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特別収容プロトコル: CHRONUSプロジェクトはSCP-5552の存在に関する研究を継続する予定です。
説明: SCP-5552は時間遡行の理論手法です。SCP-5552の正確な性質、並びに制御可能な手法による複製の可否は未だ不明です。
発見: SCP-5552の存在を示す証拠は、2018年7月4日にサイト-74の現実安定性ビーコンが逆因果律的現実性シフトを観測した際に見出されました。しかしながら、ビーコンによる因果関係予測が途切れた形跡はなく、大規模な現実改変イベントは発生していないと判断されました。結果的に、時間航行が発生したとする結論に至りました。CHRONUSプロジェクト研究チームは本時間航行の発生源ないし対象の特定を命じられましたが、調査は失敗に終わりました。
補遺SCP-5552-1: 以下はCHRONUSプロジェクトの進捗状況の時系列表です。
日付 | 出来事 |
---|---|
2017年11月14日 | ナマン・グプタ、シンディ・ヘルスマン両博士により、CHRONUSプロジェクトが発足。 |
2018年1月22日 | グプタ博士がひも理論から着想を得た逆方向的時間航行のための仮説を提唱。 |
2018年3月8日 | グプタ博士の理論が、ヘルスマン博士が作成したいずれのモデルにも適合しなかったため、誤りである可能性が高いと判断された。 |
2018年3月19日 | グプタ博士が量子もつれに基づく逆方向的時間航行理論を提唱。 |
2018年5月20日 | グプタ博士の理論がヘルスマン博士の収集した実験証拠によって否定される。 |
2018年7月4日 | CHRONUSプロジェクトが上記警報のなされた逆因果律的現実性シフトの発生源の特定を命じられる。 |
2018年8月4日 | 逆因果律的現実性シフトの発生源の探索が打ち切られる。現行タイムラインへの改変は、無視できるほどに微々たるものであると判断された。 |
2018年10月14日 | グプタ博士がサイト管理者に昇進し、CHRONUSプロジェクトを退任する。 |
2019年1月22日 | ヘルスマン博士が古典相対性理論に基づく逆方向的時間航行理論を提唱。 |
2019年5月3日 | ヘルスマン博士の理論が量子スケールでの矛盾なき相対論的作用を立証できず、破棄される。 |
2019年7月22日 | ヘルスマン博士が量子力学に基づく逆方向的時間航行理論を提唱。 |
2019年10月2日 | ヘルスマン博士の理論がグプタ博士の量子もつれ論に酷似していたため、破棄される。 |
2020年1月11日 | ヘルスマン博士が素粒子物理学の標準モデルに基づく理論を提唱。 |
2020年4月14日 | ヘルスマン博士の理論が進捗の遅れを理由として破棄される。 |
補遺SCP-5552-2: 以下は2020年4月16日に行われた、ヘルスマン博士とグプタ博士との月例状況報告の筆記録です。
グプタ: で…君はまた理論を破棄したようだね。
ヘルスマン: はい。
グプタ: 何も成し遂げていなければ、君の所への予算割り当てを正当化するのが難しくなるのは分かってるな。
ヘルスマン: 承知しておりますわ、ナマン。
グプタ: では、んん、何故こいつを破棄したんだ?
ヘルスマン: まあ、他全てを破棄したのと全く同じ理由です。進歩がなく粗だらけなので。
グプタ: 俺はこれなら有望だと思うがな。
ヘルスマン: 本気で言ってるの?グルーオンの回転に基づくタイムトラベルが有望だと、貴方はそう思うの?
グプタ: いや、つまり…、
ヘルスマン: あれを提唱した時に何を考えていたのかさえ分からない。最悪の駄作ですわ。グルーオンは既に強い相互作用との結び付きがあるというのに。
グプタ: 俺はただ、この線の調査は進める価値があるかもしれないって思ったんだ。
ヘルスマン: ナマン、私はこれに取り組んで2年になるけれど、行き着く全てが袋小路のどん詰まりだった。
グプタ: けど俺は君ならできると知ってる。
ヘルスマン: この1年貴方はそればっかり!言葉の聞こえは良くても、何の役にも立たなかったわ。
グプタ: まあ、研究をするのは俺の仕事じゃないしな。
ヘルスマン: 元はそうだったでしょう!私たちはチームだった。なのに貴方は私を残して、何をしてるって?管理?せいぜい楽しめた?
グプタ: 俺がこの地位に居るのは、俺がこうなりたかったからだ。
ヘルスマン: そうなりたかったのは、もう研究を楽しむ事ができないからでしょう。それで貴方はここで私に堂々巡りを命じて!
グプタ: それか、俺の方が優れた研究者だったから、かもな。
ヘルスマン: あのねえ。もう消えて。予算ならどうぞ。勝手にやってなさい。
ヘルスマンは立ち上がり、ドアを荒々しく閉めてグプタのオフィスを退出する。グプタは嘆息し、両手を頭の後ろに回す。
グプタ: あいつはやがて俺に礼を言うだろう。言わんかも知れんが。だとしても感謝はするだろうさ。
補遺SCP-5552-3: 2020年4月16日の夜間、サイト-72の保安職員が118号室・119号室・121号室に突如重大な変異が発生したと報告しました。該当する部屋はそれぞれCHRONUSプロジェクト用実験室、及びCHRONUSプロジェクト職員用小寝室、並びにヘルスマン博士のオフィスでした。これらの部屋の壁面、床面、天井、及び全ての室内用具は黒色の物質に変質していました。当該物質で構成された物品は干渉を受けるまでは形状を維持しますが、干渉を受けると液体に近い状態になります。
保安職員は3名の死傷者を報告しました。うち2名はチュー・ユーフェイ研究員及びアイヴァン・デウォルト用務員でした。発見時の姿勢から、事件発生時は会話中だったと推測されています。3人目の犠牲者は、自身の携帯電話でボイスメールを聞いていたとみられる、シンディ・ヘルスマン博士でした。以下は当該イベント前にヘルスマン博士が受信した、最新のボイスメールの筆記録です。
グプタ: よう、シンディ。その…さっきはあんな事を言って済まなかった。あんな事が言いたかったんじゃないんだ。そう、俺は自分がより優れた研究者だと言いたかったんじゃない。正直に言うと、君の発見になって欲しかったから俺はプロジェクトを去ったんだ。ただ、君の努力が無駄になるのを何度も目の当たりにするのは、俺にとっても悔しいことなんだよ。だが君さえ良ければ、俺はプロジェクトに戻ることができる。俺たち2人で理論を作り直そう。
2020年4月16日の事件以後、グプタ博士がCHRONUSプロジェクトを後継しました。さらに、サイト-72東棟全体が上記同様のイベントに見舞われてからは、CHRONUSプロジェクトはサイト-72からサイト-53に移転しました(詳細はCHRONUSプロジェクト特別報告書を参照)。
文書3/6