アイテム番号: SCP-545-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-545-JPが存在する座標の直上海面に財団保有の調査船“いそぐさ”が停泊し、周辺の監視と民間船の進入を防ぎます。区域内は遠隔操作無人探査機“りゅうぐう12000”によって二度の交代を含む24時間の監視が行われますが、その際に半径5m以内の接近は禁止されます。SCP-545-JPの観測を行う場合は対象の精神的な安定を図る為、ディスプレイを用いて適度な質疑応答を行って下さい。付近に大型の海洋生物を確認した場合は専門危機による音波の発生や投光等の手段を駆使して威嚇を行い、海洋生物の逃避を促してください。問題が発生した際は速やかに主任研究員に連絡してください。
説明: SCP-545-JPは東京都出身の女性ピアニスト・青木██です。伊豆・小笠原海溝の[削除済]海面下7877mに存在しており、水圧・水温・海水の影響を一切受けることなく、ピアノ椅子に着席した状態でグランドピアノ(SCP-545-JP-Aと指定)の演奏を発見当初から現在に至るまで継続しています。
演奏を行っている間のSCP-545-JPは海中で本来受けるべき物理的な効果を受けているようには見えず、衣服や毛髪等も海流の影響を受けていないように視認されていますが、付近の海洋生物や浮遊物は通常の海中と同様の動きを見せている事から、この効果はSCP-545-JPとSCP-545-JP-Aのみに該当する物であると考えられています。また、SCP-545-JPは睡眠や食事を行う事なく不休で演奏を続けており、この異常性がSCP-545-JPとSCP-545-JP-Aのどちらに由来するものかは判明していません。また、SCP-545-JPは探査機によって視認可能な距離まで接近した場合に何かを伝えようとする口の動きや困惑した表情を見せており、唇と舌の動きから解読された結果からこの異常性には精神的な強制力は無くSCP-545-JPによって自発的に引き起こされている効果だと考えられています。
SCP-545-JP-Aは製造者・製造年月日不明のグランドピアノと、専用のピアノ椅子です。以前の所有者であるドイツ在住のピアニストのElise Rothenbergerの自宅で発生した火災時に、邸宅が全焼しているのにも関わらず一切の焼損の痕跡が認められないまま発見された事によって、異常性を保有している可能性があるとして財団の調査対象となりました。本来ならば警察機関に押収された後にドイツ支部の職員によって調査が行われる手筈でしたが、遺族の強い要求によって一時的に返還が行われ、その後所在不明となっています。
補遺: SCP-545-JPは20██月██月█日に房総半島沖で発生した、海外企業が保有する客船「オーシャン・パレス」の沈没事故に対する事後調査中に発見されました。沈没事故の当日、客船内においてマーシャル・カーター&ダーク株式会社主催の船上オークションが開かれており、SCP-545-JPはSCP-545-JP-Aのプレゼンテーションの為の奏者として招かれた可能性が高いと思われています。沈没後の調査において同団体の痕跡は発見されませんでしたが、その後生還した一部のオークション参加者の証言から“目玉商品(Loss leader)”と称されていた特異性を持つと思われる物品の“大暴れ(rampaging)”によって船の沈没へと繋がったことが判明した為、事態が鎮静化した後も周辺海域の漂流物や付近の海底を調査していた事がSCP-545-JPの発見へと繋がりました。
補遺: 現在のSCP-545-JPが存在する海域の状況を考慮して開発が行われていた、深海の環境下に置いても稼働可能な耐圧ディスプレイの開発に成功した事により、対象との意思の疎通が可能であると判断されました。
以下は探査機とSCP-545-JPとの間で行われたインタビューの記録を書き起こした物です。
対象: SCP-545-JP
インタビュアー: 下北沢博士(調査船内からディスプレイを操作)
付記: このインタビューは遠隔操作無人探査機の表面に取り付けられた耐圧ディスプレイをSCP-545-JPに読み取らせ、それに返答する口の動きを調査船で解析した内容を研究員に伝える形でコミュニケーションを行う方法が取られています。互いに口唇の動きとディスプレイが読み取れるように、周囲を十分に照らせるほどの耐圧処理を施した投光器が探査船に配備されています。
<録音開始>
ディスプレイ: この文字が読めますか?もし大丈夫なら首を縦に振ってください。否定の場合は横でお願いします。もし伝えたい事があるなら口を動かして下さい。我々でその動きを可能な限り読み取ります。
SCP-545-JP: [首を縦に振る]
ディスプレイ: 問題無いようですね。まずは貴女について教えていただけますか?
[互いについての情報を交換する。SCP-545-JPに対して財団の情報を与えないという判断の基、沈没事故の調査委員会であると説明]
ディスプレイ: 了解しました。現在の状況を簡潔に伝えていただけますか。無理ならば首を横に振ってください。
SCP-545-JP: ぴあのを、ぴあのをひいてないとおぼれるのよ、たすけて
ディスプレイ: やめたら死ぬ、という事はそのままの意味ですか?
SCP-545-JP: おぼれちゃう、ひくのやめたら、おぼれちゃうのよ
ディスプレイ: わかりました。演奏を続けていて疲労などは感じていますか?体調不良などはありますか?
SCP-545-JP: [首を横に振る]からだはなんともないわね、つかれたりもしないしねむくもならないの
ディスプレイ: わかりました。演奏する曲は決まっているのですか?
SCP-545-JP: [首を横に振る]きょくはなんでもいいみたい、いまはげっこう、そのまえは、ねこふんじゃった、けんばんをてきとうにたたいてみたけどそれでもだいじょうぶだったわ、でもひくのをやめるとだんだんさむくなるし、いきもくるしくなるの、やめたらおぼれちゃうんだとおもう
ディスプレイ: 演奏の内容は関係ないということですね。わかりました。次は船内の事について教えていただけますか?
SCP-545-JP: ふねのこと[20秒間口の動きが止まる]えんそうしてたらきゅうにおおきなおとがして、からだがういたような、おちるようなかんかくがして、きがついたらここにいたのよ、わたしはただよばれてえんそうしていただけなのに、なんでこんなことに[SCP-545-JPが激しく口を動かした為、これ以降は解読不能]
ディスプレイ: わかりました。落ち着いてください。その「おちた」瞬間の事を詳しく説明してもらっていいですか?
SCP-545-JP: ごめんなさい、ひさしぶりにだれかとかいわできたから、ええと、おちたしゅんかんね、しょうじきいうとよくわからないの、わたしえんそうちゅうはすごくしゅうちゅうしてるから[32秒間口の動きが止まる]たしか、おくにあったぶたいに、おおきなすいそうがおいてあったんだけど、そこからなにかおとがしたようなきがするわ、でもなにがあったかはほんとうにわからないの、ただ、ひたすらけんばんをたたいてきょくにしゅうちゅうして、[右を向き再び口を激しく動かす]
ディスプレイ: どうしました?何かありましたか?
SCP-545-JP: なにかいる、もういや、きみがわるい
ディスプレイ: それは深海魚です。気になる事はありますか?あなたに対して害を及ぼそうとしていますか?
SCP-545-JP: いや、だいじょうぶ、それにしてもきもちわるいわね、いつもはくらくてみえないけど、たまになにかがからだにぶつかるとおもってたの、べつにいたくはないんだけどね
ディスプレイ: わかりました。次に来る時は何か手段を講じましょう。そのまま演奏を続けてください。また来ます。
SCP-545-JP: まって、もうかえるの、あかりがないとくらくてなにもみえないし、ひとりはさびしいのよ、はやくなんとかして、たすけて、たすけて[首を大きく横に振る]
[投光器を周囲に向けながら探査船が急上昇を始める]
<録音終了>
終了報告書: 現時点において対象の健康状態には問題は無い事が判明。船の転覆時の状況が掴めないのは予想外であったが、関連していると思われるオブジェクトについての有意義な情報が手に入った事は考慮に値する。彼女の精神面のケアを行う為にも探査船を用いてのコミュニケーションを続け、同時に周辺海域の調査も進めて行くべきだろう。現状取れる手段として強力なライトを用意して、不要な接近も控えるように指示を行う。あくまでも推定ではあるがピアノからの音や水中の振動に反応している可能性もある事から、その事を視野に入れた機器を配備すべきだと思われる。状況から判断して当面はSCP-545-JPについての対処が優先だと判断する。
現状、SCP-545-JPに対しての収容は十分であるとも言える。しかし、我々に必要なのは更なる手段だ。深海8000mに沈んでいるピアノと人間を演奏を止めさせる事無く、周囲に気を配りながら引き上げる手段を何としても確立しなくてはならない。いつまでも彼女に“深海魚”だと言い続けるのも無理があるだろうからな。 -下北沢博士
ページリビジョン: 6, 最終更新: 10 Jan 2021 16:32