れてるのは血じゃない。黙って眼球を食え。

VC: 私は何もする必要が無いと言ったでしょう!

AS: モツ肉を食った経験があるかという質問はただのジョークだとでも思ってたか?

VC: そ- いえ、ですがこれは- こんなのは馬鹿げています! 私は —

AS: お前は眼球を食って何処にどの駒を動かすか私に教えるんだよ。

[簡略化のため編集済]

VC: — もう二度と牛タンに文句なんか言わない —

AS: どれを動かす?

VC: (咳き込む) ビショップ! ビショップを - a32に。

AS: 記録した。

(沈黙)

VC: 何処- エチケット袋 —

[簡略化のため編集済]

AS: アルフィルをg31か。興味深い。

O5-11: 1駒も取らずに何ターン経過しましたか?

AS: 29。盤上にはまだまだ駒が沢山ある、心配しなくていい。

O5-11: ふむ。それでも私の記憶よりかなり閑散としましたね。

AS: お前が我々にこれをやれと言ったんだぞ、イレブン。

(沈黙)

AS: 彼は、レーガンのスターウォーズ計画から興味深いものが見つかるだろう、まずは児童養護施設を一通り調べろと言っている。ああ、それとお前の夫についての何か。非常に大人びた奴だ、どうして彼が離反したか私には分かる。

<記録終了>


補遺SCP-5370-C: 初期プロジェクト提言

序文

財団には他の如何なる同規模の国際組織も比類し得ない制度上の問題があります。致命率は現代における数ヶ国の軍隊と同等で[9][21]、権威的な役職の回転率が高く[7]、記録保持には歴史的ギャップが存在します — 即ち、収容試行に必要な情報はほぼ完全に口伝えで継承されています[2][5][11]。そして、これらは財団の職務に固有でないごく普通の問題点に過ぎません。情報災害汚染に対する記憶処理治療の無差別性と、精神影響系異常存在への全般的に高い曝露率[19]は、機能的能力を維持できる経験豊富な職員の数をさらに押し下げ、従って将来の職員たちに引き継がれる経験も少なくなっています。

この提言では、“ブラックルーム”の名称で知られる場所の作成を通して、職員の喪失が財団に蓄積された知識へ悪影響を及ぼすのを理論上不可能にする方法を概説します。今回の方法は、過去に提言された類似のブラックルームよりも幾つかの点で優れています。

  • 職務中に死亡した全ての職員を、個人的信念や財団の階層構造内での地位に関係なく確保できます。大量変換[3]や、財団の体制図をより儀式的に柔軟な状態に再構築する[11]などの段階を踏まずに、これほど多くの知識喪失を阻止する手段は、今までは未解決の問題でした。
  • 所謂“煉獄問題”[9]が発生しません。過去にこれを解決しようと試みた際には、将来的な居住者が職務中に取った行動の結果としてブラックルームにアクセスできなくなる結果を招きました。我々は道徳的にニュートラルな値の空間を作ってこの問題を解決し、ブラックルームをアクセス可能にしつつも、居住者たちに及ぼされる害を最小限に抑えます。
  • 使用される通信手段は、情報災害データを送信する際には他の手段より遥かに安全です。直接的な精神感応交信、自動筆記、それ以外のミーム的に無防備な意思疎通手段を用いる代わりに、我々は出力内容を自動的にサニタイズできるチェスベースの暗号化手段を採用します。

我々は、このプロジェクトが完成までに約10年かかり、750万米ドルの予算が必要であり、ブラックルームとの意思疎通に賢明な制限が設けられていれば約26万年にわたって続行可能であると推計しています。

[更なる情報は5370/ブルー・チームクリアランス制限]

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。