特別収容プロトコル:
SCP-5380はサイト-53の専用アイテムロッカーに保管します。SCP-5380はレベル2以上のクリアランスを有する職員のみが扱うものとします。これ以上の収容プロトコルは必要ありません。
説明:
SCP-5380は中心を通るように紙の仕切りが取り付けられた手作りのスノーグローブです。仕切りの両面には "I ❤️ U, Victor" と書かれています。SCP-5380の製作に携わった人物は、最近死亡したレアナ・エルナンデスと特定されています。
SCP-5380を振ると、SCP-5380の周囲の場所にスノーフレークとハート形の紙が降り注ぎます。これらの物体の外見はSCP-5380内のものに類似しています。
SCP-5380が生成した物体は、活性化から約5分後に全て非実体化します。その時点でSCP-5380は再活性化が可能となり、同様の異常性を引き起こすことができます。
SCP-5380の底面には、"ビクター・エルナンデス" という人物に宛てられた以下のメッセージが刻まれています。
たった一人の最愛の息子、ビクターへ。
「私は貴方を私の世界に迎え入れた。」
「……そうしたら、貴方は私の世界となった。」
— アイシュワリヤー・パトラ
貴方には幸せな人生を送ってほしい。もう一緒にいられなくてごめんね。
貴方の母より。
— レアナ
補遺5380-1 — 発見
SCP-5380が発見されたのは、SCP-5380を所持した "ビクター・エルナンデス" (以下PoI-1341と指定) がブリティッシュコロンビア州バーナビーのメトロポリス・アット・メトロタウン1で目撃された時のことでした。PoI-1341は知人に当オブジェクトを見せ、直後に誤ってSCP-5380を落としました。その結果、当モール全域にスノーフレークと小さなハート形の紙が降り注ぎました。
機動部隊イオタ-3 ("秘密保持") のうち2名が派遣され、カバーストーリー ("Cold Love") が用いられました。それと共にイオタ-3の残りの3名も派遣され、PoI-1341の位置の特定および拘束、ならびにSCP-5380の収容に向かいました。PoI-1341は接触時にイオタ-3に対して暴力を加える旨の脅しをかけたものの、その時点で動きを封じられ、拘束下に置かれました。
補遺5380-2 — インタビュー
PoI-1341の拘束ならびにSCP-5380の収容から3日後、アノマリーの情報をさらに引き出すために、PoI-1341にインタビューが実施されました。インタビューの記録は全てログ化されています。
インタビュアー: ライン・モンテ博士
対象: ビクター・エルナンデス (PoI-1341)
<ログ開始>
ライン博士: こんばんは、ビクター。
[PoI-1341は数秒間返答しない。]
PoI-1341: ……こんばんは。
[ライン博士がうっすらとほほ笑み、話を続ける。]
ライン博士: SCP-5380についていくつか質問してもいいかい?
PoI-1341: SCP-5380?
ライン博士: そう、このスノーグローブだ。
PoI-1341: ……分かった。
ライン博士: 協力してくれてありがとう。
PoI-1341: (静かな声で話している。) ホンット馬鹿馬鹿しい。
ライン博士: できれば、SCP-53 — いや、君のスノーグローブとの関わりを初めから話してほしいんだ。
PoI-1341: それは贈り物だよ。
ライン博士: 贈り物? 誰からの?
PoI-1341: 母さんからの。つい最近亡くなったから、それは僕への最後の贈り物なんだ。
ライン博士: それは…… すまなかった、母親を亡くしていたなんて。
PoI-1341: 別に — (深呼吸) 気にしないでよ。平気だから。どうせそっちには関係ないし。
[ライン博士が返答をためらう。]
ライン博士: 母親がどうやってこれを作ったのかは知っているのかい? つまり、このスノーグローブを。
PoI-1341: 知らない。母さんとは遠く離れていたし。
[PoI-1341が沈黙する。]
PoI-1341: 母さんは海外で働いてた。韓国に渡ってたくさんの子に英語を教えてたんだ。父さんは…… もう亡くなってた。だから母さんは、韓国で安定した良い仕事に就いて、稼いだお金を僕に送るのがいいと考えたんだ。そうすれば僕が前を向いて生きていけるからって。僕は…… 母さんがその贈り物を作っていたなんて、全く知らなかった。
ライン博士: なるほどね……
PoI-1341: 他に何かある? スノーグローブは返してくれないの?
ライン博士: もう2つほど。君の母親はこういうのを家でも作っていたのかい? 韓国にいた時でも。
PoI-1341: ……うん、ガラス製品とかそういうのをよく。とてもきつそうな仕事。韓国に行く前はガラスのコップとか花瓶とか、そんなのを作ってばかりだった。きっと母さんは、何とかして器材を揃えたんだと思う…… その最後の贈り物を作るためだけに。
ライン博士: そうか…… 2つ目だが、君はどうなんだい? こういうものを作る方法は知っているのかな?
PoI-1341: ううん。1回やってみたけどダメだった。それからもう1回やってみてさ、母さんに別れのプレゼントを作ろうとしたんだ。まるでうまくいかなかったよ、きっと僕に才能なんて全くないんだろうね。
[ライン博士が沈黙する。]
ライン博士: 口を挟ませてもらうと、私はそうは思わないよ。もっと時間と労力をかけてもいいのかもしれない。
PoI-1341: ……やってみる。それでさ、その贈り物を返してくれない?
ライン博士: 本当にすまない、ビクター。このスノーグローブを返すことはできない。
PoI-1341: えっ? なんで?
ライン博士: それが…… 方針のようなものなんだ。
[PoI-1341はあぜんとしている。]
PoI-1341: 方針のようなものだって? 馬鹿げてる。
ライン博士: 聞いてく —
PoI-1341: 母さんが引っ越してからろくに連絡も取れなかったのに、そっちは僕と母さんを唯一繋ぐ物を奪っていくんだね。
ライン博士: 聞いてくれ、ビクター。申し訳ないとは思っているが、このスノーグローブはどうしても渡せない。
[PoI-1341が深呼吸する。]
PoI-1341: もし可能ならさ…… ちょっと規則を曲げられない?
[PoI-1341が沈黙する。]
PoI-1341: お願いだ。
ライン博士: 言った通りだ、すまない。これは渡せない。
PoI-1341: (声を震わせながら) そう…… そうなんだ、規則だからってね。なるほどね。
[PoI-1341の両目の眼角に涙が浮かんでいる。PoI-1341が椅子の上でぐったりとなり、顔を伏せている。]
PoI-1341: じゃあもういいよ、さよなら。
<ログ終了>
PoI-1341はインタビューの終了直後に当サイトの警備員に連れられて部屋を退出しました。
補遺5380-3 — 配達物
PoI-1341との最初のインタビューから1か月後、ライン博士宛の小包がサイト-53のプライオリティ・メール受けから発見されました。小包の中身はスノーグローブであり、大量のおがくずに埋もれていました。受領者に送り届けようと財団スタッフがスノーグローブを持ち上げたところ、サイト-53一帯が15分間暴風雨に見舞われ、同時に室内にも異常な降雨が発生しました。これ以降、同様の異常性を持つ物品が入った配達物は届いていません。当インシデントの調査が進められています。