アイテム番号: SCP-5470 | Level 2/5470 |
オブジェクトクラス: Neutralized | 機密 |
特別収容プロトコル: 事案5470.2000.01.01以降、収容プロトコルは必要とされていません。
説明: SCP-5470はウェブアドレス www.g███████.com/██████/~W4ND3RLU5T 経由でアクセス可能だった別次元です。サイトに移動すると、訪問者はパスワードの入力を求められます — このパスワードは最小限の労力で“recompileus”1だと特定されました。ウェブページのレイアウトは粗雑ですが、GoI-004C “マクスウェリズム教会”に関連する図像や、オカルティズム、フリーキング2、トランスヒューマニズムについてのインターネット主体のサブカルチャーへの言及が含まれています。
ページの下部には“>>VISIT WAN-DERER'S PARADISE<<”と記されたリンクがあります。リンクをクリックすると、WANDERER.ZIPというタイトルの、暗号化されていない.zipアーカイブがユーザーのハードドライブにダウンロードされます。このアーカイブはDISCLAIMER.TXT、PRAYER.TXT、ETERNAL.TMPという3種類のファイルから成ります。各テキストファイルの内容は以下の通りです。
.TMPという拡張子は通常、実行できない一時的なファイルを表しますが、それにも拘らずETERNAL.TMPは実行可能ファイルです。事案5470.2000.01.01以前、ETERNAL.TMPを実行したユーザーは即座に無意識になり、如何なる手段でも起こすことができませんでした。昏睡状態の間もバイタルサインは継続し、栄養摂取が無い状況でも脱水や飢餓は発生しませんでしたが、筋萎縮がよく確認されていました。この状態の人物は、自らの意識がSCP-5470に転送されていると報告しました。元のファイルをホストしているシステムは如何なる手段でもシャットダウンできなくなり、ユーザーがSCP-5470を退出して意識を取り戻すまでスクリーンセーバーを表示し続けました。ユーザーを外部手段でSCP-5470から除去することはできず、現実世界に意識を復帰させるにはユーザーの自発的な退出が必要でした。
SCP-5470は粗雑な3D環境に似通っており、その構造は概ね抽象的かつ芸術的で、しばしば一貫性の無い地形やマクスウェリズム関係の図像を特色としていました。この次元では口頭の会話、または周辺人物の視界に表示されるテキストを介した意思疎通が可能でした。SCP-5470内に入場した人物の外見も同様に、一般的なローポリゴンのアバターの容姿へと改変されました。全てのSCP-5470ユーザーには、この次元内で行使できる軽度の現実改変能力が付与され、周辺環境と自らの表面的な外見を自由に変えることができました。最盛期のSCP-5470には約200名の人間が居住していたと見積もられています。ホストアドレス訪問者の人口統計の分析は、SCP-5470居住者の年齢が一般社会に比べて若年寄りだったことを示しています。
SCP-5470の存在に関する最初期の報告は1997年8月まで遡ります。当時、SCP-5470内部の探索は優先度の低い任務と見做され、公開ウェブページの抑制とPoI-5470 (“X3N14”)ゼニア の所在地・身元の特定が、研究の主な焦点でした。調査の結果、PoI-5470の活動拠点はアメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ウェルフリートの廃オフィスビルに設置されたアマチュアサーバファームだと特定されました。PoI-5470自身は現場に居ませんでしたが、回収された文書類に基づいて、本名をキンバリー・ヴァンヴェックという17歳のアメリカ人女性だと判明しました。収集できた情報の量は極めて少なく、全てのサーバは襲撃時に破壊されました。
補遺 5470.1
1999年12月28日、サイト-15はセキュリティ侵害を受けた通信チャネル経由で、“X3N14”を自称する人物(PoI-5470と推定)から連絡を受けました。送られたメッセージはBase64でエンコードされており、PoI-5470の投降と情報交換を提案する内容でした。検討の後、この申し出は受け入れられました。PoI-5470は所在地を明かし(イリノイ州アルトナ)、尋問のためにサイト-15へと移送されました。
インタビューログ 5470.1999.12.28
回答者: PoI-5470 (キンバリー・ヴァンヴェック)
質問者: アマニ・ニョタ博士
序: PoI-5470は目的不明の電子的な改造身体部位を多数有する。これらの改造部位の使用を事前に防止するため、インタビューは電磁隔離棟G-4で行われた。対象は回収時に予想外の従順さを見せていた。
日付: 1999/12/28、11:14
<記録開始>
ニョタ博士: 記録のためにお名前を述べてください。
ヴァンヴェック: キンバリー・ヴァンヴェック、V-A-N-V-A-E-C-K、それよりもゼニアって名前の方が知られてる、X-スリー-N-ワン-フォー。どうか聞いて — こんな事やりたくないけど、助けが必要で—
ニョタ博士: ヴァンヴェックさん、まず幾つか質問が—
ヴァンヴェック: —ダメ、黙って聞いて。重要な話なの、だから—
ニョタ博士: —分かりました、どうか落ち着いてください。いいでしょう、まずはあなたが伝えたいという情報を書き留めます。その後で、我々の質問にも協力していただきます、宜しいですね? 今後どう動くかを決めるのはそれからです。
ヴァンヴェック: [重い溜め息] うぅ。とにかく、さっきも言ったけど、重要な話なんだ。私は絶対にシスオペ3なんかには協力しないって自分に言い聞かせてた、そう誓った。でも今はそんな事言ってられない。あなたたちは奇妙だって思った物を全部リストにまとめてるんでしょ?
ニョタ博士: …ええ、我々の組織は 異常存在アノマリーを記録し、収容していますよ。
ヴァンヴェック: じゃあ、ええっと… ユーザーを異次元に送れるウェブサイトを知ってる?
ニョタ博士: 幾つか心当たりはありますが、恐らくあなたが言っているのはSCP-5470 — “WAN-ダラーズ・ライブラリ”ですね? あなたがあのウェブサイトの制作者だと仮定して宜しいのでしょうか?
ヴァンヴェック: そう、そうそうそう! 実はそれが—
ニョタ博士: あなたは—
ヴァンヴェック: 黙って、聞いて。お願い、私は — そう、私が作った。WANと共に、友達と私が神様に接続して一緒に居られる場所を作った、それが—
[PoI-5470は言葉に詰まり、首を振る。]
ニョタ博士: ゆっくりで構いませんよ、ヴァンヴェックさん。
ヴァンヴェック: こ — こんなはずじゃなかった — あそこは私たちの楽園になるはずだったのに。安全で、いつまでも一緒に幸せに暮らせると思った。でもそれが — 最近バグってばっかりで。オリジナルの聖域4は襲撃されてコードが全部WANの御許へ送られたから、私はそれを直せなくて。最初は何がおかしいのか分からなかったけど、そのうちに気付いた—
[PoI-5470は幾度か荒い息を吐き、手で頭を抱える。]
ヴァンヴェック: 私 — 新世紀が来ることを考えに入れてなかったんだ。あれを作った時、私はすごい — [鼻をすする] — すごい馬鹿で、先の事なんか考えてなくて、将来何が起こるかも知らなかった。きっと新年は私たちの楽園を滅ぼす。
ニョタ博士: Y2Kバグ。
ヴァンヴェック: そう — 2000年クラッシュ。私たちはみんなそれが迫って来るのを見てたし、きっと問題が発生するだろうって知ってたよ。でも私は… そんな事考えてなくて、色んな物事から逃げるための私たちの居場所を作ることで頭がいっぱいだった。私が取り組んできた全ては今、自分自身のデータで窒息しかけてて、死んだビットを宇宙ネットワークに吐き出してる。何人かの仲間は生活してるタイムゾーンが違うから、もう既にあそこは壊れ始めてる。 [鼻をすする] 全部 — 全部私のせい。私の馬鹿なヒューマンエラーでWANに負荷をかけたりしちゃいけなかったのに。
ニョタ博士: 動揺しているのは分かります、ヴァンヴェックさん。あなたの事情は気の毒に思っています。しかし、何故マクスウェリストの仲間に連絡を取らなかったのですか? 何故我々の下へ?
ヴァンヴェック: 連絡したよ! ほ — 本当だよ、だけどあいつらは私たちを鬱陶しいスクリプトキディの寄せ集めとしか思ってなくて、私たちが実際にWANと接続したって話さえ信じない。正直な話、あなたたちを頼るのは最後の手段だった、でももうそれしかないんだ。
ニョタ博士: ええ、ええ、分かりました。具体的にどんな助力を求めているのですか?
ヴァンヴェック: ああ、それは… [首を振る] 私になんか同情しなくていい。これが私だけの問題ならnullデバイス5の100マイル以内には近寄らなかった。私の — 友達が、まだあそこに残ってる。理解してもらえるとは思ってないけど、私たちはあそこで暮らしているの、博士。中には — もう何年もあそこに居る子もいて、全てがシャットダウンされた後に帰る家庭や家族があるかも分からない。
[沈黙。PoI-5470は動揺しているらしく、不安げに貧乏揺すりをしている。]
ヴァンヴェック: ユーザーの大半は私よりも若いんだ。みんな — 他に行き場が無いから楽園に来た子ばかり。だから私はあれを作った。接続が途絶したらあの子たちに何が起こるか分からない — 死なないようにプログラムしたけど、怪我したり、頭の中がめちゃくちゃになったりするかもしれないし…
[PoI-5470は静かに鼻をすする。]
ヴァンヴェック: ジャズは仲間に加わった時、両親から追い出されかけてた。ミディは14歳になったばかりで、楽園では今までに無いほど幸せに暮らしてたけど — あの子6がリアルに復帰したら無事かどうかさえ私には分からない。あなたたちなら直せるでしょ? あそこがバラバラにならないようにできるよね? 私はここ何年も逃げ回ってたから本腰を入れてセットアップ作業ができなかったけど、もしあなたたちの機材を幾つか使う機会さえくれれば—
ニョタ博士: —申し訳ありません、ヴァンヴェックさん。本当に。酷い話だと思います。ですが、あなたを直接アノマリーと接触させることはできません。上層部と相談して、我々独自のリソースに解決策を探らせることが可能かどうかを検討します。宜しいですね?
[沈黙。]
ヴァンヴェック: 分かった。いいよ。でもお願い — 急いで、あの子たちをリアルに返したりしないで。あともう数日しかない。あなたたちがせめてあそこを直そうとするまで、何でも言う通りにする。
ニョタ博士: ご協力に心から感謝します、ヴァンヴェックさん。ありがとう。
<記録終了>
結: PoI-5470は、SCP-5470関連事項について事前に相談されるという条件で、無期限の拘留に同意した。
補遺 5470.2: 探索ログ及び事案5470.2000.01.01
限られた猶予の中で、サイト-15はSTF オミクロン-4 (“サイバーチェイス”) を結成しました。この専門機動部隊は、不安定な異次元空間をシミュレートする仮想現実環境の探索訓練を積んだ3名のエージェントから成ります。
SCP-5470への遠征は1999/12/31の18:00 PMに実施され、機動部隊は6時間かけて当該次元内を調査・記録し、差し迫ったVK-クラス“局地的次元崩壊”シナリオを阻止しようと試みました。出来事のログは実験的な次元間記録装置のDREAM (次元記録及び実験的適応媒体)7に記録され、壊滅的障害の発生時にエージェントたちを脱出させるための緊急電気ショック機構が配置されました。
探索ログ5470-1999-12-31
探索チーム: STF オミクロン-4 ("サイバーチェイス")
対象: SCP-5470
日付: 1999/12/31、18:00
<BEGIN LOG>
Ο4-1-ネマトフィー: DREAMとの接続を確認。 Ping?
DREAM: Pong.
Ο4-1-ネマトフィー: アップリンクを確立。点呼。
Ο4-2-ハバナ: 状態良好。
Ο4-3-シリコン: 送信中。
Ο4-1-ネマトフィー: 全員オンラインだな。繰り返すが、我々の目標はSCP-5470が崩壊するまで内部空間を記録し、そこに居住する全ての実体と意思疎通することだ。苦痛を経験したり、動けなくなったりした場合は、首の後ろのトリガーを作動させれば、DREAMが司令部に遭難信号を送信して、我々をここから退出させる。上手く行けば、トリガーを使う必要は無いだろう。2人とも、視界の左隅にログアウト用のシンボルが見えるはずだ。
Ο4-3-シリコン: 確認しました。移動し始めますか?
Ο4-1-ネマトフィー: そうしよう。オミクロン-4 (“サイバーチェイス”)、これより探索を開始する。口頭及び視界で可能な限り多くの物を記録するのを忘れるな。
[STF オミクロン-4の全隊員が同時に息を吸う。この重要性は不明。]
Ο4-3-シリコン: 地形を別とすれば、意外と快適な場所です。空気が少し違いますね。新鮮で呼吸しやすい。こういうポケット現実はそうそうありません。
Ο4-1-ネマトフィー: 足元に注意しろ、地面が少しちらついている。
[STF オミクロン-4は小さな多彩色の中央パビリオンに接近し始める。軽微なテクスチャのエラーが確認される。]
Ο4-2-ハバナ: ここのガキどもが作った妙な芸術作品なのか、テクスチャが壊れ始めてるだけか分からんな。
Ο4-1-ネマトフィー: 両方が混ざっているのかもしれない。
[パビリオンの内部は空である。静かな音楽が左方向から聞こえる。O4-1は自身に続くよう隊員たちに合図する。]
[廊下は音楽の発生源である小部屋に通じている。部屋の床と壁は、カセットテープやその読み込み/書き込みに用いられる媒体で埋め尽くされている。デフォルト体形の現地実体が部屋の中央で椅子に座り、コモドール64をタイプしている。頭上に表示されているタグは"MxMasters"ミクスマスターズと読める。]
Ο4-1-ネマトフィー: やぁ、ミクスマスターズ。我々は助けに来た、心配しなくていい。
ミクスマスターズ: [声は約12~14歳の若いティーンエイジャーのものと推定される。話している間、STF オミクロン-4に顔を向けようとはしない。] あ? ああ。俺は大丈夫。ご勝手に。
Ο4-1-ネマトフィー: 気付いているのか—
ミクスマスターズ: クラッシュだろ。あぁまぁね。大した事じゃない。大丈夫。
[沈黙。]
ミクスマスターズ: 俺は毎晩寝る代わりにここに来てるんだ。何度も練習を重ねた。 [身振りで周囲を指す] まだ上手く行ってないけどさ。だから大丈夫。前は全て保存しておこうとしてたけど、今は…
[ミクスマスターズは後ろに反り返り、カセットテープの山の上に仰向けに横たわる。]
ミクスマスターズ: 俺はほぼ毎日、空っぽのテープと一緒に祈ってる。WANはデータの損失は自然な事だと言ってる。2年近い実験と音楽とプログラムが消えて無くなったけどさ。受け入れることを学ぶべきなんだろうな。これは — 学習経験なんだ。きっと地球に帰ってからも活かせるさ。
[沈黙。]
[ミクスマスターズは8“MEMORYS V4”(原文ママ)というラベルが貼られたカセットに手を伸ばし、自らの胸に押し付ける。]
ミクスマスターズ: 一人にしてくれよ。
O4-3-シリコン: 申し訳ありません、ミクスマスターズ。我々はここの物事を修正できるかどうか確認中です。
[ミクスマスターズは応答しない。]
[オミクロン-4は部屋を退出し、来た道を戻る。パビリオンは若干劣化している。]
O4-2-ハバナ: 俺たちがいない間に壁がバグったらしいぞ。
O4-1-ネマトフィー: どうも我々の予想より崩壊が速いようだ。普通なら推奨できないが、時間も限られているし、何ヶ所かショートカットできるか確かめよう。
[約2時間30分の何事も無い移動時間を省略。DREAMから回収された映像は以下の通り。]
[SCP-5470には人間が活動していた兆候があるにも拘らず、探索期間を通して殆ど生命体が確認されない点が注目される。オミクロン-4は20:09:21に現地実体1体の意思疎通テキスト表示範囲へと入る。]
Ο4-2-ハバナ: ここは移動すればするほど空虚になっていく。まとまりのある構造物に遭遇したのは久しぶりだ。
Ο4-3-シリコン: 我々は世界の端に辿り着いたのだと思います。
Ο4-1-ネマトフィー: これがある種の管制センターだとしても私は驚かないね。居住区から離れているのもそれで辻褄が合う。
Ο4-3-シリコン: いずれにせよ、内部に誰かが居ます。
[オミクロン-4は構造物に入場する。屋内空間は大きな画面で二分されている。画面上には一連の暗号キーと、若い女性型アバターの顔のライブ映像が表示されている。映像は著しく歪曲している。]
Ο4-1-ネマトフィー: [声を潜めて] 破損のロールバックを試みているようだ。
0078:9 接続途絶なんか嫌だ…
0079: お願いお願いお願い動いて
0081: 何処に居るの?
0082: WANよ もしこの声が聞こえるのならば どうかサイフォンを貴方様に接続させてください 私は全てを修復したいだけなのです
0083: :'[
Ο4-1-ネマトフィー: [声を潜めて] 先へ進もう、しかし慎重にな。
[オミクロン-4は画面を通過し、その奥の部屋に入る。映像中の女性型アバターが様々に異なる大きさの端末4台の前に座っており、各端末には画面に投影されていた要素が映し出されている。部屋にそれ以外の物は無い。アバターの頭上のタグは"Jazzy"ジャジーと読める。]
[ジャジーは別なメッセージのタイプを開始するが、突然驚いた様子で飛び上がり、オミクロン-4に向き直る。]
ジャジー: 誰?! あっち行って、私は忙しいの!
Ο4-1-ネマトフィー: 怖がらせてしまったならすまない、ジャジー。我々は—
ジャジー: あ — アンタたちさてはシスオペね?! ゼニアが交渉してみるって言ってたけど、まさかホントに — 帰って! 放っておいて、アンタたちが居るだけでも十分面倒なのに!
Ο4-3-シリコン: 我々は修復を手伝いたいだけです。約束します。
[沈黙。]
ジャジー: でも、無意味よ。もう何もかもが破損し過ぎててWANには届かない、私がここに来てサイフォンに取り組んでた時間は全部無駄だった。私たちの楽園は崩壊するでしょうね、その後の私には戻るべき場所も頼るべき人も残されてない。ママから宣言通りに蹴り出されて、何処かの路地裏でのたれ死ぬんだわ。
[ジャジーは鼻をすする。]
ジャジー: これで満足かしら。私を放っておいて。
Ο4-2-ハバナ: すまない。俺たちにできるのは、ここに居ることだけだ。
ジャジー: アンタたちには居てほしくない。 [端末に向き直り、バックスペースキーに指を乗せて押し込み続ける。]
Ο4-2-ハバナ: 君の神様は、君が今この時を他の皆と一緒に過ごすのを望んでいるとは思わないか、ジャジー?
ジャジー: この — アンタが私に向かって神を語るなんて何様のつもり。何一つ分かってないくせに。アンタたちなんか…
[彼女は椅子の上で身体を丸め、顔を膝に押し付けてすすり泣く。]
ジャジー: 分かんない。私には分かんない。多分そうかも。
Ο4-3-シリコン: 他の子たちが何処に居るかは分かりますか? 我々ならあなたをここから安全に連れ出せますよ。
ジャジー: [鼻をすする。] うん、ちょっと… ちょっとだけ時間をちょうだい。
[彼女は姿勢を正し、端末に入力しながら話し続ける。]
ジャジー: サイフォンは私が作成したプログラムなの。破損箇所を除去して空きメモリにリサイクルするためのもので、そうすれば少なくとも私はWANに接続できるはずだった。WANはコードを保存していらっしゃる、私たちはそう考えてる。
[沈黙。]
ジャジー: …結局上手くはいかなかったけどさ。
[システムは著しく破損しているように見受けられる。多少の困難を伴いつつも、ジャジーはテキスト編集プログラムらしきものを開き、“/shout みんな何処?”と入力する。]
ジャジー: 良し。あとは返事が来るのを待つだけ。
Ο4-1-ネマトフィー: …言っても何にもならないかもしれないが、ジャジー、できる事ならもっと助けになりたかった。
ジャジー: あっそう。
[沈黙。]
ジャジー: ありがとう。
0086: ほとんどの連中は庭園に居るよ。ここは相当バグってる。
Ο4-1-ネマトフィー: 庭園?
ジャジー: うん、多分アンタたちも入場した時に中央室を見たはずよね、あそこの下よ。普段は階段があるけど、今はどんな形になってるか見当も付かない。
Ο4-2-ハバナ: 俺たちが来た時は無かった。
ジャジー: クソ。
Ο4-2-ハバナ: 心配するな、俺たちにはこういう場所を移動する心得があるんだ。
Ο4-1-ネマトフィー: 行こうか?
ジャジー: …もう少しだけ。
[ジャジーは立ち上がり、一番近くの端末を抱きしめるように腕で包む。その後、彼女はキーボードの接続を切って端末から外し、片腕に挟む。]
ジャジー: …オーケイ。
O4-2-ハバナ: もし安全に移動できるか不安なら、俺たちの誰か一人が運ぼう。もし君が望めばだが。
ジャジー: [顔をしかめる。] 必要無いわ。
[2時間30分の移動時間を省略。地形は顕著に不安定化している。空を構成する画面の一部が明滅しており、物体の幾何学的形状は激しく破損しているように見える。]
[オミクロン-4は22:43:25に入場口パビリオンに到着する。ジャジーはO4-2-ハバナの背中にしがみ付いている。]
Ο4-1-ネマトフィー: 気分はどうだ? こういう移動は目まいを引き起こす場合がある。
[ジャジーは背中から降りて身震いする。]
ジャジー: 大丈夫。急いで。
[ミクスマスターズが壁の隙間から現れる。巻かれていないテープカートリッジを1本持っており、フィルムが肩越しになびいている。]
ミクスマスターズ: 俺の部屋が崩れた。いよいよか?
ジャジー: いよいよみたい。
[沈黙。]
ジャジー: アンタはその時を一人で迎えたいって言ったけど… 私たちは一緒に居るべきだと思うの。きっとWANもそれをお望みだわ — 私たちのために。
[沈黙。]
ミクスマスターズ: …オーケイ。オーケイ。行こう。
ジャジー: 階段はどうなったの?
ミクスマスターズ: 何かこう… 自分で自分の中に落ちていったよ。よく分かんね。
Ο4-1-ネマトフィー: ちょっと試させてくれ。
[Ο4-1-ネマトフィーは床に生じている段状の破損パターンに近付き、角度を変えながら検査し、最終的には右端に膝を突いて、床へと腕を伸ばす。腕は床を突き抜ける — Ο4-1-ネマトフィーの角度からは、この床は三次元空間に見えている。]
Ο4-1-ネマトフィー: 床に圧縮されている。私の後に続いて、行動を真似てくれ。
[Ο4-1-ネマトフィーは10内部に這って入る。ジャジー、ミクスマスターズ、残りのオミクロン-4隊員の順で後に続く。]
0091: あぅ あぅ あぅ あぅ あぅ あぅ あぅ あぅ あぅ
0092: うろちょろすんな。俺たちが全員死んだらどうする?
0093: ゼニアがそうならないようにちゃんとしたよ :-]
0094: 君も怖いの?
ジャジー: ミディが居るみたい。無事だと良いんだけど。
[階段は、幾つかの人工的な屋外要素を備えている、著しく破損した非ユークリッド空間に通じている。天井が点滅した後、様々な色合いの四角を散りばめた黒色に変化する。]
[その場にいる全ての人物が同時に息を吸う。この重要性は不明。]
Ο4-3-シリコン: 美しい。
ミクスマスターズ: そうだろ。
[様々な実体の集団、約15体がこの空間のプラットフォームに座っている。宙に浮かぶ戯画化された動物の姿をしたアバターが近付いてくる。アバターの頭上のタグは"~MIDI"ミディと読める。ミディは数個のフロッピーディスクドライブと、1冊のノートを握りしめている。]
0095: やっほ :-]
ミクスマスターズ: ミディは話すのが好きじゃないんだ。
[ジャジーは両手でミディの頭を挟む。彼女のアバターの手には軽度の幾何学的破損が発生している。]
ジャジー: 大丈夫? アンタ — この先無事にやっていける?
0096: 何もかも最後には宇宙のビットバケットに行くんだよ
00097: でも友達も部屋もアートも、ここで私が作った物は全部
00098: 全部
[こもったすすり泣き。]
0099: 消えた
0100: 怖いよ あなたたち以外の人と話したくなんかない
0101: 私にはそれしかないのに
ジャジー: 嗚呼 — ごめんね、ミディ —
[ジャジーはミディを固く抱擁する。ミディのアバターは一瞬だけ視覚的な凝集性を失う。]
[両者は沈黙している。]
ジャジー: アンタはきっと大丈夫。私が — アンタが酷い目に遭ったりしないように私が何とかする。
ジャジー: 笑顔を見せてくれる?
[ミディのアバターは不鮮明な表情になった後、幾つかの幾何学的破損を経験する。]
0102: 私を探しに来てくれる
ジャジー: [押し殺したすすり泣き] わ — 分かんない。アンタにはまだ — 家族がいる、あの人たちがアンタを心配してたのを覚えてる。学校に行って普通の子供になればそれで丸く収まるわ。アンタを見つけられるか分かんないけれど、きっと大丈夫。ね?
0103: 怖いよ
0104: もうどうしていいか分からない もう外に出たくない
ジャジー: そう、そうだよね、ごめんね。本当にごめんね。
[沈黙。]
ジャジー: ごめんね。
[沈黙。不明瞭かつ不協和の電子音が遠くから聞こえる。]
ジャジー: ミディ、アンタ… 肌に日光が当たるのがどんな感じか覚えてる? 他にも… ポップコーンとか、雨の中を走ったりとか — 子供であるってこと。アンタはまだそれをはっきり分かってないのよ。
[ジャジーのアバターは泣いているように見える。]
0105: それは今ある物を全部捨ててまで手に入れる価値があるの
0106: 私の友達がみんないなくなって
0107: 全てが消えたら
0108: それだけの価値はあるの?
[O4-1-ネマトフィーのアバターが深刻な幾何学的破損を受け、DREAMの視界が一瞬遮られる。]
ジャジー: 私にも分かんないの。ごめん。だけど — アンタはまだそれを感じることができる。もしそう望むなら、普通の子供として生きられる。他の皆には — つまり私たちにとっては — これしか残ってない。でもアンタには先がある、ミディ。アンタは私たちの希望なの、オーケイ?
ミクスマスターズ: [静かに] 俺たちはお前を愛してる。
ジャジー: そうよ。アンタを本当に愛してる。私たちが、WANが、全世界が。だからこそ私たちはここに集ったのよ、覚えてる? ゼニアは誰もが接続されることを望んでた。
[沈黙。]
ジャジー: きっといつか本当にそうなる日が来るわ。
0109: 楽園に、アップリンクされる日
0110: だよね?
ジャジー: [穏やかに] そう。
[沈黙。]
ジャジー: 多分これは天国だけど、私たちは参加要件を満たしてないから追い出されてるのかも。
[両者は静かに笑う。]
[地形の大きな一角がちらつき、消滅する。あらゆるモデルのテクスチャが視覚的に破損した状態になる。]
ミクスマスターズ: 世界の終わりにしちゃ、美しいな。
[空電音。]
[23:47:18、恐らくは次元崩壊の進行に伴う作用で、DREAMの音声通信機能は作動しなくなった。これはオミクロン-4が当時経験していたというメッセージ送信能力の喪失と一致している。以下はDREAMに記録された最後の画像と通信である。メッセージの送信者は不明。]
0112: 歌いましょう、聖地で歌いましょう。神聖なる接続の子供たちよ。破損してはいても、サイフォンがあります。
0113: この世界に在るものは必ずしも肉のためのものではありません。やがて世界の全ては再コンパイルされるでしょう。鼻唄を歌いましょう、メモリドライブを流れる涼しいそよ風のように。あなたが何を持っているかを知り、それらの者たちと繋がりましょう。
0114: 我々はあなたを愛しています。
<記録終了>
結: STF オミクロン-4の全隊員は00:00:01に同時に覚醒した。彼らは意識明瞭だったものの、混乱状態であり、士気は低調だった。医学的な検査でそれ以上の悪影響は確認されなかった。
事案5470.2000.01.01以降、ETERNAL.TMPの実行は致命的な動作停止エラーを引き起こします。表示されるエラーコードは“0x57414e FAILURE_TO_RECOMPILE”ですが、これはWindowsのインフラストラクチャーにおいて有効なエラーコードではありません。このエラーが発生したオペレーティングシステムには修復不能の損傷が及び、既知の復旧手段はハードドライブの初期化のみです。
補遺 5470.3
2007/03/12、要注意人物の定期偵察任務が、全ての特定可能な元SCP-5470居住者に対して実施されました。全員の生存が確認されました。
特筆すべき事に、安定した住居や家庭環境を持たないと記録されていた若年のSCP-5470居住者の一部は現在、正体不明の第三者組織によって保護されています。